作者のページに戻る






砕けたペンダントの破片・・・

血に染まって後一ページ分しかない日記・・・



全てを持って・・・・・・・・行こう・・・・・・・・・・・・・













『最後の日・・・始まりの想い』





―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――

早朝

陽が昇る前からここを出る準備は出来ている。
誰の見送りもいらない、私は私の道を行くためにここを旅立つ。

「行こう、クロン」
「ワン」

それだけのやり取り、そして私はもう一度だけ日記に目を通す。
最も重要な部分だけを取り出すように・・・


―――「どんな自分でも卑下しないで見てあげなさい・・・それも自分だと感じなさい」―――――――――――――――――――

―――「最後に一つだけ言うけど、自分らしく有ると決めたのなら自分らしくその相手も信じてあげなさい・・・これは必ずよ」―――

―――「私は・・・私はそれでも一緒に居たいんです!!!!!私として見て欲しいんです!!!!」―――――――――――

―――「追います!!!間に合わなくなる前に、絶対に追いついて見せます!!!!」――――――――――――――――


パタン・・・

それだけを心に刻み、日記をしまう。
心は決まっている、もう迷いは無い。

「最後の一ページに何が書かれるのか、それとも私はもう何も書けなくなるのか・・・・・もしそうだとしても、行くよ・・・私は」

朝焼けの空に呟いて部屋を出るとそこには既に誰かが待っていた。

「アリス、行くのね・・・」

私がここを出るのを始めから知っていたかのような問いかけに別段驚くことなく答える。

「はい、お世話になりました・・・貴方にはいくら感謝しても到底足りるものではないと思います」
「ふふっ・・・なら足りない分はあんたがこれからの行いで返しなさい。いいわね?」
「はい!」

晴れやかな笑みに満足して下さったのか、私に近寄ると抱きついてくる。

「・・・・・良い顔になったわアリス、昨日のあんたとは大違いよ」
「はい、貴方のおかげです。本当にありがとうございました」
「いってらっしゃいアリス・・・絶対にあんたの想いは負けないから、だから帰ってらっしゃい・・・必ず」

それだけ言って私を離して背を向け歩き出す彼女、その背中にもう一度だけ頭を下げてから逆方向に歩き出す。

・・・・・・・・行って来ます・・・・・・・・・・お世話になった方々・・・・・・・・・・・私は私の答えを見つけますから・・・・・・・・

決めた事を繰り返しながら、城の外に向かって歩く。
城内は私のためを思っているのか、誰の気配も感じない上に完全に静まり返っていた。

「行こう!!!私の全てが始まった『想い』に!!!」

城の外に出て、朝焼けの空に叫びハイロゥを展開する。
やはりまだ血に染まった翼が後ろにあるが、もうそれすら私の一部と認めているので嫌悪は無い。

・・・・・どのような物であっても自分と認め一歩を踏み出す・・・・・それこそが・・・・・人が生きる道・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・私の生きる道は私が決める・・・・・もう・・・・・絶対に迷わない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

真紅の翼を全開に広げてまだ暗い空に飛び立っていく。

『新たな始まりが有ると信じて・・・』




――――――――――――――――――――――――

何処かの山中

何故だろう?・・・体が向かうべき場所を知っているかのように動いている。
先ほどから疑問に思っているが、答が解かっているのか気になる訳でもない。
なぜなら、私を呼んでいるのが・・・解かるから・・・

「ねえクロン・・・お願いがあるのだけど」
「ワン?」

肩に乗せているクロンに昨日から考えていた事を先に言っておこう。

「あのね、もし私が危なくなっても絶対に割って入らないで・・・お願い」
「・・・クゥ・・・」
「あはは・・・お願いだよクロン。心配なのは解かってるけどこれは私が決めた事だから・・・ね?」
「・・・ワン」

渋々といった感じで納得してくれるところがなんとも人間味溢れていて嬉しい。
優しく頭を撫でると恥ずかしいのかそっぽを向かれてしまった。

「ふふっ、可愛い」
「クゥゥ・・・」

久しぶりにクロンと遊んでいる気がした・・・
それくらい私は今まで余裕が無かったのかと思い前を見据える。

「終わりにしようクロン、でね・・・・始めるんだ!またあの場所で」
「ワン!!!」
「忙しくても、どんなに苦労しても、私はそこに居たい・・・皆で」

自分が決めた道をはっきりと明言して飛ぶ。
向かう道と向かうべき場所にもう違和感はなくなっていた。

・・・・・・そうだ・・・・これで良いんだよ・・・・・・・これが私だからね・・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・」

しばらく無言で飛び続ける・・・後少しで何かが見える気がしたから。




そして・・・・

「居た・・・私の始まりが・・・」

開けた場所の中央に人影を発見して、私は止まる。

「居た・・・私が終わりにする人が・・・」

翼を維持したまま地面にゆっくりと降り立つ。

「居た・・・私と共に歩んで欲しい人が・・・」

そしてその人影に向かって歩き出す。
私が来たのに気づいたのか視線をこちらに向け腰掛けていた大きな石から立ち上がる。
手には『無知』様が当然のように握られている。
しかしここで妙な違和感を覚える。

「体が、見えない・・・」

驚くべき事にあの人の体は薄く透けていた。
まるで今にも消えていきそうなくらいに弱くこちらを向く。

「よう、アリス・・・やっと来たか。――間に合わなければどうするかと考えていたところだ」
「・・・・・・」
「で、どうだ?俺を殺せる覚悟は当然してきたのだろうな?」
「・・・・・・」
「出来ないのならばお前が死ぬだけだ、俺はもう時間が無いのでな、手短に行くぞ」

既に半透明になっている無知様を構えて私の前に立ちはだかる。

「行くぞアリス・・・」
「まって・・・」

やっとここで私が口を開ける番が来たと思う。

「教えてくれるって言ったよね?追って来たら」
「・・・・・・」
「納得しないよ、何も知らずに終わりにするのは・・・」
「・・・・・・・・言いたい事はそれだけか?なら始めるぞ、殺し合いをな・・・」

それでも私を脅しに掛かってくるがもう私にそんなものは通用しない。
だから始めることにしよう、私らしさを・・・

「それだけだよ。それじゃ始めよう!!!!」
「・・・・・その前にだ・・・受け取とりな・・・」

そう言ってから何かを投げ渡してくる、暗くてよく見えないがかなりの大きさの剣だ。
弧を描いて私の手元に来た時驚きの声が上がる。

「えっ!?」

何時も良く見ていたこの剣は・・・・

「・・・『無知』様・・・・」
『そうだ・・・』

なんと『無知』様が手元に来ていた。
それならばとあの人の手元を見ると・・・

「ど、どうして・・・」
「・・・・・・驚いたか?」

同じものが相手の手にもあった。
とりあえず今持っている『風邪』を地面に置いてまじまじと見つめる。

「どうして・・・・」
『・・・簡単な事だ、我が造ったのだからな・・・汝とこの男・・・同じ物でなければ対等ではあるまい?』
「そういう事だ、力自体はお前もエターナル級になっているはずだ・・・・・・・さて、始めるぞ!!!」
「待ってよ!!」

私の叫びを無視して一瞬で私の前に踏み込むとなぎ払ってくる。

「くっ!」

何とか刀身を殴りつけるようにして弾くが、元々の力が違いすぎるため簡単に吹き飛ばされる。

「・・・・その程度じゃ、あっと言う間に終わるな・・・」

神剣を肩にかけて、悠々と私を見下ろしている。

「そうだな・・・、それじゃ一撃でも俺に当てられたら教えてやるよ、お前の意味をな・・・」
『・・・・アリスよ、知りたいのならば戦え・・・道はそれしかない』

先ほどからなのだが、『無知』様から発される言葉に何故かおかしな感覚を覚える。

・・・・待ってよ・・・・・・『無知』様はなんで何も言ってくださらないの?・・・・・・『無知』様ならこの人を止めるくらいは出来るのでは・・・

「『無知』様!!!――何故、何も言ってくださらないのですか!?」
『・・・・・・』
「こんな馬鹿な事は止めさせてください!!お願いします!!!」
『・・・・・・アリスよ、戦うのだ・・・・それが汝に与えられた道だ』
「・・・っっ・・・」

・・・・・どうしてよ・・・・・どうして・・・・・私の事には耳を貸してくれないのよ・・・・・・・・

「無駄だアリス、そいつにはそいつの考えがあるんだ。お前にもあるようにな・・・」
『・・・・そうだな』

やはり幾ら言っても無駄なのかなと感じた私はやっと理解する。
・・・この場を『知る』には戦う事しかない事に。

・・・・駄目じゃない私・・・・・自分の知りたい事は自分で探さなきゃ・・・・・・待ってるだけじゃ・・・・・・終わってしまうから・・・・・・・・・

・・・・そうだよ!!・・・・戦うべきは『何時か』じゃない・・・・・・戦うのべきは『今』だから!!!!

あえてだらりと構えを取る私を見てやはり失望したのか挑発をかけて来る・・・が・・・

「どうした?昨日みたいに『私には戦えません』とか言い出す気・・・」
「はっ!!」
「!!」

まさかここで斬り込んで来るとは予想外であったのか反応が鈍い。

「ちっ・・・!」

避けようと体を捻るが、遅い!!

「はああああ!!!!」

左腕を袈裟斬りで落として流れをそのままに体を回転させて横に薙ぐ。

「甘めぇ!!」
「っぅ!」

攻撃の先を見切られているためか二撃目は簡単に弾かれる、しかし・・・

「最大解放!!発射!!」
「なっ!!」

翼を一瞬で展開してありったけの血の羽を叩きつける。
今回ばかりは回避不能のタイミングであったのかほぼ全てが直撃していた。
代わりに私は弾かれた反動で腕が痺れているが気にしている場合ではない。

「つぅ〜〜!!痛てえな・・・・」

「・・・・・・」
「全く、昨日とは大違いじゃないか・・・」

たった一日だけ、されど一日を馬鹿にした方がこの一瞬の勝負に負けるのは当たり前。
もう一度構えを取ると、こちらが本気なのに気づいたのかやっと真実を語りだす。

「・・・いい顔だな、それなら良いか・・・俺がお前を造った意味をまず教えてやる」
「ええ・・・お願いします・・・」

やれやれと言った口調で私の事を話し始めるこの人の顔はなんだか穏やかで、優しかった。

「今からたったの38日前・・・お前が生まれた日の事だ」

たった少しの間なのに、まるで長く辛い記憶を呼び起こすように語る。

「あの日俺たちはある城に潜入した。目的はそこに保管されているエーテル・・・つまりお前を構成している物だ。
何故エーテルが必要になったのか?・・・それが今の俺が答だ』

両手を広げて消えかかりそうな体を見せる。
私はそれに少しだけ悲しみを感じながらも頷いて続きを促す。

「俺が既に消えそうになってたんだよ・・・だからエーテルが欲しかった」

・・・・・・・ん・・・ちょっと待って・・・・・ならなんでエーテルを私を造る為なんかに使ってしまったの?・・・・

・・・・・消えかかっていたなら自分に真っ先に補充するべきなのに・・・・・

そんな疑問がよぎり、問いただそうとすると同時に私の疑問の回答が返って来る。

「因みに自分を構成するためじゃない、俺は限界に近かったからな・・・存在自体が・・・・」
「・・・・存在自体・・・?」
「そう、俺が俺であれる時間がもう無かった・・・つまり俺が存在出来る時間が限界だったんだ...」
「・・・・・・・」
「昨日言ったよな・・・存在しなかった事にするとそしてそれは俺も例外じゃないと・・・、しかし・・・」

沈んだ声で続きを語るこの人は何かに脅えているようだった。

「もし、俺が心を失ったらどうなると思う?」
「・・・・・・・・」

・・・・・存在しないのに心はある・・・・・それで心すらなくなったら・・・・・・その存在は・・・・・・・

・・・・・まさか・・・・・・

顔に出ていたのか、私が回答に行き着いたのを確認してから答え合わせに移る。

「解かったか?・・・俺は存在しないのに心はある、しかし心を失ったら・・・・当然何も残らない・・・・だがそれならいい・・・・
・・・何も残らずに『死ねるのなら』な・・・・」
「・・・・だから・・・・あの時・・・」
「そうだ、存在しない者に死は無い・・・つまり、何も無いまま永遠を彷徨う事しか出来なくなるのさ・・・」
「・・・・・・」

生きる事を諦めてしまったような顔に怒りが湧くがそれをそっと押し止めて真実を聞く。

「無敵の力と引き換えに、心と記憶を捧げる事・・・それが俺が交わした契約だ・・・」
『それに同調したからこそ我はこの男に加担して願いを叶えた。代わりに・・・我の新たな契約者、つまり捨て駒を探す事を条件に課してな』
「な?!」

・・・・捨て駒って・・・・何・・・・・・・・・・・

『文字通りの意味だ、我の力を操りきれる者は居ない・・・当然我の力を行使すれば代償に心と記憶を徐々に失い・・・果ては・・・・』
「『何も無くなる』って訳だ・・・だが、こいつも流石にそれは嫌らしい、だからこそ自分の力を行使してくれる新たな捨て駒が欲しいって訳だ」
『契約者が正当な死を迎えなければ、契約を破棄出来ない、すなわちこの男が死を迎える必要があるのだ』
「・・・さてと・・・・ここで問題だアリス、存在しない者を殺す方法はあると思うか?」

・・・・・・・・・無い・・・・絶対に殺せるわけ無いよ・・・・・だって・・・・・何も無いのにどうやって殺せば良いの・・・?

・・・・斬っても駄目・・・・・体ごと消し飛ばしても、存在しない者を殺したことにはならない・・・・・・

「んん・・・」

完全に迷宮に入ってしまい答が出ずにいると・・・

「・・・その答がお前だ・・・あの時生まれた捨て駒のミニオンアリス・・・そして、俺達の奇跡・・・」

私を慈しむ様な視線を向けるとおもむろに語りだす。

「さっき言ったエーテルはお前が世話になった所から持ち出したものだ、だがな・・・本当はお前を造る気は始めから無かった。
本当の目的は珍しいエーテルを確保している組織があったから俺の維持に使えるのじゃないかと思って盗みに入ったんだ・・・・だが・・・
・・・あの時俺たちはヘマをしちまってな、逃走中に補足されて戦闘になってしまった・・・。
しかし俺は力を使うわけにはいかないし体を消滅させられれば死にはしないが盗んだものがパーになってしまう・・・そこでだ・・・」

もう一度私と視線を交わして、残酷な発言をする予兆を取る。

「捨て駒を造る事にしたんだ。俺たちが逃走できる時間を稼ぐためにな」
『故に我等は適当な構成で捨て駒ミニオンを早急に造り、置き去りにした・・・だが・・・』
「・・・・」
「逃げようとした俺達の目に最初に映ったのは・・・・・真紅の羽を生やしたお前が敵を虐殺する姿だった・・・」

・・・・・・・・・・なに・・・・それ・・・・・・・・・・・私がやったの・・・・・・・・・そんな事を・・・・・・・

・・・・・そうか・・・・・・だから私は血が・・・・・・消し去った敵の血を浴びて・・・・・・血が嫌いに・・・・・・

「そこで確信したのさ・・・『こいつなら俺を終わりに出来る』ってね」

期待に満ちた目を私に向けてくるが、なんだかこの目を見ていたくなくなり視線を逸らす。

「しかし、予定は未定。トラブルはつき物・・・やっと見付かったかと思って連れ帰ったが・・・
お前の力は消えてしまい、残ったのは不規則な力を持つ只のミニオンだった」
『それから我等はなんとかその力をもう一度発現させようと戦闘をさせてみたり、あえて苦境に立たせるような試練を課した・・・』
「それも無駄に終わったがな、結局お前を構成するエーテルが足りなくなり暴走するようになってしまった」
「・・・っ・・・」

急に今までに殺してきたミニオン達の事が思い出されて胸が苦しくなる。

・・・・なによ・・・・・・じゃあ・・・・あの子達が死んだ事は・・・・・意味なんて・・・・・無いって事じゃない・・・・・・・

私の心境など無視して話を進める二人。

『汝を構成するエーテルは特殊な物でな、普通に手に入る物では無いのだ』
「だから俺達はある大博打に出ることにした。―――お前を置き去りにして町に出させてあの城主と合う事に期待してな」

ここまで上手く行くとはな、と言ってからかってくるが私の内心は怒りに燃えている。

・・・・なにが、大博打よ・・・・・・自分のためだけに沢山の人を巻き込んで・・・・・・・・・・・・・・

・・・あの時・・・・私はどんな心境で・・・・生まれたての何も知らないミニオン達を殺したと思ってるのよ・・・・・・・

・・・・あの子達・・・・皆苦しそうだった・・・・・死にたくないって目をしてた・・・・・・

「あの城主は自分が精製したエーテルで構成されている存在をむげに扱う事は無いと聞いているからな、お前が暴走した状態で見付かれば
確実にお前のエーテルは補充されるし、それで力が戻れば一石二鳥だな・・・・っ!?」
「ふざけないで!!!」

いきなり怒鳴り、一気に間合いを詰めて、一閃する。
向こうも同じように切り返して刃が重なり、金属音を立てて鍔迫り合いの状態に移行。

「貴方の事情なんて知らない!!!でも、自分のためだけにどれだけの人が犠牲になったか・・・・」
「関係ないな・・・言っただろ?俺を殺せないならお前を殺すと・・・はっ!!!」
「ぐぅ!!」

脇腹に蹴りを喰らい思いっきり仰け反る。
更にそれを完全な隙と見たのか構えを取らずに私の左腕と右足を切断する。
支えを失った私の体は当然の如く地に落ちる。

「・・・っっ!!!・・・い、たいよぉ・・・・」
「っはは!!まるで芋虫みたいに滑稽だな・・・アリス」

・・・・・・・駄目だよ・・・・・・勝てない・・・・・・・・力が違いすぎる・・・・・・それに・・・・・どうしても本気になれない・・・・・・・

血の海に仰向けに寝ている私にとどめを刺さずに見つめる瞳は何かを急かしているように感じる。
続けてそれを証明するかのような言葉が頭上から降って来た。

「・・・・ここからだろ?悪役を倒す正義のヒロインの逆転劇はよ?」
「えっ・・?」
「ほれ!何呆けている・・・俺が殺したいのだろ?ならさっさとしろよ・・・お前の力でな・・・」

さも早くしろと態度で示すように両手を広げて待っている。

「どうした?来ないのならまたお前と同じクズミニオンでも造ってお前を殺させてみようか?
そうすればまた苦しむだろうなそいつは、『殺したくないよ』と・・・」
「っっ!!!」

怒りが湧く。

「それだけはさせない・・・・こんな思いはもう誰にも!!!」

そこまで言い切る私に満足したのか私の顔を覗き込むと言い放つ。

「そうか、それなら話しは早い・・・な!!!」

一閃・・・

「いああああああああああ!!!!!」

今度は残っている右腕と左足を斬りおとされた。
激痛どころではない痛みに意識が遠のきそうになるが、それをさせまいと私の体を少しずつ刻んで行く。
胸を、残っている肢体を・・・

「本当に死ぬぞ?」
「・・あ・・あ・・・うっ!!」

ゆっくりと刃が体を通り過ぎていく感覚に激痛と恐怖を覚える。
止めて欲しいという感情だけが先にきて他の事を考えられなくなっていた。

「・・・や、め・・・て・・・・」

やはり懇願しても無駄なのか、無言で私を刻み続ける。
やっと自分の馬鹿さ加減に気づいたのは諦めが心を支配しきった時だった。

・・・・・なんで・・・・・こんなに痛い思いをしなければならないのだろう・・・?・・・・・いっそこの人を殺せば・・・・・終わるよね・・・・・・

・・・・・・・痛いのは嫌だよ・・・・・・・・痛くなくなるには・・・・・・・・・・殺せば良いんだ・・・・・・すぐに死んでもらえばいいんだよね・・・・・

「・・・ねえ、・・・痛いの・・・・嫌だか、ら・・・・死ん、で・・・ね・・・・」
「・・・・おう!死んでやるから早くしな・・・・」

私が宣言しても斬る手を止めずに続けてくる。
もう、無理だった・・・この拷問に耐え続ける事は。

「さ、よう・・なら・・・」

全力で血の翼を解放して地面に這いつくばったまま『終わりの力』をこの人に向けようとする。
その行為を待ち望んでいるように目を閉じて待っているこの人。

「えっ・・・あ、れ?」
「・・・・?」

力を発現しようとするのだが、何かが私を押し止めているらしく動けない。

・・・・・どうして・・・・・・もう終わりにしたいのに・・・・・・・もう嫌なのに・・・・・・・・・・あ・・・・れ?

何時の間にか視界がぼやけている事に気づいてみれば・・・
一筋頬を伝うものがある。

・・・・・・・・おかしいなぁ・・・・

それに気づいた時にはもう涙が溢れて止まらなくなっていた。

・・・・・・違うよ・・・・・・こんな終わりじゃないよ・・・・・・・私が望んだのは・・・・・・・・・もっと温かくて・・・・・・・・

・・・・何時までもそこに居たいと思うくらい幸せで・・・・・・・・家族が居て・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・私を見てくれる人がそこに居る・・・・・・・・・・・・・・そんな場所・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「違うよぉぉぉ!!!!私が居たいのは!!!!!あの場所なんだよ!!!!!」

力の限り叫んでいた。
それに面食らったのか完全に硬直しているが、そんな事はもう関係ない・・・・・

「皆が居て・・・何時までも幸せで・・・忙しくても・・・・苦しくても・・・・私はあの場所に居たいんだよぉぉぉ!!!!!!!」
「・・・・アリ、ス・・・」
「もっと私を見てよ!!!勝手に殺せなんて・・・私だって貴方なんか殺したくない!!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「馬鹿ぁぁぁぁ!!!!私だって女の子なのに・・・・それなのに私の気持ちも考えずに殺してなんて言わないでよ!!!!!」

この人の事など関係ないと感じているためか今までに出なかった言葉が一気に溢れて止まらなくなる。

「何時までも一緒に居てもらって!!!・・・・・それで今まで私が苦労した分我侭聞いて貰うんだ!!!!」

・・・・・止められないよ・・・・・・・勝手に言葉が出てくる・・・・・・・・・

「そして、ずっと一緒に・・・・・・・暮ら、して・・・・・・・・皆で幸せ、に・・・・笑っ、たり・・・・怒った、り・・・・・」
「・・・・っっぅ」
「・・・それ、でも・・・・皆、一緒・・で・・・・・・・うぅぅああああああああぁぁぁぁ!!!!!!」

泣きじゃくる私を前に呆然と立ち尽くすこの人。
だが最後には根負けしたように私を抱き寄せて囁く。

「・・・ふう・・・・完全犯罪者に有るまじき誤算だな・・・まさかお前がここまでお前が俺なんかに好意を寄せているなんてよ」
「・・・うぅ・・・駄目、だ・・よ・・・・・自分を・・・『なんか』なんて・・・言っちゃ・・・・」

その言葉に驚いたように顔を覗きこまれると、昔を懐かしんでいるような表情になる。

「・・・そうだな、お前の言うとおりだ。何時からなのか・・・自分を卑下するようになったのは・・・」
「・・・・ふふっ・・・・」
「っはは・・・」

どのくらいの間このやり取りを忘れていたのだろうか・・・
遂に取り戻したのだ、私の望む事を。

「ねえ?また戻れるよね?あの時に」

何気なく聞いてみたが、その問いには答が返ってこなかった。

「ねえ・・・答えてよ・・・」
「・・・・・・・」
「ねぇ・・・お願いだよ・・・」
「・・・アリス」

長い時間の後やっと答が返ってきたがそれは望むべきものではなかった。

「・・・時間だ」
「えっ?」

私を抱きかかえたまま『無知』様を払うと私の体が一瞬にして元に戻る。
だがそれに驚いている暇も無い。

「ちょ、ちょっと待って!!!!」
「・・・もう、俺の時間は終わりに近かったのさ、別にお前のせいじゃない」
「・・・なんで・・・」
「悪いなアリス、お前の要望は叶えられそうに無い」

元から半透明だった体は、もうほぼ消えかかっていた。

「待って!!!行かないで!!!!」
「・・・とりあえずお前に俺を殺させてたら・・・後悔していた気がするから別に気にするな・・・本当に悪かったなアリス」
「そんな事どうでも良いよ!!!!だから勝手に・・・・っ?!」

手を伸ばしてみたが、もはや何も無いのかすり抜けてしまう。

「そんじゃ、アリス・・・お前はお前らしく生きな・・・」
「っっ!!」

・・・・駄目なの?・・・・・・・ここまで来たのに・・・・・・・ここで終わってしまうの?・・・・・・・

・・・・・・ううん・・・・・違う・・・・・・・・・・終わらせるんだ・・・・・私の力で・・・・・・・・

「まだ、始まってない・・・だから終わらせるよ・・・・私は・・・・」

もう一度血の翼を展開して、力を込める。

・・・・・ようやく解かった・・・・・・・私が本当に終わりにするべき事が・・・・・・・

・・・・終わりにするのは貴方じゃない・・・・・本当に終わりにするのは・・・・貴方の・・・・・終わりを終わらせる・・・・・・

「・・・・私の名前はアリス・・・」

・・・・それは・・・・大好きな人が与えてくれた名・・・・・・・・・・

「帰ろう、全ての・・・『始まりの想い』へ・・・」



















―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――

アリスの部屋


「早く来てくださいよ!!しばらくお家のお掃除しなかったからホコリだらけです!!」

「はいはい・・・んで、何故に俺がお前の部屋を掃除しなければいけないんだ?」

「天罰です!!私が苦労した分はきっちり働いてもらいますからね」

「そうか、なら下着でも見付けてやろうか・・・って、ぐほっ!!」

「・・・・・馬鹿ですか?」

『むしろ変態だな・・・』

「ワン!!」

「おいおい・・・女の部屋を掃除させておいて変態はないだろ・・・男なら確実に探す気が出るはずだ!」

「力いっぱい肯定しないでください!!この馬鹿!!」

「ま、いいか。んじゃ始めるか・・・これからは何故か同じ部屋で生活しろとのアリス様からのご命令だからな」

「べ、別に嫌ならいいですけど・・・・」

「拗ねるなよ・・・ガキじゃあるまいし・・・」

「ガキとはなんですか!?女の子に向かって失礼ですよ!!!」

「その態度がガキだって言ってるのに・・・」

「な・ん・で・す・か?」

「なんでもありません・・・・アリス様・・・」

「よろしい!!では続けて」

「了解・・・『下着探しを続けますアリス司令!!!』」

「・・・・・・」

日記の最後はここで書けるらしい・・・だから幸せ・・・

「最後の日・・・終わり」






―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――

あとがき

終わった!!!
それが最初に思ったことです。
遂にダークストーリーは終わりを告げました。
これでやっとアリスのツンデレと可愛い部分だけを抽出したSS・・・『アリスのツンデレ日記』が書けます。
もう内心大万歳!!!
ツンデレだけを書けるなんて最高です。

では、ここまでお付き合い頂いた皆様ありがとうございました!!!



作者のページに戻る