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「くっ・・・なぜ・・・なぜなのだ・・・?剣よ・・・!」
ウルカはすがるような声でそう言っていた。
その姿はあまりにかわいそうで・・・見ているだけで辛かった。
俺の魔法をくらったウルカはボロボロになって、倒れていた・・・。
(・・・)
俺はなんでかわからないが・・・が、ウルカを背負っていた。
「っ!何を・・・!?」
「つれて帰る。イヤだっつっても遅いからな」
俺は有無を言わせずにウルカを運んでいく。
「どうする・・・つもりだ?」
「知らない。でも、このまま放っておきたくない。それだけだ」
「・・・手前は、貴殿の敵だったのだぞ・・・?」
「でも、こうして背負ってるのに、俺を刺さないじゃないか」
「それは・・・っ!」
{ねぇ、ユウキ}
(ん?なに?)
解放に突然話し掛けられた。
{その子の剣なんだけど・・・ちょっとおかしいわ}
(え?)
{まるで、ふたつの自我を持っているみたいで・・・}
(それって、人間でいう二重人格みたいなもの?)
{ちょっと違うわね・・・一つは元々の自我で、もう一つは人為的に作られたっぽいわ}
(ふぅん・・・)
だけど、なんだか解放からそれだけではない・・・憎々しさを感じる。
(なんだか・・・おまえ、ピリピリ痛いんだけど)
{あっ・・・ごめん。ちょっと・・・テムオリンのけはいがして}
(テムオリン・・・あぁ、優菜の)
{そう・・・ごめんね}
いつになくしおらしい解放。
なんだか調子が狂う。
(まぁいいさ。おまえのそういうバカな所、知ってたしな)
{なっ、バカ!?}
途端に怒りだす解放。
(テムオリンがなんだよ。まずは、優菜の記憶を戻す・・・それだけだ。それ以外なんかどうでもいいんだよ)
{・・・}
(ったく、本当におまえって頭でっかちだよな)
{仕方ないじゃない・・・あの子とずっと一緒にいたんだから}
なんだか誇らしげ半分、自嘲半分で言う解放。
それだけの時間を共有してきたのだから、当然の事だろう。
(おまえはふてぶてしく笑ってればいいんだよ。後は俺がなんとかしてやるからさ)
{・・・ふふっ、その根拠のない自信はどこからくるの?}
解放が笑いだした。
ちょっとだけ安心する。
(そんなの決まってるだろ?俺が強いからさ)
{あはは!そんな程度じゃ優菜の足元にも及ばないわよ}
その後、悠人達と合流すると、ラキオス王が殺されたという。
即位したのはレスティーナ・ダイ・ラキオス。
その人に親書を渡すと、快く受け取ってもらえた。
そして、その後開かれた会議で新たにイースペリアとラキオスで同盟を組むことになった。
名前は・・・
『真・龍の魂同盟』
(ダサッ!!)
高らかに宣言するレスティーナの前でそんなこと言わなかったが。
同盟の内容はよく覚えていない。
「ていっ!」
キィンッ!!
俺はメリアの剣を弾いた。
「きゃっ!」
軽く吹き飛んで、カランッ!と床に落ちた。
「メリアァァァァ・・・」
俺はドス声で名前を呼ぶ。
「そう呼んでくれるの13回目ですね」
「その台詞も13回目だ」
「だって・・・仕方ないじゃないですかぁ」
「そうやって甘えるのも13回目。こう言う俺も13回目」
よく覚えてますね、とメリアが呟く。
「メリア・・・ちゃんと剣は握ってなきゃダメだろ?」
「その台詞も13回目ですね」
「それはもういいって。まったく・・・剣だけなら解放より少し劣るだけなのにな・・・」
メリアの剣は第五位『無償』。
スピリットにしてはやたらと高位だ。
だけど、メリアはなぜか剣をちゃんと握っていない。
だから、こうやって軽くあわせるだけでも衝撃で弾け飛んでしまう。
これでは実践で死ににいくようなものだ。
(っていうか・・・もし、俺が魔法使いじゃなければ・・・)
きっと、こうやって訓練することもなかったのだろう。
戦闘に慣れていなければ、俺もメリアみたいに、戦うことができなかっただろうから・・・。
その点だけ、魔法使いだったことに感謝した。
「だって・・・この剣は、敵を斬るためにあるんですよ?」
「・・・そうだな」
「・・・そしたら、恐くて・・・。もちろん、戦わなければ死ぬだけで・・・わかってはいるんですけど・・・」
「理屈じゃない・・・か」
俺もそれがすごくよく理解できる。
(でも・・・)
それで、戦わなくて済むなら誰も辛い思いなどしないだろう。
俺は右手と左手を合わせて、右の人差し指で左手をたたく。
考え込む時のクセ・・・らしい。
「でもなぁ・・・なぁ、メリア」
「・・・」
うつむいて、すっかり元気がなくなっていた。
「たしかに、おれ達はこれからたくさん、殺さなくちゃいけない。
そして、それが仕方ないとわかっていても、納得できないのもわかる。だけど・・・俺はメリアに死んでほしくない。
だから・・・メリア自身のために・・・俺のために、生きてほしい。だから・・・戦ってほしい」
卑怯だってわかってる・・・。
こんな言葉、慰めにもならないことはわかっている・・・。
でも、これしか思いつかなかった。
「私のために・・・ユウキ様のために・・・」
噛み締めるように呟くメリア。
「俺は、君がいなくなったら悲しい。だから・・・俺のタメに生きてくれ。な?」
俺はそう言った。
なんだかすごく恥ずかしいが、これを言わなくて死んでいかれたら後悔する。
「・・・はい!」
メリアは少し晴れた顔で俺を見た。
「よし、んじゃ訓練の続きといこうか」
「はい!」
その後、メリアが剣を落とすことはなかった。
「う〜、メシメシ〜」
「おメシおメシ〜」
メリアが奇妙な丁寧語でやってくる。
最初からこうだったのでつっこまない。
「・・・ごはん」
優菜も降りてきて、みんなで食事。
作ってくれる人はカナリア。
今日の当番だ。
ただ、メリアは作れないのでパスだ。
カナリアは戦闘よし、スタイルよし、性格よし、頭脳よし、資産・・・ドンマイ、料理よし、のすごいヤツだ。
「カナリア〜、メシメシ〜」
「はいはい、待っててくださいね、ユウキ様」
「あぁ・・・なんか家族って感じだなぁ・・・」
なんとなく浸ってしまう。
すると、俺がお父さんでカナリアがお母さん、優菜が姉でメリアが妹?・・・微妙だな。
気が付くと、テーブルには色とりどりの料理が並んでいた。
「いただきマンモス」
「「「・・・は?」」」
「あ、いや、なんでもない」
優菜はわかって白い目で見ているのだろうが、他の二人はわからなくて白い目だろう。
「うん、うまい!」
「ふふ、本当にユウキ様はおいしそうに食べてくれますね」
「おいしいからな」
本当にうまい。店でも出せるんじゃないか?と本気で思うくらいだ。
「・・・祐樹君」
「ん?なに?優菜」
「これ・・・あげる」
俺の皿にリクェム・・・ピーマンもどきが。
「優菜・・・ピー・・・リクェム食えないのか?」
「・・・」
コクッと頷く。
「仕方ないな。じゃぁかわりに他のはちゃんと食べろよ?」
「・・・うん」
このやりとりを見ていて、メリアが何かひらめいた。
「ユウキ様、これをどうぞ」
「・・・」
俺の皿にまたリクェムがふえる。
もはや、リクェム以外が見えない。
「こ、こら!メリア!」
カナリアが、俺が固まったのを見てメリアを叱る。
メリア・・・別にこどもって年令でもないだろうに・・・。
そりゃ優菜もか。
「いや、いいよ・・・毒食らわば皿までってあるし」
「どういう意味ですか?」
「毒食ったら皿まで食ってしまえって意味。つまり、失敗したらとことん失敗しろってこと」
たぶん、違う。
だけど、俺はそうやってまちがった文化を教えるのが好きだ。
(しかしなぁ・・・)
これから先、俺達はどうなるんだろう?
おそらく、マロリガン共和国との戦争に駆り出されるだろうが・・・。
一体、レスティーナは何をめざしてそんな侵略してるのだろうか?
俺から見れば、ただ勢力を強めるだけではない・・・程度しかわからない。
あの瞳の奥に何があるか知りたかった。
もし、くだらない事で侵略しているのだとしたら・・・俺はその場でレスティーナを殺してしまうかもしれない。
だけど、それは杞憂に終わる・・・そんな気がした。
(まぁ・・・いいか。今はおいしい飯を食べてれば)
いつか聞くチャンスがくる・・・。
俺はリクェムを口に運びはじめた。
パタンッ!
俺は本を閉じた。
この世界の事を少しでも学んでおこうと、優菜と共に資料室で勉強していた。
(・・・)
目を引いた単語は賢者と呼ばれるヨーティアという人の存在と、ラクロック限界とかいう物と、ラキオスで起きたスピリット隊壊滅事件・・・。
ヨーティアという人は、サーギオスにいたがある事件でどこかに行ってしまったらしい。
ラクロック限界とは、世界のマナ総量が決まっていて、エーテルからマナに戻すと、少し減っているという物。
ラキオスの事件は、ソーマという人物が主犯としかわからなかった。
(はぁ・・・勉強がこんなに楽しいなんてな)
俺は新しい知識がふえていく事に嬉しさを覚えていた。
元の世界ではあれだけイヤだった勉強が、ここではすべてが新しい知識で楽しい。
「でも・・・」
もし、ラクロック限界とかいうのが本当だとしたら、この世界はどんどん破滅に向かっていってるのではないか?
今、この世界はエーテルによって成り立ってる。
もし・・・マナがなくなれば・・・。
(・・・やめよ)
こればかりは俺一人でどうにかなるもんでもないし、薄情だが、その前に元の世界に帰ればいい。
それに、帰れなかったとしても、俺と優菜が死ぬまでは限界はこないようだし・・・。
ザパァッ・・・!
俺は風呂に入る。
「っつはぁ・・・」
なんだか体の疲れが取れていく・・・。
ブクブクブク・・・
俺は口まで沈めて気泡を出す。
「ユウキ殿?」
「ウルカ?」
入ってきたのはウルカだった。
俺がつれてきて、スピリット隊に入ったのだ。
「今出るよ」
俺はそそくさと退散しようとする。
「いいではありませぬか。お背中でもお流ししましょう」
「え?むぅ・・・んじゃ、お願いするかな」
ウルカと一緒に風呂にいるのは抵抗があったが、それよりも話したかった。
ゴシゴシ・・・
背中がちょうどよい強さで洗われていく。
「なぁウルカ・・・」
「はい、なんでしょう?」
「・・・サーギオスに戻ってもいいんだぞ?」
イースペリアにいれば、まずマロリガンとの戦争に巻き込まれる。
その後、レスティーナは絶対にサーギオスとも戦争を始める。
そうしたら、ウルカは元仲間と殺しあわなくてはいけない。
それなら・・・今のうちに戻った方がいい。
「いえ、いいのです」
「・・・なんで?」
「手前の剣は・・・ユウキ殿に捧げましたから。今はまだ・・・剣の声が聞こえませぬが」
「・・・本当にいいんだな?」
「・・・はい」
俺の最後の問いにも力強く頷くウルカ。
「なら、もう俺が言うことはないな。一緒にいこう、ウルカ」
「はい・・・!」
「暑い・・・厚い篤い熱い!!」
「うるさいぞ祐樹!」
悠人に怒鳴られてしまった。
俺は悠人達と共にダスカトロン大砂漠を渡っている。
「太陽〜、ちっとは手加減しろよ〜・・・」
マナも薄く、地獄とはまさにこれだろう。
メリアはなぜかピンピンしているが。
「なんでメリアは平気なんだ?」
「スピリットですから」
「ウソだ・・・ラキオスのスピリット達は疲れてるじゃないか・・・」
「どの色も持っていないからじゃないですか?」
メリア自身わかっていないようだ。
だから、これ以上聞いても無駄だ。
俺は再び前を見て歩きだす。
キィンッ!
「?」
一瞬だけ反応がした。
岩場の方だ。
(・・・)
一気に俺の心が冷えていく。
(解放)相棒の剣に呼び掛ける。
{・・・怪しいわね。警戒しておいたほうがいいわ}
他のみんなは気付いていないようだ。
おれ達は少しずつその岩場から離れていく・・・。
キィィィンッ!!
すぐに強い反応が現れた。
「きたっ!!」
俺は誰よりも早くその岩場へと直行する!
後ろの悠人もその存在に気付いたようだ。
キィィィィィンッ!!!
再び強い警告がきた。
マナの異常なたかぶりを感じる・・・。
(この力は!!)
あまりに大きい力に、体が震える。
だが、足は止めなかった。
「そこだっ!!」
俺はジャンプして、岩場を見下ろす・・・。
そこには、ひと組みの男女が俺を見上げていた。
「解放の太刀ッ!!」
俺はマナ異常の原因の女を狙った。
解放を振り上げて、地面に叩きつけるように振り下ろす!
キィンッ!!
簡単に防がれた。
だが、初撃はオトリだ。
俺はすぐさま切り上げるように解放を振りぬき、流れに乗せて連続して攻撃を打ち込む!
ザザンッ!!!
解放は一振りだけされたように見えた・・・。
だが・・・
「ぐぅ・・・っ!?」
女の肩や腰や腕から血が吹き上がる。
解放の力のおかげで、一瞬で十回の太刀を繰り出せた。
女からマナが離れていく・・・。
その流れと型から『解放の太刀』と呼んでいる。
「今日子ッ!!でやぁぁぁぁっ!!」
女がかた膝をついたかと思うとすぐさま男が飛び込んできた。
バカみたいにでかい剣を軽々と振り回す!
(だけど・・・この程度の速さならっ!!)
俺は避けるのではなく男の懐に飛び込んだ!
「なっ・・・!因果よ!!」
パキィィンッ!!
「ちっ・・・!」
俺の攻撃は簡単に弾かれた。
どうやら防御は堅いらしい・・・。
俺は体裁を整えるべく岩場から降りた。
「今日子!?光陰!!」
悠人が男女に呼び掛ける。
「知り合いか?」
「あ、あぁ・・・」
女・・・今日子は傷を気にせず立ち上がる。
そして、まるで生気のない目でおれ達を睨んだ。
男・・・光陰は軽く笑いながらも、威圧してくる。
どうやらかなりの修羅場をくぐり抜けたようで、プレッシャーが半端ではない。
「よう、悠人」
「光陰・・・それに今日子、今のはどういうつもりだ!?」
明らかにこちらに敵意があった。
もし、俺が飛び込まなければ今日子の一撃を食らっていただろう。
それがわかる悠人は、信じられない、という風に問い詰める。
「悪いな悠人・・・おれ達にもおれ達の戦う理由ってモンがある・・・だからさ・・・死んでもらわないと困るんだな、コレがッ!!」
光陰がそう言うと、再び・・・今度は光陰にマナが集まり始める。
その力は・・・威力、威圧だけなら俺の解放よりも、悠人の求めよりも上だ。
空気が一気にピリピリして痛い。
空気を痛いと感じたのは初めてだ。
「なっ・・・光陰!ウソだろ!?」
悠人はあまりの出来事に打ち拉がれて、仲間を守るのを忘れている。
「解放!全て力を出せッ!!」
{大丈夫よ}
「なに!?」
{あの人・・・今回は攻撃してこないもの}
「・・・え?」
「ふっ・・・そのとおりだ」
光陰は軽く笑って、力を抜いていく・・・。
「今日の所は顔見せ・・・んなわけで、宣戦布告ってヤツだ。おれ達の所まで来れるか・・・待ってるぜ」
光陰と今日子はくるっと踵をかえす。
すると、異質なマナが集まり始めた。
「光陰!今日子は・・・一体!?」
「おまえならわかるだろう・・・?求めと一緒にいるおまえなら」
「まさか・・・っ!!」
その言葉が指す意味は一つしかない。
今日子は・・・取り込まれたのだろう。
あの神剣に・・・。
「じゃぁな」
「次は・・・コロス」
二人はそれぞれ言葉を残して消えていった・・・。
キィィンッ!!!
「!?」
とてつもなく激しい警告がきた。
たまらず頭を抱える。
「な、なんだ・・・解放?」
{急いでこの場を離れて!}
「え?なんで?」
{いいから!そうじゃないとみんな死ぬわよ!?}
剣からの警告を受けていたのは俺だけでなく悠人もだった。
ワケがわからないが急いでおれ達は撤退を始める。
キィィンッ!!
(!!)
何かとてつもないものが迫ってきていた。
さっきの光陰のプレッシャーどころではない。
(これは・・・一体!?)
「くっ・・・レジストッ!!!」
悠人が焦り、抵抗のオーラを展開した。
みんなが撤退するまでの時間を稼ぐためか、かなり大きく展開している。
「解放!」
{了解!}
俺は力を溜めた右手を地面に打ち込んだ!
バァァァッ!!
一気にオーラを展開する。
「ディメンジョンッ!!!」
ズゴォォォォッ!!
解放のオーラが大きな壁を作る。
ディメンジョンはディフェンスにも魔法防御にも使える技だ。
絶対防御壁を作り出し、あらゆるマナの干渉を防ぐ。
ドゴォォォッ!!!
何かがディメンジョンにぶつかった。
{っ・・・!}
解放が痛がる。どうやら相当の物が衝突しているらしい。
(ぐっ・・・まだだ!)
俺は再び力を入れる。
するとディメンジョンがその場で再構築される。
かなり広範囲に展開しているため、消耗が激しい。
(あと少し・・・!)
一人・・・また一人とその場を離脱していく・・・。
「よし、オーラを小さくしよう」
「おう」
おれ達はその場からなんとか離脱した・・・。
「んで・・・なんだい?ヨーティア」
ラキオスに、賢者と呼ばれるヨーティアが来ていた。
あまりの傍若無人っぷりに驚いたが、天才なんてみんなこんなもんだろう。
俺はメリアと共に呼び出されたのだった。
「あー、その・・・なんだ、あまりに唐突な話なのだが・・・」
「どうした?」
いつものヨーティアならどんなことでもズバズバ言うのに、珍しく歯切れが悪い。
「おまえらの因子を調べてわかったのだが・・・ユウキとメリアの因子が非常に似ているんだ」
「・・・は?」
「どういうこと・・・なんですか?」
おれ達はよく意味がわからず聞き返す。
「というか・・・似ているのではなく、同じ、なんだ」
「だから、因子が似ていると、結局なんなわけ?」
「う〜・・・ヨーティア様の話は難しいよ」
メリアは早くもギブアップ寸前だ。
「まず、因子を簡単に説明しよう。因子とは個別の・・・そうだな、個人を作り出している物と言ってもいい」
「というと?」
「エトランジェもスピリットも、全てマナで構成されている。
じゃぁ、ユウキがユウキなのはなぜだ?メリアと体の構造は一緒なのに・・・だ」
「・・・なるほど、それが因子だと思えばいいんだな?」
なんとなく・・・わかる気がする。
メリアは完全にギブアップのようだ。
「つまりだ、メリアがメリアなために必要な物・・・それが因子、わかったか?」
ヨーティアが丁寧に説明して、メリアはようやくわかったようだ。
「んで、それが同じ・・・って?」
個々を作り出すのが因子ならば、普通一緒にはならないだろう?と俺は返してみた。
すると、ヨーティアは難しい顔をした。
「普通、はそうだ。だが・・・その、つまり・・・だ。ユウキとメリア・・・性別の違いはあるにせよ、同一人物の可能性がある」
「・・・」
「・・・」
おれ達はつい黙ってしまう。
(えっと・・・)
つまり・・・だ。俺とメリアが・・・同じ?
「まだ確実とは言えないのだが・・・かなりの高確率で、そうだと思われる」
ヨーティアはいい加減な事は言わない。
となると・・・本当にありえるから話してきたのだろう。
「ユウキがマナを使用しない魔法が使えるのも、その事に関連しているはずだ」
「・・・」
俺の魔法はマナとは別の物を使っている。
それは、どうやら大気の分子を取り込んで、俺の体にある『何か』で変換して、それを魔法として放出しているらしい。
あっちのせかいでは『何か』を魔力、と呼んでいたが。
だから、この世界で誰かに防がれたりすることもなかったし、抵抗も無意味なものとしていた。
まぁ・・・そのおかげで随分とヨーティアに体をいじくりまわされたが。
「まぁ、だからなんだというわけでもないが・・・頭の隅にでも入れておいてくれ」
「わかった・・・」
「・・・」
俺とメリアはその場を出た。
すると、自然と会話もなくなり、沈黙のままイースペリアと帰っていった・・・。
「はぁ・・・」
「・・・」
俺はラキオスにいた。
なんでも、あのマナ障壁をどうにかする装置ができたとかなんとか。
「で、この装置を持っていけばいいんだな?」
やたらでかい、いかにも不安になりそうなデザインをした機械が置いてある。
「そうだ。これを作動させれば、あの憎たらしい障壁は消える」
はず、やだろう、を使わない。つまり、それだけ自信があるのだろう。
「んじゃ・・・いきますか!」・・・
「悠人」
「・・・祐樹か」
悠人は一人佇んでいた。
その姿を見るだけで、何を悩んでいたかわかる。
「あの二人か」
「・・・ああ」
悠人は夜空を見上げたまま呟く。
「・・・毎日会ってさ・・・バカな話して・・・そんな・・・親友だったんだぜ・・・っ!?」
「・・・」
苦しそうに吐き出す悠人。
それだけで、どれだけ大切な人だったのかが痛いほどわかる。
「剣を向けたり・・・向けられたりするなんて・・・できないはず・・・だったんだ・・・!!」
悠人は地面を殴る。
「なのに・・・なんでこうなっちまったんだ!?なぁ、祐樹ッ!!教えてくれよ・・・っ!!」
「甘えんなッ!!」
「っ!!」
俺はあまりに情けない悠人に怒鳴る。
「剣を向けられたからなんだよっ!?おまえはあの二人を取り戻したいんだろ!?
だったら、ウジウジしてんじゃねぇよ!!おまえには力がある!元の世界にいた時のように無力じゃない!!
だから・・・死に物狂いで、アイツらを助けようとしてみろよっ!!何もしないで、取り戻せるわけがないだろっ!?」
「・・・」
「親友だからなんだよ・・・その人が傷つかないようにして付き合ってるなんて、親友なんかじゃねぇよ!!
遠慮せずに、おまえの気持ちをぶつけてみろ!それはおまえにしかできないだろ!」
言っていて、俺が情けなくなってきた。
どれだけ大切な友人だったかも理解せずに、こうやって自分の考えばかり押しつけている俺が・・・バカみたいだった。
「・・・そう、だな」
「・・・え?」
「助けたいって気持ちがあれば・・・絶対になんとかなるよな?」
「・・・ああ!もし一人でダメなら・・・俺も手伝ってやる。絶対に・・・助けだそうぜ?」
俺は立ち上がって、悠人に手を差し出す。
「・・・ああ!」
悠人は、さっきまでの表情とは変わって、カラリと晴れた表情で俺の手を取った・・・。
「・・・」
俺とカナリアとメリアとウルカはマロリガン北部の村を制圧した。
ラキオス正規軍が鎮圧している。
その影でおれ達は休んでいた。
「カナリア、大丈夫か?」
普段、攻撃の要として飛び込んでいくカナリアはいつも傷を負う。
俺がサポートしても、やはり限界がある。
「大丈夫です。休めばすぐに治ります」
そう言って俺に微笑む。
「メリアは?」
「私も平気です」
事務的な口調・・・ヨーティアのあれから、どうもお互い気まずくなっていた。
仕方ないとはいえ・・・ちょっと寂しい。
「・・・」
悠人はどうなったのだろう?うまくやれたのか?
「・・・どうしたんです?ソワソワして」
「え?」
「そうです。さっきから落ち着きがないですよ?」
カナリアに続いてメリアにも言われる。
どうやら・・・思っている以上に態度に出ていたようだ。
「ちょっとね・・・あのさ」
「言いたいことはわかります。行ってきてください」
カナリアは全てわかってるようで、俺の背中を軽く押した。
「・・・サンキュ!すぐに戻ってくる!!」
「手前も行きます。何かあったときに困りますので」
「頼む」
俺とウルカは悠人達のルートをめざして駆け出した・・・。
「・・・?」
荒野のど真ん中で誰かが倒れていた。
こんな所で倒れていたらすぐに死んでしまう。
俺はいそいで駆け寄った。
「光陰!?」
倒れている男は、悠人の親友だった。
「おま・・・えは・・・」
力弱く顔だけあげる光陰。
「どうした!?」
「へへ・・・負けちまっ・・・た・・・ぜ」
「・・・」
どうやら、悠人と戦い、負けたようだ。
「アイツ・・・には・・・言うな・・・よ?」
「バカがっ・・・!!」
かなり弱っている。
でも・・・
(悠人の大切な人なんだ・・・殺して、たまるかッ!!!)
俺は解放から力を引き出す。
「無駄・・・だ・・・」
「光陰とか言ったな?」
「・・・あぁ・・・」
「俺はおまえを死なせない。おまえは・・・死にたいか?
死にたいのなら、ここで殺してやる。悠人の思いも知らずにここで死のうとする人間なら、この先いなくていい存在だ」
「・・・」
「どうだ?」
「・・・決まって・・・るだろ・・・?」
ヘヘッと苦しそうに笑う光陰。
「よし・・・」
俺は光陰の背中に光っている解放を突き刺した・・・。
「後は頼んだ、ウルカ」
「承知」
ウルカはハイロゥを展開して、その場を綺麗にして去っていく・・・。
「悠人・・・?」
俺は座っている悠人にかけよる。
「なっ・・・!」
そこには、傷だらけの今日子がいた。
あきらかに致命傷を負っている・・・。
命のともしびが消えようとしているのはあきらかだった。
「祐樹・・・っ!」
「・・・どけっ!!」
俺は悠人を突き飛ばし、解放を抜く。
「解放よ・・・ッ!!」
{ええ!}
解放が光りだした。
それを確認すると、急いで今日子の体へと突き刺した。
「なっ・・・!祐樹ッ!!おまえ・・・!!」
悠人が俺の行動に驚く。
「解放よ・・・癒しの光をっ!!」
パァァァァッ・・・!!
「なっ・・・」
悠人は声を失った。
突きささっている解放からは温かい光が溢れだし、それは今日子の傷をみるみる治していく・・・。
俺が解放を引き抜くと、傷ひとつない今日子がいた。
「悠人、ホラ」
「あ、あぁ・・・」
悠人は今日子を抱き起こす。
「ん・・・」
少しずつ、今日子の目が開いていく・・・。
「今日子ッ!無事かッ!?」
「悠・・・ゴメン、迷惑かけて」
「今日子・・・」
「でも・・・もう大丈夫だから!」
軽く立ち上がる今日子。
その様子は、さっきまで瀕死だった人とは思えない。
それを見て安心したのか、悠人が泣きだす・・・。
「こ、こら、悠・・・っ!泣かないでよ」
そういう今日子も目に涙を溜めていた。
トスッ・・・
悠人は今日子を抱き締める。
「よかった・・・本当によかった・・・っ!!」
「・・・悠」
しばらくそうしてお互いを感じあった後、悠人は今日子を置いて走りだした。
マロリガン首都で、クェド・ギン大統領がマナ消失を起こそうとしているらしい。
それは、悠人達に任せる。
俺は北部の村に戻り、メリアとカナリアと、光陰を頼んだウルカと合流した。
「光陰は?」
「ライトニングに任せました。おそらく、大丈夫でしょう」
「そっか。良かった・・・」
「これで・・・マロリガンとも終わりますね」
「ああ・・・」
悠人達が間に合おうと間に合わなおうと、どっちにしろ決着がつく。
「・・・帰ろうか」
「そうですね」
「はい」
「いきましょう」
おれ達はラキオスへとエーテルジャンプしたのだった・・・。
そして、クェド・ギン大統領のマナ消失は悠人達が阻止した。
ラキオス・イースペリア同盟は次の相手・・・神聖サーギオス帝国との戦争に備えるため、一時戦況は沈黙した・・・。
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『解放の太刀』
祐樹の初の攻撃技。解放は素早い攻撃を得意とする。そのため、祐樹もそれに合わせて使用するようになった。
その速さはウルカと同等で、隙がない。ただ、オトリの初撃を強く弾かれると流れが死ぬためにミスしてしまう。