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「くっ・・・なぜ・・・なぜなのだ・・・?剣よ・・・!」

 

ウルカはすがるような声でそう言っていた。

その姿はあまりにかわいそうで・・・見ているだけで辛かった。

俺の魔法をくらったウルカはボロボロになって、倒れていた・・・。

 

(・・・)

 

俺はなんでかわからないが・・・が、ウルカを背負っていた。

 

「っ!何を・・・!?」

 

「つれて帰る。イヤだっつっても遅いからな」

 

俺は有無を言わせずにウルカを運んでいく。

 

「どうする・・・つもりだ?」

 

「知らない。でも、このまま放っておきたくない。それだけだ」

 

「・・・手前は、貴殿の敵だったのだぞ・・・?」

 

「でも、こうして背負ってるのに、俺を刺さないじゃないか」

 

「それは・・・っ!」

 

{ねぇ、ユウキ}

 

(ん?なに?)

 

解放に突然話し掛けられた。

 

{その子の剣なんだけど・・・ちょっとおかしいわ}

 

(え?)

 

{まるで、ふたつの自我を持っているみたいで・・・}

 

(それって、人間でいう二重人格みたいなもの?)

 

{ちょっと違うわね・・・一つは元々の自我で、もう一つは人為的に作られたっぽいわ}

 

(ふぅん・・・)

 

だけど、なんだか解放からそれだけではない・・・憎々しさを感じる。

 

(なんだか・・・おまえ、ピリピリ痛いんだけど)

 

{あっ・・・ごめん。ちょっと・・・テムオリンのけはいがして}

 

(テムオリン・・・あぁ、優菜の)

 

{そう・・・ごめんね}

 

いつになくしおらしい解放。

なんだか調子が狂う。

 

(まぁいいさ。おまえのそういうバカな所、知ってたしな)

 

{なっ、バカ!?}

 

途端に怒りだす解放。

 

(テムオリンがなんだよ。まずは、優菜の記憶を戻す・・・それだけだ。それ以外なんかどうでもいいんだよ)

 

{・・・}

 

(ったく、本当におまえって頭でっかちだよな)

 

{仕方ないじゃない・・・あの子とずっと一緒にいたんだから}

 

なんだか誇らしげ半分、自嘲半分で言う解放。

それだけの時間を共有してきたのだから、当然の事だろう。

 

(おまえはふてぶてしく笑ってればいいんだよ。後は俺がなんとかしてやるからさ)

 

{・・・ふふっ、その根拠のない自信はどこからくるの?}

 

解放が笑いだした。

ちょっとだけ安心する。

 

(そんなの決まってるだろ?俺が強いからさ)

 

{あはは!そんな程度じゃ優菜の足元にも及ばないわよ}

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、悠人達と合流すると、ラキオス王が殺されたという。

即位したのはレスティーナ・ダイ・ラキオス。

その人に親書を渡すと、快く受け取ってもらえた。

そして、その後開かれた会議で新たにイースペリアとラキオスで同盟を組むことになった。

名前は・・・

 

『真・龍の魂同盟』

 

(ダサッ!!)

 

高らかに宣言するレスティーナの前でそんなこと言わなかったが。

同盟の内容はよく覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ていっ!」

 

キィンッ!!

俺はメリアの剣を弾いた。

 

「きゃっ!」

 

軽く吹き飛んで、カランッ!と床に落ちた。

 

「メリアァァァァ・・・」

 

俺はドス声で名前を呼ぶ。

 

「そう呼んでくれるの13回目ですね」

 

「その台詞も13回目だ」

 

「だって・・・仕方ないじゃないですかぁ」

 

「そうやって甘えるのも13回目。こう言う俺も13回目」

 

よく覚えてますね、とメリアが呟く。

 

「メリア・・・ちゃんと剣は握ってなきゃダメだろ?」

 

「その台詞も13回目ですね」

 

「それはもういいって。まったく・・・剣だけなら解放より少し劣るだけなのにな・・・」

 

メリアの剣は第五位『無償』。

スピリットにしてはやたらと高位だ。

だけど、メリアはなぜか剣をちゃんと握っていない。

だから、こうやって軽くあわせるだけでも衝撃で弾け飛んでしまう。

これでは実践で死ににいくようなものだ。

 

(っていうか・・・もし、俺が魔法使いじゃなければ・・・)

 

きっと、こうやって訓練することもなかったのだろう。

戦闘に慣れていなければ、俺もメリアみたいに、戦うことができなかっただろうから・・・。

その点だけ、魔法使いだったことに感謝した。

 

「だって・・・この剣は、敵を斬るためにあるんですよ?」

 

「・・・そうだな」

 

「・・・そしたら、恐くて・・・。もちろん、戦わなければ死ぬだけで・・・わかってはいるんですけど・・・」

 

「理屈じゃない・・・か」

 

俺もそれがすごくよく理解できる。

 

(でも・・・)

 

それで、戦わなくて済むなら誰も辛い思いなどしないだろう。

俺は右手と左手を合わせて、右の人差し指で左手をたたく。

考え込む時のクセ・・・らしい。

 

「でもなぁ・・・なぁ、メリア」

 

「・・・」

 

うつむいて、すっかり元気がなくなっていた。

 

「たしかに、おれ達はこれからたくさん、殺さなくちゃいけない。

そして、それが仕方ないとわかっていても、納得できないのもわかる。だけど・・・俺はメリアに死んでほしくない。

だから・・・メリア自身のために・・・俺のために、生きてほしい。だから・・・戦ってほしい」

 

卑怯だってわかってる・・・。

こんな言葉、慰めにもならないことはわかっている・・・。

でも、これしか思いつかなかった。

 

「私のために・・・ユウキ様のために・・・」

 

噛み締めるように呟くメリア。

 

「俺は、君がいなくなったら悲しい。だから・・・俺のタメに生きてくれ。な?」

 

俺はそう言った。

なんだかすごく恥ずかしいが、これを言わなくて死んでいかれたら後悔する。

 

「・・・はい!」

 

メリアは少し晴れた顔で俺を見た。

 

「よし、んじゃ訓練の続きといこうか」

 

「はい!」

 

その後、メリアが剣を落とすことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜、メシメシ〜」

 

「おメシおメシ〜」

 

メリアが奇妙な丁寧語でやってくる。

最初からこうだったのでつっこまない。

 

「・・・ごはん」

 

優菜も降りてきて、みんなで食事。

作ってくれる人はカナリア。

今日の当番だ。

ただ、メリアは作れないのでパスだ。

カナリアは戦闘よし、スタイルよし、性格よし、頭脳よし、資産・・・ドンマイ、料理よし、のすごいヤツだ。

 

「カナリア〜、メシメシ〜」

 

「はいはい、待っててくださいね、ユウキ様」

 

「あぁ・・・なんか家族って感じだなぁ・・・」

 

なんとなく浸ってしまう。

すると、俺がお父さんでカナリアがお母さん、優菜が姉でメリアが妹?・・・微妙だな。

気が付くと、テーブルには色とりどりの料理が並んでいた。

 

「いただきマンモス」

 

「「「・・・は?」」」

 

「あ、いや、なんでもない」

 

優菜はわかって白い目で見ているのだろうが、他の二人はわからなくて白い目だろう。

 

「うん、うまい!」

 

「ふふ、本当にユウキ様はおいしそうに食べてくれますね」

 

「おいしいからな」

 

本当にうまい。店でも出せるんじゃないか?と本気で思うくらいだ。

 

「・・・祐樹君」

 

「ん?なに?優菜」

 

「これ・・・あげる」

 

俺の皿にリクェム・・・ピーマンもどきが。

 

「優菜・・・ピー・・・リクェム食えないのか?」

 

「・・・」

 

コクッと頷く。

 

「仕方ないな。じゃぁかわりに他のはちゃんと食べろよ?」

 

「・・・うん」

 

このやりとりを見ていて、メリアが何かひらめいた。

 

「ユウキ様、これをどうぞ」

 

「・・・」

 

俺の皿にまたリクェムがふえる。

もはや、リクェム以外が見えない。

 

「こ、こら!メリア!」

 

カナリアが、俺が固まったのを見てメリアを叱る。

メリア・・・別にこどもって年令でもないだろうに・・・。

そりゃ優菜もか。

 

「いや、いいよ・・・毒食らわば皿までってあるし」

 

「どういう意味ですか?」

 

「毒食ったら皿まで食ってしまえって意味。つまり、失敗したらとことん失敗しろってこと」

 

たぶん、違う。

だけど、俺はそうやってまちがった文化を教えるのが好きだ。

 

(しかしなぁ・・・)

 

これから先、俺達はどうなるんだろう?

おそらく、マロリガン共和国との戦争に駆り出されるだろうが・・・。

一体、レスティーナは何をめざしてそんな侵略してるのだろうか?

俺から見れば、ただ勢力を強めるだけではない・・・程度しかわからない。

 

あの瞳の奥に何があるか知りたかった。

 

もし、くだらない事で侵略しているのだとしたら・・・俺はその場でレスティーナを殺してしまうかもしれない。

だけど、それは杞憂に終わる・・・そんな気がした。

 

(まぁ・・・いいか。今はおいしい飯を食べてれば)

 

いつか聞くチャンスがくる・・・。

俺はリクェムを口に運びはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

パタンッ!

俺は本を閉じた。

この世界の事を少しでも学んでおこうと、優菜と共に資料室で勉強していた。

 

(・・・)

 

目を引いた単語は賢者と呼ばれるヨーティアという人の存在と、ラクロック限界とかいう物と、ラキオスで起きたスピリット隊壊滅事件・・・。

ヨーティアという人は、サーギオスにいたがある事件でどこかに行ってしまったらしい。

ラクロック限界とは、世界のマナ総量が決まっていて、エーテルからマナに戻すと、少し減っているという物。

ラキオスの事件は、ソーマという人物が主犯としかわからなかった。

 

(はぁ・・・勉強がこんなに楽しいなんてな)

 

俺は新しい知識がふえていく事に嬉しさを覚えていた。

元の世界ではあれだけイヤだった勉強が、ここではすべてが新しい知識で楽しい。

 

「でも・・・」

 

もし、ラクロック限界とかいうのが本当だとしたら、この世界はどんどん破滅に向かっていってるのではないか?

今、この世界はエーテルによって成り立ってる。

 

もし・・・マナがなくなれば・・・。

 

(・・・やめよ)

 

こればかりは俺一人でどうにかなるもんでもないし、薄情だが、その前に元の世界に帰ればいい。

それに、帰れなかったとしても、俺と優菜が死ぬまでは限界はこないようだし・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

ザパァッ・・・!

俺は風呂に入る。

 

「っつはぁ・・・」

 

なんだか体の疲れが取れていく・・・。

ブクブクブク・・・

俺は口まで沈めて気泡を出す。

 

「ユウキ殿?」

 

「ウルカ?」

 

入ってきたのはウルカだった。

俺がつれてきて、スピリット隊に入ったのだ。

 

「今出るよ」

 

俺はそそくさと退散しようとする。

 

「いいではありませぬか。お背中でもお流ししましょう」

 

「え?むぅ・・・んじゃ、お願いするかな」

 

ウルカと一緒に風呂にいるのは抵抗があったが、それよりも話したかった。

 

ゴシゴシ・・・

背中がちょうどよい強さで洗われていく。

 

「なぁウルカ・・・」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「・・・サーギオスに戻ってもいいんだぞ?」

 

イースペリアにいれば、まずマロリガンとの戦争に巻き込まれる。

その後、レスティーナは絶対にサーギオスとも戦争を始める。

 

そうしたら、ウルカは元仲間と殺しあわなくてはいけない。

 

それなら・・・今のうちに戻った方がいい。

 

「いえ、いいのです」

 

「・・・なんで?」

 

「手前の剣は・・・ユウキ殿に捧げましたから。今はまだ・・・剣の声が聞こえませぬが」

 

「・・・本当にいいんだな?」

 

「・・・はい」

 

俺の最後の問いにも力強く頷くウルカ。

 

「なら、もう俺が言うことはないな。一緒にいこう、ウルカ」

 

「はい・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「暑い・・・厚い篤い熱い!!」

 

「うるさいぞ祐樹!」

 

悠人に怒鳴られてしまった。

俺は悠人達と共にダスカトロン大砂漠を渡っている。

 

「太陽〜、ちっとは手加減しろよ〜・・・」

 

マナも薄く、地獄とはまさにこれだろう。

メリアはなぜかピンピンしているが。

 

「なんでメリアは平気なんだ?」

 

「スピリットですから」

 

「ウソだ・・・ラキオスのスピリット達は疲れてるじゃないか・・・」

 

「どの色も持っていないからじゃないですか?」

 

メリア自身わかっていないようだ。

だから、これ以上聞いても無駄だ。

俺は再び前を見て歩きだす。

 

キィンッ!

 

「?」

 

一瞬だけ反応がした。

岩場の方だ。

 

(・・・)

 

一気に俺の心が冷えていく。

(解放)相棒の剣に呼び掛ける。

 

{・・・怪しいわね。警戒しておいたほうがいいわ}

 

他のみんなは気付いていないようだ。

おれ達は少しずつその岩場から離れていく・・・。

 

キィィィンッ!!

 

すぐに強い反応が現れた。

 

「きたっ!!」

 

俺は誰よりも早くその岩場へと直行する!

後ろの悠人もその存在に気付いたようだ。

 

 

キィィィィィンッ!!!

 

 

再び強い警告がきた。

マナの異常なたかぶりを感じる・・・。

 

(この力は!!)

 

あまりに大きい力に、体が震える。

だが、足は止めなかった。

 

「そこだっ!!」

 

俺はジャンプして、岩場を見下ろす・・・。

そこには、ひと組みの男女が俺を見上げていた。

 

「解放の太刀ッ!!」

 

俺はマナ異常の原因の女を狙った。

解放を振り上げて、地面に叩きつけるように振り下ろす!

 

キィンッ!!

 

簡単に防がれた。

だが、初撃はオトリだ。

俺はすぐさま切り上げるように解放を振りぬき、流れに乗せて連続して攻撃を打ち込む!

 

ザザンッ!!!

 

解放は一振りだけされたように見えた・・・。

だが・・・

 

「ぐぅ・・・っ!?」

 

女の肩や腰や腕から血が吹き上がる。

解放の力のおかげで、一瞬で十回の太刀を繰り出せた。

女からマナが離れていく・・・。

その流れと型から『解放の太刀』と呼んでいる。

 

「今日子ッ!!でやぁぁぁぁっ!!」

 

女がかた膝をついたかと思うとすぐさま男が飛び込んできた。

バカみたいにでかい剣を軽々と振り回す!

 

(だけど・・・この程度の速さならっ!!)

 

俺は避けるのではなく男の懐に飛び込んだ!

 

「なっ・・・!因果よ!!」

 

パキィィンッ!!

 

「ちっ・・・!」

 

俺の攻撃は簡単に弾かれた。

どうやら防御は堅いらしい・・・。

俺は体裁を整えるべく岩場から降りた。

 

「今日子!?光陰!!」

 

悠人が男女に呼び掛ける。

 

「知り合いか?」

 

「あ、あぁ・・・」

 

女・・・今日子は傷を気にせず立ち上がる。

そして、まるで生気のない目でおれ達を睨んだ。

男・・・光陰は軽く笑いながらも、威圧してくる。

どうやらかなりの修羅場をくぐり抜けたようで、プレッシャーが半端ではない。

 

「よう、悠人」

 

「光陰・・・それに今日子、今のはどういうつもりだ!?」

 

明らかにこちらに敵意があった。

もし、俺が飛び込まなければ今日子の一撃を食らっていただろう。

それがわかる悠人は、信じられない、という風に問い詰める。

 

「悪いな悠人・・・おれ達にもおれ達の戦う理由ってモンがある・・・だからさ・・・死んでもらわないと困るんだな、コレがッ!!」

 

光陰がそう言うと、再び・・・今度は光陰にマナが集まり始める。

その力は・・・威力、威圧だけなら俺の解放よりも、悠人の求めよりも上だ。

空気が一気にピリピリして痛い。

空気を痛いと感じたのは初めてだ。

 

「なっ・・・光陰!ウソだろ!?」

 

悠人はあまりの出来事に打ち拉がれて、仲間を守るのを忘れている。

 

「解放!全て力を出せッ!!」

 

{大丈夫よ}

 

「なに!?」

 

{あの人・・・今回は攻撃してこないもの}

 

「・・・え?」

 

「ふっ・・・そのとおりだ」

 

光陰は軽く笑って、力を抜いていく・・・。

 

「今日の所は顔見せ・・・んなわけで、宣戦布告ってヤツだ。おれ達の所まで来れるか・・・待ってるぜ」

 

光陰と今日子はくるっと踵をかえす。

すると、異質なマナが集まり始めた。

 

「光陰!今日子は・・・一体!?」

 

「おまえならわかるだろう・・・?求めと一緒にいるおまえなら」

 

「まさか・・・っ!!」

 

その言葉が指す意味は一つしかない。

今日子は・・・取り込まれたのだろう。

 

あの神剣に・・・。

 

「じゃぁな」

 

「次は・・・コロス」

 

二人はそれぞれ言葉を残して消えていった・・・。

 

キィィンッ!!!

 

「!?」

 

とてつもなく激しい警告がきた。

たまらず頭を抱える。

 

「な、なんだ・・・解放?」

 

{急いでこの場を離れて!}

 

「え?なんで?」

 

{いいから!そうじゃないとみんな死ぬわよ!?}

 

剣からの警告を受けていたのは俺だけでなく悠人もだった。

ワケがわからないが急いでおれ達は撤退を始める。

 

キィィンッ!!

 

(!!)

 

何かとてつもないものが迫ってきていた。

さっきの光陰のプレッシャーどころではない。

 

(これは・・・一体!?)

 

「くっ・・・レジストッ!!!」

 

悠人が焦り、抵抗のオーラを展開した。

みんなが撤退するまでの時間を稼ぐためか、かなり大きく展開している。

 

「解放!」

 

{了解!}

 

俺は力を溜めた右手を地面に打ち込んだ!

 

バァァァッ!!

一気にオーラを展開する。

 

「ディメンジョンッ!!!」

 

ズゴォォォォッ!!

 

解放のオーラが大きな壁を作る。

ディメンジョンはディフェンスにも魔法防御にも使える技だ。

絶対防御壁を作り出し、あらゆるマナの干渉を防ぐ。

 

ドゴォォォッ!!!

 

何かがディメンジョンにぶつかった。

 

{っ・・・!}

 

解放が痛がる。どうやら相当の物が衝突しているらしい。

 

(ぐっ・・・まだだ!)

 

俺は再び力を入れる。

するとディメンジョンがその場で再構築される。

かなり広範囲に展開しているため、消耗が激しい。

 

(あと少し・・・!)

 

一人・・・また一人とその場を離脱していく・・・。

 

「よし、オーラを小さくしよう」

 

「おう」

 

おれ達はその場からなんとか離脱した・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで・・・なんだい?ヨーティア」

 

ラキオスに、賢者と呼ばれるヨーティアが来ていた。

あまりの傍若無人っぷりに驚いたが、天才なんてみんなこんなもんだろう。

俺はメリアと共に呼び出されたのだった。

 

「あー、その・・・なんだ、あまりに唐突な話なのだが・・・」

 

「どうした?」

 

いつものヨーティアならどんなことでもズバズバ言うのに、珍しく歯切れが悪い。

 

「おまえらの因子を調べてわかったのだが・・・ユウキとメリアの因子が非常に似ているんだ」

 

「・・・は?」

 

「どういうこと・・・なんですか?」

 

おれ達はよく意味がわからず聞き返す。

 

「というか・・・似ているのではなく、同じ、なんだ」

 

「だから、因子が似ていると、結局なんなわけ?」

 

「う〜・・・ヨーティア様の話は難しいよ」

 

メリアは早くもギブアップ寸前だ。

 

「まず、因子を簡単に説明しよう。因子とは個別の・・・そうだな、個人を作り出している物と言ってもいい」

 

「というと?」

 

「エトランジェもスピリットも、全てマナで構成されている。

じゃぁ、ユウキがユウキなのはなぜだ?メリアと体の構造は一緒なのに・・・だ」

 

「・・・なるほど、それが因子だと思えばいいんだな?」

 

なんとなく・・・わかる気がする。

メリアは完全にギブアップのようだ。

 

「つまりだ、メリアがメリアなために必要な物・・・それが因子、わかったか?」

 

ヨーティアが丁寧に説明して、メリアはようやくわかったようだ。

 

「んで、それが同じ・・・って?」

 

個々を作り出すのが因子ならば、普通一緒にはならないだろう?と俺は返してみた。

すると、ヨーティアは難しい顔をした。

 

「普通、はそうだ。だが・・・その、つまり・・・だ。ユウキとメリア・・・性別の違いはあるにせよ、同一人物の可能性がある」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

おれ達はつい黙ってしまう。

 

(えっと・・・)

 

つまり・・・だ。俺とメリアが・・・同じ?

 

「まだ確実とは言えないのだが・・・かなりの高確率で、そうだと思われる」

 

ヨーティアはいい加減な事は言わない。

となると・・・本当にありえるから話してきたのだろう。

 

「ユウキがマナを使用しない魔法が使えるのも、その事に関連しているはずだ」

 

「・・・」

 

俺の魔法はマナとは別の物を使っている。

それは、どうやら大気の分子を取り込んで、俺の体にある『何か』で変換して、それを魔法として放出しているらしい。

あっちのせかいでは『何か』を魔力、と呼んでいたが。

だから、この世界で誰かに防がれたりすることもなかったし、抵抗も無意味なものとしていた。

まぁ・・・そのおかげで随分とヨーティアに体をいじくりまわされたが。

 

「まぁ、だからなんだというわけでもないが・・・頭の隅にでも入れておいてくれ」

 

「わかった・・・」

 

「・・・」

 

俺とメリアはその場を出た。

すると、自然と会話もなくなり、沈黙のままイースペリアと帰っていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・」

 

「・・・」

 

俺はラキオスにいた。

なんでも、あのマナ障壁をどうにかする装置ができたとかなんとか。

 

「で、この装置を持っていけばいいんだな?」

 

やたらでかい、いかにも不安になりそうなデザインをした機械が置いてある。

 

「そうだ。これを作動させれば、あの憎たらしい障壁は消える」

 

はず、やだろう、を使わない。つまり、それだけ自信があるのだろう。

 

「んじゃ・・・いきますか!」・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠人」

 

「・・・祐樹か」

 

悠人は一人佇んでいた。

その姿を見るだけで、何を悩んでいたかわかる。

 

「あの二人か」

 

「・・・ああ」

 

悠人は夜空を見上げたまま呟く。

 

「・・・毎日会ってさ・・・バカな話して・・・そんな・・・親友だったんだぜ・・・っ!?」

 

「・・・」

 

苦しそうに吐き出す悠人。

それだけで、どれだけ大切な人だったのかが痛いほどわかる。

 

「剣を向けたり・・・向けられたりするなんて・・・できないはず・・・だったんだ・・・!!」

 

悠人は地面を殴る。

 

「なのに・・・なんでこうなっちまったんだ!?なぁ、祐樹ッ!!教えてくれよ・・・っ!!」

 

「甘えんなッ!!」

 

「っ!!」

 

俺はあまりに情けない悠人に怒鳴る。

 

「剣を向けられたからなんだよっ!?おまえはあの二人を取り戻したいんだろ!?

だったら、ウジウジしてんじゃねぇよ!!おまえには力がある!元の世界にいた時のように無力じゃない!!

だから・・・死に物狂いで、アイツらを助けようとしてみろよっ!!何もしないで、取り戻せるわけがないだろっ!?」

 

「・・・」

 

「親友だからなんだよ・・・その人が傷つかないようにして付き合ってるなんて、親友なんかじゃねぇよ!!

遠慮せずに、おまえの気持ちをぶつけてみろ!それはおまえにしかできないだろ!」

 

言っていて、俺が情けなくなってきた。

どれだけ大切な友人だったかも理解せずに、こうやって自分の考えばかり押しつけている俺が・・・バカみたいだった。

 

「・・・そう、だな」

 

「・・・え?」

 

「助けたいって気持ちがあれば・・・絶対になんとかなるよな?」

 

「・・・ああ!もし一人でダメなら・・・俺も手伝ってやる。絶対に・・・助けだそうぜ?」

 

俺は立ち上がって、悠人に手を差し出す。

 

「・・・ああ!」

 

悠人は、さっきまでの表情とは変わって、カラリと晴れた表情で俺の手を取った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

俺とカナリアとメリアとウルカはマロリガン北部の村を制圧した。

ラキオス正規軍が鎮圧している。

その影でおれ達は休んでいた。

 

「カナリア、大丈夫か?」

 

普段、攻撃の要として飛び込んでいくカナリアはいつも傷を負う。

俺がサポートしても、やはり限界がある。

 

「大丈夫です。休めばすぐに治ります」

 

そう言って俺に微笑む。

 

「メリアは?」

 

「私も平気です」

 

事務的な口調・・・ヨーティアのあれから、どうもお互い気まずくなっていた。

仕方ないとはいえ・・・ちょっと寂しい。

 

「・・・」

 

悠人はどうなったのだろう?うまくやれたのか?

 

「・・・どうしたんです?ソワソワして」

 

「え?」

 

「そうです。さっきから落ち着きがないですよ?」

 

カナリアに続いてメリアにも言われる。

どうやら・・・思っている以上に態度に出ていたようだ。

 

「ちょっとね・・・あのさ」

 

「言いたいことはわかります。行ってきてください」

 

カナリアは全てわかってるようで、俺の背中を軽く押した。

 

「・・・サンキュ!すぐに戻ってくる!!」

 

「手前も行きます。何かあったときに困りますので」

 

「頼む」

 

俺とウルカは悠人達のルートをめざして駆け出した・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・?」

 

荒野のど真ん中で誰かが倒れていた。

こんな所で倒れていたらすぐに死んでしまう。

俺はいそいで駆け寄った。

 

「光陰!?」

 

倒れている男は、悠人の親友だった。

 

「おま・・・えは・・・」

 

力弱く顔だけあげる光陰。

 

「どうした!?」

 

「へへ・・・負けちまっ・・・た・・・ぜ」

 

「・・・」

 

どうやら、悠人と戦い、負けたようだ。

 

「アイツ・・・には・・・言うな・・・よ?」

 

「バカがっ・・・!!」

 

かなり弱っている。

でも・・・

 

(悠人の大切な人なんだ・・・殺して、たまるかッ!!!)

 

俺は解放から力を引き出す。

 

「無駄・・・だ・・・」

 

「光陰とか言ったな?」

 

「・・・あぁ・・・」

 

「俺はおまえを死なせない。おまえは・・・死にたいか?

死にたいのなら、ここで殺してやる。悠人の思いも知らずにここで死のうとする人間なら、この先いなくていい存在だ」

 

「・・・」

 

「どうだ?」

 

「・・・決まって・・・るだろ・・・?」

 

ヘヘッと苦しそうに笑う光陰。

 

「よし・・・」

 

俺は光陰の背中に光っている解放を突き刺した・・・。

 

「後は頼んだ、ウルカ」

 

「承知」

 

ウルカはハイロゥを展開して、その場を綺麗にして去っていく・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠人・・・?」

 

俺は座っている悠人にかけよる。

 

「なっ・・・!」

 

そこには、傷だらけの今日子がいた。

あきらかに致命傷を負っている・・・。

命のともしびが消えようとしているのはあきらかだった。

 

「祐樹・・・っ!」

 

「・・・どけっ!!」

 

俺は悠人を突き飛ばし、解放を抜く。

 

「解放よ・・・ッ!!」

 

{ええ!}

 

解放が光りだした。

それを確認すると、急いで今日子の体へと突き刺した。

 

「なっ・・・!祐樹ッ!!おまえ・・・!!」

 

悠人が俺の行動に驚く。

 

「解放よ・・・癒しの光をっ!!」

 

パァァァァッ・・・!!

 

「なっ・・・」

 

悠人は声を失った。

突きささっている解放からは温かい光が溢れだし、それは今日子の傷をみるみる治していく・・・。

俺が解放を引き抜くと、傷ひとつない今日子がいた。

 

「悠人、ホラ」

 

「あ、あぁ・・・」

 

悠人は今日子を抱き起こす。

 

「ん・・・」

 

少しずつ、今日子の目が開いていく・・・。

 

「今日子ッ!無事かッ!?」

 

「悠・・・ゴメン、迷惑かけて」

 

「今日子・・・」

 

「でも・・・もう大丈夫だから!」

 

軽く立ち上がる今日子。

その様子は、さっきまで瀕死だった人とは思えない。

それを見て安心したのか、悠人が泣きだす・・・。

 

「こ、こら、悠・・・っ!泣かないでよ」

 

そういう今日子も目に涙を溜めていた。

トスッ・・・

悠人は今日子を抱き締める。

 

「よかった・・・本当によかった・・・っ!!」

 

「・・・悠」

 

しばらくそうしてお互いを感じあった後、悠人は今日子を置いて走りだした。

マロリガン首都で、クェド・ギン大統領がマナ消失を起こそうとしているらしい。

それは、悠人達に任せる。

俺は北部の村に戻り、メリアとカナリアと、光陰を頼んだウルカと合流した。

 

「光陰は?」

 

「ライトニングに任せました。おそらく、大丈夫でしょう」

 

「そっか。良かった・・・」

 

「これで・・・マロリガンとも終わりますね」

 

「ああ・・・」

 

悠人達が間に合おうと間に合わなおうと、どっちにしろ決着がつく。

 

「・・・帰ろうか」

 

「そうですね」

 

「はい」

 

「いきましょう」

 

おれ達はラキオスへとエーテルジャンプしたのだった・・・。

 

 

 

 

 

そして、クェド・ギン大統領のマナ消失は悠人達が阻止した。

ラキオス・イースペリア同盟は次の相手・・・神聖サーギオス帝国との戦争に備えるため、一時戦況は沈黙した・・・。

 

 

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『解放の太刀』

祐樹の初の攻撃技。解放は素早い攻撃を得意とする。そのため、祐樹もそれに合わせて使用するようになった。

その速さはウルカと同等で、隙がない。ただ、オトリの初撃を強く弾かれると流れが死ぬためにミスしてしまう。