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ホーコの月 青ひとつの日 ラキオス謁見の間
「さて、と。」
突如謁見の間に姿を現した白い服を着た少女が現われる。

「其処の貴方」
その少女がわたしの方を指差す、周りの皆も視線で“ご氏名ですよ?”と投げかけてくる。
「何?」
「貴方の先程の質問は根本的に間違ってますわ。」
・・・先ほど質問、というのは“ボランティアで赤の他人を救うだなんて理解できない”って奴かしら?
「元々貴方達有限の塊が私達のような無限を理解することなど出来ないのです。」
一理あるようなないような。

「なるほど、生き物として規格が違うのだから考えも根本的に違う、と。」
「えぇ、そういうことですわ。トキミもこれぐらい理解が早ければ助かりますのに。」
「大きなお世話です。」

「それで、今回はやけに遅い登場ですね。」
「ふふふ、それを言えばトキミも終盤になってようやく舞台に上った口じゃないですか」
「えぇ、確かに。ですが今回は遅くても十分な戦力が揃えれたと思いますが?」
「ふふ、そんな物5分にも満ちませんよ。餓鬼エターナル二人に、老衰エターナルが一人、とその他大勢」

「おいおい、その他は無いんじゃないのか?」
「そうよ、あんたなんて一発で黒コゲにしてやるんだから」
エトランジェ二人がマナを荒々しく纏い、片方は土色のオーラを刀身に塗りたくり、片方は稲妻を刀身に集める。
だが、見たところその法衣の少女はそのようなことどうでも良いことらしい。

「それで、テムオリン、今回何故此処に来たのですか?貴方達の拠点は分かっています、こちらとしては後打って出るだけだったのですが」
「簡単なことです、こちらとしても出来れば戦わずに決着をつけてしまいたい。だからこうして貴方達に勝てはしないと教えに来てあげたのです。つまりは、破滅を受け入れろ、と言いに来たのですよ」
「回りくどいですね、最後の一文だけで結構ですよ」
どうもこの二人は仲が悪いらしい。

「テムオリン────」
レスティーナが一歩前に出る、どうやら平和的解決の糸口は無いか探りあいをするつもりらしいが。
「この戦いに、何の意味があるというのですか?エターナルとは言え、人間と心は変わらないはずです。今からでも、剣を収めることは出来ないのでしょうか?」
とてもじゃないが、先程のわたしと少女の会話を聞いていたとは思えないような事を口にした。心ってあなた・・・

「ふ─────良く働いてくれたお礼として貴女に教えてあげましょう、剣を引くことなど出来ません。大丈夫ですよ、貴方達には最後の仕事として“死ぬ”役割を与えてますから。
それと、下賎な人間ごときが私に話しかけないでください────タキオス」
突如少女の背後からやたらでかい何かが飛び出しレスティーナに向けて飛び掛る。
長大な剣を振りかぶりその巨体からは考えられもしないほどのスピードで突っ込むのは一人の男。
剣は鉄塊としか呼び様の無い大きすぎる物。
それがレスティーナに向けて一閃される、誰もが出遅れた。エターナル三人も動き出してはいるがとてもじゃないが間に合わない。

当のレスティーナは目の前に突如現れた暴力に対し、何の抵抗も示さない。まぁ、わたしだってそうだろう、あんなものに抗おうなどと考えるほうが間違っている。

数瞬、一秒も経っていないだろう、ついに剣が振り下ろされる。莫大な質量を持って、人一人殺すには十分すぎるほどの破壊力を持って。

そして────

──────────────────────



蓬莱山 湖底
────────Kaguya side
「・・・・これがその渡したい物、ね」
湖底のドーム上の空間につれてきてそこに安置されてある短刀を溯夜に渡す。
「えぇ、能力はさっき説明した通り、乱用は控えるようにね」
あの短刀は私が500年ほど前に見つけたものだ、元々は鎚の形だったが鍛冶屋に持っていったらすぐに剣の形にすることが出来た。

あの剣はただの人間か『蓬莱』の契約者しか使うことは出来ない。私が使ったら────否、握ることすら出来ないだろう。
私の能力──月人としての力──で何とかその力を押さえ込んでいるが、押さえ込んだ状態では本来の力は発揮できない。
その押さえ込んでいる力を解放してもあの短刀を持ち続けることが出来るのは、不死者である溯夜を除くとただの人間ぐらいしか居ない。

私は永遠者で溯夜は不死者、もともと贖罪の意味で溯夜の脳に巣食うプログラムを除去する予定だったが。
いつの間にか摩り替わっていた、溯夜は不死者となり、未来永劫適当に生き続けるのだろう、おそらくは一人で。
私が側に居ることは出来るのだろうか?否、シリアが彼の心に居る以上それは無理だろう。
『かぐや、彼も別にテスタメントの事は気にしていないって言ってるでしょ』
私の神剣である『太極』が話しかけてくる、1000年来の仲だ、お互いに相手の事ならある程度は分かる。その真意は溯夜のことではなくて私のことなのだろう。

『それにね、1000年も独りだったんだから別に身内の溯夜を不死者にしても良いと私は思う』
溯夜を見る、『彼岸』を抜きその漆黒の刀身を眺めている。
だったら何?溯夜はきっとこの件が終わったらあの大陸にシリアが死ぬまで居続けるわ、だったら私もあの大陸に居座れと?あなたはそれで良いの?
『えぇ、もちろん。ようやく同じ時間を歩いてくれる人を見つけたんだからちゃんと捕まえてなさいよ。独りは寂しいでしょ?』
あなたが居るからそうでも無いわ。
『強がって・・・』

「なぁ、かぐや?」
「何」
「これってなんて名前なんだ?」
これ、というのは手にしている短刀のことだろう
「それの銘は『彼岸』よ、彼の岸で彼岸」
「なるほど、だから二刀一対なわけか。」
それは『蓬莱』の攻撃形態である「此岸」と対比しているのだろう。

キ─────ン・・・
「・・・・」
『ロゥ側が動いたみたいね、どうする?』
「ちょっと出てくるわ、溯夜は上でお茶でも飲んでゆっくりするとかしてなさい」
「お、おい。大陸に戻るんだったら俺も・・・」
「準備も無しに行かれても困るわ、テスタメントがあるといってもそれは完璧ではないの、あとでメンテナンスするからおとなしくしてなさい」

そう言って空間に切れ目を作る“あらゆる事象の結果であり原因である程度の能力”である『太極』は門に左右されること無く世界間を行き来することが可能だ。しかも門を使っていない為忘れられることが無い。ま、忘れて欲しいときはちょっと操作すればいいけど。

切れ目に飛び込む───

豪奢な部屋と、複数のスピリット、それと数名のエターナル──そして目の前にはラキオスと言ったか、の女王、それとタキオスとか言う奴。
とりあえずこの女に死なれるのは困る、もしこの大陸に居座るときにはこの女王に適当に恩を売っておいたほうが良い。

手を伸ばす、十二単の袖からは華奢な腕が覗いている。
その華奢な腕は暴力の権化とも言うべき神剣の直線状にある。

そして───

◆◇◆◇◆◇◆



────────Yuto side
間に合わない、明らかに出遅れた。
タキオスは間違いなくレスティーナを切り裂き、否、潰すだろう。

『無駄だユウト、間に合わん』
うるさい、もしかしたら間に合うかもしれないだろ。

だが、無常にもタキオスの『無我』はレスティーナの真上まで来ている。
振り下ろされる、レスティーナの体がぐちゃぐちゃの肉の塊と化した姿がちらつく。

「く、っそぉぉぉ!!」

ガシィッ!!

俺の叫びが通じたのか、タキオスの剣はレスティーナの頭上数センチのところで停止している。
レスティーナは目の前で停止している剣を見て呆けている。

「なっ!?」

狼藉はタキオスのもの、それもそうだろう、必殺だと思った攻撃が

一本の細い腕で受け止められているのだから

「ふぅ、危ない危ない」
空間に入った切れ目から少女が姿を現す。
その少女は右手一本でタキオスの『無我』を受け止めている。

「馬鹿な!?」
「馬鹿は貴方よ、さっさと現実を見据えなさい」
少女が空いている左手の手の平をタキオスに向ける、と

「がっ!?」
まるで木の葉のように巨体が吹き飛び背中から壁に激突した。


「弱いわね、あと2000年ほど修行してきなさい。まぁ、私もまた2000年分成長するけどね。結局は無意味」
突如乱入してきた少女は、タキオスの刃を受け止め、あの巨体を一撃で吹き飛ばすという荒業をやってのけた。

「さて、と。大丈夫?」
少女は床で腰を抜かしているレスティーナに手を差し出す、だが明らかにレスティーナのほうが身長が高い。
「えぇ、ありがとうございます」

「貴女、なんですの?」
テムオリンが怒気を込めた言葉を少女に送る。
「さぁ?生憎とロゥ側に深い仲の人物は居ないので」
「嘘、タキオスの刃を素手で受け止めるようなエターナルを私たちが把握していないだなんて」
「そりゃ当然、私に相対して生き残った奴なんて片手で数えられる程度しか居ないもの。だったら、私の事が世に広がらないのも分かるでしょ?」
つまり、少女の事を知った人物は悉く死んだ、ってことか。

「私はもう、帰るけど。私にとって不都合があればまた来るから」
少女は歴史の教科書の挿絵で見たような服を手で払いながら空間に裂け目を新しく作る。
「待ちなさい!!」
テムオリンが錫杖を振り少女を制す、だが


「・・・・誰に向かって物を言ってるのか分かってないの?」

ズ・・・

世界が悲鳴をあげる、別段世界に異常が発生したわけではない。ただ少女が放つマナが世界を脅迫し、自分達を脅す。
「ぅ、ぁ・・・」
彼我の実力差がありすぎる、彼女の攻撃など人一人殺すには威力過剰すぎる。そこに存在しているだけで自らの運命を握られる、それはたまらなく恐ろしいことだ。殺生与奪の権利はすべからくあの少女に握られている。

アレは規格が違う、同じエターナルだとか考えて良いものじゃない。同じエターナルでも上位の存在、抵抗など考えるだけ無駄だ。
『くっ、まさか『太極』か?』
『聖賢』!?何か知っているのか?
『おそらくあの少女の神剣は第一位の『太極』だろう。全ての始まりであり終わりである神剣』
なんだよそれ・・・
『これ以上は我も知らぬ、ただ奴の前ではリンゴが下から上に向かって浮いていくのも当然の事と言う事だ』

「ふん、興が削がれた」
少女はそういうとおもむろに右手をピストルの形にしてテムオリンのほうに向ける。
「二度と私の前に現われないほうがいいわ。次は、手加減できそうに無いから」
突き出された人差し指に紫の光が灯ったか、と思ったら────

「ぐっ!?」

テムオリンの右腕を見事に吹き飛ばしていた。

「じゃ────」

少女は来たときと同じように空間に作った裂け目に消える、まるで少女など居なかったかのようにその場は静寂に包まれる。
だが、右腕を失い跪くテムオリンと、タキオスの巨体がぶつかった事で出来た壁の窪みが少女が先ほどまでここに居たのだということを如実に物語っていた。

「う、く・・・」
テムオリンが右腕を押さえ立ち上がる。
「ふふ、思わぬ痛手ですね」
トキミがにや、と笑いながらテムオリンに向かって笑みを放つ。

「えぇ、ですがこの程度なら数日で修繕が可能です。好都合にこの世界のマナの殆どは私の手の中ですから」
そうだ、確かにマナの肥沃なこの世界でならあの程度の傷も修繕はすぐに済むだろう。何より無視しがたいのがこの大陸の殆どのマナを握っているという事実。
「そのマナ大切にしてくれよ、これから取り返しに行くんだからな」
「ふふ、『聖賢』のボウヤもなかなかに威勢がよろしいですわね。先程の少女を見て実力的に勝てると思ったのでしたらそれは慢心である、と体に刻み込んであげますわ」
「ふむ、ユウトよ。あの夜の決着、次こそつけようぞ」
そういって、二人は光に溶けていった。


「さて、テムオリンたちも帰りましたね」
「あぁ」
物事が一気に流れた、把握するのに精一杯で、脳が追いつかないというのが的確な表現だろう。

場が落ち着き、レスティーナ達もようやく危険が去った事を知る。
すると頭に浮かんでくるのは矢張り
「時深はあの少女の事を知らないのか?」
「多少なら知っています、本当に多少ですが」
「少しでも良い、教えてくれ。『聖賢』は『太極』の契約者だって言ってるけど。」
「えぇ、その通りです。彼女は私が来た世界──ハイペリア──で生活しているエターナルです。名前、能力、年齢といったもののすべてが不明のエターナルです。ただ、ローガスから“絶対に手を出すな”とハイペリアに訪れた全員に釘が刺されています。まさか今回動くとは思っていませんでしたが」

・・・ローガス?
『カオスエターナルのトップだ、永遠神剣第一位『運命』を操る。実力はエターナルの中でも随一と言って良いだろう』
強いのか?
『ふむ、先程の少女に勝らずも劣らずといった所か』
それってかなり強いんだな
『今のユウトの力でローガスに勝とうなどと考えるのは。小学生に登校中に手を上げて横断歩道を渡る片手間にもう片方の手で4tトラックを粉砕する方法を考えることと同意と思え』
其処までかよ、ということは俺がさっきの少女に勝とうと考えることも同意かよ。
『さらに分が悪いかもしれんがな、これはどうしようもない、戦い方の問題だ』
マジかよ

「兎に角、テムオリンたちが言った通りここでぐずぐずしているわけには行きません。早速ですがレスティーナさん」
「はい」

──────────────────────



蓬莱山 社
────────Sakuya side
こぽこぽ・・・
「ここには何でもあるな」
目の前ではコーヒーメーカーがコーヒーを生み出している。
かぐやに最初に通された部屋で色々あさっていると出るわ出るわ、緑茶から紅茶、中国茶、果てはコーラまで出てくる。

『かぐやったらここを何だと』
だが俺にとっては好都合、これだけものがそろっていれば軽い食事まで作れそうだ。

とりあえず台所で色々と作り始める
米を研ぎ、野菜を切り、魚を焼き・・・・

30分後には社務所のちゃぶ台に日本の朝を象徴するかのようなご飯が鎮座していた。

『そろそろ戻ってくるわね』
と、言うが早いか空間に切れ目が入り

「ふぅ、ちょっと反省。あら、良い匂い」
「丁度良いところに帰ってきたな、ほら、早く座れ」
かぐやがちゃぶ台に座ったのでとりあえず食器を並べなおす、そしてかぐやの前に箸を一膳置いて完了。

ちょこん、とちゃぶ台に座る姿は見ていて可愛らしい。
まるで人形のよう、その人間離れした完璧な神造の美が彼女を人形のように見せるのだろう。

礼儀正しく料理を口に運んでいるが、少し食べる速度が速い。
「おいおい、そんな焦って食べなくても。」
「・・・あ、あぁ、ごめん。私料理なんて出来ないから手料理なんて本当久しぶりで。いつもインスタントかもしくは食べなかったからね」
「おいおい・・・」
と、かぐやが箸を止めた所で、その頬というよりはほぼ唇についているご飯粒を指でとって口に放り込む。

「ぁ」
「ん?」
見てみるとかぐやが頬を真っ赤にしてこっちを、呆、と見ている。
『か』
か?
『かわいい〜〜!!』

『ちょっと待って何そのリアクション!?あぁ、もう〜、かぐやきゃわいすぎ〜!!』
俺はちょっとだけ後悔が入ってきたよ
「────」
と、ようやくかぐやが再起動し始め、まず何をやったって・・・頬に手を持っていった、丁度ご飯粒がついていた所に、そして、また
「─────/////////////!?」
ボッ、と顔が一気に赤くなり、また停止。今度は頬に手を添えたまま。

『かわいい〜〜!?お、お、お、お持ち帰りぃぃ〜〜!!』
やめて

「・・・・かぐや、どうした?」
「ん。あぁ・・・」
再起動
「はぁ・・・なんであんなことするの?」
「ん?あんなことって?」
「ほ、ほら、私の頬に付いてたごはんつぶを・・・」
言ってて恥ずかしくなったのか終わりに行くにつれて声はどんどん小さくなっていく。

「はぁ・・・別に普通だろ?」
「普通って・・・もう、そういったことはシリアにでもやってあげれば良いのに」
「あ〜、あいつはそんなへましないからな」
「はいはい、どうせ私は抜けてますよ」
そういうとかぐやはご飯を勢いよく掻き込み始める。

「はぁ・・・」
仕方なく再度ご飯を口の中に入れる、さっきより少し不味くなったのは気のせいではないと思う。
「ねえ」
「ん?」
「本当に溯夜は人の頬にご飯粒が付いてたらそれが誰でも取って自分の口に入れるの?」
「まさか、いくらなんでも赤の他人にはやらないって」
いくらなんでも恥ずかしすぎる。

「だったらなんで私には?」
「ん?これから何万何億年と一緒に行動するんだろ?だったら、これくらい当然なんじゃないのか?」
「え」
「え・・・ってもしかしてこの件が終わったら別々に行動するのか?俺はてっきりかぐやに連れて行かれるもんだと思ってたんだが」
あ〜、でも最初の数十年はあの大陸に居座るのか。

「ううん、ただ溯夜は一人で勝手に行くんだろうなぁ、って思ってたから」
「ん、まさか、右も左も分からないのにそんなこと出来るか。それにかぐやが炊事できないとなるともっと放っておけないしな」
「う・・・」
焼き魚を租借しようと伸ばされた箸が止まる。視線こそ魚の方を向いているが、箸は何処とも知れない明後日の方向を向いている。



「溯夜って優しいの?」
ふと料理も食べ終え食後のお茶を啜っているとかぐやがふと疑問を口にした
「さぁ?基本的に冷たい人間だと思うけど」
「う〜ん・・・」
顎に指を当て考える様は外見とは異なり完成された女性の様だ、麗人と言うのが最も的確な言葉か。
「でも、今の溯夜は優しいわ」
今度はこっちが顎に指を当てて考える、確かに、料理を作ったり頬に付いたご飯粒をとったりなんかは優しい行動に分類されるのかもしれない。

かぐやを見やる、というか俺は、この美少女の頬にしかもほぼ唇といって良い場所にあるご飯粒をとって口に放り込んだのか・・・・。やばい、今度はこっちが赤くなりそう。
「でも、あの大陸での行動を見るとはっきり言って道徳的には最低よね」
「まぁ、な。シリアを助ける為に何人殺したことか」
「だけどそれって正しい行動よね、他人を切り捨てた結果として自分の目標が達成できるのなら。」
ふむ、確かに道徳的に間違っていても自分にとっては正しい行動だとは思うが。でも結局あの時シリアを助けたのは俺じゃなくて高嶺だったが。

「溯夜って結局中途半端よね、優しいわけでもなく非情に徹するわけでもない」
「あぁ、それは昔誰かに言われたことがある。俺は身内には優しいけど他人にはどこまでも冷たいんだって、それも酷いんじゃ無くて何処までも無視するんだってさ」
きっと中学に入った頃に言われたと思う、誰だったかは忘れた、けどその言葉で自分はそういったものなのだと始めて認識した。

「無視、って言うのだと分かりにくいかもしれないけど、要は“どうでもいい”んだよ。例えばクラスメイトだけど多分次の日二人位机が無くなっても誰かに言われるまで気付かないと思う、だってそれはどうでもいい事だからな」
「成る程ね。じゃあ、私はあなたにとって重要な人間にカテゴライズされたわけだ」
「当然だろ、これから未来永劫一緒に行動するんだからな。大切でないわけが無い」
「───────は」
その一言を皮切りにけたけた、と笑い始める。
「そうね、これからほぼ永遠に一緒だものね」
む、何かすごい事を言ってしまったような・・・


「さ〜って、溯夜のメンテナンスでもしますか」
お茶をず、と啜り湯飲みを空にしてかぐやが立ち上がる。

部屋の隅に切れ目を入れて即席の道を作る。

「さっさと来なさい、別にとって食ったりはしないわよ」
当たり前だ。

湯飲みを水につけてかぐやの側に行く、空間の裂け目の向こうには畳の部屋が見える。

「ほら、行け」
裂け目を覗いているとかぐやから背中を蹴られ
「う、ぉお!?」
否応無しにぶち込まれた

──────────────────────



同日 ハイペリア かぐやの屋敷
「いてて」
頭から畳にダイブしてそのまま三回転した為かかなり痛い。
「何やってるの・・・」
その後ろではかぐやが華麗に澱みなく着地している。

「こっちよ」
かぐやが裂け目を閉じて襖を開ける。
その後をついて行くと

「あ〜?」
現代っ子の俺でも理解の範疇を超えた機械機械機械機械・・・・・
部屋中の壁という壁を機械が天井まで覆い隠している。

「そこに座って」
かぐやが示したのは歯医者とかにある椅子、いかにもそれっぽい。
だが座るしかないし、これで強くなるのなら儲けものだろう。

「え〜っと、このディスクを挿入して・・・」
隣のハードをかぐやがいじっている、だがどれだけ目を凝らしてもそれらを理解することは出来ない。
「溯夜、それかぶって」
かぐやがかちゃかちゃとパネルを叩きながら俺の少し横にある物を指差す、そこにはこれもまたいかにもそれっぽい金属製の被り物がある。

かぶっても大丈夫なのか?
「大丈夫よ、さっさと被る」
言われたとおり得体の知れない物をかぶる

「さて、と。ん、オールグリーン」
Pi!と景気の良い音を立てる背後のコンピュータ。
正直滅茶苦茶怖い

「起動」
かぐやの目の前に文字が浮き出る

「構成言語 解析」
滝のように流れる文字列のすべてをかぐやは目で追っている。
「お、おい、そんなもの機械に任せれば良いんじゃないのか?」
「面倒なのよ、こうすれば通常の半分の時間で済むんだから」
だからといってその文字列全てを目で流し見るだけで理解できるというのか?
「出来るわよ、そうでも無いと貴方の脳に書き込まれている情報を定着させるだなんて無理なのよ」
そういうことらしい

「基本理念 補強」
恐るべき速さでタイプされていくパネル、脳が熱くなるのを感じる。おそらくあのパネルで俺の脳にプログラムを書き込んでいるのだろうが・・・

「なぁ、何を書き込めば良いとか分かるのか?」
「そんなの一度見れば分かるわよ」
「なぁ、新たに書き込むべき情報量っていくら?」
「バイトにして10メガ、コードで換算したら三万七千五百六十四コード」
「・・・・・・」
もう何も突っ込まない事にした、これが天才という奴なのだろう。

「蓄積経験 継承」
かぐやは瞬き一つしない、10秒で俺のプログラムの解析を自力で終え、1分で足りない部分を補い。今、足りない戦闘経験を追加している。

「全工程終了」
時間にしておよそ三分、というか機械でやっても6分しか掛からないのなら機械でやっても良かったのでは?

「はぁ〜、終わりっ!!久しぶりに頭動かしたわ」
というかアレだけ動かさなければ貴方の頭は動かした事にならないのですか?



「で、どれだけ変わったんだ?」
情けない事に自分の脳みその事なのに全く分からない、だいたい言われるまで脳味噌にそんなものがあるなんて気付かなかったぐらいだからな。
「あぁ、対エターナル用のデータを付与しただけ。マナの気配を呼んで座標に変換する演算が甘いから付け加えたの。まぁ、もともとマナの気配を読むだなんて想定すらされてないことだから自力では限界があったわけ」
「つまり、今まで自力で行っていたマナの気配を呼んで位置を把握するって動作もプログラムの後押しで楽が出来るって事か?」
「う〜ん、脳の消費エネルギーで言えばむしろ上がったから楽できるって言うのは違うわね。消費エネルギーが上がった変わりに精密で高速の演算が可能になった、って思えば良いわ、アフターバーナーみたいなものね」
「ふ〜ん・・・」
「今のあなたの脳は一時間フルに働かせたらガソリン8リットル分のエネルギーを使うから」
うわ、燃費悪っ・・・・
「ま、フルに働くことなんて滅多に無いわ。よほど相手との間に実力差があるときなんかは臨界近くまで動くけど、今の溯夜ならそこまで実力に差があるのなんてそういないわ。私を含めても両手両足で数えれると思うし。まぁ、大抵エターナルって言うのはベテランが強いわね、場数を踏んでるって言うのはそれだけで有利だから。でもベテランでも弱い奴も居るわね、自己の力を過大評価して慢心してる奴とか」
はぁ、そうかい。

「ま、動作確認をしたら実戦ね」
「実戦か・・・これは使うのか?」
『彼岸』を抜いて問う、結構重要な問題だ
「使いたければどうぞ、ただまぁ、混戦では使わないほうが良いわね。間違って味方が『彼岸』で傷ついた日には・・・」
「う・・・」

「ま、なるようになるって、実家の方で見守ってるから頑張りなさい」
「ん、かぐやはこないのか?」
「えぇ、溯夜でもルール違反なのに私が居たらつまらないでしょ?」
「ゲームじゃないんだから・・・」
「それでも重要なことよ、人生の楽しむコツは適度に自分に制約を設けてそれを越えていくことね、うん」
「それ、今考えたろ」
「まぁね」


To be continued

あとがき
確かかぐやに人気が出たのがこの話をアップしたころ。読み返してみても、へたくそだなぁとは思ってもあまりかわいいとは思わないマジック。
会話ばっかりですねぇ・・・不細工な文章でもうしわけない。

最後にDream Elementでのみこれを読んでいて、本家での設定を知らない人へ
テスタメント:用はあれですよ、作中でも語りましたが溯夜の脳みそに寄生している殺し合いに特化したプログラムです。
彼岸:剣の名前です。永遠神剣とそれに関連したものに対する絶対の破壊権利かそういったものを持ってます。


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