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マロリガンとの戦争が終わった、同時に帝国との戦争が始まった。
まあ、当然の流れな訳だが。

ルカモの月 緑ふたつの日 城下町
「えらい待遇の違いだな。」
数ヶ月前とは打って変わって今では町の人間に白い目で見られることは無い。
子供の反応は特に顕著で、高嶺や碧達が腰に下げた剣をべたべた触られているのを見たときは実に微笑ましく思い、同時に俺の神剣が小型化できて本当に良かったとも思った。

だが──

「なぁなぁ!!兄ちゃんって神剣の・・・」
この手のガキは今に始まったわけではない、顔は割れているのだから神剣を下げてなくても見つかることはある。
大体敬称に様を付けるのなら敬語を使え

「俺、強くなりたいんだ!!」
適当に口舌述べた後大抵のガキはこう続ける。一番多いのは家族を護りたいって奴。
「どうやったら兄ちゃんみたいに強くなれるんだ?」
そして必ずこう続ける、まるでコナミコマンドのように連発してくる。(あれ?

「あ〜、強く・・・ねぇ。」
はっきり言って飽きた、最初は面白かったが、そんなの最初だけだ。
『子供嫌いですねぇ、あなたにもこんな時期があったのでは?』
目の前の子供は小学校高学年くらいだろう、この頃なら俺は既に殺人鬼だが?
『そういえばそうでしたね、ですが一人殺した程度で殺人鬼ですか?』
数の問題じゃないだろ。
『ふむ・・・っと、この論議でも暇を潰せますが、今は前の子供を相手にしてやったらどうです?』
・・・仕方ないか。

「強くなるには」
「うん、うん」
煩いな、少しは静かにしろよ。
「実戦経験あるのみ、なんだが、無理だよな〜。」
『戦場に連れて行ったらどうです?』
無理だろ、5秒と生きれない。というか邪魔だから俺が殺す。
「毎日腕立てとか剣の素振りとか適当にやってればいいんじゃねぇの?」
実に適当な返事、第一この国にはまともな剣術を使う人間は全部スピリットの育成に回っている。
「それで、兄ちゃんみたいに強くなれるのか?」
「・・・お前次第だ」

今までのガキはこうしてあしらってきた、今回も同じ。
『パターン確立ですね。』
基本だな。

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エハの月 赤みっつの日
今日は、何でも黒化したアセリアをどうにかするため帝国領内に侵入した高嶺を迎えに行く日だったりする。
「さて、確かこのあたりだったかな。」

高嶺を迎えに行くメンバーはくじ引きで、俺とエスペリアとセリアになった。はっきり言って俺はあんまり気が進まなかったが、碧と岬がかなり行きたそうにしていたので、喜んで引き受けた。
『性格悪いですねぇ』
褒め言葉にしかならない

「サクヤ様、あれでは?」
「ん?」言われてエスペリアの指差した方向を見る。

「ん、そうみたいだな。」エスペリアの白い指の向いた方向には、何故か高嶺のワイシャツを着たアセリア、俗にいう裸ワイシャツという奴だな。
その隣で生まれたときの姿の高嶺、捻りも何も無い。

「やれやれ、あの格好では前の晩に何があったか良く分かりますね。」
「確かにな、まぁアセリアに感想を聞けばいいだろ。」
「サ、サクヤ様!!」
顔を真っ赤にしてエスペリアが俺の名前を叫ぶが、はっきり言ってその様子で聞くなといっても説得力がない。



「で、高嶺君よ、随分な格好だな。」
気付かれないように、抜き足差し足で二人に近づいて、突っ込みをいれる。
「なっ、黒霧!?こ、これは・・・」
「あ〜、言わなくてもいい。お前は何も言わなくてもいい。」
そういって高嶺から視線を外し、アセリアと向き合う。

「で、アセリア、昨日の晩はどうだった?・・・いや、質問を変えようか」
いかにストレートに直接的な言葉を出さずに聞きだせるか。
「きもちよかったか?」
『あなた様少しの変化球も有りませんね。』

「ん、きもちよかった」
「ア・アセリア!!」
「母さん!!今晩は赤飯だっ!!!」
エスペリアを指差し言い放つ、いやぁ、予想通りとはいえ、いやはや。

「ちょ、黒霧。」
「で、高嶺はどうだったんだ?」
「え」
「ほら、気持ちよかったのか?」
「そ、それは」
高嶺は顔を真っ赤にさせ視線をあっちへこっちへ移す、やばいもすぬごく楽しい。

「なに?気持ちよくなかったのか?」
「そ、そんなことは・・・・あ」

「ユート、気持ちいいって言ってた、溶けちゃいそう、とも言ってた。あそこの湖の中で・・・」
「ほうほうほうほうほう、初夜は屋外ですか。なに?君は気持ちよければ場所は選ばないタイプ?」
「そ、そんなこと、ただ今回は・・・」
どんどん墓穴を掘っていくな、こいつ

「ほう、ということは出来れば室内でこっそりと二人の愛を育みたかったという事か、いやぁ紳士だねぇ。」
『紳士なんですかねぇ・・・』
「でも今回はたぎる欲望が抑え切れず屋外でアセリアとやってしまったわけか。」
「う・・・」
「ユート私を抱き上げて、こう・・・」
「だぁぁぁあ、アセリアっ止めろぉ!!」
「ふむふむ、立位か・・・」
「サクヤ様!!」

かくしてラキオスに帰還した高嶺とアセリアには俺がこれでもかっ、って程の赤飯を振舞った。

──────────────────────

ルカモの月 赤よっつの日 法皇の壁外側
帝国との戦争状態に入ったのは周知の事実、そして目の前の面倒な壁を突破しなければならないのは前線に居るものだけが被る面倒な事実。
壁付近ではどうしても敵側に有利な展開となってしまうため、ケムセラウトと壁の間を補給のために何度も往復する事になるのはご愛嬌。

門は硬く閉ざされ、押しても引いても開きそうにはない。
「飛び越えれないものかしらね。」
シリアが実に楽な方法を提案するが、そんなものがあるなら苦労はしない。
ウィングハイロゥで飛ぶことも出来るが高度が出ないため壁を越える前に撃墜されるのが落ちだろう。

「それよりも穴を掘るほうが現実的じゃないか?」
「かかる時間を考えたら現実的じゃないわ。」
結局正面突破が唯一の手段。

今、前線に出ているのは元イースペリア組、エスペリア、ウルカ、セリア、ハリオン、ネリー、ナナルゥの9名。他は全員補給のために帰った。
「溯夜さん、どうするんです、ここで主力の帰りを待つんですか?」
殆どいつも行動を共にする仲間のリースが尋ねてくる、表は少し欠点の目立つ可愛い系だが、暗黒面は計り知れない。

「そうだな、でもこのメンバーで攻めるのはなぁ。」
エトランジェ3人がかりで陥落しなかった外壁なのだからこの9人で陥落するとはあまり思えない。
「しかし、このまま待ち続けていては敵に補給の合間を与える事になりませんか?」
第2詰所では皆のまとめ役に徹するセリアが尤もな意見を出してくる。

「けどなぁ、どうにかして敵を砦から燻り出せないものかねぇ。」
砦の中だからこそ地形の把握が出来ていないスピリットは不利になる、スピリットは基本的に正々堂々正面向き合って騎士道精神丸出しで殺しあう。
俺のようにせこい戦い方は出来ない、つまり不意打ちにスピリットはめっぽう弱い。

俺一人で行ってもいいが、逆に奥に呼び込まれて罠に嵌ったら二度と笑えない。
結局正面切ってぶつかり合うしかない、地の利を弾き返すほどの圧倒的実力で押し切るしか今現在あの門を突破する方法はない。

「溯夜、なにか来るわよ。」
シリアが何かの気配を察知したのか警告を促し、視線を門の方向に向ける。
他のスピリットは気付いていないが、シリアの言葉で剣に手を置きいつでも戦闘態勢に移れる。
初手は俺とエスペリアとセリアの3人で切り込み、残りのメンバーで殲滅する。というのが事前の打ち合わせで決まっていた戦略。

戦略どおりの布陣を取る、同時に門の上空に黒い点が見える。
その点はすぐに大きくなり、ウィングハイロウを持ったスピリットの部隊であると気付くのにさほど時間は必要なかった。

「ふふふ、これはこれはラキオスの皆さん、というわけでもないようですね。」
地上に降り立ったスピリットの中から一人の男が現れる、男の服装は裸の上にコート
「変態に用はないぞ。」
是非ともお帰り願いたい、こんなものを直視していられるほど俺の網膜は衝撃に強くない。

「これはこれは饒舌なエトランジェ様ですね」
口調も気色悪い、服装と口調の二重苦、目に納めるだけでダメージを負うのだからたちが悪い。

「ソーマ・・・」
ウルカが恐らく変態の名前であろう、を呟く。
「ん、知ってるのか?」
「はい、帝国でスピリットの育成と士気に携わっている男です。」
「まさか帝国を追われたあなたがこうして私に剣を向けるとは。」
変態は悦の入った笑みを浮かべ、必要以上に演技の入った台詞を述べる。

「で、何のようだ変態」
「今回は預けた物を返してもらいに来ただけですよ。」
「変態に預かった物はない!!」
というか初対面だし

「エスペリア、分かっていますね。」
は?
横を見ると真っ青の表情でがくがく震えている普段の様子からは考えられないエスペリア嬢。
「ソーマ、様・・・」
様!?

「エスペリアは元々私の物なんですよ、なので返してもらいに来ました。」
変態はさも当然のように言うが、変態なので信じられない。
「あ〜、そう。帰れ。」
シッシッ、と手を振り帰宅を促す。はっきり言ってあんな精神的放射能を視界に納めるだなんて許されない。

「えぇ、帰りますよ。エスペリアを連れてですが。」
そういうと側近のスピリットが3体飛び出してくる



どのスピリットも3歩目で額にナイフが刺さって死んだ。

「エスペリアが連れて行かれたら給仕が一人減るじゃない、その皺寄せはわたしに来たりするのよ?その辺ちゃんと考えて物を言って欲しいわ。」
シリアが憮然と言い放つ。お前こそもっと物を考えて物を言え。

「そうですか、あなたが大陸唯一の遠距離型永遠神剣『夜光』の担い手のシリアですか。」
「・・・・・」
シリアの事を知ってるか、帝国の情報能力を甘く見たかな。
「えぇ、だけど生憎あなたみたいな変態はお断りよ。他を当たって頂戴。」
「ふふふ、いいですねその態度と容姿。多少なり反発してもらった方が良いというものです。」
変態の思考は理解できない・・・こともないかもしれない。

「あのさ、帰るのか帰らないのかはっきりしてくれない?」
そうだそうだ、いい加減帰れ
「言ったでしょう、エスペリアと連れて、と。」
再度スピリットが3体突進してくる、シリアのナイフは体を左右に揺らすことで避け。止まる事無くこちらに向かってくる。

エスペリアは、期待できない。セリアも敵の実力から言って危ない、か。
「仕方ないか」
面倒だが8人を任された以上一人の欠員も認めない。
なら俺が出るしかない、切り込みの3人の内二人がダメなら残りは俺だけ。
セリアにエスペリアを任せ、シリアとウルカに俺を抜けたスピリットの処理を任せる。


敵は目の前といっても何らおかしくないところまで詰めてきている、剣を抜く余裕もない、か・・・

初手は決まった、目標も中心の一体、あとは突撃するだけ。
体を小刻みに振り、不可視の走行で───

ドッ!!
右手を突き出し眼前のスピリットの鳩尾に抉りこむ、休む間もなく左足で体勢を崩し、斜めに倒れていくブルースピリットの頭蓋骨をマナで強引に強化した左手で打ち砕く。
実に嫌な感触と音を残して青のスピリットは消えていく。

左右のスピリットが進行方向を変える、標的を俺に定めた左のスピリットが居合い抜きの体勢を取る。
ブラックスピリットの握る刀は鞘の中で今か今かと爆発を待ちわびる、時間的余裕はやっぱりない。

刀が鞘から抜き放たれようとする、鞘を滑走路にして神速の太刀が生み出されようとする。
ブラックスピリットの得意とする居合い、はっきり言ってなんでアレを不意打ちに使わないのかすごく疑問だ。速すぎて見えないんだから不意打ちを狙えば殺傷力は跳ね上がるだろうに。

刀身をきらめかせる事に歓喜すら感じるほどの刀だが、神速の刀を抜くための右手は俺が上から押さえつけ、ピクリとも動かない。

ブラックスピリットは一瞬にして目の前に現れ、しかも刀を押さえつけられた事による驚愕で目を見開く。

刀は右手で押さえたまま左手にナイフを持ち。

服の上から心臓を貫いた。


ブラックスピリットの消滅を確認し、後ろを見ると、体中を切り刻まれ、しかも体中をナイフで串刺しにされたスピリットが消えていくのが見えそうだった。

つまりは、殆ど消えかけていて、虚空に伸ばした手にナイフが突き刺さっていたこと。ウルカが刀を構えていた事による俺の勝手な想像。

「・・・・強い、強いですね」
「お前のところのスピリットが弱すぎるのさ。」
「・・・ふふ、そうかもしれませんね。流石に新参ばかりで来るのは失策でしたね。」
変態はスピリットを呼び集め。

「エスペリアは又の機会にしましょう、それと他はどうでもいいですがその銀髪のスピリットは気に入りましたよ。 いずれ頂戴にあがります。」
「わたしはお断りっていってるのにこれだから変態は・・・」
変態は聞くに堪えない置き土産を残して門のほうに消えていった。


その後高嶺たちが帰ってきて、総力戦で門に挑み結果リレルラエル陥落に成功する。
エスペリアの異常は高嶺に任せ、情報部にソーマについて探るよう促し今日は終わった。

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チーニの月 緑みっつの日 リレルラエル
法皇の壁を突破したラキオス軍はリレルラエルを起点にゼィギオス、サレ・スニル、ユウソカの各3都市を攻略しなければならなくなった。
との説明を高嶺から受けている会議中。
「三都物語、素敵ね。」
実に的外れな事を言うメイド。

会議のメンバーは高嶺、エスペリア、俺とシリアそれとヒミカの5人。新参エトランジェの二人は現在見回り中。
「情報部から降りてきた情報によると、ソーマ隊っていう精鋭部隊が近くで動いているらしい。」

あの変態か・・・手元にはいろいろと資料がある、だがどれも要領を得ない情報で信憑性に欠ける物ばかり、帝国の情報操作はかなり徹底されているらしい。

エスペリアの顔が若干曇っているようにも見えるが、俺の視線に気付くとすぐに顔を直した。

「出くわしたらかなりの苦戦を強いられると思う、十分注意してくれ。」
『シンボルエンカウントでもないのにどうやって注意しろと言うのですかね?』
シンボルエンカウントって・・・ そりゃ、落石注意って看板位どう注意すればいいのか分からないのは事実だけど。

「ユート様、こんなものが。」
突如外からヒミカが入ってくる、手にはどうも紙切れが握られている。
「・・・分かった、持ってきてくれ。」
高嶺がヒミカから紙切れを受け取り、見る。どうも、手紙らしい

「黒霧──」
高嶺が俺の前に恐らく“読め”という意思を込めて紙切れを差し出してくる。

紙切れを受け取り、広げ、短い文面を黙読する。

“偵察中の二人組みのエトランジェを捉えました。二人の身の安全を確保したければ、エトランジェ二人だけで、1時間後にそこから10km西に移動したところに来なさい。”

たった二行の文面、しかもめちゃくちゃ怪しい。

「黒霧、どう思う?」
どう思うも何も怪しいとしか言いようがない。
「そう、か。」
大体あの二人が捕まるなんて考えにくい、それにこの手紙には二人の確保を裏付ける証拠がない。
「けど、万が一を考えると。」
「ま、確かに痛手だな。エトランジェが二人も敵の手に落ちたとなると。」

「ユート様、どうするのですか?」
「どうするもこうするもない、二人を助けに行く。」
「やれやれ・・・」つまり俺も行かなきゃダメか。


同日 リレルラエルから西に10kmの空き地
高嶺と二人で手紙に指定されたところまでゆっくりと進む。
というか高嶺には一歩進むごとに余裕が無くなっているようで、歩幅は広くなり、一歩一歩の間隔も短くなっている。

「そんな焦るなよ、まだ20分は余裕があるぞ。」
むしろあの二人よりも残した皆のほうが心配だ、いくらなんでもこんな───
「少しでも早いほうがいいだろっ!!」
やれやれだ。

森の中に切れ目が見える、恐らく森の一部を切り出したかのように広場になっているのだろう。
広場には確かに神剣の気配がある、大きいのが二つ・・・二つ、か。
まず高嶺が広場に飛び込み

「悠人!?」
「悠!!」
「え、今日子・・・それに光陰?」
見間違いようがない目立つ二人組み、新参のエトランジェ碧と岬。

数瞬の硬直の後・・・
「え、私達変な手紙であんた達が捕まったからここに来いって・・・」
岬は本気で困惑している、偽者とは思えないし嘘を言ってるとも思えない。つまり───
「───」

──────────────────────

10分後 リレルラエル
高嶺たち3人を置いて全速力で戻ってきた。

「・・・・・・」
「溯夜さん・・・」
ちっ・・・
臨時の詰所は半壊状態、立て直した方が安くつくだろう。

「溯夜さん、すいません────」
「リース、大丈夫か? 腕、怪我してるだろ。」
「ですが・・・シリアさんとエスペリアさんが・・・・」
やれやれ、面倒な事になったな。

「裸の上にコートを着た人に・・・」
あの時警備でリレルラエルに居たのはリースとヒミカとネリシア姉妹とシリアとエスペリア。
「大丈夫だ、まずは怪我を直さないとな。」
とは言っても今グリーンスピリットは一人もいない、電話なんて便利なものもないのでとりあえず手近な布で止血をする。

「サクヤさん・・・」
後ろの扉からヒミカとネリシア姉妹が入ってくる、三人とも体のどこかに怪我をしているが、どれも治りかけているところを見ると余計な手を加える必要は無さそうだ。
「やれやれ、しばらくしたら高嶺たちも戻ってくるだろ。それまでちゃんと待ってろ。」
「はい・・・」

「よし、こんなもんかな。」
最後に布をきつく縛りリースの止血は終了。
「・・・・さて、と」
次は───


────────Yuto side
「お、おい、どういうことだよ!?」
指定されたところに行ってみれば捕まったはずの今日子と光陰が居た、それを見た黒霧は一目散に帰っていった。
突然いろんなことが起こりすぎて何がなんだか分からない、今日子もそんな顔をしている。
理解が追いついているのは光陰だけのようだ

「いいか、俺たちは偽の手紙で呼び出された。しかも同じ場所にだ。」
それは分かる、だから今黒霧の後を追ってリレルラエルに向かって帰っている。
「つまり、俺たちははめられたんだよ。主力の4人を他所にどけておいてその間に強襲をかける。そうすれば小さな被害で確実に俺たちの戦力を削ぐことが出来るって考えたんだろ。」



リレルラエルが見えてきた、街は俺が出て行ったときと何ら変わりは無い。
だが、リレルラエルに仮設営した詰所は窓が割れ、玄関の扉はもぎ取られている。

「皆ッ!!」
傷だらけの廊下を走り、リビングの中に飛び込む。

「ユート様・・・」
リビングにはヒミカとネリーとシアー、それと腕に布を巻き床に座っているリース。

「あれ、黒霧は? それにエスペリアとシリアさんは・・・」
リビングには居ないのだろうか、町の被害状況でも・・・
「先程サクヤ様は出て行かれました・・・ それとエスペリアさんとシリアさんは」
・・・ヒミカの言葉が詰まる、誰が聞いてもこの状況でいい返事は期待できない。

「ユート様が注意を促した人物に連れて行かれました。」
え・・・
「なるほど、確かに二人を誘拐するなら俺たちは邪魔だな。」
光陰が遅れてリビングに入ってくる、今日子はその後ろについてきている。

「すいません、私の所為で・・・」
リースが目に涙をため、拳をきつく握り締めている、その拳からは血も滲んでいる。
「何があったんだ?」
光陰が腰を落としリースと同じ目線になって話しかける。

「それが・・・」





「そう、か」
話によると俺と黒霧が手紙で詰所を空けた直後に襲ってきたらしい。
エスペリアとシリアさんが善戦していたが、リースが人質に取られ、リースと引き換えに二人の身柄を捕らえた。
そしてその後トーン・シレタの森の方に飛んでいった、と。

「先に溯夜さんが帰ってきて、私の腕に治療をした後またすぐに詰所を。」
「黒霧の奴一人でどうにかなると思ってるのか?」
光陰が俺を見ながらあきれた声を出す、どうも俺も光陰の中では一人突っ走る人間にカテゴライズされているらしい。
「とにかく、黒霧を追いかけないと。」
「待て、悠人。今の状態で行っても返り討ちにあうだけだ、ラキオスと連絡を取って十分な戦力を揃えないと黒霧どころかエスペリアとシリアも助けられない。」
確かに、ラキオスからの情報によるとソーマ隊はかなり強い。いまリレルラエルに居る戦力で攻めても勝てる見込みは多くない。

「幸い悠人はヨーティアと連絡が取れる、大きな作戦の前に休暇をとっている皆には悪いがあつまってもらうしかない。」
光陰が淡々と話を進める、俺にはないここぞと言う所での冷静さ。
「・・・わかった、メンバーがそろったらトーン・シレタの森に出発だ。」

◆◇◆◇◆◇◆

同日 深夜 トーン・シレタの森 ソーマ隊の砦
────────Sakuya side
「さて、まさかこんなものがあるなんてね。」
目の前には小規模とはいえ城といっても間違いではないほどの規模を持った建造物。
細い窓から、侵入者を拒む強固な門、城の名に恥じない完全な兵器として砦はそこにあった。

『ですが、こんなものが本当にあったとは驚きですね。』
確かに。この世界ではスピリットが戦う以上戦略兵器なんて物は意味がない。
市街で戦闘が行われるため、城も所持者の権力の象徴に成り下がる。
だが、目の前の城は間違いなく侵入者をより効率的に、より確実に殺すために特化している。城というより要塞と言ったほうがイメージしやすいかもしれない。

「・・・・スピリットだけじゃなくて人間も居るんだな。」
見回りはむしろ人間の方がやっている。
『そうですね、スピリットに全て任しているわけでもないんですね。』
「まぁ、人間なんて数の内に入らないか」

「それで、この中に居るのは間違いないのか?」
これだけの要塞を用意しておきながら囮ってこともないだろうけど。
『居ますよ。敵スピリットの気配は上手いこと隠せているようですが、シリアが普段以上にマナをばら撒いているようなので。』
つまり、気付けと
『そうですね。』
「なら、助けに行くか。」
『ではどうするんです?』
「そりゃあ、正面から堂々と────」


To be continued

あとがき
さて、4章アップとなりました。ソーマが出てきたり、ソーマに攫われたり、ソーマの砦に攻め入ったりとソーマ盛りだくさんです。2話も同時アップなのですぐに読むもよし、もういいやつまんね、と思って読むのを止めるのもまた良し。でも、出来れば読んでほしい。


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