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スリハの月 黒いつつの日
目の前には血濡れのシリアとアズマリア。

「・・・・。」
『・・・また、エターナルですか。』
そういえばエターナルって何か聞いてなかったな。
『後で、話します。』
「そうか、なら。まずは目先のことをどうにかするか。」

『幽玄』をナイフから刀に変える。
「で、これはあんたがやったのか?」
こちらに背を向ける男に問いかける。
「えぇ、僕がやりました。ですが僕が切ったのはあくまで女王様であってあちらの少女は切ってはいませんよ。
少女は女王様が血を吹いて倒れてからずっとあの様子です。」
事実のみを伝える口調とその裏に悦びが見て取れる。

「あぁ、そういえば少女には「王女様がこうして死に掛けているのは貴女の所為だ。」と言いましたね。
訂正します少女がああなったのはそれからです。」
相変わらずこちらに顔を向けようとしない男の向こうのシリアを見る。
「アズマリア」と、うわ言のように繰り返し目からは涙が溢れている。

「・・・それで、うちの女王は死んだのか?だとしたら唯じゃ帰さないけど。」
「まだ死んではいないでしょう、ですが致命傷ですね回復魔法も人間には効果が無い。アズマリア女王陛下の死は確定ですよ、あの主も護れない従者の所為でね。」
「死」という言葉に過敏にシリアは反応する、シリアの肩は強張り遠目でも分かるほどに震えだす。

「違う、わたしの所為じゃない。でも、アズマリアは・・・・」
シリアのうわ言はヒートアップする。
「何言ってんだよ、シリアのどこに責任が有る。」
言葉に怒気と殺気を乗せ男にぶつける。
「主を護るのが従者の務めです、主が致命傷を負ったのならそれは守り通せなかった従者の責任です。
さて、僕の目的はアズマリア女王の抹殺でしたのでこれにて失礼します。」
「おいっ、待てよ!!」
叫び声をあげ、鍛えあげられた背中を切ろうと剣を振る。
が、剣は空を切り男は光に溶けた。

「ちっ。」
『それよりも、シリアですよ。』
「あぁ。」
急いでシリアに駆け寄る。
「わたしのせい、わたしのせいでアズマリアは、わたしの・・・・・」
「おい、しっかりしろお前の所為があるか。」
肩をつかみ揺らす。しかしシリアのうわ言は止まらずなおも紡がれ続ける。

「そこに居るのは、溯夜。ですか?」
「アズマリア!おい喋れるのか?」
「えぇ、あなたにはいろいろと聞きたいことがありましたがもう私は限界のようですね。ハイペリアの話を肴にお酒を飲みたいとも思いましたが。」
口から血を吐き喋り続ける。

「もう喋るな、どうにかして血を止めないと。」
気休めなのは分かっている、出血量は致命的だ。
「優しいですね、私だって自分の死ぐらい分かりますよ。ですから今あなたに伝えなければならないことがある。」
「・・・・分かった、さっさと言え。」
「私の部屋のベッドの下に布の袋があります。それを持って、ラキオスに。
レスティーナの助けになってあげてください。」
「・・・・それは、女王としての命令か?」
「いえ、あなたはどうがどう思っているか分かりませんが、あなたの一人の友人としての頼みです。」
「分かったよ、レスティーナ王女には協力しよう。」
「ありがとうございます。あと、もう一つ。」
声に力が無くなる、口からはもう息も血も出てこない。

「シリアを、守ってあげてください案外弱いですから。」
「今の様子を見りゃ分かるよ、そっちも引き受けてやる、言われなくてもな。」
「それは、よか、った。」
瞼が閉じていく口元は軽い笑みを浮かべていた。

『溯夜。』
「あぁ、ベッドの下だったな。」
うわ言をいいつづけるシリアを背負い部屋の中に入る。
「ベッドは、あれか。でかいな。」
シリアを椅子に座らせ、いかにもといった感じのベッドの下を覗く。

「・・・あった、これだな。」
布の袋を取り出す。大きさは学校の鞄ほど。
『・・・撤収、ですね。』
「あぁ、次はラキオスか。全く、飽きないなこっちの世界は。」
袋を握り締め沈黙する、部屋は静寂に包まれる。

「?」
さっきから続いていたシリアのうわ言がやんでいる。
ドサッ
何かが倒れるような音。
振り返ると椅子から崩れ落ち、立ち上がる様子の無いシリア。

急いで駆け寄り。
「おい、しっかりしろ、おい。」
頬を叩く。
が一向に目を覚ます気配は無い。
「くそ、まったくどうかしてる。」
シリアと袋を背負い、廊下に出てアズマリアの亡骸を抱える。

『アズマリアはどうするのですか?』
「近くに埋める、この世界の風習は知らないけど土葬する。」
階段へ向けて歩き出す、すると。
ゾクッ
強烈な悪寒。

「なんだ、今の。」
『溯夜!一刻も早くここを離れてください。』
「な、なんだよ。」
『ラキオスの本意が分かりました、イースペリアはまもなく消滅します。ですから早く。』
「なっ。」
驚きながらもとりあえず走る。

『恐らくスピリットとエトランジェには操作法だけ教えられていたのでしょう。エーテル変換施設の永遠神剣が自らの消滅を望むように仕向けたのです。』
「それと、イースペリアの消滅にどんな意味が。」
『用は原子力発電所が爆発すような物です。あなたの世界でも大きな事故があったでしょう。』
「あ〜、あったな有名どころで行くとチェルノブイリだったかな。」
階段を行きと同様に螺旋階段の中心を落下する。

『あれと同じような爆発が周囲のマナの消滅を含め発生します。』
「なるほど、この爆発を他国の策謀だと発表すればスムーズに侵略できるわけか。」
手すりや壁との摩擦で速度を落としながら着地する。
「それで、俺達は逃げ切れるのか?」
『ギリギリですね。私も協力しますのであなたも速度を緩めないでください。』

『幽玄』から普段以上の力が流れ込んでくる。
その力を足に込め疾走する。
周囲の家や看板や死体が前から後ろに飛んでいく。
背中のシリアをあまりの速さに落としそうに成る程速く走る。

「・・・この気配は高嶺たちか。」
『そのようですね仲間に連絡し撤退を勧告しているのでしょう。』
「こうなることは知らないんじゃないのか?」
『おそらく『求め』の入れ知恵でしょう。』
「ふぅ、高嶺達があの速度なら範囲外に逃げ切れるかな。」
『いえ、恐らく直接的に被害を受けることは無いでしょうが防御行動をとらなければならないでしょうね。』
今まで以上に足に力を入れ走る、確認はしてないが恐らく石畳がひび割れ俺の足跡がついているだろう。

──────────────────────


同日 イースペリアから少し離れた草原
「ぜぇ、ぜぇ。ここまでくりゃ大丈夫か?」
ここまで一度も止まらずに駆け抜けてきた、足は断末魔を上げ限界を訴える。
シリアはいまだに目を覚まさない。

『・・・妙ですね、いくらシリアでもまだ目を覚まさないなんて。』
「今は、それより・・・誰か来るな。」
「もう、もう、やめてくれ」と言わんばかりの足に鞭打ち立ち上がる。
「あれは、高嶺達か。」
『そのようですね、あちらもこっちに気づいているようですし。』
「まさかこっち来て戦うとか言わないよな。俺はもう無理だぞ。特に足が。」
「そうだ、そうだ」なんて同意の声が足から聞こえるという幻聴。

「あ〜、もうなるようになれもう知らん。マナ消失に備えて束の間の休憩だ。」
言って草原に胡坐をかく。
シリアの様子は相変わらず、そしていわんやアズマリアをや、だ。
シリアの様子を見ていると、高嶺達がやっぱり俺のところに来た。

「なんだ?俺は別に戦う気なんて無いが。」
俺が問うと緑いのが。
「アズマリア女王陛下!!」
アズマリアの死体に駆け寄る。そしてそれが死体だと知ると。
「あなたが、あなたが陛下を殺したのですか?」
槍を構え聞いてくる。

「・・・何?」
明らかに怒気を含んだ唸り声といっても良さそうな声をあげる。こんな声が出せるなんてな、新しい発見だ。
「あなたがアズマリア女王陛下を殺したのかと、聞いているのです。」
槍を持ったスピリットの殺気が増幅する、傍目にも一筋縄ではいきそうに無い気配を出している。
「俺が殺した?そんな馬鹿かな話があるか。そんな勝手なことを言うと俺がお前を殺すぞ。」
こちらも殺意を向ける。と、周囲のスピリットが全員剣に手を掛ける。高嶺だけが状況を理解できずおろおろしている。

「俺が殺したなら死体なんてわざわざ持ってくるか。」
緑いのに迷いが現れる。
「・・・・次に俺がアズマリアを殺したなんていったらその日がお前の命日だ。神様に祈ってから言うんだな。」
「なぁ、エスペリア。黒霧も殺してないって言ってるし違うんじゃないか?」
「しかし、ユート様。」
『溯夜、無駄話をしている暇はありません。』
「そうだな。お前らちゃんと自分の身ぐらい自分で守れよ。」
言って俺の唯一最強の防壁を張る。あ、でも唯一だから絶対に俺の中だと最強か・・・

「世の中に たえてさくらの なかりせば────」
『幽玄』で俺とシリアとアズマリアを囲むよう円状に線を引く。
  「春の心は のどけからまし────」
詠唱の終わり、それと同時に引いた線から桜色のオーラが展開され外と中を完全遮断する。

外では連中が慌てている、恐らくあちらにもマナ消失が迫っていることが分かったのだろう。
外から中は見えないが中から外は多少曇っているが見えることは見える、声は聞こえないが。

「はは、それにしても俺はイースペリアを消されたことに対する怒りをどこに向ければいいのやら。」
『矛先を向ける相手はラキオスに行けば一人くらいいるでしょう。その時にまた考えればいいですよ。』
高嶺たちはイースペリアに向け神剣をかざし、オーラを張る。
すると。

結界の外の草が、イースペリアに向けてたなびく、中には抜けて飛んでいくものさえある。
「すげぇな、これでもびくともしない結界も凄いが。」
『この結界は一度張れば鉄壁ですが戦闘中に器用に使うことが出来ないので、その分消費するマナをあげ結界の形をとることで防御力の強化に成功しているのです。』
「説明はいいよ、それよりあとどれくらいでこれはおさまるんだ?」
『まもなくおさまります、おさまったら結界を解きラキオスと話し合いですね。』
「相手の理解が早ければいいが。」

「ん」
「!」
シリアの声。
「おい、起きたか?」
顔を覗き込む。
「・・・・」
目を開き瞳をこちらに向けてはいるが、その瞳に俺の姿は映っていない。もっと遠く、いや、その目は何も見ていない。
「・・・・・」
『溯夜、シリアの背中を。』
視線をシリアの目から右下へとずらす。
そこには、冗談みたいに黒一色に染め上がった翼があった。

「・・・え?」
一言だけの疑問符、別に問いかけなくてもどういうことかなんて分かっているけどそうせずにはいられない。
「なんだよ、これ。」
さっきから唯虚空を見つめるだけのシリアの背中の漆黒の羽に触る。

「は、はは。」
ビシッっと音を立て結界にヒビが入る。
桜色の結界に白い筋が入る。

白い筋は網の目のように広がり。
俺は膝をつき地べたにへたり込む。
「なんで、さ。」
次の瞬間結界は砕け散った。


────────Yuto side
マナ消失に伴った暴風はようやくおさまり、エスペリアが再度『献身』を構え桜花結界に向きあう。
「なぁ、エスペリア。黒霧は、本当にあの人を殺したのか?」
「分かりません、ですがイースペリアにエトランジェが居るということさえ知りませんでした。」
「それと、あの人は誰だ?」
「・・・彼女はアズマリア・セイラス・イースペリア。現イースペリア女王です。」

「そんな人が何で死体になって、しかも黒霧が担いでこんなところに。」
エスペリアは槍を引き口元に手を当てる。
「分かりません、ですから今は彼から話を聞かないと。」
エスペリアは槍を構えずそのままに結界を睨む。
しばらくすると結界にヒビが入る。
「何だ。」
ヒビはまるで蜘蛛の巣のように円形の結界前面に広がり。

弾けた。
「!───。」
顔の前に手をやり結界の破片が飛んでくるのを防ぐ、が結界の破片は一つも飛んでこず空中でマナに返っていた。

「黒霧。」
結界の中は様変わりしていてさっきまで寝ていたスピリットが黒翼を広げ立ち上がり、黒霧は膝をつき地面を力なく見つめていた。


────────Sakuya side
「黒霧。」
高嶺の声で覚醒する。
柄にも無く取り乱し我を忘れていた。
「何だ?こっちはちょっと立て込んでるんだよ。」
自然と棘のある口調になる、まったく情けない。
「お前が女王を殺したのか?」
「なんだ、そんなことか。」
「なんだ、とは何ですか。あなた彼女を何だと。」
緑いのが槍を構え怒鳴りつけてくる。
「そんな怒らなくてもちゃんと埋葬するよ、あと俺は殺しちゃいない。」
立ち上がり、アズマリアを抱える。

「お前が殺してないんだったら誰が殺したんだよ。」
高嶺の追及。まったく、そんなに気になるかよ、アズマリア、アズマリアって。
「知らないよ、俺が見つけたときは瀕死だった。
アズマリアの遺言でラキオスには後で行く、やること済ませたらなそのとき詳しく話すさ。」

「やることって何だ?」
「さっき言っただろ埋葬するんだよ。この世界の風習では埋葬するときは土葬なのか?」
緑いのに問いかける。
「えぇ、確かにファンタズマゴリアでは人は土葬します。ですが彼女の埋葬をあなたに任せるとでも?」
「イースペリアを破滅に追い込んどいてよく言うよ。さっきのマナ消失お前らがやったんだろ?」
高嶺と緑いのが面食らった顔になる。都合のいい事は忘れてたってわけか。

「それは・・・。」
緑いのが下を向き槍を下ろす。
「俺がアズマリアを殺したとしても、お前らは数え切れないほどの人間を殺してるんだよ。」
『溯夜、それについては矛先を向けるべきではないと』
『幽玄』の言葉も尤もだし、言うべきではないとも分かっている。
だが意思とは関係無しに口は弾劾の言葉を紡ぐ。

「あ〜、前言撤回だ。確かイースペリアには4千人の人間が住んでいたな。」
事態を理解しているのは高嶺と緑いのだけなのだろう、他のスピリットは俺の言葉を全く理解できていない。
「普段虐げられている分、いい憂さ晴らしになったか?」
ラキオスはイースペリアよりもスピリットに対する待遇がよくないらしい。
「まぁ、この場合八つ当たりか。なんたってイースペリアの人間はほぼ無関係だからな。」
いい加減自分が嫌になる、冷静に分析できているのに口は歯止めがきかない。
高嶺と緑いのは生気のかけらも無い、具体的数字を示されることでどれだけの事をしたか実感しているのだろう。

少し怒りが収まったのを確認すると、全力で怒りを押さえ込み、冷静になれと語りかける。
怒りが何とか自制できているのを確認し、今は上着のポケットの中の『幽玄』に問いかける。

なぁ。
『何ですか?』
シリアの羽ってやっぱり神剣に呑まれたってやつか。
『えぇ、もはやシリアというよりは『夜光』と言った方が正しいかもしれません。恐らくアズマリアの死でショックを受けている隙を突かれ心を呑まれたのでしょう。普段からシリアの心は強かったですから。』

直す方法ってあるのか。
『それはあるにはあります、ですが今まで神剣に呑まれたスピリットが回復したという話は聞いた事がありません。方法も後で教えますが実行に移せるかどうか。』
そうか。まぁ、今はいい、この事は後で脳の回路が焼ききれるまで考える。

それで、シリア。いや、『夜光』は俺の言うことを聞くのか。
『恐らく聞くでしょう、のっとられた状態のスピリットは自己主張がなくなり敵を殺すこと──つまりマナを奪う事──を最上としていますが、それには意識があった頃の知識が引き継がれているはずです。そのことを踏まえれば自身より立場が上のものには素直に言うことを聞くはずです。』

俺のほうが立場は上か?
『いえ、立場は関係なく言うことを聞いてくれると思いますよ。恐らくラキオスに言ったとしてもあなた以外の命令は聞かないでしょう。』

何でだ?スピリットよりも俺、俺よりも人間なんじゃないのか?
『いえ、スピリットの頃の知識。つまり、シリアの中にはラキオスで言うことを聞くべき存在の知識がありません。6位の神剣は意識など皆無ですから記憶もしません。ただ効率的に敵を殺しマナをあつめることだけど考えます。』

成る程、それならラキオスに言っても変な命令をされることもない、か。
さて、どこにアズマリアを埋めたものか。
『ロンドとイースペリアの間に湖があってそこは小高い丘になっていましたね。そこが丁度いいのではないですか?』
そうだな、前にシリアとお忍びで遊びに言ったとも聞いたな。

「高嶺、俺は用事を済ませてくる。マナ消失のことも今は何も聞かない、聞いても答えられないだろうし。」
背を向けたまま一方的に告げる。
「お前らがラキオスに着くのとほぼ同時にラキオスに着くだろうから。ま、そのときはよろしく。」
「分かった、早く来いよ。皆ラキオスに帰還するぞ。」
「ユート様よろしいのですか彼をこのまま行かせても。」
「大丈夫だ、黒霧は来るよ。」
「・・・分かりました、ユート様がそういうのでしたら、皆ラキオスに帰りますよ。」
ラキオスのスピリットが皆剣を下げ、高嶺に続く。

「こっちも行くか。『夜光』こっちに来い。」
たった一言で素直に着いて来た。その様子は見ていて苦しかった。

──────────────────────


ルカモの月 青ふたつの日 ラキオス謁見の間
ちっ、高嶺はこんな野郎の命令を聞いてたのかよ。
さっきからラキオス王の視線と口調、動作の一つ一つに腹が立つ。
「あぁ、殺してやりたい。」
周囲の人間がざわめき立つ。うっかり声に出してしまった。

「ふっふっふ、なんとも頼もしいではないかこのエトランジェは。わざわざ今は亡きイースペリアに変わってこのラキオスに仕えると言うのだからな。」
「勘違いするな。ラキオスに仕えるんじゃなくて、アズマリアの頼みでレスティーナ王女に協力するんだよ。さっき話したろ忘れるのが早いな、痴呆か?」
「ふん、同じことだどの道エトランジェは王族には逆らえぬのだからな。」
「その話は初耳だな。俺は貴様に逆らえないのか?」
事実イースペリアに居たときはそんなこと聞かされていないし、俺がアズマリアに逆らおうともしなかった。

「そうだ、貴様はこのラキオスでラキオスのために神剣を振るわねばならぬのだ。」
さっきから癪に障ることばっかり言ってくる。

なぁ、俺はあいつに逆らえないのか?
『四神剣の強制力と言う奴ですね、確かにエトランジェはこの世界の王族に逆らえないとこの世界では伝えられています。』
その強制力とやらは俺にも効くのか?
『試して見ればいいでしょう、何事も実践して得た事実こそ真理です。』
間違いない。

「誰が貴様みたいなののために戦ってやるか。」
露骨に嫌な顔をして赤色の絨毯に唾を吐く。
「エトランジェには強制力とか言うのが働くらしいが。」
「そうだ、何なら歯向かって見るがいい。」
玉座に背を預けふんぞり返る、その顔には微塵も恐怖はない。

「おい、黒霧やめろ。俺も国王には歯向かえない。」
高嶺の忠告。
「ん〜、そうかもしれないけど何事も試してみないとな。」
玉座に向けて歩き出す、その過程で『幽玄』を刀にして適当に構える。
「ふ。」
国王は相変わらず自身に傷がつくことを想像もしていない。

玉座への階段の所まで来る。
「やれやれ、歩み寄る価値もないんだがな。」
階段を一段一段踏みしめ上る。

「な、何故だ。」
国王の顔には一段一段距離が詰まるごとに余裕がなくなる。

ついに玉座の目の前に来る。
「何も無いみたいだが?」
「ふ、ふん。貴様が歯向かう気など無いからだろう。」
震えきった声、ここまで来るといい笑いものだ。

「それは、どうかな。」
『幽玄』を持ち上げる。
「ヒッ!」
そのまま、頬の辺りを横に薙ぐ。
『さて、種明かしです。強制力とは神剣が契約者に対して働かせる物を言います。四神剣はともかく私は別にあなたが王族を殺そうがあなたが生きていればそれでいいので強制力は働きません。』

「俺には、強制力は働かないらしいな。」
「ば、馬鹿な。」
ラキオス王の頬には一筋の鮮血が流れる。
そして俺はおびえきった声に背を向け階段を下りる。

「どっちの立場が上かよく考えてから今度から物を言うんだ、長生きしたけりゃな。」
そのまま謁見の間を出ようとすると。
「待ちなさい。」
高嶺のあたりに来た所でレスティーナ王女に呼び止められる。

「・・・何だ?俺は今忙しいんだが。」
「話があります、後で私の部屋に来てください。」
「呼び止めるときとは違って嘆願か。」
「私は長生きしたいですから。」
レスティーナは軽く微笑み謁見の間を退室する。

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同日 レスティーナの自室
「それで、周りの反対を押し切ってまで俺に話したいことって何だ?」
「話もありますがそれよりは御礼とそしてお願いですね。」
意外な台詞に面食らう。

「アズマリアに協力してくださってありがとうございます。」
「おいおい、いいのか?頭なんて下げて。」
「彼女とは実の両親以上に親しい間柄でした、王女としてではなくアズマリアの友人としてお礼を言っています。」
溜息を吐き、肩をすくめる。

「わかった、それでお願いってのは?」
「アズマリアのお墓を参りたいのですが。」
「教えたらどうするつもりだ?まさか掘り返すとか言わないだろうな。」
「いえ、エスペリアと二人で参りに行きます。」
こちらの世界に来てから人を見る目はなかなかに育ったつもりだ。嘘は言ってないだろうな。

「・・・イースペリアとロンドの間の湖の側にある小高い丘の上だ。」
「始めてアズマリアがシリアと外で遊んだ場所ですね。」
「そう、らしいな。」
シリアという言葉に過剰に反応してしまう。

「ありがとうございます。それでは、私もあなたに聞きたいことがあるのですが。」
「どうぞ。」
何とか平静を保とうと努力する、だがこの王女には無駄な努力かもしれない。

「あなたは本当に私に協力するのですか?」
「・・・愚問だな、この世界で出来た数少ない友人の頼みを無碍にできるか。」
「しかし、イースペリアは私たちの所為で。」
「そのことはもういい、俺はあの国に想い入れは無いからな。ただ、あの国自体には無いがあの国のスピリットや館なんかには愛着があったけどね。あとはハイペリアから持ってきたものか。」
『溯夜、無理は。』
別に無理なんかしてない。

「話がそれだけならこっちも聞きたいことがある。」
「なんですか?」
「高嶺だが、何であいつはこの国で戦ってるんだ?強制力があるにしてもおかしい。」
レスティーなの顔が曇る。

「それは、少し待っていてください。ユートの戦う理由を連れてきます。」
言ってレスティーナは立ち上がり隣の部屋へ。
連れてくる?
『どうも生き物のようですね、それもある程度大きい。』

扉が開く、そこにはレスティーナと。
「あぁ、成る程。あいつが戦うのももっともだ。」
高嶺の溺愛する妹が居た。

「え、黒霧先輩?」
「知ってたのか、意外だな。」
「えぇっと、昔小鳥が悪い人に囲まれてたところを助けてもらったとかで。」
小鳥?あの髪を左右に分けた姦しいやつか。
「あ〜、そんなこともあったかな。」
「それで知ってるんです、先輩のこと。」
「ふ〜ん。
つまり高嶺妹がここに居るって事は人質か。」
「はい、カオリとユートには悪いことをしていると思っています。」

「ま、誰かがいい思いをするなら他の誰かにしわ寄せが行くのは世の常だ、今回は運悪くここに召喚された俺たちにその役目が回ってきただけだろ。」
二人は何も言わず立ち尽くす。
「幸せな人間を吐き出すためには切り捨てられる人間が居なければならない。そうでないとバランスが崩れる。全ての人間が幸せであろうなんて妄想もいいところだ。」
「しかし、それでも全ての人間が幸せであってほしいと願うのは当然では?」
レスティーナの反論を耳でしかと捕らえ反芻する。

「・・・成る程、アズマリアが君に協力してくれって頼んだのも頷ける。
全ての人間が幸せに、か。その手始めにスピリットの開放なわけか。」
俺の発言に少しばかり驚きの表情を浮かべるレスティーナと、驚きを見開かれた目で表す高嶺妹。

「知っていたのですか。」
「あぁ、アズマリアの手紙に書いてあった。
スピリットの開放、ね。難しいぞ。」
「分かっています、ですが痛みは等しく皆で分け合わねばなりません。」
痛みは等しく、か。
『立派な考えですが少々若いですね。』
千年生きたものの言うことは重みが違うね。

「それで、こっちから頼みがあるんだが。」
「なんですか。」
「俺にもやることがある、悪いが用事が済むまでラキオスのエトランジェとしては戦えない。」
「シリア、ですか?」
足を組みなおし、組んだ手に力がこもる。
「あぁ、あいつを治すまでは協力できない。」
顔を上に向け目を閉じ返事を待つ。

「それぐらい構いませんよ。私もシリアにはイースペリアに大使として赴いたとき世話になりました。
ですが、神剣に取り込まれたスピリットが復活したというケースは前例がありませんよ。」
顔を戻し、テーブルの上の紅茶を飲む。
「こうして始めて紅茶を飲んだやつにだって前例は無かったんだ。前例の有無なんて瑣末な問題だろ。」
紅茶のカップを置き。

「後、アズマリアのペンダントだが返してもらう。」
アズマリアから託された袋の中には、シリアと俺宛の手紙、レスティーナ宛の手紙、そしてイースペリアの象徴のペンダント。はっきり言ってこれが無かったら城に入れなかっただろう、死後も世話になる。
「大切にしてくださいよ。」
レスティーナからペンダントを受け取る。

「あの、黒霧先輩。」
「なんだ、高嶺妹。」
「高嶺妹…。あの、先輩はこっちの世界の文字が読めるんですか?」
「読み書きそろばんなんでもこいだな」
「すごいんですね、私なんて簡単なのしか読めないし。」
本当に感心した様子で話してくる。

「お兄ちゃんなんて喋れるだけで満足しちゃって。」
「こんな状況でも兄の心配か、ほんといい妹だ、これで義理なんだからなぁ。レッドゾーンだな。」
『あなたの発言もレッドゾーンですが。』
「わ、わわわ。」
顔を真っ赤にして慌てる高嶺妹。嗚呼、実に可愛い。

「さて、それじゃ俺はもう帰ってもいいか?」
「えぇ、スピリットの第二詰所に部屋を用意してありますからそちらを使ってください。
後スピリットと神剣に関しての資料ですが必要ですか?」
「必要になったら言うよ。それじゃ第二詰所の方に行かせてもらうよ。」
扉を閉じ、廊下へ出る。

「ふぅ、この国のスピリットは俺を受け入れるのかねぇ。」
実はかなり不安だ、寝食ともにするのに警戒されたんじゃおちおち寝ても要られない。


To be continued

あとがき
ラキオスに従属する事になりました。
まぁ、本音を言わせてもらえば、イースペリアが崩壊しなった場合のシナリオが思いつかなかったというのが事実です。

さて、シリアがまぁ、アセリアルートみたいになってますねぇ。


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