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アソクの月 青よっつの日
ラキオスとマロリガンとの会談が実現したのは実に女王即位から2ヵ月後。
この日のためにレスティーナ女王は数々の尽力を尽くしてきたが。

◆◇◆◇◆◇◆

マロリガン共和国 応接室
「では・・・我々との同盟は結んでいただけないと?」
「若き女王よ、現状を打破するには、必ずや戦いが・・・・・・それも大きな戦いが必要だ。」
「和平はないと?平和への努力はしないと言うのですか?」
応接室でにらみ合う二人の人間。

「平和とは、戦争が起きていない状況の事を仰せかな?今までように、戦争が起きるまで事態を長引かせることが和平への努力だと?その結果が、かつてイースペリア国内とダーツィ大公国の緊張状態が引き起こした〈呪いの大飢饉〉ではないのかね?」
レスティーナの言葉を全て弾き返す、マロリガン大統領。

「・・・・原因は別にあるのです。」
その全てを一身に受けさらに説得を試みるレスティーナ女王。
「ほう、その原因とは?」
「むしろ、エーテル技術がすべての根源問題でしょう。エーテル技術に頼り、スピリットに頼るかぎり、〈大陸〉に平和はありえません。」

「面白い事を言う。ラキオス王国は、スピリットの軍事力によって、北方を統一したのではないかな?それに、エーテル技術を捨てて、何を得ようと?」
大統領がレスティーナの後ろに控えているスピリット+俺に向けられる。
何で高嶺じゃなくて俺を連れて来たのか甚だ疑問だ。

「恒久平和です。」
「それはすばらしい!だが、あいにく私はロマンチストではないのでね」
むさいおっさんににらまれるのも癪なのでマロリガン側のスピリットを睨みつける。

「実現できるはずです。自分達の業を見つめ、罪を背負う覚悟さえあれば───」
マロリガンのスピリットは俺に睨まれるとすぐに肩に力が入り、手が剣にかかろうとする。
惜しいな、あと少しで剣を抜いてくれそうなんだけど。

『こんな所でスピリットと戦ってどうするのです。』
どさくさにまぎれて大統領を。
『止めておきなさい。』
ちっ。

「立派な心がけだが、その覚悟を国民に強いるのはいかがなものか?国民達は、豊かな生活を望んでいるだけなのですよ。」
「そのエゴが、この事態を招いたのです。このままでは、人間の肥大した欲望は〈大陸〉全土を包み込み、我々は滅亡してしまうでしょう。誰もが痛みを等しく味わわなければならなりません。
誰かに痛みを押し付けることで、誰かが幸せを得るようなことではダメなのです。」
「そんな子供じみた理想論で誤魔化したりすれば、いずれ国民の信頼を失ってしまう。」
「世襲制だから信頼はなくなっても大丈夫だろ?大統領じゃないんだからな。」
あ、失言。

「そこのエトランジェはなかなかに政治を分かっているようだな。」
「いや、常識だろ。」
「ふ、そうか。」
大統領は軽く笑みをうかべ
「それで、エトランジェ、君は女王の仰せられる事をどう思う?」
「別に、確実なのは人間くらい俺なら指を曲げるくらい自然に殺せるって事ぐらいだな。」

「そうか、血気盛んなエトランジェだな。」
「マロリガンのエトランジェは知性に溢れ、冷静なのかな?」
「・・・・・」
大統領がこちらをいっそうの迫力を込めて睨んでくる。
「おぉ怖い。」
「サクヤ!!貴方は少し退室しなさい。」
「ちっ」

言われたとおり退室する。
『貴方が悪いですよ、国家間の会談で口をはさむなど。』
分かってるよ。
扉の外で壁にもたれ時間の経過を待つ。

「さて、この国にいるエトランジェは、碧か岬か、もしくは両方か。」
もう一度大統領を揺さぶってみるかな。
『揺さぶれるほどやわではないでしょう?』
まぁね。

◆◇◆◇◆◇◆


会談も終了した、結構序盤で分かっていたことだがラキオスとマロリガンは戦争状態に入ることになった。
「サクヤ、皆帰りますよ。ラキオスでいろいろと考えることが出来ました。」
レスティーナとエスペリアを戦闘にマロリガンの議事堂を歩く、その出口で。

「見送りありがとうございます。」
「なに、貴女と会うのもこれで最後でしょう、見納めですよ。」
大統領がタバコをふかしながら立っている。

「さて、血気盛んなエトランジェよ。」
「なんだ?」
「イースペリアが滅んだというのに、何故ラキオスに?」
分かってたか、まぁ調べればいい事か。

「なら、そっちのエトランジェにも。親友と殺しあうのは楽しみか?って聞いといてくれ。」
「・・・伝えて置こう、それと血気盛んと言うのは早計だったようだ、詫びておこう。」
「そうか。こっちも、答えは今度あったときにだ。」

──────────────────────

エクの月 青よっつの日 謁見の間
高嶺が連れてきた天才とやらに呼び出されて遥々やってきた謁見の間。

「お初お目にかかります。賢者殿
ラキオスをおさめているレスティーナ・ダイ・ラキオスです。」
「はじめましてレスティーナ殿。
今まで北方に来たことはなかったけどなかなか良いところだね。」
天才ってあれか、あの高嶺と同じく自然の摂理に逆らった髪の毛をしているあれか?

「そう言って下さると光栄です。」
タバコも吸ってるし。別に便利なものだとは思うけどねぇ。
「バカが少ないのは良いことさ。」

「外見で判断するとお前もバカっぽいがな。」
『また失言ですね。』
「サクヤ、賢者殿に失礼ですよ。」
「いいよいいよ。じゃあ、改めて自己紹介させてもらうよ。
私はヨーティア・リカリオン 自他共に認める大天才だ。」
某迷探偵見たいな事を平気で言ってのけるあたり天才の頭は理解できない。
『まぁ、天才とはそういうものなのですよ、多分。』
いろいろと頭の中で傍若無人な天才に文句を言っていると。

「別に追い出されたわけじゃないのか。いい加減な性格で追い出されたのかと思ったよ。」
激しく同意。

「バカタレ。天才は何しても許されるんだ、そんなことも知らないのか?」
知りません。初めて聞きました。

「そんなわけないだろ!!それにバカタレはないだろ、バカタレは。」
「でも、バカだろ。」
「うっ」
食って掛かろうとする高嶺を一言で止める。

「学校での成績もねぇ」
「止めてくれ、これ以上アレに攻撃の手段をやるわけには。」
「ん〜、どうしようかな。」
「頼む」
「なら止めておこうか。」
高嶺と俺との間にわずかな上下関係が生まれた瞬間だった。

「そこのあんたが、元イースペリア所属のエトランジェか。」
「違う」
「じゃあ何なんだい?」
「ん〜、看護士」
「そうかい。」
流された。

「ラキオスのエトランジェとレスティーナ殿に関しては情報を持っているんだが。
あんたのことは知らないねぇ。」
「知らなくていいよ、個人情報保護法違反者めが。」
「そんな法律ラキオスにはありません。」
「いやいや、モラルの問題だよ。」
「人様のプライバシーを侵すほどの情報は持ってないよ。」
「あっそ」

「サクヤ、自己紹介しなさい。」
「・・・・・・黒霧溯夜」
「名前だけかい?」
「後の事はレスティーナにでも聞けばいい。」
「そうさせてもらうよ。」
言い終えるとヨーティアはまたレスティーナと話し始めた、どうもレスティーナの目的について話し合っているようだ、既に俺は幾つか知っているからどうでもいいな。
『レスティーナにもまだあるかもしれませんよ?』
あってもそれもまたどうでもいいことだ。
『貴方らしいですが、それでいいのですか?』
多分、いいよ。

『幽玄』とのんびりと話していると。
「なんだって!?
どうしてそんなことをする必要があるんだ?」
高嶺があからさまに動揺している。

「“ラクロック限界”と言うのをユートはしっているか?」
ラクロック限界?どこかで見たな。
『サルドバルトの』
「あぁ、確かこの世界にあるマナは有限ってやつだったな。」
「ほぉ、どうやらサクヤはいろいろと知識があるみたいだねぇ。」
「まぁね。」

「お前何処でそんな事?」
「今はなきサルドバルトから仕入れた。」
「「・・・・・・」」
「なかなか面白そうなエトランジェだね。」
「いいから続きを話せよ。」
続きを促すとレスティーナが自身の目的は世界の統一とエーテル技術の崩壊だと宣言する。
『火種をつぶすつもりですか。』
らしいな。

その後ヨーティアがマナをエーテルに変換し、またエーテルをマナに戻す時に僅かだがマナが減少していると付け加えた。
すると。

「ユート、あんたはどうなんだい?」
「え、俺?」
高嶺に突然話が振られる。

「ここまで関わっちまったしな。最後まで付き合うよ。アセリアたちも放っておけないしさ。
・・・・・助けられた恩くらい返したいんだ。」
何の話だ?

「礼を言います、エトランジェに対抗できるのはエトランジェのみ。
もうしばらくこの国を支えてください。」
「それで、サクヤあんたは?」
ちゃんと話を聞いていればよかったな。

「何の話だ?聞いてなかったからな。」
「ったくこの大天才の話を聞かないなんてね。私はあんたの目的を聞いてるんだよ。」
「目的、ね。」
ちょっと、いや。かなり考え込む。

「別に、今は友人の頼みでレスティーナに協力してはいるが。逆を言えばそれだけだ。
その頼みがなければ帝国にでもマロリガンにでも俺はつく。」
「そうかい。でも、レスティーナ殿はあんたを信頼しているみたいだが?」
「本人に聞け、信頼される側に信頼する側の事情は関係ない。」

「サクヤは信頼できます、アズマリアの手紙を読めば分かります。
それに、ラキオスにシリアが居る以上あなたはラキオスに居続けるでしょう?」
「さぁな、別に連れて行ってもいいし。」
「シリアってのが自身にとって必要だというのは否定しないんだね。」
ヨーティアが余計な事を言ってくる。
「あぁ、否定しないよ。」

「・・ふふ、ただのバカではないのかもね。」
不適な笑みを残してヨーティアは次の話を始める。
2.3ほどレスティーナに要求を飲ませているようで。
「傍若無人だな。」
『天才ですから。』

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エクの月 赤ふたつの日 シリアの部屋
「何?こんな時間に」
こんな時間といいながらも別に遅くも早くもない、いたって普通の午後8時だ。
「こんな時間って、別に普通だろ。」
「まぁね、で。何しに来たの?」
「ん〜、夜這い。」
あ、顔がものごっそ真っ赤になってる。

「に、似た事。」
「あ、そ。驚かすような事言わないでくれる?」
「まぁそういうな。まんざらでもないだろ?」
「どうかしら?」
さらりと流されてしまった。

「で、もう一度だけ聞くけど何の用?」
「なんだよ、冷たいな〜」
いいつつ右手に持っていたものを机に置く

「何これ?」
「開けてみ」
怪訝な顔をしながらも白い箱を開けるシリア。

「ケーキね」
「ケーキだ」

箱の中にはオーソドックスでもない桃色のケーキ。
「で?何で、夜に、二人で、桃色の、ケーキ?」
「ろうそくもあるぞ」
「いや、別に何かが足りないって分けでもないから。」

「7月7日にケーキとろうそくを持って、お前のところに来てるんだから目的は一つだろ?
それにちゃんと取り皿も持ってきてるぞ。」
懐から2枚の小皿とフォークを出す、因みにファンタズマゴリアに、誕生日にろうそくを立てるという話は聞かない。

「そう、そういえば今日は7月7日か、最近忙しかったからすっかり忘れてたわ。」
「まぁアレだ去年は忘れてたからな、今年ぐらいはと。」
「それを言ったら私もあんたの誕生日忘れてたわよ。」
言いながら適当に持ってきたろうそくを刺そうとする。

「お前って歳いくつ?23?」
ドンッ!!
切り分けるために持ってきたナイフが、俺の頬を掠め柱に根元まで刺さっている。
「冗談だよ、確か19だったな」
立ち上がり柱からナイフを抜こうとするが、柱がメキメキ言うだけで一向に抜ける気配がない。

「あ〜、だめだめ。」
シリアが立ち上がりナイフを軽く引き抜く、そのあっさり抜けたナイフを見てちょっと凹む。
「こういったのにもコツがあるの。」
柱に刺さったナイフを脇に置き、メイド服から出したナイフでケーキを切り分ける。

「それでケーキを切るのもいかがなものかと」
「大丈夫よ、汚くないから。」
そういうもんか?
円形のケーキが綺麗に切り分けられる。
結局ろうそくは虚しくテーブルを転がり床に落ちた。

◆◇◆◇◆◇◆

「それで、このケーキはどうしたの?」
机の上には紅茶と、8分割されたケーキ、そのうち6つを食べ終えた頃になってようやくシリアが聞いてきた。

「城下町で買うのもあれだろ、だから俺が作った。皆の眼を盗んでな。」
見られでもしたらこのケーキはここに来る前に皆の胃袋に納まっていただろう。

「へぇ、これをあんたがねぇ。」
ケーキをフォークの先に刺しじろじろと眺める。
「あんたが作ったって聞いたらとたんに不味くなったわ。」
「!!」
足元が瓦礫となって崩壊していく、なかなかの自信作だったのに

「嘘よ」
「よかったよ」
『まさか本気でそこまでダメージを受けるとは。』
「美味しいからそんな気にしなくてもいいわよ、少しは自信持ったら?」
「いや、でもあんなこと言われたら凹む。」
紅茶のカップを手に取りちびちびと飲む、相変わらず美味い。

「あんたそんなに打たれ弱かったっけ?」
「いや、あれだ、言われた相手が悪かった。」
時計を見ればすでに9時半、1時間半もこうして紅茶をちびちび、ケーキをつまんでいたらしい。

「もう9時半か」
そういいながら俺に割り当てられた最後のケーキをほおばる。

「ふぅ、アズマリア以外の人に祝ってもらったのも初めてね、これで来年も楽しみだわ。」
言い終わるとシリアもケーキを食べ終えた。
久しぶりに実のある夜だったと思う、最近夜といえば月見てばっかりだったしなぁ。

──────────────────────

エクの月 黒みっつの日 ヘリヤの道
「暑い」
「文句言わないで、それにいくら暑いって言っても涼しくはならないわよ。」
「そうですよ溯夜さん」
ヘリヤの道を進軍すること数週間、足場の悪さと気温の最悪さがついて周り進軍の速度はとても遅い。

そして俺が暑いと言うたんびにシリアと、ランサから連れてきたリースに文句を言われる。
「暑いぜ、暑いぜ、暑くて死ぬぜ。」
『貴方最近そういった台詞が増えてきましたね。』
“そういった”が何を指すのかはあえて聞かないで置くが、暑いことに変わりはない。

「あ〜、サクヤ〜」
「なんだ?」
ネリーが後ろから話しかけてくる。

「何で暑いのに丈の長い服着ないとダメなの?くっついて気持ち悪い〜」
「あ〜、火傷するらしい。」
「え〜」
「それと話しかけるな、暑い。」
「むぅ」
ネリーはそういうと後ろに下がっていった。

「暑いね〜」
目の前でオルファが汗は掻いているが疲れては居なさそうに手を振っている。
「いいから、少し、静かに、してくれ。」
高嶺が必死の嘆願をする、棘のような髪には玉のような汗がある。

「パパいけないんだよ〜」
何がダメなのか理解できない、むしろ悪いのは砂漠と太陽だろう。
「だから、静かにしてくれ。」
高嶺の声には全くの覇気がない。

「それにしても。」
「ん?」
シリアが突然話し始める。

「敵が少ないわね。」
「あ〜、それもそうだな。確かに狙い打つにはいい場所なのにな。」
「でも、私がランサに居る頃は一度もマロリガンのスピリットは見かけませんでしたし。」
さっきから多少の攻撃はあったが地理を踏まえて考えると戦略上攻撃は少なすぎる。

「でも、暑いときに暑くなることしないで済むんだからいいじゃないか。」
「けど」
「頼む、今は話しかけないでくれ。日が傾いたら聞くから。」

「分かったわ。」
「そうですね、私もすごく暑い。」
実際進軍は止まることを知らない、マロリガンは戦争開始とほぼ同時にデオドガンを襲撃、制圧しその軍備力を誇示してみせた。もちろんその力はレスティーナの予想を上回っていたわけで。

ラキオスと戦争になるのも、マロリガンには予想の範疇でラキオスは完全に後手に回っている。その焦りがこうして止まらない進軍に如実に表れている。
天才にマロリガンにいるエトランジェの話をすると。

「ふ〜む、多分マロリガンに居るエトランジェはよっぽど強いのか、それとも2人は居るんだろうね。あいつの性格からしてある程度の下準備はしてあるだろうさ。」
あいつは恐らく大統領のことだろう、確かに負け戦をするような人間にも見えなかった。

それから女王の話は
「ユートにこの事は伏せておきましょう、まだ確信を得たわけではありませんし、いたずらにユートに迷いを与えることもないでしょう。」
その台詞に俺はただの時間稼ぎに過ぎないと口をはさんだが結局伝えずじまいで今に至る。
『放っておけばいいですよ、遅いも早いも瑣末な問題です、いずれ直面する問題ならなおのこと。』
そうかもしれないが。

『それにいちいち貴方が彼の事を考えることもない、暑さでどうにかなってしまいましたか?』
・・・・確かに、今までの俺らしくない思考だったな。高嶺がどうだろうといちいち考えることもないか。
敵として現れたなら味方の事情もそっちのけで殺せばいいし。
『まぁ、道徳的に考えれば間違っているでしょうけど。』
俺としては間違ってない、か。

『自分よりも他人を大切にする人間が他人を守るなんてペテンもいいところですよ。』
ちょっと違う気もするがな。
『こまごまと気にしてはだめですよ。禿げますよ?』
やれやれだ。


エクの月 黒いつつの日 ヘリヤの道
「暑い〜」
最近そればっかりだ、自分で言ってて情けない、でも
「暑い〜」
止まらない、流れ出る汗のように口は同じフレーズのみ紡ぎだす。

「ちょっと、静かにしてよ、こっちまで必要以上に暑くなるでしょ」
横を見るとメイド服が汗でへばりついたかなり苦しそうなシリアの姿、その隣には青髪を汗でぬらしたリース。
前を行くもう一人の緑いメイドもかなり苦しそうだ。

外気温で暖められ満足に働かない頭に追い討ちをかける言葉が響く。
「あ〜、アイス食べたい!!」
やめてくれ。

「ネリー、そういうの今言わないで、余計に苦しくなるから。」
セリアが釘をさすがもうだめだ“アイス”と言う単語を仕入れた脳はアイスの冷たさと切望を訴える。

「溯夜、アイスって何?」
「今は、今は知らない方がいい。」
「気になりますよ」
「リースも知らない方がいい。ダメ、ぜったい。」
「でも」
「むぅ」
どうも、禁止の言葉も麻薬は止めれてもアイスは止められないらしい。

「まぁ、後で教えてやるよ。」
「いつですか?」
「涼しくなってからだな。」
「はぁ、それでは大分先の話になりそうですね。」
今回リースを連れてきた理由は一人でランサに居るのもなんだと思ったから。
高嶺も別にいいと言ったから左手を引っ張ってシリアとの共謀で連れてきた。

「お〜い、皆ここで一度休憩にしよう。」
高嶺の号令で皆が砂丘の影に潜り込む。

「ふぅ、ようやく、休憩か。」
俺も同じように影に座り込み、手で顔を仰ぐ。
「お疲れ様です」
リースとシリアも近くに座る。

「それで、溯夜、アイスって何?」
メイド服の中からタオルを3枚だし俺とリースに配って汗を拭きながら聞いてくる。

暑さで上気した体や汗でへばりついた服を見ると否応無しに・・・・
「溯夜さん?」
リースが俺の視線の下から追い討ちをかけてくる。
まぁ、つまりはだけた胸元から見えるものが見えるわけで・・・
酷い、生殺しだ。

ここで首を大きく左右に振って煩悩を断ち切る。
「あ〜、アイスってのは、俺の世界のお菓子の事で、サルドバルト攻略戦の前に第2詰所の皆に作ってやったんだよ。」
「それで、どんなお菓子なの?」
「あ〜、冷たくて、甘くて。こんなときに食べたいお菓子だ。」
「成る程、ネリーが騒ぐわけ。」
「食べてみたいですねぇ」
「その内作ってやるよ。」
「楽しみです。」
適当に二人と雑談を交わしながら影の涼しさに酔いしれる。

数十分ほど涼んでいると。
「・・・・シリア」
「何?わたしの確認が必要?」
「え?ぇ?何のことですか?」
リースは気付いてないか。

『まぁ、無理もない話しですね。少々希薄すぎますし、逆に希薄すぎて怪しいですが。』
「リース、わたしと溯夜は少し出かけるからわたし達のことを聞かれても知らない、で通しなさい。」
「はぁ・・・」
よく分からないって顔だな。

「まぁ、その内分かるから。」
「そ、しっかりと嘘をつきなさい。」
「とりあえず、二人のことで何を聞かれても知らないって言えばいいんですね。」
「そ、余計なことは言わずに知らないって言えばいい、気が付いたら居なかったって言えばいいよ。」
「分かりました。」
深く、しっかりとリースが頷くのを見て。

「なら行って来る、俺たちがいなくても自分の身くらい自分で守れよ?」
「これでも溯夜さんより長い間神剣と一緒に居るんですよ?」
「なら安心だ。」


────────Yuto side
「暑いな、まぁ日向に比べたらましだけど。」
『求め』を置いて手で顔に風を送る。

「ユート様、本当にあのブルースピリットを連れて来てよかったのですか?」
「リースのことか?黒霧が珍しく俺に頼むんだし断るわけにもいかないだろ?それに戦力が欲しいってのも本音だしな。」
ラキオスを出発しランサに到着したとき黒霧が連れてきたのが一人のブルースピリット、何でもイースペリアスピリット隊の生き残りで、今はランサの防衛を生業としているらしい。

「黒霧とシリアさんとリースでいいチームだったし俺は連れて来て良かったと思うけど。」
「確かに戦力としては申し分ありませんが、それでもいきなりの編入は。」
・・・エスペリアの言うとおりかもしれない、けど黒霧はあの時俺の攻撃から佳織を守ってもらったがある、その後の台詞にはかなり腹が立ったが。

「その話は置いておこう、それより暑さに弱いスピリットと強いスピリットが居るんだな。」
「はい、基本的にこういった場所ではブルースピリットとグリーンスピリットは不利です、レッドスピリットが最もこの環境に適しているといえますね。ブラックスピリットは中間、といったところでしょうか。」
なるほど、彼女達の色が自然の何かを表しているのなら、緑は木、青は水、砂漠には到底似つかわしくない。

「このダスカトロン大砂漠はマナの薄い地域でもありますから、スピリットが戦うのには本来適した場所とは言えません。」
「だけど今まで攻撃を受けた回数で考えると戦略上少なすぎるよな。」
格好の狙いどころだったはずだ、こっちはこの暑さの中一方的な襲撃を警戒しなければならないという圧倒的不利な状況だったのに。

「ですから不安なのです。」
「・・・・・考えても仕方ない、今は休もう。」
「はい・・・」
腕を頭の後ろに回して枕にする。


数分そうして休んでいると。
ぞくっ、背筋に強烈な悪寒が走る、皆も気付いたようで神剣を握り周囲に注意を向ける。
一点にマナが集中する、その一点を中心に空気が変わる、世界が帯電する。

「皆、全力で防御するんだ!!」
『求め』を眼前にかざし守りのオーラを展開する。
皆も数瞬遅れて守りのオーラを張る。

オーラの向こうに見えたのは紫電、本来見えることのない電気が一点で弾ける。
オーラ越しにでも聞こえる轟音を轟かせ、紫電は必殺の電圧、温度、速度を持って俺たちに激突する。
「ぐぅ・・・」
『求め』を握る腕に力がこもる、今までに受けたことのない攻撃、今までで最高の攻撃、支える腕が哭き叫ぶ。

次の瞬間、腕にかかっていた重みが消える。
「おいバカ剣、敵は何処だ!?」
『あの岩場の上だ。』
声に従い岩場を見ると。

「ちっ、この程度じゃダメか、せっかく『因果』の力で気配を殺していたってのになぁ。流石はラキオスのエトランジェってとこか。」
余裕を感じさせる飄々とした声。

「なっ・・・・」
見上げた先には二つの影
一つは人外の大きさを持った、レッドスピリットの剣を拡大したかのような剣を持った男。

一つはレイピアのように刺すことに重きを置いた剣を持つ女。
二つの影に共通して言えることは、剣を持っていることと。

「今日子!!光陰!!!」
どちらも親友であるということ。

「よっ、悠人。」
軽い声で光陰が話しかけてくる。
「本当に、光陰なのか?」
思わず日本語で喋る。

「おいおい、1年とちょっとで忘れられちまうほどの存在か俺は?」
声や仕草には全くの変化がない、学校でバカをやっていたあの頃の光陰となんら変わらない。
親友の思いがけない登場に驚きながらも喜びを隠せないでいると。

「永遠神剣第5位『空虚』が主、今日子の名において命ずる、今一度小さき稲妻となりて────」
今日子が始めて喋った言葉は詠唱、同じくしてレイピアの先にマナが集束する。
「え」
突然の親友の行動が理解できない、だいたい考えてみればあの攻撃はどう考えても今日子達のものだ、なら。
「くそっ!!」
もう一度オーラを張る、今度は皆の中で俺が一番オーラの展開が遅かった。

オーラの向こう側には剣を掲げる今日子と、軽い笑みを浮かべた光陰。
そして二人の下から飛び出る黒い影。
今日子の攻撃の光が巨大すぎて実態のつかめないその影と
ギンッ!!
大きな金属音が聞こえた。


To be continued

あとがき
始まりましたマロリガン編、ハイスピードで進めますので第一話でいきなり光陰と今日子出現。
光陰はなかなかに好きなキャラの部類に入ります、今日子は?微妙・・・

この辺からオリキャラと既存のキャラの扱いの差が・・・・

文句を言いたくなるシーンが出てくるでしょうが、あくまでこのSSは溯夜とシリアがメインです。
悠人と求めを中心に大陸は動いていますが、永劫と刹那の幻想録では溯夜とシリアにスポットライトがあたっているのです。


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