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────────Sakuya side
「・・・・ここは」
目を開いたら鬱蒼と生い茂る草草草草・・・・
膝ぐらいの高さを持った草が生い茂る場所に仰向けに倒れている。

「ん・・」
朦朧とする頭を左右に振りながら起き上がる。
高くなった視線を持って回りを見てみると草だけでなくさまざまな花や木が生い茂っている。

見上げれば木々の合間から満月が覗いている。

「やれやれ」
どっかりとその場に腰を落ち着け状況を整理する。

座ったまま周りをもう一度見渡す、が
見覚えは無い

木の多くは広葉樹に見える、ファンタズマゴリアに群生している基本的な木々は針葉樹であるため。帝国をさらに南下したのか・・・

「いや、どことも知れない場所なんだろうな」

2度目ともなれば慣れるとまではいかなくも多少の落ち着きは維持できる。

とりあえずここに来た経緯を思い出す必要がある。
どうせ理不尽に連れて来られたのだろうから大して期待は出来ないが・・・

思い出せる範疇で一番今に近い記憶を探す。
勝手な行動で処罰の変わりに特命を受けたこと。
赴任先で龍に出会い、負けたこと。

そこから先の記憶は無い

順当に考えるとここはあの世と称される場所なのだろう、死んだ人間なのだから仕方が無い。
2年ほど前までは欠片も信じてなかったが、ここ2年でありえない事態に遭遇しすぎた。地獄とか天国とかがあってもさほど問題にならないし驚いても居られない。


周りを見ても俺以外の動物の気配はしない、探せば虫ぐらいなら居るかもしれないが、とりあえず犬以上の大きさを持った動物は居ないことは確かだ。

つまり

「シリアは死んでないのか?」

そういう事になる、まぁ、別々の場所に居るのかもしれないが。

「はぁ・・・」
『溜息ばかりついていると幸せが逃げますよ?』
「それは嘘だな、幸せが逃げるから溜息をつくんだ。」

「で?お前も死んだのか?」
『勝手に自分が死んだなどと思わないでください。しっかり生きますよ、ほら、足だって有るじゃないですか。』
視線を下に下ろせば確かに草の上で組まれた2本の足がある。
『ついでに言えば、ここはあの大陸とは別の場所ですよ。まぁ、それは分かっているようですが。』
「そりゃあねぇ。で、質問したいんだが・・・」


「何を?」

「っ!!」
すぐさま足を解き飛び起きる

「ほら、何を聞きたいのかしら?」
まるで音も無く振ってきたかのようにそこに居る少女は、口元を長い服の袖で隠し笑っている。

「あんた誰だ?」
「名乗るならまず自分からよ」
少女は口元から腕を下ろす、どう見ても俺より年下、中学生程度の年齢に見える。

「・・・溯夜、黒霧溯夜だ」
「ふぅん・・・」
生返事をする少女は俺を一瞥するとその身を翻し

「お、おい!」
「ついてらっしゃいな・・・」

森の中に消えた・・・

◆◇◆◇◆◇◆


依然として少女は俺の前を歩き続ける、決して追いつけない速度ではなかったが、どこかその背中には追いついてはならない雰囲気が漂っている。

「さて、到着ね。」
突如目の前に現れたのは古ぼけた
「神社?」
社務所すら無いちっぽけな神社があった。

少女は数段しかない階段を登り、その先にあるスライド式の扉に手をかけようとして
「さて、あなたはどうするの?」
くるり、とこちらを向いて
「ここから先に行くのかしら?」
と、尋ねた。

「行く、何があってもだ。」
何が自分を突き動かすのかは分からない
「その先に行かないと何も動き出さないと思う」

「そう、なかなかにいい返事ね。でも、ただで入れるほど甘くは無いわよ?」

「・・・・」

「じゃあ、第1問」

「1から1000までの数字をすべて足した時その合計はいくらになるでしょう?」
「ち、ちょ、待ってくれ・・」
「待ったなし」
「ぐ・・・」

1から1000までの数字を全部足す?

「残り10秒〜♪」
その声と同時に、少女の手に青白い玉が浮かぶ
「時間切れと同時にあなたの人生も終わるわよ?」

額を汗が流れる、与えられた公式に当てはめるだけの計算ならまだしも、こうした問題は・・・

「残り5秒〜♪」

「ご、五十万飛んで五百・・・」

「へぇ・・・なんで?」

「2数を足して1000になる数は、1+999から始まって499+501の計499。つまり499×1000で499000。」
に、なるはずだ
「それに先の式に含まれてない500と1000を足して、合計500500」

「はい、せいか〜い」
青白い弾は嘘のように消え、少女のケラケラといった笑いが響き渡る。

「んじゃ、第2問」

「二人の少年が煙突に入って掃除をしました、その内一人は顔を煤で盛大に汚していましたが、もう一人は、全く煤で汚れた形跡は有りません。ですが、顔を洗ったのは顔の汚れていない少年でした。それは何故でしょう?」

・・・
まぁ、典型的ななぞなぞだが・・・

なんで、汚れていないのに顔を洗ったのか、なんだよなぁ・・・
つまり、何で自分の顔が汚れていないのに汚れていると思ったのかって事を考えればいい。

「つまり、相手の汚れている顔を見て自分の顔も汚れていると思ったから。逆に顔が汚れている方は相手の汚れていない顔を見れば自分の顔も綺麗だと思うだろ?」

「ちぇ、正解」
今回はなかなかに早く正解を出されたかな・・・


「いよいよラストの第3問」

「何故あなたはここに居るのでしょう?」
少女は笑顔で、一切の邪気を顔に含めずにさらっと答えようの無い難題を出してきた・・・

「むぅ・・・」
そんな“我思うゆえに〜”見たみたいな難題を出されてもこちらとしては返答のしようがない。

「・・・・・」
だが、少女からのプレッシャーが原因なのか、他の何かが原因なのか、それは分からないが、答えなければならない、そんな気がする。

だが、ここがどこか分からない、ここで何が出来るのか分からない。

つまり、ここがどういった場所なのか関係無しに、俺がここに存在する理由を訊いている。

哲学のような命題には絶対の答えがないのが常で、何故俺がここに居て、これから先どうなっていくのかなんて分からない。
ハイペリアに居たのなら、予想がつかないこともない、だがこんなわけの分からない所じゃあ・・・
大体こんなわけの分からない所じゃあ俺が居てもしょうがない・・・・

・・・・居てもしょうがない?

なんでそんな風に思ったんだろうか、ここじゃないどこかに俺がいるべき場所があるみたいな・・・

・・・居るべき場所、とは違うのか?
俺が居たいと思う場所があるのか・・・

だとしたらそれは・・・


「どう?答えは出た?」
まるで計ったかのように話しかけてくる少女に対し多少の疑問がわいたが、いまさらだしこれからだとも思った。

「まぁ、な。」
「そう、じゃあ。聞かせてもらおうかしら。あなたは何故ここに居るのかしら?」

「俺の居場所はここにはない─────だけど、俺がここに居る以上何かするべきことがある。だからここに居る。」

「ふぅ・・・間の抜けた答えね・・・」

「う、うるさい・・・」

「まぁ、いいわ。詳しい話をしてあげる。」
そういって少女は背にしてあった引き戸を開けて中に入っていった。

階段の下においてあった賽銭箱を横に避けて階段を上る。
数段しかない階段を登り終えた先にある引き戸をくぐり、中に入る。

「ちょっと、靴は脱ぎなさいよ。」
「あ、あぁ。」

板張りの床を踏みしめ狭い室内を見渡す。
神社らしいといえるのか言えないのか、厳かな雰囲気こそあれ、この部屋にあるのは生活用品ばかり。

一間の部屋にはさらに奥に続く扉があって、ガラスの向こうにはさらに石造りの通路が見える。
おそらくこの部屋が社務所的な役割を果たしていて、通路の向こうが本殿なのだろう。

「で、詳しい説明とやらは?」
「ちょっとは待ちなさい。」
そういうと少女は指をパチン、と鳴らし、引き戸を開けるよう促した。
指示されたとおり引き戸を開けたら。

「ぉ」
水をなみなみと張った桶が入ってきた。
少女が桶の水をたらいに移し終えると桶はまた飛びながら引き戸をくぐって外へ出て行った。

暫く台所で何かをしている少女の背中を眺めていると。

「んー、まぁ、いいか。」
湯飲みを二つ持って俺の対面に座った。

差し出された湯飲みからは湯気が上がっていたが、火を使ったようには見えない、つくづく謎の多い人物だ・・・

出されたお茶は・・・玉露か・・・
「うん、葉は悪くない。」
「あら、引っかかる物言いね。」

「まずは自己紹介からかしらね?」
「そうだな。」

「じゃあ名前から、わたしの名前はかぐや、名字はないから“かぐや”って呼んでくれればいいわ。あなたをあの大陸に召喚した張本人。」
「そう、か。俺の名前は黒霧溯夜、もちろん黒霧が名字で溯夜が名前だ。」
「さっきも名乗ってたけど何か女の子みたいな名前よね・・・」
「・・・」
あと少しで湯飲みを割る所だった・・・

「さて、どうするこっちが一方的に喋ろうか?それとも質疑応答にする?」
「そっちが有る程度喋ってから質疑応答にしてくれ。」
「ん、分かったわ。」

「まず、さっきまであなたの居た世界、つまりはあの大陸ね。は今消滅の危機に瀕しているの。」
「へぇ・・・」
お茶を飲みながら一服、正直実感がわかない。世界が滅びるって何なのでしょう?

「私か・・・ロゥ・エターナルって言う勢力の力で潰れるわね、このまま行ったら。カオスエターナルが頑張ってるみたいだけど、どうなのかしら、ロゥはどうにかなってもねぇ・・・」
自分はどうにもならないってか?随分と自信がおありのようで
「まぁ、端折れば説明なんてこの程度なんだけど?」
「短いな、端的にまとめてくれてありがとうって言えばいいのか?」
「どういたしまして。お茶のお代わりはいる?」
「もらおう」

そういって新たに継がれたお茶の飲みながら・・・
「質問するぞ」
「どうぞ」

「じゃあ一つ目。なんで俺はあの大陸に召喚させられたんだ?」
「私のお眼鏡に適ったから。だからあなたはあの時無意識に神社への階段を登って巻き込まれた。」
「つまり、お前の良いように使われたって事か・・・」
「えぇ、そうなるわね。それが腹立たしいならすべて元通りにしてあげるけど?」
お茶を啜りながらどうということは無さそうに少女は言うが
「そいつは困る、あの大陸で過ごした2年はそこまで否定できるものじゃないからな。」
「へぇ・・・」

「さて、二つ目。かぐやは結局何者なんだ?名前だけじゃあ分からない。」
「そうね。あなたもあの世界に居たのなら竹取物語くらい知ってるでしょう?」
「あぁ、テストとか教材で何度も読んだな。」
「そのかぐや姫が私よ、いろいろあって月には帰らず好き勝手やってるわ。」
ふむ・・・まぁ、その言葉が真実だとしたら。

月の王族が淹れたお茶なんて存在していいのだろうか?
俺は今とんでもない物を飲んでいるのではないのだろうか?

「いいのよ、姫なんて名前だけだし。」
「そうなのか?」
「当たり前でしょ、大体王族が好き好んで地上になんて行くと思う?大体作中で罪人って書かれてあったはずよ、地上は月の人間にとって流刑地なのよ。」
“穢い”って表現してた所もあるし、どうも俺らが住む場所は月の人間にとってそういう認識らしい。というかそこまで詳しく竹取物語を読んだわけではないが。

「ふむ・・・まぁ、いいか。その話は後で・・・」
「うわっ、酷い」
笑いながら言われても迫力に欠けるな・・・

「三つ目だけど。かぐやが俺を連れに来たときに俺の側にもう一人居たはずだ。そいつはどうした?」
「さぁ・・・ここには居ないわ。」
「・・・ちっ、そうかよ。」

「四つ目。あんたのお眼鏡に適ったからあの大陸に召喚されたのは分かった、じゃあ、ここにいる・・・否連れて来られた理由は何だ?」
「・・・察しが良いわね。まぁ、その話は後で。」
「それで納得すると思うのか?」
「私が今は喋らないと言ったのだからあなたは了解するしかないのよ。あなたでは私の口を割らせるなんて出来ないでしょう?」
「・・・・・そうだな、ならその代わりに何故俺は君のお眼鏡に適ったのか聞かせてもらおうか。」
少女が溜息をついて湯飲みを取る

「長くなるわよ?何せ私の全人生の約0.2%を占めているもの。」
少し後ろめたそうな、引け目を感じているような、今まで笑ってばかりいた少女からは考えられないような感じを受ける。
「・・・・あんたって何年生きてんだ?」
目測14年といった所か
「細かい年数は分からないけど大体キリストと同じくらいだから・・・2000年ほどかしら?」
0.2%で4年かよ・・・
「それで、どうする?あなたが聞く事を望むのなら私は喋らざるを得ない。」
「・・・なら、聞かせてもらおうか。これから先の話を進めるのに必要なことだと思う。」

「はぁ・・・。仕方ない、か。」
溜息を吐き出し、かぐやは一つずつ語りだした・・・

──────────────────────


1300年前 月
「ダメですね。今回も失敗です。」
機械から吐き出される大量の紙片を一瞥した研究者は実験の失敗を告げる。
「どうにもこのテスタメントによる情報の書き込みに問題があるようですね。」
「やはり脳に自立したプログラムを書き込むということは不可能なのでしょうか?」
薄暗い室内に所狭しと機械が並べられ、数人の白衣を着たいかにもな研究者は、ある者は書物を読み、ある者はコーヒーを啜りながら、そしてその中の一人が先ほど紙片を一瞥しただけで実験の先行きを予測した科学者に意見をする。

「理論上不可能ではないはずです、現に直接脳に情報をインストールする事に成功しています。
ですが、間接的となると完全に自立した状態で個体に情報をインストール必要がある。情報の書き込みに問題は無いのですが、用は時間の経過が情報に劣化を与えてしてしまう。」
おそらく他の研究者の質問を的確に返すこの者はここでのリーダーてき存在なのだろう。先ほどまで書物を読んでいたものも彼の話に耳を傾けている。

「スーパーコンピューターは一週間以上メンテナンス無しで活動した場合記憶違いが発生し、あとは鼠算式にエラーが増える・・・」

「現在もっとも有力な案が遺伝子レベルで情報を書き込み、必要なプログラムを本能と同化、死ぬまで不変の物とする、なのですが。ここで重要なプログラムが生殖により次世代へと受け継がれる可能性があります。
プログラムが生殖によって私たちの知らない所で増えるという事は避ける必要があります。
それに情報を染色体に書き込む以上、減数分裂の過程で生殖細胞の染色体は体細胞と比べて半数になりますから不完全な形での遺伝となった場合個体にどのような影響を及ぼすか分かったものではありません。」

この研究所では完全に独立した思考を持ち、あらゆる武器をあらゆる状況下で完璧に操る兵士の研究がされている。この研究が進められるきっかけとなったのが突如独立宣言を出した月の一地域、この地域は他との流通の拠点となる重要な箇所だったため下手に独立宣言を出され莫大な通行料を取られるのは経済全体の痛手となった。

別に制圧できないことはない、相手が武装しているからといっても軍を向ければ敵ではないのは明らかだった。だが、重要な拠点である以上被害は最小限で手に入れる必要があった、焦土と化した拠点など、拠点としての機能を果たさないばかりか政治家にとっても次期の得票数に関わってくる。
被害を最小限に抑えつつ、確実に制圧するための兵士。その兵士のソフト、つまるところ思考能力の部分をこの研究所のこの部署で研究されていた。

記憶を脳に直接書き込み戦闘行動を起こす兵士も実用段階に進んでいるが、周囲の状況が変わったらエラーが生じて活動が停止する。そのエラーをなくし、周囲の状況を演算、所持している武器・身体のスペックを計算し適切な戦闘法を脳に植えつける自立プログラムの開発に追われていた。

プログラム事態はくみ上げる事に成功したが、そのプログラムをいかに完璧な状態を保ちつつ脳に定着させるかが問題だった。
かさなる動物実験では悉く失敗、しかもクローンを用いた人体実験ではプログラムの演算速度を引き出すだけの能力を人間の脳が持っていないということだけが分かった。

「もっと強力な筐体が必要ですね・・・」
だが、人間以上の頭脳を持った生命体を作り出す事は出来ない。
しかも、後2ヶ月で結果を出せなかった場合研究は永久凍結、研究員は即日解散。

人間以上に優れた頭脳を持つ存在は月面に存在しない、かといって月の内部に存在するかといわれればそれもノーだが。

「あ、あの・・・居るには居るのでは?」
研究所に沈黙がおりる

確かに、居ないことはないし誰もが知っている周知の事実
人間と同属でありながら超越した身体スペック誇る存在が居る。
その者の細胞が手に入れば、なるほど実験も成功するだろう。

だが、その者に干渉することは月に置いて禁忌とされている。









「───────へぇ、なかなか面白い事になってるじゃない。」


──────────────────────


「で、その後私が秘密裏に遺伝子を提供。実験は成功したけど後で私が関与したことがばれ。研究は永久凍結、私は親の逆鱗に触れて地上に落とされた。」

「そこの研究所の最後の仕事が作り出した仕事が、スクリプトにプロテクトをかけて地上に破棄することだなんてお笑いよね。まぁ、どういう経緯を経てか地上の人間に取り込まれて今まで連綿と受け継がれてきたわけだ。」

・・・話が壮大すぎて訳が分からない、いきなり月とか言われてもピンと来ないし、脳に情報を書き込むなんて事が可能だということ事態が驚きだ────

「で?その遺伝子はいずこに?」
「分かってるんでしょ?あんたにしっかりと受け継がれているわよ、生殖を繰り返すたびに私の面影は消えているし劣化もすすんだけれど残念、一番消えてほしい所は殆ど消えなかったみたいね。なんたって削れないように強化に強化を重ねたからね。因みにこの遺伝子を受け継いだ中で男児が生まれたのはあなたがはじめて。」
・・・つまり
「俺がその実験の産物だってのか?」
「そうよ、ところどころ大本との劣化は見られるけどね。だからプロテクトも緩んだのね。」
「そのプロテクトってなんだったんだ?」
「さぁ?知らないわ、私と一緒に地上に落とされたって聞いてたけどね、私もそこまで詳しく研究のほうに踏み込んでたわけじゃないし。」

「ただ、今のプロテクトがどうなのかは分かるわよ。」
「・・・なんなんだ?」
「おそらく、殺人ね。起動のきっかけはあなたが事故で起こした殺人だと思う。」
「はぁ・・・複雑・・・」
「怒らないの?私の所為で貴方は人生引っ掻き回されたのに。」
「いや、怒る理由がないだろ、1300年も昔のことだぜ?」

かぐやは俺の言葉に、ポカンと目を見開き体全体で驚きを表現している。

「嘘───」

「嘘じゃねぇよ。別に俺が特別不便したわけでもないし、確かにそんなことが無ければ俺も召喚とかはされなかったのかもしれないけど、召喚されたらされたで、そのお陰で十分に戦えて来たわけだしな。」
「そりゃ、戦闘に関してあの能力が働いてないわけが無いけど・・・」
「だったら、俺は感謝こそすれ、怒る理由はどこにもないぜ。この能力が無かったら犬死してたかもしれないんだからな。お眼鏡に適った理由も分かった。それに、この2年は結構楽しかった。」
そういってかぐやの頭の上に手をポン、と乗せる。
「何これ?」
「ん・・・感謝の表現?」
「はぁ・・・なんで語尾上がりなのよ。いいわ、あなたがなんとも思ってないなら私もこれ以上は言及しない。」



「じゃあ、五つ目、これで最後だ。」
違和感は神社に入ったときから、気付いたのはつい先ほど。
「『幽玄』はどこに行った?」
「ふふ、ようやく気付いた。いえ、早速というべきかしら?愛されてるわね、彼女。」
ポケットに入っていたはずの『幽玄』は今は無い、契約も破棄されている。つまり今の俺は生身の人間程度の力しか持ち合わせていない。

「さて、お茶の飲み終えた所だし4番目の問に答える意味でも行きましょうか。」
湯飲みを置いて少女は立ち上がる、そして入ってきた時の物と反対に位置している引き戸に手をかけ
「何してるの?早く来なさい。もっとも来たくないと言うのなら別だけど。」
「い、いや。今行く」
すぐさま行動に起こすことが出来なかった、別段かぐやを警戒しているわけでもない、ただ『幽玄』が手元に無いと言うだけでこれだけ不安になるなんて思わなかった。

かぐやが引き戸の奥に消える。あわててその後を追いかけ、青白く光る幻想的な石造りの歩廊に出た。
その歩廊の少し先をかぐやが歩いている。

歩廊自体は大して短くない、20mほどの歩廊の終着点には厳重に締められた扉がある。
「はやくしなさい、何も逃げないけど私の気は変わるかもしれないのよ?」
急かされ石造りの歩廊を走る。歩廊の両脇は竹で固められていて、しかも水面を貫いて出ている。
青白い光はその水の中で輝いている何かが原因らしい。
水面には蓮が浮かんでいて、水はどこまでも澄んでいて、どこまでも透き通っていた。

上を見上げれば真円の満月が闇を穿つようにぽっかりと浮かんでいる。

不思議な所だった。


歩廊の終着点、つまるところ扉の前に着いた。

「ふふふ、感想は聞くまでもないみたいね。」
口元に手を当ててかぐやが笑っている、だがそんなことも気にならないほどに目の前の扉は存在感を持ってそこに在った。

「・・・・この先には?」
「行けばわかるんじゃないかしら?」
だが、扉には取っ手がなければ鍵穴もない。

木製の扉には、龍と玉、燃える衣服、貝、器、そして珍妙な枝、そして月が掘られている。
「?」
一見何のつながりもありそうにない6つの絵柄だが、かぐやの存在がそれら全てに関連をもたらす。

龍と玉は、大納言大伴御行が受けた難題「龍の頸の玉」
燃える衣服は、右大臣安部御主人が受けた難題「火鼠の皮衣」
貝は、中納言石上麻呂が受けた難題「燕の子安貝」
器は、石作皇子が受けた難題「仏の御石の鉢」
珍妙な枝は、車持皇子が受けた難題「蓬莱の玉の枝」

月は、かぐやの故郷を表しているのだろう。

「で、これは開くのか?」
「えぇ」
「流石に探せといわれても無理だぞ・・・」
「期待してないわよ」
かぐやが扉に手を添える、すると扉の境目が白くひかり・・・

「あいたわよ、押せば開く。」
そう言うとかぐやは脇に避ける、つまりこの扉を開くのは俺の仕事なのだろう。

扉は観音開きで、左右に分けられた一筋の線をまたぐように手を添える。
ぐっ、と力を込め、扉を押し開けた───



「ぁ─────」

扉の中は歩廊の脇よりも不思議な所だった

人工的な物は扉だけで、プラネタリウムのような場所。満天の星がすべて同じ方向に昇り、沈み、また昇っている。
足元は水、そう水の上に立っている、水の中では俺の理解の範疇をあっさりと越える巨大な生き物が泳いでいて、水の上を撥ねるように炎を纏った何かが走り回っている。

そして

俺の目の前には

水が小さな波をうって浮かんでいる、俺の腰ほど高さ浮いていて、目測直径2mほどの水の玉の中に。

見惚れるほどの美しさと、触ることも許されそうにない完璧さを併せ持った羽衣が浮かんでいた。


To be continued

あとがきとかそれっぽいもの
はい、五章突入です。終わりへ向けてまっしぐらです。
溯夜も一応死なない体になります、そんな予定です。

某所でやたら人気のかぐやもようやくDreamElementさんの方でお披露目となりました。

さて、今回のタイトルである「究極の真実〜ultimate truth〜」の由来は〜〜。「東方妖々夢 〜 Perfect Cherry Blossom.」ステージ6の道中である「アルティメットトゥルース」からもらいました、まんまですね。遊び心満天です。


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