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エハの月 黒よっつの日
鞘から抜いた刀身にはべっとりと血がついている。
スピリットを切っても血は残らない、ならこの血は
「この城の人間の血か。」
「そうだ」
刀を鞘に戻す。

「まったく、ちゃんと血は拭かないとダメだろ。」
「なっ」
こっちを見上げなれない正座に足が痺れてきたのか足をもぞもぞさせている。
「どうした?」
「・・・いや」

神剣を床に置き、『幽玄』を取り出す。
「隊長ってのは誰?」
「だから、言うと思うか?」
「思うよ、見たところあんたは神剣に呑まれてない。」
『幽玄』の刀身が伸び刀になる。
「ならその隊長も神剣には呑まれてないんだろう?」
「・・・」
「そして、その服についた紋章は帝国の物だ。」
「・・・そうだ」

「さらに一つ、あんたも覚えているだろうけど俺もあんたには見覚えがある。」
「っ!」
図星か〜、分かりやすいな。イースペリアの変換施設付近で会った気がしたけど自信無かったからな〜。

「なら、隊長はウルカか。」
さっきよりも濃密な殺気を向けてくる。
「睨んでもどうしようもないだろ。もう一度質問する、何しに来た?」
「・・・・隊長と私達は別任務で動いている、隊長の任務は知らないが私達は国王の忙殺と城内の攪乱の任受けている。」

「殺すのは国王だけか?」
「王妃も殺すよう言われている。」
「あれ、王女は?」
「王女に関しては殺さないよう言われている。」
・・・床に座り込む。

妙な話だな、国王を殺すのは分かるけど侵入までして王女を殺さないのはおかしい。
「ここで私の相手をするのもいいが、私以外の帝国に属するスピリットが居るのも確かなんだぞ。この国のエトランジェなのにそっちに向かわなくていいのか?」
「ん〜、この前のサルドバルトの戦争の時同様帝国はおかしなところが多いな。
サルドバルトに軍事援助したときもする理由が無いし、今回も王家断絶が目的ではないみたいだし。」
頭を掻く、いくら考えてもおかしな点しか浮かんで来ない。

「人の話を無視するな。」
「何か言ったか?」
「言った、敵は私以外にも侵入しているのにここに居ていいのか、と聞いた。」
『無視するのはいけませんよ。』
「いいよいいよ、別に侵入されて困ることも俺には少ない。」
「な」
茫然自失といった顔でこっちを見てくる。

「王女に危害は加えないんだろ?それなら別に俺にとって雇用先が国王から王女にかわるだけ、ほら何にも俺に変化は無い。死んでもらったら困る奴も居るけど多分死なないからね。」
『幽玄』で縛っていたカーペットを切って開放する、ついでにカーペットの切れ端で血にまみれた刀も拭いてやる。

「俺は一応王女の様子を見に行くけど、後は好きにしていいよ。後、さっきは頭蹴って悪かったな。」
呆然としたままのスピリットをその場に残して窓から外に出る。
それとほぼ同時に城下町で警鐘が鳴る。

「結構な数が侵入してるな。」
言いながら壁を走り王女の自室に目をつける。
また窓を蹴破り今度は窓以外に何も蹴る事無く着地する。

「サクヤ?」
「お、生きてたか。」
部屋にはレスティーナ王女が椅子に座って書類を読んでいた。

「城にスピリットが侵入してるけどそんなにのんびりしてていいのか?」
「え」
手にしていた書類が机の上に落ちる。

「知らなかったのか、そういえばここでは警鐘が聞こえないな。」
「それで!何処のスピリットが侵入してるのです。」
優雅な一面は消え去りもすぬごい剣幕で迫ってくる。

「落ち着け落ち着け、侵入してるのは帝国のスピリットだ、数は正確にはわからないが両手両足の指の本数よりは少ないな。」
「そ、そうですか。」
レスティーナに冷静さが戻り椅子にかけなおす。

俺もベッドに座り一息つく。
「少ししたら高嶺達も来るだろ、それまで書類でも読んでればいい。」
「そういうわけには行きません、私を守ってくださるのもいいですがそれよりも城に侵入したスピリットを撃退してください。」
「・・・・」

「貴方はスピリットを圧倒するだけの力を持っています、だとしたらここで私を守らずに城内の敵スピリットを倒してもらったほうが最終的な被害は少なくなるというものです。」
ふむ、どうやら差別はしない性質らしい。

「それはお前の命と城内の兵士や従者の命が等価だったときに成り立つ話だ。
王女と従者ではそこに差がありすぎる、自分の立場を考えて物を言うんだ。」
「っ!!ですが。」
「それに、アズマリアから聞いたがスピリットを開放するんだろ?」
レスティーナが少し驚き
「そこまで聞いていたのですか、アズマリアにとってよほど貴方は信用できる人物だったのですね。」
言い終えるとレスティーナは眼を伏せた。

「実行に移してもらうためにも死んでもらっちゃ困る。」
レスティーナは分からないだろうが俺の拡大された聴覚では階下の断末魔や金属音が良く聞こえる。
「所で、何で君はスピリットが人を殺すと思っているのかな?この国ではスピリットが人を殺すのはご法度だろ?」
「・・・それは簡単な話です、わざわざ城に侵入しているのですから殺害の対象は人間ですよ。
この城にスピリットはいませんから。」
「ふ〜ん、まぁ君の父親はスピリットが人を殺すなんて夢にも思ってないだろうな。」
「そうでしょうね、父は貴方が謁見の間で言った言葉の意味をわかっていないようでしたし。」
足音が近づいてくる。

「扉から離れてこっちに来い、誰か来たぞ。」
レスティーナが腰を上げこっちに来る。
足音は迷わずここに来る。

『幽玄』を構える、刀身は刀のまま
「さて、ここも危ないかな。」
扉が勢いよく開かれスピリットが侵入してくる。

「ラキオスの連中じゃない、か。話が違うな。」
スピリットは神剣を構えてはいるものの襲い掛かってくる気配は無い。

「前言撤回、嘘じゃなかったかな。」
「エトランジェか。」
中心に居たグリーンスピリットが話しかけてくる。

「違う」
「後ろに居るのはレスティーナ殿下か。」
「それも違うって言ったら?」
「ならここに用は無いな。」

「無視かよ、大体この階に上がってから迷わずここに来たのに用が無いってのはおかしいだろ。」
「それはエトランジェの気配があったからです。この階ですることは大体し終えました、そろそろ撤退させてもらいます。」
「ゆっくりしていけよ、お茶くらい出すぜ?」
「魅力的な話ではあるが遠慮させてもらいます。」
ついて来ていた数人のスピリットが来た道を引き返す。

「そうか、ならさっさと帰れ、掃除も案外大変なんでね。特に布についた血はとれないな。」
「それは私達の与り知る所ではありませんから。」
「気楽でいいな。ここまで洒落の分かるスピリットも珍しい。」
事実今まで殺してきたスピリットは全て神剣に呑まれていた、明確な自我を持ったスピリットも敵としては珍しい。

「あぁ、それと一つ貴方に言いたいことが。」
「なんだ?」
「仲間をどうもありがとうございます。」
「どういたしまして。今度から窓の外も気をつけるよう言っといてくれ。」
「分かりました。」
そう言い残してスピリットは来た道を戻っていった。

階下での断末魔も少ないものになってきている。
「サクヤ、先程の話は?」
レスティーナが話しかけてくる。

「質問の範囲が広すぎる、もっと限定してくれ。」
「では順番に、まず最初にもらした「話が違う」とは?」
「いろいろあってね、レスティーナは狙わないって話を聞いてたんだよ。半信半疑だからここに来たけど、嘘は言ってなかったと。はい次は?」

「それでは、「仲間をどうもありがとう」とは?」
「それはさっきの質問の続きみたいなもんだな。下の階で帝国のスピリットに会ってね、そいつから情報を聞き出した。それでそのスピリットを殺さなかったからこうしてお礼を言われたわけだ。」
『幽玄』をしまい椅子に座る。

「そ、それでは貴方は私に危害が及ばない事を知っていながらここに来たわけですね。」
「そうなるな、ついでに敵の言葉を信用するほど馬鹿でもなかったって事だ。」
「何故敵の言葉を知っていながら私のもとに?」
「アズマリアにレスティーナを手伝うよう頼まれたからだ。だから、ここに来た。国王は見捨ててな。」
「え」
レスティーナが一瞬だけ放心する。

「それでは父上は。」
「殺されただろうな。」
「っ──何故!」
「さっきから質問ばかりだな、帝国のスピリットにも言ったが国王が死んだ方が俺にとって都合がいいことが多いし、わざわざ助けてやるほどお人よしでもない。」
「っ!!」
レスティーナの表情がどんどん険悪になる。

「冷静になって考えるんだな、国王は君の邪魔にしかならないんじゃないのか?
恒久平和とスピリットの開放、この二つ、特に後者を実現させるためには自分が王位を取る必要がある。」
「それは、そうですが。」
レスティーナはスカートの裾を指先が変色するほどまで強く握る。
「安穏と父親が死ぬのを待つわけにも行かない、なんたって親子仲が悪いからな。別の後継者を強引に用意されでもしたらそれこそ夢は夢のままだ。」
「しかし、人を見捨てるなど。」
「・・・・人格者としては優れていても、王としては父親のほうが優れているかな。」

「なっ」
予想もしていなかったのだろう、俺の言葉に二の句が出てこない。
「王は神じゃない、全てを救うだなんて神様の仕事だ。
王は対価無しに人を救うことは出来ない、出来るのは誰かを切り捨て、その代わりに誰かを救う事ぐらいだ。」
レスティーナは何も言わない。

「最小限の被害で最大を救う、これが王の仕事。」
階下の謁見の間で戦闘が行われる。
ラキオス2、帝国3か。

「幸せな人間は、報われない人間が居て始めて吐き出される。なら人間に優劣をつけ、国のため常に切り捨てなければならない。現王は知ってか知らずかそのことを実行に移していたよ、アズマリアもな。」
戦闘は数の上で有利な帝国側が押しているが、さらに下から上がってくる二人に気を取られているみたいだな。

「説教はここまでだな、そろそろ高嶺たちが謁見の間に着く。俺は謁見の間に行くけどどうする?」
「私はここに残ります。」
「そうか。塞ぎ込むのもいいけど、今回ここで切り捨てられた人間を無駄死にとするかどうかは君次第だって事もしっかり自覚するんだな。」

◆◇◆◇◆◇◆

レスティーナの部屋を出ると同時に廊下の端から高嶺たちが壁に寄りかかっている死体を見ている。
「死体なんか見て───前言撤回、死体じゃないな。」
「黒霧か。」
「で、その仏に成りかけている人はどうした?」
「最近来たエトランジェか」
棺桶に片足どころか腰まで入った人間が俺に話しかけてくる。

「そうだけど」
「レスティーナ殿下は」
「生きてるよ、怪我一つしてない。」
「そう、か。」
表情に穏やかさが出てくる。

「それは、良かった。」
「自分が死ぬのに良いなんてないだろ。」
「良いんだよ。」
今にも死にそうな兵士は俺の質問に律儀に答え言葉を紡ぎ終えるたびに血を吐く。

「何か言い残すことでもあるなら聞くだけ聞いてやるけど。」
「ふん、貴様らに言い残すくらいなら胸に秘めたまま消えるさ。」
「その怪我でなかなかに元気だな。意地張るのも良いけど程ほどにしとけよ。」
「意地・・・か。いまさら遅いが、つまらない意地だったと思う、よ・・・」
そういい終えると兵士は今までで最大の量の血を吐き二度と目を開けることはなかった。

「・・・死んだか、枕元に出てくれるなよ。」
まだ温かみの残る死体に見切りをつけ立ち上がる。
「で、レスティーナは無事だけどどうする?どうもイースペリアの変換施設で会ったウルカが来てるみたいだけど。」
「「なっ」」
高嶺とエスペリアが全く同じ反応を同じタイミングでする。
『仲良きことは美しきかな、ですね。』
多分違う、使う場所が違う。
『分かってますよ、さっきから私の発言がなかったので寂しかったのですよ。』
そうか、そりゃ悪い事をしたな。
『いえいえ。それよりも4人の相手をしたらどうですか?』

「そうだな。 それで、ウルカは城外で何か仕事があるみたいだけど。」
「本当なのか?」
「多分ね、帝国のスピリットから聞いたことだしね。」
「しかし、城以外で標的にするところなど。」
エスペリアと高嶺が考え込む。

「ん〜、一人で出来ることで帝国が必要な事か。」
高嶺が敵の目的を探る材料を提示する。
エスペリアと高嶺とオルファが考え込む。
だがオルファの様子を見ると、考えは一人歩きして不可思議な世界に足を踏み入れているようだ。

「ん〜、王様達は部下に任せてウルカお姉ちゃんは私たちに用があったとか?」
オルファの提案。

「そりゃないだろ、ならわざわざ城で部下を暴れさせて俺たちを城に集める意味がない。」
「そっか。」
ん、城?

「あ〜、でも待てよ、ラキオスで狙うって言ったら変換施設はどうなんだ?」
「変換施設は俺とアセリアが行ったけど2,3人来ただけだった。」
「おかしな話だ。詰所を狙うにしても第1は無人で、第2はスピリットで溢れてるし。」
「そうだっ、佳織!!」
高嶺が顔を上げ咆哮する。いや、もう予想で何を言ったか判断しただけで実際は何か吼えた位にしか分からなかった。

「妹の安否を確認しに行きますか。」
そう言うと俺は窓を開ける。
「俺は第2詰所の皆を集めてから行くからそっちは第1詰所に直行してくれ。」
「わかった。」
妹の事となると行動が速い、まだ決まったわけでもなく確立も低いのに高嶺の頭の中は発育不良の妹の事でいっぱいらしい。

高嶺の後をアセリア、オルファ、エスペリアの順で続く。
「さて、と。」
開け放っておいた窓から外に出て壁を垂直にしかも真下に向けて駆ける。

「はっきり言って怖いな。」
速度は自由落下よりも速い、加速度も9.8どころではない。

『それにしては足はどんどん加速していますが?』
「面白くもある。」
『そうですか。』
壁を徐々に斜めに駆け下りる、そして地面につく直前に地面と平行に横へ飛び、四肢を使って滑るように着地。

「ふぅ、手足にオーラを纏わせといて正解だったな。」
10mほど俺の手と足の形に抉れた地面を見て感想を漏らす。

『早く第2詰所の皆を呼びに行かないのですか?』
「今行きますよ。」

──────────────────────

同日 ラキオススピリット第1詰所付近
途中高嶺たちと合流し第1詰所を目指す。
「それで、城のほうはどうだったの?」
「ん〜、いっぱい死んだ。でもレスティーナは生きてる。」
シリアの質問に7割ほど端折った答えを返す。

「そう、それで敵の目的が分からないからとりあえずここに来たって分けね。」
第1詰所に到着する。

「佳織は!!」
高嶺が発狂したかのような声をあげる。
「成る程、あたりか。」
詰所の上空に影を見つける。

「ラキオスのエトランジェとイースペリアの・・・」
「久しぶりだな、ウルカ。」
ウインドハイロゥを広げウルカが詰所の上を飛んでいる、その手の中には
「佳織っ!!」
「お兄ちゃん!!」
高嶺の妹が抱えられている。

「何で妹を捕まえるのかねぇ。」
「佳織をどうするつもりだ!!」
俺の言葉も高嶺の咆哮にかき消される。

「すごい声ね。」
シリアも感嘆する。

「この娘をさらったのは主の命ゆえ───」
「主?主って皇帝のことか?」
「真でもあり偽でもある答えです。」
俺の質問に対し理解に苦しむ答えを返すウルカ。

「ラキオスのエトランジェユート殿に主からの伝言がある。」
「主、伝言?」
体の中に充満した殺気を声に乗せて高嶺がウルカに問いかける。

「“佳織は僕のものだ。取り戻したかったら、追ってこい。僕が居る場所まで、這ってでもたどり着いてみろ────僕の『誓い』で、貴様の『求め』を破壊してやる────”」

「あぁ、秋月か、成る程ね。」
「溯夜、放っておいていいの?」
「ん〜、打ち落とせるか?」
「腕の中の人間を気にしないのなら出来るわよ。」
「ならやめとけ。」
「そう。」
シリアと少し物騒な話をしていると。

「ウオオオオオオォォォオオオォォォオオオオオオ!!」
高嶺が今までにない声を上げ、足元に膨大なマナを含んだ魔法陣を展開する。
「ちっ、妹まで巻き込んで殺すつもりか?」
「瞬の・・・『誓い』の手先・・・・」
高嶺の双眸は殺意を湛え『求め』を振りかざす、既に足元のマナは魔法陣から滲み出てそうになる程注がれている。

「いにしへの 奈良の都の 八重桜───
  けふ九重に にほひぬるかな───」
『幽玄』を引き抜きリズムを殆ど無視して詠唱する。

「滅びろぉぉぉぉぉぉ!!」
高嶺の咆哮と共に『求め』が振り下ろされ、それと同時に光の奔流がウルカと妹に迫る。

光の奔流は最短ルートを通り刀を下げた黒翼の天使に走る。
が、光とウルカの間に俺の桜が割って入り、オーラを防ぐ。
光が弾け、夜を吹き飛ばすほどの光で場が満たされる。

光がおさまると空中には無事なウルカと妹、そして俺の桜は所々穴が開いたが何とか防ぐことに成功はしたようだ。

「サクヤ殿でしたか、危ないところありがとうございます。」
「何言ってんだか、さっきは防いでやったけど別に腕の中の人間もろとも殺して良いんだぞ?」
そういうと空中で停止していた俺の桜が動き始める。

「黒霧っ!!」
高嶺が憤怒の形相で睨んでくる。
「何?さっき自分の妹も一緒に殺そうとしたのにいまさら気を使うのか?」
「違う!!さっきは。」
高嶺の顔に自責の念と俺の発言に対する怒りが相反している。
他の皆も下手に手を出せないことを分かっているため、その顔には歯がゆさがありありと浮かんでいる。



「・・・どうやらこれ以上の長居は危険のようですね。」
「あら、賢いのね。わたしのナイフは飛ぶ鳥も落とすわよ。」
ウルカの頬に一筋の赤い線、俺の隣ではナイフを構えたシリア。

「イースペリアのシリア殿ですか、噂には聞いていましたが見事なナイフ捌き。」
ウルカは翼を広げ南へと進路を取る。

「流石に、無理か。」
空中で止めていた桜を散らす。
シリアもナイフをしまう。

「佳織いぃぃぃ!!」
高嶺の叫びもむなしくウルカと妹は黒い点となって見えなくなった。

──────────────────────

チーニの月 緑ふたつの日 謁見の間
城と城下町が帝国の襲撃から落ち着きを取り戻したこの日レスティーナはスピリットや臣下を集めた。
そこでレスティーナが王位を継ぐことを宣言する。

帝国の襲撃後乱れに乱れたラキオスをまとめ、統一したばかりでまとまりのない5国を纏め上げたのもひとえにレスティーナの力だろう。

右翼の中には王と王妃を守れなかったことに対しいろいろと言う奴も居たがそれは俺が黙らせた。
その後レスティーナはスピリット隊の全権を握ることになり、高嶺に対等な立場で協力を要請し妹の奪還を約束した。

同日 レスティーナ自室
「で、わざわざ内密に呼ぶくらいだからよっぽどの話があるんだろ?」
「はい、今後の事で話があります。」
レスティーナが軽く微笑む。

「それなら高嶺のほうが良いんじゃないか?」
「ユートよりも貴方のほうがより客観的にラキオスを見てくれるでしょう。」
「それもそうね。」
ついて来たシリアが同意を示す。

「理由については分かった。なら次に今後どうするか、マロリガンと帝国どちらを攻めるかを話してもらうか。」
「私としては早急に帝国を攻撃したいです、マロリガンは反帝国をスローガンに掲げる国でもあります。共闘とまでは行かなくとも不可侵条約を結んでもらえるよう試みてみるつもりです。」

「成る程な、けど多分無理だな、マロリガンとは戦争になるだろう。」
「それは何故ですか?」
「考えてもみろ、戦時中の北方5国はマロリガンに取って格好の標的だったはずだ、なのにマロリガンは静観を決め込んできた。これは何かあるって事じゃないか?それにマロリガンにもエトランジェは居るからな。」
「そ、そうなのですか?」

「アズマリアと俺とシリアでの予想だけどな。俺がこっちに召喚された時のマロリガンの動きからしてマロリガンには最低1人エトランジェが居る。」
「・・・・何故今まで黙っていたのですか?」
「下手に話したら高嶺の耳に入ると思ってね。
こっちに召喚されているのが分かっているだけで、俺と高嶺兄妹に秋月の4人、内3人はハイペリアで召喚を受けたとき同じ場所に居た。
秋月の事を考えると確実というわけでもないがそれでも高い確率でマロリガンのエトランジェは知り合い、それも高嶺にとっては妹の次に重要な人物だな。」
あの時神社に居たのは俺と高嶺兄妹に碧と岬、ん?

「もしかしたらマロリガンのエトランジェは二人かもな。」
「なっ」
「これはたった今思いついた仮説なんだが、こっちに召喚されていると予想される人物は、俺と高嶺兄弟、そして秋月の四人を除いて後二人。その二人ともが高嶺にとって親友と称される人物だ、北方5国に居るのなら既に敵として会っているか、同じ陣営に属しているだろう。
帝国に所属している可能性は妹を攫いに来た時点で矛盾する。あの二人なら絶対に反対するからな。」
碧も岬も高嶺家と仲はいい。学校ではよくつるんでいるメンバーだった。

「溯夜、ソーンリームに召喚されている可能性は?」
「ソーンリームに召喚されているのならマロリガンのエトランジェは1人だな。」
俺の発言を頭でまとめているのだろう、レスティーナが沈黙し少し下を向く。

「つまり、こちらに召喚されているエトランジェを最大6人と仮定した場合、ソーンリームに一人召喚されてでもいない限りマロリガンには二人のエトランジェが居ると。」
「そ、数で言えば敵が二人でもラキオスとは互角だけどな。」
まぁ、エトランジェとして召喚されている二人の事を考えたら和平も結べるかもしれないが。
『結べないと思っていたほうが良いですよ、下手に希望を持つと後々面倒ですから。』
それもそうか。

「ユートとカオリがファンタズマゴリアにやってきてから1年、多くのスピリットが死にそして多くの命がイースペリアで消えました。戦争は出来ればしたくはないのですが。」
「ファンタズマゴリアって?」
前にもどっかで聞いたな。

「カオリが考えたこちらの世界の名称です、ハイペリアにはあってこちらの世界に名前が無いというのは不便だからと。」
「phantasmagoria 走馬灯か、言いえて妙だな。縁起のいい言葉とはいえないけど。」
「ハイペリアではそんな意味のある言葉だったんですか。ユートは教えてくれませんでしたから。」
「多分教えないんじゃなくて教えれなかったんだよ、あいつ自他共に認める馬鹿だからな。」
「それはどれくらい?」

「そうだな、この世界にも学校ってあるだろ。俺たちの学校は学年で大体300人くらい居るんだけど、その中で最下位を争うぐらい頭悪い。」
一応俺たちの学校は進学校のはずなんだけど、あいつの様子を見ると進学する気はなさそうだったな。
というか、同じ高校に頭のいい奴と悪い奴が居るっておかしくないか?何のための受験なんだ?

「言語に頭の良し悪しが関係あるのですか?」
「俺たちの世界だと言語は一つじゃないからな。将来のために学校でもう一つの言語を習わせるんだよ。」
高校英語は実社会で役に立たないとか言われているが、それは英語が出来ない奴の言い訳なのでは?とも考える。

「そうなのですか、と。話が脱線しましたね、話を戻しますが」
「マロリガンとの和平を結ぶためアプローチを仕掛ける、その後和平を結んでもらえたのなら帝国を叩く。これが大まかな方針だろ?」
「えぇ、事態に進展があったらまたお呼びするかもしれません、その時は。」
「多分拒否しないからいつでも呼べば良いよ。」
「ありがとうございます。」
レスティーナとの話も終わり部屋を出た。


And then, the stage of the story moves to the south.
Momentary repose brought the hero to despair.
The marionette murders each other well on the stage.
The fantasy of Loschmidt's number vanished.
And then there were none?
To the next chapter…

あとがき
二章完結しました。
二章が完結したということはつまり、次は三章マロリガン編な訳です。
三章は五話構成、しかも─────で、──────です。
最後なんで言いますが、ロシュミット数というのはアボガドロ数のことです。アボガドロ数が分からないという方は科学の教科書読んでください。


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