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さてと今日も日記書かないとね♪

・・・でも、今日は特に珍しい事は無かったな・・・・・・・・

部屋からは余り出られなかったからしょうがないよね・・・・

・・・・・・・私の処遇がどうなるかの会議もあったみたいだし・・・・

・・・アーク様は大丈夫って言ってたけど・・・・・本当に大丈夫かな・・・・・

そんな事を思っていても信じられるのは私が楽観的だからだろうか。

えっと・・・・とりあえずは今日は大人しくしてないといけないよね・・・・・

あはは・・・・・・・・・・・・だから今日はちょっと詰まらない日記になっちゃうかな・・・・・

適当に考えつつ何時も通りに日記を取り出す私。
しかし、今日は妙な違和感を感じた。

あれ?・・・・・日記の次に書く部分が切り取られてる・・・・・・?

次のページが綺麗に切り取られていた。
普通に見れば解からないくらいに。

私は誰にも日記を書いているなんて言ってないのに・・・・・・一体誰が・・・・?

・・・・う〜ん・・・アーク様じゃないよね・・・・・・絶対に・・・・・

それなら・・・・・誰?

一体・・・・誰が・・・・・



「36日目・・・切り取られたページ」

――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――

同時刻アーク城屋根

「全く・・・本気で書いてやがったのかアリス」

適当に切り取ってきた白紙のページを弄ぶ。
しかし今更になって思ったが、なんで切り取って来たんだろうか?
気まぐれか?いやなんとなくか、って同じじゃねーか!

「しかし予定は順調過ぎだな・・・・この博打も俺達の勝ちらしいぞ」
『そうだな。誤算の上の博打だったからな成功確立は低かった』
「ここにアリスが辿り着かなかったら終わっていたな、確実に」

・・・・・・本当に・・・大博打だったな・・・・傍から見ていてヒヤヒヤしたぞアリス・・・・

・・・・・・・・あのままお前が飲まれるようなら・・・・・俺は・・・・・・・

『ところで、もはや時間が無いぞ。汝には』
「解かってるさ・・・・自分でもヤバイって位はな・・・」

・・・・っはは・・・・確かにヤバイな・・・もう、大部分が消えて来てるしな・・・・・・

・・・・このままじゃ完全に終わるのは時間の問題か・・・・・・・・

『そうか・・・。我との契約を忘れるな』
「はいはい。今回は大丈夫だって信じるさ・・・アリスを――――俺達の『奇跡』をね」

また白紙を弄ぶ。
そのまましばらく遊んでいたが急に思い立つ事があった。

・・・・なんだ?俺は残したいなんて思っているのか?アリスみたいに・・・・

だからコレを勝手に持ってきたと・・・・そう言いたいのか俺?

・・・もしそうなら・・・・・マジで終わりそうだな・・・・俺は・・・・・・

「っはは!!それも良いか!!!」
『どうした?狂ったか?」
「いんや。たまには狂ってる俺もいいかとね♪」
『それは狂ってるのを認めるのか?』

・・・・いいさ・・・・狂っていても・・・・・・・・・・今が俺であるならな・・・・・・・

・・・・・書いてやろう・・・・・・俺の残っている俺をな・・・・・・

それから適当に屋根に腰を下ろしてからおもむろに万年筆を取り出すと書き始めていた。


自身の過去を・・・




―――――――――――――――――
いつかの街中

「相変わらず稼げねぇな」

ぼやきつつ街中の片隅に腰を下ろす。
手元にはわずかな小銭が握られていた。
因みにこれが今日の稼ぎだ、金銭的に見て飯一回食ったら店の主に殺される・・・。
早い話が、一回も食えないわけだ。

「はあ・・・売れない芸人は辛いってか」

今日は適当にネタを街頭で披露したが、思わぬ強敵がいた。
まさか、題材主に見付かるなんて誰が思ったろうか。

「しっかし・・・・あのスピリットの姉ちゃんマジで怖かったぞ。本気で怒ってたしな」

実はとあるスピリットの姉ちゃんを見た事があり、いかにもツンツンした見た目であったから面白くなってそのまま芸に使ったら・・・
見事に発見されてしまったのだ。
しかも遠征中らしい・・・こんな遠くの地で見付かるとは・・・これも運命か。

「やっぱ、あのタイプには融通は利かないな。言い訳するだけ無駄だった」

適当に言い訳しようとしたのだが余計に激昂して神剣まで取り出されてしまった。
・・・で、結局平謝り。

「逃げても無駄だからな。スピリット相手じゃいくらなんでも勝負にならん」

逃げていたらここには居ないかもしれないと思う。
それぐらい自分が使われるのがイヤだったらしい。

「ま、いっか。とりあえず今の現状の方が大事だ。―――さて!!!・・・・・・コレじゃ飯が食えない・・・・・今日も・・・・」

適当に小銭を数えるが、数えたからって変わる訳がない。

「はあ・・・・・。どうするか?――って探すしかないよな・・・安い店を・・・」

立ち上がり適当にふらつきつつ街を闊歩し始める俺。
当然怪しさ大爆発のため周囲の注目の的になっている。

「おいおい・・・・こっちの気も知らないで、『頭がおかしい人間ですね』みたいな視線送ってくるなよ」

さらに無理やり歩いていたら幻覚が見え始めた。

「ヤバイな・・・4日目じゃあ流石に持たないか・・・・ゴキブリ並みの生命力もこれじゃ年貢の納め時か・・・・」

無駄に体力を使うのに何故か言葉が出ているのは芸人だからか。
そんなこんなでいい加減視界がブラックアウトしかけた時にようやく店らしきものが目に入った気がする。
あくまで、気がするだけだが。

「はあ・・・・ここでいいんだよなぁ?・・・・・ってもうどこでもいいか・・・・・・特攻・・・・・」

死人の如き顔でその中に突撃して行く。



・・・・・・・今思えば・・・・・・・それが全ての始まりだったのかもしれないな・・・・・・・・・・・・・・・・・


んでもって、入って始めての言葉が。

「きゃあ!」

悲鳴だった。
おいおい、いきなり悲鳴かよ・・・勘弁してくれと思いつつ何とか顔を上げる。

「えと、あの・・・このことは誰にも教えないでください!!お願いします!!」
「はい?」
「だから!!私がここに住んでいる事です!!!」
「はぁ・・・・・?」

ダメだ、視界に入っているのに顔が見えない。
こりゃ本格的にヤバイな。

「本当にお願いします!!」
「解かった、解かったから・・・・・とりあえず飯・・・・・・」
「え?・・・・あれ?どうしました?」

ありゃ?本当にダメか。
この辺でダウンか?
と言うかやっと俺の異変に気づいたのか・・・・

「あの?・・・・えっと、大丈夫ですか?」
「・・・っはは・・・・・悪ぃ・・・・もう無理・・・」
「ええええ?!?!」


――――――――――――――――――


「いや〜。あんた凄いな、死人生き返らすなんて」
「はい?」
「通じないか。この場で『死ぬかと思った・・・・』じゃ詰まらないだろ?ありきたりすぎて」
「は、はぁ・・・」

ダメだ、芸人が何たるかが解かっていない。
そんな事を出された飯を食いつつ考えている。
ついでに言うと入った家は民家だったらしい、つまり予感大ハズレと言うわけで今目の前のベッドに寝ている彼女が飯を用意してくれた訳だ。

「えっと、あの、ところであなたは?」
「ん?俺か?―――俺は『名も無き芸人』」
「はい?」
「これもダメか。そうだなぁ・・・とりあえず芸で金稼いでいる奴って事」
「はあ・・・芸人さんですね。わかりました・・・でも、お名前は?」
「う〜ん。売れない芸人が名乗ってもなぁ、だから適当に呼んでくれ」
「じゃ、じゃあ・・・芸人さんで」

やっと解かったかと思っていた矢先、聞くべきことがあるのを思い出した。
今だから解かるが、この整った容姿、髪の色、そして棚の近くにある剣(刀か)・・・これが意味するところは。

「ところで、あんた・・・スピリットだよな?」
「・・・・・・・」

黙られちまった、まあ仕方ないか。
この世界じゃあスピリットは奴隷だもんな、俺がその気になればこの国に売る事も出来る。
つまり、俺が人間である時点で警戒されるのも当たり前か。

「気にするな。俺は別にあんたがスピリットだろうがなんだろうが関係ない」
「・・・・・・・・・」
「ちっ!確かに俺は人間だ。だが、別にお前を捕まえてどうしようとか考えている訳じゃない!いいか?」
「・・・・はい」

ふう・・・解かったらしいな。
とりあえずこれでまともに話が出来そうだ。
んじゃ、適当に聞きますかねぇ。

「まずあんたはここで何してるんだ?スピリットなら大抵国に保護(いや奴隷か・・・)されているはずだろ?」

一番の疑問だ。
こんな所にスピリットが居る事自体がおかしいし、そもそもここは外観的に家が見にくくなっている。
まあ、隠れ家に近いかな。

「・・・えっと、私はこの国から逃げ出してきたんです。だから見付かれば・・・」

はあ・・・・・そこで遮っておくか・・・

「もういいぞ。言わなくても解かったからな、早い話が『逃亡中の身であって、見付かるとヤバイからここに住んでることは言うな』って事だろ?」
「そう・・です」

さてね・・・・どうしようかね・・・・・俺が通報すれば結構な金になるけど・・・・・って俺がそんなに悪人になれれば生活も苦労しないか・・・・・

ここで悪人と言う単語を出した自分にすら疑問を感じる。

・・・・いや・・・・悪人にすらならないか・・・・・・・スピリットに何かして悪人になるのは精々国が保有する奴に手を出す事程度だしな・・・・

つまり・・・・このスピリットをどうしようが勝手か・・・・・・・まあ・・・・・・だからどうしたって感じだな・・・・・・・別に興味なしだし・・・・・

そんな事よりもこのスピリット自体に・・・・なんとなく裏がありそうだな・・・・・はっきり言ってそっちのが気になるな・・・・・・・・・よし!・・・・・

「わかった、あんたの事は言わない。ただし質問にいくつか答えてくれないか?」
「・・・話せる事だけならば、構いません」
「それで結構・・・」
「それと・・・ごめんなさい、こんな寝たきりのままで」
「気にするな、別に話せない訳じゃないだろ」
「ええ・・・そうですね・・・ありがとうございます。ではどうぞ」

・・・・・さてね・・・・・・何から聞くかね・・・・・とりあえず逃亡中って事なら・・・・・普通に暮らしてるわけだが・・・・・・・・ん?

早速おかしい点に気づいた。

・・・・おいおい・・・・・まず疑問に思えって・・・俺!・・・・・・この真昼間からベッドに寝てるんだぞ・・・・・おかしいだろ・・・・・

・・・・・それにスピリットが寝たきり・・・?・・・・・・・訳がわからん・・・・・・そんな例があるのか・・・?

・・・・もっと言えば・・・・・見たところブラックスピリットなのだから・・・・隠れ家ならもっと遠くまで行けるはずだ・・・・

ここは中心に近い所だし・・・・・・こんな所に隠れ家を構えても意味は薄いだろ・・・・・・・・・・・本気で探せば見付かるぞ・・・・・・

聞きたい事が多すぎる、これじゃ何から聞けば良いのか解からない。
仕方ないので、片っ端から行くしかないな。

「んじゃ聞くけど、あんたがここに暮らしているのは何故だ?・・・隠れ家ならもっとマシな所があるはずだ、それなのに――」
「待ってください!・・・・・その答の前にお聞きします。――私を見て疑問に思いませんか?」

どうやら先に聞きたい方が回ってきたらしい。
こりゃ好都合とばかりに答える。

「思うだろ・・・まずなんでベッドに寝たきりなんだ?病気か?」
「病気・・・確かにそうですね」
「治らないのか?」

その言葉に彼女は一旦長い黒髪に触れると、ゆっくり息を吐き出して答えた。

「治りません・・・こればかりは仕方ないんです」

ここで頭に浮かんだのは疑問の嵐。

ん?・・・何故だ?・・・スピリットはエーテルで構成されているって聞いたはず。

「おいおい・・・スピリットはエーテルさえあれば致命傷を受けない限りそう簡単には死なないだろ?」
「・・・・・・」
「それにエーテルが少なくなったからって寝たきりにはならないはずだ」
「・・・・・・」
「もっと言えば、治らないなら尚更国に保護してもらった方がまだ助かるかもしれないだろ?」
「・・・・・・」

不味い・・・しくじったか。
一気に聞いても相手の心象が悪くなるだけだ。
それに俺以上に彼女は当然自分の事を知ってるわけだ、それにずけずけ踏み込むわけには行かなかった。

「すまない・・・あんたにとっては命に関わるのに不用意に踏み込み過ぎたな」
「・・・・いえ、こちらこそ少し動揺していただけです。――だって、スピリットなのにここまで心配して頂けるなんて思っていませんでしたから」
「そうか・・・だが自分の事を『なのに』とかで表現するのは止めとけ。自分を卑下しても意味なんて無い。まあ人間が言っても説得力が無いが」

そこまで言った俺に向けられた視線は珍しさだった。

「・・・・珍しい方ですね。私がスピリットなだけで普通は話す事もしないはずなのに、あなたは普通に会話しようとしてる」
「おいおい・・・・しようとしてるんじゃなくて、『してる』の――いいか?」
「ふふっ、そうですね。失礼しました」

そう言って小さく笑った彼女だったが、それでも普通に会話できる人間が珍しいのかまだ俺を珍しげに見ている。
それからしばらくしてゆっくりと話し始めた。

「えっと・・・私の体の事ですが先に申し上げますと、病気なのですが原因が不明なのです」
「不明?・・・病気自体ははっきり解かっているのにか?」
「ええ・・・」

どうやら相当のモノらしい。
元々スピリットの病気自体聞かないのだ、原因不明にもなる。

「まあ解かったが、その病気自体はなんなんだ?はっきりしてるんだろ?」

その問いが一番痛かったらしく、一度視線を避けてから答が来た。

「・・・・体のエーテルが、毎日勝手に減っていってしまうんです。私が何もしなくても・・・ですから・・・」

泣きそうな彼女に小さく先を促す。

「・・・・続けてくれ」
「・・・はい・・・私はいずれ消滅します。―――多分長くない間に・・・」
「・・・・・・・・」

この答である程度の疑問が一気に解決した。

・・・・なるほどな・・・・・いずれ死ぬから国も探す必要がない・・・・・・・・それに・・・・別の国に流れてしまっても同じ結果だ・・・・

・・・・・・更に言うと・・・・反逆でも起こされても全く苦にならないわけだな・・・・・・・そりゃ適当に放置すりゃ死ぬ存在にかける手間も時間もないか・・・・・

・・・・・・・エーテルを消費するだけの出来損ない・・・・・・・・戦いすら出来ない奴の末路・・・・・・・・・

・・・・・・・つまり・・・・捨てられたのか・・・・・どこからも・・・・・・・・・・いや・・・『捨てられただけマシ』かもな・・・・・・

・・・・・・普通ならとっくに殺されているはずだ・・・・・・・・・・エーテル確保のためにな・・・・・・・・・・・・・今回は逃げられただけでも幸運か・・・・・

しばらく思考にふけっていた俺を彼女は申し訳なさそうな顔で見ているが、目は既に真っ赤だった。

「ごめんなさい!こんな事言われても困りますよね・・・」
「・・・いや」
「本当にごめんなさい!!今の事は聞かなかったことにしてください!!」
「いや、だから」
「いいんです!私の勝手な体の事ですから!」

どうやら話しの続きはこのままでは聞かせてくれないだろう。
とりあえずここは一旦落ち着かせるべきだ。

「解かった、解かったからよ、とりあえず落ち着け!」
「・・・・うぅ・・・あぁぁ・・・・」

言った時には泣き出していた。
俺は出来るだけ優しい声色になるように努力してから言う。

「泣いてもいい・・・・そりゃ怖いよな、自分が何時の間にか消えてしまっているんじゃないかと思えばな」
「・・・うぅぅ・・・は・・・・い・・」
「だけどな、・・・・泣いても良いことは無いぞ。――いいな?」
「・・・はい・・・」

泣き止ますことには成功したが、複雑な心境だった。
死ぬ事が決まっていて、なおかつそれすら解からない間に来てしまう。
最後には死の瞬間すら気づかない。

・・・・・惨いよな・・・・・・今まで散々な目に遭って来たのだろうに・・・・・・しかもなに一つ得られずに・・・・・・・死ぬ、か・・・・・・

・・・・・・極めつけは自分が死んだのすら気づけないなんて・・・・・・・・・・いくらなんでも・・・・・・・・・酷いよな・・・・・・

「・・・・・・・あんたの事はわかった。それじゃここからが本題だ」
「・・・はい?」

予想もしていなかったのだろう。
泣くことすら忘れていたような顔になった。

「あ、あの・・本題とは?」
「だから、あんたはどうしたいかって事。解かるか?」
「は、はぁ」
「イマイチ解かってないような顔だな・・・。いいか?――あんたはそれでどうしたいんだ?生きたくないのか?」

そこまで言った俺を見つめる顔は今度は驚きだった。

「え?!・・・その、あの・・・『生きたいか?』と聞いたのですよね?」
「そうだが、あんたは別の事に聞こえたのか?」
「い、いえっ!そうでなくて、私なんかに生きて欲しいのですか?」

結局先にでるのはため息らしい。

「はあ・・・。あんた本っ当に馬鹿だな!!自分が何も得られずに死ぬのに何も我侭言わないで死ぬ気か?!」
「・・・・・・」
「それで納得するならいい!!だが泣く程嫌なんだろ?!何も得られずに死ぬ事が!?」
「・・・・はぃ・・・・嫌・・・です」

やっと解かったかと言わんばかりの勢いで更に言葉を続ける。

「それなら折角ここにあんたに生きて欲しいと感じてる馬鹿がいるんだ。少しは我侭言ったらどうだ?」

もっと言ってやるかと思った時に気づいたが、また泣き顔になっていた。

「・・・・・ううう・・・・」
「おいおい・・・・また泣く気か?」
「ち、違うんですぅ・・・・嬉しくて・・・・涙が・・・・」

また複雑な心境だ。

・・・・・・泣く程に嬉しい、か・・・・・・・・・本当にロクでもない扱いだったんだろうな・・・・・・・・・同じ心があるのにな・・・・・・・・人間と・・・・・・・・

「解かったなら泣くな。可愛い顔が台無しだぞ♪」
「・・・え・・・・え!?・・・・・その、あの・・・あぅぅ・・・・」

今度は真っ赤になっている、意外に面白い。

「それじゃ解かったんならもう一度聞くが・・・『生きたいのか?』」

真剣な眼差しで聞いてみるが、彼女は既に笑っていた。

「・・・はい!生きたいです」
「それでいい。やっぱ素直にならんとな女は」
「むぅ・・・大きなお世話ですよ」

笑顔のまま冗談を返してきたが急に思い立ったのか真顔で聞いてきた。

「その・・・私の病気はどうなるかわかるんですか?」
「うんにゃ・・・解からん・・・が・・・」
「なら!どうやって生きるのですか!」

どうやら適当に聞こえたらしく少し怒った顔になっている。
まあ当然といえば当然だ、希望を見せるだけじゃ救われないのは一番彼女が解かっているはずだ。

「落ち着けって!話しは最後まで聞け!」
「あ・・・すいません・・・」
「ふう・・・。まあいい、とりあえず聞くがあんたはエーテルさえあれば生きられるのか?」

いきなりの問いに彼女の頭に疑問符が浮かんでいる。

「?・・・そうですが・・・かなりの量が必要です」
「どのくらいだ?」
「・・・詳しくは解かりませんが、多分一国が保有する量の三分の一程度あれば一年程度は持つと思います」

一撃で体が凍る。
この返答だけでとてつもない難題に突き当たる事になるとは思ってもみなかった。

・・・・おいおい・・・・・一国の三分の一!?・・・・・・・・それじゃ普通に稼いでも貯められる量じゃないぞ・・・・・・・・・

・・・・それにそれだけあっても一年程度か・・・・・・・・一生分生きると換算すると・・・・・・・・ヤバイ!・・・・・・とんでもねぇ量だ・・・・・・

・・・・これじゃ・・・・いきなり壁に激突か・・・・・・・・・・・・さて・・・どうしようかね・・・・・・

「・・・やはり・・無理ですよね・・・いくらなんでも」

既に諦めきった顔をしている彼女は当然の反応とも言える。
だが、ここで諦めさせたら俺が俺を許さない。

「いや、なんとかしてみる・・・必ず」
「そんな・・・無茶です!!自分でも解かっていらっしゃるのでしょう?!」
「解かっていても・・・何とかするさ」
「なんとか・・って・・・・そんなに簡単にいかないでしょう?!」

勢いで続けようとする彼女を無理やり黙らせる。

「五月蝿い!!!!――俺はな!ぬか喜びだけさせて地獄に突き落すような奴は嫌いなんだよ!!!それが俺でもな!!」
「あ・・・・」
「いいか!?俺が我侭言えと言ったんだ!だからあんたはあぐらかいてそれを見てれば良いんだよ!!解かったな!?」
「・・・・・・ううぅ・・・・」

また泣くかと思ったが、予想とは違っていた。

「・・・・でも・・・・あなたが死んでしまったら我侭も言えなくなってしまいます。それに私のために無理して勝手に死なれてしまったら・・・」

また先にため息がでる。

「はあ・・・。あんた本当にアホか?!自分がヤバイのに他人の事心配してる余裕があるのか・・・」
「そうじゃないです!!!本当に嫌なのは、私のためにしてくれるのにその方が無理して死んでしまう事が怖いんですよ・・・・」
「・・・・・・・・・」

・・・・なるほどね・・・・・・・つまりは一人が嫌なのか・・・・・・

「あ、あの・・・二つ目の我侭ですが、聞いてくれますか?」
「・・・・なんだ・・?」
「・・・・『絶対に無理しない事』・・・これはいいですか?」

結局自分が一番にはなりきれないらしいので素直に答えるのが吉とみた。

「わかった。それは守るよ」
「はい。お願いしますね」
「っはは・・・注文が多いことで」
「注文の多さに免じてもう一つ我侭ですがいいですか?」

もうなんでも聞いてやると思っていたりする。

「今晩はごゆっくりしていってください。久しぶりに他の方とお話出来る機会ですから」
「・・・それは是非!ついでに明日の朝飯もよろしく頼む」
「ふふっ・・・解かりました」

やっと心からの笑みが見れた気がする、そんな事を思わせる顔だった。

「それじゃ、なにから話しますかねぇ・・・・」
「あ・・・待ってください。――その前に、これを貴方に差し上げます」

そう言ってから彼女が立ち上がって持ってきたのは『神剣』、んで何するのかと思ったらそのまま差し出してきた。

「はあ!?あんた何考えてるんだよ?!それ無かったら生きられないだろうが?」

頭錯乱中、無理なし、当然。

「い、いえ!そうでなくて・・・貴方の身を護るのに必要かと・・・」

ところでどこぞの誰かに聞くが、俺は今日何回ため息つけばいいんだ?

「アホか!!そんな物渡されても俺には使えねぇよ!人間に神剣渡してどうする・・・」
「えっと・・・お守りですよ。――い、一種の・・・」

いい訳丸出しだが、はっきり言って意味が解からない。

「なんで渡す必要がある?俺には元々使えないし」

困ったような顔をしている彼女だが、なにか閃いたのかいきなり明るい声で言う。

「女の勘です!絶対に貴方に必要になると思うからです」

頭が痛い、どうしてこう突っ込みどころ満載の返答しかしないのか。

「それで納得しろと?・・・はあ・・・・」
「いいじゃないですか♪私を信じてくださいよ」

なんでこう、自信たっぷりなのか・・・

「はあ・・・解かった・・・。とりあえず借りておく」
「ふふっ。素直でよろしい♪」
「はいはい・・・・」

・・・・・はあ・・・・・・・なんで人間が神剣振り回さなきゃいけないんだか・・・・・・・

「はい、どうぞ」
「・・・ん・・・・意外と重いな・・・・」
「そうですか?――私は感じませんが」
「当たり前だ馬鹿!!同じ力で測るんじゃねぇ・・・」

・・・・こいつ・・・真面目なのか、天然なのか・・・・・・・・・

とりあえず受け取って鞘から抜いてみたが、そこには驚くべき姿の刀身があった。

「な!?・・・・緑?」

なんと刀の刀身自体が緑色をしている。

「・・・そうです。その剣は何故か刀身が緑色なのです、理由は解かりませんが・・」
「は、はあ・・・まあいいか。ところでこれは何か力でもあるのか?」
「そうですねぇ・・・癒しの力が入ってますね、しかも手にしているだけで傷が独りでに塞がります」
「ほぉ・・・それはご大層な物で・・・って待て!人間にはスピリットの癒しは効果が無いんじゃないのか?」

何処かで得た知識だが、スピリットが使う癒しの魔法は人間には効果が無いのだそうだ。
つまり、大怪我しても人間じゃどうしようも無いはず、そんな疑問を抱かずにはいられなかった。

「ふふ・・・普通はそうですよ」
「じゃあ意味無いだろ、重い神剣持ってく意味が」
「ふふっ・・・普通ではなければいいのです」

得意げに話す彼女だったが、俺には意味が解からない。

「簡単に説明しますと、その神剣は人間でも効果があるのですよ。――解かりますか?」
「???・・・つまり、人間でも使えるのか?」
「いえ、身体能力強化や神剣魔法の類は一切使用できませんがその癒しの力だけは何故かしっかり効果が出るのです」
「なるほど、そりゃ凄い」
「解かりました?これがあればお守りにはなりますよ、しかもご利益が確実にありますからね」

それなら借りて置くかと思った矢先に肝心な部分が流されている事に気づき話しを戻す。

「なあ、本当に神剣なんか必要ないぞ。大体これで何しろって言うんだ?」

詰め寄ってみるが、少し深刻な顔をした後無理やり場を締められてしまった。

「・・・・・女の勘としか言えませんが、使わない事を・・・いえ・・・『使う状況』にならない事を祈っています」
「・・・・・・・・・・」

鋭い、そう先に感じる。

・・・・・・はは・・・・・・見抜かれているな・・・・・・・・・正規のルートじゃエーテルを捻出する事なんて出来はしない・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・なら方法は一つ・・・・・・・・・『盗み』だけか・・・・・・・・・流石にスピリット虐殺してエーテル確保は無理だし・・・・・・・

・・・・・・・そもそも・・・・そんな事する気も無い・・・・・・・・・・・

「いいですね?もう一度お聞きします・・・持って行ってくださいますね?」
「・・・・・・・・・・」
「それが出来ないのでしたら私の事は忘れてください、私の事で貴方が傷ついたり死んでしまうのは絶対に嫌なんです」

なんだか頼みと言うか、懇願と言うような目をしている。
こればかりは頷くしかないと思う。

「・・・解かった。――だが絶対に返すからな」
「・・・ええ・・・お願いします」

やっと安堵の表情になってくれた。
良かったなどと思っていた矢先に・・・

「では!!暗いお話はここまでにして明るいお話を聞かせてください♪」
「・・・・おおう!・・・・りょ、了解・・・」

急に明るくなったので面食らってしまった。
既に彼女の顔には俺が話す事への興味の色で染まっている。

「ふふっ♪では町での事など色々とお聞かせくださいね」
「ふう・・・それじゃ適当に話すか。―――まず・・・・・・・」





―――――――――――――――――――――

明朝



俺は適当に飯を食ってから神剣(布に包んである)を預かって家を出た。
そして最初に考えるのは当然エーテルの窃盗先、と言うか国しか無いわけだが。
まあ、それは置いておいて先に自分に喝を入れるために叫んだ、が。

「さて!犯罪者の第一歩だ!!!・・・・・って・・・そんなに簡単に割り切れねぇよなぁ・・・」

最後まで続かなかった。
当然犯行に及べば国家の大重罪人だ、見付かれば簡単に首が無くなる。
それに見張りは大抵スピリットが配属されているだろう、そこに簡単に侵入して奪ってくる事は容易ではない。

「つまり最初から壁に激突!!・・・・なんだよな・・・・」

早速諦めの気持ちが全開だが、なんとか自分を励まして考え直す。

「自分から言い出しておいて、出来ませんじゃあな・・・・。だが・・・」

昨日は何とかする、と言ってしまった手前無理に押し通してしまったが実際はとんでもない計画なのだ。

・・・・・・こちらにも神剣があると言ってもな・・・・・・・・元々俺は戦いが得意ではないからな・・・・・・・・ま、逃げ足は速いけど・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・それに身体能力が上がる訳じゃないし・・・・・・・・正面から戦っても意味はなしか・・・・・

・・・・・なら・・・・・・・神剣の癒しを使ってどうにかするか?

そこまで考えたが却下する。

・・・・まてまて・・・・・・いくら癒しの力があるからって・・・・・致命傷一撃で受けたら終わりじゃねーか・・・・・・・・・

超級迷路状態がしばらく続いたが、結局良い案が浮かばなかった。
浮かんだとしても最初で終わるか、詰めが甘いか、賭けの分が悪いかの三択だった。

「ちくしょ・・・・手詰まりかよ・・・・」

そんな事をぶつぶつ言いながら町を歩いていたら、目の前をスピリットの編隊が通り過ぎていった。
その光景を見ながら頭に浮かんだどうでもいい疑問。

・・・・・・・ん?・・・・・・・・・戦争でも起こるのか?

俺には関係ないな、そう思い適当に止める。
そのまま思考の端を流れて行きそうだったが、慌ててせき止める。

・・・・待てって!!・・・・・それなら城の警備スピリットだって減ってるはず・・・・・・・・・・つまり今なら好都合か・・・・・・・・・

・・・・・・・・・城の警備の配置と内部構造さえ完璧ならば不可能じゃないな・・・・・・・・その手の情報筋も有る・・・・・・

しかし完璧だと思ったが思わぬ落とし穴があった。
むしろ先に気づくべき点。

・・・・・・・・・おいおい・・・・・今まで忘れていたが神剣って気配が出てしまうんじゃないか?

・・・・そんな物持って城に行ったら一発で発見されるじゃねーかよ・・・・・・・・・・・・・・・ん?・・・・・まてよ・・・・・

疑問の元に昨日会っている事を今更思い出す。
それを疑問に思わなかった俺も俺だが。

「あのスピリット、なんで見付からないんだ?城から遠くは無いぞ、あの辺りは」

その答を適当に探してみたがどれも妥当すぎて判断がつかない。
ありったけの頭を絞ったが出てきたものはごく当たり前の知識。

「あるとすれば、気配が無いのか、それとも本気で捨て置かれてるのか・・・だよな・・・」

・・・・だが、捨て置かれている可能性は低いな・・・・・・・どうせ近くにいるのなら捕まえてさっさとエーテルにしてしまうほうが絶対にいい・・・・

・・・・・・・つまり、気配が無い線が濃厚か・・・・・・・・しかし賭けにでるにはリスクが大きすぎる・・・・・・・確証がないのに行動は自殺行為だ・・・・

ここまで来たら悪態をつきたくもなる。

「ちっ!運任せか・・・・・・・・・よ?」

直後に思い直しスピリット達が通り過ぎた場所を見て、そして誰も気づいていない事を確認する。

・・・・・・・そうか!!・・・・・・見付かっているなら既にさっきので気づいているはずだ・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・だが、実際はあの距離でも見付かっていない・・・・・・・・という事は・・・・・・・・・

「気配なし!確定か」

とりあえずの計画の作戦には満足できるだろう。
そう思った瞬間には情報屋の奴の下に走り出していた。


―――――――――――――――――――――――



「ぐはぁ!!・・・ちっ!・・・ちょっと無理し過ぎか・・・」

これで何度目の吐血かを数えながらあの子の家に向かう。
既に体は真っ赤に染まっていた。

「だが、成功はしたな・・・追っ手も既に撒いた・・だが・・」

そう成功はした、エーテル結晶体も手元に有る。
しかし既に顔が割れており、非常線まで張られてしまいここまで来るだけで精一杯だった。
更に交戦した際に脇腹を抉られて大出血状態だが、神剣の力は本当らしく傷自体は塞がったがかなりの血を流したらしく足元がふらついている。

「くっそ・・・もう少し・・・か・・・」

そう呟きながら何とか自分を叱咤しあの子の家の前まで来た。
そして扉に手をかけようとした時に声が聞こえる。

「やはり、無理をしたんですね・・・」

それが既に家の前に月明かりと共にたたずんでいた彼女の第一声。
まだ暗くて顔が良く見えない。

「先にお聞きします。どうして約束を破ったのですか?」

第二声を一歩前に出て発した時に月明かりに照らされ顔が映る。
顔には反論を許さない強い意思が見えて取れた。

「私は言ったはずです、無理はしないで下さいと」

追撃の第三声。
それにどうにか答えようと考えるが良い返答が浮かばない。
とりあえず顔を見るのすらためらわれたので足元を見ながら何とか思いついた事言う。


「別に・・・俺はただあんたの我侭を聞かなかっただけだ」

結局ばつが悪く、ふて腐れた答しか浮かばなかったのだが。
そのまましばらく下を見続けていたら急に泣きそうな声が聞こえた。

「・・・・・嘘つき・・・・・」
「!!!」

とっさに顔を上げて彼女を見ると、それと同時に顔が崩れ怒りとも悲しみとも取れる表情に変化した。

「聞いてくれるって言ったのでしょう!!!」
「・・・・・・・・・」
「それなのに・・・それ、なのに・・っ・・・――そこ、まで・・・血まみれになって・・・・っっ!!!」
「!?」

思考が追いついた時には抱きつかれた後だった。
なんとかしてなだめようとしたが方法が浮かばない。

「ど、うして・・・貴方が、そこまで・・・・・する必要なんて・・・・無い、のに・・・」
「・・・・・・・・・」
「答えてくださいよぉ・・・・!!!」

約束、いや我侭を聞かなかったのは自分だ。
それなのにこの問いに答える資格があるのだろうか?そんな事を考えている間にも詰め寄ってくる。

「私なんて・・・ほおって置けば・・・いいのに・・・・」
「・・・・・・・・・」
「役立たず、・・のスピリットなのに・・・・・・私なんて・・・居なければ・・・・!!!っっうぅ!!!!!」

瞬間勝手に手が出ていた。

「あ・・・う・・・・」
「・・・ふざけんなよ・・・・」

轟くような声と共に完全に堪忍袋の緒が切れた気がする。
激情がわき上がり制御出来なくなった。

「テメェな!!!前にも言ったが『なのに』とか言うなつってんだろうが!!!!」
「あ・・・あ・・」
「それにな、確かに俺が悪いのは認める!!!!だがな、それを勝手に自分のせいにしてんじゃねーよ!!!!」

呆けた顔をした彼女を前に一気に言葉を吐き続ける。

「俺が勝手にやった事に口出しするんじゃねぇ!!!!テメェはあぐらかいてろと言ったろ!?」

完全に脅えさせているのにどうしても止まらない。

「それならいいんだよ!!!人の事心配してる暇あったらテメェの心配をしろ!!!!」
「・・・・・・・・・・」

彼女が無表情になるまで言ってやっと納まり始めた。
何とか呼吸を整えると出来るだけ諭すように話しかける。

「・・・解かったか?だからよ、勝手に自分のせいにしないでくれ。それじゃ俺のやった事が馬鹿みたいじゃねーか」
「・・・・・・・・・・」
「ほらよ・・・結晶体。これでしばらくは大丈夫だろ」

彼女の掌に無理やり結晶体を乗せた。
受け取ろうともしないが、そんな事は気にせず別の事を考えている。

・・・・・さて・・・・・どうしようかね・・・・・・・・このまま俺は去るか・・・・・・・・・・

・・・これ以上この子に迷惑はかけられない・・・・・・・・・・・一緒にいたら確実に捕まる・・・・・・・・・

・・・・・・・それじゃ本末転倒だ・・・・・・・・・・それなら俺が居なくなるのが道理か・・・・・・・・・・

「せっかく延びた命だ、納得いくように生きな。それと神剣は返す。―――じゃあな!俺はもう行くわ」

そう言ってから引き剥がし、神剣を渡してそのまま回れ右をする。
一瞬だけ離されない様に力を込めた彼女が居た気がするが、特に気にも留めずに歩き出した。

「待って下さい!!!」

これからどうするかと考え始めたと同時に呼び止めれてしまう。
そこに後ろからの呟きが聞こえた。

「あの・・・我侭の回数は残っていますか?」
「???」

背後からかけられた問いに意味不明に陥る。
何が言いたいのか解からないのでとりあえず、無言のまま次を待った。

「だから、その・・・私の我侭はまだ聞いて下さいますか?」

ああ、そういう意味かと納得して振り返ると簡潔に返答する。

「無理だ。じゃあな」

用件は済んだとばかりにまた振り返って歩き出そうとしたらまた呼び止められる。

「どうしてですか?!幾らでも聞いてくれるって言ったじゃないですか!?――だから!!!私と一緒に居てください!!!」

どうしてここまで言えるのかと心中でため息をつきまた簡潔に理由を説明する。

「馬鹿か?俺は既に指名手配犯なんだよ、それを簡単に見過ごすと思うのか国の連中が?」
「・・・・・・」
「それにな、折角俺が盗って来たんだ。あんたまで捕まったら俺の勝手すら意味がないだろ」

そこまでトドメを刺して体を戻したが、まだ喰らいついて来た。

「・・・・それなら、せめて『約束』だけはして頂けませんか?」

小さく、ただ呟くような声だったが確かに約束と聞こえた。
まあ約束程度ならいいかと思いゆっくりと確認するように聞く。

「・・・・・・何を約束すればいいんだ?」

落ち着いた声に安心してくれたのか少し大きな声で約束内容を言ってくれる。

「・・・私にもう一度会いに来て下さい・・・できますか?」

また心中ため息が一つ。

・・・・おいおい・・・・・・・随分無理な注文だな・・・・・・・・・・まあ、ここでしなかったら泣きつかれそうだな・・・・

・・・・それに・・・・この子に会うのは正直嫌いじゃない・・・・・・・・・・

とりあえず正直な部分だけを取り繕って約束をする事にした。

「・・・・解かった。それだけはしてやるよ」
「はい!!絶対ですよ!!」

何がそこまで嬉しいのかと思うような笑顔で見送ってくれる彼女。
その笑顔に出来る俺の誠意はこの程度だ。

「はいはい・・・それじゃあな、元気に暮らせよ」

言ったと同時に歩き出し最後に振り返った時ですらまだ笑顔で居てくれた。
その笑顔に満足して本当にそろそろ行くかと思い歩き出す。


・・・・だが、俺はまだ後悔と言う底なし沼の淵に足がついている事に気が付かなかった・・・・・・・・・・・

・・・・あと一分・・・・いや、あと三十秒でも早くあの子から離れていれば・・・・・・・・・・・・










「危ない!!!!!」







歩き出した俺にいきなり背後からすさまじい力で彼女が体当たりをしてきた。
何事かと思い首だけ回して確認しようとするが全身が麻痺したらしく一向に動かない。
そして飛ばされ意識が消える瞬間に見た光景は・・・







――― 彼女の胸を貫く剣が一つあった ―――







――――――――――――――――――――

城内牢獄

俺は何をしているのだろう?
冷たい床を見つめる。
さっきからそんな問いが、回り続けている。
それにあの子が貫かれた光景が頭から離れない、それは多分絶望的な考えしか浮かばないからだ。

「・・・死んだんだよな、多分」

そこに多分を付けて自分がまだ諦めてないような気分になるようにしている事すら腹が立った。
まるで俺が悪いんじゃない、悪いのはあの子だとでも言いたいのか俺は。

・・・・なんで振り向いちまったんだろうな・・・・・・・・あそこでさっさと行けばあの子があんな目に遭う必要なんて無かったのにな・・・・・・・・

・・・・・・・・・くっそ!!!!・・・・・・・・俺が死なせちまったのか・・・・!!!!!!・・・・・・俺のエゴで!!!!!!

「何がしたいんだよ?!?!糞が!!!!」

牢屋の壁をおもいっきりぶん殴っていた。
手から血が流れるが気にする必要すらない。

「ざけんなよ!!!!そんな事がしたかった訳じゃねぇ!!!俺はただ・・・」

そこまで吐いた自分に疑問を持つ。
それは今までの行動全てに通じるものであった。

・・・・・ただ、なんだったんだろうな・・・・・・助けたかった?・・・・それともきまぐれ?・・・・・いや・・・・・そうじゃない・・・・・

「ただ、生きていて欲しかったんだよな・・・」

そう口に出したら急に心が沈んだ、それと同時に暗い感情が心を支配し始めるがその感情を出す事すら資格が無いように思える。

・・・・何言ってんだよ馬鹿が・・・・・・生きていて欲しかった?・・・・・・ざけんなよ・・・・・・それを言う資格すらねぇ・・・・・・

・・・・・・ただ生きていて欲しかっただけなら・・・・・・・始めから渡してすぐに去ればいい・・・・・・・・・・・だが・・・・・・・それをしなかったのは・・・・

・・・・・・本当は傍に居たかったんだよな・・・・・・・・・・・もし許されるなら・・・・・・・・・・・・

「っはは・・・・結局は俺のエゴに始まり、あの子が死んだのも俺のエゴって訳か・・・・っ!!!笑えねぇんだよ!!!!」

もう一度おもいっきり殴りつける。
手の皮が破れようが関係ない。
そんな事よりも俺自身が許せなかった。

「くそ!!始めから何のためにしたんだよ?!死なせるためじゃねぇ・・・生きて欲しいからだ!!!」

だが、幾ら考えても幾ら壁を殴ろうとも帰って来るはずが無い。
その事に気づけば気づくほど虚しくなってゆく。
そして最後に出てきたのは自分に対する嫌悪と絶望だけだった。

「・・・・・終わりかよ・・・・・まあいい・・・・所詮生きて欲しい女一人生かせないような奴はさっさとご退場か」

適当に諦めと自己嫌悪を吐いてからゆっくりと横になる。
さきほど聞いた話しだが処刑は明朝行われるらしいがそのことですらどうでも良くなっていた。

・・・・・・まあ、何時だっていいさ・・・・・・・・・もう・・・・・・・・・俺にはこの世に・・・・居る資格すらないのだからな・・・・・

横になったまま目を閉じようかと思った時・・・・『始まりと終わりの道がすぐ傍に迫っていた』






『それならこの世から先に退場するか?・・・我と共に』



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深夜・・・アーク城屋根

ここまで書いて俺は止める事にした。
正しく言えば書くのを止めたのではなくて、書けなくなってしまった。
記憶がすっぽり抜け落ちた感じに似ている。

「冗談じゃねぇな・・・本当にこれ以上思い出せないなんて・・・・」

素直な感情を思わず口走ってしまった事に後悔し始めるがそこに厳しい声が降ってくる。

『無駄だ。思い出すと言う行為にすらもはや意味は無い』

解かっていると言ってやりたいが、それよりもどうしても気になる事があった。

「あの子は・・・死んだのか?」
『何を言っている?覚えていないのか?』

さも知っているはずと感じるような声。
しかし俺には覚えが無い、と言うか全く解からない。

『なるほどな、最も重要な事すらもはや無くなっているのか』
「・・・・・。間に合うのか・・・俺は」
『さあな、だが間に合わなければアリス共々・・・』
「言うな・・・・その先は」

最悪の結果を無理に塞ぎ続ける。

「お前の望みは果たしてやるさ、でもな・・・・もし・・・」

ここでアリス宛に書いた手紙が頭をよぎった。

・・・・・・俺の記憶が正しければ・・・消しちまったんだよな・・・・・本当の望みなのに・・・・・・・・・

・・・・・・・・だが・・・・・あの笑顔のあいつに・・・・・・・・それが出来るのか・・・・・・・・・・・違うな・・・・・

・・・・そんな事をさせられるのか?・・・・・・俺は・・・・・・・・

『もし、なんだ?』
「・・・なんでもねぇ」

・・・・あくまで俺の役目は契約の代償にこいつの望みを叶える事だけだ・・・・

・・・・・・・そして・・・・・・アリスに・・・・・・・・

『そうか、ならそろそろ時間だ』
「ああ・・・解かった」

立ち上がり剣を構えると目を閉じる。
そして神経を集中し始めたと同時に体が砕け散った。

「存在無き体・・・修復完了」
『うむ』

隣には自分であった破片が転がっているがそれはもう自分ではない。
その破片すら暫くしたら消えていった。

『行くか』
「そうだな、行くか」

確認しあった俺達は一気に屋根から飛び降りた。
その時に書いた日記が風にまって何処かに飛んでいった気がするがそんな物はどうでもよかった。

・・・・何せ・・・・書いた事すらもう覚えてないのだからな・・・・・・・・



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同時刻アリスの部屋

先ほどから眠れないのであの切り取られてしまった日記について考えていた。
しかし、いくら考えても誰なのかが解からない。
仕方ないので今日の部分は書くのを止める事にした。

・・・・・なんだか・・・・ここには別のなにかが入る気がする・・・・・・・・・・それが何かは解からないけど・・・・・・

・・・・・だから・・・・あけて置いてもいいよね・・・・・・・・・・

私はそのまま毛布を被るとゆっくりと意識が沈んでいく思いに囚われた。

・・・・・・・今日は・・・・何か安心できるね・・・・・・・・・・・何かが近くに居る気がするからかな・・・・・・・・



『36日目・・・終わり』

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