夜
久しぶりに、今日は良いことがあった。
『無知』様に褒められたし、あの馬鹿も満足そうだった。
ふふ・・・・嬉しいな♪・・・ねえ!クロン♪
日記を書きつつクロンに話しかけた。
・・・・・・・・・・今日の事を忘れることは無いだろう・・・・・
・・・・今日・・・私は確かに変わったんだ。
「33日目・・・新しい『いつも』」
――――――――――――――――――
昨日は一睡も出来なかった・・・・
あの馬鹿の事も気になったし、謝りたかった。
ごめんね・・・・って。
そんな事を思って、リビングに来てみると、あの馬鹿が既にソファに座っていた。
よく見ると・・・・・・寝てる・・・・・
私は昨日の自分が刺した傷が気になったので、起こさないように近づいていった。
そして、ある程度近づいた時・・・・私は驚いた。
「傷が・・・無い・・・」
全く痕跡すらも無かった・・・
初めから存在しなかったとでも言うのだろうか・・・
「傷が無いのがそんなに不思議か?」
「えっ――ひゃあ!!!」
寝ていたはずの馬鹿に急に話しかけられて私は素っ頓狂な声を出してしまった。
「起きているなら言ってくださいこの馬鹿!!!」
「っはは!!それぐらい元気なら大丈夫そうだな・・・」
そう言われて初めて自分が、何をしにきたかを思い出した。
「あの・・・・・・えっと・・・・・その・・・・・あのね」
自分が謝りに来たはずなのに、急に恥ずかしくなってしまった・・
「んん??どうした・・??へんなモノでも食ったか??」
「違うの!――だから・・・その・・・・き、昨日は、ごめんなさぃ・・・・・・」
やっと言えた。良かった・・・と思ったのに・・・
「はあ!?――アリスが・・・・真面目に謝ってるぞ?!嘘だろ・・・・明日は、神剣の雨でも降るのか??
って事はヤバイ!!!屋根補強しないと家が壊れる!!!」
なんて言われてしまった。
「もういい!!!この馬鹿!!!」
はあ・・・あんなに考えてたことが馬鹿みたいじゃない・・・
でもね・・・
ありがとう・・・・私を今日も私として見てくれて。
だからね・・・・頑張るよ♪
あなたがあなたで、いてくれるのなら・・・・・
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
今日は久しぶりにお仕事なんだ♪
だから、今日は訓練は無しだって、『無知』様にそう言われた。
『無知』様に朝から怒られるかなって思ったけど、私の顔を見て何かを悟ったのかなにも仰ってはこなかった。
ただ・・・『汝が思うようにすれば良い』――そう言われただけだった。
思っている事は私には解からなかったけど、いいよね。
さてと、お仕事に行かないと・・・・
何時も通りの支度をして家を出た。
因みにクロンも一緒に連れて行ってるんだ。いつもね♪
仕事場は家から走って15分くらいの所のある。
私が「走って」だから・・・人間の方にはきついかもね・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ええと――到着!!!
ふう・・・・疲れた・・・・・でも時間が近いから急ごっと。
この仕事場は町にあって、いつも私がお仕事を貰っているんだ♪
この施設では、毎日いろいろなお仕事の求人があって、人間でも、エターナルでも、ミニオンでも関係なくお仕事が出来る。
受付の方もミニオンだしね。
今までは、子供のお世話や炊き出しのお手伝いとかをしていたんだけど・・・・。
「お金がないんだよね・・・・・今月・・・・・」
・・・・今月は本当にお金がないので、不味いかもしれない・・・・
実は今朝付けてた家計簿を見て失神しそうだった・・・・
なので今日は、高めのお仕事を選ばなくっちゃ!!
そう思いながら扉を開ける。
中に入ってから何時も通り、カウンターで今日の分の資料を見せてもらった。
今日も高いのから安いのものまで色々あるね。
「う〜ん・・・どれにしようかな???」
私は高い仕事を重点的に見ていた。
そして、ある程度のお金が貰えるお仕事を見付ける。
「ふんふん・・『坑道の宝石原石およびエーテル結晶体の発掘」か〜〜これがいいかも!!貰えるお金も高いしね♪」
お仕事を決めた私は手続きを済ませようとしてカウンターの方に声を掛けた。
「あの、すいません!このお仕事」・・・おねーさん!!この仕事たのむ!!」
急に私の声を遮るほどの大きな声が聞こえた。
誰だろうと振り返ると・・そこには・・・・・
「狼牙様・・・??」
「よう!!アリスちゃん♪君も仕事かい?って・・・ははあ・・・・俺と同じ仕事か」
いきなり、わたしを見付けると声を掛けてきた。
この方は狼牙様・・・エターナルだ。
実はクロンを前に貰ったのはこの方。
前に一緒にお仕事をした時に、譲っていただいたのがこのクロンなんだよね。
「よう!クロン!お前も元気か?!」
「ワンワン!!!」
「おお!!そうかそうか!!アリスちゃんに迷惑かけるなよ!いいな?!」
「ワン!」
「よしよし!それでこそ俺の眷属だ!!」
そんなことを考えている間にもクロンに話しかけていた。
うーん元気な人だ・・・・素直にそう思う。
でも・・・なんだか・・・時節、とても深い瞳をしていると感じることがある・・・
理由は私にはわからないけれど・・・・
まあ・・・見た目は軽い人に見えるんだけどね・・・
因みに神剣は腰に「大太刀」をつるしている。
確か・・・・『狼皇』様だよね・・・・それよりも大きい体格のせいか、妙に似合っていた。
「ん?どうした?アリスちゃん?」
「いえ!なんでもありませんよ!!」
「そうか、ところであの少年も同じらしいな」
狼牙様が顎で刺した方向を見ると、私達と同じ手続きをしている方を見付けた。
そして・・・そのまま私達に近づいて来た。
「あの〜坑道での仕事の方達ですか?もしそうなら、僕も一緒に連れて行って欲しいのですが・・・このあたりの地理には詳しくないんで」
・・・・・・・この方・・・・エターナルだよね・・・・・腰の脇差に似た二つの神剣・・・・力を感じる・・・
その方を見て思った、でもそんな事よりもその「目」の方が気になって仕方が無かった。
なんて・・・深い目なのだろう・・・・・
童顔な見た目と反してとても深い目・・・狼牙様とは違う意味で「何か」を感じた。
「あの〜どうしました?僕の顔に何か付いてます?」
「え!――いえ!違います!すいません!!」
「いえいえ・・で、どうですか?」
「はい!私たちは坑道に行きますのでよろしければ!!」
その少年はよかった、と小さく言って自己紹介をした。
「僕はシュウ・・・エターナルだよ。・・・・・君とそちらの方は?」
「私はアリス・ブルーミニオンです。よろしくお願いしますねシュウ様」
「俺は狼牙、お前さんと同じくエターナルだ」
私は丁寧に、狼牙様は少しぶっきらぼうに自己紹介した。
「ご丁寧にどうもアリスちゃん。狼牙さんは・・見た目通りの方、みたいだね」
「ふふ・・・・♪」
「悪かったな!」
そういえば、久しぶりに心から笑った気がする・・・
「では、行くぞアリスちゃん、シュウ!」
「了解」
「はい♪」
私たちは歩いて45分程の所にある坑道に向かった。
その道で私たちは色々なお話をした・・・その中でのこと・・・
「あの・・・シュウ様はこの世界に来てまだ、短いのですか?」
「ん・・ああ・・・僕はまだ来たばかりだからね。――アリスちゃんは?」
「私ですか?私はこの世界に来て15日位ですね。」
「一人なの?珍しいね。」
「いいえ・・・・頭が痛くなるような「馬鹿」ならいますけどね・・・・」
「はは・・・・でも嫌いじゃないんでしょ?そんな顔してる♪」
え・・・・・私は・・・・嫌いだけど・・・・・でも・・・・嫌いじゃない・・・・かな・・・・
「あはは!難しい顔して考えないでよ」
「はあ・・・・・・・うぅ・・・・」
「あははは・・・・・・ん、―――あれは?」
シュウ様は何かに気づいたらしく、指をさした。
街中の商店街に近い一軒の大きな家・・・・
「どうやら、あの家で何かあったらしいな・・・・血痕・・・・人間のか?」
その狼牙様の言葉に私が脅えながら見ると、そこには確かに人間と思われる血痕があった・・・・
血痕自体の量もとてつもなく多く、壁、床・・・・いたる所に付着していた。
近いうちに惨劇があったことが伺える・・・
家自体もほぼ全焼しており、内部が丸見えだった。
「今そこで聞いたのだけど、神剣に飲まれた一体のミニオンが引き起こしたらしいね・・・幸い近くに他のミニオンがいて倒したらしいけど」
「・・・・・そうですか・・・・」
怖かった・・・・・・・
・・・・いずれ・・・・・・私も・・・・何も感じることなく殺しを・・・・・
・・・・・・え・・・・・・いずれ??・・・・・・・・・
・・・・・なに言ってるの・・・・・・・・
・・・私が家でしている事だって・・・・変わらないじゃない・・・・・
・・・・あの時も・・・・・あのときも・・・・・・・私にあったのは・・・・・
「アリスちゃん!!おいアリスちゃん!!」
「え・・・・・・あ・・・・・はい・・・・・」
「大丈夫か?・・・・・・顔が真っ青だぞ」
「ワゥ??」
・・・・・・・・・・私・・・・・・また嫌なこと考えてた・・・・・・
・・・・・・・・・・・・本当に・・・・いやだよ・・・・・・
決めたのに・・・・頑張るって決めたのに・・・・
「アリスちゃん・・・とにかく休もう。」
「いえ・・・大丈夫です。」
「まあ、いいじゃない。僕も少し疲れたし・・・ね」
ああ・・・・この方は私の事を悟ってしまったんだな・・・・・
・・・・・・・・・・・・知られてしまったんだな・・・・・・
いやだよ・・・・そんな風に思われるのは・・・・
私たちは坑道に近い山道の中で休憩を取ることにした。
「ふう・・・。ん〜〜ここは結構いい風が来るね!」
「だな!休憩にはもってこいだ!」
「・・・・そうですね・・・・・」
私は生返事しかできなかった・・・・
「で・・・・アリスちゃん。何が怖かったの?」
「私は別に・・・・・」
「ふうん・・・・僕には最初は血が怖くて、次は「何か」が怖かったように見えたのだけど。僕の見当違いかな」
「なあアリスちゃん・・・・別に言わなくても解かる事だから、先に言うが・・・・「見ろよ」――わかったな」
「そうだね。「見る」事を止めちゃダメだよ・・・いいね」
え・・・・・なにを・・・・・・なにを言っているの・・・・・・この方達は・・・
「その言葉だけ覚えていれば十分だよ」
「解かる、わからないは関係ない・・・いいな」
「ワン!!」
「・・・・・・・・・・はい・・・・・」
・・・・・・・・やっぱり解からないけど・・・・この方達の気遣いだけは感じ取れた・・・・
ありがとうございます・・・・・・・お二方様・・・・・・それとクロンもね・・・・・・
「さてと・・・――それじゃ行こっか!!」
「ああ、そうだな」
「はい」
「ワン!!」
そして、私達は坑道に向かった。
その間・・・私は先ほどの言葉の意味を考え続けていた。
でも・・やはり答えはでなかった・・・
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―――――――――――――――――――
「はは〜〜意外と広い坑道だな」
「そうですね。他のミニオンや人間の方達もいますし」
「坑道の形も特徴的だね」
私たちは坑道に着いたら、それぞれの感想を漏らした。
この坑道は、入り口が大きな広場みたいになっていてその先に3つの穴が開いていた。
つまり、その中の一つを選んで入るって感じの構造だよね・・・多分・・・
「ふうん・・・どれかに入って原石掘りか・・・なるほど」
「じゃあ・・・どれに入るんだ?全員違うのにするか?」
「・・・そうですね。そのほうが建設的でしょう・・・お二方はエターナルですし」
「ん!――まって・・・この看板には三つの坑道の先にもそれぞれ広場があるらしい・・・・そこで、仕事をする手はずだね」
「まるで蟻の巣だな」
結局私が3番、狼牙様が1番、シュウ様が2番に入る事にした。
「いまから3時間程度が終了時間だから、その時に全員戻って来る事、いいな。」
「了解。」
「はい!わかりました!」
「一応だが、アリス・・・なにかあったら俺かシュウのところに来いよ。――それとクロン!!アリスをしっかり見てる事、いいな!」
「ワン!」」
最後にそう言って、狼牙様とシュウ様は坑道に入っていった。
さてと・・・私も行かないと、始まる時間になっちゃうね。
遅れたらお金引かれちゃうし・・・・急ごっと・・・
そのまま長い坑道を走っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふう・・・間に合った・・・・疲れた」
「ワン」
「ずるいよクロン」
ずっと肩に乗っていたクロンが少し恨めしかった。
さてと・・・それじゃお仕事お仕事♪
現場の方に説明を聞き、自分の与えられた場所に向かった。
目的地について周りを見回したら、私の場所の近くでも一体のミニオンがお仕事をしていた。
うーん・・・私より少し若いよね・・・・身長も私の五分の四くらいだし・・・・
でも、緑色の長いツインテールの髪が特徴的だった・・・それになんだか優しそう♪
私はその子の隣に並びお仕事を始めた。
その子とはすぐに仲良くなり色々なことをお話しながら、壁を掘っていた。
因みに掘っていた・・・と言うより炎で「砕いている」のが正しいかな・・・・
「ふふ・・・アリスって、苦労してるんだ♪」
「うーん・・・・働かない馬鹿がいるからね」
「いいじゃない。退屈しないのなら。」
「そうなんだけどね♪なんだかんだ言って意外と行動力はあるし・・・普段はごろごろしてるけど・・・」
・・・でも、その行動力の初めてが私に「刺される」ことだったのを思い出すと、少し胸が痛んだ・・・
「ねね?アリスはその人の事はどう思っているの???」
「え・・・・え・・・え・・・・な・・・なに、いってるの?!別に関係ないじゃない!!!」
「くすくす・・・・顔に出てるよ♪」
「ぅぅ・・・・・・・・」
うわーん・・・・泣きたい・・・・・穴があったら入りたい・・・・って・・・目の前にあるけど・・・・・
「ところで、さっきから思っていたのだけれど、あなたは青ミニオンなのに・・・赤を持ってるよね??」
「・・・・・・・・うん・・・そうなんだ・・・・」
「どうして・・・って聞くのは野暮だよね・・・・ごめんね、色々事情があるんだろうし」
「ううん・・・気にしてないから」
・・・嘘だけどね・・・・・・本当は気になって仕方が無かった・・・・
髪や瞳は青色なのに・・・・使える力は全くの「赤」ひとつ・・・・まあ・・・・集中すれば氷をちょっと出す位はできるけど・・・・
「ほらほら♪そんな顔しない!可愛い顔が台無しよ!」
「ええ!?――ああもう!からかわないでよ・・・・・」
「ふふふふ・・・・可愛い♪」
うううう・・・・・・この子年下なのに・・・・。
「あ!・・・アリス!ここ見て!!この掘って出来た穴、何処かに繋がっているみたいね」
私はその場所を覗くと確かに穴に続く道があった・・・しかも初めからあったような造りで今まで埋まっていたらしい・・・
「この先って何処に繋がっているのかしら――アリス!行ってみない?」
「ええと・・・勝手に行っていいのかなぁ?」
「まあまあ、後で見付けたことを報告すればいいじゃない!ねぇ・・・クロンちゃん♪」
「ワン♪」
あううううう・・・・・やっぱり引きずられてる・・・・・私・・・・・
―――――――――――――――――
―――――――――――――――――
私たちは暗い穴を注意しながら歩いていった。
・・・でも・・・さっきから気になる事があるんだ・・・・
壁が、人工的に造られた物に見える。
整いすぎているよね・・・・・この壁・・・・?
よく見れば紋章や魔法陣みたいな物が掘られていた。
明らかに造られた物である。
「アリス・・・この壁・・・?」
「うん・・・多分造られた物だと思う・・・・」
「一体・・・この先に何があるのかな?」
「ガルルル!!!」
「っっ!!クロン?!どうしたの??」
いきなり吠え出したクロンに私は驚いた。
この吠え方・・・・警告なの・・・・?
「・・・・よほど、大事な物があるみたいね♪うーん、ワクワクする♪」
「・・・・・・・本当に大丈夫なのかな・・・・・」
そんな事を思いながら先に進む私達だった・・・・
――――――――――――――――――――
「あ・・・・すごい!!!見てあれ!!!」
私達は遂に終点にたどり着いた・・・・・そこで見たものは・・・・
「・・・・・・・エーテル結晶体・・・・だよね・・・・・」
ただ広い円形の部屋・・・その中央にはとてつもなく大きなエーテル結晶体があった。
直径でも優に10メートルはありそうな物だ。
「これってもしかして大発見だね!!」
「うん・・・・・でも、すごい・・・・」
聞いている結晶体の中では最大級のものだった。
これ・・・・本当にすごい・・・・・
まるで・・・大きな星みたい・・・・・・・
なんだか・・・・優しい感じがする・・・・・・
そう思った私は結晶体にゆっくりと触れてみた。
・・・・・・あったかい・・・・・・
「アリス!!!離れて!!!」
「え・・・―――かはぁぁ!!」
とっさに身を捻ったが、間に合わなかった。
気づけば左脇腹から胸にかけてを完全に裂かれていた。
そして・・・・倒れ行く私の視界に入ったのは・・・・・・・・
「龍」・・・・・・・・・・だった・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ああ・・・・・・・血・・・・・だよね・・・・・・これ・・・・・・・・・
いやだよ・・・・・・・・死にたく無いよ・・・・・・・・・・・・・
やっと・・・・・・・頑張るって・・・・・・・・・決めたのに・・・・・・
・・・・・私が私でいて良いって言われたのに・・・・・・
・・・・・・・・・・もう・・・・・・・・おわり・・・・・・・なの・・・・・・・・
「アリス!!しっかりして!!」
え・・・・・・・・・・・・・・・
薄れ行く視界の淵に見たのはあの子だった。
だめ・・・・来ては・・・・・だめ・・・・・・
殺されちゃう・・・・・・・・・から・・・・・・・・
それでもあの子は私を庇おうとしてやはり切り裂かれた。
そして、そのまま壁に激突し地面を転がった。
・・・・・・・・ああ・・・・・・あの子が死んじゃう・・・・・・・・
いやだよ・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・・・・・
私はこのとき初めて思った
どうして・・・・・・・・こんな時に「あの力」が使えないの・・・・・・・
ドクン・・・・・・・
「ねえ!殺すのを望むの?」
うん・・・あの子を助けたい・・・・
「じゃあ、殺してもいいのね?」
うん・・・あの子が助かるのなら・・・・私は・・・殺したい・・
「あはは♪―――じゃあ、始めましょうか♪」
――――――――――――――――――――
「ふふふ♪あははは♪さあ・・・死んでね・・・♪」
私は気づけば、血まみれの体で立っていた。
当然傷はあるままだ・・・・血だって流れ続けている。
だが・・・それでも私は確かに立っていた。
そして、いつもじゃない思考で考え始める・・・・
敵は龍・・・・・単独では勝てる相手じゃない・・・・けど・・・・
今の私なら一体ほどなら・・・・・・・・・消せる!!!
ここまで考えた私は、驚くことになる。
・・・・自分の意思で思考してる・・・・よね・・・・
なんで・・・今までは・・・・勝手に・・・・・・
答えは簡単だった。
ああ・・・・・・・・・なるほど・・・・・・・
そういうことか・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は本心から殺したいんだ・・・・・・この龍を・・・・
初めて「死」を願ったから・・・簡単なんだ・・・
だから・・・・
初めてのお友達を傷つけたこの龍を・・・・・・私は・・・・・・・・
「殺したい!!!!!!!!!!!!」
―――――
私は先に動いた。
それに尋常じゃない力が溢れて来る。
今なら・・・・消せる!!!
初速から最高速に達した私は、爪など止まって見えていた。
右腕の左上からの爪撃・・・・・・・・左腕で払いの連携・・・・・・・
そこまで読んだ私は構わずに懐に飛び込んだ。
一撃目を体を捻って避け、続けて来た払いを跳躍で回避。
・・・・・・・・・だが、これでは届かない・・・神剣間合いには後一歩・・・・・・必要・・・
ならば・・・・・これでいい・・・・・・
私は跳躍中に神剣をサイドスローの要領で投げつけた。
神剣は龍の目に刺さった。更に私はそのまま力を送り爆砕した。
「ふふ♪・・・・終わり♪―――ん・・・・・・くっ!!!!」
私はとっさに来た爪撃を回避した。
・・・・再生してる・・・・・・・・・・なぜ・・・・・・・
龍は傷はおろか、目でさえも無傷だった。
・・・・・・まさか・・・・このエーテル結晶体のせいか・・・・
・・・・こざかしい・・・・・・・・むかつく・・・・・・・死ね・・・・・・・・
そして私は最大級の炎を呼ぶことになる。
一瞬で龍を消し去るために・・・
「我は求める・・・全てを喰らう蒼き門・・・その門に・・・・天へと続く道は無い!!!受けよ蒼き炎の奔流を!!!」
狙い・・・・完全―――消し飛べ!!!!!
「ゲート・ブルーフレイム・オブ・ヘヴン!!!」
私が叫んだ瞬間、空間に揺らぎが発生した・・・・
揺らぎだけでは無い・・・・それに伴う灼熱の蒼い門が出現した。
そして・・・・扉が・・・・開く!!!
後は・・・・「蒼」・・・・・だった・・・・・
最後に私に聞こえたのは龍の断末魔だけ。
・・・・・・・・・・・・・・・終わり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はあ・・・・はあ・・・・・・はぁ・・・・・終わった・・・」
肩で荒く息をしている私がそこにいた。
「アリ・・ス・・・」
「えっ・・・・・―――あ!大丈夫?!!!」
あの子の場所に行きかけて、私は、はっとして立ち止まった。
私を怯えた目で見ているあの子がいた。
・・・・・・・・・・・・いやだよね・・・・・・・・こんな・・・・・・・こんな・・・・・・私が・・・・・・お友達なんて・・・・・・
・・・・・・いやだよね・・・・・・ごめんね・・・・・・・・・悪い子でごめんね・・・・・・・・
「アリス・・・早くこっち来て・・・・」
「え・・・・・・・なんで・・・・・・・・?」
私に掛けられたのは拒絶の言葉ではなく、「受け入れ」だった。
「・・・・・・なんで・・・・・?どうして・・・・?」
「解かるからね・・・・・・。ほら・・・早く・・・・」
私は駆け寄っていった、そしてゆっくり体を抱き起こした。
「ねえ・・・聞いていい??アリスは私のためにあんな事したの?」
「・・・・・うん・・・・だってこのままじゃ・・・あなたが死んじゃうから・・・・」
「そう・・・・なら・・・アリスはアリスだよ・・・・」
そう言って私を抱きしめてくれた。
ああ・・・・なんて温かいのだろう・・・・
いつしか私は涙を流していた。
だが・・・・・そんなひと時すらも絶望に変える声がした。
その声に私達は振り返ると・・・
そこには、龍が5体も背後に存在した。
さっきと同じく空間転移で来たのだろうか・・・・そんな事を考える余裕すらあった。
なぜなら・・・・
私達は傷で動くことも出来ないから。
「アリス!!逃げて!!早く!!」
「嫌!!このまま逃げるなんて嫌!!―――あなたは私を受け入れてくれる人だから・・・・」
「死ぬ気なの?!!」
「死んだっていい!!このままあなたがいなくなるのなら!!」
「――っ馬鹿!!!!あなたを受け入れてくれる人はいるんでしょ?!!」
「それでも嫌なの!!!!!」
そんなやりとりも、今の状況では意味が無いんだよね・・・・
ゆっくり近づいて来た龍の一体が当然のように爪を振り下ろしてきた。
・・・・・・ああ・・・・終わるんだ・・・・・・でも・・・・最後に・・・・いいひとに会えて・・・・・・よかった・・・・・
私は目を閉じた。
せめて最後は痛くないように願いながら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・
最初に感じたのは違和感だった。
爪が・・・来ない?
「喰らい尽くせ――『鎮魂』」
その知っているが、恐ろしい冷たさに満ちた声に私は目を開けた。
「シュウ様・・?」
入り口に立っていたのはシュウ様だった、手には二振りの刀が握られている。
でも・・・・・・・・怖いよ・・・・・あの目が・・・・・氷みたいに冷たいよ・・・・
いつものあの温厚さは影も形もなかった。
まさしく「氷の殺意」そのものだった。
そして今気づいたように、私は龍を見上げれば・・・腕が無かった。
だが、すぐに動けない私達に残っている方の腕で龍は爪を突き立ててきた・・・・が・・・・
「ガルルルルル!!」
横合いから、飛び込んできたクロン(?)が腕に噛み付きそのまま引き千切った。
え・・・・・これって・・・・クロン???
そう考えてしまうほど、クロンは大きかった。
まるで大人になったみたいに・・・
「よう!!アリスちゃん・・どうやら間に合ったか」
今度は狼牙様がシュウ様の隣に立っていた。
私は最初なんでこのお二方がここにいるのかが、解からなかった。
でも、クロンを見たら全てを理解した。
「呼んで来てくれたんだね・・・クロン・・・」
「ワンワン!!」
ふふ・・・・大きくなってもやっぱり「犬」みたいに吼えるんだね・・・・
「さてと・・・感動のシーンなんか邪魔する無粋な奴はさっさとご退場願おうか!!!」
「そうだね・・・・僕は・・・・許さない・・・人の幸せを消そうとする存在を!!」
「それじゃクロン!!お前はアリスちゃん達を守ってろ!!――んじゃ・・・行くぞ!シュウ!!」
「了解・・・・・!!!」
そう言って二人は結晶体を中心に左右に走りだした。
まず、シュウ様は私達の前にいる腕なしの龍をすれ違いざまに一閃し「首」を落とすと
続けて、近くにいる龍に低い体勢で飛びかかり紙一重の間合いで爪撃を避け、そのまま体ごと中に舞うように斬り上げ、
そして空中で交差させた刀を振り下ろし、龍を×のように切り裂いた・・・・さらに着地と同時に体を捻り、横に一閃!!!
この間・・・1秒弱・・・余りの斬撃の速さに刀を納めるまで、龍が崩れ落ちなかっほどに速かった・・・・。
「すごい・・・・全然見えなかった」
私は口に出していた・・・
「次・・・・・」
そう言い残して、残っている龍に向かっていった。
――――――――――――――――――
「せい!!!」
その声に私が気づいた時にはブロック体みたいに斬られた龍がいるだけだった。
正しく言えばもはや龍の原型すらない・・・。
「ふう・・・さて観客も居ることだし・・・サービスはしないとな――クロン!!来い!!」
「ワンワン!!」
そう呼ぶや否や、クロンは私の前から風の如き速さで、狼牙様の元に走っていった。
「さてさて・・・これを使うのはお前程度にはもったいないが、せっかくクロンもいるんでな!!やらせてもらう!!!」
そして狼牙様は静かに詠う・・・
「皇たる大神・・ 大神の皇たる狼の寵愛と祝福を受けし幼き狼よ・・・・
今その力の断片を出し自らの・・・そして主人の敵であるものを冥狼の名において・・・全て消滅させよ・・・・!!!」
その時・・・・クロンが光輝き、エーテル光となりて刀に吸い込まれていった・・・・そして・・・大太刀が輝き始める・・・
まるで・・・消滅の力が早く行き場を探しているように見えた・・・
「さて・・・・サービスだ――受け取りな!!!!!―――冥狼皇絶牙!!!!」
それと同時に太刀を上段から一気に振り下ろした。
破壊なんて生易しい、消滅の奔流が一直線に龍に向かっていった。
余りの威力に龍だけでなく、結局壁があらかた消滅した。
「あちゃあ・・・・やりすぎたか・・・・・」
―――――――――――――――――
「ふう・・・・お前で最後だ・・・・。ん――なるほどねブレスかい?」
そんな言葉が聞こえた。
龍を見てみれば、既に口が発光していた・・・・
まずい・・・・あの距離では間に合わない!!
「まあいいか・・・・とりあえず、消すよ!!
獄炎の番犬よ…雪月の孤狼よ…我が前の敵をなぎ倒せ!」
ダメ!詠唱が遅い・・・。
私がそう思った時には、発射されていた。
「・・・遅いね――。はぁあああ!!」
なんとシュウ様は龍のブレスを限界まで引き付けてから、刀を十字に抜き放った。
「『ヘル・ブリザード』・・・・押し戻せ・・・・」
抜き放った、二本の刀から「炎の魔犬」と「氷雪の銀狐」が現れた。
それはお互い融合して破壊衝撃となって突き進んだ。
ブレスを巻き込みつつ更に加速し、龍に命中したかと思うと、熱膨張で吹き飛んだ。
「終わったね・・・・」
「おーい!!こっちは片付いたぞ!!」
「ええ、こちらも終わりましたよ」
「で――アリスちゃん達は?」
「あ・・・寝てますね」
「はは・・・完全に気が抜けたらしいな」
!!!!!!!!!!!!!!
「ん・・・・まさか・・・・?――この地響きは・・・・なあ?」
「残念ですが、崩れますね」
「やりすぎたか・・・」
「そんなことより生き埋めになりますよ」
「おお!!そうだった!!シュウはアリスちゃん担げ!俺がこっちの子を運ぶから!!」
「え、え、え??僕がですか?!」
「早くしろ!!本当に生き埋めになるぞ!!!」
「はあ・・・・」
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
「ぷは〜〜死ぬかと思った!!!」
「はあ・・・ホントに無茶苦茶ですね・・・」
そんな事を言いつつ二人は山道で腰を下ろした。
「あはは・・・すいませんシュウ様、私重かったでしょう」
「いや、気にしなくていいよ」
あ・・・・いつものシュウ様だよね・・・・よかった・・・・
「アリス!よかった・・・生きてて・・・」
あの子はそう言って私に抱きついてきた。
うん・・・・・本当によかった・・・・・・
「ありがとうございました!!お二方!!」
そういったこの子にふたりは笑って頷いた。
「まあ・・・生きてるんだ、良かったと思っとけ!!」
「僕は君達の今、足りない力になっただけさ」
いいんだよね・・・これで・・・・・・
そして、別れの時は来た・・・
「アリス・・・それじゃ私はもう行かないといけないから・・・お別れね・・・・
私の主人はもうこの世界から離れてしまうし二度と会えないかもしれない」
「うん・・・・・」
「けどね、私があなたを受け入れたように、必ずあなたが自分を「見て」いれば、現れるよ・・・あなたを受け入れる人が、必ずね♪
だから、自分を見続ける事をやめないでね・・・約束だよ・・・・」
「うん・・・うん・・・ぅぅぅ・・・・」
気づけば、抱きついていた。
そして、涙を流しつつ心の中で、本当に感謝をしていた。
――――――――――――――――――――――
「さて、んじゃ俺も行くか!!」
「そうですね・・・今日はいいものも見れたし」
「まあ、坑道全壊で報酬『なし』だがな・・・」
「あはははは。いいですよ僕は」
そんな会話をしつつ最後に私に話しかけてきた。
「アリスちゃん、これで今日の意味はわかったかい?」
今の私は迷わずいえると思う。
だって、一番の方法で知ったのだから。
「はい!大丈夫です♪」
満面の笑顔だったと思う。
「ん・・・いい笑顔だな。それでいい」
「うん、僕も満足かな」
「・・・・ああ・・・それとクロン返しとくぞ!!」
・・・・・・・・・それを最後に私達は別れた。
「あ・・・・・・お金・・・・・どうしよぅ・・・・・・・」
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
帰ってから『無知』様と、あの馬鹿に今日の事を報告した。
あの馬鹿は楽しそうに、『無知』様は何かを考えつつも少し褒めて下さった。
さらにもう一度「この」問いを受けた。
『もう一度聞く「逃げる事も立ち向かう事も同じ価値なのはなぜだと思う?」』
私の答えは・・・・
「それは、どちらにしても「私」は「私」だからです!!!」
『ふははははは!!!それでよい!!!」
ふふ・・・嬉しいな♪
本当に今日は良い日だった・・・。
――――――――――――――――――――
夕食後・・・
「なあ・・・アリス?――お前はもう大丈夫だよな?」
そんな事を私の部屋に戻る前にあの馬鹿にされた。
「はい♪大丈夫ですよ♪」
心からの笑みで答えた。
・・・・だって・・・・あなただって受け止めてくれるから・・・・・
・・・・私を・・・
「そうか・・・・良かったなアリス」
「わぷ・・・・ん・・・・♪」
・・・・撫でられてしまった・・・・・恥ずかしい・・・・・・
「アリス・・・・・・負けるなよ・・・――自分に」
最後にそう言って去ってしまった。
・・・・・寂しそうに見えたのは・・・気のせい・・・・・かな・・・・・
―――――――――――――――――――
深夜
ふう・・・長い日記だったな・・・・
でも、嬉しいことが多くてよかった♪
自分の手を見た。
うん・・・・・頑張れるよ・・・・・・・・
今日会ったあの子の事が浮かんできた。
・・・・・・本当にありがとう・・・・・・・・・・
ふあああぁぁぁぁ〜〜
・・・・・・っと・・・あくびがでちゃった・・・・・そろそろ寝ようかな。
ではでは♪おやすみなさ〜い♪ってクロンも一緒にね。
そして・・・・
私の「新しい『いつも』」は・・・・今日始まった・・・・・
―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
だが・・・まだ知らなかった・・・・
あの馬鹿と『無知』様が・・・・・・・次の朝にはいなくなっていることに・・・・・
「33日目・・・・終わり」
―――――――――――――――――
後書き・・・・
いやあ・・・今回は他の方のオリキャラを使わせていただきましたが
ハッキリ言います・・・ムズイ!!!!!!
はあ・・・・口調やら性格やらで・・・・もうてんてこ舞いです(泣)
それにしても、幸せな話で終わるのかと思ったら・・・・最後で不穏な空気が。
全く・・・たまには一から十まで幸せな話が書きたい・・・・・。
って・・・自分が悪いのか(切腹)
ま、まあ・・・とにかくお読みいただいた方、ありがとうございました!!!
次回は・・・ネタが無い(爆)
適当に感想でも書いて頂けると、うれしいでございます。
もう誹謗だろうと疑問だろうと、なんだろうと来い・・・って感じなので。