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「準備できたかー?」

 

「はい・・・」

 

いつか買った服で出てくる優菜。

アクティブな感じを前面に出したのは優菜の性格ゆえだ。

少しでも明るくなってもらおうか・・・などという浅知恵。

 

「んじゃ、行くか」

 

イロイロありそうだが、学校にいかないわけにはいかない。

 

「・・・」

 

黙って頷く優菜の顔には微妙に微笑みが。

 

 

『おーい!』

 

どうやら雄司達が来たようだ。

 

「ほら、いこう」

 

「うん・・・」

 

俺は手を取ってドアノブに手をかけた。

 

「ゴメンゴメン」

 

「おっ、朝から手なんか繋いじゃって!コノコノ」

 

俺をつついてくる雄司。

 

「あれ?佐倉、その袋はなんですか?」

 

「これは・・・大事な物・・・」

 

「大事な物?」

 

「愛香、気にするなって」

 

「は、はぁ・・・」

 

優菜には解放を持たせてある。

やっぱり記憶喪失なのだし、性格も内気なのだから、常に傍に俺か解放がいてやらなくてはだめだろう。

つまり、その大きな袋は解放だ。

 

「さ、早くいこうぜ?」

 

「おう!」

 

「そうですね」

 

「うん・・・」

 

おれたちは寮から出た。

さぁて・・・問題がなく終わればいいんだけど。

 

 

 

 

 

「おはよー、佐倉さん」

 

「お、おはよう・・・」

 

いきなりクラスメートにあいさつされて驚いているが、ちゃんとあいさつを返す優菜。

 

「んじゃ、席はそこな」

 

俺の隣。

勝手に持ってきたのだが。

解放も相当の心配性のようで、こうすることを強制された。

まぁ・・・ヘタに離れるよりはるかにマシだが。

安心できるし。

 

(はぁ・・・)

と俺はため息をつく。

 

ベターッと机にへばりつく。

それが俺の朝の日課。

普通なら誰かと喋って先生が来るまで待つのだが、あいにく俺にそういう友達はいない。

それと、眠いのもあるが。

 

「祐樹君・・・」

 

「ん〜?」

 

俺はベターッとしながら優菜を向く。

 

「誰かと・・・話さないの・・・?」

 

「あぁ・・・俺はあんまり友達いねーからさ。はは」

 

「ん・・・寂しく・・・ないの?」

 

「ちょっとはね。でも・・・これでいいんだよ」

 

「・・・」

 

「俺・・・あんまり馴染めないからさ、このクラスに。

それで、それに合わせて自分を変えていくくらいならこれでもいいって思ってる。はは・・・格好付けすぎか」

 

「・・・私は」

 

「え?」

 

「祐樹君が・・・変わってほしくないから・・・それでも・・・いい、と思う・・・」

 

「・・・そっか。サンキュ」

 

ちょっとだけ・・・元気になれた。

どうもこの話になると気が滅入るんだけど・・・。

彼女の言葉が、俺の心を少し温めてくれた。

 

 

 

 

 

キィィィィィンッ!!!

 

「つあっ!!」

 

「!!」

 

ほのぼのした時間も打ちきられた。

俺は突然の激しい頭痛に声をあげてしまう。

 

(なんのつもりだ解放!?)

 

俺はとっさに解放に呼び掛ける。

 

{アイツが・・・くるわ!!}

 

(アイツ!?誰だよ!!)

 

心に力が満ちてくる・・・。

 

敵意・・・

憎しみ・・・

怒り・・・

 

そんな感情が俺の心に押し寄せてきた。

 

 

ブシュゥゥンッ!!

 

 

「っ!?」

 

俺は目を見開く。

突然、教卓の前に光が現れた。

 

「な、なんだ!?」

 

クラスが一気にどよめきだす。

突然の怪異に俺もついていけない。

 

{祐樹!はやく私を取り出して!}

 

(お、おう!)

 

なんだかわからないが、とてつもない、何か大きな物がくるとわかった。

俺はすぐさま袋から解放を取り出す。

 

「優菜、隠れてるんだ」

 

「で、でも・・・」

 

「いいから!はやく!」

 

俺は解放を光に構えて、優菜を教室から押し出した。

 

「みんなも出ていってくれ!!はやく!!」

 

俺の剣幕に驚いたのか、そそくさと教室から出ていくみんな。

 

 

ピシュビシュゥゥゥンッ!!!

 

光が弾けた!

 

 

「くっ・・・」

 

光が収まったのを感じて目を開く。

 

「む・・・?ユウナではない・・・?」

 

光から出てきたのは、黒い服で身を包んだ男・・・。

その存在感・・・プレッシャーに身を裂かれそうになる。

 

「おぬしは・・・何者だ?」

 

「俺は・・・相川祐樹だ」

 

「なにゆえ・・・おぬしがその剣を持っている?」

 

「・・・優菜を守るため・・・かな」

 

「ユウナ・・・だと?」

 

「記憶喪失の女の子だ」

 

「・・・そうか、先程から感じる微弱な力はヤツか・・・弱くなったものだ」

 

男は残念そうに呟く。

 

「おまえこそ・・・誰だ?」

 

「ふむ・・・タキオスという」

 

「タキオス!!おまえが・・・!」

 

あの、優菜と戦って・・・。

そんなヤツが・・・今目の前にいるのか!

こんなやつと・・・優菜は・・・。

 

「ならば・・・おぬしと手合せしたいものだ」

 

「俺と・・・だと?」

 

「仮にもその剣に認められた主・・・剣を交えてみたいのだ」

 

タキオスはバカでかい剣を構えた。

その瞬間、空気が震え上がる。

 

「・・・わかった。俺が勝てば・・・優菜にちょっかいをださないと誓え」

 

「勝つ・・・?いいだろう。勝てたならば・・・な」

 

「ナメるな・・・!」

 

俺に敵意どころか、余裕を見せ付けてくるタキオス。

 

「解放・・・いくぞっ!」

 

{やめなさい!あなたじゃ勝てないわ!!}

 

「俺がやるって言ってるんだ!!ここでコイツを倒せば優菜が助かるんだぞ!!!力を貸せ・・・ッッ!!」

 

{・・・わかったわよ!!}

 

体に力が入ってくる・・・。

それでも、決して同等になったとは思えない。

でも・・・諦めるわけにはいかないんだ!!!

 

「いくぞタキオスッ!!!ブレイズファイアーッッ!!!」

 

「ほぅ・・・魔法か」

 

キィィィィッ・・・

ドガァァァァッッッ!!!

 

俺の手から火炎が放たれ、勢い良くタキオスへと向かっていく!

 

「ハァァァッ!!」

 

タキオスは片手を突き出した。

 

ボガァァァァッ!!

 

タキオスの手に触れた瞬間爆発し、机を弾き飛ばした。

 

「グッ・・・!?バカな!!」

 

タキオスの片腕が焼け落ちると、金色の塵になって消えていく・・・。

 

 

 

 

 

「おかしい・・・なぜだ!?」

 

タキオスは混乱していた。

魔法ならばオーラフォトンで防げるはず・・・。

だが、一切の軽減を受けずに祐樹の魔法は炸裂した。

そして、その隙を、祐樹は見逃さなかった。

 

「うあぁぁぁっ!!!」

 

祐樹は解放を突きの態勢でタキオスへと持っていった。

 

「ナメるなっ!!」

 

キィィンッ!

 

「っ!?」

 

全力で突いたはずなのに、何かの壁に当たったかのように解放が止まる。

 

「ハァァァッ!!」

 

「・・・へへ」

 

「む!?」

 

祐樹は笑って左手を突き出した。

ほぼゼロ距離・・・。

タキオスの剣が祐樹に振り下ろされそうになった・・・その時!

 

「ブラストエクスプロージョンッッッ!!」

 

「なっ・・・!」

 

ドガァァァァッ!!!

 

学校全体が爆発で揺れる!

ほぼゼロ距離で祐樹の最も得意な魔法が炸裂した。

その爆発で教室の窓ガラスが一斉に弾け割れ、爆風はあらゆる物体を吹き飛ばした!

 

「ぐぉぉぉぉ・・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

祐樹は肩で息をしていた。

魔法といえど、体力も精神力も使う。

しかも、圧倒的な力を持っていた相手と戦ったのだから、疲れがドッと押し寄せてきてもおかしくない。

 

「勝った・・・か?」

 

「ふ・・・甘いわっ!!」

 

「っ!?」

 

タキオスは立ち上がり、また剣を構える。

祐樹もそれを見ていそいで構えた。

 

「なかなかやるではないか・・・」

 

「はぁ・・・っ・・・はぁ・・・っ・・・倒れろ・・・よ」

 

「いくぞッ!ユウキ!!」

 

「くっ・・・!!」

 

バキィィッ!

バキッ!

ドガァァァッ!!

 

「っ・・・は・・・っ!!」

 

祐樹はタキオスの大きな剣を受けとめ切れず、壁にまで飛ばされる。

激突して一瞬息が止まった。

 

「どうした!?ユウナを守るんじゃなかったのか!?」

 

「バカ・・・力、が・・・」

 

{ユウキ!!}

 

おでこに液体の感触・・・血なのか汗なのか祐樹にはわからない・・・。

もう、意識・・・が・・・。

 

 

 

 

 

『タキオス・・・そこまでです』

 

突然誰かの声が響く・・・。

 

「テムオリン様・・・?」

 

『その子とユウナ・・・あの計画に組み込みます』

 

「いいのですか?」

 

『ええ。それに・・・あなたも彼に興味が出てきたのでしょう?』

 

「・・・」

 

(なん・・・だ?一体・・・なん・・・の・・・)

 

そこで、祐樹の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

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『ブレイズファイヤー』

火系の中級魔法(神剣魔法ではない)。祐樹は火系の魔法が得意だが、その中でも使用頻度の高い魔法。

火炎がレーザーのように襲いかかる魔法で、フレイムレーザーに爆発的な威力がついた感じ。

当然の事ながら、抵抗や軽減の類を一切受けつけない。

 

『ブラストエクスプロージョン』

火系の上級魔法。祐樹の最も得意な魔法。本当なら詠唱がとても長いが、祐樹は無詠唱で使える。

指定した場所に大規模な爆発を起こすもの。イグニッションに近く、より威力が増したもの。

この魔法を平気で使えるのは世界に数人しかいないため、祐樹の名前を有名にした原因の一つでもある。