朝。

 

それは、永眠してない限り必ず訪れる時間。

それは、清々しかったりけだるかったりする。

それは、人生で唯一心の安らぎを得られる時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ・・・起きて、起きて」

「ん〜・・・ユウナ・・・?」

 

 

俺は優しい揺れに起こされた。

そこには、心配そうに顔を近づけている優菜がいた。

 

 

「今日は・・・第二幕舎の人たちに会いに行くんだよね・・・?」

「あ、あぁ・・・そういやそうだっけ・・・」

 

 

俺はベッドから降りる。

一応、隊長に任命されたからには全員に会わないといけないって思ったから、許可取ったんだっけ。

 

 

「もう、お昼になっちゃうよ・・・?」

「え?ま、まずい!!訪ねる時間、9時って言っちゃったのに!!今何時!?」

「うんと・・・大体、11時・・・」

「いってきます!!」

「あ、うん・・・いってらっしゃい」

 

 

俺は小さく手を振る優菜に見送られ、第一幕舎を出た。

いきなり遅刻したからには、朝飯・・・もうほとんど昼飯だが、それは諦めて速攻で向かうのが礼儀だ。

 

 

 

 

 

――礼儀を重んじるなら、遅刻するなって言うな。

 

 

 

 

 

俺は急いでドアをあける。

そのとたん、誰かが俺の腹に突っ込んでくる!

 

 

「ぐぶっ・・・!!」

「おっ兄ちゃんいらっしゃ〜〜〜いっっ♪」

 

 

ドサッ!!

 

そのまま俺は意識が飛んだ。

かすかに、俺に乗って首をかしげている少女を見た気がした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「し、失礼しました!!」

「いやぁ、ケガなかったから、別にいいんだ」

 

 

やたら頭を下げるブルースピリット。

デカい・・・いや、何がって・・・アレだよアレ。

 

 

「どうしました?私の胸に何か?」

「デ・・・い、いやいや!なんでもない。それで、その・・・頭をずっと下げさせたままの子は?」

 

 

そのブルースピリットは、右手でずっと小さなブラックスピリットの頭を下げさせている。

もう10分はたったから、かなり首を痛めているハズだが・・・。

 

 

「どうかお許しください。この子はなにぶんまだ幼いものでして・・・」

「あ〜、はいはい、許すから。だから離してあげなよ」

「は、はい!」

 

 

右手が離れると同時に、その子の顔がピョンっと上がった。

くりくりとした、輝く目・・・ま、まぶしい!つぶらすぎる!!

 

 

「もう、お姉ちゃんのバカ!!痛いよ〜・・・」

「それだけの失礼をしたの!自覚なさい!」

「はいはいそこまで!」

 

 

俺は言い合いを途中でやめさせる。

この手の言い合いはなかなか決着がつかなくて、長引くものだ。

 

 

「し、失礼しました」

「う〜・・・」

「んじゃ、早速自己紹介してくれ。まずは、知ってると思うけど俺。ユウキだ。ユウキって呼んでほしいから、ユウキ以外は教えません」

「は、はぁ・・・そうですか」

「うん!わかったユウキおにいちゃん!」

「それじゃ、キミから」

 

 

俺はいきなりタックルしてきた少女を指差す。

 

 

「はいっ!ソフィ・ブラックスピリットといいます!」

「私は、エリス・ブルースピリットといいます」

「二人だけ?」

「あ、あとアイビスお姉ちゃんがいるよ♪」

「アイビス?今はどうしていないの?」

「えと・・・その・・・」

 

 

急にモジモジし始める二人。

いや、オドオドが正解かもしれない。

 

 

「寝てるの・・・」

「へ?」

「アイビスは非常に寝起きが悪いのです。どうしてもと言うなら、この剣を持って起こしてきますが・・・」

「ごめんねお兄ちゃん。しばらくすれば起きると思うから」

「はは、なんだか親しみが沸くね、そういうの。疲れてるんだろうし、いいよ、寝かせておいて」

「ですが、主人の挨拶にもこれないスピリットは・・・」

「挨拶なんてカタチだけ。俺は単純にここに遊びにきただけなんだから。あ〜、なんだかエリスって付き合ってて苦しくなるって言われてない?」

「あ〜!やっぱりそう思うよねお兄ちゃんも!もう少しやわらかい顔をしたほうが、絶対に可愛いよね!!」

「可愛いじゃなくて、エリスみたいのは美人って言うんだよ。でも、まぁであったばかりで緊張するなってのも無理な話か」

 

 

俺は背もたれに体重をかけた。

ギシッと言う音がして、軽くゆれた。

 

 

「び、美人だなんて・・・恐れ多い」

「恐れ多い・・・って」

「ユウキ様には、伴侶がいるではありませんか」

「・・・それって、言わずもがな」

「ユウナ様のことだよ♪」

「やっぱりかぁ。でも、俺ユウナとはそういう関係じゃないんだよ」

「そうなのですか?」

「だったら俺、エリスがい〜な〜♪どう?俺なんか」

「え、え!?そ、そんな・・・ダメです!す、スピリットとエトランジェだなんて・・・!」

 

 

あたふたして、手まで振って真っ赤になってオドオドするエリス。

そんな姿を見ていると・・・

 

 

「・・・ぷっ」

「あははっ!お姉ちゃん、お兄ちゃんの事まんざらでもないんだね〜♪」

「なっ!ソフィ!!」

「あ〜ん、怒らないで〜!シワ増えるよ〜!!」

「お・お・き・な・お世話よ!!」

 

 

ソフィを捕まえてグリグリを始めるエリス。

俺は軽く笑いながらその光景を見ていた。

 

すると、ドアが開く。

 

 

「お〜っす・・・オハヨー・・・」

 

 

ロウテンションで、肌着一枚のスピリットが入ってきた。

肌着一枚!?

 

 

「わ、わわわ・・・!」

 

 

俺はあたふたして手で目を隠す。

だが、男心には勝てず隙間からのぞいてしまう。

 

 

「あ、あなた!なんて格好できてるの!?」

「あ〜ん・・・?別にどうでもいいだろ〜?この幕舎にゃぁアタシとお前ら二人しかいねーんだから」

「・・・アイビスおねえちゃん?じゃぁ、隣にいる人は?」

「へ・・・?」

 

 

ギギギ、と顔がこちらに向く。

目があったので、俺は軽く手を振った。

 

 

「ヤッポ〜♪」

「おう、おはようさん」

 

 

 

「いやぁあぁあぁあぁあぁッッ!!!痴漢変態スケベ出歯亀のぞき〜っっっ!!!」

 

「な、俺は悪くない!!お前こそ露出狂だろ!!」

 

「見るなあぁあぁあぁっっ!!!」

 

「あ、そんな鈍器どこから!ってかそれで殴らないで死ぬ死ぬ撲殺されちゃうよ!!」

「お、落ち着いてアイビスおねえちゃん!!」

「それはエトランジェユウキ様よ!!落ち着いて!!」

 

「誰だろうと、アタシの柔肌を見た奴はころ〜〜〜すっっ!!」

 

「それヒデェ!!ってかなんでこんな・・・あ、それで殴ったらヒドイぞ!?いいのか!?」

「やめてお姉ちゃん!!」

「やめなさい!!」

 

「天誅〜〜〜〜ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「す、すまねェ・・・」

「いやいや、いいんだよアイビス。もう俺は怒ってないよ?うん、誰が怒るもんか」

「え?本当か・・・?」

「そうそう、あのくらいで俺がくたばるわけはないし?たかがコブ3段、アイスみたいになってても構わないよ?うんうん」

「・・・もしかして、相当怒ってる・・・?」

 

「当たり前だッ!!!俺を殺す気かっっ!!!!」

 

「す、すまねェ・・・本当に勢いあまって・・・」

「まったくも〜・・・」

 

 

俺はコブに氷を乗せたまま起きる。

俺を殴った鈍器は見事に割れていて、自分でもこの石頭に驚き、感謝している。

 

 

「これからは気をつける・・・」

「それと、寝ぼけたまま起きてくるのもなんとかしろ。また殺されかけたらたまんないよ」

 

 

アイビスは紐でセミロングの髪にやたら可愛いリボンをつけた。

すると、なぜか一気に凛とした雰囲気になって引き締まる。

 

 

「ああ。わかった」

「あ〜、それにしてもハラ減ったなぁ・・・今何時?」

「えと・・・12時半だ」

「ハラも減るハズだ。じゃ、ここで食べていくか」

 

「え゛・・・」

 

「な、なんだよ・・・?」

「いえ・・・別に・・・」

「な、なんかヒドイのか?」

「特に、ソフィが・・・」

「・・・そうか」

 

 

俺とアイビスはそれだけで通じ合い、窓から遠くの日を眺めた。

なんとなく・・・悲しかった。

 

 

「でも、毒食らわば皿までって言うし、背に腹は変えられぬとも言う。だから食べていくよ」

「それは、どういう意味なんだ?」

「前者は【失敗したらとことん失敗して地獄まで落ちろ】で、後者は【腹がいくら減っても、背中で腹は満たせない】という意味だ」

「そうなのか・・・」

 

 

かなり適当にホラ吹いた。

意味にかすってはいても、たぶん、違う。

でも、信じてくれてるっぽいのでいいや。

 

 

「じゃ、ランチといくか」

「よっし!」

 

 

俺とアイビスはそのまま食堂へと向かう。

そこには、キレイな飾り付けをされた料理が並んでいる。

 

 

「おっほ〜♪うまそうじゃん!!」

「見た目だけは・・・ね」

「え?何か言った?」

「い、いえ・・・」

 

 

俺は適当に席についた。

しばらくすると、メイド服・・・?のソフィとエリスがやってくる。

 

 

「あ、起きましたか?」

「お兄ちゃん、大丈夫〜?」

「平気平気」

「鈍器で100回くらい殴られてましたが、本当に・・・?」

「そうだよ〜。もう影が見えないくらいの速さでズカズカ殴ってたから・・・」

「・・・ま、まぁ大丈夫!パーになってないし」

 

 

俺はとっさに頭をさする。

平気・・・だよな?

 

なんだか不安になってきた。

 

 

「これ、俺の分?」

「うん!あ、今日からソフィ、ここがいい♪」

「あ、そこは私の席じゃない。どうしたの?」

「えへへ〜♪お兄ちゃんの隣〜♪」

「・・・なるほどね。ユウキ様、よろしいですか?」

「ああ。それよりも、早く食おうぜ!腹減って腹減って・・・」

「そうですね。それでは・・・」

 

 

ソフィの向かいに座り(結局俺の隣ではあるが)、静かに食べ始める。

俺は、それを見て軽くいただきます、と言ってからパンを手に取った。

 

 

「お兄ちゃん、それなに?」

「それって?」

「いただきますって言ったよ?」

「あぁ・・・これはだな?これさえ言えば、誰にでも礼儀を重んじていると思われる、魔法の国の言葉だ」

「え!?魔法の言葉!?」

「あぁ」

「そっか〜。じゃぁ、私も言う!いただきます!!」

「・・・」

 

 

手をあわせて、大きな声で言ってから食べるのを再開するソフィ。

その純粋な姿に、ちょっとだけ・・・

 

 

「嫉妬しちゃうかな・・・」

「え?なんです?」

「あ、いや・・・」

 

 

ボソッとつぶやいたのが、エリスに聞かれてしまったようだ。

俺はパンをひとかじりするも、エリスが何かを聞きたがっているようなので、そこでとめる。

 

 

「どうした?」

「嫉妬、というのは?」

「・・・」

 

 

言いにくい事を聞かれた。

さりげなく、かつ安全な言い回しは・・・う〜ん・・・

 

 

「それがなければ、どんな人とでも仲良くなれる、悪魔の魔術だな」

「??」

 

 

ダメか・・・。

元々、こういうのはガキ向けに作った言葉だからなぁ。

ってか、エリスほどの年齢なら、知ってろよ。

 

 

「まぁ、ガキには理解できない、でもいつかは必ず超えなければいけない永遠のテーマさ」

「は、はぁ・・・わかりました?」

「やっぱわかってねぇんじゃねぇか。最後が疑問系ってどうよ」

 

 

俺はスープを一口すすった。

甘く、ほどよく温かく、なめらかでおいしい。

アイビスが言っていたことは、一体なんだろう?

今のところは特に問題ないし、これから危険がありそうにも思えない。

 

 

「アイビス?あ・・・それなに?」

「い、いや、なんでもない・・・」

 

 

アイビスに顔を向けると、何か丸い粒を水で飲んだ。

あれは一体・・・?

 

アイビスの行動について疑問は絶えなかったが、食事は滞りなく終わりを告げた。

3人に挨拶して、俺は部屋へと戻っていく・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜…………

 

 

 

「ぬぅおぉおぉ・・・っ!!!こういうことかぁ・・・っ!アイビスぅ・・・!!」

 

 

俺は激しい腹痛に悶えていた。

便意とともに吐き気までやってくる。

体が高熱をだし、まるでウイルスと戦っているかのような状態になっていた。

シーツを掴み、とにかく耐える!

 

 

「ま、まさか時限型とはぁ・・・っ!はぅあっ・・・!!も、もうダメだぁ・・・っ!!あ゜あ゜あ゜あ゜っ!!!!

 

 

 

その夜、俺はずっとトイレから出られなかった………。

翌日、痩せこけて睡眠不足で、優菜に心配されたのはいうまでもない・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――もう二度と、ソフィとエリスの料理は食べないと誓います♪