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「ふわぁ・・・」

 

俺と優菜は買い出しに来ていた。

あまりの穏やかな時間につい気が弛む。

 

「えっと・・・あとは・・・」

 

優菜がしきりにメモを見ながら店を探す。

その横顔を見てつい微笑んでしまう。

 

「あった・・・いこう?祐樹君」

 

「おう」

 

俺は優菜についていく・・・。

 

「オウねえちゃん!今日は彼氏もかい?」

 

「もぅ・・・彼氏じゃありませんって・・・」

 

優菜は頬を染めながらもしっかりと答える。

 

・・・ちょっと寂しい。

 

「言うな言うな。その気持ちはすごくわかる」

 

「だから・・・違いますって・・・」

 

「ほら、オマケだ!」

 

親父さんはよりにもよって優菜の嫌いなリクェムをオマケしたのだった・・・。

 

「さぁてと・・・」

 

「ちょっと・・・時間、いい?」

 

優菜がおずおず聞いてきた。

そういえば・・・珍しいかもしれない。

 

「いいよ、何?」

 

「あっち・・・」

 

俺は優菜についていく・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここは」

 

そこは、緑が映える公園だった。

穏やかな風が流れ、とても気持ちいい。

 

「ここ・・・」

 

優菜はベンチに座り、その隣を叩いた。

俺はそこに座る。

 

「綺麗でしょ・・・?」

 

「ああ。とってもな・・・安らぐっていうか」

 

俺はつい空を見上げる。

綺麗な青空・・・。

 

「ねぇ・・・祐樹君・・・」

 

「うん・・・?」

 

「私・・・迷惑?」

 

「・・・は?」

 

いきなり何を言い出すんだろう?

 

「祐樹君は・・・本当は・・・戦わなくてもいいのに・・・」

 

「・・・」

 

(なるほど・・・そういうコトか)

 

「解放だって・・・本当は私が使えれば・・・」

 

「それ以上言うなって」

 

「・・・え?」

 

「俺は巻き込まれたんじゃない。自分でこの道を選んで、歩いてるんだよ。きっかけは君と出会ったコトかもしれない。

でも、俺はそこでかかわらない、という選択があった。それに、この剣を取る時だって、断ることができた。

でも、俺はそうしなかった。その道を選ばなかった。だから・・・君が何かを感じる必要はないよ」

 

「でも・・・」

 

それでも納得できないらしい。

まるですがるような目で訴えてくる。

目尻には涙が溜まっていた・・・。

よっぽど悔やんでいたのだろう・・・。

 

「それに、君と出会えていっぱい嬉しい事や楽しいことがあった。だから、それでチャラにしといてよ、ね?」

 

「・・・」

 

 

「俺は・・・今は、君を守るためにいるんだ。それは、決して誰かに強制されたからじゃない。

自分がそうしたいから、そうしてるんだ。それは、誰の意志でもない、俺自身の意志だ。だから、気にするな!」

 

 

俺は優菜の背中をパンパン叩いた。

そして、立ち上がる。

 

「ホラ、帰ろうぜ?カナリアとメリアとウルカが心配するぞ?」

 

「うん・・・」

 

少しだけ晴れた顔。

俺は、彼女の悔やみを少しは取ることができたのだろうか?

 

できた・・・と思いたい。

 

 

 

キィィンッ!!!

 

 

 

「っ!!」

 

頭に警告が響く。

今回は・・・それだけじゃない。

身を震わせる何かが、目前に迫っていた。

 

「優菜!急いで館に逃げろ!!」

 

今回の敵は、イースペリアにいたのでは守りきれない・・・そんな気がした。

いや・・・『解放』がそう伝えてきている。

 

(この感じ・・・っ!)

 

前にも感じた・・・。

優菜が急いで駆け出していく。

すると、俺の体を支配しようとする意志が流れこんできた!

 

「ぐっ・・・うおおっ!?」

 

あまりの意志の濁流に流されそうになる。

 

「解放ッ!!自分を見失ってんじゃねぇぞっ!!」

 

俺は左手で解放を殴る。

すると、少しずつ熱かった物が引いていく・・・。

 

{ごめんなさい・・・}

 

「んで、これは・・・テムオリン・・・だな?」

 

{それだけじゃない・・・タキオスもくるわっ!!}

 

 

シュゥゥゥゥッ・・・!!

 

 

目の前に光が現れた。

そこから・・・とんでもない威圧感が俺を襲う。

 

(くっ・・・前は、剣に慣れてなかったから感じなかったんだけどな・・・)

 

あまりの威圧感・・・こんなヤツと戦って、よく前は無事だったと思う・・・。

 

「あら・・・あなたでしたか」

 

幼い少女・・・テムオリンが俺に微笑む。

優菜のほほ笑みとは正反対で、非常に冷たい。

 

「ふふ・・・やはり俺の目は狂ってなかったようだな」

 

タキオスが不敵に微笑んだ。

おそらく・・・歓喜。それが表に出たからだろう。

俺はとっさに解放を構える。

解放から飽くなき憎しみと力が沸き上がってくる。

 

 

前者を退け後者だけを頂く。

 

 

「まさか、こんな唐突に出てくるなんてな・・・」

 

俺の手が汗ばんでいるのを感じた。

 

「ふふっ・・・おまえがどのくらい成長したのか・・・見たくなってな」

 

「あなたは新参者・・・何を起こすかわかりませんもの。見張っておかないと」

 

「なら・・・見てみるか?それなりの代金払ってもらうがな!」

 

 

ピキィィンッ!!

 

 

俺はオーラフォトンを展開した。

タキオスが無我を持つ。

 

「タキオス・・・今回は私がお相手します」

 

「はっ・・・」

 

タキオスが下がり、秩序を持つテムリオン。

 

「優菜のためにも・・・俺はここでおまえを倒すッ!!」

 

「ふふっ・・・できるかしら?エターナルでもないあなたに」

 

あくまで余裕を見せ付けてくるテムオリン。

 

「やってやるさ!!」

 

俺は一瞬で間合いを詰める!

 

「なっ・・・速いですわねっ!」

 

テムオリンが急浮上して解放が空を斬った。

 

(っ!飛べるのか・・・っ!)

 

さすがに空ともなれば直接攻撃は届かない。

なら・・・!

 

「マナよ!我の剣となりて敵を貫けッ!!オーラフォトンブレェェェェェイズッッッ!!!

 

俺の手からオーラの濁流が鋭い剣となってテムオリンに放たれた!

 

 

ドゴォォォォッ!!

ズガァァァァァッッッ!!!!

 

 

あまりにオーラの勢いにその場が激しく揺れる。

常人であればすぐにバランスを崩し倒れているだろう。

 

「くっ・・・秩序よ!」

 

テムオリンが秩序をかざす。

 

 

ドガァァァァッ!!!

 

 

テムオリンはオーラの濁流に飲まれていく・・・。

 

「っはぁ・・・どうだ・・・?」

 

{・・・手応えはそこそこだけど・・・このくらいでアイツは死なないわ}

 

俺はそれを聞いてすぐに警戒する。

すると、さっきよりも力が膨れたテムリオンが降りてくる・・・。

 

「ウッソ・・・っ!」

 

俺はその膨れ上がる力に恐怖を覚える。

 

(あれだけ食らったはずなのに・・・っ!)

 

「ふ、ふふ・・・少しばかり、いえ・・・かなり驚きましたわ。まさか、ただのエトランジェごときがエターナルと渡り合えるなんて・・・並のエターナルではもはや相手になりませんわね」

 

テムオリンが感心した顔で言う。

だが・・・その裏に、怒りが隠れている。

 

「私に傷をつけたのは・・・少々やりすぎですわね!くらいなさい!」

 

秩序からすさまじいオーラを感じる!

 

「くっ・・・ディメンジョンッ!!」

 

俺はすぐさま防御のオーラを展開した。

 

「無駄ですわ!さぁ・・・受け取りなさい!!究極の破壊をッ!!!」

 

テムオリンの秩序から空に光線が放たれた。

それはすさまじい威圧感をかもしだす。

 

「くっ・・・耐えられるかッ!?いや・・・耐えてみせろ!解放ッ!!!」

 

{当たり前よっ!!}

 

 

ドガァァァッ!!

ドガガガガァアァアァッ!!

 

 

次々と空から光線が降り注いだ。

 

「ぐっ・・・うあああぁぁっ!!!」

 

 

 

ドガァアァァアァンッ!!!!

 

 

 

最後の大きな爆発がイースペリア全体を揺らす・・・!

 

 

 

 

 

 

公園はもはやその跡形もなかった。

木は葉を一枚も残さず黒焦げになり、草はプスプスと煙をあげている・・・。

そんな中、倒れている俺がいた・・・。

 

「くっ・・・ぐ・・・あっ・・・!」

 

俺は未だおさまらない激痛に悶える。

指一本自由に動かせない程の痛みが俺の体を駆け巡る。

解放はディメンジョンで全ての力を使いきったのか、俺の体に力が流れてこない。

 

「・・・どうです?エターナルの力は?」

 

「ぐっ・・・そ・・・」

 

だんだんと体から力が抜けていく・・・。

 

「あなたはまだまだ強くなれますわ。もし、私達側へくる気があるなら、歓迎いたしますわよ?」

 

「誰・・・が・・・」

 

もはや声を出すこともままならない。

 

「残念ですわね・・・。でも、まぁ仕方ありませんわ」

 

「っ・・・!」

 

「さて・・・この国が残っている、というのは迷惑ですわね。消えてもらいましょう」

 

テムオリンは再び秩序をかかげる。

すさまじい勢いでオーラフォトンが集結していく・・・。

 

「やめ・・・ろ・・・!」

 

俺は腕をのばすこともできずに、その場で呟く。

 

「あら、まだ意識を失わないのですか?完璧に私の予想を越えてくれましたわね・・・ならば、そこで見ていなさい!無力な自分の哀れさを・・・」

 

スパァァァンッ!!!

 

秩序から空に光線が放たれた。

 

「や・・・め・・・」

 

 

ズガァン!

ドガァァァッ!!

ズドォォォォォッ!!!

ズゴォォォオォォオォッ!!!!

 

 

光線がイースペリアに次々降り注ぎ、全てを破壊していく・・・。

一瞬の出来事で、誰の断末魔も聞こえない・・・逃げ惑う声もなかった・・・。

 

「タキオス、行きますわよ?」

 

「はっ」

 

テムオリンはオーラの光の中へと入っていく・・・。

俺は、燃えて崩れるイースペリアを見つめるだけだった・・・。

残り少ない力で地面の土を掴む。

 

「ユウキよ・・・はい上がってこい。俺はそこで待っているぞ」

 

タキオスのその言葉を最後に、俺は意識を失った・・・。

同時に・・・居場所も失ったのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・」

 

俺は目を開ける。そこには、心配そうな顔で覗き込んでいる優菜がいた。

 

「優・・・菜?」

 

「良かった・・・っ!」

 

俺に抱きついてくる優菜。

目から大粒の涙を流す。

 

「そっか・・・俺は・・・助かったか・・・」

 

「全く・・・メリアが見付けてなければそのまま死んでいましたよ?」

 

カナリアが呆れたように言う。

だが、目には涙が溜まっていた。

 

「そっか・・・メリアが助けてくれたのか」

 

「はい」

 

やっぱり事務的な口調は戻っていない。

だけど・・・今はそれを気にしていられなかった。

体がだるい・・・。

 

「イースペリアは・・・?」

 

「壊滅しました。おそらく、二度と国としては・・・」

 

「そっか・・・」

 

俺はついベッドを殴る。

そうでもしないと発狂しそうだった。

 

(くそっ・・・っ!!)

 

今でも鮮明に覚えている。降り注ぐ光線・・・燃え、崩れるイースペリア・・・。

 

「今は休まれてください。相当無理をしたようですし」

 

「うん・・・ごめん」

 

俺は再び目を閉じる・・・。

 

(テムオリン・・・次は・・・勝つッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の傷が治ると、おれ達はすぐに戦場へと送られた。

イースペリアは壊滅し、そこを新たに統治しているのはラキオス。

ラキオスはすでにサーギオス帝国と戦争を始めたらしく、援軍、というわけだ。

 

「せやぁぁっ!!」

 

ブシャァッ!!

 

メリアが剣を切り上げると、スピリットはマナへと還っていく・・・。

今日のメリアはなんだか鬼気迫るものがある。

頼もしい・・・と思う反面、無表情でスピリットを斬るその姿は恐かった。

 

「でやっ!!」

 

俺もかかってくるスピリットを斬り伏せていく。

カナリアもそうして敵を斬っていく・・・。

 

「ん?あれ?」

 

俺は一段落して、辺りを見回す。

すると、カナリアとウルカしかいなかった。

 

「メリアは?」

 

「え?あれ・・・いない!?」

 

俺はすぐさま解放で剣のけはいを探る・・・。

 

キィィンッ!

 

「あった!」

 

俺は急いでそっちへ走りだす。

何本かの神剣と共に動いていた・・・。

 

(捕まったのか!?)

 

 

 

 

 

「待てッ!!」

 

「ほぅ・・・もう追い付きましたか」

 

まるで戦場にはそぐわない人間・・・。

 

(コイツはっ!!)

 

俺が驚いたのを見て、感心した顔をする。

 

「ほほぅ・・・私の事を知っていますか」

 

「ソーマ・・・っ!」

 

知らないわけがない。

元ラキオスの隊長で・・・スピリットを物程度にしか思わない、最低の人間・・・。

 

『スピリットの調教の仕方』

 

なんてふざけた本を書いていた。

内容を見ると、見ていられない物だった。

コイツにかかわったスピリットは殆ど・・・最悪の結末を迎えている。

 

「ソイツを・・・メリアをどうするつもりだッ!!!」

 

「このスピリット・・・非常に珍しいようです。それに、気高く美しい・・・だから、私が育てるんですよ」

 

「黙れッ!!誰がそんなこと望んだ!?メリアは・・・メリアは・・・」

 

どうしても、その先が言えない・・・。

その言葉に続く言葉が出てこないのだ。

 

「ふん、あなたみたいに中途半端な人間がいるから、スピリットは苦しむのですよ」

 

「なんだと・・・!?」

 

「スピリットは所詮スピリット。それなのに、あなたみたいに輪から外れて接する人間がいるから、こうしてスピリットが苦しむのですよ」

 

「おまえにそんなこと言われる筋合いはないッ!!」

 

「私みたいにスピリットとして愛せばいいものを・・・」

 

「おまえのは愛なんかじゃないっ!!二度と愛だなんて言うなッ!!」

 

「全く・・・エトランジェという者は、みな華麗さに欠けますね」

 

「メリアを・・・返せェェェェッ!!」

 

俺は一瞬で間合いを詰めた。

 

「ふん・・・」

 

「!?」

 

俺が目前に迫ったというのに、なんの怯えも感じていないソーマ。

俺は解放を切り上げ・・・

 

グブゥゥッ!!

 

 

「っ・・・かはっ・・・!!」

 

俺はそのまま地面に倒れてしまう。

腹にあいた穴からマナが流れ出ていく・・・力が少しも入らない。

それどころか、抜けていく力さえ止められない。

俺の体を押さえ付けるスピリット・・・。

 

「ほらほら、どうしました!?」

 

ガツッ!!

ズガッッ!!!

 

俺の傷を遠慮なく蹴り飛ばすソーマ。

 

「ぐっ・・・がはっ・・・!っぅ・・・!」

 

「弱いくせに私にたてつくのがまちがってるのですよ・・・!」

 

「だま・・・れ・・・っ!!」

 

俺は解放を振りぬいて押さえ付けているスピリットをどかした。

そのままヨロヨロと立ち上がる。

 

「解放・・・ッ!!」

 

{わかってるわよ!!}

 

「リバースッ!」

 

俺は自分に剣を突き刺す。

すると、傷がみるみる治っていく・・・。

 

「なっ・・・」

 

驚くソーマの顔。

 

「メリア・・・ッ!!」

 

俺は目の輝きを失ったメリアに呼び掛ける。

 

「俺は・・・絶対におまえを諦めないからなッッッ!!絶対に連れて帰るッ!!」

 

「これだけのスピリットを見ても・・・まだそう言えますか?」

 

ソーマがそう言うと、あちこちからスピリットが現れた。

完璧に囲まれている・・・。

 

「言えるさ・・・俺はメリアを連れて帰るッ!!」

 

ザッ!

ザシュッ!!

俺は一瞬で右のスピリットを斬り伏せた。

 

(一体!)

 

トッ!

ブシャァァッ!!

次に近いスピリットを切り上げて消滅させる。

 

(二体!!)

 

ザンッ!!

ズバァッ!!

居合いですぐ隣のスピリットも斬り伏せた。

(三体!!)

 

 

 

 

 

 

「なっ・・・バカな!?なぜ・・・ただのエトランジェがここまで!?」

 

ソーマの顔は驚きで歪んでいた。

三十秒・・・それで、六体のスピリットが塵となって消えた。

 

「メリアはなぁ・・・」

 

俺は一歩一歩ソーマに近付いていく。

 

「俺にとって・・・」

 

解放を抜いた。

 

「大切な存在なんだよッッ!!!代わりなんていない・・・!そんなメリアを・・・おまえみたいなヤツに渡せるかよォォッ!!!」

 

ザンッ!!

ブシャァァァッ!!

 

一瞬でソーマの首と胴体が離れた。

マナに還らないので罪悪感がいつもより強いが・・・あのいやらしい顔を二度と見なくて済むなら、それでもいいと思ってしまう。

それが悪なら悪でもいい。

俺はメリアに駆け寄った。

 

「メリアッ!!」

 

「ユ・・・ウキ様・・・?」

 

目が虚ろだ。

でも・・・生きていることに安心する。

 

「そうだ、俺だ。メリア・・・大丈夫か?」

 

「・・・はい・・・なんとか・・・」

 

「メリア・・・あのさ、おれ達が同じヤツかもしれないって・・・覚えてるか?」

 

「・・・はい」

 

目を逸らして頷くメリア。

 

「・・・それってさ、そんなに重要なコトかな?」

 

「・・・え?」

 

「俺はメリアを大事に思ってる。そこに、同じ人物だとか関係ないんだよ。俺は同じ人物かもしれないからメリアが大切なんじゃない。メリアがメリアだから大切なんだよ。だから・・・いつものメリアに戻ってくれると・・・その、嬉しいんだ」

 

俺は最後には照れてしまう。

 

「ユウキ様・・・」

 

「どうかな・・・?」

 

「・・・ユウキ様が望むままに」

 

優しく微笑むメリア。

そこに、今までの陰りはなかった。

俺はメリアを起こして、二人で並んで帰った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せいやぁぁっ!!」

 

俺達はマナ障壁を突破するために、ゼイギオス方面へ進軍していた。

道を進めばすぐに敵に遭遇・・・。

あまりに厚い陣形に、疲弊の色が隠せない。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「大丈夫ですか・・・?」

 

同じく息が荒いカナリアが心配してくれる。

 

「大丈夫だ・・・。はぁ・・・」

 

キィンッ!!

 

「!?」

 

俺は突然の警告に、体がついていかなかった。

後ろの林からスピリットが躍り出てくる!

 

「ちっ・・・しまっ・・・!」

 

完全に不意を取られ、解放を抜くのも間に合わない・・・!

 

「させません・・・っ!!」

 

キィンッ!!

 

「カナリア!!」

 

カナリアが剣を弾いてくれた。

俺はその間に解放を引き抜く。

 

「ユウキ様!下がって!!」

 

「・・・え?」

 

ドガァァッ!!

 

俺はカナリアに蹴りとばされた。

その瞬間、後方の赤スピリットが広域魔法を放つ・・・!

 

ドガァァァッッッ!!!

 

「なっ・・・カナリアッ!!」

 

カナリアを中心にして大爆発が起こる。

俺が蹴られてなければ俺も巻き込まれていただろう・・・。

 

「カナリアッッッ!」

 

俺はカナリアにかけよる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

息が荒く、顔色も悪い。

右腕は焼けただれ、左足は黒く焦げていた。

 

「コノヤロォォォォォッ!!」

 

俺はすぐさま解放を抜き、全てのスピリットに斬り掛かった!

 

ザンッ!

 

まずカナリアが戦っていたスピリットを斬り伏せる。

 

「そこダァァァッ!!」

 

続いて赤スピリットの前にいるスピリットも斬り伏せる。

わずか数秒の出来事に、反応できないまま斬られてマナへと還っていく・・・。

 

「最後は・・・おまえだァァァアァァッ!!」

 

「ふっ・・・」

 

キィィィッ・・・!

 

「なっ・・・」

 

赤スピリットが不敵に笑ったかと思うと、俺の地面から炎がせりあがってきた!

 

ドガァァァッ!!!

 

「ッツアアァァアアァッッッッ!!!」

 

両足が焼けるように熱い・・・いや、実際焼けているようだ。

全てが萎縮してしまったようで、まるで言うことをきかない・・・。

耐え難い熱に、俺はどうしようもなく悶える。

 

「くっ・・・リバースッ!!」

 

俺はすぐさま足に剣を刺した。

傷が治っていく・・・。

 

「おまえだけは・・・っっ!!」

 

完全には治らず、未だ熱を持っている。

だけど・・・ここでアイツを放っておきたくない!

 

「うおぉぉぉぉあぁぁぁぁっ!!」

 

俺は解放を振りぬいた。

 

「なっ・・・バカ・・・な・・・」

 

マナへと還っていくスピリット・・・。

俺はたまらずそこで倒れそうになる。

 

「っっ・・・」

 

まだ倒れてはいけない。

早く・・・カナリアを治療しないと!

俺はカナリアへ駆け寄る。

 

「カナリア・・・今治してやる!」

 

俺は解放に力を溜めて、カナリアへと突き刺した。

 

パァァァァッ・・・!!

 

光がカナリアを包み、傷を治していく・・・。

 

「っつは・・・もう・・・ダメだ」

 

俺はバタッと倒れる。

 

{大丈夫!?}

 

「へーきへーき・・・」

 

「ユウキ様!」

 

カナリアが起きたようだ。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あぁ・・・なんとかね」

 

「今冷やします!」

 

カナリアが水袋で俺の足を冷やす・・・。

意味があるかはわからないが、少しだけ楽になった。

 

「なんで・・・」

 

「ん?」

 

カナリアの体が震えていた。

 

「なんで・・・ユウキ様はスピリットの私に・・・ここまで・・・」

 

「・・・」

 

この世界の偏見は知っている。

でも、俺にとっては

 

(それが・・・どうした)だ。

 

俺の中の正義は俺の中にある。

世界がどうであろうと、正義に関しては俺の中の正義を俺は信じる。

 

「私達は・・・人間のために生き、戦い、死んでいく・・・それだけの存在なのですよ?なのに・・・なんで・・・!」

 

「・・・」

 

「いつ消えてもかまわないような私のために傷つくなんて・・・どれだけバカなことかわかりますか!?」

 

「うるさいんだよ・・・!」

 

俺は右手で地面を殴った。

 

「っ!!」

 

ビクッと体を震わせるカナリア。

涙がとまる。

 

「確かになぁ、カナリア達スピリットは戦うためだけの存在かもしれねぇよ!でも、それがそのまま『いついなくなってもいい。それが当然の存在』に繋がるのかよ!?繋がらないだろ!?カナリアは生きてるんだよ!生きてるヤツってのは、どんなに酷いヤツだろうと、どれだけ偉いやつだろうと・・・関わったヤツを悲しませない義務ってのがあんだよ!!その義務を持つヤツらは、人間だろうとスピリットだろうと同じだッ!!違うなんて言わせないぞ!?少なくとも、俺はカナリアがいなくなって・・・悲しむ。でも、そんな悲しみは受けたくない!!そんな悲しみはいらない!!カナリアは俺に辛い思いをさせたいのかよ!?」

 

「それは・・・っ!」

 

「俺に辛い思いをさせても、それが当然だって言えるか!?」

 

「・・・それは、ユウキ様が特殊だからで・・・」

 

「俺が特殊かどうかを言ってるんじゃない!!じゃぁメリアでもウルカでもいい!ソイツらが、カナリアが死んだことによって受ける悲しみ。カナリアが当然のように死んで!おれ達が当然のように悲しみを受けて、当然のように辛い思いをする!!それが普通なのかよ!?いや・・・カナリアはそれでもいいと思ってるのかよ!?」

 

言葉がうまく繋がらない。

でも・・・心のままをぶちまけた。

 

「それは・・・」

 

「エスペリアとかもそうだったけどさぁ!そう答えた時のおまえの顔、鏡でみてみろよ!!それが納得できてるやつの顔か!?本心でもないこと言って、耐えてますって顔してるだけじぇねぇか!!そんなのはなぁ!耐えてるんじゃない!逃げてるだけじゃないか!!」

 

「・・・」

 

「スピリットも人もない!生きてるやつらは、絶対に勝手に死んじゃいけないんだよ!!そんなの許さない!わかったか!?」

 

「・・・」

 

「あ・・・」

 

一気にまくしたてて、カナリアはすっかり怯えていた。

 

「ごめん・・・」

 

「い、いえ・・・あの」

 

「うん・・・?」

 

「私を・・・そんなに思ってくれるのですか・・・?」

 

「・・・当然だろ?俺とカナリアは仲間・・・なんだからさ。な?」

 

「・・・はい!これからも・・・よろしくお願いします!二度と・・・あんなことは言いません!」

 

「わかってくれたらいいんだ。良かった!」

 

俺はおもいきり笑う。

とてもいい言葉を言ったとは思えないけど、伝わったのなら純粋に嬉しい。

 

「じゃぁ・・・帰りましょうか」

 

「そうだね・・・一旦戻ったほうがいいな」

 

あまりにも疲弊しすぎている。

このままではゼイギオスは制圧できないだろう。

 

「では、はい」

 

俺を背中にかつぐ。

 

「なっ!ちょっ!カナリア!」

 

俺は突然かつがれて驚く。

 

「ふふっ、照れてるんですか?」

 

きっと今の俺の顔は真っ赤なのだろう。

 

「って、からかうなってば!そりゃ、恥ずかしいって・・・!」

 

「なら、自力で歩きます?」

 

「・・・」

 

俺はそれを思うと涙がでてきた。

 

(この確信犯・・・っ!)

 

俺の表情を見て笑うカナリア。

 

「ユウキ様はよく笑ってよく泣いてよく怒ってよく照れますね」

 

「そうかな・・・?」

 

「ホラ、今も照れてる」

 

「ほ、ほっといてくれ」

 

 

 

 

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『オーラフォトンブレイズ』

祐樹の魔法+オーラフォトン技。祐樹の魔力が付加されているため、抵抗が殆どできない。

マナを直接削り取るような感じの攻撃なので、確実に殺傷できる。

オーラが剣の形となって相手を貫く。

 

『リバース』

祐樹の魔法+オーラフォトン技。祐樹の、魔法のレパートリーにある回復魔法にオーラフォトンを付加した。

上記とは違い、メインが祐樹の魔法なので、マナに効率よく働きかけるために剣を刺さないといけない。