「は〜・・・」
最近、エリスがたそがれている。
窓にひじをつき、あごをついてボーッと空を眺める。
「なぁ、アイツなんか悪いモンでも食ったのか?」
「さぁな?ソフィはなんか知ってるか?」
「ううん。知らな〜い」
「は〜・・・」
またため息をつくエリス。
美人だからサマになってるのだが、そう何回もため息をつかれるとやる気が萎える。
元々ないものがどう萎えるのか聞きたい、とか言ったらぶっ飛ばす。
「おいエリス」
俺はエリスの肩に手を置いた。
だが、俺は忘れていた・・・。
――エリスが、男性恐怖症だということを。
グオッ!!
「!!」
「危ない!!」
「お兄ちゃん!!」
エリスが俺の手を掴んで、背負い投げる!
俺はそのまま窓から落ちていく・・・!
「あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜!!…………………………………へぶあっ!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「す、すいませんでしたユウキ様!!」
「いやぁ、不死身の俺でよかったね。かすり傷ですんだよ、カッカッカ♪」
「それのどこがかすり傷だ・・・?」
「えいしょ、えいしょ・・・」
ソフィが一生懸命俺の血を止めようとしてくれている。
まだ幼いのに、手当てはたいしたもんだった。
ドクドクと頭から流れる血は、一向に止まる気配がないが。
「途中でブッ太い枝にぶつかって、カラスのくちばしに刺さって、石に頭から落ちたけどなんとか生きてるっす」
「なんで生きてるんだよ?」
「不死身だから。アイビスもわからない子だねぇ」
「わからないのは、あんたがなんで、そんな家庭内害虫みたいな生命力を持っているかってことだけどな」
「ま〜いいや。それで、エリスは何を悩んでいたんだ?」
「え?」
「そうだぜ?ユウキが肩に触れちまったのも、あんだけため息ついてたからだぞ?」
「アイビス・・・ユウキ様。すいません」
「謝らなくていいから。ソフィも聞きたいよな?」
「うん!エリスお姉ちゃん!」
「・・・わかりました。実は…………」
――実は………ってしまった………す。
「なんだって?」
「だから・・・その、太ってしまった・・・んです・・・!」
「・・・」
「「「それだけ!?」」」
「そ、それだけってなんですか!重要なんですよ!?ウェイトが変わると、戦いにまで影響します!それに、その・・・ユウキ様にも、嫌われるかな・・・とか」
「最後が聞こえねぇよ。でも、戦いに影響するってのは、深刻かもな」
「そうだな・・・ってか、何キロだ?」
「そ、それは・・・」
「それは?まさか、言えないほど・・・?エリスお姉ちゃん」
「0,5・・・」
「なんだって?」
「一キロの半分だとさ。アホらし」
アイビスは、それだけかよ、と悪態をつく。
ソフィは??の乱舞。
「たったそれだけ?」
「たったじゃないんです!ユウキ様にはわかりません!!」
「わかんねって。大体、そんくらいいいじゃないか。太ったようには見えないぞ?」
「でも太ったのは事実です・・・あぁ、やっぱりあのつまみ食いがいけなかったのかしら?」
「つまみ食いなんてしたのか?」
「でも、あれは仕方ない・・・だってとっておくとソフィが食べちゃうし・・・あぁ、でももしあれが原因なら・・・」
「そんな、人のものまで食べないもんっ!!変なコト言わないでよお姉ちゃん!!」
「そうだよエリス。ソフィはいい子だもんな?」
「うんっ♪」
俺はソフィの頭を撫でた。
真っ黒で艶やかな髪が日にあたって温かい。
「ま〜アレだよ。少し太ったからって、何かが変わるわけでもないし?」
「え?」
「エリスの突っ込みの痛さも、俺やソフィやアイビスのお前に対する好意も、何も変わらない。だから、そんなに思いつめることない、そうだろ?」
安心させるためにそう言うと、エリスは突然顔が真っ赤になった。
「そ、そんな私が好きだなんて・・・っ!」
「誰もそんなこと言ってません」
「お兄ちゃん!私は!?」
「誰か〜っ!この妄想癖女とチビ助をなんとかしてくださ〜い・・・!!」
「あ〜アホらし。やってられっか。昼寝するわ。じゃぁな」
「あ、そんな!救いの女神よ!!アイビス様!!」
「いや〜、今日もモテモテでうらやましい限りだね〜ユウキ君。それじゃ」
「あぁっ!!そんなこと言うと、王様にお前が【世界征服】目指してるって言っちゃうぞこのSHOCKER!!!」
「てめっ!!アレ喰らうか!?」
「あ〜!?いつの間にか敵が3人に!?」
この後、エリスの妄想を止め、ソフィをなだめ、アイビスの怒りをおさめさせるまで2時間かかった。
俺はそこで食事をした(アイビス持参の薬をもらって)。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
若い五人の力を合わせて悪と立ち向かう。
そう、それは愛と勇気のロボット。
――あ、合体に失敗して、愛もロボットも木っ端微塵。
消火器の使い方はこうです。
どうです?簡単でしょう?
――非常時に簡単じゃない消火器なんていらないだろ。
日本の正反対の位置に、ブラジルがあります。
ほら、地球儀で見ると。
――穴掘っても溶けるだけだから夢みるなガキ。
突然異世界に呼び出された主人公。
ぶーすか言いながらも戦い、成長し、はぐくまれる愛。
――ゲームのしすぎだ・・・であってほしかった。
趣味は読書と映画鑑賞です。
え?好きな映画?本?そうですね……あなたは?
――はぐらかすな。どうせ漫画と大人の映画だろ。
俺たち秘密基地作ったんだぜ!
お前も今日来るか?
――あまり期待するな。きっと知らない人が住んでるぞ。
あ、停電だ。ライトは!?ロウソクは!?
きゃぁ〜、怖〜い!
――焦るな。そんな時は黙ってスモー○ライトを使え。うるさいヤツがチビになって消えてくれる。
ふんふふんふふ〜ん♪
おばさんが調子良く鼻歌歌ってる。
――よく聞け。サビしか歌ってない上に外れてるから。
ジャンケンだ。
待って!今祈るから!(手をクロスさせる)。
――アホ。それで相手に勝てたら苦労しない。二人ともやったら、結局どっちが勝つかわかんねーしな。早くやれ。
地球温暖化が懸念される今日では・・・
――みんなで車の排気ガスを吸え。みんなでやれば1%は堅い。
ええ!?にわとりってお空飛べないの!?
バカだなぁ。飛べる鳥と飛べない鳥がいるんだよ。
――成せばなる!ニワトリ崖から突き落としてみろ!いつか飛べるから。ナメんな!諦めたらそこで終わりなんだよ!!
俺って結構紳士なんだぜ。いつもファーストレディさ!
へ〜、俺には絶対無理だなぁ。
――まずは英語の勉強しな。そんなお前だから、別れ話も彼女からなんだよ。
大事なのはハートなんだよハート!ハートがあればなんでもできる!
かっこいいなぁお前。
――じゃぁ、このサイフも通帳も家も服も、何もかもいらないんだな?え?返せ?ハートがありゃいいんだろ?
「ふあっ・・・」
俺はビクッとして起きる。
あのあと、俺はソフィの部屋でくつろいでいた。
最近は、不思議と第2幕舎にいることが多い。
「お兄ちゃん、ココはね?」
「・・・」
はい、現実逃避おしまい。
だって………見た目12,3歳のガキにこの世界で言う【国語】を教わるってどうよ!?
「く………屈辱!」
「へ?」
「ガキにはわからん」
「ぶ〜っ!すぐそうやって子ども扱いする〜!!」
目の前で頬を膨らませるソフィ。
簡単な会話なら、たいして害はなかった・・・が、独特の言い回しなどは勉強しないと理解できなかった。
おかげで、前、俺が【あ、コンドルが穴につっコンドル】って言ったら【×××!?(諸事情により伏せ字)】って誤解された。
あんな過ちは二度とおかしたくない。
「で、ここは」
「・・・」
俺は心の中でため息をついた。
ソフィが一生懸命教えてくれるのはいいんだけど・・・それは、なんだか悔しい。
いや、ニュアンスというか、スタイル的に。
この光景は、どう考えてもありえない・・・というか、あってほしくない。
今まで自分でなんとかしてきた、そんな俺にとっては屈辱だった。
だが、これはいい機会でもある。
こんな世界で、一人でなんでもやる、という考えは傲慢だ。
コレを機に、なんでもかんでも一人でやる、と考えがちな俺の思考を変えないと。
ゾクッ!!?
「!?」
「ど、どうしたの?ビクっとして?」
「ゾクッ!だよ。置いておいて、なんか・・・くる?」
俺の体に寒気が走った。
それは、たとえて言うなら・・・バンジーしたら、ヒモを付け忘れていた―――そう、あのときの感覚に似ている。
あの時は岩場に激突して、救急車で運ばれていく俺を眺めていた(幽体離脱)。
「これは・・・!?」
サパァアァアァッッ…………
遠くのほうで、一条の光が空に向かって立ち昇る。
そこから、変な感覚が流れてくる。
「あれは・・・スピリット?」
「え!?あれが!?」
ソフィが、光を見て目を見開いた。
それに、驚きと恐れを見て・・・。
「あそこは・・・どこらへんだ?」
「王都から少し東へ行った所・・・だよ。急いで準備しなくっちゃ!」
「え?」
「お兄ちゃんはどうする?」
「もちろん行くよ。それこそ、今のラキオスなんかに連れて行かれたらマズイ」
王様はラキオスを警戒していた。
あの食えない顔で、やたら深刻そうな顔をして・・・。
そんな顔をさせる国に、みすみすスピリットを与えることはできない。
「じゃあ急ごう!」
「そうだな。エリスとアイビスは?」
「お姉ちゃんたちは今いないから、二人でなんとかするかないよ」
「敵意を持ってなきゃいいけどな・・・」
俺は不安になりながら、第2幕舎をソフィと一緒に出た。
短距離なので、ソフィのハイロゥを利用して飛んでいく。
「やっほ〜♪上から見下ろす街も結構イイね!」
「遊んでる場合じゃないんだってば!もう!!」
「大丈夫だって♪」
俺の独特のカンが作動しない。
それはつまり、たいした危険はないということだ。
まァ・・・【危険を察知するが、野次馬根性が発動するので、結局自ら危険に巻き込まれる】能力なんて、たいしてアテにはならないが。
「ほらソフィも見ろよ♪あんなに人がいっぱいだ!」
「はしゃがないで!バランスが・・・あっ」
ぱっ・・・!
「あ、今なんか、信じられない擬音を聞いた気がするな。いやでもまさか、ありえないだろ・・・?あ〜、だんだん人が大きくなる〜………」
「お兄ちゃん!!」
「ぎゃぁあぁあぁっっ!!!落ちてる〜〜〜〜ッッ!!!!!」
スウィム スウィム!!
俺は空中で空に向かって、クロールするも無意味。
重力に、クロールごときで勝てなかった。
ならばバタフライ!
だが、事態はやはり変わらない。
むしろ、どんどん加速している。
「あ〜、なんか今日はたくさん落ちる日だな〜………(悟り)」
もはや全てを諦め運命に身を任すのもまた一興か………。
俺はそう思って、座禅を組んだ。
ヒュゥゥゥゥゥ…………
だが、だんだんと近づいてくる地面を見て、考えが一瞬で変わった。
「前言撤回!!やっぱ高校生で諦めなんて持ちたくない!!」
バシッ!!!
突然襟首を掴まれた。
ふっと上を見ると、ソフィが息を荒くしている。
セ〜〜〜フ・・・。
「あ、ありがとうソフィ・・・。マヂ助かっだ・・・つうかチビった・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・お兄ちゃん・・・平気・・・?」
「なんとか。あ、もう降ろしてくれていいよ。もうすぐ着くから」
「うん」
今度は緩やかに降下し、両足でしっかりと地面を踏む。
ソフィもハイロゥを消して、俺の隣をゆっくり歩く。
「ここら辺に・・・」
「うん」
俺たちはちょっと離れた森へと足を踏み込む。
そこでスピリット探しを始めた。
「今度はどんな人なんだろ〜な〜?可愛い子がいいな〜」
「可愛い子を、こんな世界に?」
「・・・確かに」
本当に好きになってしまったら、こんな世界にいさせたくないって思うだろうな。
やっぱやめた。
俺は、ユウナを守るので精一杯だ。
「ん〜、いないな〜」
「うん。あ、お兄ちゃんあっち探した?」
「んにゃ・・・まだだ。ソフィは?」
「まだだよ」
「・・・あそこか」
「あそこだね・・・」
俺とソフィは唾を飲み込んだ。
残る一点は、あの茂みの中・・・人が倒れていても、見えないくらいには深い。
「よ、よし・・・見るぞ」
「う、うン!」
「こ、声を裏返すナッ!!あァ!?俺まで・・・!」
「お、お兄ちゃン静カニ!!」
「お、おう・・・」
俺とソフィは、声と足音を潜め、茂みにゆっくり近づいていく。
なんだか辻斬りみたいで、ちょっと変な感じが・・・。
「い、一斉のせ、で確認するぞ?」
「う、うん!」
「いっせーの・・・」
「「せ!!」」
俺とソフィは、同時に茂みを覗き込んだ。
それと同時に、剣を抜く。
「・・・?」
「す、スピリット・・・!」
「そうなの?確かに・・・髪が緑色だなぁ」
そこには、薄い緑の、腰まである髪を持った少女。
見た目は・・・15,6歳くらいだ。
腰まである髪に、小さな紐の飾りがついている。
顔立ちは愛らしく、見た目は大和撫子だ。
ただ・・・俺の特有の【危険察知、それ以上意味なし】能力がヤバイとしているが。
「グリーンスピリット・・・ねぇ?」
噂に聞く【針金頭のヘタレ野郎】や【俗物的な坊さん】、【ハリセンバリバリ女】に【歪みとはコイツのために生まれた言葉】なエトランジェとは似ても似つかない。
なんていうか、すごく可愛いから、知り合いってだけで自慢できちゃうかもしれない。
とにもかくにも、危ない感じの人じゃなくてよかった。
ただ、連れて帰るのは少しイヤになったが。
「この人は、どこから来たのかな?やっぱり私たちと同じ場所かな?」
「見た目はそうだけど・・・う〜ん、話してみないと。じゃ、つれて帰るの?やっぱり」
「そのために来たんだよ。それが、仕事だもん」
幼いというのに、仕事と割り切るあたりはスピリットとして教育された結果か・・・。
俺はそれをあえて顔に出さず、少女を担いだ。
「ユウキ・・・さん・・・」
「・・・?」
コイツ、今俺の名前を呼んだ・・・?
俺が少女を見ても、寝ているだけだった。
「変な寝言・・・」
俺はソフィに先導されて、イースペリアへと戻っていった・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺はハーブティーとお菓子を持って彼女の部屋にいく。
「・・・?」
「あ、起きてた?」
さっき保護したばかりのスピリット。
俺は軽く頭を下げて、ベッドの隣の椅子に座った。
テーブルの上にお菓子を置く。
「食べる?」
「・・・」
「?(ボリボリ)」
俺はクッキーを一口食べて、やたら感動しているスピリットの子に向き直る。
「あ、自己紹介まだだったね。俺はユウキ。君は?」
「・・・」
「もしも〜し」
俺がいくら呼びかけても、その子は反応しない。
というか、目がうつろで俺を向いていても、俺を見ていない感じだ。
「・・・誰?」
「あ、しゃべってくれた。だから、俺はユウキ」
「ユウキ・・・」
「君の名前は?」
「名前・・・?なに、それ・・・?」
「名前を知らない・・・?あ」
ソフィにさっき言われた。
生まれたばかりのスピリット・・・。
永遠神剣と共に生まれる妖精。
「名前ないんだっけ。ん〜・・・どうしようか」
「・・・」
俺はひとしきり唸る。
対して少女は、そんな俺を不思議そうに眺めている。
「そうだな・・・名前、名前・・・う〜ん」
日本人の俺としては、名前と言われて外人っぽい名前はつけられない。
というか、高校生にして親の感覚を経験することになろうとは・・・。
「え〜、と。君は、何か知ってる言葉とかない?」
「・・・名前、って?」
「あ、う〜んと・・・その人を呼ぶときに使う言葉だよ。俺を呼ぶときは、ユウキって呼ぶみたいに」
「・・・」
わかったのかわかってないのか、そのまま窓を眺めてしまう。
腰まである長い髪をなびかせて、窓際に立った。
その薄い緑の髪が流れ、太陽を反射する。
「・・・」
ただ、そこから見える景色を眺める少女。
俺は、その姿が美しく見えて、呆けていた。
不意に、名前が浮かぶ。
「キアラ・・・」
「・・・?」
「うん、我ながら良い名前だ。キアラって言うのはどうかな?」
「キアラ・・・それが、私の名前・・・?」
「そう♪」
まぁ、センスがあるかどうかは置いておいて、これで大抵の人がイメージする女性像。
それを、薄い緑髪にした感じ。
うん、結構ナイスな線をついてるな。
「どうかな?」
「・・・キアラ」
何度もキアラ、とかみ締めるように呟く。
そして、俺に向き直って、小さく頷いた。
「よろしくな。キアラ」
「・・・」
俺が手を差し出すと、それをマジマジとみつめてきた。
「これは、これからよろしくって意味の挨拶。手を握り合うんだ」
「・・・」
俺はキアラと握手した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そうか・・・キアラ、でいいのだな?」
「はい」
俺は王にキアラのことを報告した。
キアラに聞けば、永遠神剣の名前は第六位【無為】。
「・・・よし、登録完了した。それで・・・」
「はい」
「キアラの教育、任せてよいか?」
「・・・」
「王、今度一緒にどこかへ出かけよう」
「話を無理にそらすな」
「なんの話だっけ?」
「だから、キアラの教育をおぬしに任せると【あ〜、そういえばキアラっていうカレーの店が】ユウキ・・・!」
「・・・だ、だってまだ人生の折り返しにも到着しない俺に教育って・・・」
「だが、お前・・・キアラを他人に任せられるか?」
「・・・う〜ん、食えない王様だ」
「では、頼むぞ」
「ハイハイ」
「はい、は一回!!」
「はいっ!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「と、いうわけで、キアラ、今日から俺に教育されろ」
「唐突に何を言い出すの!?お兄ちゃん」
「俺は王様から教育するようにと依頼された。これはつまり、俺の野望【光○氏計画】を実行しろとの神のお達しだっ!!!」
「「「【光○氏計画】?」」」
ソフィ、エリス、アイビスが揃って疑問の声をあげる。
当の本人であるキアラは俺の後ろの隠れているが。
どうやら、まだなじめてないようだ。
「ふふっ・・・本来なら十数年と時間のかかるこの計画も、このキアラがいれば可能だっ!!!」
「それって、どんな計画なの〜?」
「要は純粋無垢な子を、自分好みに育てるという【かの古典超有名人】に基づいて、綿密に今風に組みなおしてやってしまおうという【長い】アイビス……」
―――せめてあと数単語くらい、言い切らせてくれ・・・。
「要は、キアラをお前好みのヤツにしてしまおうと」
「・・・」
な、なんだか・・・3人の視線が怖いんですけど。
「じょ、冗談だヨ冗談ッ!!」
「怪しいな。お前も年頃の男の子なワケだからなぁ。しかもこーんな綺麗な女性たちに囲まれて。4人だぞ4人。他も入れれば7人か?」
「6人だ・・・アイビス、少なくともお前にだけはそういう目は向けないから安心しろ」
「なんだとっ!!」
「まぁ、冗談は明後日に追いやって・・・相談したいのは、教育っつっても、俺何にも教えることが思いつかないんだが」
「そうなんですか?」
「だからソ・・・無理か。ア・・・も無理だな。エリス、何を教えればいいのか教えてほしい」
「ソフィ、コイツ絶対・・・」
「うん。【ソフィ・・・無理か。アイビス・・・も無理だな】って言った!!」
「後で一緒に吊るそう」
「うん、お姉ちゃん!!」
「ウオッホン!!!それで、エリス」
「そうですね・・・言語なんかは大変でしょうから、私たちでなんとかします」
「手伝ってくれるん?アリガト!」
「まぁ、講師はソフィで、ユウキ様も一緒に勉強なされば一石二鳥ですから」
「・・・」
「そ、そんな・・・幸せの絶頂から、一気に絶望の淵まで顔を変えなくても・・・」
「いいんだ・・・それで?」
「そうですね・・・。一番簡単なのは、いつもキアラの傍にいてくださればいいのではないか、と」
「傍にいる?」
そんな簡単なことなのか?
「自然と、キアラが覚えていくと思います。わからないところは、ユウキ様が教えてあげればいいわけですから」
「あ、なるほど」
要は学ぶより慣れろ、と。
「それに、今のところユウキ様にしか心を開いてないようですから」
「ふ〜・・・こんな若くにして親の心境とは」
俺は後ろに隠れたキアラの頭を撫でる。
くすぐったそうな、幸せそうな顔をした。
それを見て、エリスは複雑に笑う。
「あ、ズルイ〜!ソフィも!!」
くいっと頭を突き出してくるソフィ。
俺はそれをピン!と弾いた。
「いった〜い!!」
「甘えるな。見た目は年下でも、ソフィはお姉ちゃんなんだぞ!」
「え・・・お姉ちゃん・・・?」
「な、エリス」
「そうよソフィ。しっかりキアラのこと、面倒見てあげて」
「う、うん・・・そっか、ソフィがお姉ちゃん・・・♪」
やたら感動し、余韻に浸るソフィ。
どうやら、妹ができて初めての感覚にくすぐったいようだ。
「それじゃ、キアラ。自己紹介だ」
俺はくいっとキアラを前に突き出した。
ソフィたちの視線が一斉に集まるため、逃げ出しそうになるキアラ。
だが、それを俺は許さない。
「ほ〜ら、怖くないから」
「う、うん・・・えと・・・キアラ・グリー・・・ンスピリットです・・・そ、その・・・よろしく、お願い・・・します・・・」
かなり腰が引けているが、しっかりと自己紹介したキアラ。
それを、ソフィ達は満面の笑顔で答えた。
「うん、これからよろしくね♪キアラ。私はソフィ・ブラックスピリット!」
「こちらこそ、よろしくお願いするわ。エリス・ブルースピリットよ」
「おっす!これからよろしくな♪アタシはアイビス・レッドスピリットだ」
「は、はい!!」
キアラは3人に囲まれて、キャイキャイ騒ぎ出した。
俺はそれを見て、ふと思う
(しかし・・・カラフルだなぁ・・・)
日本では何かのバンドのライヴイベントなどじゃないと、ありえない光景。
もしくはミュージカルとか。
黒、青、赤、緑、の髪が勢揃い。
以前だったら、絶対に珍しい、と見てしまう。
「慣れって怖いなぁ・・・」
俺は一人ゴチて、クッキーをポリポリかじった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キアラ・グリーンスピリット 永遠神剣第六位【無為】
まだ出現して間もないと思われるグリーンスピリット。
まるで何も知らない赤子のようで、名前、という言葉の意味さえ知らなかった。
だが、感覚が鋭いのか、永遠神剣の補佐か、会話が成立している。
「ねぇユウキ」
「あん?」
俺は部屋で兵法書を読んでいた。
これでも、一応勉強してるんだぞ?
「これは?」
「さぁ?」
「じゃぁこっちは?」
「さぁ?」
「む〜……ユウキ」
「あん?」
「えいっ!!」
「ぐぼあっ!!!」
唐突にキアラがのしかかってきた。
いちいち跳ねて、勢いまでつけて。
つまるところ―――
致命傷
「あ………」
「………」
口からダラダラ血を流す俺を見て、どうやら事態に気づいたようだ。
生まれたてのクセに直感に優れるキアラ。
俺が次に何をするか気づいて………逃げた。
―――まぁ、無駄なこと
「え!?扉が……あかない!?」
「ふっふっふ………どうやらキアラには特別な教育が必要なようだねぇ」
「い、イヤ………」
「逃げ場はない。おとなしく………ぐえっへっへ」
「い、イヤーーーーっっ!!!!」
「バカか」
俺はケロっと表情を治して、口から流れ出た血を拭う。
「へ?」
「誰がお前に手を出すかっての」
「……」
「キアラ、わかったか?屈服させるには高くつく相手だと思い知らせれば、戦うことは回避できる」
「え?」
たった今、兵法書で読んだ。
屈服させるには高くつく相手だということを認識させ、力の拮抗を図る。
それが、戦いを回避する方法の一つだそうだ。
「こんな怖い思いをしたら、もう二度とやらないだろ?」
「う、うん………」
「わかったら、言うこと!」
「ご、ごめん……ユウキ」
「そ」
俺はルンルン気分でベッドへ戻る。
すっと、椅子に腰掛けるキアラ。
じっとこっちをみつめてくる。
「どした?」
「見てるだけ」
「え?」
「ユウキ……見てるの」
「俺を?やめとけ。俺の格好良さは目に毒だ」
「………ユウキ」
「なんだ?」
やたら心細い声で、ふっと目を向けた。
キアラが俯いていて、顔がよく見えない。
「私、ここにいていいの?」
「は?」
「戦えないし、頭悪いし、なんだか……」
「お荷物じゃないぜ?」
「え?」
「お前は、俺の隣で、しっかり歩き始めてるじゃん」
「………!」
「俺とおんぶにだっこの関係じゃないと思うけど?」
「……」
「大体、な」
キアラの温かい緑の髪を撫でる。
「まだここに来たばかりのくせに、そんなことで悩むな。ガキは大人を頼っていいんだから、よ?」
「……うん」
「でも、俺もガキだから、お互い助け合っていこうぜ?それでいいんじゃね?」
「……いいんじゃん?」
「そうそう。そうやって笑ってろ」
「うん………♪」