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ウォォォォォッ!!

 

人間の兵士がざわめく。

それはそうだろう・・・。

とうとう、サーギオスの首都を包囲したのだから。

歴史的に見れば、つい最近まで小国だったラキオス・・・。

それが、サーギオスをこんなに追い詰めている。

俺はふっと辺りを見回す。

すると、武者震いなのか、悠人が震えていた。

 

「安心しろよ、悠人」

 

俺は悠人の肩に手を置いた。

 

「あぁ・・・あの時のカリはかえす・・・瞬!」

 

「あの時?」

 

「・・・ちょっとな。一度、アイツに負けたんだよ・・・だから、ここで全てケリをつける」

 

「ま、まぁまぁ落ち着けって。一人で・・・なんて淋しいこと言うなよ?」

 

「でも・・・これは」

 

「おまえの・・・なんて言うな。おれ達はここまで一緒に戦ってきた仲間なんだ。

おまえだって誰かの身になって、一つ一つ解決してきたんだろ?だったら・・・今度はおれ達の番だ」

 

「そうです、ユート殿・・・」

 

ウルカが微笑む。

 

「そうそう、一人で抱え込まないの!」

 

今日子がハリセンで軽く悠人の頭を叩く。

ちょっと悠人がビクビクしていた。

電撃ではなく・・・恐さに。

 

「佳織ちゃんのためだ。俺はいくらでも手伝ってやるぞ?」

 

光陰がニタッと笑う。

 

「・・・そうだな」

 

これだけの仲間がいれば・・・きっと、ここで終わる。

 

(そしたら・・・)

 

ヨーティアの研究でも手伝って、帰る手段を見付けて・・・優菜と帰るんだ。

 

(あ、あれ・・・?)

 

俺はつい隣を歩いている優菜を見る。

 

「?」

 

不思議な表情をされたが、今の俺は気にならなかった。

 

(そうしたら・・・カナリアとメリアとは・・・)

 

「おい、祐樹?」

 

「あっ」

 

気付くとみんなが俺のコトを見ていた。

一瞬だけ・・・笑顔を忘れていた。

俺はすかさず笑顔を張りつける。

 

だけど・・・どうも力がないのが自分でもわかった。

 

「なんでもないよ」

 

「そうか・・・?」

 

「そうそう!」

 

心配そうに覗き込んでくる悠人から目を背け、話を打ち切る。

 

「さぁ、決戦だ!絶対に勝とうぜ!!」

 

俺はみんなに振り返ってそう叫んだ。

 

 

「!!」

 

「ん?どうしたウルカ?」

 

「剣が・・・」

 

「へ?」

 

バッ!!

ウルカは急にハイロゥを展開して城から離れていく!

 

「くっそっ!!どうしたってんだよ!?悠人!わるいけど俺はウルカを追いかける!」

 

「あ、あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいウルカッ!!」

 

俺はやっと地上に降りてきたウルカに追いついた。

 

「一体・・・!?」

 

俺はウルカの向こうにいる影に驚いた。

まるで亡霊のようにフラフラしているスピリット達がわんさかいた。

 

「なっ・・・ここは!?」

 

「・・・おそらく、サーギオスに捨てられたスピリット達でしょう」

 

「捨て・・・!?」

 

「ソーマがいなくなった今、更に戦力増強をしようとして・・・付加をかけすぎて耐えられなくなったスピリット達です」

 

「じゃぁ・・・」

 

「おそらく・・・自我どころか、自分が生きていることさえわからないでしょう・・・」

 

「・・・」

 

まるで廃人のように、ただフラフラとするスピリット。

瞳には生気がなく、誰もがやつれて餓死寸前だった。

一体・・・ここで何人死んだのだろう?

 

――――――雰囲気が尋常ではない。

 

「あっ・・・!」

 

ウルカはすばやく数体のスピリットに駆け寄る。

そのまま黙って抱きしめた。

 

「・・・」

 

ウルカが背中を振るわせ泣いている。

きっと・・・あれが元部下達なんだ・・・。

 

「・・・」

 

俺の隣にやってくるスピリット。

そして・・・俺の目の前で倒れた。

 

「・・・」

 

無表情で消えていくスピリット・・・。

だが、それが安らかな顔に見えるのは・・・きっと気のせいじゃない。

 

―――――この世界が

―――――俺達人間が!

―――――腐っていたから・・・!

 

俺は拳を握り締めた。

強く、ひたすら強く。

 

 

「ウルカ・・・」

 

「・・・」

 

助けられないのはわかっている。

どうしようもないんだ・・・。

もぅ・・・魂は死んでいるのだから。

 

それを呼び戻せないのは人間と同じだ。

死んだ者は帰っては来ない・・・。

 

「・・・」

 

それがこんなに悔しいなんて初めてだ。

 

チャキッ・・・!

ウルカは神剣を抜いた。

 

「手前の全てをかけて・・・。ユウキ殿、見ていてくれますか?」

 

「・・・ああ。絶対に・・・」

 

俺は静かに頷いた。

すると、ウルカは少しだけ安心したような顔になる。

 

「感謝します。では・・・っ!!」

 

一筋の涙が流れた。

それはウルカの頬のあたりで横に流れ、綺麗に光った。

 

 

ザパァァアァァッッ!!!

 

 

その太刀に迷いはなかった。

だけど・・・荒々しくもなく、静かにスピリット達を消していく・・・。

 

「すまぬ・・・」

 

「・・・」

 

俺は黙って震えるウルカを抱いた。

それしか・・・できなかった。

慰めの言葉も言わない。薄っぺらい説教をすることもしない。

 

それが、ウルカの傷となって残るのがわかっていたから。

 

 

{ウルカ・・・}

 

「え・・・?」

 

今、何か声がしたような・・・。

 

{ウルカ・・・?}

 

「剣の声・・・?」

 

「え!?」

 

俺はウルカの剣を見つめた。

そこには、パラパラと何かがはがれていくウルカの神剣・・・。

 

「・・・良かったなウルカ。この剣も・・・認めてくれたみたいじゃん」

 

「はい・・・っ!あぁ・・・忘れていた。これが・・・剣の声・・・っ!」

 

ウルカは神剣を握り締める。

 

「じゃぁ・・・いこう。最終決戦としゃれこもうぜ?」

 

「承知!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉ!!」

 

バシュッ!!

 

目の前のスピリットがマナへと還っていく・・・。

 

「強いな・・・っ!」

 

倒しても倒してもでてくるスピリット・・・。

それに加えて、まるで意志のない動き・・・おそらく、瞬に心を壊されたのだろう。

それを倒すことが、心の重りになっていた。

無表情で消えていくスピリット・・・。

 

(許さない・・・)

 

スピリットを道具同然に使い捨てる瞬・・・斬る俺も同罪だ。

だが、同罪がどうした?

俺の思ったとおりに動くだけだ。

 

だから・・・瞬を倒すっ!!

 

「いくぞ悠人ッ!!」

 

「ああ!!」

 

おれ達はスピリットを斬り伏せながら進んだ。

悠人の求めが瞬の誓いに過敏に反応するため、それを頼りにしながら・・・。

 

バッ!!

 

突然目の前にスピリットがでてきた。

 

「っ!!」

 

悠人は一旦止まり距離を取る。

だが、今の俺にはそれさえ無駄な行動に思えた。

そのまま解放を抜刀し、薙ぐ!

 

ブシャァァァッ!!

 

その一薙ぎで二体のスピリットが塵とかす。

俺はそのまま体の向きをかえ、解放を跳ね上げる!

 

ブサァァッ!!

 

そこにいたスピリットが真っ二つに別れる。

その姿はとても見ていられず、思わず顔を背けた。

顔を背けた先には、驚いた顔をしている悠人がいた。

 

「お、おまえ・・・強い・・・な?」

 

「あんまり・・・力は好きじゃないけど。ここで悲観的になってもしょうがない。いくぞ悠人!瞬を倒すんだろ?」

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

おれ達は少し休憩を取る。

優菜のためというのもあるが、単純に瞬と万全で戦いたいからだ。

そもそも・・・なんで優菜がいるのかというと、エトランジェがたくさんいるという事で兵の士気があがるからだそうだ。

もちろん、それはレスティーナの案ではない。

 

下の方が強く希望したらしい。

 

まぁ・・・サーギオスと戦うのだから仕方ないが。

気分が高まってるせいか、傷も早く治っていった。

俺ははやる気持ちを抑えながら、瞬の場所へと向かっていく・・・。

いや、おそらく悠人も・・・必死で衝動を抑えているのだろう。

おれ達は皇帝の間へと入った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瞬・・・ッ!!」

 

悠人は悠然と構えている瞬をにらみつける。

 

「遅かったじゃないか、悠人」

 

「ここでおまえを討つ!」

 

「僕を討つ・・・?クックッ・・・弱い者ほどよく吠える」

 

瞬は、どうしたらそこまで余裕なのか、と思うほど笑っている。

 

「俺一人なら・・・確かに弱い。それは事実だ」

 

「なに・・・?」

 

いつもと違う反応なのか、瞬は訝しげに悠人を見た。

 

「だけど、俺は一人じゃない!俺とおまえは違う・・・それを教えてやるッ!!!」

 

悠人は瞬にとびかかった!

 

「はっ・・・弱さをごまかすことしかできなかったか!虫けらがッッ!!」

 

瞬がすぐさま誓いを構えた。

その構えは独特で、とても普通に戦えるとは思えない。

 

「誓いよ!僕に力をッ!!」

 

「バカ剣ッ!!誓いを砕くんだろ!?瞬のついででいいなら破壊してやるから力を貸せェェェッ!!!」

 

二人の剣が重なる。

 

ドガァァッ!!

 

あまりのオーラに、たった合わせただけで爆風が部屋を揺らす!

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

瞬が求めを押し返す。

 

キィンッ!!

 

二人は間合いを取った。

その瞬間、誓いにすごい勢いでオーラフォトンが集結していく!

その力はおそらく、解放も求めも空虚も因果も越える・・・!

 

「うぉぉぉぉ!!オーラフォトンレイッッッッッッ!!!

 

「っ!バカ剣!レジスト!」

 

{間に合わぬ・・・っ!}

 

「悠人ッ!!」

 

俺はすぐさまオーラフォトンを地面に打ち込んだ。

その瞬間、悠人にすさまじいオーラが襲いかかる!

俺の『オーラフォトンブレイズ』と同等・・・いや、それ以上の濁流が悠人を飲み込んだ。

 

ドガァァァァッ!!!

 

爆発し、部屋の天井が少し崩れ落ちた!

瓦礫の下に悠人が埋もれて行く!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ・・・あぶねぇ・・・」

 

「なっ・・・」

 

生還した悠人を見て驚く瞬。

 

「なぜあれを食らって・・・」

 

「サンキューな!祐樹!」

 

「ああ!」

 

「貴様アァァァ!!よくも邪魔したな!?」

 

瞬が俺をにらみつける。

どうやら、俺がサポートしたのに気付いたようだ。

だが・・・その一瞬が勝負を決めた。

 

「俺はおまえと違って・・・一人じゃねぇんだっっ!!!それがおまえと俺の違いだァァァッッ!!消えろォォォォッ!!!」

 

「っ!悠人ォォォォッ!!」

 

瞬は誓いを悠人に向ける。

だが、全てが遅すぎた。

 

ブサァァァッ!!!

 

「ぐあぁぁぁああぁぁぁっ!!」

 

悠人の求めが瞬を縦に切り裂いた。

それが・・・確実に致命傷になったのは明らかだった・・・。

瞬は力なく倒れる。

 

「っはぁ・・・」

 

悠人は求めで体を支えた。

エスペリアやオルファがすぐさま悠人を支えにいく。

 

「終わったか・・・」

 

「秋月・・・」

 

おれと光陰と今日子は倒れている瞬に近付く。

 

「僕が・・・僕が負ける・・・?」

 

「瞬・・・」

 

譫言のように呟く瞬。

最期まで・・・。

 

「僕が負けるなんて・・・ありえない、僕は正しい・・・!そうだ!僕は・・・っ!!」

 

「「「っ!!!」」」

 

急激なマナのたかぶりを感じる。

マナと還るはずの瞬の体は一気に再構築されていく・・・!

 

「悠人!!」

 

「うぉぉぉぉっ!!」

 

悠人はおれ達がどうこう言う前に瞬に飛び掛かっていた。

 

「ダメだ!!危険だ悠人!!」

 

「悠ッ!!!」

 

光陰と今日子の制止も聞かずに瞬に飛び込む!

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

パキィィンッ!

 

「なっ・・・」

 

悠人が崩れ落ちる。

手にしていた求めは柄の部分以外が吹っ飛ばされている。

飴細工のように砕け散り、地面を転がる。

瞬は服装さえも変わっていて、以前よりも強力な邪悪を感じる。

 

「ふっ、ははは・・・!」

 

そのかた膝をつく悠人を満足気に笑う瞬。

誓いに求めが吸い込まれていく・・・。

 

「トドめだ!悠人ォォォォッ!!!」

 

瞬が誓いを振りかぶる!

すると・・・

 

「ぐっ・・・うおああああぁぁぁっ!?」

 

瞬が突然悶えだした。

何が起こっているかわからないが、このチャンスに悠人を後ろに下げた。

 

ビィィンッ!!!

ビビィィィィッ!!

キィィンッ!!

 

解放がすさまじい警告をしてくる。

そんなのがなくても、瞬が何かに変わろうとしているのがわかる。

そして、それが恐ろしいものだということも・・・。

瞬がゆっくりとこちらを向いた。

 

「ふっ・・・ふははは!なんという負の感情だ!ここまで歪みを抱えていたとはな・・・!」

 

「瞬・・・?」

 

「瞬?違うな・・・我は『世界』!さぁ・・・この力を試してやる。かかってこい」

 

「へっ・・・随分と危ないヤツになりさがったようだな、秋月!!」

 

「みんな・・・いくよ!!!」

 

光陰達を先頭にみんながかかっていく。

俺も飛び込もうとしたその時、裾をメリアにつかまれた。

 

「メリア!?」

 

「待って・・・」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん。役者不足だが、まぁいい。相手をしてやる。集えマナよ!

僕に従い、敵を爆炎で包み込めッッ!!オーラフォトンブレイクッッッッッ!!!!

 

瞬の手から何かの陣が現れた。

回転し、それがピタッととまる。

すると、地面にものすごいオーラフォトンを感じた。

それが急激に膨張し、破裂する!

 

 

ドゴォォォォッ!!!!

 

 

「うあおあああ!!」

 

「きゃぁぁっ!!」

 

その威力はさっきのオーラフォトンレイを軽く上回っていた。

全員がその場で倒れ、動けなくなる・・・。

 

「そんな・・・」

 

あまりの力の差・・・。

俺は自然と体が震えた。

目の前に存在する・・・恐怖。

 

「ユウキ様・・・」

 

そんな俺を励ますためか、手を握るメリア。

 

「私達は・・・一つだったのかもしれないんですよね?」

 

「・・・ああ」

 

「一つになれば・・・戦えると思いませんか?」

 

「・・・」

 

一つになればどうなるのかわからない・・・。

でも、それしか手段がないように思えた。

それがわかってるのか、メリアが微笑む。

 

「どうです?」

 

「・・・やるしかないよな」

 

俺は笑った。

あまりに非現実的で、どうやるかもわからない・・・。

それなのに、やろうとしてる自分がいた。

 

「イチかバチか・・・いこう、メリア」

 

「はい・・・ユウキ様」

 

おれ達は軽く微笑んで、お互いの神剣・・・『解放』と『無償』を合わせた。

すると、無償が解放へと吸い込まれていく・・・。

それと同時に、おれ達の体が光りだした。

 

「なに・・・!?」

 

世界がこちらに気付く。

あまりに眩しい光に目を閉じた。

 

「祐・・・樹?」

 

悠人は求めの柄を持ったまま呟く。

それと同時に、何かの声がした・・・。

 

「何が起こっている・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っはぁ・・・」

 

俺はため息をついた。

光が止み、俺は目をあける。

 

「なっ・・・おまえは一体・・・!?」

 

「俺は・・・相川祐樹さ。ただ・・・こんなのくっついちゃったけど」

 

ブワァァッ!!

俺はハイロゥを展開させる。

 

「なっ・・・なんで・・・祐樹が・・・?」

 

光陰は顔だけ上げて、俺の姿に驚く。

他のみんなも同様だった。

俺の背中には白い翼があり、周囲には二個の球体が浮かんでいた。

さらに、左腕には盾・・・。

スピリットが持つハイロゥを、全て俺は展開できた。

 

「エトランジェだったのに・・・」

 

「俺の中にあるメリアがそうさせてくれてるんだよ・・・今なら・・・いける!!」

 

俺はすぐさま瞬に飛び掛かった。

一瞬で懐を取る。

 

「なっ・・・!」

 

距離は十メートル近くあった。

それを一瞬で詰める・・・以前よりも速くなっていた。

 

「覚悟しろ!!瞬ッ!!!」

 

俺はまさに音速の速さで解放を振りぬいた!

 

ズバシャァァァッ!!

 

「ぐおおっ!?」

 

俺は遠慮なく瞬を切り刻んでいく。

すでに十回ほど太刀を打ち込んでいるが、まだ剣の流れが死なない。

 

ズバシャァァッ!!

ズブッ!

ズアァァッ!!!

 

「ぐおおおおあっ!!」

 

俺は剣の流れが鈍くなったのですぐさま間合いを取る。

何回か・・・おそらく二十五回は打ち込めたはずだ。

 

「うう・・・まだ・・・まだだ!」

 

瞬が立ち上がる。

すると、俺とは別の方向へと走っていく。

そこには・・・。

 

「なっ・・・させるかよっ!!」

 

俺はすぐさま優菜と瞬の間に入る。

 

 

ブスゥゥゥッ!!!

 

 

「っ・・・いって〜・・・」

 

俺の左肩は世界に貫かれていた。

妙な形のせいで傷口がやたら広い。

 

「祐樹・・・君!?」

 

「大丈夫か優菜?」

 

「祐樹君が・・・っ!」

 

俺の左肩を見ながら涙を流す優菜。

 

「大丈夫・・・なんてことはねぇよ。なぁ瞬」

 

「なに・・・?」

 

 

ズガアッ!!

 

 

俺は右足で瞬を蹴り飛ばした。

 

「っ・・・」

 

俺は世界が抜かれた瞬間の激痛に顔をしかめた。

 

「祐樹君!!」

 

「大丈夫・・・大丈夫だ」

 

俺はそう体に言い聞かせる。

 

「私が・・・私がいたから・・・」

 

優菜が自分を責める言葉を呟く。

その無理に言葉を吐き出す姿は痛々しかった。

 

「違うって・・・!」

 

「私に・・・私に戦える力があれば・・・!」

 

プツッ!

 

その瞬間、優菜が気を失った。

倒れる優菜を抱える。

 

「どうした!?」

 

ゆさぶるが、反応がない。

 

「優菜!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・?」

 

優菜は不思議な空間にいた。

あたりがただ真っ白で、何もない。

 

{おまえか・・・}

 

「え?」

 

いきなり剣が現れた。

その細身は解放よりも細い。

 

{記憶を求めるのは・・・おまえだな?}

 

「記憶・・・うん、私・・・」

 

{なぜ、記憶を求める?記憶を求めて、得れば苦しい戦いをまたせねばならないのだぞ?}

 

「それは・・・そうだけど・・・」

 

{なら、なぜそうまで強く記憶を求める?}

 

「・・・記憶があれば、きっと私も戦える。なら・・・祐樹君に苦しい思いをさせなくてすむ・・・だから、私は・・・」

 

{・・・惚れた男のため・・・か}

 

「!!」

 

優菜は思わず赤面する。

図星だと言っているようなものだ。

 

{一時の感情で、おまえはまた人間を捨てることになるのだぞ?}

 

「・・・わかってる。私が・・・エターナルだったことくらいは・・・」

 

エターナルとしての能力を取り戻せば、また人間ではなくなる。

それがどれだけ辛いのかは記憶がない優菜には想像がつかない・・・。

だが、記憶がない今でも辛かった事を微かに覚えている。

それだけ辛かったのだろう・・・。

 

「それでも・・・」

 

{・・・}

 

「それでも、私はエターナルに戻りたい・・・記憶を取り戻したい。祐樹君には・・・もう戦ってほしくないの」

 

{・・・ならば、見事俺を受け入れてみろ!いくぞ!}

 

「お願い・・・『記憶』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブォォォォッ!!

 

突然優菜から風が吹きあがる。

 

「な、なんだ!?」

 

俺は優菜から離れる。

すると、風からものすごいプレッシャーが襲ってきた。

 

「こ、これは・・・一体・・・!?」

 

風が止んでいく・・・。

そこには、しっかりと、力強く立っている優菜がいた。

 

「優・・・菜?」

 

「ふふ・・・今までありがとう。祐樹」

 

優菜が微笑む。

今までの微笑みとは違い、元気いっぱいの笑顔だった。

 

「記憶・・・いこう?」

 

{ああ。俺の力・・・授ける!}

 

優菜の手にはすぐ折れてしまいそうな剣があった。

 

左腕に正六角形の輪を通すと、背中に縦に長い六角形の輪が三つ浮いた。

そっちは輪、というよりチェーンの一部を細長くしたようなものだ。

 

「エターナルか・・・!」

 

瞬がついたじろいでいた。

それほど、今の優菜からは力を感じる・・・。

メリアと一つになった俺でもそれが恐いと感じる。

 

(これが・・・優菜の実力・・・!)

 

{やっと・・・記憶が戻ったみたいね}

 

「やっぱり・・・そうなのか・・・」

 

解放が呟く。

 

それは・・・つまり・・・。

 

「いくわよシュンッ!!私・・・『万物の記憶ユウナ』が相手してあげるわ!!」

 

そう叫んでユウナはシュンに飛び込んでいく。

 

キィンッ!

キキィィンッ!!

 

「くっ・・・ちっ・・・!!」

 

「そんなものなの!?」

 

一気に攻め立てるユウナ。

俺でもギリギリで追い詰めたシュンを、いともかんたんに・・・それどころか、余裕さえ見える。

俺との戦いで消耗したシュンならば相手にならないということだろうか・・・?

 

ブワァァッ!!

 

背後にいきなり何かが現れる。

 

「時深・・・?」

 

「悠人さん、大丈夫ですか?」

 

何やら突然巫女さんがでてきた。

それを見て舌打ちするシュン。

 

「ここは一旦ひくべきか・・・」

 

シュンはそういうと異質なオーラフォトンに包まれた・・・。

そして、そのオーラが消えると共にシュンは消えたのだった・・・。

 

 

 

「あ、あれ・・・?」

 

俺は突然体から力が抜け、その場で倒れてしまう。

 

ツカツカ・・・誰かの足音が聞こえる。

 

「祐樹・・・」

 

「ユウ・・・ナ・・・?」

 

俺は顔もあげられなかった。

 

「今まで・・・守ってくれてありがとう・・・」

 

「いい・・・って・・・」

 

「だから・・・君はもう、戦わなくていいの」

 

「いいのですか?ユウナ」

 

時深とかいう人の声もする・・・。

 

「いいのよ・・・私は所詮エターナル・・・この人とは別の世界だからね」

 

「・・・わかりました」

 

「なっ・・・おい、どういう・・・ことだ・・・?」

 

なんで・・・まるで、お別れみたいな会話をするんだよ・・・!

そう言おうとしたが、舌がもつれて言えなかった。

 

「祐樹・・・もし、もしね・・・」

 

「・・・」

 

「もし・・・また会えたら・・・それからは・・・ずっと・・・」

 

頭の裏に何か冷たい感触・・・見なくても、涙とわかった。

それが、俺の嫌な予感を増幅させる。

 

「もし、また会えたら・・・ずっと、一緒にいようね・・・?今まで、守ってくれてありがと・・・バイバイ・・・祐樹君・・・」

 

俺の体が温かい光に包まれていく・・・。

それと同時に、頭がボーッとしてきた・・・。

 

 

(ユウナ・・・俺は・・・おまえと・・・)

・・・

・・