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スリハの月 黒ふたつの日 ロンド、イースペリア間
────────Sakuya side
「じゃぁな、お前は強かったがここで一回休みだ。」
押し当てた右腕にマナを流す。

既に内出血でぼろぼろの腕に最後の力を込める。
「グぅ、あ。」

うめき声を上げつつも右腕からタキオスの左胸にナイフの情報を流し込む、その過程で右腕からはナイフが弾け出る。

右腕は内部からナイフで串刺しになり。
ところどころからナイフの刃が柄が飛び出ている。

それでも止めずにナイフの情報を植えつける。
「何を。」
タキオスの疑問にも返事をしない。ナイフが秒刻みで生えてくる腕なんて今まで見たことなんてないんだろうな。

情報転送75%・・・
「何もしないならここで終わらせてもらうぞ。」
肩はつながっているのかどうかすら怪しいほどにナイフが生えている。

情報転送87%・・・
「ここまでして何もしてないわけないだろ。」
肘から先は肌色の部分はなくなり、銀と赤が支配する。

情報転送96%・・・
「今までの攻撃は全部この一撃のための布石、言っただろお前はここで一回休みだ。」
敵も馬鹿でよかった。

情報転送100%・・・
「界面活性剤(インタラクティブエージェント)────」

肩を流れ、肘を伝い、指先を抜き空のナイフへと至る。
「な、が。何、を、した。」
ナイフはマナを流し込まれ情報は具現する。

ソフトはハードに、あるべきものがあるべき場所に。
敵の体に亀裂が入る、亀裂からは銀の切っ先が覗く。
「馬鹿な、オレが傷を負い、しかも境地に立たされるだと。」
右腕がだらりと俺の意思とは無関係に下ろされる。

「ク──、クククク!」
右腕は肩から切れ落ち、肉の合間から銀の刃を覗かせ、砂金となって消えた。
「クハハハハハハッ!いいぞ、オレを殺してみろ。」
「お前は丸腰の男を斬れるのかよ?」
「フ、愚問だな斬れない訳が無い。」
だろうな、躊躇無く切られそうだ。

「だが、オレもここまでか。この傷では満足に『無我』も振るえぬ。」
「はは、そいつはよかった。」
右腕なら安い買い物だったかな。

「タキオス、下がりなさい。」
「は。」
少女の声。
「ふふふ、たかがエトランジェとスピリットでタキオスを戦闘不能に追い込むとは。」
あぁ、すっかり忘れてたよ。

「その腕でしたらもう戦えませんね、あちらのスピリットも同様に。」
法衣に身を包まれた少女がタキオスに替わって前に出てくる。
「あら、わたしはまだいけるわよ。勝手に決め付けないでくれる。」
シリアも俺に『幽玄』を返して一歩前に出る。

「強がりはいけませんわ。あなた、腕、動かないのでしょう?」
「試してみる?」
「それに。」
少女が錫杖を構える。
「動いたところでどうにかなるものでもないですわ。タキオスは油断していたのでしょう、そうでもないと私達エターナルがこんな連中に負けるなどありえませんものね。」
見かけからは想像もつかないほどの蠱惑的な笑みを浮かべる少女。

「・・・・・・・。」
少女から発せられる絶対的マナ量。思えば今までの攻防はただの児戯だったか。
「ここで始末してもよろしいのですけど。」
場を瞬間的に満たしたマナはまた一瞬にして消滅した。

「私の計画もイレギュラーがその現状なら軌道修正出来たも同然ですし、この場は見逃して差し上げましょう。まぁ、保険はかけておきますがね。」
意外な言葉を発する。

「いいのか、俺ならここで殺しておくけどな。」
「強者の絶対的余裕というやつですわ。貴方も私と同じだけの力を手に入れれば分かります。タキオス行きますよ。」
いって少女と豪傑の武人は光に包まれて虚空へと消え去った。

「はは、どうやら本当に助かったみたいだな。」
足から力が抜ける、視界が暗転を始める。
「ちょっと、溯夜!」
シリアの声もほとんど届くことなく俺の意識は現実を捨てた。

──────────────────────


スリハの月 黒よっつの日 溯夜の部屋
「ん。」
目が覚めた。
見上げた先にはもはや見慣れた木目のそろった天井。

「生きてる、か。ま、あれだけやって死んだんじゃ割に合わないな。」
『本当にあなたもシリアもよくがんばってくれました。起きたのですからシリアに礼を言ってくださいね。』
「分かってるよ。」

視線の先にはベッドの上に手を交差させ、組んだ腕を枕にして眠るシリアの姿。
『倒れたあなたを背負ってイースペリアに帰還しその後の始末も一人でしたのですよ。昼は始末書やらの激務、夜はあなたの看病。世話になりっぱなしですね。』
「あぁ、俺はいくつ恩を返せばいいのかね。」

起き上がりシリアを逆にベッドに寝かせる。
『メイド服のまま寝かせるのですか?』
「脱がすわけにもいかないだろ。」
『そ、そうですね。』
布団を肩まで被せる。

「で、このなくなってしまった右腕はどうなるんだ?お前は大丈夫だって言ったけど。」
今まで利き腕がなくなるなんて状況に追い込まれたことなんて当然無い。
『エトランジェやスピリットは情報体に近いですから、マナさえあれば右腕は再生可能です。』
「便利だな、それで再生って時間が掛かる物なのか。」
『はい、右腕全壊ですからおおよそ1ヶ月掛かりますね。それに先の戦闘で消費したマナを取り戻すのにもかなりの時間を要します、こちらは2ヶ月と言ったところですね。』
「・・・とっとと直せないのか?」
『大量のマナがあれば直せますよ、1ヶ月というのはマナを掻き集める時間ですから。それに、右腕くらい今日で直して見せましょう。』
「出来るんならさっさと直してくれ、着替えも出来ない。」

・・・って、着替え?
「なぁ、俺って今寝巻き着てるけど、俺は寝巻きで戦ったわけじゃないよな。」
だとしたらかなり間抜けだ。
『当然です。あなたはシリアが着替えさせてくれましたよ。言わせてもらえばこちらの世界に召喚されたときにもあなたが気を失っている間シリアがあなたを着替えさせていました。』

着替えを、俺の、シリアが?
「・・・・、下着もか?」
『えぇ。』
恥ずかしい、死にたい。
「こ、このことはとりあえず置いておこう。」
そうでもしないと俺の精神が耐えられない。

「それで、今日一日で右腕を直すって言ったけど、どこにそんな普通にやって1ヶ月分ものマナが転がってるんだ。」
『私の中にありますよ、私の備蓄したマナと剣としての力をマナに還元することであなたの右腕を修繕します。』
「いいのか、そんなことするとお前弱くなるんじゃないのか?」
『あなたに死なれるよりはましです。始めますよ、別に痛みを伴うものでもないので今日一日普通に生活してくれればいいです。』
「はいはい。」
利き腕が無い状態で普通に生活しろなんていわれてもかなり困るが。

同日 食堂
「くそっ、俺は左腕だとスプーンさえ満足に使えないのか。」
目の前には皿に注がれた白濁色のスープ、注がれてから10分以上も経っているが半分も減っていない。
「冷めるわよ、さっさと食べて頂戴。」
スープを作った料理人は美味いうちに食べてもらいたいのだろう、だがどだい無理な話だ。

『設計も完了しましたしもうそろそろ修繕も終わりますよ。』
終わるにしては俺の右腕には朝から何の変化も見られないが?
『今まではあなたの腕の型を作っていたんですよ、本来はマナを少しずつためじっくりと直していきますが今回は別です、つまりあなたの右腕という型をつくりそこにマナを流し込んで形にするわけです。』
成る程ね〜、たこ焼きみたいな物かねぇ。
『材料を流し込み形にするところは同じですがかなり違いますよ、いつかのインスタント食品然りあなたはたとえが陳腐ですね。』
酷いな。

『面白いものが見られますから右腕の袖を上げてください。』
言われてスプーンを置き袖をたくし上げ落ちてこないようにする。
「何やってんの、さっさと食べてくれない?」
「面白いものが見れるらしい。」
「・・・へぇ」

『では、始めます。』
『幽玄』が言葉をきっかけに右の肩から金色の液体のような何かがにじみ出る。
金色の液体は二の腕の形を徐々にとり
「おお、すげえ。」
肘が出来る。
「凄く綺麗、けど形が生々しい。」
金の液体はまさに腕の形の容器に満たされ、形になり。
指先と肩から段々と肌色になっていく。
ちょうど肘の辺りで肌色は出会い、俺の右腕は完全復活を果たした。

「お〜、見事なもんだ。」
右腕を振り回す、別に神経の伝達に障害があるなんてこともなくスムーズそのものだ。
「あ〜あ、肌色になっちゃった。金色のほうが綺麗だったのに。」
シリアがあからさまに残念そうに言う。
「そりゃ綺麗だけど俺は困る。」

『どうです、見事なものでしょう。』
あぁ、ありがとう。使ってくれたマナはいつかちゃんと耳を揃えて返すよ。
『私に返すマナがあるのなら自身の補填に当ててください。今のあなたには以前の6割程度のマナしか無いのですから。』
そんなに減ってたのか。
『えぇ、これ以上私も自身のマナを使うことは避けたいですからあなたでどうにかしてください。』
分かった。

「それで、溯夜はどうするの。右腕は直ったけどどうせまだ戦えないんでしょ。」
「あぁ、以前の力を取り戻すには2ヶ月掛かるらしい。」
服を直しながら質問に答え、少し覚めたスープをすする。

「そんなの駄目よ、あんたの戦線離脱で防衛線はイースペリアの目前まで下がってるんだから少しでも早く直ってもらわないと。」
「・・・そうか、サルドバルトと戦争中か。現状どうなんだ。」
「北の防衛線は本当にギリギリまで下がってるわ、昼間はわたしも出てるけど未熟なスピリットじゃわたしの攻撃の巻き添えを食らうから一気に殲滅ってことも出来ない。東の防衛線もギリギリね、ほとんど篭城よ。」
「二日でそんなにもか。」
イースペリアの戦力を考えれば自然な流れだが主観で言えば信じ難い。

「ラキオスもダーツィを落としてこっちに向かってくれてるみたいだけどね。正直言って信用なら無いわ。」
「なんでだ、同盟国間なんだから助けに来るもんじゃないのか?」
というかそうしないのなら何の軍事同盟なんだ?

「普通ダーツィを落としてその足でイースペリアに向かわせる?ラキオスに帰還するならまだしも救援なんておかしいでしょ。」
『そうですね、消費しているでしょうし妙な話ではありますね。ここは漁夫の利を狙うのが上策でしょう。』

「アズマリアは不信に思ってるみたいだけど周りの連中は最後の頼みの綱だとかいろいろ言ってるわ。」
「ランサとかに配置したスピリットたちはどうした?」
シリアは下を向き両手で握ったコップの水面を見つめ。
「全滅したらしいわ、今イースペリアにはなけなしの兵力しかない。」

今度は上を向き天上を見つめる。
「みんな、みんな死んだんだって。昨日もスコアがやられたし、今もみんな城壁の付近でがんばってる。」
最後に俺を見て。震えた声で。
「だから、だから、本当は少しでも早くなんかじゃなくて。今すぐにでもみんなを助けに行かないといけないのに。」
シリアの瞳に涙が溢れる。だがその涙は瞳に溜まるだけで流れることは無い。

「・・・無理言ってごめんね。負けるなんて初めてだからわたしもどうにかなったかな。」
顔を見れば本心と違うことぐらい分かる、今まで助けてもらった恩もあるしどうにかして助けたい。
『ですがそんなこと無理です、私だって心苦しいですが今のあなたは一介のスピリットにも劣るほど脆弱です。』
・・・けど
『確かに戦えないことは無いですよ、ですが。』
・・・・・・
『今の状態で戦ってもマナの量は半減、それに伴い貴方の力も減っています。』
だからって
『私の切れ味に差は出ません、ですが、速度、力その他もろもろが激減しています。』
もう──
『今行っても満足に戦うことは出来ません』
───!!───
『もう一度言います、貴方はスピリットにも劣る脆弱な存在と成り下がっています。この状況で救援に行っても焼け石に水です。』
でも、俺は───
『助けたいのでしょう?』

『行けばいいですよ、いつも一歩引いて物を見る貴方がようやく主体的に、不合理と分かっていながらも自分のため、シリアのために行動しようとしているのですから。』
・・・・・
『パートナーとして、それを尊重しないわけが無いでしょう?』
あ、ぁ。
『ほら。情けない声を上げてないで、胸を張ってシリアに言ってやればいいんですよ。たとえ戦力にならなくても、力が無くても。────それだけで大丈夫です。』
・・・・・・ありがとう。
『どういたしまして。』

「俺とお前で北に他のスピリットを東に回そう。」
「で、でも直ってないんでしょ。」
「あぁ、でも。助けに行きたいんだろ?」
シリアはまぶたを閉じゆっくりと頷いた。

──────────────────────


スリハの月 黒いつつの日 イースペリア北部最終防衛線
「ん〜、一晩回復に充てたがさっぱりだな。」
『いったでしょう2ヶ月は掛かると。』
「でも、ここに居るんだろ。」
『困った契約者です。』
「付き合わせて悪いな。」
『いえ、あなたも常に私に振り回されて居るようなものです、この程度なんてこと無いですよ。』

「話もこれくらいにして、行くか。」
「・・・・溯夜本当にありがとう。」
「これで3回目、いい加減礼を言うのは勝ってからにしろ。」
「分かったわ。」

『幽玄』をナイフの長さで逆手に構える。
シリアは『夜光』を両手に8本構える。
敵のスピリットが地平線の向こうから上がってくる。

「さってと、やれるだけやってみますか。」
ハイロゥで加速したスピリットがやってくる。
体勢を低くしスピリット目掛け走り出す。
「やっぱり、遅くなってるな。」
速度は前の半分程度しか出ていない。

「一介のスピリットにも劣る、か。」
剣を振り上げハイロゥを唸らせながら突進してくるブルースピリット。
「本当にそうなのか答えは保留しとくか。」
体を捻らせ攻撃をかわしすれ違いざまに喉笛を切り裂く。
ブルースピリットは地面をすべり砂埃を上げ金の塵へとかえっていった。

他の一団が到着する、もう一グループあるようだがそっちはシリアに任せる。
『幽玄』の刀身の銀光が昼間でも尾を引く。
スピリットに接触すれば心臓を穿ち、喉を裂き、胴を切る。
銀の尾に続くのは朱色の血とマナの金色。
どのスピリットも一撃必殺だがいつ刺し違えられてもおかしくない。攻撃をすればこっちも体のどこかを切られる、何とか軽い切り傷でおさまってはいるがいつ致命傷をもらったとしてもおかしくない。

3人のスピリットを薙ぎ倒しリーダーの一人へと迫る。
「くぅ!!」
明らかに自らの死を悟った悲鳴。
「終わりだ。」
『幽玄』を瞬間的に引き伸ばし袈裟に切る。
「あ・・・あぁ・・・・。」
断末魔も切れ切れにスピリットは消滅した。

「ぜぇ、ぜぇ。くそっ、ここまで疲れるなんてな。」
疲れるだけでなく実際怪我もしている。
『妙ですね。』
「はぁ、はぁ、何が?」
『敵スピリットですよ明らかに弱いです。』
「俺は、前と変わらない、いや、強くなってると思ったけどな。」
『それはあなたが弱くなっているからです。』

「溯夜!イースペリアに戻るわよ!!」
膝に手を当て荒い息をしているとシリアがやってきた。
「何で?」
「北部は囮、本命は東からイースペリアに向かってるわ。」
『スピリットが存外に弱かったのはそのためですか。』
息も絶え絶えにイースペリアに向けて走り出す。

同日 イースペリア
「もう街の中に侵入されてるな。」
現在街の中心部に居るがここに来るまでに3人のスピリットを殺した。

「このままいくと不味いことになるな。よし、俺はエーテル変換施設に行く。お前は城に行ってアズマリアを連れて来い。30分後にここに集まる。」
やっぱりダメだったか、こんなことなら無理してまで───
『あなたがそれを言うのですか?』
・・・・いや、悪い。
『謝るのだとしたら相手が違います』
そう、だな・・・

「それはいいけど。他のスピリットはどうするのよ、それにラキオスの救援部隊も来てるし。」
「ラキオスね、確かにお前が言った通り怪しいな。ラキオスの部隊なんて居るのか?」
今まで見たのはサルドバルトのスピリットのみ、イースペリアのスピリットはまだ交戦中だろう。
「・・・。」

「居ないだろ、居たとしても救援は行ってない。ラキオスは当てにならないな。」
「そう、でも。他のスピリットはどうするのよ。」
「皆にはもう逃げるように言う。このままここで戦っても勝ち目は無い、ならここはアズマリアと共にラキオスにでも行ってサルドバルトを叩くように言うしかない。」
「・・・・分かったわ、かなり癪だけどあんたの言うとおりにするわ。それじゃ、30分後にね。」
シリアはそういうと城に向けて走り出した。
「さて、国のライフラインを見に行きますか。壊されるなんてことは無いだろうけどね。」

同日 イースペリアエーテル変換施設
「・・・日頃の行いかな?」
施設の中からは絶え間ない剣戟の音が聞こえる。
『日頃の行いは確かに善い物とは言えませんが無関係ですね。』
「ま、いいや。中に入って確かめますか。」

◆◇◆◇◆◇◆


施設内には4人のスピリットと、高嶺。
その中、白いのと黒いのが斬り合っている。
「まったく、人の地元で何やってくれてんだか。」
台詞と同時に隠していた気配を開放する。
「「「「「!!」」」」」
施設内の5人が全てこちらを向く。

「エトランジェ」
施設の制御パネルの側の緑いのが呟く。
「そ、正解。で、こんな所で何をやっているのかなラキオスは。」
施設の階段を下りながら質問する。

「救援ってのは嘘で本来の目的はエーテル変換施設にあるってわけだ。うちの女王様はあんたらをあてにしてはいたんだがな。」
嘘を言う。アズマリアは最初から不審なラキオスをあてにはしていなかった。

「アズマリア陛下が。」
またも緑いのが呟く。
「で、高嶺だよな。こんな所に居るってことは知らずとも俺と殺し合いでもしに来たのか?」
特徴的な刺々しい頭は見間違えようが無い。
「なっ、違う。俺たちは国王からの命令でここに来た、国王はお前の事は知らないはずだ。」
「知らずとも、って言ったろ。ま、そんな事はどうでもいいや。どうやらそこの黒いのはラキオスのスピリットじゃ無いみたいだな。」
ナイフをあからさまに見せる。

「手前は帝国軍所属のスピリット『拘束』のウルカと申す。」
「へぇ、律儀に答えるなんて思ってもみなかったな。それで、あんたの目的は。」
「手前の目的はもはや果たされたような物です、部下が来れば退散しましょう。」
「部下ってあれか、外に居た連中か?」
ウルカがこちらを今までとは違う目で睨んでくる。
「手前の部下をいかがされた。」
「襲ってきたからな。まぁ、殺してはいないが一部退役だな。楽に倒せないと分かるとさっさと引いたよ。物分りがいい部下だ。」
「そうですか、殺されていないのならここで貴殿と戦う理由も無い、いずれ戦場で会いましょう。」
「自殺願望があるんなら何時でもどうぞ。」
後ろの高嶺達への牽制も兼ねはったりをかます、はっきり言ってそこまで余裕で勝てるとは思えない。
今の状態なら抵抗すら出来ずに殺されるだろう。
ウルカは床を跳ぶように走り、施設の外へ出て行った。
本気で助かった・・・

「さて、次はお前らだな。」
高嶺達に向きなおす。
「ユート、ここでエスペリアと一緒に待ってて。」
アセリアが飛び出してくる、どうも緑いのはエスペリアって言うらしいな。

「ん、エスペリアってあれかレスティーナ王女と仲がいいとか言う。」
あくまで余裕を見せ付ける。だが、そんなに長続きはせず目前に迫ったアセリアの相手をすることを強いられる。

「やあぁぁぁぁぁ!!」
アセリアの鋭く速い、しかし直線的すぎる。アセリアの攻撃を体を右にかわすことでなんとか避け、ナイフ状の『幽玄』で腕を切る。
「!」
どうもあの攻撃は避けられるとは思ってもいなかったらしく困惑すると同時に右腕にぱっくりと開いた傷口を凝視している。

「よそ見していいのか?」
あくまで忠告にとどめ、攻撃はしない。
「アセリアやめろ!!」
高嶺の叱声。

「なぁ、お前確か黒霧って言うだろ?何でここで切り合わなきゃならないんだよ。」
「俺は別に殺し合いをしようなんて思ってない、そっちが襲ってきたろ。」
さっきの台詞と比べると無茶苦茶な言い分だ、内心苦笑する。
『これくらいでちょうどいいですよ、それよりあのブルースピリット。』
あぁ、あいつは強いな。シリアと同じくらいか。攻撃が単調だから読みやすいけど長引いたら殺されるな。

『とにかく、そろそろ30分です、合流しに行きますよ。』
了解。
さっきから押し黙っている高嶺達に背を向け歩き出す。
「まぁ、お前達がここで何をしようがどうでもいいや。この国ももう駄目だろうしな、俺は俺の目的を果たしに行くよ。」
「ちょっと待ってくれ、お前はこの国のために戦ってるわけじゃないのか?」
「さぁ、どうだろうね。この国にたいした想い入れは無いけど。」
言い終わると同時に階段の半分を一足で上りきり疾走する。

施設の外に出て疑問を口にする。
「あいつら本当に何しに来たんだろ。」
『エーテル施設で出来ることなどたかが知れています。まさか、ね。』
「なんだよ、その意味深な言葉は。」
『いえ、恐らく杞憂でしょう。それよりもあなただって先程まで別人といっても過言で無いほどの変貌でしたが。』
「あれくらいが丁度いいんだろ?」
『えぇ。まぁ、私のほうが役者は上ですが』

同日 イースペリア市街中心部
「来ないな、もう5分も経つが。」
道中味方のスピリットに会ったが、どのスピリットも「陛下を任せました」と言って決死の特攻と無残な散りざまを見せるだけだった。
『そうですね、普段ならまだしもこんな場面で5分も遅れるなど。』
「仕方ない、城に行ってみるか。」

同日 イースペリア城
城内は騒然としあちこちで悲鳴や怒声が聞こえる。
「みっともねーな。」
『全くです、早いところシリアとアズマリアを見つけましょう。』
「目指すは最上階か。」
中心が吹き抜けになっている螺旋階段を階段は使わずに、吹き抜けの中心を手すりを足場にして垂直に駆け上る。
『落ちたら死にますね。』
「死ぬだろうなぁ。」

『この階ですね。』
手すりからしっかりとした石造りの足場に着地して、扉を開ける。
「『!』」
扉を開けると濃密なマナとそれに伴って強烈な気配が流れ込んでくる。

「ちっ。」
廊下を走る、アズマリアの部屋は階段からはさほど遠くない。
タキオスのときと同様の危機感、脳は警鐘を鳴らし続け「逃げろ」と叫ぶ。
背中には冷や汗、喉は渇きを訴える。
目的地はそこの曲がり角を曲がればすぐ。
「はぁ、はぁ、くそ。何なんだよ。」
存在しか感じられないものに毒突く。
スピードを落とすことなく曲がった突き当りの向こうには。

白と濃紺を基調としたメイド服を深紅に染め上げ、床に膝を突くシリアと。
そのシリアに抱きかかえられる形になっている、腹部から血を流すアズマリア。
そして、俺とシリア達に挟まれる形で2本の剣を握り、だらりと腕をおろした一人の男がいた。


To be continued

あとがき
起承転結で言えば承に来ました、テム様降臨の複線を受けて、今回ピーさんの登場です。
別にオリキャラって訳でもないので名前書いてもいいんですけどねぇ
さて、片手がなくなったと思ったらすぐに生えてきたり、めちゃくちゃ弱くなったりした溯夜ですが。
アセリアにはきっちり勝ってますねぇ。
エーテルコンバーターの外でウルカの部下とやりあったみたいですし。
あんまり、弱くなってねぇじゃん。

ま、おいといて。
いや、おいてはおきませんが、確かに溯夜は弱くなってます。
弱くなったというよりは所持するマナが少なくなったってことですね。
今の溯夜には普段の出力が出せない、そんな風に思っていただければいいです。


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