「ふわ・・・」

 

 

俺は咄嗟に、出そうになったあくびをかみ殺す。

今はイースペリアの国の会議中。

そんな大事な会議の中で、一人だけ大きなあくびをするわけにもいかない。

大変な優遇されてここにいるのだから。

 

 

「ユウキよ」

「なんだ?」

 

 

ギロッと周りの視線が痛くなる。

そりゃそうだろう、王様とタメ口なのだから。

しかも、、それがエトランジェっていうんだからなおさらなんだろう。

でも、俺は気にしない。

 

 

「スピリット達の様子はどうだ?」

「元気だよ。それに、状態もいい。まるで、家族みたいにね」

「そうか。実は、最近周囲が怪しくてな・・・」

「ってことは・・・まさか、ねェ・・・?」

「・・・」

 

 

王はうんともすんとも言わなかった。

そのまま、会議はお流れになっていく。

 

 

「・・・」

 

 

俺は第2幕舎へ向かう。

一日一回は顔を見せないと、ソフィが部屋まで押しかけてくる。

やましいことは何もないハズなのに、そうなると優菜の視線が痛い・・・。

 

 

「おい〜っす。遊びにきやしたーっ」

「あ〜!お兄ちゃん♪いらっしゃい・・・っとっと」

「あっと・・・!」

 

 

倒れそうになったソフィを支える。

すると、かすかにいいにおいがした。

 

 

「ったく。体でかくもねーのに、そんな大荷物持つな」

「にはは♪じゃぁ、また倒れそうになったら支えてくれる?」

「・・・最初だけだ。次からは真一択だ」

「なにそれぇ?」

「わからないなら気にするな。いいから、その洗濯物を持っていけ」

「は〜い!あ、どこか行っちゃヤだよ?」

「わかったわかった。お前の大好きなミルクティーでも用意しておくから」

「やったね♪じゃ、早速片付けてく・・・むぎゅっ!!」

「・・・ハァ」

 

 

言った直後の第一歩で落とした洗濯物を踏んでコケた。

これには、さすがの俺も脱力する。

 

 

「にはは・・・♪失敗失敗」

「早く行けっての」

「はい!」

 

 

トテテ、と走っていくソフィ。

俺は食堂へ行き、ティーの入った棚を開ける。

 

 

 

 

――レモン、コーヒー、ココア、ケチャップ、アップル、ストレート・・・

 

 

 

「………ケチャップ?」

 

 

俺はつい、ケチャップティーなるものを手に取る。

そこには、アイビスの字で【DANGER!許可なく飲むべからず!】と書かれている。

すごく、興味をそそられる。

 

 

「でも、さすがにソフィを実験台にするのはな。謎は後においておくとして・・・ミルク、ミルク・・・」

「どうしました?」

「あ、エリス」

「何か、お探し物でしょうか?」

「ミルクティーさがしてるんだけど」

「あ、それでしたらこちらです」

 

 

俺は上の方を探していた。

しかし、エリスは下の棚をあける。

 

 

「そこだと、ソフィが届かないんです」

「あ、なるほど」

 

 

俺はビンを受け取る。

コップを二つ取り、スプーンを探す。

 

見つからない。

 

 

「エリス〜、スプーンってどこ〜?」

「あ、それでしたらここ・・・痛っ・・・!」

「どうした?ケガ?」

「は、はい。でも、ほんの小さな切り傷です」

「ちょい見せて」

「ぁ・・・」

 

 

俺はエリスの手をとった。

確かにたいした傷ではないから、オーラフォトンを展開させるほどでもない。

俺はポケットを探る。

 

 

「たららったら〜〜♪傷薬と絆創膏〜〜」

「・・・一体どこから」

「気にしない気にしない。ほら、手を出して」

「い、いいです・・・このくらい!」

「なんだよ、そんなムキになるなって。ほら」

「だ、ダメ・・・!きゃぁあぁああぁっっ!!!」

「ぐぶっ・・・!ごほぉおぉおぉっっ!!!」

 

 

 

俺がエリスの手を取ると、ロウキックを受け、怯んだところにストレートキックがきた!

それをモロで直撃し、俺は壁に叩きつけられた。

それと同時に、薄れ行く意識・・・。

 

 

 

――あぁ・・・なんでここに来るたびに意識失うんだ・・・

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「んあ・・・」

「あ、目が覚めた?」

「ソフィ・・・?今のは、夢?」

「うぅん、現実」

「痛っ!」

 

 

ソフィが軽く俺の腹を触った。

すると、体全体に激痛が走る。

 

 

「エリスは・・・?」

「はい・・・ここにいます・・・」

 

 

しょげて、すっかり小さくなったエリス。

そこには、大きな不安と不安定さが目に見えた。

 

 

「あれ・・・どうなってんの?」

「わ、私・・・実は【男性恐怖症なんだよな?極度の】え?」

「いやぁ、実はさぁ、あーいう症状知ってるんだよ俺も」

「・・・?」

「前の世界・・・俺のいた世界で、俺魔術師ってのやってたんだ」

「魔術師、ですか?」

「そこで、一人そういうのがいたんだよ。極道の人で」

「極道・・・とは?」

「義理と人情を大事にして、いざという時は素手で語る・・・最近は違うのかな?まぁ、そういう怖いけど、仲間には大事な意識を持ってる人たち」

「う〜、わかんないよ〜。いつかみたいに省略してよお兄ちゃん」

 

 

「そうだな。それさえいれば、どんな契約だろうと成功してしまう、恐怖の道具かな」

 

 

「微妙にきわどい例えだな」

「おわっ!アイビスもいたのか」

「あ〜?アタシがいちゃ悪いか?」

「いやいや。だって突然現れたから」

「結構前からいたぞ」

「いつ?」

「エリスの【極道とは】あたりから」

「ふぅん・・・あ、話を戻すか。んで、そいつにも今みたいなことをやられたわけ」

「それで・・・?」

「んで、俺もさすがにそんなの治せないって言ったんだけど、ちょっと打たれちゃってね」

「うたれる・・・?」

「【おやっさんには一生をかけて恩を返さなアカンのや!だから・・・頼んます!!】とか土下座されたら・・・ね」

 

 

「す、すばらしい精神です・・・!」

「エリス?」

「その恩義を返そうという心構え、一生かけても・・・あぁ、なんてすばらしいの!?」

「お〜い」

「ダメだありゃ。エリスって意外とそういうのに弱いんだよ」

「へぇ・・・」

「お姉ちゃん、だからイースペリアにいるんだよ♪」

「どういうこと?王様に恩があるとか?」

「うん。さまよってたところを拾ってもらったんだって」

「ふぅん・・・」

 

 

相変わらず極道の余韻に浸っているエリスを眺める。

確かに・・・

 

 

「だから、エリス。本題に戻るぞ」

「あ、はい!」

「つまりだ、俺は別にかまわないから、慣れるまでバンバン吹っ飛ばしてくれてOKということ」

「え・・・?」

「その女の時は、そうやって克服した。それに、触ったり触らないようにしたりって気遣ってると、やりにくいと思うんだよ俺もお前も」

「・・・」

「・・・返事は?」

「は、はいっ!!」

「じゃぁ、気を取り直してみんなでティータイムと行こうか!」

「おう!」

「そうですね!」

「うん♪」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「はい、ユウキ様」

「あ、サンキュ」

「あ、口元に汚れが・・・失礼します」

「お、おう」

「お茶の温度はどうですか?」

「・・・」

 

 

さすがに頭が痛くなってきて、俺はこめかみをキリキリさせる。

さっきから・・・ずっと、かいがいしくエリスが世話してくるんすけど・・・。

おかげで、ソフィは隣にいるのに不満げな顔だし、アイビスは呆れた、とほうけている。

 

 

「はっ、もしかしてお熱いですか!?」

「い、いや・・・」

「失礼します」

 

 

俺のミルクティーをとって、息をかけてさましてくれる。

そして、笑顔のまま俺に渡してきた。

 

 

 

 

 

――俺にコレを飲めと?

 

 

 

「エリス、何もここまで世話しなくてもいい・・・から」

「え、なぜでしょう?」

「確かに俺ぁ男性恐怖症を気にするなって言ったけど、ここまで世話されるのもなんだかやりにくいんだよ」

「あ・・・すいません・・・」

「しょげるなしょげるな頼むから!だから、普通にしようぜ?普通にさぁ」

「普通・・・ですか」

「な?とりあえず頼むよ」

「は、はい!失礼しました」

「お兄ちゃん、綺麗なエリスお姉ちゃんにお世話されて、とっても嬉しそうだね〜」

「そ、そんなことないけど・・・」

「じゃあ!なんでそんなに、お顔が真っ赤なの?」

「それはお前・・・女にはわからない、男の葛藤ってモンがあるんだよ」

 

 

 

だって、だからデカイし。

そんな魅力的な肉体が目の前にあれば、誰だってアレやコレが緊張するんだよ。

 

 

………あぁ、ダメだ。最近脳内がイカれてきてるよ〜。

 

誰か助けてくださぁあぁあぁいっ!!!

 

 

 

「ふんだ!ソフィだって、あと数年もすれば」

「ムリ。だって・・・想像できないし」

「あ〜っ!!お兄ちゃん酷い!やっぱり男の人は美人でスタイルのいい人にしか興味ないんだ!」

「だって、少なくともソフィに魅力を感じるヤツは、何かしらの属性がついてるだろうし」

 

 

「属性?」

 

 

「それがついてると、時には沈む原因になるし、時には大量のエネルギーの源になる」

「??」

「まぁ深くは気にするな。お前はまだまだこれからってこった」

「いつか見返してあげるんだからね!そのとき、後悔するなよ〜?」

「まずは、【にはは】笑いをなくすことだな。アレは今はいいが、後々絶対に敬遠されるぞ」

「あれは癖だもん!治そうと思えばすぐ治せるもん!!」

「ほ〜ぅ?アイビス、どう思う?」

「まずムリじゃねぇか?っていうか、想像できねぇしな」

「お姉さまにも認めていただきました。やっぱお前にはムリ!」

「ムリじゃないもん!」

「ムリだね!」

「ムリじゃない!」

「ム・リ・だ!」

 

「じゃぁ!素敵な人になったらどうするの!?」

「嫁にでもなんでもしてやらぁ!!ム・リ・だ!」

「よ〜し・・・約束だからね!!」

「なれるもんならな!」

 

 

「はいはい、そこまでにしてください。もう少し静かにしましょう」

「あ、悪い。エリス」

「ご、ごめんなさいお姉ちゃん」

「まったく、ユウキもソフィもガキすぎるんだよ」

「アイビスだってたいしてかわらねーじゃねぇか」

「あんだと!?」

「ホラ、なぁ?ソフィ」

「うんうん♪すぐ怒るし、叫ぶし」

「ソフィ、てめぇ!」

 

 

ツインテールを引っ張って引き寄せ、エリス直伝のグリグリをかますアイビス。

ソフィは泣き叫びながら、助けを求めていた。

 

そこでアダルト組の俺とエリスは、それを肴にしてお茶をすすって・・・

 

「「はぁ・・・」」

 

 

午後のうららかな一時を過ごしたのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

訓練

 

 

それが、俺の人生最大の憂鬱な時間。

スパルタ先生に、スピリット相手の厳しい長時間訓練。

 

解放は基本的に優菜を守るときだけにしか力を使わない。

だから、俺がクタクタになって帰っても、ちっとも回復してくれない。

 

でも、今回はちょっと違っていた。

メリアとカナリアは国王の警護でいないため、俺とあの3人での訓練となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ、何する何する〜?」

「う〜ん・・・まさか、4人で自主訓練になろうとは・・・」

 

 

今日は訓練士がお休み。

だが、生死がかかっているのに、訓練をサボることは許されない。

とはいうものの、俺はもともと魔術師系なので、剣の訓練などわかるはずもない。

今いるのは

 

 

――チビ・ブラックスピリット(ソフィ

 

 

――デカ・ブルースピリット(エリス

 

 

――ペッタンコ・レッドスピリット(アイビス

 

 

 

の3人。

これに、俺が入ったとして・・・何ができる?

 

 

「アタシは、ぜひエトランジェ様の魔法というものを見てみたいな」

「ふ〜む・・・じゃぁ、アイビスと俺。ソフィとエリスで組んで、そっちは剣の訓練してくれるか?」

「わかりました」

「え〜?お兄ちゃん別なの〜?」

「あとで遊んでやるから。エリス、厳しく頼む」

「お任せください。ソフィ、行くわよ?」

「ぶ〜・・・わかったよぉ」

 

 

渋々ついていくソフィ。

ちらちらこちらを見るから、俺は手を振って早く行け、と示す。

 

 

「さて、アイビス。何を見たいんだ?」

「それよりもさっきの説明、ペッタンコってなんだ?」

「・・・じゃぁ、俺は炎系が得意だから炎系な」

「無視か?」

「ん〜、あんまり派手なのやると、周囲が壊れるからなぁ・・・」

「聞けよ、人の話」

「じゃぁ、初歩の火の粉から・・・」

「フォアタタタタタタタタタッッ!!!」

「:・:@p@;・@?:‘=〜=+@!?」

 

 

 

俺の体に目にも止まらぬ速さでパンチがぶち込まれる。

気づけば、俺は地面に倒れていた。

 

 

「お前は、もう死んでいる」

「ぐぼあ・・・!って誰が爆発するかっ!!な、なにするんだよ・・・!」

「人の話は聞くもんだろうが。ことごとく無視しやがって」

「そ、それはまぁ・・・」

「なんだ?」

 

 

「・・・ごめんなさいすいません許して(命乞い)」

「よろしい♪」

 

 

俺が素直に謝ると、まるで猫のような笑顔を見せるアイビス。

つい、見ほれてしまう。

 

 

「どした?アタシの顔になんかついてる?」

「い、いや別に。それじゃ、まず初歩的なヤツから。えいっと!」

 

 

ポッ!

 

誰かの頬が赤くなった、もはや古典的用法の擬音ではない。

俺の指先から小さな、ガスバーナー程度の炎が出る。

 

 

「おおっ!スゲーッ!!」

「【まさ】に【がす】だね」

「・・・は?」

「い、いや・・・なんでもない」

 

 

これはちょっと危険だったか・・・?

 

 

「どうやったんだ?」

「ん〜?体の中にある【魔力】っつーもんを【精神集中】で体の外に吐き出したって感じかな」

「マナとかはいらないのか?」

「俺の神剣によれば、俺の世界はマナが希薄らしい。だから、たぶん使ってないと思う」

「すげえな!んじゃ、お前の中にこの炎の元が入ってるってことだろ!?」

「そうなる・・・かな?」

「マナがたくさん詰まって・・・あれ?それじゃアタシらと一緒か」

「魔力、な。もしかしたら、スピリットにも魔力あるかもしれないぜ?」

「そうなのか?」

「ちょっとやってみるか。まず、精神集中からな」

「おう!!」

 

 

アイビスはすぐに俺の言うことを聞く。

普段は絶対にありえない光景だ。

どうせだから、ちょっとイタズラしてみるか♪

 

 

「まずは、服を脱げ」

「殺す」

「前言撤回。まず、目を閉じて」

 

 

あっけなくイタズラ封鎖され、俺は大人しく素直に教える。

 

 

「そしたら、頭のこめかみあたりに力をいれて・・・慣れないと頭が熱くなるけど気にしないで」

「わかった・・・こう、か?」

「まだ、最初は3分は集中しないとダメ」

「お、おう」

 

 

そして3分後。

 

 

「よし、それで、指先にマナを流す要領で力を流す!」

「えいっ!!」

 

 

プスッ・・・!

 

 

「あ・・・出た!!」

「やったなアイビス。これが、俺の世界で言う魔法だ」

「やったぜ♪サンキューユウキ!」

「言っておくけど、見ればわかるとおり実戦で使えるにはまだまだ訓練必要だからな」

「そういえば、お前は一体何日間でコレができるようになったんだ?」

「・・・2年」

「へ・・・?」

「ば、バカにすんなよ!?その後は本当にメキメキ上達したんだから!」

「ふぅん?」

「あ、信じてないだろ!?」

「まぁな」

 

 

「悔しかったんだよ。入門で2年もかかるなんて、ってバカにされて。んで、こなくそってやり始めたら、いつのまにか世界に通用する魔術師になってた」

「ユウキ・・・」

「数分でできるようになるのは普通だから。いやむしろ、普段マナで慣れてる分一発でできなきゃおかしいのかも・・・それに、まだ火になってなかったし」

「そういえば・・・ただ、一瞬ついただけだったな」

「火花じゃダメだ。火が出るようになったら、また教えてあげる」

「ユウキ・・・お前、案外イイヤツなんだな」

「は?お前、何当たり前のこと言ってるんだ?」

「少しは遠慮しろよ・・・」

「はは♪あ、あっちも終わったみたいだな」

 

 

俺とアイビスはソフィとエリスに歩いていく。

すると、どうやらまだ途中だったらしくすぐに再開する。

 

 

「少し見てるか」

「そうだな」

 

 

俺とアイビスは、訓練場の隅に座る。

 

 

「振りが遅いわよソフィ!」

「う、うん!!」

「速さを生かさないと、力が強くないあなたじゃ打ち負けるだけ!ほらもっと速く!!」

「ええいっっ!!!」

 

 

 

パキンパキンッ!!!

 

殺陣を華麗に披露する二人。

驚くのは、これがあらかじめ予定された動きではないことだ。

ドラマや漫画などとは違う・・・そう、リアルなのだ。

それで、これだけのコトをやっていることに、俺は現実味を失う。

 

 

 

「あ、お兄ちゃん・・・はぁ、はぁ・・・」

「お疲れさん。このタオル使っていいぞ」

「わぁい・・・お兄ちゃんのたおる〜・・・♪」

 

 

 

俺のパスしたタオルを受け取ると、そのまま倒れてしまうソフィ。

軽くため息をついて、仰向けに寝かせてあげる。

 

 

 

「本当にスパルタだったな」

「はい。この子には、死んで欲しくありませんから」

「・・・そうだな」

 

 

 

安らかに眠る(比喩)ソフィの寝顔を見ると、俺もそう思わずにはいられない。

俺はつい、体に力が入るの感じた。

 

 

 

「ユウキ様」

「なに?」

「私と、稽古してくださいませんか?」

「・・・わかった」

 

 

 

もしかして、リキんだのがバレたか?

 

 

 

「では、いきます・・・!」

「二刀流・・・か」

 

 

 

エリスは片手に一本ずつ模擬刀を持った。

そして、独特ともいえる構えを取る。

 

 

 

「はぁッッ!!!」

「っ!!」

 

 

 

右、上、斜め30度、下、切り上げ!!

俺はできるだけ集中させ、目にも止まらぬエリスの剣筋をはじいていく!!

 

 

パキパキパキパキンッ!!!

 

 

まるで楽曲のように、途切れることなく続く金属音。

 

 

(突き、切り上げ!)

 

 

「甘いっ!!」

「っ!!!」

 

 

 

バスッ!!

 

俺の突きがエリスの脇下に入った。

そのままねじりあげられ、剣ははじかれて壁に刺さり、俺は剣を失う。

 

 

 

「やべっ・・・!!」

「背中を見せるとは愚かな・・・!!」

 

 

 

俺は急いで剣を取りにいく。

後ろからのエリスの攻撃は、なんとか体を回転させてよける!

 

 

 

「決めます・・・!!ハァッッ!!!」

「間に合え・・・!!」

 

 

 

俺は壁に突き刺さった剣を握った。

そのまますぐに振り向き、エリスの【予想通り】の突きを、剣を握って壁に突き刺す!

 

 

 

「なっ!!」

「壁に向かって突いたのがいけなかったな・・・!これで、終わりだ!!」

 

 

 

俺はエリスに掌底を打ち込んだ!

そのままエリスは宙に打ち上げられる!

 

 

 

「がはっ・・・!!」

「ハァッ!!!」

 

 

 

俺は壁に突き刺さった2本の剣を足場にして、天井高く飛ぶ!

そのまま一回転して、俺はえびぞりになり、足をエリスに絡ませる!

 

 

「っ!!」

「でやぁあぁっ!!!」

 

 

ズガァアァアァッッ!!!

 

 

床にぶつかる寸前、俺はくるっと一回転させて勢いをつけた!

そのまま、顔から床へと突っ込むエリス。

俺の全体重と落下速度を上乗せした威力が、エリスの脳へと直撃・・・これで、決まった。

 

 

 

 

「エリス、生きてるか?」

「な、なんとか・・・ですけ・・・ど」

 

 

 

 

ヨロヨロと立ち上がるエリス。

俺はエリスに肩をかして隅へと移動する。

 

 

 

 

「強い・・・ですね、やはり・・・」

「まぁ、魔術師って言っても俺は魔法格闘だから」

「どういう・・・流派ですか・・・?」

「う〜ん・・・ほら、魔術師って対戦士とかだと大変じゃん?距離とったりとか」

「はい・・・」

「それだと限界があるから、体術に魔法を上乗せした戦いをするんだ」

「なるほど・・・」

「っておい、本当に平気?」

「少し、休ませてもらって、いいですか・・・?」

「あぁ。ゆっくり休んでくれ。悪かったな」

「いえ・・・頼んだのは、こちらですから・・・それでは・・・」

 

 

 

 

俺にコトンと体を預け、すぐに眠ってしまうエリス。

アイビスはやたらそれを見て驚いている。

 

 

 

 

「どした?」

「珍しいからな。エリスが、誰かの前で寝るなんて」

「そうなん?」

「アタシらの前でも滅多に寝ないからな。それにしても、今日は参考になったぜ」

「俺もな。んじゃ、俺たちもコイツらが起きるまで一休みしますか」

「だな。それじゃ、おやすみ」

「ああ」

 

 

 

 

そして、俺たちは揃って全員風邪を引いた。

メリアに心配され、カナリアに責められ、優菜にジト目で見られたのは言うまでもない。

 

誰も看病してくれない中で、俺は一人さびしくベッドで寝ていたのだった・・・。