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「・・・あ?」
「大丈夫・・・?」
気が付けば、優菜に膝枕してもらっていた。
「・・・いつつ」
体がギシギシ痛む。
タキオスめ・・・。
「タキオスは?」
「・・・わからない」
「へ?」
あれ?そういえば・・・
「ここどこ?」
「イースペリアっていうところの・・・牢屋」
「・・・はぁ?」
{そこからは私が説明するわ}
解放が説明してくれる。
どうやら、俺はタキオスに負けて、テムオリンというヤツに優菜と共に異世界へ飛ばされたらしい。
んで、戦える俺が戦闘不能だったため、優菜と俺と解放はイースペリアという国に保護・・・
どちらかというと捕獲だが・・・されたらしい。
その他の知識は突然頭に流れこんできた。
解放は、どうやら『救世』の時にこの世界に来たことがあるようだ。
「ほう、なら、そなたたちはわが国のために戦ってくれると?」
「ええ、まぁ・・・」
解放にそう言われ、俺はとりあえずこの国で戦っていくことにした。
というか・・・それ以外選択肢がないようだ。
でも・・・戦っていれば優菜の身の保障もできるし・・・正直、戦うとか実感湧かないが・・・。
でも、今のこの世界が俺にとっては少し嬉しい。
学問やらなにやらはしなくても、解放が教えてくれたし、なによりしがらみが一切ない。
まぁ、この国のタメに・・・っていうのが新しいしがらみになるんだろうけど、現実世界よりよっぽど清々する。
この国に限ってらしいが、おれたちのような存在・・・エトランジェに対する偏見もないらしいし。
おれ達は温かく迎えられ、俺は実践訓練を始めた。
「・・・はぁ」
俺は美人な先生に手ほどきを受けてクタクタだった。
神剣を使えば疲れないのだろうが、訓練は模擬刀だ。
剣道など特にやっていなかった俺は数時間で腕が痺れてしまう。
(それに・・・戦うってことは、誰かを傷つける・・・場合には殺すってことなんだよなぁ・・・はぁ・・・)
俺は、引き受けておきながら戦闘がこないことを祈っていた。
優菜のためだからといって・・・人を殺すなんて真似はしたくなかった。
だけど・・・最近ラキオスという国が怪しいらしい。
だから、近々・・・戦いが起こるだろう。
そうすれば・・・エトランジェの俺も戦うことになる。
いや・・・優菜のためにも、戦わなくてはいけない。
それまでに・・・決心がつくのだろうか?
俺は・・・できそうもないと思って、その場でぐたーっと寝ることにした・・・。
コンコン・・・
ドアがノックされた。
「入っていーよー」
客人とはめずらしい。
この世界の知り合いはほとんどいないというのに・・・。
カチャ、ドアがあくと、青く長い髪をしたスピリットがいた。
もう明らかにブルースピリットだな。
整った顔立ちに青い瞳、綺麗なピンク色の唇に優しさと厳しさを兼ね備えた雰囲気・・・
ギュッ!
「いてぇ!!」
いきなりケツに激痛が走る。
後ろを振り向くと優菜がにらんでいた。
ぅ・・・
「えぇ、と、君は?」
「カナリアといいます。カナリア・ブルースピリット・・・よろしくお願いします」
「カナリアか・・・あ、呼び捨てでいいかな?」
「はい、ご主人様」
「・・・」
「・・・」
オレ達は自然と沈黙の場を作り出す。
(え、えーっと・・・このとまってしまった場をどうしたら・・・?)
なんでご主人様なんて甘美なひび・・・いやいや。
いきなり俺を主人と・・・
「祐樹君・・・?」
「ゆ、優菜!俺を信じろ!コイツとは初対面だぞ!?」
訝しげな顔をする優菜に必死に弁明する。
このまま誤解されてはたまらない・・・!
「はい、初対面です」
「「え・・・?」」
俺と優菜が同時に振り向く。
そこには綺麗な笑顔をしたカナリア・・・。
でも・・・一瞬・・・綺麗すぎて・・・どこか不気味だった。
「あの・・・もしかして、お聞きになってないのですか?」
「は?」
「ユウキ様は、イースペリアスピリット隊の隊長に就任する・・・という話です」
「・・・」
えーっと?俺は過去の記憶から検索する。
『エトランジェユウキ。スピリット隊の隊長になってくんない?』
『はい、いいですよ』
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
しまった!
王様にそんなこと言われたっけ!!
よくわからないから適当に相づちうっていたんだ・・・。
しまった・・・。
つうか王様意外に軽く話してるし!
なんだよ!!
戦争とかなんじゃないのか!?
「と、いうわけであいさつにきました」
「なるほど・・・君がスピリット隊の元隊長?」
「そういうことです。これからよろしくお願いします。ご主人様」
「あー、えっと・・・その、なんだ・・・。その呼び方はやめてくれない?」
「え?ですが・・・」
「じゃぁ・・・俺隊長記念の初命令。俺の事はユウキと呼びなさい」
「う・・・ゆ、ゆゆゆ・・・」
口を尖らせて(ゆ)を連発するカナリア。
「がんばって・・・」
なぜか優菜は応援してるし。
「ゆ、ゆゆゆ!ユウ・・・ユウ、キ・・・ユウキ・・・様・・・」
様はつくのか。
偉ぶっててイヤだけど・・・まぁいいか。
また(ゆ)を連発されるのも無駄だし。
「うん、それでよろしい。んじゃ、改めて自己紹介。俺は相川祐樹で」
「私は・・・佐倉、優菜・・・です」
「はい!これからよろしくお願いします」
「・・・三回目」
「え?」
「よろしくお願いします、と言ったの。たった数分で三回だった。なんとなく数えてただけだから気にしないでくれ。んじゃ、よろしく頼むわ」
「はい!お任せください」・・・
「サル飛ばないと?」
「違うってば!」
「いやいや、冗談冗談。んで、サル飛びルートがどうしたって?」
「・・・とにかく、隣国が攻めてきたらしい。出撃準備は怠らないようにな」
「ピリピリするなよ〜、お茶でも飲まない?」
「お〜ま〜え〜は〜っ!!」
兵士は唸ると部屋から消えた。
そういえば・・・お気楽エトランジェとか言われてたな、俺。
たぶん・・・こういうとこからきてるんだろうな・・・。
だって・・・戦争なんて知らないんだもん・・・(泣)。
「戦争・・・?」
優菜が怯えながらそう言う。
「どうやら・・・そうみたいだね。まぁ優菜は安心してくれ」
「私の・・・せいで・・・ごめん・・・ね?」
「そんな謝るなって。別に平気だからさ」
俺は笑って部屋を出る。
こうなると少しでも訓練をしておいたほうがいいだろう。
(まさか・・・本当に戦争になるなんてな・・・)
俺は心の中でため息をつき、訓練場へと向かった。
キィィンッ!!!!
(!!なにすんだ解放!?)
解放が呼び掛けてくるときの音は、激しい頭痛をともなう。
しょっちゅうやられると倒れそうになるほどだ。
{おかしいわ・・・この強さ}
(はい?)
{けはいをよぉく探ってみなさい}
解放に言われたとおりに神経を集中させていく・・・。
すると、一点だけ強い存在感を感じる。
(場所は・・・エーテル変換装置?あれ・・・?)
プツッ・・・とその点のまわりに存在していた弱い点が消えた。
一瞬で・・・だ。
「おかしい・・・」
{ええ。あそこは最も守りが厚いところなのに・・・}
(・・・なんだか変だよな・・・ちょっと見てこよう。暴走させられたら大変だしな)
{そうね。そしたら・・・優菜を守れなくなっちゃうものね}
やっぱり、解放はこの国なんかより優菜が一番なのだろう。
まぁ、それは俺も同感だが。
だからといって、この国を巻き込ませたくはない。
俺は早足でエーテル変換装置へと向かうのだった・・・。
{「!!」}
俺と解放は同時に驚いた。
何本もの神剣の反応がエーテル変換装置に向かっている。
その中で一際目立つ存在が・・・
「これは・・・」
おそらく解放と同等くらいの強さ。
さっきの点よりは劣るが、決して弱くない。
「誰だ?」
{もしかしたら・・・援軍のラキオスのスピリットかも}
「でも・・・なんでエーテル変換装置に直行してるんだ?」
その動きは明らかにおかしい。
まるで、最初からそこに向かっているようだ。
援軍なら謁見の間とかにくるはずなのに・・・。
しかも、やたらとピリピリしている。
俺はイヤな予感がして急ぐのだった・・・。
「!!」
そこには、最初に気付いた点と、たくさんの反応があった・・・。
突然、体が震える。
「なんだ・・・!?」
{これは・・・マナが集まってきてる!?}
「えぇ!?じゃぁ・・・誰かが暴走させようとしてるのか!?」
そうなれば、国とか優菜とか、そんな問題ではなくなる。
俺は装置へ乗り込んだ。
「ヤメロォォォォォッ!!!」
「「!?」」
中では、黒い服の女性と青い髪の女性が戦っていた。
その奥には数名のスピリット・・・それに、まるで制服のような物を着た男・・・。
その奥で、装置を操作している女性がいた。
俺の声に気付いたのか作業を止めている。
「おまえらっ!!なんのつもりがあって暴走させるつもりだ!?」
「暴走だと・・・?」
男は何をしようとしていたのかわからないようだ。
「装置を暴走させたらマナ消失が起こるぞ!!!なんでラキオスのヤツらがそんなことをする!?」
「マナ消失って・・・なんだ?エスペリア」
「やはり・・・では、この指令は・・・!!」
女性の方は気付いたようだ。
作業の手を止める。
「・・・」
「・・・」
全員が俺を向いている。
ただ・・・一人だけ目を閉じていた。
黒い服の女性だ。
あの・・・一番強い反応。
「おまえは・・・ラキオスのヤツじゃないな?」
「・・・そのとおり」
あくまで自然と答える。
それが、俺のカンに障った。
「なら・・・どこの者だ?ここの守りのヤツらを消したのもおまえだろう」
「・・・作戦は失敗か・・・すみませぬ」
誰に謝ったのかはしらないが、俺を一方的に無視している。
だけど・・・その落ち着きよう。
イメージ・・・
「サーギオスだな?」
「・・・だとすればどうする?」
「・・・聞きたいことがある。サル・・・なんとかに援助しているのはおまえらか?」
くっ・・・
こんな格好わるい発言するくらいなら国名くらい覚えておくんだった・・・!
「・・・そうだ。だが、それ以上は答えられぬ」
「・・・ならいい。聞きたくもないし、俺はなによりアンタみたいなヤツが嫌いなんだ。とっとと失せろ」
「その前に・・・貴殿の名は?」
「俺は・・・祐樹」
「・・・ユウキ殿、いつかお手合せ願いたい」
「・・・ヤなこった。アンタ強いし」
けはい、落ち着き、プレッシャー・・・俺と互角ってところか、少し上だろう。
気が付けば、消えていた。
「さてと・・・次はアンタらだ」
俺はラキオスのスピリット達に向き直る。
「なぁ、マナ消失ってなんだ?」
「そんなことも知らなかったのか・・・」
俺は丁寧に説明してやる。
そうすると、王の策略だということに気付いたようだ。
「そうか・・・同盟結んでるクセに・・・こういうことになるのか」
どうやらラキオスの王は随分と野心家のようだ。
だが・・・身分違いの野心は身を滅ぼす。
そのうち誰かに殺されるんじゃないか?
「でも、ま・・・このままアンタらが帰ってもしょうがないし・・・こっちから抗議文出すようにするよ」
「よろしくお願いします」
俺に深くお辞儀してくる。
ラキオスのスピリット達は帰っていく・・・。
{なんとか最悪の事態は防げたわね}
「なんとか・・・な。はぁ・・・なんのための龍の魂同盟なんだか」
{仕方ないわ・・・そういう運命だったんでしょ}
解放もどこか呆れている。
「そういえば・・・オイ」
「ん?」
男に話し掛ける。
「アンタの名前は?」
「あぁ・・・高嶺悠人だ。んで、コイツが求め」
剣を指して言う。
なるほど・・・ラキオスのエトランジェか。
「おまえは?」
「祐樹っつったろィ?」
「そういえばそうだったな」
と男は笑って帰っていった。
(悠人・・・か。はぁ・・・とりあえず・・・帰って寝よ。優菜も心配してるだろうし)
こうして後日、ラキオスに正式に抗議文を出したイースペリア。
すると・・・言葉が難しかったが、要は
『そんなこと知らん。むしろ、援軍を送ってやったのにイチャモンつけやがって。同盟なんて知るかッ!戦争だ戦争!!』
ということらしい。
なんで戦争になるかはわからないが、抗議文発生によりラキオス王の頭のなかで何かのフラグがたったのだろう。