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「………暑いな」
「………ええ」
「………マロリガン砂漠より辛い」

 その世界は暑い季節だった。
 白い雲、照り焼ける日差し、そして、大勢いる観光客。
 そう、悠人たちは海水浴場にいた。

エターナルの海

 それは、悠人のいた世界に近い世界だった。
 時深を含めた悠人とアセリアの三人は、カオス・エターナルのリーダーのローガスからの命令でこの地に来ていた。
 そして、その季節は夏。
 真夏の猛暑で三人はローガスが来るのを今か今かと待っていた。
「ごめんごめん、待ったかい?」
 柔和そうな表情で海パン姿のローガスがやってきた。
 美少年のローガスに、周囲の女性人は黄色い声をあげる。
「ローガス、今回の任務はいったい何なんですか? こんな蒸し暑い時期に来るのはそれなりの事情があるんですよね?」
 ふふ、と笑みを浮かべるローガス。
 そして、自信満々にローガスは口を開く。
「ああ、今回君たちにやってもらうのは、とても重要なことだ。――――それは!」
 勿体付けるローガス。
 三人はゴクリ、とつばを飲む。
「この海で屋台をやってお金を稼いでもらう!」
 ズル、とこけそうになる三人。
 特に、暑さに慣れていないアセリアは恨みがまそうにローガスを睨んでいる。
 視線に気づいているローガスは、わざとらしくハァとため息をつく。
「僕もね、今回の任務はやる気が無かったんだよ。でもね、うちのエターナルの誰かがね、数少ない活動費を使って、奥さんにチャイナドレスを買ったりしたんだ」
 アセリアと時深の視線が一斉に悠人に向く。
 悠人の体から、夏の暑さから流れる以上の汗がダラダラと流れる。
「それに、昔の話だけど、高精度の盗撮カメラを買う人もいたし」
 今度は時深に二人の視線が向く。
 時深は「ひ、ひどい人がいますねぇ」と明らかに動揺を見せている。
 ローガスはニヤニヤしながら、
「だからさ、君たちは明日から屋台をやってお金を稼いで欲しいんだ」
 拒否権はなかった。
 業務上横領を無かったことにするため、三人(アセリアは連帯責任)の屋台が始まる。

「あ、でも、今日だけは皆遊んでいていいから」
「え、いいんですか?」
「ああ、お店や荷物の用意は僕がやっておくから、明日からはお願いね」
 そういうわけで、遊べることになった。
 とりあえず、泳ぐということになり、海の場所だからということで用意した水着に着替えることになった。

 悠人は男性だけあり、用意するのが早く、一足先に待ち合わせ場所に来ていた。
 待っている中、フリルのついたロリータファッションをしている明らかに幼女にしか見えない女性が、褌をしている筋肉ムキムキのおっさんと一緒にいたが見なかったことにする。
 他にも、どこかで見たことのあるナルシストっぽい男がサーフィンをしていたり、露出の激しい水着を着ている女王様っぽい女性が目玉の化け物っぽい縫いぐるみ(推定)を地面に笑いながら埋めていたりしているが、これも見なかったことにする。
――――今日だけの休日を潰したくはないもんなぁ。

 更に数十分後、アセリアと時深がやって来た。
 二人の水着姿を見て、悠人は言葉を失う。
 まず、時深。
 白のハイレグ。
 その健康的な体と相まって美しく感じる。
 だが、それを大きく上回るのがアセリアだった。
 アセリアの水着、それは――――
「ユート、そんなに見ないでくれ。……恥かしい」
 スク水でした。
 それも、白。
 胸元にはしっかりと「3−B たかみね あせりあ」とネームプレートが貼られている。
 加えて、右手には縞模様の浮き輪。
 完璧だった。
 まさに、水着のコネクディッド・ウィル!(?) 
「<聖賢>に相談したんだが……変か?」
 悠人は首を大きく横に振って、
「そんなことはない。とても似合っているよ」
(そうだろう、悠人はこのようなものが好きだと思っていた)
(………<性賢>)
(すまないが、<性賢>と呼ぶのはもうやめてくれないか)
(なら、そのおかしな性癖を主共々矯正しなさい)
(………手遅れだ)
 <永遠>は「どちらが」と訊いてみたかったが、結果が怖かったのでそれを飲みこむ。
 恐らく、最悪の結果である両方だろう。
 <永遠>から深いため息をもらしたのをアセリアは感じ取っていた。
「悠人さぁーん、私のほうはどうですか?」
 悠人に向けて様々まなセクシーポーズを取る時深。
 悠人は正直に、
「結構いいよ」
 と答えた。
 それはシンプルではあるが、正直な感想だった。。
 スレンダーな体型で綺麗なラインが形成されている。
 アセリア程の威力はないにしても、時深自身の魅力を充分に引き出している。
 実際、悠人たちの周辺には多くの人の目が集まっている。
「アセリア、とりあえず海に行こうか」
 周囲の羨望と嫉妬の目に耐えられなくなったか、悠人はすぐに海に入ることを選択した。
 アセリアはそんな悠人の案に浮かない表情を見せる。
「どうしたんだアセリア?」
「ユート、……実は、私………泳げないんだ」
 顔を赤らめながらの告白。
 実際、アセリアのいた世界では海というものは泳ぐものでなかった。
 川や泉はあったが、泳ぐことはなかった。
 スピリットたち、特にアセリアたちブルースピリットは、ウィング・ハイロゥで空を飛ぶので泳ぎ方を教わる必要性がない。
(ユート、アセリアの浮き輪はファッションではありません。本当に必要なものなんです)
(確かに、アセリアの武装としてこれは必要不可欠だといえるな。スク水の効果をより際立たせている)
(<性賢>! 静かにしていなさい)
(………はい)
 <永遠>に叱責され、落ち込む<聖賢>。
 その様子を、昔のファンタズゴマリアでの自分と重ね合わる悠人。
――――セリアや、ヒミカたちにきつい事言われていたなぁ。
 今は過ぎてしまった日々を思い起こす悠人。
 あの日々は戦うことしかなかった――――いや、出来なかった。
 だからだろうか、この永遠の戦いを始めたからこそ、戦いのない日々は楽しまなくてはいけない。
 そう思うようになったのは。
「アセリア。それなら、俺が泳ぎを教えるよ」
「本当か」
「ああ」
 嬉しそうな表情を見せるアセリア。
 泳ぎが出来るようになるというよりも、悠人が教えてくれるというのが嬉しいのだが、それにこのへタレは気づかない。
 流石、キングオブヘタレ。
 アセリアと違い、不満そうな表情の時深。
「ふーん、そうですか。悠人さんは、アセリアと一緒に泳ぎの練習ですか」
 明らかに不満を顔に出す時深である。
 悠人はどうしようか考えていると、
「いいですよー。私は、一人でビーチを歩いてナンパされていますから」
 いじけて、一人でビーチに向かっていってしまった。
 その様子を呆然と見ていた二人。
 しばらくして、それが二人の逢瀬に対して、特に何の問題でもないと気づく。


 バシャ、バシャ、バシャと水の跳ねる音がする。
 アセリアがバタ足をしているのだ。
 まず、水に慣れることから始め、海の中で目を開くことは出来た。
 次のステップとして、バタ足の練習を始めたのだ。
「ん、………ユート……ちゃんと…握っててくれ」
 アセリアは頑張ってバタ足をしているが、どこか恐怖を感じている。
 海中で目を開けられるようになったとはいえ、やはり、手を離されるのには抵抗があるのだろう。
 だが、悠人の目線はアセリアの下腹部の方に集中していた。
 バタ足をしながら、すく水の方を集中している。
――――ありがとう、<聖賢>。とてもいい光景だ。
(そうだろう。わが主よ)
 二人? の思いはそのパートナーに知られることはないが、知られたらそれはそれで問題である。

 アセリアの方に集中していたからだろうか、悠人は自分の方に接近している存在に気づかなかった。
「そこの君、危ないですよ!」
「!」
 ザクッ、悠人の額にサーフィンの先端が突き刺さった。
 おそらく、エターナルでもすぐに治療しなければ死亡するであろう。
 そう思いながら、悠人の意識は消えていった。

 彼が目を覚ましたとき、一番最初に目に映ったのは、彼が一番愛する女性――――アセリアだった。
「大丈夫か、ユート?」
 心配そうに悠人を見つめるアセリア。
 悠人はアセリアの手を取り、
「ああ、大丈夫だよ」
 自身の無事をアセリアに伝えた。
「でも、いったい――――」
「――――ああ、目を覚ましましたか!」
 少し離れたところで、聞いたことのある声がした。
 その声の人物――――それは、先ほどサーフィンをしていた水月のメダリオだった。
「いやいや、驚きましたよ。サーフィンをしていたところ、偶然、人とぶつかってしまい、その上、その相手がカオスの聖賢者ユートだったとは」
 そう言いながら、自分のサーフボードの手入れをするメダリオ。
 悠人はボードが刺さった部分に触れる。もう、何の怪我もなかった。
――――傷がすぐ治るって言うのは、体がマナで出来ていることの利点だよな。
 しみじみ感じる。
「そういえば、タキオスやテムオリンたちも見たんだが、何しに来たんだ?」
「この世界での用ですか? 特にエターナルとしての目的はないんですが――――」
 メダリオがボードの手入れを止め、海の家の隣の屋台を指差した。
「屋台をやらされることになりまして」
 指先には「ロウの焼きそば」と書かれた屋台があった。
 ちなみに、その隣にはローガスとルシィマが「混沌カキ氷」という屋台を作っていた。

 次回、ロウとカオスの屋台勝負が始まる?

 後書き

 季節はもう夏です。
 そのため、夏のSSを書かせていただきました。
 そして、私の書く聖賢者ユートは、「禍根のファルス」ではない短編シリーズの場合、高確率で変態です!
 っていうか、アセリアにコスプレさせるのは俺のシリーズですか(笑)
 前回、チャイナドレス。
 今回、スク水。
 アセリアにコスプレをさせる。それで、俺はいったい何をやりたいんだ!?(石田○ボイスで)
 ちなみに、何故かロウと仲がいいです。
 ですが、戦闘するときはしっかりと戦いますのでご安心を。

 あと、この状況でしたら、私はカキ氷を買います。

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