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レユエの月 緑みっつの日 夜 アズマリアの墓
丘の上で3人と1人がにらみ合う。
「・・・・・どうしたの?先手は譲ってあげるわよ?」
「・・・・」
セリアが睨み返してくる、その目に殺気を乗せて

「ん・・・」
見てみれば三人だったはずなのに一人足りない、さて、セリアとナナルゥは居るのに──
「疾っ!!」
横から突撃するようにヘリオンが迫る、掛け声と同時に抜き放たれた剣は視認不可能の速度で夜を斬る。
その斬撃を真上に跳躍することで避ける、すると自分の真下にヘリオンが間抜けに体を差し出している。
「ぁ」
「残念」
ナイフを投擲する、狙いも何も無い、腕の動く限り際限なく雨のようにナイフを投げ落とす。
ナイフの投げた反動を利用して少し離れた場所に着地する、目の前には血を流し、地面にナイフで縫い付けられているヘリオンが、

チリッ
「っ!」
ヘリオンの様子を見守る余裕も無く体を全力で後ろに投げ出す。
同時に目の前で爆発が起こる鼻先ギリギリまで炎が迫り、次いで爆風が体をさらに後ろに吹き飛ばす。

爆風のお陰で乱れた体勢を立て直す余裕も無く地面に叩きつけられる、魔法の直撃は避けられたが───
「ったく!!」
起き上がらず地面を蹴って転がる。ザク、と音を立てて長剣が地面を蹴らなければ今わたしがそこに居たであろう場所に深々と突き刺さっている。

地面を蹴ってようやく立ち上がり、ナイフを構える。
「避けられましたか」
セリアが剣を正眼に構えている、その後ろでナナルゥがヘリオンの手当てをしている。
「そうね、危なかったけど。まだわたしの方が1枚上手って事ね」
「まだ、ということはいずれ抜かれる事を分かっているようですね」
「えぇ、わたしだって老衰には勝てないわ。いずれ若いラキオスのスピリットに追い抜かれるのは当然でしょう?」
「・・・つまり、同世代であるわたし達に負けるつもりは無い、と」
「当然でしょ?彼我の実力さも測れないような奴に負けるつもりは無いわ。相対すれば相手の実力くらい剣を交えなくても分かるでしょうに」
「一対一で勝てるとは思ってませんよ、だからこうして3人で来たんじゃないですか」
「ふぅん・・・・それでももう二対一だけどね」
ギリ、と音が聞こえてきそうなほどに歯を食いしばる音が聞こえる。
「まだまだね、もっと冷静になりなさい」
「・・・・」

セリアがウィングハイロウを広げ、空気を打ち、飛んでくる。
一直線に迷わず神剣を突き出し突撃してくる。
此処まで分かりやすい攻撃を仕掛けることはしないだろう、つまり左右に避けようとすると
ドッ・・・
と真横が火球で焼ける

なるほど、相手も必死らしい、刺し違えてでも、か
ナイフを逆手に構える、投げるわけではなく斬る為に

セリアが目前に迫る、後数瞬後にはその切っ先が深々とわたしを貫くだろう。
その未来を否定するようにナイフを切っ先に合わせようとする、ナイフで切っ先を弾き未来を変えるために。否、元から剣が当たるなどという未来は存在しないっ

セリアがその切っ先を突如地面に突き立てる、逆立ちするように剣を操り瞬間的に体を2mほど上に持ち上げ、
「くっ・・・」
突如空中に逃げたセリアの影から現われたのは火球、セリアを影にして迫った火球は目前に迫っている。
セリアの剣を受け止めようと身構えていたこちらからすれば完全な不意打ち
ウィングハイロウを広げ後ろに飛ぶ、が、その程度の速度で逃げ切れるほどトロい火球でもなく。

「あ、ぐっ・・・」
見事直撃を受けた、草の上を鞠のように転がり、丘を転げ落ちる。
丘の上には先ほどまでわたしが立っていた場所にセリアが佇んでいる。
腕の力で体を起こし立ち上がる。
「やってくれるわね、だけど───」
チラ、と上を見上げる。そこには瞬く星と深淵の闇が広がっている。
「幻在(ミスディレクション)」
空には流れ星が瞬いている、まっすぐ真下に向けて落ちる、
「セリア!!」
「ぇ」
無数の光条が、月明かりを受けて落ちてくる。

雨のようにナイフが降り注ぐ、セリアの居る場所にだけ降り注ぐ銀の雨。
雨が止んだ頃にはそこには金の靄が立ち上り、紅いセリアが横たわっていた。

「よくもっ!!」
「悔しそうね」
いつも以上に感情を露にするナナルゥ
「当たり前です」
「でもあなたじゃどうにもならないわ、出直してきなさい」
「そんなの、やってみな────」
「分からない?」
「っ、いえそこまで頭が回らないほど馬鹿になったつもりはありません」
と、ナナルゥは静かに剣を下ろす。ハイロゥも納めている、戦意は無いという意思表示だろう。
「あんたが冷静で助かったわ。これ以上七面倒な事引き受けたくなかったし」
「口先は最上の武器、まんまとやられましたよ」
「分かればいいわ、さっさと二人の治療するわよ」
丘を登り服の中から色々と治療道具を取り出す。
「はい」

◆◇◆◇◆◇◆


「ふぅ・・・」
背後ではナナルゥがせっせと二人の治療をしている。応急手当は手伝ったがそれ以上やる理由も無い。

今日は一段と月が大きく見える
否、月が大きくなるだなんてありえないんだけどそれでも大きく見える。

「────こんばんは」
「ぇ」
いつの間にか月を背景に空に浮いている少女がいた

まるで月から出てきたかのように突如としてそこに現れた少女
「花蝶風月ね、うん貴女にぴったり」
「花鳥風月?悪いけど風流心を解しているとは思ってないけど?」
「貴女が解していなくても貴女自身が無何有、常に自然であり続けるが故の美しさ」
「────何が言いたいの?」
「さぁ?とりあえず、わたしの目的は達成できたわ」
「ちょっ!!」
「大丈夫、答えは逃げない、追えばちゃんと捕まえられる。あなたがそれを求める限りね」
軽く風が吹き、目を閉じ再度開けたときには少女は既に居なくなっていた。
「ったく、何だってのよ」


わけのわからない少女と月を振り切って日課となってきている墓の掃除をする。
誰も掃除をするものなど居ないのか知らないが、とりあえず最初見たときは悲惨なものだった。
土がこびり付き草が伸び、そこに眠っているのが先代の女王とは思えないほどの荒れようだった。
最後に草を刈り取り、今日の掃除は終了。



チャプ・・・
湖に足をつけてボーっとする。
湖面に映る月を眺めて不毛な事を考える、先程の少女のこととか、これからどうするのか、とかいろいろ。

世界は滅びるらしい、それも近い未来に。おそらく数ヶ月もすれば何もかもが無かった事になるのだろう。
それは、とてもどうでも言い事に思えた。
今のわたしはとても希薄で、無力だ。

別に弱いわけではないと思う、だが戦う意思が弱い以上それはやはり無力という事になるのだろう。
そう思うとセリアたちが少し羨ましく思えた、彼女たちには何か失くしたくないものがあるのだろう、だからこそ失くさないために頑張れるのだろう。

ならわたしはどうなのか?
答えは簡単だ、失くすものがない。
なら世界が滅んでも構わない、わたしがなくしてもどうとも思わないものばかりで世界は出来ているのだから、世界にとってもわたしは亡くなってもどうということはないに違いない。



月が眩しい、どうしてこんな事になったんだろう。

───「隣、いいですか?」

「別にいいけど、怪我の方は?」
「大丈夫です、流石に戦闘はできませんけど」
ヘリオンが隣に腰掛ける、二つにまとめられた髪も今は解かれ綺麗なストレートを描いている。

「どうして、こんな事になったんでしょうね?」
「え?」
「やっと終わったと思ったのに、戦争が終わったら次があってまた次があってさらにその次があって─────今の戦いが終わってもやっぱり次があるんでしょうか?」
なるほど、突然同じ疑問をぶつけられて焦ったがわたしの物とは根本的に違うようだ。

「一つだけ確実なものがあるわよ。これに負ければ次は無い」
「戦争が終わるのは嬉しいですけど・・・やっぱり死ぬのは嫌です」
「────────」
「あ、あの?どうかしました?あ、もしかして顔に何か付いてたりします!?」
「え、あぁ、なんでもないわ。ただ、ね・・・」
視線をヘリオンから湖に戻す。
そこには揺らめく月の影が映っている。

「シリアさん、ラキオスに戻ってくれませんか?」
「・・・・あそこまでされて良くそんなこと言えるわね」
「言えますよ、だってそんなプライドを振りかざしていられるほど余裕が無いですから」
「・・・貴女はそうでも向こうの二人、特にセリアはどうかしらね」
「セリアさんだってシリアさんが戻ってきてくれるなら喜びはすれ怒るなんてしませんよ」
「・・・そう」
「はい」

「あの、質問してもいいですか?」
「好きにしたら、聞くけど答えるかは別よ」

「陛下の、レスティーナ陛下の理想は正しいんでしょうか?」
「はい?」
思わず聞き返してしまう、まさかラキオスで戦っているスピリットがこんな質問をするとは。モチベーションが下がるだろう、レスティーナもちゃんとスピリットを管理しないと勝てる戦いも勝てなくなる。
「ですから、レスティーナ陛下の“エーテル技術破棄”と“スピリットの開放”は正しいんでしょうか?」
「さぁ?正しいかどうかなんてレスティーナの理想を押し付けられた連中が決めることよ、わたしに問われても困るわ」
「そうですよね、でしたら。シリアさんにとって陛下の理想は正しいですか?」
「ん・・・・そう、ね」
どうだろうか、エーテル技術を棄てなければ世界は死ぬらしい。スピリットの開放も、まぁわたしは元々開放される必要も無いしどうでもいいって言えばそれまでなんだけど、
「正しいとは言えないわね。エーテル技術を破棄されたら世の中が不便になるし。そりゃ、世界の寿命がみじかくなるかもしれないけど、わたしも含め殆どの連中は長命の文明よりも今自分が享受できる楽な生活の方がずっと大切だろうし。スピリットを開放してもそれをスピリットが喜ぶかどうかが疑問よね」
はっきり言って困惑するスピリットの方が増えるのではないだろうか?
「私も、私も戦いがなくなったらどうすればいいんでしょうか?今は戦っていればそれでいいんですけど、戦いがなくなった後何かをしている自分が全く想像できないんです」
「ん〜・・・別に想像する必要は無いんじゃない?多分ラキオスのスピリットとわたしとリースなら解放されても生きていけるわよ」
「じゃあ、他の国のスピリットは?」
「そりゃ、自活できない奴も居ると思うけど?」
「それって、ラキオスのスピリットが特別なんですよね」
「そうね、というか異常って言うべきかしら?」
世界規模で見ればこうして戦い以外に生きる意味を持っていたり、持とうとするスピリットは異端だ。軍はそういったスピリットを排除しようとするし、スピリットも元からそういった思考が出来ないように余分な知識を与えられていない。
「それじゃあ、スピリット開放は陛下の独善なんでしょうか?」
「そりゃそうよ、誰かが頼んだわけじゃないでしょ。マロリガンなんかは国民が多数決で政治を決めるみたいだけどラキオスは世襲制の王政だからね」

「・・・・どちらにしろ、後の事を考えるのは愚の骨頂よ。今は勝つことだけを考える、でしょ?」
「えぇ」

「次はこっちから質問」
「え」
意表をつかれた顔をするヘリオンを無視して質問を投じる
「────何か求めるものがある、けどそれが何なのか分からない、何処にあるのかも分からない、何故求めるのかさえ分からない。あなただったらどうする?」
「──────待ちます、ただずっと前を見て、きっかけがやって来るまで」
む、結構返答が早かったわね
「待つ?」
「えぇ、だって何の手がかりも無いんじゃあ探しようが無いですよね。だったら、手がかりか求めそのものが現れるまでじっと待ち続けます」
あぁ、そういう考え方も─────あり、か。
「でも、それって求めている事になるのかしら?」
「あ、れ?あはは、さぁ、どうでしょう?」

「─────ラキオスに下ってあげる」
「本当ですかっ!?」
「えぇ、久しぶりにリースの顔も見たくなったし。それに、待つためにはそれなりに時間がいるでしょ?だったら世界が滅びちゃ困るわ」
「え、えぇ、そうですね」

──────────────────────



レユエの月 緑いつつの日 ラキオス第二スピリット部隊詰所

「さて──────」
目の前には台所、つまり包丁とか食器とかシンクとかがあるところだ。
さて・・・、視線を横に移せば大量の食材、否──贖罪が・・・

このような状況に至った経緯は少し前にまで溯る。
セリアとナナルゥとヘリオンに連れられる形でラキオスに凱旋したわたしに待っていたのは再入隊の書類手続きと墓石の破壊。

そして心配かけた罰として皆に料理を振舞う事にさせられた。

「腕によりをかけてつくってくださいね〜」とおっとりした声でハリオンに言われた。
普段おっとりしていてほんわかしているが腹の中はタールのようにどす黒くネバネバした物で満たされているに違いない。きっとアレがくろまく〜。といった奴なのだろう。

材料は先ほど購入してきたばかり、豆腐とか山椒とか唐辛子とかひき肉とか米とか卵とかがおぞましいほどに入っている。
「さて、と」



──
───
────
───
──



「完成、っと。」
誰一人として手伝ってはくれなかった、まぁそのほうが今回は良かったかもしれないが。

取り皿は既に配ってある、あとはこの明らかに“辛いですよ”と言った感じの食べ物を運んで。ホワイトブリムみたいな形の肉詰めを持っていって。
個別に一風変わった炊き込みご飯と食後にデザートを持っていくだけだ。

ダイニングには見慣れた面々が席に着いている。
中には見慣れない服装で見慣れない顔の人も居ますが・・・・
「どうかしましたか?」
と、紅白の服を着た女性が話しかけてくる。
「いえ、お名前をまだ拝借していませんでしたので。わたしはシリア=ブルースピリットと言います。」
「丁寧にどうも、私は時詠みのトキミといいます。」
「こちらこそ」

テーブルの中心に赤いラー油と唐辛子と山椒の混合物を置く、おそらく私の人生でこれ以上辛い食べ物は二度と作られることは無いだろう。
その隣にホワイトブリムみたいな形をした肉詰めを置く、表面はカリッと中は肉汁がじわ、と出てくるのが良い感じらしい。
そして各々の席の前に炒飯を置く。


「どうぞ召し上がれ、お勧めはそこの赤い料理ですわ」
にこやかに、手の平でもって推し進める。唇を赤く腫らしてもだえるが良いさ。
「シリアさんは食べないんですか?」
「従者は主の後に頂くものです」
これもまたにこやかに。

「じゃあ」
「「「「「いただきます」」」」」
さじをつける、皆が皆わたしの言葉を信じて真ん中の麻婆豆腐に手をつける。


「辛っ!?」
といったのはネリー、う〜んデジャヴ。
「う゛!?」
これはヘリオン

「・・・・少し辛くないですか?」
冷静にちょっと涙目で甘くしろと暗に説得してくるのは先程の紅白。
「いえ、この料理はデフォルトでこの辛さのです」
皆泣く泣く麻婆豆腐を口に運ぶ。

「所でこれらの料理はなんと言うのですか?」
と聞いてきたのはまた紅白、平然としやがって。
「赤いのから麻婆豆腐、餃子、炒飯ですが?」
「この世界の料理ではないと思うのですが?」
「そういえば初めて食べますね・・・」といったのはエスペリア。

「私達は初めてじゃない気がするんだけど・・・」これは第二詰所の面々。
「シリアさんはこの料理を何処で習ったんですか?」
「さぁ?そのような事を逐一覚えているわけではありませんから」

こんな感じで食事は進み、麻婆豆腐以外は好評でお皿はすぐに空になった。

「さて、ではデザートですね」
「デザートは甘い?」
「もちろん、冷たくて甘くて頭が痛いです」
「「「?」」」

氷室に行って人数分のアイスを持ってくる。
普通の何の変哲も無い、というかこのバニラアイスしか食べたことは無いのだが・・・

───あれ?何処で食べたんだっけ?

ちょっとした疑問を残しつつ皆の前にアイスを並べていく。

匂いからして甘い、皆が皆一様に目の前の獲物を睨みつけている。
その中たった一人違う意味でアイスを睨みつけている人物が
「何故、このお菓子を?先程の料理といいこちらの世界には存在しないはずです」
「煩いわね紅白、目の前にあるのは何なのよ?ちゃんと形を持って存在してるでしょ?」
「確かに材料をそろえることは可能です、ですがこのお菓子は発明されていません」
「何をそんなにこだわるの?毒なんて入ってないわよ」
「そうですよぉ、早く食べましょう〜」
ハリオンが、まぁ、援護をしてくれる、口元は四分の一ほど開かれ、喉は5秒に一回ほど鳴っているが。

最後の一人に皿を置く、つまり“どうぞ召し上がれ”の意味。


「あぁあぁぁあぁあああぁぁ〜、美味しい〜〜」
泣かなくても良いとは思うのだがそれほどまでに美味しいといってもらえるのなら感無量ですよ、はい。
「あぁあぁぁあぁあああぁぁ〜、頭がい、痛い〜〜」
急いで掻き込むからそういう事になるのです。

お菓子は概ね好評で、皆満足しているようだった。
そして後には大量の洗い物が残った。

◆◇◆◇◆◇◆


同日 ラキオス第二スピリット部隊詰所
「シリアさん、少し、いいですか?」
今まで放っていたお詫びと預かってもらっている荷物を引き取るためにリースの部屋に行こうとしていた所、食事中何度も突っかかってきた紅白に呼び止められた。

「少しなら」
「ありがとうございます」
そういってリビングの席に着く、私にとっては珍しく他人が淹れたお茶を飲む。

「聞きたいのですが、あなたはあの中華料理やアイスクリームのレシピを何処で知ったのですか?」
「さぁ、わたしだって知りたいわよ。レシピを知った経緯はすっかり抜け落ちてるのに、結果としてレシピはしっかりと頭の中にある。これって結構不気味でしょ?」
というか悔しい。
「えぇ、異状です。一つ訊きますが、貴方は黒霧溯夜、という人物を知っていますか?」
「? いいえ、知らないわ」
「・・・・本当ですか?」
「本当よ、それとも貴女にその人のことで嘘をついたら何かわたしに利益があるのかしら?」
大体今日あったばかりじゃないの
「すいません、野暮な事を聞きました」
そういって席を立ち、わたしと紅白の分の空の湯飲みを持って台所の方へ歩いていった。

とりあえず、あちらの話は済んだ様なので、わたしもリースの所に行かせてもらおうかしら。

◆◇◆◇◆◇◆



同日 リースの部屋
「・・・・何やってるのあなた?」
部屋の中には所狭しと置かれた荷物の中にベッドの上でわたしの服を抱いて眠る一人のスピリットが・・・
しかも滅茶苦茶幸せそうな顔で・・・

「明日にしますか」
とりあえず明日必要な衣類等を持って部屋を後にする。

廊下は静まり返っている、わたしとリースの部屋は空き部屋を挟んで隣同士となっている。
「?」
そういえば何で中途半端に部屋を一つ開けているのだろうか?

「・・・・ま、いっか」
こういった物は気にした者の負けなのだろう。

──────────────────────



ホーコの月 青よっつの日 ラキオス謁見の間
月日が経つのは早いもので、トキミの出した1ヶ月を何とか凌ぎ切り今日その援軍が到着する手はずになっている。
つまりは顔合わせ、すさまじい事に援軍の数は二人、確かにトキミは強いが敵もエターナルなら強さは同格、確実に勝つためには相手よりも多くのエターナルが必要なのではないだろうか?

とりあえず謁見の間で整列してその応援とやらを待つ。暫くして部屋に入ってきたのは触ると怪我しそうなぐらい尖りに尖った髪をお持ちの青年、もう一人はサラッ、とした長い髪を持つ少女、青い髪がどうにもスピリットのようだが気にしない。

「お待ちしていました」
と、レスティーナ。本当に待っていたのだろう、その顔には嬉しさが溢れ出ている。

レスティーナの言葉に始まり多少の手続きというかなんと言うか、要は本当に手伝ってくれるのかどうか、を確認するやり取りがなされる。
その最後に

応援に来た青年が剣を振りかざし
「この大陸の敵すべてを打ち払って見せます。」
と、「信じられない」言葉を口にした。

「シ、シリアさん、口に出てますよ・・・」
「ぁ」
流石に不味い。確かに本音だが不味い。なんたって連中はわたしより格上の存在だ下手に逆らったらどんなことされるか、しかも男だし・・・貞操の危機か・・・

「シリア、何が信じられないんですか?」
言ってしまったのだから仕方が無い
「では陛下は信じることが出来るのですか?彼らが強いことは認めましょう、ですが何故彼らがわたし達に味方するのかが分かりません。この大陸が救われることで彼らに何か大きな見返りがあるのですか?話を聞いた限りでは今回の応援はただのボランティアのようですが?」

「シリア、だっけ?」
口を誰よりも早く開いたのはその青年。
「・・・確かに、俺たちはこの戦いを無償で買って出た、だけどそれが俺たちに見返りが無いわけじゃない。今回の敵は俺たちと敵対している勢力だから、そいつらを倒すことはそのまま俺たちの利益になる。それに、困っている人を助けたい、未来に希望をもてない人たちの為に俺が希望を繋ぐ架け橋になる、そのために俺はエターナルになったんだ」

「なるほど、敵の敵は味方って訳ね。後半は胡散臭かったけど」
「っ・・・」
「利害関係が一致してるみたいだから信じる事にするわ」

「まぁ、シリアさんにも納得が戴けた様なので・・・・!!」
突如玉座の上が光る、マナが収束しその中心では光の玉が生まれている。
「皆さん、こちらに、私達より前には出ないで!!」
トキミと青年と少女が一歩前に出る。

眩しすぎてそこに玉座があるのかさえ分からないほどの光がその場を満たしている。
そして
光は一気に集束を開始し。

「ふふふ、個性豊かな面々なようですわね。まぁ、それも無意味なものですが」


To be continued

あとがき
さて、いよいよ戦果の口火が斬って落とされようとするのかしないのか!?という微妙な終わり方です。作品自体微妙ですからね、どこまでも微妙なのです。
微妙なまま終わりです、私の気がその気になるまでDreamElementでの更新は先送りです。
次の更新は恐らく本家で五章が終了したときでしょう。

そしてここを読んでいる人は恐らく本家の存在を知っていると思われるのであまり意味は無さそうです。否、実際の所どうなのかは知らないけどね・・・
因みに今回の話のタイトルである「Her selves」ですが、意味は「彼女自身」 由来は「秋霜玉」のEDです。久しぶりにVIVITで弾を避けてみようかな・・・
多分上2行の意味が分からない人も居るでしょうね・・・


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