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ルカモの月 青ふたつの日 ラキオススピリット第二詰所 食堂
「あ〜。」
こっちをさまざまな視点で見てくる目、目目目目目・・・・・
「元イースペリアのエトランジェ溯夜だ、ここに住むことになったからよろしく。」
不味い、居心地が悪い。
中には「よろしく〜」なんて明るく返事をしてくれるものも居るが大抵が俺を観察するような、いや事実観察しているであろう目を向けてくる。
『やはりこうなりましたか。』
どうにかならないかねぇ。
『私には何も出来ませんね、一人孤独にがんばってください。』
「それで、サクヤ様。サクヤ様はこれからラキオスのエトランジェとして戦われるのですか？」
冷静で知的な雰囲気を纏ったブルースピリットが話しかけてくる、確かセリアって言ったかな。
「いや、俺にも都合ってのがあるからな、俺の用事が済んだらラキオスのエトランジェとして戦うよ。」
「用事、ですか。」
「あぁ、俺の部屋の隣に連れのブルースピリットが居るだろ。あいつ神剣に取り込まれちまったからな、元に戻さないと。」
「シリアさんですね。」
「知ってるのか、案外有名？」
「えぇ、アズマリア陛下がラキオスを訪問された際には常に側に護衛として来ていましたね。」
「まがいなりにも王宮警護隊、か。」
椅子の背もたれに背を預け話を聞く。
「何度か模擬戦をしたことがありますが一度も勝てませんでしたね、近づくことすら出来ませんでした。」
「え、そうなの？」
近くに腰掛けていた中途半端なフルフェイスのヘルメットを被っているブラックスピリットがセリアに質問する。確かファーレーンだったかな。
「えぇ、とても強かったわ、私より若いのにね。あと紅茶を淹れるのがとても上手だったわ。」
「へぇ〜」とかなり若い、むしろ幼い部類に入るであろうブルースピリットの二人が感嘆詞をあげる。えっと確か自称双子のネリーとシアーだったかな。
「まさか、神剣に飲まれるとは思いませんでしたが。」
セリアの台詞を受け皆の視線が髪を短く切っているレッドスピリットにあつまる。えぇっと、ヒミカだったよな。
「あなたの身の上の話は分かりました。信頼、とまでは行きませんが信用だけはします。」
「どうも。悪いけど今日はここで休ませてもらうよ。夕飯はいらない。」
「分かりました。」
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ルカモの月 青みっつの日 新シリアの部屋
「さてと、こいつをどうにかする方法を考えますか。」
『そうですね、彼女がこのままだと調子が狂う。』
紙とペン、それと頼んでおいた資料を机の上に並べる。
「資料は見たけど大して意味は無かったな、前例が無い事だけがはっきりとしただけだ。」
『それだけは仕方が無いですね、とりあえずまとめてみたらどうです。』
「いや、まとめても。今までに神剣に呑まれた心を取り戻した事例は無いって位だが。」
『はぁ、神剣がどのようにして心を取り込むかも書いてないのですか？』
「あぁ、どれも仮説だが一番多かったのは「スピリットの心を神剣の色に染めている。」ってやつだな。」
『成る程、そういう考え方をされていたのですか。』
こいつは治す方法を後で教えるといっておきながら自分で考えろといいやがった。
なんでも『どの道今はどうしようもありません、なら少しは自分で考えてもいいんじゃないですか？ あなた課題は提出日前日に答えを写すタイプですね？』だそうで。
しかも当たってるんだから腹が立つ。
「と、言うことは実際は違うって事か。」
『えぇ、実際はスピリットの心を覆い隠すと言うのが正しいですね。』
「へぇ、なら覆いかぶさっている神剣の意思を引き剥がせれば。」
『シリアは戻ってきます。今まで神剣に呑まれたスピリットに心が戻らなかったのは元から自我を強く持つ教育がなされてなかったのも原因の一つでしょう。』
『人間は、肉体と精神と魂で出来ています、これはスピリットも変わりません。乗っ取られているのは精神なんですから、これをどうにかすれば治りますよ。』
「成る程。それで、簡単に引き剥がせるものなのか？」
『いえ、かなりの量のマナを必要とします。』
「それって、俺たちでどうにかなるのか？」
『無理ですね、回復しきっていないあなたもですし、私もこれ以上はマナを消費できない。』
「ちっ。」
ペンを投げ椅子の背もたれに体重をかける。椅子はミシと音を立てた。
少しの間天井を眺めていると。
コンコン
「黒霧、居るか？」
「高嶺か、居るよどうぞ。」
高嶺が扉を開け入ってきた、いつかの緑いのも一緒だ。
「サクヤ様以前は失礼なことをして申し訳ありませんでした。」
「気にするな。それよりなんだ？」
椅子を二人に勧め紅茶を淹れる。
「ありがとう。」
高嶺が礼を言い、紅茶を啜る。
「それで話なんだが。ラキオスはサルドバルトに対して抗議をして＜龍の魂同盟＞を破棄して宣戦布告することになった。」
自分の紅茶の水面を見て一言、「そうか」とだけ言う。
「話はそれだけか？」
「あぁ、まあ。それ、だけだけど。」
「そうか、なら帰ってくれ。俺は忙しい。」
「あの、シリアの様子を診さしてもらってもいいでしょうか？」
エスペリアが質問してくる。そちらに少し視線を向け。
「好きにしろ。」と自分でも驚くくらい冷徹に告げる。
『溯夜、冷静になってください。』
うるさい。
「黒霧、お前いいすぎじゃないか？」
「お前らがマナ消失を起こしといてよく言うよ。」
『溯夜！！』
高嶺とエスペリアの表情に影が見える。
失言だった、二度と言うまいと決めていたはずだった。なのに言ってしまった。
「自分たちのやっといたことはすっかり忘れてしかも自分たちのやったことを他人に押し付けるか。」
失言だと分かっているのに、言うべきではないと分かっているのに俺の口は止まらず最低な言葉を紡ぎ出す。この前の繰り返しだ、成長しないな。
「俺、達は、そんなつもりじゃ。」
『溯夜、冷静になってください。あなたらしくも無い。マナ消失直後での繰り返しですよ。』
「・・・クソッ」
顔に右手を当て左手で机を強く叩く。その衝撃で俺のコップは倒れる。
ギリッ、奥歯がくだけんばかりに強く歯軋りをする。
「悪い、今は一人にしてくれ。」
手を強く握り、二人の顔を見ずに言い放つ。
「あぁ、分かった。エスペリア行こう。」
「分かりましたユート様。」
二人は俺の部屋を出て行った。
「チッ。」
椅子に大きな音を立て座る、あんなことを言ってしまった自分が情けない。
『溯夜。』
机の上の『幽玄』を手に取り部屋を出る。
廊下でヘリオンとすれ違った。
「サ、クヤ様。」
かなり怯えた顔だ、今の俺はそんなにひどい顔をしてるのか。
何か言いたそうなヘリオンを無視して館から出る。
「はは、情けない。」
果てなく続く蒼穹を見つめ走り出す。
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ルカモの月 青いつつの日 ラキオス北西の洞窟
ゴォッ、正面から突風が迫る、それを右にかわし龍に肉薄する。
振りかざした刀サイズの『幽玄』でもってがら空きの腹を切る。
「グォオォ。」
傷口から鮮血が飛び散る、そのまま龍から離れ間合いをとる。
思考はクリア、体の全部位が四肢が細胞が目前の敵を殺せと訴える。
再度龍に肉薄、マナを消費した完全とはいえない状態で最高時以上の性能を発揮する俺の体。
龍は狭い洞窟内を飛翔し光線を放ってくる。
俺は速度を落とすことなく、むしろ加速しながら上空からの直線の軌道に対し横の高速移動を繰り出す。
『溯夜───』
『幽玄』なにか言いたそうな言葉も耳に入らない。頭の中はいかに殺すかしか思考できない。
場所は洞窟、敵は上空、とは言っても大して高い場所にいるわけでもない。
「高砂の 尾の上の桜 咲きにけり────」
『幽玄』に桜のコーティング、龍の真下で刺突の構え。
「外山の霞 立たずもあらなむ───。」
「うざってぇんだよ、この爬虫類が！！ 切られて、切られて、切られて、切られて！！ 細切れになって！！」
「死ね！！」
ゴッ、爆音を上げ龍へ向けて『幽玄』を手に突進する。桜の花びらを持って自身を持ち上げる、桜の花びらを持って自身と『幽玄』を龍殺しの槍に作り変える。
龍は俺の攻撃に対し口から咆哮と共に光線を吐き出す、光線と花は空中でぶつか衝撃を生む。
その衝撃に洞窟は揺らぎ、天井から石が岩が落ちてくる。
そして花は光線を穿ちその先にある開かれた口に吸い込まれる。
空中で停止する、真下には首の途中から先の無い爬虫類っぽいもの。
「はははは、魔龍なんていってもたいしたこと無いな。」
『幽玄』を振り下ろす、羽が切り飛び、首があったところからは鮮血と金の煙が上がる。
もはや死体となった魔龍の体を狂気で切り刻む。
「はは、なんだよそれ。こんなさっさと死ぬなよ、俺を殺してみろよ。」
桜で巨大化した『幽玄』を振り回し、腕を切り、足を刻み、背を穿ち、腹を抜く。
凶行は龍が完全にマナに戻るまで繰り返された。
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同日 ラキオス北西の洞窟
「・・・」
『溯夜、あなたはどうかしている。』
洞窟の壁に背を預け足を投げ出し『幽玄』を立てかけ何をするわけでもなく対面の壁を唯視界に入れるのみ。
『本当どうしたのですか、あなたらしくない。いつものあなたは何処に行ったのです。』
「・・・」
俺らしくない、か。
『あなたが今どんな顔をしているかわかっているでしょう？』
そりゃ、ヘリオンの表情を見たらな。
『なら、シリアが目覚めたとき。その顔でシリアに会うのですか？』
「・・・・・」
『もう少し、自分に素直になってもいいじゃないですか。』
・・・・
「自分に、素直に、か。」
左手が背後の壁を叩く。
「こんなことなら、こんなことになるならっ────っ！！」
幼少時に流して以来一度も流したことのない涙が頬に2本の線を引く。
「もっと、もっと早くに気付いていればっ！！」
背中を預けている石壁を左腕で何度も叩く、回数を重ねるごとに威力は上がり、石の壁はひび割れ、左腕は血にまみれる。
「別に、大きなことは望む必要は無かった、ただあいつが側にいてくれれば、それでよかったっ！！」
止まらない涙で覆われた目を、血で濡れた左手でさらに覆う。
『別に、遅くも無いですよ。ちゃんと気付いたのならね。
シリアも治せます、シリアが自分を取り戻したなら、望みをかなえられるよう努力すればいいのですよ。』
「・・・・遅く、ない、か。」
『えぇ』
「そうか、なら。大丈夫、だよな」
『もちろんです、あなたもシリアも一人ではないんですから。』
涙を流しつつ上を向く、岩肌の天井に無窮の煌きを放つ星を幻視する。
「当面の目標は、改めて二人でアズマリアの墓参りをする。」
立ち上がり、立てかけていた『幽玄』を手にとる。
「いや、三人か。」
『忘れられたかと思いましたよ。』
軽く『幽玄』を振る、風を切る音が洞窟内をこだまする。
「そのためにも今はマナを集めないとな。」
『あなたも本調子に戻ったようですし、まずは門番レーズのマナ結晶が出来ているはずですからそれを回収しますか。』
「マナ結晶体？なんだそれ。」
『マナが瞬間的にかつ大量に開放されると全てのマナが大地に還らず一部が結晶として固体化したものです。大体開放した全体の10分の1から5分の1程度のマナが結晶体として残ります。』
「ふ〜ん、結晶ねぇ。」
レーズの死体があった辺りを見渡す。
「これか」
丁度死体の首の辺りにあったであろう所に透明な結晶が落ちていた。
「で、これが大体何個いるんだ？」
『一つでも可能なことは可能ですがあなたの回復にも充てたいですし、何より安全圏を狙うのなら3個ですね。』
あと3個か、レスティーナに聞いてみるかな。
『彼女には女王という立場があります、マナ結晶体なんてもの見つけたら開放して自国の産業に充てなければならないでしょう。』
「駄目か。しかたない、地道に行くか。」
結晶を仕舞い洞窟を出る。
「それで、次の質問だエターナルって何だ？」
『エターナルとは3位以上の永遠神剣と契約を結んだ者の事を言います、エターナルは総じて不老不死とされ、世界の壁を自由に越えることが出来るといいます。』
「ふ〜ん、つまり俺みたいに無理やり世界の壁を越えて召喚されるわけじゃないってことか。」
『恐らくそうなのでしょう、補足するとすればエターナルはエトランジェやスピリットと隔絶した力を有しているということですか。』
「それはまぁ、この前殺しあったし分かってるよ。」
洞窟を抜けようやく真の無窮の煌きの下に出る。
「エターナルのことで他には？」
『他は知りません、唯派閥があるということぐらいですね。』
「そうか、今まであったエターナルは全員同じ派閥かな。」
『恐らく、タキオスと少女はセットで現れましたし、二刀の成年も恐らく同じ流れのエターナルでしょう。』
天を見上げつつ街道を歩く。
「エターナルねぇ、また殺しあうことになるのかな。」
『あなたはイレギュラーいちいちそんなことを考えなくてもいいんですよ。あなたの進んだ道が運命となり、周囲を巻き込む渦となる。』
「聞き様によってはかっこいいんだがねぇ、唯のトラブルメーカーじゃないか。」
『イレギュラーはえてしてそういうものです。』
「そういうことにしとくか、エターナルはとりあえず保留だ。
今はシリアのことだけを考える、俺が俺に約束したからな。」
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ルカモの月 赤ふたつの日 ラキオス謁見の間
「二日ほど前ラキオスの北西にある洞窟に住む魔龍レーズが滅ぼされマナに還った。」
ラキオス王の気色悪い笑みが謁見の間に事実を伝える。
昨日の昼ごろ帰ってきて、朝っぱらから呼ばれたと思ったらそんなことか。
『眠いですか？』
神剣はいいよな、寝る必要ないし。
『私だって眠りたくなるときぐらいあります。夢は好きですからね。』
「これで、我が国はまた大量のマナを手に入れたわけだ。だが、果たして魔龍レーズを打ち滅ぼしたものは誰なのか。」
あ〜、気色悪ぅ。
『これはこれである種魔法ですね。』
「エトランジェよ。」
「は」
高嶺が中世の騎士みたく返事をする。
「お前か。」
「いえ、違います。」
ん〜、普段とはえらい違いだ。
「では、サクヤあなたですか。」
レスティーナが国王の言葉を引き継ぐ。
「だったらどうする。」
「お礼を言います。」
『父親の逆鱗に触れさせないために自身があなたに話を聞く、出来た人物ですね。親の何処に似たんでしょう。』
反面教師だろ。
「あ、そ。ま、確かに二日前に北西の洞窟で龍を殺したのは俺だけど。」
俺の言葉を聴き、レスティーナ以外の連中がざわめき立つ。
「なんだ、殺したら不味かったのか。」
『役者ですねぇ、まぁ嘘を言っているわけでもないですけど。元の世界にかえったらオスカーでも狙ったらどうです。』
無理だな。
『当たり前じゃないですか。』
・・・・・
「ふふ、龍を殺した、か。しかも、一人で、さすがはラキオスのエトランジェ。」
ラキオス王の笑い声が響く。
「話がそれだけならとっとと帰らしてくれ、眠いんだよ。」
「ふむ、何か褒美がいるのなら取らせるが。」
うわぁ、よっぽど上機嫌なんだな。
『サルドバルトの国力がラキオスを上回っていたからでしょう、今の時期に大量のマナを得るということは有利に立てますからね。』
「あ〜、じゃぁ。一つ。」
「何だ、言ってみろ。」
「新しい茶葉が欲しい。出来るだけ高いやつな。」
「それでいいのですね？」
レスティーナが聞いてくる。
「いいよそれで。ま、このマナを使って賢く戦争するといいよ。」
背を向け玉座に後ろ手で手を振り謁見の間を退室する。
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同日 ラキオススピリット第二詰所 食堂
以前と同じ用に俺を観察するような目、目目目目目・・・・
「今回は皆に謝っておくことがある。」
「謝っておくこと、ですか？」
セリアが代表して疑問を投げかけてくる。
「あぁ、今まで険悪な雰囲気を出して悪かった。」
頭を机にギリギリ着かない程度に下げる。
「あ、あの。頭を上げてください。」
「・・・・。」
大体1分ほど頭を下げていただろうか。
「本当に悪かった。」
顔を皆に向け再度謝る。
「もう、いいです。昨日遅くに帰られてから分かっていました。」
「えぇ、雰囲気が全然違いましたからね。」
「うんうん、何かぎすぎすしてたのが全然なくなった。」
ネリーの台詞にシアーが同意し、皆が頷く。
「ですが、やっぱり罰は受けてもらわないといけませんよねぇ。」
「ハ、ハリオン！！」
声をあげるヒミカを制し、ハリオンに話を促す。
「罰って？」
「ハイペリアの料理が食べて見たいですねぇ、後お菓子も食べてみたいです。」
硬直
「俺に料理をしろ、と？」
「はい♪」
「ついでにお菓子も作れと？」
「えぇ♪」
不味い、非常に美味しくない。
『料理は出来るんですか？』
確かに、家で一通り叩き込まれた、和食と中華ならそこそこ。
「材料とかって大丈夫なのか？」
「さぁ、どうでしょう。大丈夫じゃないですか？」
『それでお菓子のほうは？』
っ・・・。出来るわけがない、和菓子も教えてもらったがてんで駄目だったよ。
『不味いですね、ハリオンは期待しまくっていますが。』
不味い、不味い。俺に作れるお菓子を脳内でリストアップ。
１． クッキー （こっちの世界にもあるから駄目だ。
２． ケーキ （これもある。
３． たこ焼き （もうお菓子ですらない。ていうかたこ焼きを作るプレートがない。
４． おはぎ （被るから駄目だ。何に被るかは分からないが被るからダメだ。
ギリ、思わず歯軋り。
「あの、サクヤ様そこまでお悩みになられなくても。」
セリアの言葉も耳に入らない、第一俺の料理とお菓子に期待している他のメンバーを見たら断るなんていえない。
何かないか何か、料理のほうはどうとでもなる。
だが問題はお菓子だ、この世界になく誰でも食べられるものがいい。
『なら甘いものですね、あなたの国の和菓子なんて丁度いいのですが。』
たいやきか、餡は問題ない、だが皮だあんなの作れない。
『駄目駄目ですね』
何かないのか？俺の知識の丘から探し出せ！何かあるんだ！！
「あ」
思わず口に出た、しかしそれほどの驚き。
「どうかしましたか？」というセリアの疑問を耳に入らない。
あるではないか、この世界で一度も口にしたことがなく、かつ甘く皆が食べれるであろうお菓子。
「いや、分かった昼は無理だけど夜は俺が作るよ。」
「いいのですか？」
「あのな、セリア。皆の顔を見て出来ないなんていえない。」
セリアが周囲を見渡す。
「そうですね。」
半分ほどのスピリットが俺の世界の料理を幻想し思い巡らせているのだろう。
「そうと決まれば市場に行くか。」
「お金は大丈夫なのですか？」
「あぁ、アズマリアにもらった分があるからな。こういうときに使わなかったら使うときがない。」
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同日 ラキオス城下町
「ん〜、こんなもんか。」
両手には恐ろしいほどの食材。
『詰所のほうにもいくらか食材があるのでは？』
あるだろうけどね、確認するのを忘れた。
『どこか抜けていますね。』
うるさい、とりあえず一通り買い揃えた。後はお菓子だな。
『何を作るのですか？』
知らないのか？
『えぇ、契約者の考えを覗くことも出来ますが。あまりいい趣味とはいえないでしょう？』
あぁ？それにしては今はこうして会話してるが。
『あなたが私に聞かせようとしているからです。そうでない場合は聞こえないかノイズが入ります。』
思考の途中に割り込んでくるのは？
『盗み聞きです。』
今度からやめてください。
『善処しましょう。』
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同日 ラキオススピリット第二詰所 厨房
「さて、作り始めますか。」
『お菓子は食後と言ったときの落胆ぶりはすごかったですね。』
「この世界でもおやつは3時らしいな。」
料理は既に決めてある、典型的な中華になる予定だ。
『それでメニューは？』
「あ〜。
１． 餃子
２． 炒飯
３． 麻婆豆腐
４． 野菜炒め
５． デザート（お菓子）
だな。」
『中華ですね、和食を入れても良かったのでは？』
「実際の話、中華の方がすぐに材料が見つかったんだよ。」
『では、調理開始ですね。』
「あぁ。麻婆豆腐に入れるラー油がないのが惜しいけど。」
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同日 ラキオススピリット第二詰所 食堂
「辛っ！！」
ネリーの叫び声。
「ん〜、そうか？」
「サクヤ様これは少し辛いですが。」
『麻婆豆腐にラー油の代わりとして大量に入れた香辛料が不味かったですね、唯でさえこちらの世界は料理の味が薄いというのに。』
「ん〜、今度作るときは善処するよ。」
「でも、他の料理は美味しいよ。」
シアーのフォロー。
「えぇ、初めて食べるけど美味しいわ。」
「ふぅ、好評みたいで良かった。」
◆◇◆◇◆◇◆
「さて、お待ちかねみたいだしお待ちかねの食後のデザートと行くか。」
皆の目の色が変わる、やっぱり女の子は甘い者が好きなようで。
因みに辛い麻婆豆腐は俺が全部食べた。
「とってくるからちょっと待っててくれ。」
『しかし、あのデザートを作るとは。盲点でしたね。』
だろ？閃いた時はまさに天啓かと思ったね。
保冷庫からデザートを持ってくる。
「なんですか？それ。」
「食ってからのお楽しみだ。」
言うと、カップを皆に配る。
「冷たい。」
「そういう食べ物なんだよ。」
スプーンを持って掬い口に運ぶ。
「こうやって食べるんだ。」
ネリーがまず率先してアイスを口に運ぶ。
が、口元に近づくに連れてスプーンの速度が落ちる。
「早く食えよ、毒なんて入ってないから。」
ようやく口に入る。
「あ、美味しい。」
「だろ、あ〜良かった。これで口に合わなかったらどうしようかと思った。」
ネリーの台詞を受け皆が口に運び始める。
「あ〜、味わうのもいいけどこのデザートは時間の経過と同時にどんどんとけていくからな。美味しく頂きたいならさっさと食べることだ。」
◆◇◆◇◆◇◆
少年洗物中（Now Washing...）
『アイスが一番好評でしたね。』
「あぁ、あれだけわいわい言いながら食べてもらえるとは思わなかったが。」
かなり微笑ましい光景だった、今は皆順番で風呂に入っている。因みに俺は一番最後。
ハリオンに「お湯を飲もうだなんて思わないでくださいね〜。」なんて言われてしまった。
「俺ってそんな風に思われてるのかなぁ。」
『多分天然でしょう。』
だといいけど。
『それより明日からは。』
「あぁ、次はランサだな。」
最後の洗い物済まし、手を拭いて食堂に戻った。
To be continued
あとがき
さて、龍殺しまで成し遂げてしまった溯夜君。
どこまで強くなれば気が済むのか、と。
キャラの一人歩きってほんとあるんですねぇ。（ぉぃ
さて、今回溯夜が料理出来ると分かったんですが。
溯夜が出来るのは基本的に和食と中華です、まぁ溯夜は甘党ですから自分でお菓子も結構作りますが。
因みにタイトルの「転がる石に苔はつかない」ですが、確か英語の諺だったと思います、余談ですがこの諺イギリスとアメリカで解釈がちがったりします。
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