夜
あたたかい・・・・・
あたたかいよ・・・・・・
どれほどこの感情を欲しがったのだろう・・・・
これほどまでにあたたかいなんて・・・・考えもしなかった・・・・
ねえ・・・あの子はこの感情を知れたのかな・・・・・
一度でも・・・感じられたのかな・・・・・・
そんな他の存在を考えられるほどに、私はあたたかい何かに包まれていた。
「35日目・・・感じる『温かさ』」
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
朝
何時も通りじゃない起床だった。
私の目に飛び込んできたのは豪華に装飾された天井。
どう考えても、いつもの家では無い。
・・・私・・・なんで・・こんな所に?・・・・・・・ああ・・・そうか・・・・・
・・・昨日の子が私をここに連れてきて・・・・・・・・痛ぅぅぅ!!!!
そこまで考えていた時、急に体に激痛が走った。
「痛い・・・なんでこんなに体が痛いの・・・・?」
焼け付くような痛み、まるで全身を焼くような激痛。
それは今までにない事だった。
額に手を当ててみれば恐るべき熱さだ。
「おかしいな・・・・なんで・・・こんなに痛いの?」
そんな時だった。
あの声が聞こえたのは・・・
「あはは♪だって「戻らなくなってもいい」って言ったのよ!あなたは♪うふふふ♪」
・・・えっ?・・・・なんで・・・・・私はそんなこと・・・・・そんなこと思ったの?
「あはは♪もうしらなーい♪・・・・・さっさと認めろ・・・自分の闇を・・・・・殺せば?・・・心のままにね・・・」
そんな闇からの言葉に精一杯の抵抗をする。
「イヤ!!!私は殺したいわけじゃない!!!いつだってそうだった!!!」
「いつだって?あはは♪いつだって『殺したく』なったじゃない・・・忘れたの・・・?」
「違う!!!私は・・・私は・・・・」
「自分が好きな人だって殺したいんじゃない♪憎いから!」
「やめてよぉ・・・・お願いだから・・・・・やめてよ・・・・・」
「道具なのに今更偽善?道具には主張も考えも必要ないの♪わかったでしょう?昨日の事でね」
「・・・・・・・・私は・・・道具・・・・なの・・・・」
心の闇が限界に迫っていた時、ノックの音が響く。
「アリス。いるかしら?」
その声にはっとなった私はなんとか自分の闇を打ち消し答えた。
「・・・・はい。起きてます」
「失礼するわね・・・」
そう言ってから入ってきたのは、一人のミニオン。
その瞬間私はそのミニオンに目を奪われた。
整った容姿、昨日の少女と同じ銀髪のきれいな長い髪。
だが、そんなことよりも本当に驚くことがあった。
・・・・髪が・・・虹色に輝いてる・・・・・・・・すごい・・・・・きれい・・・・
なんと髪が舞う度に虹色に輝いていた。
「アリス?」
「え・・あ・・――はい!」
どうやら呆けていたらしい、痛みも忘れるくらいに。
だがそんな私にも気にせずに彼女は自己紹介を始めた。
「初めましてアリス、私は『アーク』様の親衛隊隊長のルシアと申します。アーク様には昨日の話を聞いているから余り緊張しなくていいわよ。」
「あの?アーク様と言うのは・・・?」
「悪いわねアリス、今はアーク様に直接お会いしたほうが早いわ。だから謁見の間にまで来てくれないかしら?来れそうなら。」
どうやらここでは説明はされないらしい、とりあえず事情を聞くには行くしかないみたい。
「はい・・・解かりました・・・」
そう答えたと同時にルシアさんが目の前に来て顔を覗き込んでいる。
「ところでアリス・・・体の調子はおかしくないかしら?」
いきなりそんな事を言われた。
でも、その問いにはまるで答えが解かっている様な響きがあった。
・・・・・どうしよう・・・・・・素直に答えたら・・・・・・多分・・・・・・・追い出されちゃうよね・・・・・・
心が血を求めて疼いてるなんて・・・・・・・・言えないよね・・・・・・・・・・・・・・・
・・・いやだよ・・・・・・狂った殺人者に見られるのは・・・・・・・・・
「アリス・・・・?」
「大丈夫です!!!」
「そう・・・・・・」
無理やり元気な声で答え、その場を締めた。
でも体が限界に近いのも事実。
「では、準備が出来たら着て頂戴ね。」
それから、そこでまた会いましょうと言ってからルシアさんは帰った。
その瞬間から痛みが帰ってくる。
・・・・・・・う・・・・・・・・・く・・・・・・・・いたい・・・・・・・・・・どうして・・・・こんなにも体が痛いの・・・?
「うぅぅぅ・・・・はあ・・・・はあ・・・・・はぁぁ・・・・いたいよぉぉ・・・・」
「なら、楽になる?簡単よ♪」
そんな声が聞こえた気がしたが、精一杯の気力で振り払う。
・・・・ダメ・・・・・飲まれちゃダメ・・・・・・・
「ワン!」
「あ・・・・・・クロン・・・・・」
いつの間にか起き出していたクロンが擦り寄ってきた。
そして、心配するように覗いている。
「ふふ・・・・大丈夫・・・だよ・・・・クロン・・・」
そう言ってから私は痛みが引くまでずっと耐えていた。
――――――――――――――――――――
謁見の間前
「ふう・・・顔に出さないようにしないと・・・・」
無理やりに表情を硬くする、これ以上、異常を感じられたらダメだから。
「大丈夫・・・大丈夫・・・・」
そう自分に言い聞かせ私は大きな装飾入りの扉の前に立つ。
ところで今更だが『アーク』と言う方はどのような方なのか・・・?そんな事が頭によぎる。
会うのは初めてのはずだし、どのような方かも先ほどのルシアさんは言ってはくれなかった。
つまり、いきなり会うの?・・・私を知らないのになぜ?
そんな事をぐるぐると考えていたが、結局はわかるわけがない。
「まあ、会えばわかるよね」
そう小さく口にしてから扉を開けた。
――――――――――――――――――――
「・・・・・・・あ・・・・・・・」
中に入ると同時に目を疑う。
そこには、昨日の少女が玉座に座っていた。
しかも昨日とは違い正装で、まさしく女王と表現するのが正しいくらい。
その容姿、気品、威厳・・・全て違っていた。
しばらく思考が追いつかず、その場に立ち尽くしてしまっている私。
「どうしたのですか、そんな所に立っていないでこちらに」
「えっ、あっ!はい!」
さらに驚く・・・口調すら違う。
本当にこの少女は昨日の子なのだろうか・・・?
そんな、事を考えつつ中央に進む、今更だがこの謁見の間も凄いと思う。
赤い絨毯が玉座に向かって敷かれていたり、全ての窓は綺麗な装飾が施されている。
いくら考えても値段なんか見当も付かない、それくらいの豪華さだった。
「失礼します」
そう言ってから、中央で礼をする。
それから、目で周りを見回した。
ん・・・・・あの少女の隣に控えているのがルシアさんで・・・・・・・・絨毯の左右に列に並んでいる方達が親衛隊かな・・・・
そんな事を思いつつ対面している。
「初めまして、ではないですね。よく来てくれました」
「・・・・・・・・」
「・・・どうしましたアリス?」
「・・・あ・・いえ!なんでもありません」
実はやはり似ている別人なのではないか?と考えていた。
それぐらいに話し方が変わっている。
その少女は、そうですか・・・と言ってから自己紹介を始めた。
「私はこの城の城主・・・そしてこの星に並ぶ惑星連合国家皇帝『アーク』と申します」
・・・え?今なんてなんて言ったのだろう。
惑星・・・連合国家・・・皇帝・・・・ってまさか!・・・・この星の所有者・・・・・って・・・・ことだよね・・・・・
・・・・・この少女が・・・・・・本当に?
私は完全に混乱していた。
・・・昨日の少女があの方で・・・・・・えっと・・・・それが今私の前にいて・・・・全くの別人みたいで・・・・・この星の所有者で・・・・えっと・・・・皇帝で・・・・
うんうん唸りながら思考している私を見て、アーク様は少し可笑しそうに小さく笑っている。
「いいのですよ。詳しい説明はあとでルシアにさせますから。―――ところで、アリス・・・あなたにお聞きしたい事があります」
急に真剣な顔になると私の顔を見つつ仰った。
「出来るだけ隠さずに素直に答えてください。いいですね?」
「・・・・・はい」
「何も緊張することはありません。私が勝手に聞くだけですから」
それからアーク様は、ではお聞きしますと仰ってから始める。
「まずあなたは何処で造られたのか・・・それと誰が造ったのか?・・・それを答えてください」
・・・・何処はわからないけど・・・・誰がならわかるよね・・・・でも本名じゃないから・・・・結局はわからないだけだね・・・・
「解かりません。・・・造られた場所も、誰が私を造ったのかも・・・」
「?・・・『誰が』も解からないのですか?」
確かに誰が造ったのか、くらいは解かっているはずだと思われるのは当然かもしれない。
でも、偽名である以上わからないのは一緒だよね。
「はい・・・。私の主はエターナルでしたが名前はありませんでした」
「名も無きエターナルですか・・・」
そう仰ってから少し考えた顔をしている、なにか思うところがあるらしいが私にはわからなかった。
「解かりました・・。では次に、あなたはなぜあのような場所に居たのですか?・・・主が居るのならその方は?」
この質問は流石に迷ってしまう、本当の事を言えばそれは自分が道具だと認めてしまうから・・・
・・・どうしよう・・・・捨てられたってはっきり言うべきなのかなぁ・・・・・それとも違うって言うべきなのかな・・・・・・
・・・・でもそれは事実なんだよね・・・・・はは・・・・何考えてるの?
・・・・結局は変わらないのにね・・・・・・・無理やりごまかしたって変わらないのに・・・・・
やっぱり自分で認めるのが怖いだけなんだね・・・・・ふふ・・・・・本当に嫌な子・・・・・
「・・・・捨てられました主には・・・」
はっきりと言ってしまった・・・これでもう戻れないよ・・・
その言葉の瞬間アーク様の顔が険しいものに見えた気がしたが、すぐにいつもの表情に戻っていた。
「捨てられた・・・ですか・・。ではあなたはそのエターナルに再び会いたいのですか?」
会いたいよ!!・・・・そう心では一瞬で答えが出ていた・・・でも。
・・・・会えないよね・・・・あなたを殺したいなんて思ってしまったのに・・・・こんな私が会いたいなんて言えないよね・・・
・・・会えば多分わからないから・・・・あなたの事をどうしてしまうか、わからないから・・・・・
「解かりません・・・今の私には答えが出せません」
でも本当は会いたいのだけどね、ほんとだよ。
「そうですか・・・。では、質問を変えましょう。あなたは今は何処に住んでいるのですか?」
「いいえ・・・何処にも・・・」
「固定住居はない・・・ですか」
アーク様は一旦考えたあともう一度続ける。
「では、行くあてはあるのですか?」
これは黙るしかないよね・・・だって行くあてなんて・・・道具には・・・・あるわけないよね・・・
「どうなのですか?」
・・・うぅ・・・・やっぱりどうしても言わなきゃだめか・・・・・・
「・・・・捨てられた・・・・・道具にいくあてなど・・・ありません・・・」
返答の瞬間、アーク様の顔色が変わった。
まるで静かに激昂しているような顔に。
「・・・本当に・・自分が『道具』などと本気で思っているのですか?」
冷たい殺気と氷の声・・・私は動けない。
「答えなさい!・・・本当にそう思っているのですか?」
・・・だって・・・解からないよ・・・・自分が何者なのか・・・・私は道具なのか・・・ただの狂った玩具なのか・・・・
ねえ・・・S・・・・・教えてよぉ・・・・・
いつの間にかペンダントを握り締めていた。
「・・・・・だって・・・・・仕方ないじゃないですか・・・解からないのですよ・・・自分が」
「・・・アリス質問です。この城で何人か見かけたと思いますがここに居るミニオン達はどう見えましたか?」
わかりきった答え、それは・・・
「とても・・・・皆様良い顔をしているように見えました・・・」
「・・・あの子達もミニオンです、あなたもミニオンなのでしょう?ならあの子達が道具に見えますか?使われている存在と思いますか?」
見えるわけないよ、だって笑ってた・・・みんな楽しそうに笑ってたから。
・・・・でもね・・・アーク様・・・あの子達は血に飢えてなんていないでしょう?・・・・・私みたいにおかしな玩具じゃないでしょう・・・・
・・・あの子達と私は違うんです・・・・心が・・・血を欲しがっている・・・・だから違うんですよ・・・・・
「違いますから・・・・私と彼女達は・・・」
「なにが違うのですか、あなたは自分を道具だと思ってしまっているだけです。」
「やめてください!!・・・違うんですよ・・・私は彼女達とは違います!あんなに綺麗に笑えない・・・・・笑えないんです!!!」
「・・・同じです。変わる部分などありません」
・・・・この方もか・・・・・・・勝手な私の像に重ねて・・・・・狂った私を見たら捨てるのでしょう?!
・・・あの子達みたいな顔が出来なくなれば捨てるのでしょう?!殺すのでしょう?!昨日のあの子のように・・・・
・・・・・・いい加減にしてよ・・・・・・・・・・・・勝手に私を決めるのは・・・・・・・そうやっていつも・・・・・・・私なんて誰も見ようとしない・・・・
「あはは♪そうそう♪誰もあなたなんか見ないの♪まだ解からないの?」
・・・・はは・・・・・そうだよね・・・・私なんか見ても・・・・狂ってるようにしか見えないよね・・・・ははは・・・・・きゃはははは♪
「それでいいの♪それでこそあなたよ♪ねえ・・・狂った道具のアリス♪」
・・・ふふふ・・・あははは♪
心の痛みと闇は限界を超えていた、何時ものように抵抗すら出来ないくらいに・・・
「アリス。いいですか、あなたは勘違いをしていませんか?彼女達があなたと一緒という意味に」
返答は既に私であって私でなかった。
「あははは♪じゃあアーク様♪彼女達はこんな風に狂って見えますかぁ?ふふっ♪こんな顔して殺しますか?敵をさぞ楽しそうに?」
最悪だな私・・・、そんな思念がよぎった気がするがもはや障害にもならない。
「解かりました?これが私なんですよ♪なにが彼女達と同じなのですか?こんなにも違うのに♪勝手に決めないでくださいよ♪」
・・・・だめ・・・・お願い・・・・・やめてよぉ・・・・・
「大体・・・なに言ってるのですか?あの時の私もこんな風に見えたでしょう?あの場にアーク様が来た時にね♪」
・・・ちがうよぉ・・・・・本当は殺したく・・・・・な・・・・・・た
「アーク様が邪魔するからいけないんですよ♪そんなのだから私を勘違いするんです♪全く・・・勝手ですね♪」
・・・・ねぇ・・・・私は・・・・本当に・・・・ちが・・・・・の・・・
「ふう♪ああ・・・スッキリした♪何時までロクでもない問答なんて意味ないですからね♪答えなら簡単にありますから♪ふふふ♪」
・・・い・・・・た・・・・・い・・・・・よ・・・・
・・・・・く・・・・・る・・・・し・・・・い・・・・・
・・・ら・・・・く・・・・に・・・・・・な・・・・・り・・・・・た・・・・・・・い・・・・・
「そうですか。ではやはり彼女達と変わりませんね、何も」
・・・え?・・・・・・今・・・・・なんて・・・・・・・?
変わらない冷静さに驚いた。
どうして、こうまで当たり前の反応ができるのだろうか?
でもそんな疑問など、どうでもいい。
・・・・・・・・解かりきった事を・・・・ベラベラと・・・・・何が同じだ・・・・・・・・・違うだろうが・・・・・・
まあいい・・・・・・・・・・それなら・・・・・・・・証明するまで・・・・・・・・・・・・・
「あはは♪・・・・むかつくね・・・虫唾が走る!その反応が!その解かりきった口が!!」
「そうですか。では、どうするのですか?」
当たり前の返答しか思いつかないなんて・・・もう・・・だめなの?
・・・・殺す・・・・・・・当然でしょう・・・・・・・・・・・後悔すればいいのよ・・・・・私を決めた事をね・・・・・
「そうねぇ・・・♪それじゃ死んでもらいましょうか♪私を勝手に決めた罰としてね♪」
その言葉と共に足元に置いておいた神剣を手に取る。
その瞬間ルシアさんを含め親衛隊の面々が警戒態勢に入った。
しかし、アーク様はそれを手で制すと玉座の近くにある自らの神剣を手にする。
それにしても今更だがあの神剣・・・形状がおかし過ぎる・・・。
見た目は両刃の剣だがそんなことよりも、もっと気になる部分があった。
どうして柄がない?・・・・両刃なら柄がなければ持つだけでも自らを斬り付けることになるはず。
まるで諸刃の剣・・・あんなもので戦えるのか・・?
そんな疑問が頭に浮かぶが、別にどうという事は無い。
殺すことに変更なんてないのだから。
「あら?自分のご自慢の『道具』達を使わずに自ら来るなんて、感心するわね♪少し気に入ったわよ♪」
「今のあなたに彼女達と戦う資格すらありません。私が自ら出ます」
・・・・この女・・・・何時までもふざけた真似を・・・・・
「ふふふ♪別に構わないわよ♪結局は全員殺すしね♪」
「言いたいことはそれだけですか?なら始めましょう」
・・・・・・何処までも舐めた真似を・・・・・・・・・
それと同時に一歩を踏み出す。
そして・・・二歩目・・・・三歩目・・・・四歩目・・・
だが、向こうは全く動く気配がない。
・・・・・・なぜ動かない?・・・・・この間合いなら一撃で届くはず・・・・・・・・
私は疑問と共に五歩目を踏み出す。
その瞬間アーク様は神剣を地面に刺してこちらに歩いてきた。
・・・・な?!・・・馬鹿な!!・・・・自ら死にに来るつもりか?!・・・・・・・・・・それともやはり裏があるのか?
「どうしました?私を殺したいのでしょう?」
「・・・・・・・・っっ!!」
そう言いながらも歩いて来ている。
・・・・・仕掛けるか?・・・・しかし・・・・・罠ならば・・・・一撃でこちらがやられる・・・・・今の間合いでは親衛隊が居る分こちらが不利か・・・・・
・・・神剣魔法も恐らく邪魔が入るな・・・・・・・
「アリス・・・来ないのですか?『殺す』対象はここにいますよ」
そう言ってから更に踏み込んできた。
・・・・くそ・・・・・・なんで・・・・・なんで・・・・・動けない・・・?・・・・・・ここからなら・・・・・・・一瞬で届くはず・・・・・・なのに・・・・・・
「殺したいのでしょう。さあ」
もうほとんど距離は開いていない。
後二歩程度の間合いだ。
・・・・くぅ・・・・・・・なんで動かない・・・・・・・・・力の抑制は受けていない・・・・・・なのに・・・・・・・どうして!!!
そんな事を考えているうちに、もう完全に近くにいる。
手を伸ばせば届く距離。
「アリス・・・なぜ動けないか解かりますか?」
その答えはこちらから教えて欲しいくらいだ!!と思った。
「本当に『殺したい』のなら遠慮は要りませんよ」
・・・・・・動け!!殺したいのだろ!!!この女を!!!!・・・・・なんで?動けない・・・・・
そんな私を見てアーク様は何かを悟ったのかいきなり問いをぶつけて来る。
「アリス。本当は誰を『殺したい』のですか?あなたは?」
その問いはなぜか強烈な痛みを伴って私に吸い込まれた。
・・・・・それは・・・・お前に・・・・・決まって・・・・・・きまって?・・・・・なんで・・・・決まっているの?
「それはあなたを決めたから♪」
・・・違う・・・・だって・・・・それなら既に殺されているよ・・・・・・それなのに・・・・この方は・・・・始めから殺される気だった・・・・
「油断を誘うためじゃない♪」
・・・・・・それも違う・・・・・それなら、同じく親衛隊が動いているはず・・・・・・・・
「・・・・殺したくなったのでしょう!!!だったら殺せばいいのよ!!!」
・・・・ねえ・・・・本当にこの方を殺したかったのかな・・・・・・?
「っっ!いい加減にしなさい!!あなたのやる事はこの女を殺す事なの!!」
・・・・そうなのかな・・・・・でも、あの方は・・・・私を『見た』よ・・・・こんな私を・・・・・
「もういい!!なら勝手に殺すまで!!!」
・・・・待って!!!それは嫌だよ・・・・!!!・・・・だって・・・・本当は・・・・・
「ふざけるな!!道具如きが!!!考える必要は無い!!!」
・・・・・・・・・本当は・・・こんな事を考えてる・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・『自分』が殺したかったんだ・・・・・・・・・
――――――――――――――――――――――――――
「うぅぅ・・・・・ぁああぁぁぁ・・・・」
気が付けば泣いていた。
涙が止まらない。
今までの悲しい事が全てがあふれだすように・・・。
「うぅ・・・やだよぉ・・・もう殺すのなんて嫌だよぉぉ・・・・・。だって・・・だって・・・・私は始めから誰も殺したくなんて無かったのに・・・」
「・・・・・・・・・・」
「あの・・・・?・・・・・アーク様。―――私はもう駄目なのですか?沢山殺してしまいました・・・・だから・・・・。」
「アリス・・・あなたは自らの闇を知っていた。そして最後の最後まで目を逸らさなかった、それでいいのです。誰もあなたを責めたりはしません」
その言葉に更に涙が溢れてくる。
「うぅ・・・・生きていたいよ・・・・好きな人がいるから・・・・・・・・死にたくないよぉ・・・・・」
「そうですね。誰も死にたくはないですから。」
「ごめんなさい・・・・沢山殺してごめんなさい・・・・・・うぅぁぁ・・・・ごめ・・・ん・・・なさ・・い」
そしてアーク様は私にゆっくり近づいて来た、優しい眼差しで。
だがその時
「消せ!!!あの女を!!!殺せ!!!」
激痛が体を襲った。
・・・なんで・・・まだ・・・・?
「お前には関係ない!!!!私が消す!!!」
・・・・・やめて・・・・お願い・・・・・・・
「殺す!!!!コロシテヤル!!!」
・・・や・・・め・・・・・て・・・・・・・
「ちっ!!お前は私に従っていればいい!!!」
―――――――――――――――――――――
「悪いわね・・・。まだ終われないの・・・・」
その宣言と共に神剣を構え直す。
「そうですか。ですがもうあなたは、あなた自身を止められないはずです。」
「くっ・・・舐められたものね。・・・神剣なしの今のお前に何が出来るの?」
・・・・だが結局は動けない・・・・くそ!・・・中の私が邪魔をしているのか・・・・・・
・・・だが殺さなければ・・・・・そうしないと私は・・・・・・・・・・・・
「妙ですね・・・。あなたは何が目的なのですか?」
「解かりきった事を!!初めて会った時から気づいていたのだろう?お前のミニオン達と同質のエーテルを持つ私を」
「そうですね。あなたの目的は私が精製している特殊なエーテルのはず。・・・ですがもう安心して結構です。彼女のエーテルの補充は私が行います」
「そんな事をしていいのか?また私が出てくるぞ!!」
適当に脅してみたが涼しい顔で返されてしまう。
「いいえ。彼女はもう負けないでしょう。あなたはあの子の中に存在すら出来なくなります。なぜならあの子がここまで殺戮に囚われていた理由は
私の精製するエーテルが枯渇し暴走しかけていただけですから。つまり、優しいあの子にはもう殺戮はできないでしょうね。
エーテルを補充すればあの子はやっと『あなた』と言う呪縛から解放されます。」
さらに付け加えたように言われる。
「ですがあの子が怒り、あの子が守りたいと思う意思はあの子のものです。それも、彼女を彼女たらしめるものですからね。
もし今までにあの子が守りたくて行った戦いがあるのでしたらそれは決してただの殺戮ではないはずです。」
・・・・ふふ・・・・最後まで詭弁か・・・・・まあいい・・・・・・・・
「ではさようなら。アリスのもう一人のアリス・・・」
私は額に温かい光を感じつつ視界が暗く染まっていった・・・・
―――――――――――――――――――――――――
夕方
「いたたたた・・・・・どうして背中が痛いかなぁ?」
「ワウ?」
実は目覚めてからずっと部屋で考えている。
背中がちょっと痛いから適当に摩っているのだけど・・・
全くよくならないんだよね。
「うーん・・・どうしてかな?」
「ハイロゥ・・・・・」
「え・・・・・?」
気づけばアーク様が入り口に立っていた。
しかもいつの間にか話し方が元に戻ってる。
失礼だけど、この方はやはり別人なのかな?
「出して・・・」
「えっと・・ハイロゥ出して、でいいのですか?」
「ん・・・・・」
はあ・・・相変わらず通じ難いけど要領さえわかれば簡単だね。
私は適当にスフィア・ハイロゥを出そうとした・・・が・・・。
「ひゃあ・・・・・!!!」
「ワンワン!!」
いきなり視界が真っ白な光に包まれる。
そして気づいたときそこには・・・・
「ええええええ????!!!!」
「ん・・・・・・」
なんとそこには『虹』色に輝くウイング・ハイロゥが背中にあった。
しかも八枚も翼があるし・・・適当に大きさも変えられるらしい・・・ってそんなことよりも。
「あの〜アーク様?・・・これはなんですか?」
「ん・・・ルシアと同じ」
「え?」
あぅ・・・通じ難い。
「虹が・・・・同じ」
「えっと・・・・ルシアさんも同じ翼があるということですね?」
「うん・・・・」
今になってだが朝のルシアさんの髪の色の意味はこれだったのか。
でも、あれ?私の髪は同じままだね。
「アーク様・・・ルシアさんと違って髪の色が変わりませんね?」
「ん・・・・変則的だから」
「え・・・・・?」
はぅぅぅ・・・・解かり難いよぉ・・・。
「アリスが・・・・」
「つまり・・・えっと・・・・私が変則的だということですね?」
「うん・・・・・」
なるほど・・・あれ?
更なる疑問が。
「いきなりなんで使えるようになったのかな・・・・?」
「解放したから・・・・・」
「え・・・・・?」
うえ〜ん・・・泣きたいよぉ・・・
「私が・・・・」
「・・・・アーク様が解放されたからですね。ところで今まではなんで使えなかったのかなぁ・・・・?」
「私が造って無いから・・・・私が造れば始めから解放はできた・・・」
「そうですか。なるほどぉ・・・って!ちょっと待ってください!それならアーク様が造れば全員『虹』色なんですか?」
「ん・・・違う」
ええええ?!!一体どういう事だろう?
「アリスは特別・・・・ルシアも特別・・でもアリスはもっと特別・・・」
「は・・はあ。・・・・今回はさっぱり解かりませんね・・・・すいません」
「ん・・・・」
アーク様は適当に頷いている。
ん〜〜明日ルシアさんに聞こう、それが一番だね。
それにしてもなんだか体が軽くなり力が段違いに増しているような気がする。
そう思って適当に翼をピコピコ動かしてみたけどやっぱりいままでにない力だ。
でも・・・
「ふぅ・・・・・・」
「アリス・・・疲れた?」
「え・・・・いえ!すいません勝手にため息なんかついて。」
「じゃ・・・寝る」
「ええ?」
そのまま私の腕をとるとそのままベッドに直行してしまった。
「一緒に・・・・」
「・・はあ・・・そうですか」
「ん・・・・それと・・・」
「はい・・?」
「・・・・道具じゃないから・・・」
あっ・・・・・・
・・・・はい。そうですね・・・・アーク様・・・・・・
口数はやっぱり少ないけど温かいね・・・・
そのまま二人で横になる。
「ん・・・寝る」
「はい♪そうします」
「おやすみ・・・・」
「はい、お休みなさいませアーク様♪」
時間は早いけど何故か私は眠りにつくまでに時間は掛からなかった。
「お休み・・・私の『娘』・・・・」
―――――――――――――――――――――――――――
深夜・・・起き抜け・・・・
ふう・・・本当に今日は色々な事があった・・・・
遂に自分が自分で居られるようになったし・・・自分の意思で闇に勝てたからね・・・・
・・・・でも・・・アーク様がいたから私は今ここにいるんだよね・・・・・・
アーク様に会えた事は私にとって最高の出会いなのかも知れない・・・・・
今日は本当にありがとうございました・・・・・・・アーク様・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さてと・・・始めよう。
今日は色々な事がありすぎて考えもしなかったけど気になる事があり過ぎるから。
やっと私は私として考える事が出来るから。
もう邪魔は無い・・・・暗い感情にも支配されない・・・・・・・・・
私の考えがやっと私と同じになる・・・・それは今まで見えなかった疑問・・・それがやっと闇でななく表に出せる・・・・・
えっと・・・今私が疑問に思っている事は・・・・っと・・・
ひとつめ・・・この力『虹の翼』の事・・・・封じられていた理由は?
ふたつめ・・・なぜアーク様のエーテルで私が造られたのか?
ふう・・・こんなものだよね。
でも、参考になる情報が少なすぎるね・・・・今までの私に解かる事はもう一人の私が言っていたこと・・・
・・・「アーク様のミニオンと同じ存在であること」・・・・・・そっか・・・つまりアーク様のエーテルが私の中に流れているんだね・・・
だからいくら敵を殺してもエーテルが補充されずにだんだん思考が短絡的になり殺戮を楽しむようになってしまった・・・
・・・・結構危なかったんだね・・・私・・・・・・・・アーク様に会えなければ今頃は・・・・笑いながら・・・・殺して・・・・
・・・意味も無く消えるまで・・・・殺し続けて・・・・・・・最後まで笑い続けて・・・・
・・・ううん・・・やめよう・・・・・・・せっかく私がやっと私に思えるのにね・・・・・・こんな事じゃアーク様に失礼だよね・・・私は道具じゃないのだから・・
気を取り直す事に決定!
・・・えっと・・・そして次の疑問・・・・・なんで私がアーク様のエーテルで構成されているのか・・・・・?・・・・だよね・・・・
・・・う〜ん・・・・生まれた時からあの馬鹿とは一緒に居るけど一度も生まれた時の事を話さないのは疑問だった・・・・
普通ならアーク様のエーテルで造られているくらい言ってもいいよね・・?
・・・・言ったところでエーテルが手に入るわけじゃないのに・・・・・・・
・・・・まさか・・・・言わないのじゃなくて『言えない』のかな・・・?・・・・・それなら少しは説明がつくよね・・・・・
・・・・だって・・・もし私がアーク様のエーテルで造られているのだとしたら・・・・あの馬鹿と『無知』様は当然この結果になる事を知っているはず・・・
・・・初めて戦闘をした時にエーテルがもう底を尽きかけてる事にも気づいているはず・・・・それを知りながらあえて言わない理由は・・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・私を暴走させるため?・・・・・・・・・・・・・いや・・・違う・・・・・それならもっと過酷に訓練が課せられるはずだよね・・・・
だた暴走を望むのなら・・・単純に殺意の塊にしてしまえばいいのだから・・・・・・・・・・・・・
それにそんな事になんの利益が二人に有る・・・・・・暴走した時点でもうそれは殺意の塊なのだから・・・・言う事なんて聞かないよ・・・・
それじゃ二人の優しさ・・?・・・・・じゃないよね・・・流石に・・・・・もし優しさなら私の本当の姿をあえてみせないはず・・・なんとなくだけど・・・・・・
そんな疑問と仮定でしかない優しさを考えてしまう自分が少し嫌だった。
・・・・そんな事よりもアーク様のエーテルで造られているのなら戦闘なんかさせれば補充が無いので当然消滅に向かってしまうはず・・・・・・
なのに戦闘訓練・・・?・・・・どうして?・・・・・暴走目的でなく・・・・エーテル消費でもない・・・・・・・
・・・・・じゃあ・・・・・・なぜ?
私のこれが最大の疑問。
・・・・・なぜ私を育てる必要が有る?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふう・・・・・・・解からないよね・・・・・こればかりは本人に聞かないと・・・・・
・・・・・・ん・・・・・・・ちょっとまって・・・・・確か・・・・・・・・・・・・・
急に気になった事があり荷物からあの馬鹿の手紙を探してから読み直す。
そしてあの時に気が付かなかった事に今更になって気づいた。
・・・・今度会った時は・・・・ってまさか!・・・・これは初めから私にまた会うって事だよね・・・・・・
消えそうな事を知っているのに・・・・また会うって・・・・・・どういうこと?
それにこの消した跡・・・・消すって事は知られたくないことだよね・・・・・私に・・・・・
さらにこの一文を書いたって事は元々また会うつもりだったわけだし・・・・・
消滅間近の私が生き続けることを初めから知っていた・・・・・・・
疑問は完全に頭にいっぱいである。
じゃあどうして・・・・・って駄目だね・・・これじゃ堂々巡りだ・・・・答えなんて出ないか・・・・・・
ゆっくりと首にあるペンダントを握り締めた。
少しだけあの馬鹿が近くに居るような気する・・・・・。
ふふふ♪・・・・けどね・・・・あの馬鹿は私を捨てる気じゃなかったことが解かっただけでも幸せだよ♪
気づくのは遅すぎたけどね・・・・でも、また会える気がするから♪
・・・・ふあああああぁぁぁ〜〜〜〜・・・・・っと・・・・起き抜けで日記書いていたら眠くなっちゃった。
隣を見る・・・アーク様が寝ている・・・・・。
こんなに小さな体なのに、それでも頑張っていらっしゃるのは正直に凄いと思う。
私もしっかり恩返ししないとね・・・・・助けて頂いたのだし・・・・・。
さてと・・・・もうそろそろ寝ようかな・・・・・・・
アーク様・・・ちょっと失礼しますね・・・・・よいしょっと♪
ではでは・・・おやすみなさ〜い♪
・・・・・ふふふ♪やっぱり温かいね・・・・・・・
「35日目・・・終わり」
―――――――――――――――――――――――――
設定追加・・・
アリス=レインボーミニオン(潜在能力開放・・・虹の翼)
アークの力により、その偏った力が完全に解放されその潜在能力を顕現させたアリス。
赤・青・緑・黒・そして白の全てを統べる存在となった。そのためか8枚翼のウイング・ハイロゥが虹色となる。
この覚醒によりアリスは闇を振り払い本来の自分を取り戻せた。
だが、この力は何のためにあるのかはアリスには解からない・・・・
あの二人はこの力の事を知っていてアリスを置いていったのか、それとも知らずにいるのか・・・・それすらも定かではない・・・
―――――――――――――――――――――――――
あとがき
やっとアリスが自分を取り戻しましたね・・・・まずは作者として感激です。
しかし、それにより新たな謎が・・・・
余談ですが・・・・・アークの設定をお借りしているのですが、この娘の人格変更には本当に四苦八苦させられました。
これで本当によいのか・・・・不安です。
最後になりますが、次回からしばらくは明るい話が書けそうですね・・・最高です!!!
では、お読み頂きありがとうございました。