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「はい、ここが君の部屋・・・もとい、俺の部屋な」
中は綺麗になっている。
あまり無駄な物は買わないし、ためないようにしている。
広さも一人では大きすぎたくらいなので二人でも余裕で生活できる。
「ありがとう・・・」
気弱そうな声でお礼を言ってくる少女。
そういえば・・・
「名前は?」
「・・・佐倉優菜」
「佐倉優菜さんね。んじゃ、これからよろしく」
「・・・うん」
ちょっとだけお辞儀してくれた。
まだ安心できてないんだろうな、と思う。
というか・・・そのお辞儀がかわいくみえるのはなぜだろう?
「あ、そうそう。ここ部屋がふたつに別れてるから、俺がこっちで、佐倉さんはそっちね」
扉の向こうを指す。
本当は二人部屋だったようで、仕切られている。
「問題があったら言って?」
「うん・・・」
「あと説明することは・・・」
「あなたの名前は・・・?」
「あ・・・」
そういえばすっかり自己紹介を忘れていた。
「俺は相川祐樹っていうんだ」
「うん・・・」
{それで、どうするの?}
「そうだなぁ・・・とりあえずはこれでいいんじゃないかな?明日は土曜で休みだし、日用品は明日買いにいこう」
{そう。良かったわね、ユウナ}
「うん・・・」
「何か飲み物いる?」
俺は冷蔵庫を見る。
まともなもんねぇな・・・。
コーラと、うわぁぁぁい!お茶くらいだな・・・。
「・・・うん」
「右と左どっちがいい?」
「右・・・」
「了解」
理解してくれたのが恐ろしいが、気にしない。
俺はグラスに注いで佐倉さんに出す。
「ありがとう・・・」
「いや、なんのなんの」
その飲み物を飲む姿を見ながら不意に考えた。
(記憶喪失になる前は・・・どんな子だったんだろう?)
{そうね・・・}
(うわっ!!いきなり声出すな)
{いい加減慣れなさい。で・・・そうね。すごく勝ち気だったわ}
(勝ち気?)
俺は目の前で、炭酸で涙目になっている少女を見る。
{元気で明るくて・・・いざってときに頼りになる子だった}
(そっか・・・)
まるで母親みたいに話す解放。
それだけ長い時間を共有してきたんだ、と思って少し妬けた。
{だから・・・明日から、よろしくね?}
(任せとけ。彼女が記憶をとりもどすまで、ちゃんと面倒見るよ)
{うん}・・・
「ね、ねぇ」
「・・・」
「そんなにくっつかれると恥ずかしいというか歩きにくいんだけど・・・」
佐倉さんは体をちぢめて俺の腕に抱きついている。
やっぱり・・・記憶喪失のうえに、慣れてない世界で人混みの中は堪えるのかもしれない。
俺はなるべくいそいでデパートへ向かった・・・。
「まずは・・・なんだっけ?」
{服ね}
学校は制服ではないため、私服を買えば学校にいける。
だけど、彼女はこの身一つでこの世界にきたのだから、着替えなどあるわけがない。
・・・あれ?イヤな予感がするなぁ。
なんだろう?
「この服はどうかな?」
{ユウナになら似合うんじゃないかしら?}
剣を持っていると怪しまれるので、袋で隠してある。
だが、それでも服は見えるようだ。
三人の同意で着替えてもらう・・・。
「・・・うん、似合うよ」
{ユウナは素材がいいからね}
「・・・」
少しだけ頬を赤く染める佐倉さん。
どうやら照れているようだ。
この要領で選んでいく・・・。
「んじゃ、これで五着目だし・・・とりあえず今回はこれくらいでいいのかな?」
{そうね。本当ならもっとほしいけど}
たしかに、女性が五着ってのは少ないかもしれない・・・。
でも、俺の財産からすれば仕方がないのだよ。
レジで清算した。
「次は?」
{そうねぇ・・・アレは最後に回すとして、身だしなみに必要なものかしら?}
「ハブラシとかそういうのか。よし、いこう」
「えぇと・・・シャンプー、リンス、ハブラシ、歯磨き粉、コップ、あとは?」
{ん・・・女の子にとって大事な用品かしら?}
「・・・っ!」
{あ、今ヤラしい事考えたでしょ?}
「ば、バカ!黙ってろ!」
顔が一気に熱を持った。
解放に指摘されて更に熱くなる。
「・・・」
佐倉さんも少しだけ怪しい目をしてる・・・。
うぅ・・・
{女の子には大事な事なんだから。といっても、ユウナはあまりいらないかもしれないけどね。念のために}
「わぁったよ・・・くそっ」
なんだかすごい罪の意識を感じながら買い物を済ます。
「・・・あとはなんだろ?」
体育着とか教科書なんかは学園生協で買えばいいんだし、もうないのかな・・・?
{じゃぁ、ラストいきましょう}
「ラスト?」
{下着}
・
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・
・
「・・・」
タラーッと汗が流れた。
そっか・・・これだよ、さっき感じたイヤな予感はこれだったんだ。
「さ、さすがに俺はそれは・・・」
{でも、この子はお金とかわからないし、出すお金もあなたのだし}
「う・・・でも・・・」
それでもやっぱりあのフィールドには・・・。
選べないし。
あ、いや・・・別に選びたいわけじゃ!
{それとも、この子放ってどこかでのんきに待ってるつもり?}
「あ、あんたがいるじゃないか!」
{ちっ・・・気付いたか}
「そうだよ!何も俺がついてなくてもいいんだ。良かったぁ・・・」
そうだそうだ、この剣がアドバイスして選べばいいんだ。
お金だってさっきまで俺の出し方を見ていたんだからもうわかるはずだし。
俺は心底安心した。
下着売場で男が女のを選んで、それを買っているなんて犯罪ギリギリの光景にならなくてよかった・・・。
あれ?でも女が男の下着買っても怪しまれないよな?
・・・やっぱり不公平だよなぁ。
「んじゃ、そういうことで俺はベンチで待ってる」
「うん・・・どこにも行かないでね・・・?」
「大丈夫大丈夫。飲み物でも買って待ってるよ」
「うん・・・」
「ぷはぁ・・・」
俺はコーヒーを飲んでまったりする。
(そういえば・・・結構今変なことになってるんだな)
なりゆきでこうなってしまったが、あきらかに非日常に入ってきている。
でも・・・それが俺はうれしかった。
(もしかしたら・・・本当はこうやってよく話す人がほしかったのかもしれないな・・・)
今、佐倉さんという人がいて、俺はそれを喜んでいる・・・。
やっぱり、そういうことなのかもしれない。
親しい人が・・・いや、佐倉さんと親しいかは微妙だけど・・・欲しかったんだろう。
少なくとも、解放とは気が合う・・・そんな感じがした。
でも・・・不意に思う。
記憶を取り戻したら、彼女は戦いに戻っていく・・・。
そうすれば、彼女は俺の元から去る。
その時が来るのが俺は少し恐かった・・・。
「ゆ・・・きくん・・・?」
「・・・へ?」
「祐樹君・・・?」
気付くと、目の前に佐倉さんがきていた。
「というか・・・祐樹君?」
「名前で・・・ダメ・・・ですか?」
「あ、いやそんなことないよ。こっちこそ惚けててゴメンね。買えた?」
「うん・・・」
「よし、次は・・・さすがにもうないかな?」
{そうね、もう大丈夫かな}
「そっか・・・それじゃ、帰ろう!」
「うん・・・」
・・・このことは、考えないようにしよう。
その時がくるまで・・・俺は精一杯彼女の傍にいる。
それだけだ・・・。
「・・・」
心地よい揺れを感じる。
ゆさゆさ・・・
「起きて・・・祐樹君・・・」
「ん・・・もうちょい・・・」
{ユウナ、私で斬れば起きるかも}
「わかった・・・」
「待った!起きるから起きるから!!」
俺はとんでもない言葉で目が覚めた。
全く・・・解放のヤロー。
「どうしたの?佐倉さん」
「友達・・・来てる」
「・・・へ?」
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン・・・。
さっきからウザいほどのノックがつづいている。
長すぎるぞ・・・。
こんなノックをするのは一人しか知らない。
「あ、そっか」
佐倉さんが出られるはずもないか。
俺はいそいでドアをあける。
「・・・」
「よぅ、遊びにきたぜ」
「たまには祐樹さんとあそびたいと思いまして」
フランクにあいさつしてきたのが広瀬雄司で、その隣の慎ましい女性が藤原愛香。
俺の数少ない友人で、中学の頃からの友達。
俺と雄司がテニス部でペアを組んでいて、マネージャーが愛香だった。
二人とも違うクラスだからなんとなく疎遠になっていたが、こうしてたまに遊びにきてくれる。
こいつらが同じクラスだったらうれしかったんだけどな・・・。
「入っていいか?」
「ああ、いいよ」
二人とも記憶はすでに操作してあって、佐倉さんの事も大丈夫なはずだ。
「おっ、やっほー、佐倉さん」
「・・・」
「コラ、ダメよ?そんなにフランクじゃ」
「あ、そっか。こんにちは、佐倉さん」
「こんにちは・・・」
ちょっと怯えながらも返事をする佐倉さん。
そうだ・・・佐倉さんは初対面なんだっけ・・・。
愛香がいなければちょっと気まずかったかもしれない。
「それにしても、本当に同室だったんだな」
「ああ」
「普通ならありえないけど・・・ま、別にいまさら気にするような事でもないでしょう」
「それで、今日はどうするんだ?」
「気が利かないのですね、祐樹さん」
「・・・あ」
愛香になんとなく諭され、俺は飲み物を取り出す。
こういうところで、どうも俺は彼女に尻にしかれている気がする。
・・・不意に裾がひっぱられた。
「ん?どうしたの?佐倉さん」
「あの人たち・・・誰?」
「あ、そっか。男の方が広瀬雄司。女の方が藤原愛香。どっちもいいヤツだよ」
「・・・」
堅い顔で二人を見つめる佐倉さん。
まだ、ちょっと緊張しているようだ。
「大丈夫、きっとすぐに仲良くなれるよ」
「うん・・・」
「そういえば佐倉さんは部活とか入ってないよな?」
「うん・・・」
というか、まだ学校に行ってもないけどな。
という言葉はしまっておく。
「佐倉・・・」
「え?」
「佐倉で・・・いいです・・・」
「ホントに!?うれしいなぁ!」
「あと・・・藤原さんも・・・」
「ありがとう。私もそう呼ばせてもらいますね?」
(・・・結構がんばるじゃん、佐倉さん)
その姿を見てつい感心してしまう。
「それでさ、佐倉は部活やるつもりとかない?」
「部活・・・?」
「そう、テニスなんかいいよぉ?」
「オイ、それってただの勧誘じゃないか」
「当たり前だろ?誰が佐倉を他の部にわたすかよ」
「渡すって・・・おまえ、佐倉さんは物じゃないんだから・・・」
俺はそういう雄司の性格に呆れる。
だが、それがおもしろくてコイツとこんなに長く付き合っているんだろうけど・・・。
「祐樹君・・・」
「へ?」
「優菜で・・・いいの・・・」
「・・・は?」
「は?じゃないですよ祐樹さん。佐倉がそう呼んで欲しいって言ってるんですよ?」
「あっ、はいはい」
愛香に言われてやっと理解する。
でも・・・
「なんで祐樹だけ名前なんだ?」
俺の疑問を代わりに雄司が言った。
雄司は変にニヤニヤしているが・・・。
「恩人・・・だから・・・」
「恩人?」
「あーあー!なんでもないなんでもない。とにかく、俺は佐倉さんの事、そう呼んでいいんだよな?」
「うん・・・」
これ以上続けると、何かがバレてしまいそうなので無理にまとめる。
「んと・・・優菜さん・・・は何か部活やりたい?」
「さん、は・・・いらない」
「え゛・・・」
つい、うめく。
女子を呼び捨てにするなんて・・・初の試みだ。
「え、え〜っと、優菜・・・は何か部活やりたい?」
「考えてみる・・・。面白そう・・・」
ちょっとだけうれしそうな表情をしてそう答えた。
むぅ・・・恥ずかしいぞ。
「おう!いつでも歓迎するからな!ついでに俺の彼女もかんげ・・・」
「雄司さん・・・?それ以上言ったら・・・ふふふ・・・」
あ〜ぁ・・・雄司固まってるよ・・・。
そんなこんなで騒いで日曜日は終わったのだった・・・。