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チーニの月緑いつつの日 ラキオス
────────Sakuya side
「ん・・・」
目線の先にはいい加減見慣れてきた木製の天井。
体を起こし、見渡してみれば見慣れたメイドの姿。
その見慣れたメイドは椅子に体を預け転寝をしている。
「ふぅ・・・」
再度体を布団に沈める。
「生きてたか、存外にしぶといな。」
腹部に手を当てるが傷はない。あの傷で以外にも俺は助かったらしい。
「どうせなら、空いた穴に手を入れておけばよかったかな。」
腹から手を入れ、背中から指先が覗くだなんて滅多に出来ることじゃないのに。
ガチャ
ノブが回され扉が開き、その音が来客を伝える。
「入りますよ」
「そういった言葉は入る前に言うものだぜ。」
すでに体を半分部屋の中に入れ、こちらを覗く形で入室してきた奴にてめぇの非礼さを分からせる。
「今後善処します、それよりも目覚めたのですね。」
俺には俺が目覚めたことよりも女王に礼儀がないことのほうが重大だと思うが。
「シリアも無茶をしますね、昼間の戦闘が終わったらエーテルジャンプでラキオスに戻ってきてあなたの看病。そして起きたらまた帝国に戻って戦闘。」
「埋め合わせはするさ・・・」
「必ずですよ？なんと言ったってこの私が保証人なんですから。」
「はいはい」
「シリアの埋め合わせは後々するとして、まずはこちらの埋め合わせをしていただきます。」
レスティーナが突き出したのはなにやら色々と書いてある活字のB4より若干大きいサイズの紙。
「今回あなたが行った命令違反についての文書です。」
そうらしい、成る程読んでみればそんなことが書いてある。
「ただで見逃すわけにはもちろん行きません。ですから、あなたには特命を受けてもらいます。」
え〜
「内容ですが、お昼を食べたら謁見の間に来なさい。それとシリアには休暇だと伝えて置くように。」
「はいはい」
◆◇◆◇◆◇◆
同日 食堂
「ちぇ、やっぱり昼飯作ってもらえばよかったな。」
「わたしはあんたに作ってもらって嬉しいけど？」
目の前には俺が作った昼飯の数々。
「うん、案外これ美味しいわね。こんな料理初めて食べたけど。」
そういってフォークで突き刺しているのは餃子、刺すなよ・・・
テーブルの上には他にも麻婆豆腐やら炒飯やらが乗っている、因みに食後のデザートにはアイス。リースが居ないけどまぁ、シリアにレシピも教えたしいいだろ。
「さっさと料理を片付けてデザートに入りたいわね。」
「太るぞ」
「大丈夫よ、運動してるから。」
ああそうかい
食事を終え、一時間ほどして氷室からアイスを取ってくる。
「へぇ、見れば見るほど面白いお菓子ね。」
突っつくな
「冷やして固めるって発想がすごいわね。」
さっさと食え。
「凍らしてるのに、氷みたいに硬くないし。」
美味いかどうかを言え
「確かにネリーが砂漠で食べたいって言うわね。」
だから・・・
「うん、甘くて美味しいわね。」
それでいい
◆◇◆◇◆◇◆
同日 謁見の間
「で、なんぞや。」
「あ〜？何言ってんだい、特別任務を言い渡すんだよ。」
とか言いながら手に持った書類を手の甲でバシバシと叩く天才様。
「それは知ってる、俺が知らないのは任務の中身だ。」
「そう急かすな、少しは任務の内容を想像してみろ。」
そうは言われてもな。
「高嶺の戦う理由を無くしてくるとか？」
「いい冗談だね、笑えない。」
「芸能活動はあきらめるか」
「ふぅ、ったく。任務の内容だけどね、ミスレ樹海最奥部の調査。」
「うわ、遠いな。」
「あぁ、そりゃ遠いさ、なんたって帝国の端っこだからね。」
やる気無くすな〜
『あなたにやる気があるだなんて驚きが第3宇宙速度を超えます。』
「それで、ミスレ樹海の奥に何があるんだ？」
「それなんだがね、そこには帝国で“守護者”と呼ばれているものが有るらしい。」
「あ〜？お前は知らないのか、帝国に居たんだろ？」
「生憎と私は知らないね、“守護者”が何なのかは全く知らない。」
「そんな得体の知れないものを調べるのかよ・・・」
「そうです、得体が知れないからこそ調べてもらうのです。」
ここで、玉座の裏からレスティーナ陛下登場。
「“守護者”が何なのか、生き物なのか、兵器なのか、それともただの偶像なのか。それすらも分かっていません。」
フロアと玉座を繋ぐ階段を降りながら続ける。
「ですが、今は大切な時期です、少しでも不安要素は摘んでおくに越したことは有りません。」
「俺が戦線から抜けることは？」
「大丈夫です、マロリガン戦でエトランジェが2名も加わりましたし。」
ちっ、どうしても俺をそんな地方に飛ばしたいのかよ
「因みに一人では不安なのでシリアも今回の任務にはついていってもらいます。」
「え〜、別に不安じゃないんだけど」
「お前が不安なんじゃなくて、私たちが不安なんだよ。」
「亜阿相界」
「ま、任務の内容は分かったね？」
「あぁ」
──────────────────────
チーニの月黒ふたつの日 ミスレ樹海最奥部
ミスレ樹海に足を踏み入れ、わたされた地図が意味を成さなくなってからはや2日。
「ったく、善意で付いて来てあげてるんだからもうちょっとしっかりして欲しいわ。」
シリアの小言を聞き続けることはや3日
「多分こっちであってるから、頼む文句言わないでくれ。」
俺の心が折れるまで後数時間。
「しっかし、なんだってこの樹海は磁石が聞かないんだか。」
お陰で方角は太陽と月、それと星でしか分からない。
しかも森が深いところになると空も見えないんだから困ったもんだ。
「だからこそ、此処に足を踏み入れることは帝国でも禁忌とされてたんでしょ？」
まぁ、そうなんだが
「それに一度引き受けたんだからしっかりと任務を全うしなさい」
もうちょっと楽な任務だとおもったんだがねぇ
地図を見てもはっきり言って訳が分からない、ミスレ樹海の全景を俯瞰で書いた地図のようだが、地図の右端にある《聖ヨト暦 13年 セレスタ著》と言うのがめちゃくちゃ怪しい、だいたい300年前の地図を持たせるなよ。
「はぁ、こんな所でこんな奴とご臨終？困ったわね、死ぬときはあったかいベッドで安らかに死のうって決めてたのに。」
わるうござんしたね
「文句言うな、多分そろそろきっと着くから。」
『頼りないですねマスター』
マスター・・・
『ご主人様の方がいいですか？』
溯夜でいい
『で、良いという事は、別にご主人様でも言いと過大解釈しますよ？』
溯夜“が”いい
『分かりました分かりました』
疲れる、なんだってねぇ
いや、まぁ俺の所為なんだけど。
「あんた、自分の所為だって考えてるでしょ」
「まぁね」
『普通は思ってても言いませんよ？』
俺は普通じゃないんだろ・・・
「元を正せばわたしが捕まらなかったら良いだけの話なんだから、そこまで考えることもないわよ。」
だが、道に迷った挙句、予定の4日を過ぎ食料が底をつきかけている状況で何も考えないわけにも・・・
「それに、目的地、あれじゃない？」
「ん？」
シリアが前方を指差す、木々の隙間からミスレ樹海の最北を表す絶壁が見える。
「あれ、だな」
そしてその絶壁の合間に全てを受け入れるかのようにぽっかりとどこまでも深く空いた穴があった。
同日 ミスレ樹海最北の守護者アレタスの洞窟
「お邪魔しま〜す」
言葉は軽いが手には『幽玄』をしっかりと刀の長さで握っているし、この声で洞窟の深さをある程度知る、という意味合いも込めている。
「・・・・ダメね、この洞窟かなり深いわよ。」
そのようです
「さて、どうしたもんかな」
洞窟の入り口に座り込み考える、話によるとこの洞窟の中に守護者とやらが居るらしいが、一体全体それが生き物なのか、兵器なのか、ただの噂なのかそれら全てが分からない状態だ。
「洞窟は此処だけじゃなくてもう一つあるのよ？ここでゆっくりしている暇はないんじゃない？」
まぁ、そうだけど
同日 ミスレ樹海最北 守護者リバイルの洞窟
────────a third party
「ここ、ね」
深い洞窟に場違いな少女の声が響き渡る、だが周囲の闇はその少女の声さえも飲み込み無限の中に突き落とす。
「此処でこれを殺したら、まぁロゥ側としたら仕事がしやすくなるのかしらね」
少女はどこまでも落ち着き、この場違いな雰囲気の中でも余裕を振りまいている。
「貴様、我を倒すとは大見得を切ったものだな」
そう、少女の前で荒々しい息を立て、緑の体躯を操る龍を前にして臆した雰囲気はどこにもない。
「何言ってるのかしら、あなたを倒すだなんて造作もないわ、あなたがどれほど強かろうとね。」
「ローガス眷属の龍、ねぇ」
少女は口元に手をやり、目の前の龍を値踏みするような目で見ている。
「これがローガスの身内なら、ローガス自身も大して強く無さそうね、というか眷属って一族とか親族とか腹心って意味よね？」
『ローガスはまさか本来は龍の格好！！ですかねぇ』
「むしろ、無限の剣を作り出す魔術使いなんじゃない？赤髪だし。アンリミテッド○○○○ワークス！！みたいな。混沌の異名もどんな剣が出てくるか分からないから混沌だったりしてね。」
「ふっ、我の前に現れた存在に此処まで侮辱されるとはな」
龍は少女の態度に腹を立てているわけではないらしい、だが、骨に膨大な量の筋肉が張り付いたような体に少女が抗う余地は見つかりそうもない。つまりは、余裕なのだろう。
「あら、ならその屈辱を抱えて死になさいな」
少女が手をあげ、指を
パチンッ
鳴らした
「なっ！」
驚愕の声は少女のものではなく龍があげたもの、それもそうだろう、指が乾いた音を立てるのと同時に自身の周りにそれは美しく夢の色に輝く弾幕が張り巡らされているのだから。
「さぁ、踊りましょうか」
少女の言葉が終わると同時に夢色の弾幕が龍に殺到する、全てが高密度のマナで形成された弾は、大弾から先の尖った鋭い弾までありとあらゆる種類の弾が天に輝く星のように散りばめられている。
「グオォォォォォォォォォ！！」
龍が咆哮する、口からは咆哮だけでなく、緑色のマナが濃縮されている。
カッ
龍の口が開かれ、そこからマナの奔流が流れ出す。
奔流は弾幕を飲み込み、壁のように犇いていた弾幕に風穴を開けた
「へぇ、やるわね、10点底上げしてあげる。」
少女が懐から一枚の札を取り出す、同時に大量の弾幕が消えた
「まさか使うとは思わなかったけど」
その札には意味不明な幾何学的模様が描かれている
その模様が黒色から青色に変化し、周囲のマナを吸い上げ、薄っぺらいたった一枚の紙切れの中で回し続ける。
「見せてあげるわ、月の力を」
札は青白く輝く光の玉に変化し、周囲の空気を膨大なエネルギーで強引に化学変化させる。
あまりの熱量を持った光の弾のお陰で洞窟内の空気が失われていく
「ふぅ、死んだらローガスによろしくいっておいて」
軽く溜息を吐く、まるで幸せが逃げることなど気にしないかのように
光の弾を起点に先程の龍の攻撃に似た奔流が繰り出される、たが絶対的に違うことはその威力、龍の攻撃とは比べるのもおこがましいほどのエネルギーを持った攻撃は、龍を一瞬にして消し飛ばし、洞窟の壁を溶解させ。
洞窟は二つの穴でつながるトンネルになった。
────────Sakuya side
「ん・・・」
遠くでかなりでかい気配を感じる、だがその気配も遠すぎたのかどのような物なのかまでは分からない。
「不味いわね、さっきの気配、距離があったから詳しくは分からなかったけど力はかなりのものよ。」
「むぅ、さっさと調査を済ませて帰るか」
「それに限るわね」
洞窟は予想通りかなり深い、ランタンを持ってきてはいるが心もとなさすぎる。
「暗いわね、もっと効率よく明るく出来ないのかしら？」
シリアの意見も最もだが、壁を見ても燭台があるわけでもない。
「無理いうなよ、今はこれで我慢するしかないって。」
ランタンの油は今まで一度も使ってこなかったから十分な量がある。
足場はごつごつして良いとはいえない、洞窟の壁は湿気で濡れている。
洞窟の所々に大きな鍾乳石が軒を連ね、この洞窟がどれだけ昔から荒らされてなかったのかを物語っている。
「・・・本当に何かいるのかねぇ。」
「どうかしらね、この様子をみたら大きな物が動いた形跡はないけど。」
シリアが近場の鍾乳石に触れながら俺の意見に答える。
「ん〜、だいたい調査ってどれくらいの事をすればいいんだ？」
「さぁ、何か有ればそれについて調べる、でも何もなかったら何か見つかるまで調べるって事じゃないかしら？」
「なってこったい」
「・・・・何か、有りそうだな」
洞窟は今まで変わって壁はならされごつごつした岩肌から滑らかな壁になっている。
地面も長方形の石を敷き詰めた床になっている。
「そう、ね。流石にこんなものが自然に出来るとは思えないし」
壁には燭台があり、見つけるたびに一個ずつ灯していった。
「・・・・終わりか？」
かなり歩いただろう、洞窟の果てには大広間が待ち構えていた。
「あれ、ね。調査対象は」
ショッピングモールの駐車場はあろうかという巨大な広間には俺たちが来る前から明かりが灯されていて、俺たちの正面に今まで見た中で一番力を感じる龍が尾を巻いている。
「何のようだ」
龍は小さく目を開きこっちを睨んでくる
「調べ物」
「そう、か。ここで何を調べる、イレギュラー」
「・・・・へぇ、寝てるだけとは違うんだな。」
「当然だ」
「此処に有る中で一番怪しいのはお前だろ、調べるのはあんただ。」
「ぬかせ、貴様のような存在は予定にない」
「そりゃないだろうさ、イレギュラーってお前も言ったじゃんか」
「ふん、ローガスもこういったことはしっかりと報告してもらいたいものだな。」
ローガス・・・なんだ、こいつらの上官かなにかか？
「で、俺はどうなるのかな？」
「・・・死ね」
突如龍は翼を広げ、口を開き、お得意のアイスブレスを吐いてくる。
「っと、その程度で当たるわけ」
その攻撃を俺は右に、シリアは左にかわす。
「ちょっと邪魔だな」
荷物を部屋の脇に置き、改めて『幽玄』を握りなおす。
「ふむ、イレギュラーとは言え侮れんな。」
龍はその重そうな体躯を持ち上げ、二本の太い足で地面に立っている。
「・・・・さて、どうしようかな。」
正直勝てる気はしない、ここは逃げるのがベストだろう。
「逃がすと思うか？」
「いや、思わねぇ」
龍の咆哮を左右にかわす。
今までの龍なら攻撃の後に隙が出来るのに、この龍は絶え間なく攻撃をつづける。
「チッ」
上着の裾が攻撃で焼け焦げた、冷気を纏った攻撃なのに焼け焦げるとは何事かと
「ほとけには 桜の花を たてまつれ──────
我が後の世を ひととぶらはば───────」
今のまだと俺の攻撃は龍に当たらない、俺には遠距離攻撃なんて便利な物は持ち合わせていない、ならこうして魔法を使うしかない。
シリアにまかせっきりなんて俺が許さない
「む」
俺が神剣魔法を使うことが分かったんだろう、龍は身構えているが一向に何かが起こる気配はない。
元々不意打ちするために編み出した神剣魔法だ、そんな簡単に気付かれてたまるか。
俺は『幽玄』を振りかぶりいつでも振り下ろせる状況にしておく、そうすることで龍の注意を引き
「乱界紅蓮華（レギオンスカーレット）」
一足で間合いを外し、シリアの場を作り上げる。
どうせこの技も俺がいたら出せないんだろう。
シリアの指から放たれる無数のナイフが、円錐の形をとり長大なスピアを作り上げる。
等しい速度で龍に殺到するそのナイフは、気付かなかったが龍の正面左右斜め後ろの、計三つ。
それら三つの魔槍が狂いなく確実に龍に当たる。
「グォォォォォ！！」
『幽玄』を握り、目の前の空間を斬る。
空間に入った切れ目から、無数の花弁が迸る。
続けざまに4回切れ目を入れる。
どうせ長持ちしない技なんだから今のうちに打てるだ───
ゴッ！！
────────Ciliya side
「サ、クヤ？」
わたしが攻撃した後溯夜が前線に出て、わたしは後方支援に徹する予定だった。
だから、こうして壁際でナイフを片手に龍を睨んでいる。
つまり、溯夜は前線であれと戦ってもらわなければいけないのに
なんで
わたしの横で
血まみれになって
倒れているんだろう？
別に答えは簡単、溯夜が龍を正面に捕らえたときに攻撃をモロに喰らったから
わたしの頭の冷静な部分が答えをはじき出す
はっきりいってあんまり認めたくない現実なのに
生きている確立は・・・
知りたくないことまで勝手に計算してくれる
「ち、ちょっと！！」
頭を左右に振り、無理やり計算を中断させて溯夜に駆け寄る。
「ぁ、ぅ…」
よかった、何とか生きてるらしい。
「ちょっと待ってなさい、さっさとアレ、倒してくるから。」
立ち上がり、両手にナイフを構える。
「ふ、エトランジェも戦えなくなった今、貴様が何人寄ろうと敵ではないわ。」
「言ってくれるわね」
「──ぁ──ゃ───」
溯夜が何か言いたそうにしているけど、口から出るのは言葉よりも血のほうが圧倒的に多い。
「下手に喋らなくていいから、ゆっくりしてなさい、さっさと倒してくるから。」
言っても無駄なのは分かっているけど、自分に言い聞かせる意味でも喋らずには居られなかった。
「か弱き妖精よ」
「何？」
「何故人間をかばう」
「・・・そんなこと」もっと別の事を聞くかと思ったら
「妖精は人間に虐げられ生きるものだ、本来ならそこに倒れている人間など見捨てて逃げるものではないのか？」
まぁ、もっともだけど
「そりゃ、どこにでもいる普通の人間なら放って逃げるわよ。なんだかんだ言って自分の命が一番だからね。
けど、こいつは別、ちょっと位危険を冒してもいいかな、って思うもの。」
「魅了されたか妖精よ」
「そうかもね、でも悪い気分じゃないわ。」
とりあえず、溯夜から離れないと、このままだと巻き添えを食らわせる
「そうか」
言葉と同時に龍の口から青色の閃光が迸る
距離さえあいていれば避けれない速度の攻撃でもないし、何より遠距離はわたしの独壇場。
龍の攻撃を紙一重で避け、手に持ったナイフを龍にむけ投擲する。
ナイフは狙ったところに、予想したタイミングで、シミュレート通りのダメージを与えた。
「どうしたの？」
攻撃の手は緩めない、今なら一人で帝国も落とせそうなぐらい気分がいい。
「えらそうなこと言っておきながら」
わたしに攻撃は当たらないのに、わたしの攻撃は外れない。
「体中ナイフだらけじゃない」
「グオォオォォォオォォォ！！」
龍が咆哮を上げ、天井に向けて光線を放つ。
それだけで天井は抉れ、岩盤がとめどなく落ちてくる。
視界は落下してきた岩や、その過程で舞い上がった砂埃で満たされる。
「ちょっ、無茶するわ───」
煙幕を吹き飛ばし、突如目の前に現れたのは見間違うはずがない魔龍。
ナイフを構えようにも近すぎてどこを狙えばいいか分からない。
突然目の前に現れた巨大な龍は、岩肌もパックリと切り裂けそうな右腕を振りかぶる、そして、その振りかぶられた長大な鉤爪を避ける手段がわたしには────ない
「がっ」
地面を面白いように転がり、壁に激突した。
「右手と左足、あと肋骨も何本か折れた、か」
最後の慈悲なのか、わたしが飛ばされたのは溯夜の隣。
「ふん、妖精など所詮その程度の実力か・・・」
もう、何も言い返せない
「力がないのに守ろうとする者は周囲を不幸にする、弱者は弱者なりにおとなしくしていれば言いというのに。」
情けない
頭を傷つけたらしく、目に血が入ってくる。
「ちょっと・・・」
「・・・・無様だな。」
視界が自分の血で真っ赤に染まる、手を上げて血を拭う力もないみたい
目の前は真っ赤で、目の前に居るはずの溯夜も見えない。
「サ、クヤ」
唯一動く左手に精一杯力を込める。
「・・・・情けだ、これ以上苦しまぬように、逝け。」
近くで巨大なマナが形成されるのを感じる。
左手にやわらかい何かが触れる。
「ぁ」
視界が暗転する、感じるのは左手に握る溯夜の右手。
「殺すのは惜しいが・・・・式が乱れるのは避けねばならん」
そこで、わたしの、意識は、途切れた
To be continued
あとがき
主人公また負けた、ヒロインも惚気が入ったような入ってないような。
まぁ、負けるときは負けます。タキオスと戦ったときは相手に油断があったと思ってくだされ。
４章も残り１話となりました。いや〜、実に短い。
タイトルの元ネタはケロQの朝霧嬢のあの台詞です。まぁ、若干の差異はありますが。
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