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スリハの月 緑みっつの日 溯夜の部屋
「え〜っと、「もし、道で大金を拾ったならあなたはどうしますか。」
うん、あってるわね。」
赤色のサインペンが紙面上を軽快に走る音が聞こえる。

「ふぅ。」
「じゃぁ次の問題ね。「彼の態度から判断すると、彼は運動に興味が無いようだ。」これを文にしなさい。」
「ご、ご容赦を。」
「だめよ、さっさと文字も書けるようになってもらわないと困るわ。
郷に入れば郷に従えってのはあんたの世界の言葉でしょ。」
「酷い!あんまりだ!!」
『何言っているのですか。シリアの言っていることは正しいですよ。』
「あんたがあんまりよ。人に頼んでおいて随分なことを言ってくれるわ。」
腕を組み不適な笑みを浮かべるシリア講師。

「もう2時間にもなるのですよ、いい加減に切り上げましょうよぅ。」
媚びるような声を出してどうにか阻止を試みるが
「不気味な声出さないで、気色悪い。」
「酷い!あんまりだ!!」
「もういいわ、さっさと文にして頂戴。」
「・・・はい。」

現在こっちの世界の文字を勉強しているわけだが、やっぱりこいつに頼んだのは間違いだったなぁ。
イリス達ならまだここまで酷くは無いと思うのに。
あの時に文字の講釈を受けるという選択肢を選ばなければ。

2時間前 溯夜の部屋
「あー、暇。」
『暇ですね。』
今回は窓を閉め切っているため風は入ってこない。
「文字の勉強でもしようかな。」
『・・・なんですかこの既視感は。』

「半年以上前にもこんなことがあったな。」
『結局勉強しませんでしたが。』
「いやいや、たまにかばんを開いて数学の問題を解いてるよ。」
こっちの世界にたまたま持ってきていた学生鞄の中にはその日の授業内容だった、数学U、古文、漢文、世界史などが入っていた。

『ここでは、そんなものシロアリほどの役割も果たしてくれませんよ。』
「・・・最近口が悪くなったな。」
『えぇ、それもこれもあなたのおかげです。』
「ちっとも、うれしくない。」
『私だってうれしくないですよ。それより今回は文字の勉強をするのですか。』
「ん〜、一応ある程度のものは読めるようになってきたけど、書くことはそんなにできないからなぁ。」
こっちの世界に来てから半年以上生活してきたおかげでそれなりに読み書きそろばんのうち、読みとそろばんは板についてきた。

『ほぼ1年こちらの世界で過ごしておきながらまだ文字も書けないなんて情けなくならないのですか?
それにそろばんは基本的に数字の形が変わっただけであなたの世界と定理は変わりません。』
そりゃ、ハイペリアで1+1=2なのがこの世界で1+1=11なんかに化けてもらっては困るが。
「ならない、あんな文字を書くなんて普通むりだぜ。」
『あなたは普通ではないですよ。』
「いや、そりゃ特別だろうけどそれとはまた話が違うだろ。」
エトランジェだからといっておつむに特別な差が出るなんて思えない
『分かっていますよ。わざとです。』
こいつ

「大体こっちの文字って糸ミミズみたいだし、音階みたいに文字列に高低もついてるし。法則があるんだろうけどさっぱりだ。」
『だからこそ人から習うのでしょう。分からなかったら人に聞く。』
「そーですね。」
『では、早速レクチャーを受けに行きましょうか。講師は現在食堂でのんびりしていますね。』


そして現在 溯夜の部屋
「もう、もういいだろ。」
日頃から勉強しない、高校受験も前日深夜まで弾幕を回避していた俺にとって、3時間も勉強するなんて極刑に等しい。
「そうね、かれこれ3時間も勉強してたらいい加減嫌になってくるわね。でも、覚えるのが早くて助かるわ。」
「似た文法の言語をハイペリアで学習してたからな。」
「へぇ、ハイペリアっていくつかの言語があるんだ。」
「あぁ。」
『不便な世界ですねぇ。』
「不便ね。」
「こいつら」
「ら、ってことは『幽玄』とも同じ意見みたいね。一つに統一すれば便利なのに。」
酷いぜ、何かと英語が跋扈しているハイペリアだけど俺は日本語が好きなんだよ。
「各々の文化で育ってきた言語をいまさら統一できるかよ。」
多分今の俺は机に鉛筆を持って倒れこみ、上目遣いでシリアを睨んでいることだろう。
「その辺はよく分からないわ。この世界での言語は聖ヨト語に統一されてるから。」
「ここまで勉強してて統一されてなかった日には。」
「杞憂でよかったじゃない。」
「本当に。」

「話もそこまでにして続きをしましょうか。」
シリアの提案に対し眉間に皺を寄せ、苦情の言葉を喉を震わせ発しようとすると───
バンッ!!
「シリアさん溯夜さん、大変です。至急謁見の間に来てください。」
スコアの声と息を上げたスコア。
「ん〜、大分切羽詰った声だな俺にとっては救いの福音みたいなもんだが。」
「馬鹿言ってないで行くわよ、あの声はただ事じゃないわ。」

──────────────────────


同日 謁見の間
さっきからざわめきたって煩わしいことこの上ない連中と首都に配備されている全スピリットと俺。
それと玉座に鎮座するアズマリア、さっきからこちらを見たり下を向いたりと忙しそうだな。

「先ほど連絡がありました、中には知っている人も居るでしょう。」
アズマリアが話し始めると謁見の間に静寂が降りる。

「サルドバルトが国境を越えイースペリアへと進軍してきました。」
恐らくほとんどの人間が知っていたんだろう。驚いているのはスピリットたちと俺ぐらいだ。

「───嘘、ラキオスじゃなくて?」
シリアのか細い声はアズマリアの言葉と違いほとんど通ることは無く、聞き取ったのは俺と周囲のスピリットくらいだろう。
ていうか、ラキオスなら驚かないのかよ。

「サルドバルトは現在ロンドを制圧、そのままイースペリアへと進軍を続けています、恐らく明日にはここイースペリアに到着するでしょう。」
アズマリアは下を向き再度顔を上げる。
「スピリットは東と南の国境に割いているので、サルドバルトはロンド制圧にほとんど戦力を消費していないといえるでしょう。このまま行けば国境のスピリットを呼ぶ前にサルドバルトに制圧されてしまいます。」

『同盟国だというのに、後々の報復が怖くないのでしょうか。』
それだけの暴挙にでる自信があるってことだろ。
「ですが、このまま眺めているわけには行きません。首都のスピリットを北上させ迎え撃たせます。」
群臣は当然と言わんばかりにうなずく。
はっきり言って気に入らない。だから
「待て。数の上でサルドバルトの兵力との差はどうなってる。」
質問をぶつけ、打診する。はっきり行って今まで下火だったサルドバルトが同盟国に攻め入るくらいだから絶対の自信があるはずだ。

「絶望的ですね、時間稼ぎになればいいと言う所です。」
アズマリアは信託のように呟き
「最も近い所にいる主力でもランサです、恐らく到着には3日は掛かるでしょう。」
敵は既にロンドを制圧している、イースペリアに到着するのも時間の問題だろう、早ければ明日にもやってくる。

「そうか、分かった。首都にはスピリットを2体残す。で他の全員で迎え撃つ。」
俺の発言に群臣は大いに揺れる。
「しかし、首都に配備しているスピリットは少ない上に未熟です。その上人員を減らして迎え撃つなど。」
確かに数の上では不利この上ないだろう、だが
「んー、俺はスピリット以上に役に立つんだろ?スピリット二人以上の働きぐらいしてみせるさ。」
謁見の間は再び静寂に包まれる、群臣は黙り込み。スピリットたちも口を開かない。

「だいたい、ラキオスだってエトランジェのおかげでここまで進軍してるんだから俺が同じ以上の働きが出来ないわけが無い。」
アズマリアさえも何も言わない中、静寂を破った声は
「大丈夫よ、わたしとこいつで半分以上の敵スピリットを殺してくるわよ。」
自身に満ちたシリアの声。

「わたしだってイースペリア最強と謳われるスピリットよ、そこいらの野良と比べてもらっちゃ困るわ。
あんたたちは安心して背もたれに背中を預けて紅茶でも啜ってなさい。」
「しかし。」
アズマリアが食らい付いてくるが
「しかしも何も無いわよ、いくらなんでもスピリット全員を向かわせるわけには行かないでしょ。ならわたしとこいつが前線で敵を限界まで減らすから前線を突破してきた奴を後ろのスピリットで叩く。これでいいでしょ。」
“こいつ”のところで俺を指差してくるあたり育ちはよくないのか、人を指差すなよ。

「わたしにはアセリアと違って二つ名は無いけど、はっきり言って兵士に二つ名がついたらその時点で終わりよ。」
つまり、下手に二つ名があるという事は戦場で敵を逃がしているという事になる。
シリアは存在が確認されているだけでどんな戦い方をするのか敵国には割れてない、ということは今まで敵兵を殺し損ねたことが無いという事になる、それは人間も問わず

「・・・・分かりました、任せましょう。所詮人間は戦争になればスピリットに頼らなければなりません、どれだけ偉そうなことを言っても一度スピリットに牙を剥かれれば矮小な存在です。そんな人間が戦争でスピリットに意見するものでは無いのかもしれませんね。」
アズマリアのどこか諦めの混じった声が響きわたる。
「そんなことないと思うけどな。ま、俺たちに任せろよ、防衛線を突破させはしないからな。」
言って玉座に背を向け謁見の間を後にする。

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スリハの月 緑よっつの日 ロンド、イースペリア間 イースペリア最終防衛線
作戦は単純で敵の進路上に待ち伏せ、俺とシリアで敵を殲滅。俺とシリアの防衛線を突破したスピリットを後方の別働隊が撃滅する。

「単純明快な作戦ね、そしてわたし達が要って分けか。」
「そうなるな。ま、この作戦は俺の提案だけど。」
「いいわよ、一番効率的だわ。問題は補給とダラム方面からの攻撃は防ぎようが無いってくらいだけど。」
「補給はアズマリアに頼んで有る。ダラムのほうは、どうしようもないな。ランサ駐留のスピリットがどれだけ早く戻ってくるかだ。」
地理的状況を考えてもダラム方面にサルドバルトの兵が居るだなんて考えにくいが。
今はそんな事を考える場所でもない
「そろそろ話をする時間も無いみたいだし、一つがんばりますか。」
「仕込みも終わったしあとは迎え撃つだけね。そうそう、謁見の間ではかっこよかったわよ。」
『シリアの言うとおりですねよくあそこまで大見得切ったものです。』
悪い気はしないんだが、ちょっと釈然としない。
「・・・・・ま、あとは結果を出すだけだ。ま、期末テストよりは簡単だろ。」

サルドバルトのスピリットを肉眼で確認。
数は12、強さは、資料と違うな、資料と比べてかなり強化されてる。これが今回侵略する決め手か。

敵中央へ向けて疾走する、『幽玄』の刀身を引き伸ばし刀の長さにする。
限界速度で疾走し、鋭角に方向転換。

目の前には驚愕で顔の引きつった、スピリット。
剣を構え盾にしようとするがこっちとしてはあっさり死んでほしい。
当然そのスピリットには引きつった表情を変える余裕も無く首を一刀で斬り飛ばす。
続けざまに側のスピリットの胴を斬り真っ二つにする。
そして、そのまま速度を落とさず敵と距離をとる。

「無限軌道(インフィニティクライシス)」
シリアが右手を突き出し宣言する。
草原の合間から無数のナイフが飛び出し敵の群れに迫る。
銀の閃光はスピリットと接触すると速度を落とさずに紅の尾を引き虚空へと消える。
刹那の接触で6体のスピリットが消えた。
「やるじゃない。ま、わたしの方が戦果を上げてるみたいだけど。」
何時の間にか側に来ていたシリアと背中合わせで会話をする。

「なら、次は俺だな。お前が4で俺は2。けど次の攻撃で俺が8お前は4だ。」
「期待して待ってるわ。」
シリアは肩をすくめ手に持っているナイフをしまう。
「ま、期待が当たっても何も無いけどな。」

言い終わると同時に敵へ向けて再度疾走。
敵は味方の瞬間的消滅に気を取られこっちに気づかない。
「残りなく ちるぞめでたき 桜花───」
『幽玄』の刀身に桜色のオーラが満たされる。
    「有りて世の中 はての憂ければ───。」
桜色の『幽玄』を一閃するとそこから、桜の衝撃波が生まれ、触れたスピリットを切り刻む。
敵中央で桜色のマナは爆散し、手榴弾と同じ要領で周囲の敵を一掃する。

俺の神剣魔法で6人のスピリットの内、4人が消えた。残りの2人も満身創痍
そして最後の2人には、
「このまま、あんたに負けるのも癪ね、すごく癪。」
銀のナイフが額に刺さり、消滅した。

「ちっ、同点か。」
「あまり生き物を殺した数を競うものじゃないけどね。」
「あ〜、それもそうだな。」
『幽玄』をナイフに戻し、付いていない血を社交辞令でふき取る。
「さて、帰るかな。」
「そうね、このままロンドを奪還してもいいけど流石にね。」
『溯夜あなたは疲れたでしょう。』
シリアの言葉を『幽玄』が引き継ぐ。
「あぁ、疲れた。駐屯地に戻るか。」
シリアと二人で戦場を後にする。

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あの後も何度か俺とシリアの防衛線を突破されることはあったが後方の部隊で何とか撃退できていた。
が、ミネア付近に潜んでいた別働部隊にダラムを制圧された。
ダラム方面に対して全くの防御を敷いていなかったイースペリアにとってかなりの痛手となった。


────────??? side
スリハの月 黒ふたつの日 ロンド、イースペリア間
「ここですわね。」
少女の声が闇夜に響く。
「まさか、こんなに早く私が登場しなければならないなんて。」
「まったくです、ですがあのエトランジェの力はそれだけ強大だということでしょう。」
少女の声の後に重厚な男の声が続く。
「このままでは滅びるはずの国が滅びなくなってしまいますわ。まったく、時深もしっかりしてくれればこうして私が軌道修正を施さなくてもよいと言うのに。」
言い終わると少女は手に持った錫杖を構える。
その大きさは少女の体に不釣合いと思わせるほどのものなのだが、少女が握るとまるで右目の隣に左目があるのと同じくらい当然のように見えた。
錫杖が発光すると周囲のマナが悲鳴を上げる。
マナのうねりは形を成し。


────────Sakuya side
「ッ!!」
強大な気配を感じ飛び起き、すぐさま『幽玄』を手に外へと飛び出す。

「くそっ、何なんだよ。」
気配は探るまでもなく目前の二人組みから発せられている。
「?子供、とおっさんか。」
「あなたが『幽玄』の契約者溯夜ですわね。」
白い少女の声が鼓膜に伝わる。
「そうだ。このマナのうねりはあんたか。」
『そんな、エターナル。どうして。』
『幽玄』が動揺を隠しもしない
「エターナル?」
「あら、私達のことを知っていますの?面白い子ですわね。」
本当に驚いているようだ、だが“エターナル”が名前というわけでもないんだろう。
「・・・エターナルが、何なのかは気になるが。ここまでしといて帰るなんてことはしないんだろ?」
「えぇ、このままあなたを放置しておけば私のシナリオに支障が出ますわ、ですからこうして修正にきたのです。」

シナリオに支障、か
「やっぱり俺はイレギュラーって分けか。」
「そうですわ、あなたをここで消すのも簡単ですがタキオスがあなたと戦いたいらしいので。タキオス、適当にやりなさいよ。」
「は。」
タキオスと呼ばれた男は少女に対し敬礼する。はっきり行って二人の容貌から言って似合わない。

「サクヤ、と言ったな。貴様はこの世界で現状1,2を争うほど強いだろう。さぁ、オレと戦い満足させてみろ。」
冗談じゃない、さっきから感じるマナの量は俺じゃあどうしようも無い。
これだけの実力を持った相手と戦って満足させるだなんて無茶を言ってくれる。
「実力差も分かってるんだろ?俺じゃあ役不足だ。」
「それはオレが決めることだ、まさか後ろの仲間を見捨てて逃げるとでも言うのか?」
「ク──。」
どうにかして止めさせたいが、後ろの皆を見捨てるだなんて出来はしない。
『溯夜、相手が悪すぎます。どうにかして皆を連れて逃げなければ。』
そんな都合のいい事が起きるのか?
『相手は油断しきっています、ここは虚を突き逃げるしかありません。』
そうだな、確立は低いが仕方ない。こればっかりは三角関数よりも難しそうだ。

「いいぜ、分かった。タキオスって言ったな、さぁ始めようか。」
『幽玄』はナイフのままに逆手に構えタキオスに肉薄。
タキオスに動く気配は無く、そのまま背後へと回る。はっきり言って武器と思えるものすら持っていない。
『幽玄』を軽く振りかぶり、一閃。
だが、筋肉に覆われた胴を狙った一撃は空を切る。
「な───」
「ここだ。動きはいいがやはり遅いな。」
背後からの声、そして悪寒。
間髪いれずに前方に跳躍、その場を離れた直後に爆音と衝撃波が俺を襲う。
「グ・・・・」
立ち上がり背後をみると俺がさっきまで居た場所には人間が使うものとは思えない馬鹿でかい剣と、振り下ろした衝撃で出来たであろう大きな亀裂が出来ていた。
「な」
「どうした、怖気づいたか。このままでは仲間もろとも死ぬことになるぞ。」
「ちっ、誰が!!」


タキオスと一度距離をとり『幽玄』を引き伸ばし詠唱を開始する。

「願はくは 花の下にて──」
『幽玄』に桜色のオーラが満ちる。
  「春死なむ───」
桜色のオーラは『幽玄』の枠に収まりきらず、周囲で渦を巻く。
    「その如月の 望月のころ────。」

手には桜色に染まった本来の形すら分からなくなるほどに発光している『幽玄』。
「ほぅ、一介のエトランジェでここまでやるとはな。ここで殺すのが惜しい。」
「誰が、死ぬか。」
通常の2倍以上の質量、刀身を持った『幽玄』を振りかぶる。

担ぐように『幽玄』を構え、腰を落とす。
はっきりいって、これがダメだった俺に打つ手はない。
他のエトランジェと対峙したときのために一撃必殺で考案した技だったが。

「まさか、こんなに早く、しかも本来とは違う相手に使うとはな。」
自嘲する、振りかぶった『幽玄』を一気に振り下ろす。
発光する『幽玄』は刃の軌跡を衝撃波として飛ばし、大地を溶かし、蒸発させながらタキオスに向けて疾走する。

「すばらしい、すばらしいが。やはりオレにはかなわんな。」
タキオスが剣を構える。
天に向けて構えられた刀身は、迷うことなく俺へと振り下ろされる。
ドッ!!
閃光があたりを包む、強烈な衝撃で体が中を舞う。
『溯夜、足がついたら何が何でも右へ飛んでください。』
『幽玄』の言葉は俺の頭に深く響いた。
俺の攻撃はどうも敵の一撃の下に敗れ去ったらしい、俺の衝撃波は途中で左右真っ二つに割れている。

ようやく地に足が着く、体勢は最悪。だが、『幽玄』の作ったチャンスをものにするためにマナを凝縮し右足で地面を蹴る。
右へと方向を変え飛ぶ体は、途中服の襟を何者かにつかまれ、強く後ろに引っ張られた。

煙が晴れる、俺の攻撃で溶かされた地面は、剣を振り下ろしたまま固まるタキオスを起点にY字となっている。
そして俺は。
「まったく、無茶するわね。いつかにも一人で行くなって言わなかったかしら?」
シリアに助けられていた。
「悪い、どうも俺の所為らしくてな。」
「そんなの関係ないわよ。それより誰よあいつら。」
「知らねーよ。こっちが聞きたい。」

タキオスの目がこちらを向く。
「ふむスピリットか、まさかこれだけの力を感じておきながら逃げずに助けに来るとはな。」
「仲間が死に掛けてるのに逃げるわけ無いでしょ。こいつに死なれると困るのよ、個人的にもね。」
「ふ、まぁいい。スピリットが加わろうと構わん。」
再度剣を構えるタキオス。こっちも立ち上がり『幽玄』を構える。
「あんた大丈夫、消費しすぎじゃないの?」
「そんなこと言ってる余裕は無いな。」
タキオスの実力を考えれば俺が戦線を離脱するわけにも行かない。

『溯夜、私をシリアに渡してください。』
・・・それはまた何故?
『素敵で華麗に生き残るためですね。』
ほんとに大丈夫か?
『相手が相手ですからね確立は五割といったところでしょうか。』
あんなの相手に五割もあれば上等、上等。

「シリア、『幽玄』に策があるらしい。」
「どんな?」
「あいつら相手に生き残るんだって」
「悪くない作戦ね。それで、どうするの。」
『幽玄』をシリアに手渡す。
「え、ちょ。何やって。」
黙り込むシリアおそらく『幽玄』から作戦内容でも聞いているんだろう。
「分かったわ。いい、溯夜一度しか言わないからよく聞きなさい。」


────────Ciliya side
片手に『夜光』、片手に『幽玄』を持ちタキオスと対峙する。
「溯夜は、もう戦えないわ。替わりにわたしがあんたの相手をさせてもらう。」
「うぬぼれるなスピリット、貴様ごときにオレの相手がつとまると?」
「えぇ、つとまるわよ。疲労困憊の溯夜よりはね。」
ここでナイフを左右に投擲する。
『幽玄』をとりあえずメイド服の中にしまい両手で『夜光』を投擲する。

1度投げると間を置かずに2度目、3度目と投擲を繰り返す。
「何をしている。」
疑問に思うだろうでしょうね、左右にナイフを投げ続けるわたしを見ればかなり滑稽に写るでしょうよ。

投げたナイフは既に三桁を越える、片手で一度に20近く投げれるのだからまぁ妥当なところか。
『そろそろいいでしょう。いいですか、ここからが本番ですよ。』
『幽玄』を右手に持ち、左手に『夜光』を持つ。
「まさかわたしが投擲しないなんてね。」
言い終わる前に敵に向けて疾走を開始し、詠唱する、スペルは溯夜に教えてもらった。

「尋ね入る 人には見せじ 山桜───」
『幽玄』と『夜光』が赤く染まる。
  「われとを花に あはむと思へば───。」
先ほど投げたナイフも紅く光り。

「黄泉路を行く夜行列車(ミッドナイトレイダー)」

両手のナイフが音速を超え振るわれる。
「ぬぅ。」
タキオスはまさか、いった顔でわたしを見る。
次の瞬間草原から無数のナイフが射出される。
無数の一閃、壁のような弾幕。
タキオスの眼前は紅に染まり、世界を塗りつぶす。


────────Sakuya side
シリアの攻撃は壮絶を極め草原からのナイフも限りを知らない。
俺の仕事はこれからで、シリアと『幽玄』のおかげで切り開いた活路を俺が走れるようにさらにこじ開けなければならない。

「さて、行くか。」
『幽玄』を渡す前に俺の腕には既に術式が施されている。
『夜光』の力はナイフの軌道を操るものと、ナイフを生成するものがある。
俺の腕には後者のナイフを生成する術式が一時的に編みこまれ既に腕は激痛を伴い悲鳴をあげている。俺の腕には無数のナイフが存在しているようなもので、俺の後押し一つで無数のナイフが弾け出る。

だがただ出しただけでは意味が無い。術式が余すところ無く編みこまれた右腕を敵の体に押し当てることで敵の体内にナイフを生成することが出来る。
近づくだけでは不発に終わる、俺は『幽玄』の後押しなしでタキオスに肉薄し右腕を押し当てなければならない。

「はぁ、『幽玄』は大丈夫だって言ってたけど、信用できないな。」
言って地面を蹴り、シリアの横をすり抜けタキオスへと迫る。


────────Takios side
「ぬぅ。」
先程からの無数の斬撃、ダメージは大した物ではないがこうも連続して当てられていては防御を破られるのも時間の問題か。
「切羽詰ってるみたいね、そのままわたしに切り刻まれてくれるとありがたいんだけど。」
先程から両の腕を視認不可能の速度で振るうスピリット。
「ふっ、貴様のような強いスピリットが居るとはな。この世界は面白い、スピリットでオレを興奮させる者が居るとは。」
『無我』を強く握る。
「シリアといったな、行くぞ。」
「それは困るわ。」
明らかに痛みに耐える顔、恐らく神速の斬撃が腕に強烈な負担を掛けているのだろう。

「もう少しゆっくりしていきなさい。」
呟くとナイフが今までにない軌跡を描きオレに迫る。
「ぬぅ。」
ナイフは同心円を描きオレの眉間目掛け迫る。
「巫山戯ろ、そのような攻撃がオレに通用すると思うな。」
『無我』を盾にしてナイフを避ける。
「『幽玄』の言った通りね、これでチェックメイトよ。」
シリアの勝ち誇った台詞。
「何。」
次の瞬間体に何かやわらかいものが押し当てられる感覚。
「じゃぁな、お前は強かったがここで一回休みだ。」


To be continued

あとがき
さて、2話ですが。言わずともがなテム様登場。
テム様は何ていうかマスコット化してますねぇ。
タキオスが戦ってるし、何か知らんけど溯夜もいつの間にか自称最強魔法なんて使ってるし。

今回の溯夜の魔法ですが、言ってしまえばアレです。F○teのエクス○リバー見たいな物だと思ってください。
あと、なんでシリアが和歌で詠唱をしているかというと、まぁ『幽玄』を持っているからですね、でもって『夜光』も持っているから技名が必要ってことです。
シリアのミッドナイトレイダーはまぁ、東方○夢想で言うところのインスクライブレッドソウルですね。


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