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────────Yuto side
コサトの月 赤いつつの日 キハノレ遺跡最奥部
ミニオンが出てて来ては斬り、刺し、殺す。
マナとなって霧散するからまだいいものの、死体として死後も残ったとしたら恐らくこの通路は本来のタイルを屍に覆われ見ることが出来ないだろう。それほどまでに激しい戦いで、それほどまでに大量の敵を殺した。

「・・・くっ、まだか?」
何がまだなのか自分でも分からない、次のエターナルを渇望しているのか、それとも『再生』を追い求めているのか、はたまたこの世界の滅亡を待っているのか・・・
「ユウト!!」
「ッ」
迫っていた刃を弾く、そして返す刃でミニオンを肩口からざっくりと切り落とす。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
剣を杖にして息をつく、疲労の色を隠せないスピリットたちの変わりに俺たちが前線に出ているが、すさまじい猛攻を見せるミニオンたちにその進行は大きく阻まれているのが現状だ。
「悠人さん大丈夫ですか?」
ミニオンを片付け終え安全を確認した時深がこっちに走ってくる。
「怪我は無い、けど流石に堪える」
「仕方ないですね、一度休憩を入れます」
「大丈夫なのか?」
「日没まで後3時間です、休憩は20分取ります」
「分かった」
時深が全員に休憩の合図をいれる、それが全体に伝わり終えた頃には全員地面に座り込み深い息をついている。

「・・・不味いですね、外側からの干渉を受けているのかミニオンの数が多い」
「どういうことなんだ?」
「敵戦力は主にこの世界で生み出されたミニオンです、ですが敵は守護者の消滅を知ってか外界からミニオンを輸入して前線に送り込んでいるんです」
「・・・守護者って、あのミスレ樹海に居るとか在るとか言われてた奴か?」
「はい、アレは元々外側からの干渉を防ぐ為のいわばファイアーウォールのようなものでした。ですが、数ヶ月前に2体とも撃破されてしまった為ロゥにとって外側からの戦力補充が楽に行われているようです」
「その守護者誰が倒したんだ?」
「分かりません、ですが最後に接触したのは彼だと思うんですが・・・」
時深が考え込む仕草をする、彼は黒霧のことだろう、だが
「黒霧はそいつらを倒せるのか?」
「いえ、本来そのようなことはありえません。倒すことが可能なのはエターナルでも上位の存在、私でも単独では苦労するでしょう」
つまり、黒霧との接触があった後に何者かが守護者を撃破した事になる。

「考えても無駄ですね、此処からはさらに敵の攻撃が厳しくなるでしょう。味方を犠牲にすることも覚悟しなければなりませんね」
「────っ!!」
犠牲、あの中の誰かを切り捨てて世界を救う。忘れられたとはいえ共に戦場を駆け、切磋琢磨してきた中間達を切り捨てる・・・
『ユウトよ言っておくがよもや無傷でこの戦いを制したいなどと考えてはいまいな?』
「・・・悪いかよ」
『何かを救おうとする行動に悪いも何も無い。だがな、予想していた以上に敵の攻撃が激しい以上こちらに被害が及ぶのは当然だ、事実既に戦うこともまま成らないものも出てきている』
疲れ、足がわらい、敵の攻撃を受けるのでさえ精一杯、そんなスピリットが居るのも分かっている。そして、敵がそういったスピリットを狙って攻撃を仕掛けてくるのも分かっている。
すると皆は狙われるスピリットを守ろうと攻撃が弱くなる、そして進撃が鈍る。

「くそっ!!」
地面を蹴る。残り3時間。3時間の間に最深部まで到達し『再生』を停止させなければ皆死ぬ。この目に焼きついた皆の笑顔やそれら全てを失ってしまう。

「ユウト大丈夫」
アセリアが励ましてくれる、だが、正直何が大丈夫なのか聞きたいほどに気が滅入っている。
「そうだな───」
「とりあえず今は体を休めてください、これが最後の休憩だと思って」
「・・・分かった」

アセリアと二言三言ほどかわしながら20分を過ごす。

◆◇◆◇◆◇◆



日没まで残り2時間30分
休憩を終え進み始める。足は鈍い。
「・・・来たか、待ちくたびれたぞ」
そして、闇から滲み出るように現われたのは暴力の化身とも呼ぶべきエターナル。
「くっ!」
『聖賢』を構える。ボウ、と青白いオーラを刀身に纏う。
「ほう、確かな力をつけてきたようだな。だが───」
ゴウ、とその長大さからは考えられないほどの速度を持って『無我』が振り下ろされる。
地面を抉り、タイルを弾き上げる。
「───この俺に勝てるか?」

「勝つ必要は無い、この先に進めればいい」
「勝たずしてこの俺が貴様らを通すとでも思っているのか?」
「・・・」
思ってなどいない、コイツならその一振りでスピリットを両断することなど容易いだろう。だから、コイツは同じエターナルである俺が倒す、否、小鳥の為にも俺が倒さなければならない。

「ぬ」
タキオスが目を見開く、その視線は俺たちに向けられているようだが。
「成る程な、確かに貴様らは通さねばならないようだ」
「何?」
わけが分からない、一体何があったと。

ガィン、と音が響きタキオスの側に一本のナイフがカラカラと回りながら落ちる。
「え」
全員が振り向く、そこには───
「久しぶりね、また会えて嬉しいわ」
「フ───、この数奇に感謝する──」
タキオスが剣を持ち、後ろに回す、と。ギン、と音を立てて一本の肉薄しようとした刀が止められていた。
「──良くぞ我が前に現われた」
「良くぞ我が刃を止めた、って言えばいいのか?」
「ク、よもやこの程度で俺を切れると思っていたのか?」
剣を放し、黒霧が一歩引く。
「まさか。まぁ、でもこれで斬られたらお前は次会っても斬る価値は無いな」
「だろうな、俺もお前が本気で斬れると思っていたのなら今此処で両断していた所だ」
黒霧はトン、と地面を蹴り。空を舞って、いつの間にか俺より一歩先に出ていたシリアさんの隣に着地した。いつの間にか剣はどこか知れない場所にしまわれている。

「ほれ、行った行った、リースもつれてきたから多少は楽になるさ」
「あ、あの・・・」
見てみれば後ろの方であたふたとしているリースがいた。
「タキオスは、俺が・・・」倒したい、小鳥の為にも・・・
「ん〜・・・ならお前に任せようか・・・その代わり『世界』は俺が殺すぞ?」
『ユウト、ここはこやつらに任せろ。わざわざ強敵を引き受けてくれるというのだ』
だ、だけど・・・
『今のお前では他人の世話を焼けるほどに強くは無い。大体、あの小鳥という少女はあの晩の事を覚えてはいまい。いいか、お前のやろうとしていることは褒められたものではない。私情を挟むな』
「クッ!」
「どうした?いきなりカメムシを噛み潰したような顔して」
「いや・・・なんでもない・・・」
考える余地も無い、俺が、俺が間違っていたのか・・・それと苦虫じゃないのか?
「本当に引き受けてもらえるのですか?」
「あぁ、任せろ」
黒霧が笑いながら親指で自分の胸の辺りを指す、アレはタキオスを挑発しているのだろう。
「・・・あなたを信用します」
時深が了解を出す。どうも釈然としないようだが正直戦力になるのならどんな新米のスピリットでも起用したい所だ、それにいくらなんでも背を向けたらいきなりザックリ、なんて事は無いだろう。
「先に行かせてもらう」
「あいよ」

皆を連れてタキオスの脇を抜く。タキオスはちらちらとこちらに視線を送っていたが、黒霧とシリアさんが牽制してくれていたお陰で問題なく通過することが出来た。

俺たちが通過し、間もなく、ゴングの変わりに轟音が遺跡内に響き渡った。

──────────────────────



────────Sakuya side
「さて、今度こそ真に決着をつけようか」
『蓬莱』を手に構える。その切っ先をタキオスの喉下に向けて。
「ク───まさかこうして再戦することがあるとはな」
「わたしはどうすればいいのかしら?」
シリアが手持ち無沙汰に聞いてくる、だがそんなもの聞くまでも無いだろうに。
「フ、当然二対一だろう?あの夜の再現なのだから・・・」
「あら、随分なハンデね・・・」
「・・・否、どうかな」
自分でも随分弱気な発現だと思う、だがこれは紛れも無い事実。昨日のメダリオの用には行かない。

「先手は譲ってやろう。さぁ、俺にその強さを示してみろっ!!」
「「こっちの台詞をどうもありがとう」」
シリアは深紅の翼を広げ空に、俺は地を這うように滑走する。
のたくる蛇のように地面を駆ける。

『蓬莱』を下段に構え、タキオスの正面で切り上げの体勢に入る。
疾走の勢いは殺さない、その勢いと神域までに高めた剣閃でもってそのニヤついた首を切り落としてくれる!!
タキオスの目と鼻の先にまでたどり着いた、下段に下ろした剣に力を込める。だが、癪な事にタキオスの目ははっきりと俺を捕捉している。
「疾ッ!!」
剣を振りぬこうとし、それをギリギリで抑え、タキオスの鼻筋を掠めるように跳躍する。
そのまま空中で逆立ちになり、タキオスの上を取る。
そのまま剣を首目掛けて振り下ろす。
が、快音を響かせ細身の刀は人外の領域である大刀にとめられていた。


「ふむ、すばらしい運動能力だ。よもや合わさった剣という不安定な場所でもバランスを保っているとは」
事実、俺は合わさった剣のみを支えにして逆立ちをしている、特別な魔法を行使しているわけでもシリアのように飛んでいるわけでもない。
「ヌンッ!!」
怒号一喝、大きく振りぬかれた大刀は俺を宙に押し上げる。
無防備に宙を舞い、そして重力に従ってそのまま落下する。
落下の直線状には大刀が構えられている。

そのまま落下し、大刀がそれにあわせて振り下ろされる。
剣にマナを込める、そしてマナを爆発させるように振りぬく。
「グ───」
相殺は出来た、だが手首には思っていた以上に負担が掛かった。
「まさか、この俺とその細身の剣で打ち合おうとは」
「人を見かけで判断すると───」

「痛い目に会うわよっ!!」
シリアが高高度からナイフを投げ下ろす。青白い光を纏い、流星の如く尾を引き落ちるそのナイフは。
「ガッ───」
タキオスがとっさに張った防御のオーラを軽々と突き破り、その脇腹をごっそりと持ち去った。

タキオスが膝を突く、『無我』は地面に突き立てられ亀裂を生んでいる。
傷口に手を当てている、俺のと比べればやたらでかい手の平もごっそりと奪われた脇腹を覆うには至っていない。
「まさか、『灰滅』か・・・」
返事の変わりに再度ナイフが墜落する。速度は正直言って速いとは言い難い、シリアも当てるつもりではないようだ。
そのナイフをタキオスは素手で受け止め、握りつぶす。

「・・・よもや此処まで強烈とは」
瞬く間にタキオスの傷口は塞がっていった、見てみれば周囲から無差別にマナを吸い上げている。
「俺もお前が此処まで節操なしとは思わなかったな」
肩をすくめ大きく息を吐く。
「ふん、絶好のチャンスに斬りかかってこない貴様に言われたくも無い」
「何言ってんだ、さっきのはとりあえず高嶺の分だ。あいつも一発殴りたさそうにしてたからな」
「馬鹿を言え貴様はそんな酔狂な事をする人間ではない」
「ま、そうかもね」
わざとらしく肩をすくめてみせる。

目の前にひらひらと舞い落ちてきた紅い羽根をタキオスが払いのける。そのマナをも脇腹の回復に当てている。修繕は7割ほど終了している、放っておけば数分後には万全な姿で相対していることだろう。
今度は俺の目の前に舞い落ちてきた羽根を丁寧に掴む、マナを流し込み顕現させ続ける。親指と人差し指でつままれた紅い羽根はぼんやりと輝いている。

ザ、と音を立てタキオスが立ち上がる。手には大刀、目には殺意、口元には笑みを浮かべている。
「いくぞ、先ほどは不覚を取ったが次は────」
台詞を全ていい終える前にタキオスの体が掻き消える。
「っ」
次の瞬間眼前がタキオスの顔で多い尽くされる。と、腹部に激痛が走る。

「がっ!!」
瞬間移動と言ってもいい速度の全てを活かして頭突きに変化、巨体のもつ莫大な質量と相まって、俺の体は軽々しく宙を舞い。壁に叩きつけられた。
「く・・・」
壁にめり込んだ頭を強引に引き抜く。すると、体は壁からはがれ落ちた。

ほぼ無傷で済んでいる右足と左手を支えに何とか立ち上がる。
「どうした、足が笑っているぞ」
タキオスの言葉にひとまず口内の血を吐き出してから。
「言ってろ」
体のほうは修繕が始まっている、タキオスが無茶苦茶にマナを吸い上げた所為で直りが悪いがそれでもそこいらの回復魔法に比べれば段違いのスピードで組織が修復されていく。

「サクヤよ、貴様の多種多様で変幻自在の技の数々は認めよう」
「何だいきなり、気持ち悪い」
その言葉が俺の傷が治りきるまでの間を持たせるためのものであるのは分かっている、だから乗る。
「だがな、ただ一つ、究極の一を持ってこそそれが最強となり必殺となる」
タキオスが轟音と地響きを残して疾走する、『無我』は後ろに構えられ怪しく輝いている。

体は治りきった。
『蓬莱』を構える、下段に。
マナを普段よりも篭める、どうせ減らない、ならば湯水の如く使ってやればいい。

タキオスの渾身の一撃を正面からマナを篭めた『蓬莱』で打ち返す。
互いに剣を弾かれた。すぐさま右足を軸に体を回転させ剣を振るう。
十合、ニ十合・・・剣が合わさるたびに空間は振るえ、遺跡は悲鳴をあげる。
相手の剣を打ち返す。
まるでそれしか知らないように打ち下ろされる大刀を、細身の刀で全身で持って打ち返す。

一撃受ければ骨がきしみ、ニ撃受ければ足が沈む。
それほどまでに激化し、莫大な威力を持った剣を受ける。
一歩でも引けばこの体はあっさりと二つに分かれるだろう。

黒塗りの大刀は遺跡を抉り、削り、破壊しながらそれでも衰える事無くその身を俺目掛け奔らせる。
確かに、タキオスにとって攻撃手段など幾つも持つ必要は無いのかもしれない。
これだけの威力と速度を持った攻撃ならばわざわざ技を編み出す必要は無い。
絶え間ない連激の全てが敵を圧倒するだけの力を有しているのなら、そこに技の入り込む余地は無い。
そもそも技は弱点を補う為に編み出されるものだ、欠点と言えるものなど今のタキオスには存在しない。

タキオス以上の力と速度でもって叩き潰すしか倒す方法は無い。

「ぬんっ!!」
いつまでもしぶとく大刀を弾き返す俺に何かいらだたしい物を感じたのか、初めてタキオスが叫ぶ。
怒号と共に振り下ろされた大刀は今まで以上の威力を持って打ち下ろされる。
【テスタメント】が威力・速度をはじき出す、それによると必要以上に振りかぶられたその大刀が俺の元にたどり着くまで約0.78秒と今までよりコンマ2秒遅い。
右足にマナを篭め、爆発させる。右足爆散するが、タキオスの間合いから外れる事に成功した。

そして、神域の剣が顕現する。
「害なす魔の杖(レーヴァテイン)」
深紅の刃が振り下ろされる。
大地を抉り、遺跡を崩壊させながら、絶え間なく深紅のオーラを纏ったナイフが降り注ぐ。
まるで一振りの剣のように列を成し、隙間無く落下するナイフの群れは。
そのまま、タキオス目掛け横薙ぎに、遺跡を分かつようにカーブを描き振りぬかれる。

「グ、オォォォオォォオォォ!!」
タキオスが『無我』を盾に必死にこらえている。そこに狙いをつけた魔剣は『無我』の展開する防御のオーラなど意にも介さずその大刀に風穴を開けようと突き下ろされる。
上空に視線を移してみればある一点から剣が発生している。剣の担い手は背中に深紅の翼を生やし血よりも赤い紅を湛えた双眸の持ち主。その両腕は視認不可な速さで振り回され、その二本の腕が打ち出すナイフが一振りの魔剣を生み出している。

タキオスの『無我』から──厳密に言えば魔剣との接点から──魔剣の火の粉が飛び散る。深紅のオーラに包まれたナイフが乱反射し、ありとあらゆる方向へと飛び交っている。
跳弾でさえ遺跡を破壊するには十分なほどの力を保持している。【テスタメント】が計算した威力は確かに直接そのナイフを受けるよりも格段に威力は小さい。だがそれでもスピリット一人殺すには十分過ぎるほどの威力を内包している。

壮絶を極めた魔剣の攻撃も終わりを告げる。剣は『無我』へと集束するように消えてなくなり、担い手は翼を失くし重力にしたがって落下を始める。
シリアを抱きとめる。
「ふぅ・・・駄目だったわ、最後は溯夜に任せる」
「あぁ、任せろ」
酷使しすぎた所為か軽く痙攣している腕を体の前に持ってきて、壊れていない無事な遺跡の壁にもたれかけさせた。


「良くアレを凌いだもんだ」
「ク、この惨状で凌いだと抜かすか」
タキオスの握る大刀『無我』はヒビが入り、後数秒でも長くシリアが攻撃を続けていれば粉々に砕け散っていたであろう程になっている。
「お前はあと一撃が限界か・・・」
「否、お互い一撃だろうな。俺は剣が、お前は遺跡の現状から考え次が最後だろう」
確かに、遺跡は崩壊寸前だ。シリアの投げたナイフは『無我』に弾かれ、そこで止まればいいのに有り余った勢いを好き勝手な方向に向けたため遺跡は乱反射したナイフのお陰で1945年の広島・長崎を思わせる様相だ。

「・・・行くぞ」
タキオスが『無我』を振りかぶる。ヒビ割れている剣とは思えないほどの覇気を持つ剣は今一度限界を超える。

『蓬莱』を納める。剣と外套のワンセットの神剣はこれで外套のみになる。
いぶかしむ表情で剣を握るタキオスを他所に終焉への歌を詠む上げる。
「白雲の 龍田の山の 滝の上の 小按の嶺に 咲きををる───」
空間が弛む、蜃気楼のように周りがぼやける。
「桜の花は 山高み 嵐し止まねば 春雨し 継ぎてし降れば ほつ枝は───」
じわじわと世界を侵食し、バケツの水を撒いたように世界を上書きする。
「散りすぎにけり 下枝に 残れる花は しまらくは 散りなみだれそ 草枕───」
俺を中心にして広がるように草木が茂り、風が吹き、枝がなる。
「旅行く君が 帰り来るまでに」


◆◇◆◇◆◇◆



────────Tokimi side
「・・・まったく、あなたとはこれで最期にしたいものですが」
「おや、それは今回で死亡もしくは退役ということですか?」
売り言葉に買い言葉。ああ言えばこう言う。何年も前から繰り返されたやり取りは何年経っても成長しない。
「まったく、まさかあなたが一人で私を引き止めるなどとほざくとは思いもしませんでしたわ」
それは数分前の話。テムオリンと大量のミニオンが控えていたこの部屋で悠人さんとアセリアとは別れた。二人は最深部『再生』の間に、私とスピリットたちはこの部屋でテムオリンとミニオンを相手に。

「まさか、『幽玄』の彼らがタキオスを抑えているとは。あの時殺しておくべきでしたわ」
「余裕をかまして足元を疎かにするのはあなたたちの悪い癖ですよ。矯正する事を進めましょう」
「フ───いい加減決着をつけましょう」
テムオリンの言葉に呼応するように『秩序』がオーラを纏う。
「そうですね・・・戦闘中に会話など、私もあなたもやきが回ってきましたかね・・・」
『時果』が発光する。

「さぁ、行きますよ。まったくその服も上下共に白ければよかったですのに」
「あなたは上下共に白いですからそのまま鳥葬して差し上げましょう」

◆◇◆◇◆◇◆



────────Yuto side
「・・・・・・ほぅ、存外に早かったな」
部屋の中心ではシュンが待っていた。その体にはマナが張り詰めている。
「皆の助けがあったからだ。俺一人の力じゃない」
隣にはアセリアがいる。さらに後ろでは皆が戦っている。
「そんな物最初から分かっている、貴様が一人の力でここにたどり着くことなど出来はしない」
「テムオリンは時深が、タキオスは黒霧とシリアさんが、そしてお前は俺が倒す」
「ク───倒す、か。まさか此処まで来てそんな世迷いごととわな・・・」
額に手をあてシュンは笑いを堪えている。
「何がおかしいっ!!」
「当然だ、貴様は此処に来てまでいよいよ殺すと口にしなかったか・・・」

「ユウト───」
『永遠』を構えアセリアが俺の横から一歩前に出る。
「まだそっちの妖精のほうがマシだな」
シュンが左手を横薙ぎに振るう。するとシュンの背後で待機していた6枚の剣が舞うように空を翔る。
『来るぞっ!!』

6枚の連激を剣で弾き、防ぐ。一度弾いた剣は大きくその大外に弾き出され、再度飛来する。6枚全てが完璧ともいえるタイミングで攻撃を仕掛けてくる。
6枚に対し2本、手数の上では不利なのは否めない。しかもシュンはその場から一歩も動いていない。とどのつまりはあちらが圧倒的有利に立っている。
「クッ!!」
一度に3枚の剣を弾き、その勢いを殺さずシュンに肉薄する。
「ほぅ・・・」
感心したような溜息と同時にシュンの右手が歪な形の剣に変形する。俺の振り下ろした剣はその右腕にしっかりと受け止められる。
そのまま鍔迫り合いに持っていく、相手が右腕でしか剣を支えることが出来ないのなら、こちらが圧倒的に有利!!

ザリ、とシュンが始めて後退する。さらに剣に力を込める。
「ユウトッ!!」
「! チッ───」
名前を呼ばれ後ろを振り返ると弾き飛ばした3枚の剣が俺の背中目掛けて飛んできている。それら3枚を何とか弾き、すぐさまシュンに向き直る。
「!」
が、そこにシュンは居ない、忽然と消えたようにその場から姿を消していた。アセリアの方を向く、アセリアは縦横無尽に駆け巡る剣を何度も弾き返している。その背中に───

─鎌ではなく歪な剣を振りかぶった死神の影がちらつく・・・

「ッ! アセリアッ!!」
危機を察知したのかアセリアがとっさに前に飛ぶ。だが、一歩遅れ背中から鮮血がほとばしった。シュンはそのまま左腕を伸ばし、アセリアの首を掴み持ち上げる。
「ア、 ク────」
6枚の剣は全て俺を狙って一点に縫い付けている。
「ふぅ・・・何だこの無駄に長い髪は・・・」
チリ、と音がする。シュンに掴み上げられ軽く浮いているアセリアの足元で炎が円を描き。
アセリアを包むように火柱が立った。炎の柱はアセリアを包み燃え上がっている。柱の中心にアセリアがいることが黒く浮かび上がっている影で分かる。

数秒か数分か・・・時間の感覚すらも奪う攻撃はやがて消え。炎の柱が存在した場所には焦げ目と、もはや人の形をした何か・・・としか言い様の無いアセリアの亡骸が残った。
「フン───この程度が丁度いい、まだこっちのほうが見栄えがいい。まったく・・・」
ザク、と肩に6枚のうちの一つが刺さった。痛くない・・・ 2枚目3枚目と次々に突き刺さる。
『ユウトしっかりしろ!!』
『聖賢』の声が遠い・・・まるで目の前の映像が映画のようにリアリティが無い。
「貴様・・・なんだその様は・・・」
憤怒の形相でこちらを睨むシュンさえもどこか違うもののように見える。

何も考えられない、何も感じない。流れる血も、圧倒的なオーラも、刻一刻と近づくアセリアの死も、何も感じない。リアルじゃない。
だが
右手に握る剣の柄だけが否にリアルで・・・


気が付けば全身全霊でシュンに打ち込んでいた。


オーラを纏い青白く発光している『聖賢』は、某SF映画に出てくる剣のように振るたびに羽音のような音が出る。
打ち下ろした剣が6枚の刃に止められる。鍔迫り合いを起こす剣の向こう側で焦りを浮かべるシュンの顔が見える。
行ける─── 理屈でもなく、ただの感覚だがそう感じた。
グ、と剣を握り。オーラを増す。鍔迫り合いを繰り広げる6枚の剣を上から強引に押さえつける。シュンの顔の目前まで迫る。あと少しで剣が届く、あのいけ好かない顔に届く。

「うおぉぉぉおぉぉおおぉおぉぉぉ!!」
ギャリ、と音がしたかと思うと。今まで以上の、最高の質のオーラを纏った『聖賢』が6枚の剣を弾き飛ばし、シュンを縦に切り裂いていた。

「アァッ!!」
振り下ろした剣を強引に反転させる。ベクトルが逆転しツバメのように翻る『聖賢』が再度左腕を失ったシュンを、『世界』を襲う!!
「舐めるなッ!!」
歪な右腕と同化した剣が『聖賢』を受ける。だが、今の俺は負ける気がしない。何か強力なものに後押しを受けているかのように突き動く。何でも出来る気がする。
鍔迫り合いに持っていった『世界』をそのまま打ち飛ばし、空中で追撃する。衝撃波だけで遺跡が鳴動するほどのオーラをぶつける。
横薙ぎの攻撃を跳躍で避け、飛んだときの倍の速度で落下し、剣を叩き付ける。
間合いを離すことは無く、流れなど意にも介さず怒涛の連激を繰り出す。

が、唐突にその何者かに授けられたかのような圧倒的な勢いは失われる。古ぼけた遺跡だったのだろう、所々壊れヒビが入っているのは仕方ない。
だが、そのヒビに足を取られ、あまつこけるというのは、実に、あまりにも、情けない。
ズザ・・・、と地面を自分の体でこすり。数cm体と地面との間で摩擦熱を発して、俺の体は地べたに這い蹲って止まっている。

なんだ、これ。なんで俺が倒れてるんだ?

「グ・・・、貴様は最後の最後で詰めが甘いな」
地面を本の数cm上から見た世界の端に二本の足が見える。その片方がフッ、と消え。次の瞬間頭部が強烈に上から押さえつけられた。
「ア、 グ・・・」
頭の上に足を乗せるのに飽きたのか、重みが頭から消える、すると。今度は脇腹に激痛が走り地面を転がる。
視界が霞む、電波の悪い所で見るテレビのようにノイズが入っている。


「貴様は・・・否、もはやお前という人格に固執することも無い」
煩い・・・何が煩いのか分からない。この、ドックンドックン、煩い何かを止めてくれ。
手と胴と腰に6枚の剣がそれぞれ2本ずつ突き立ち、貼り付けるように俺の体を持ち上げる。
「ふむ、まるで聖者のようだな。『聖賢』の名も伊達ではない、か?もっとも聖者と聖賢は似ても居ないが」
こんな状況なのに一向に俺の右腕は剣を放そうとしない。もはやこんな状態でまともな反撃が出来るとは思えないのに・・・
「さらばだ、ロンギヌスのように脇を刺すなどといった芸当は出来ないが・・・」
空中に放り出される、宙を舞い、無造作な落下体勢に入ろうとする体に向けて。
「オーラ───フォトン──ブレイク」
天啓のような声が透り・・・ 視界が真っ白に染まって 右半身に激痛が走った────


To be continued

あとがき
高嶺君絶体絶命です。やばいです、やばすぎです。気になるなら次回をご期待。
溯夜はあれです固有結界。

ちなみにタイトルはあれです、某声優の週間のオリコンで2位を取った曲です。作中での意味合いはレーヴァテイン。


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