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エハの月 赤ひとつの日 アズマリアの墓
サルドバルト城から勝手にもらってきたティーセット、そしてこれまた勝手にもらってきた茶葉を使ってシリアが紅茶を淹れる。

「何をとってくるかと思ったら。」
「要らなかったか?」
「いえ、館のティーセットも消し飛んだし丁度いいわよ。」
明らかに高そうなティーセットに、あからさまに高そうな香りを出す紅茶が注がれる。
「流石に王家が飲む紅茶だけはあるわね。」
シリアの言葉に同意を示しながら紅茶を啜る。

「アズマリアの墓も綺麗にしたし、そろそろ帰る?」
『そうですよ、さんざん私を使ってお墓を綺麗に、もとい作ったんですからそろそろラキオスに戻って手入れをしてください。』
「あ〜、そうだな。そろそろ帰るか。」
因みに近くに転がっていた岩を『幽玄』で切り出し墓石にして、これまた『幽玄』で形を整えて字を彫ったのは少し前の話。

紅茶を飲み終え、原っぱに寝転がる。
「言ってる事としてることが逆ね。」
「時代を先取りした受け応えだ。
それと、渡すものがある。」
言って上着の内ポケットを探る、これでなかったらいい笑いものだな。
ポケットの最奥部(といっても平均的な深さのポケットだが。)に目的の物を見つける。

「わたしたいものって?」
「ほれ」
内ポケットから一つのペンダントを渡す。
龍の装飾に宝石が散りばめられたペンダント。

「これって、アズマリアの。」
「そ、どうせだからな。お前がもらっとけ。」
王族を王族たらしめるイースペリアの国章のペンダント。
レスティーナに会うときに見せたそのペンダントは今でも変わらず洗練された無駄の無い美しさを誇っている。

「・・・・・。」
ゆっくりと俺からペンダントを受け取り首にかける。
「飾り気の少ないメイド服にもあうな、うん。似合ってるよ。」
「そう?ありがとう。」
シリアはそう言いながら両の手の中でペンダントを遊ばせる。

澱みなくカットされた一色の宝石が混ざり合い万華鏡のような光を生む。
「きれい」
シリアの呟きも底の知れない宝石に吸い込まれるように消えていった。
そんなシリアを見ながらしばし目を閉じる。
『寝てもいいですがそのうち起こしますよ。』
どうぞ。

◆◇◆◇◆◇◆


空は晴れ渡り、点々と雲があるだけ。
少し前に『幽玄』に頭痛を持って叩き起こされシリアに水をかけられた。

「平和。」
「まぁ、一応北方五国は制圧したらね。でも、ラキオス王の事を考えると次はマロリガンかしらね。」
「どうだろうな、レスティーナが政権をとってもマロリガンか帝国と戦争するだろうな。」
「え、何で?」
シリアの疑問も最もかもしれないが、多分現ラキオス王でもレスティーナ王女でも戦争をするのは同じだろう。

「レスティーナ王女の目指すものと、性格から判断してだな。
レスティーナの目指すものは恒久平和とスピリットの開放。ま、まだあるんだろうけどね。
前者は他2国を制圧しないと得られないだろ、和平って手もあるだろうけど。今まで静観を決め込んでたマロリガンは何かあるんだろう、今のラキオスを潰せるだけの何かが。帝国も然りだ、もともと強国だしな。」

「成る程ね。」
「次にスピリットの開放だがこれも同じだ、自分のお膝元だけで解放をしても納得しないだろうな。
なら、他の2国を制圧しないとだめだ。」
「なんにせよ、戦争はあるってことね。」
シリアがティーセットを片付け始める。
「そうだな、今ラキオスは内政に手を焼いてるから少しの間は平和だろう。
戦争するにしてもある程度は睨み合いだろうし。」

草の薫りを鼻で受けつつ、蒼穹の果て無き大空と地平線を見る。
「まあ、高い確率でそうなるか。それより片付け終わったから帰るわよ。」
「はいはい。」
反動を付けて勢いよく立ち上がる。
「それで、帰る前に顔を洗う事をお勧めする。」
シリアの動作が止まりこっちを見る。
「涙の跡を残したまま帰るのも嫌だろ?」
「知ってたなら早くにいいなさいよ。」
空に果てはなく台地も青緑に彩られている、どこを見ても平和だ。

──────────────────────

エハの月 緑ふたつの日
「ん〜」
ガラスのコップを前歯で噛み器用に持ち上げる。
これがなかなかにきつい。

「おお、やっはほ。」
耐久時間最高記録達成。
『始めて挑戦したことですが。』
「まぁそうだけどね。」
コップを器用に置き、『幽玄』の言葉に答える。

「それぐらい暇なんだよ。」
『訓練でもしたらどうですか。』
「暇だな〜。」
『ですから訓練でも。』
「暇だな〜」
『ですから』
「暇だな〜」
『訓練でも』
「ひま゛っ」
鈍い音と共に顔面を机に叩きつける、否叩き付けさせられる。

後頭部と前頭部に激痛。
『コップをかわしただけ良しとしましょうか。』
額を机に押し当てたまま視線だけ横に流すとそびえ立つ透明の巨塔、もといコップ。
「そろそろ起きなさいよ。」
襟を掴まれ引き起こされる。

「で、何?」
首を持ち上げると同時に人の頭を背後から殴り襟を掴んで引き上げるという暴挙に出た野郎に問う。
「別に、あと野郎じゃなくて女だから女郎ね」
エスパーかよこいつは。

「暇なら──」
「嫌だ」
ゴッ!!
机よ、私は帰ってきた。

「暇なら訓練塔にでも来なさい、アセリアがいるから練習試合でもしてみたら?」
「お前がやればいいじゃないか。」
額をさすりながら涙目上目遣いで訴える。

「わたしはもう勝ってきたわよ、次はあんたの番。」
効果は薄い、というか全くない。
「なんで俺が」
『丁度いいですね、すごくいいです。』
「アセリアと」
『さぁ、訓練塔に言ってもまれてきなさい。』
「模擬戦なんて」
『重たい腰を上げて、曲がらない膝を曲げて進みなさい。』
「・・・・・」
テーブルの上のりんごを手に取る。

「それで、お前はアセリアに勝ったって言うけど」
当たり前に『幽玄』で皮を剥く。
『ち、ちょっ』
「俺とどっちが強いんだ?」
『や、やめ』
「さぁ、それを確かめるためにも模擬戦してきなさい。」
わざと擦り付けるようゆっくりと皮を剥く。
『ごめんなさい。』

「よし、なら訓練塔に行くか。」
剥き終わったりんごをシャリシャリ言わせながら立ち上がる。

──────────────────────

同日 訓練塔
目の前には『存在』を構え普段以上の気迫を見せるアセリア。
「よっぽどシリアに“負けた”のがこたえたか?」
アセリアが“負け”という言葉にピクッと反応する。

「そんなことない」
アセリアが強がってはいるが。
「そっか、でも負けたんだよな」
支離滅裂な文だがやっぱり“負け”と言う言葉にピクッと反応する。
ん〜、かわいいな。

『それよりも、拭いてくださいよ。』
『幽玄』はりんごの皮むきをしてから一度も拭いてない。
まぁまぁ、りんご味の神剣ってアヴァンギャルドでいい感じでない?
『全然』

終わったら拭くよ、靴下でな。
『・・・・たとえ32那由他歩ほど譲ったとしても靴下はだめです。』
アボガドロ定数歩譲ってくれ。
『それでもだめです。』
トリウム崩壊系列歩譲ってくれ。
『アボガドロ数から少なくなりすぎです。』
42.195歩譲ってくれ
『もういいです、さっさと模擬戦始めなさい。因みに試合後私を拭かなかったら、酷いですよ?』
・・・しっかりと拭かせていただきます。
『よろしい』
あ〜、怖っ。

「さて、そろそろ始めようか。」
「ん」
アセリアからの気迫が高まる、『存在』は下段に構えられている。
「ん〜、ナナルゥ合図してくれ。」
「分かりました、ではこのコインを投げますからこれが地面についた瞬間から始めです。」

ナナルゥがコインを上空へ向けて親指で弾く。
コインは綺麗な放物線を描き、対面する俺とアセリアの間を通る。
アセリアが『存在』を握る腕にさらに力を込める。
俺は『幽玄』を刀状にし、腰を少し落とす。
コインが俺の膝の高さを通過する。
アセリアは前傾姿勢になる。
俺はコインを視界の端に収め『存在』を凝視する。
・・・・・チ
コインの端が地面に着くと同時にアセリアが視界から消え、次の瞬間視界が暗転する。
チャリーン
アセリアの体で光が遮られ擬似的な闇が作られる。

「やあぁぁぁぁ!!」
剣が俺を断ち切らんと迫り、送れて声が届く。
『存在』は俺の腰から肩にかけて袈裟に切り裂く。

だがアセリアには、そこに肉を断つ音も、ましてや感触もついてこない。
「!」
アセリアが目を凝らしてみれば『存在』が腰に入ったのを見たのに、次の瞬間既にそこには俺の姿がない。

「まったく、予想外の出来事が起きたからってそんな焦ったらだめだな。」
背後からアセリアの青い髪を貫き首元に『幽玄』を突きつける。
「っ」
アセリアの纏まった髪が少し揺れる。

「さて、俺の勝ちかな?」
『幽玄』はそのままに軽い口調で問いかける。
「・・・・」
アセリアが『存在』を下ろす。
それを見て俺も『幽玄』を下げ、ナイフに戻す。

『ちゃんと拭いてくださいよ。』
分かってるって。
「はい」
言って右手を差し出す。
「・・・・ん」
アセリアも右手をだし握手する。
その顔には不満が隠す事無く表れている。
いや〜、2連敗はそれなりにきつかったか。

──────────────────────

エハの月 緑みっつの日
「日付が変わってもやっぱり暇だな。」
『平和ということですよ。』
「なら、平和はつまらないな。」
『なら一人先走ってマロリガンか帝国にでもけんかを売りに言ってはどうです?』
「それもいやだな。」

今度は陶器のティーカップを歯で持ち上げようと試みる。
口を軽く開け、狙いを定める。
そしてその白く透き通ってはないけど綺麗なカップの縁に歯を──

「あ」

カップは俺の歯によって今まさに大空へ羽ばたこうと言うときに、天より舞い降りた5本の触手を持つ何かに掴まれてさらに高い宇宙へと舞って行った。まぁ、手だけど。

「何やってんのよ、いくらただって言っても高いものは高いんだからね。」
またもやシリアに邪魔された。
「それよりお客さん。」
「へ?」
間抜けここに極まりといわんばかりの間の抜けた声をあげる。

「あの、先輩。」
シリアに向けていた顔を声の方向に向ける。
「あぁ、妹か。」
「あの、先輩。お兄ちゃんとオルファと私で遊びませんか?」
「は?」
また間抜けな声をあげる。
「遊ぶって、カゴメカゴメでもするのか?」
『なんでカゴメカゴメ』
「カゴメカゴメ・・・・。違いますよ、えっとお話でも。」
あ〜、なんか恥ずかしい。

「ん〜」
机に頭を乗っけて考える。
現状が退屈で仕方ないのは分かっている、だが動くということが身体的よりも精神的になんだかとてつもなく苦痛であるということも分かっている。
このままコップを前歯でかじりながら時間をつぶすか、それとも動きたくない体にろうそくのロウをたらしながら移動するか。

「そうだな、ここで伸びる前歯を削っていても退屈なままだし行かせてもらうよ。」
『貴方の台詞はどうすれば脳内補完できるのでしょうねえ。』
「? そうですか、ありがとうございます。」
深々とお礼をするその姿にランドセルの中身をぶちまける小学生を幻視する。

「どれ、じゃあ行ってくるか。」
ゆっくりと緩慢に腰を上げる。
「行ってらっしゃい。」
「あの、シリアさんも一緒にどうですか?」
「そう?ならご一緒させてもらおうかしら。」
「あ、ありがとうございます。あの、後でお茶の入れ方教えてくれますか?エスペリアさんがシリアさんはラキオスで一番お茶を淹れるのが上手だって聞いたんで。」
「いいわよ、ただわたしの技を一朝一夕で盗めるとは思えないけどね。」
「頑張ります。」
なぜか気合をいれる妹。

「お〜い、行かないのか?」
「あ、ごめんなさい。」
「そんな急かさなくてもいいじゃない、時間に必要以上うるさいと嫌われるわよ。」
『そうですよいつもそんなに切羽詰った生き方をしていると周囲に余裕のない人間だと思われますよ。』
畜生、俺はなんでここまで言われなければならんのだ。

◆◇◆◇◆◇◆

「いらっしゃいませ〜」
オルファの案内で部屋に入る。
「いらっしゃいました、と。」
「ん、ああ黒霧か。」
「お邪魔します。」
「邪魔をするつもりはないけどね。」
部屋に着くと既に高嶺が椅子に座ってボーっとしていた。

「気が抜けすぎじゃないか?」
「いや、最近平和だからな。」
「そんなだからこの前の精神安定訓練で」
「あ!そうだよお兄ちゃんダメだったんだよ。」
俺の後ろからお茶菓子を持って現れた妹の言葉に高嶺が過剰反応する。

「う、それを言うならオルファも」
「あ〜?道連れって奴か、みっともないな、高嶺。」
俺の言葉に肩が強張る。実に分かりやすいな

「う、うぅ。そ、そうだ!あの訓練のときお前何処にいたんだよ。」
おされ気味の高嶺が8回裏で逆転のホームランを決めたかのような顔になる。
「何言ってんだか、訓練に出てなかったら当然サボってるに決まってるだろ。」
だが9回表で俺に再度逆転される。

「因みにわたしも一緒にサボってたわ、溯夜の事は覚えていてわたしのことは忘れているのかしら?」
同じく9回表で追撃の2ベースタイムリーヒットを打たれる。

「お兄ちゃんシリアさんの事忘れてたの?」
9回裏妹の登板、全てのバットが空を切り三アウト。

「あ、え、それ、は。」
視線を部屋中に動かしどうにかして逃げ道を探そうと躍起になる高嶺。
「パパ〜、忘れるなんて酷い〜。」
視線の行く先にオルファが常に立ちはだかる。

『言葉の切れ味はいいですね。』
だから、OLFAと関係は無いだろ。
『そしていつの間にかサボっていた事がお流れになっているのも興味深いですね。』
日頃の行いだ。
『神様もいい仕事していますね。』
本当に。

「それで、何時まで隊長を虐めるのかしら?」
オルファと妹が口と足を止める。
「え、えぇっと。」
兄貴を追求したい、だが客である俺たちを放っておくわけにもいかない。なんて考えているのだろう、慌てた顔に分かりやすく現れている。

高嶺はのらりくらりと逃げた俺を複雑な顔で見ている。
オルファも何とか自分の成績不振を問い詰められなかったことにほっとしている様子。

「えっと、そこの椅子に座ってください。」
どうやら兄貴は一時保留されたらしい。
「ありがと」
背もたれを引き椅子に座る。

「あの、シリアさんも」
「ありがとう、けどわたしは立ってるほうが楽だからいいわ。」
「そうですか、わかりました。」

その後しばしの間高嶺達と雑談をし、紅茶を飲みながらぼ〜っとする。
脳内で俺がそろそろ宇宙を巡って最初の場所に戻ってきて相対性理論を悟ろうとする直前に。

「あのっ、シリアさんの淹れた紅茶が飲みたいんですけど。」

妹の提案で俺の宇宙船地球号は進路を乱し宇宙の塵と消えた。

「・・・まぁ、それくらいなら。」
紅茶の淹れ方を教えるって約束を忘れたのかよ。
『忘れているかもしれませんね、シリアですし。』
シリアだしな。

シリアが空になった紅茶のカップとティーセットを持って一度部屋を出る。
「それじゃ一度洗って食堂でそのまま淹れてくるわ。」
「あの、ここで淹れてほしいんですけど。」
妹の提案に今度はシリアの足が止まる。決して俺の宇宙船地球号見たく座礁はしない。
「分かったわ。」
今度こそ部屋を出る。

シリアの姿が扉の向こうに消え、足音が聞こえなくなると。(元からあいつは足音を立てないで歩くが。)
「先輩、シリアさんの淹れる紅茶ってあのエスペリアさんが褒めるほど美味しいんですか?」
「え、そうなのか?」
高嶺が妹の発言を聞き髪を逆立てて驚く。

『元から万有引力に逆らって彼の髪は立っているでしょう。』
髪に骨でもあるのかね。

「あ〜、シリアの紅茶ね。はっきり言ってこっちに来てからあいつの淹れる紅茶以外飲んでないからな。」
「「「え!?」」」
今度は3人そろって驚く。
「いや、自分で淹れたときもあったかな。まぁ、俺が淹れたのと比べるとかなり差は出てるな。」

ガチャ
「何話しているのかしら?」
また足音を立てずにシリアが戻ってくる。

「お前の淹れる紅茶はどれだけ美味いのか、って話してた。」
「そう、とりあえず一国の女王を満足させる程度ではあるわ。」
シリアは言いながらカップを並べる。

ポットの中に茶葉をいれお湯を注ぐ、普段と比べるとかなり簡素になっているがそこには見惚れるほどの気品さがある。
注がれたお湯はポットの中で茶葉と共に舞い踊り自らを紅に染める。
急須からカップへと注がれたお湯は先程まで透き通った透明であったことを忘れ、今ある紅色こそが自身の色なのだと主張するかのように陶器のポットから流れ出る。

その間皆が示し合わせたかのように無言、俺もシリアが話しかけない限りは普段もお茶を淹れている間に話しかけるなんて無粋なことはしない。

全てのカップに紅茶が注ぎ終わる。

「どうぞ」
シリアの宣言と共に俺を除き皆が自分のコップを手に取る。

「あんたは飲まないの?」
「飲むよ、後でな。今日は猫舌なんだよ。」
背もたれを使って体を伸ばしているとようやく3人から声が戻ってくる。

「はぁ〜」
妹の声
「ん〜」
オルファの声
「美味いな」
高嶺の声

三者三様別々の言葉だったが感嘆詞以外の言葉を上げたのは高嶺だけだった。

「同じ葉っぱなのにこんなに差が出るのか〜。」
感心したであろう声をあげる妹。
「これは淹れ方教えてもらわないとダメだね。」
そして気合をいれる。

その後シリアが妹に紅茶のレクチャーをし、オルファと高嶺と俺は3人で適当に雑談を交わして、とりあえず俺は暇をつぶした。

「所で黒霧」
今度は想像でブラックホールの上に立つことが出来たらそこから見える宇宙はどんな姿なのかを幻視していると、高嶺の提案で俺もブラックホールに飲まれた。なんてこったい。

「昨日アセリア何かあったのか?」
「あ〜?アセリアのことならお前の方が詳しいだろ。」
「でも、昨日のアセリアさんいつもよりピリピリしてた。」
「そうなんだよ、気になって聞いてもいつもどおりに「なんでもない」だからな。」
昨日?何があったっけ、暇だったってことしか───

「あ、あぁ。そうだ、俺と模擬戦したな。」
「そういえばそうね、因みにわたしともしたわよ。」
ようやく思い出した。

「そうか、それでアセリアは負けたのか。」
「そ、俺とシリアに二連敗。俺は初手で、シリアは?」
「わたしはわざと一点に縫い付けて遊んだわ。ギリギリ弾けるけどそこから動けない程度に調整してね。」
ひでぇ。

「・・・・あのアセリアが。」
「高嶺はどうなんだ?」
「一度も勝った事がない。」
『それもそうでしょう、彼の剣技は粗悪品もいいところです、ただ『求め』の力でのゴリ押しですからね。ラキオス軍の侵攻方法と何らかわりません。』
あ〜、そういやそうだな。

「マナ量に物を言わせて叩き潰したら?」
「それはダメだ、そんなので勝っても納得できない。」
「律儀なことで。」

──────────────────────

エハの月 黒よっつの日
退屈を紛らわすために今度は城に忍び込む。
『貴方も飽きませんね。』
とりあえず城の外壁を見渡し、死角を見つける。

「まぁね、人間いつ死ぬか分からないんだからな、退屈は人生の敵だぜ。」
『前後の文のつながりが希薄な気がしますが?』
「これぐらい普通だろ。」
外壁を一周し湖側の壁から進入することにする。

目標の窓と高さに目をつけると一気に垂直の壁を駆け上る。
「今までこの能力って足が速くなる程度だったんだよな。」
『そんなこと無いですよ、以前木の枝から枝に飛び移るなどといった業も成していましたよ。』
そうだったかな。

壁を走ることは出来ても壁に止まることは出来ないので中の確認をする事無く窓を破り進入する。
ついでに窓を蹴破った時に何か蹴り飛ばした気もする。

カーペットの敷かれた廊下に着地し、軽く体を払い、その時服についていたガラス片で指を切ってしまう。
「イタヒ」
パックリと開きにされた人差し指の腹を眺め、咥える。

「傷は嘗めれば治るって言うよな。」
『殺菌作用があるらしいですしね。』
指を咥えながら蹴り飛ばした窓とそこに転がる何かを見る。

「・・・スピリットか。」
服装からしてラキオスの者ではないブラックスピリットがヘルメットに俺の足型を残して転がっている。
「そんなに強く蹴ったかな」
ヘルメットについた足形は目測で深度はおよそ2mm
「う、ぅ」
もぞもぞとブラックスピリットが動き始める。

「こ、こいつ動くぞ・・・!」
『ダマレ』
とりあえず起きる前にカーペットを細ギリにして紐を作りスピリットを縛り上げる、千切られるかもしれないからそれはもう何重にも。

腕と足を縛り正座の状態にして両足を縛る。
『縛る縛る縛るって変態ですか。』
多分違う。

「こんなもんか。」
見下ろした先には赤い元カーペットで縛られたスピリット。
「さて」
ヘルメットを取り、頬を切ってない方の人差し指でつつく。

「ん、」
ゆっくりと眼を開けるカーペットまみれのスピリット。

「!」
すぐに現状を把握したようで体をよじって縄抜けを試みる。

頬を突付いている俺を見ないのはどういうことだろうか、避けられているのか?
5,6回突っついても無視するので今度は引っ張ってみる。

「お、気付いた。」
こっちをせっかく整った容姿が台無しの顔で睨んでくる。

「そんな怒るなよ、事情を聞いたら開放するかどうか考えてやるから。」
奪っておいた神剣をちらつかせながら告げる。
すると無駄だと悟ったのか、抵抗をやめおとなしくなる。

「それで、何が聞きたい。」
「素直だな。 まぁ話してくれるんだしそのほうがいいか。それじゃ一つ目、何しに来たの?」
『誰かは聞かないのですか?』
忘れてた。

「隊長と共にラキオスに侵入する。」
「それだけ?」
「それ以上は言えないな。」
そう告げると口を閉ざすスピリット。

「ここに進入した人数は?」
「・・・・」
「進入してどうする?」
「・・・・」
ダメか、流石に何か揺さぶれる物でもないと。
けど、何も無いしなぁ。

というか何で派手に窓を破ったのに誰も来ないんだ?
「誰も来ないのが不思議か?」
「あぁ」
シリアも含めスピリットは人間の考えている事を見透かすのが得意なのか?

「神剣を鞘から抜いてみればいい。」
日本刀の形をした神剣を鞘から抜く。

「へぇ・・・・成る程」


白銀を予想した刀身は俺の予想の斜め47度上を行き真っ赤に染まっていた。


To be continued

あとがき
分かっているとは思いますが、おっちゃんがそろそろ死にます。
今回のお気に入りのシーンはシリアが紅茶を淹れるところ、十六夜 咲夜をイメージしながら書きました。
描写はありませんでしたがちゃんと蒸らしています。

溯夜が作中で発言した「かごめかごめ」ですが、溯夜の中でどんなものが展開されていたかは本人次第です。案外自機を囲むように格子状に展開される弾幕を想像していたかもしれません。

書いていていつも思うんですが、あとがきを読む物好きなんて居るんですかね?


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