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シーレの日 青よっつの日
アズマリアの予想通りラキオス軍は怒涛の勢いでバーンライトへと進軍、リーザリオ、リモドアを陥落させた。


スフの月 緑みっつの日 ミネアより北にある丘
「・・・おー、やってるやってる。」
アズマリアに許可をもらいシリアと共に斥候としてラセリオ、サモドア間で行われている戦闘の視察に来た。
戦況はやはりエトランジェの居るラキオスの優勢だな。

「ねぇ、ここじゃぁやっぱり見えないわよ。」
シリアの意見ももっともだがこれ以上近づくと、どちらかに気づかれる恐れがある。

「でも、いくら望遠鏡があるって言ってもこれじゃぁ何にもならないじゃない。」
確かにこの望遠鏡はハイペリアのものに比べると見通せる距離が短い。

『溯夜、私の力ならば気配を消すことも可能ですが。』
そりゃ本当に?
『えぇ、ですが気配を断っている間はマナを使った行動は出来ません。』
「それで十分だ。おい、シリアこっち来い、もっと近づくぞ。幽玄に便利な技があるらしい。」

同日 ラセリオ、サモドア間の道
「へぇ、これだけ近づいてもばれないなんてね。」
シリアが感心する。

事実俺たちは戦場と言っても違わない場所に居て、しかもすぐそばを何度かスピリットが通って行った。
「見えてないかのように振舞ってくれるな。」
『気配が無いからです、二人とも神剣が目立つわけでもないので、見つけてもスピリットやエトランジェだとは思はないのでしょう。』
「成る程。」
「何勝手に感心してんのよ。」
「いや、幽玄が何故スピリットたちが無視してくれるのかって理由に答えてくれたからな。」
「あぁ、そう。第一気配が無ければ私たちはただの人間と変わらないわよ、何でこんなとこに居るんだろうな〜、程度で済ますわ。」
「・・・そうですね。」
『凹んでないでちゃんと戦闘を見ておきなさい。』

言われて崖下の道を見る、俺たちは崖の上に腰を下ろし堂々と見ていたりするんだが。
「誰も気に留めてくれない、ちょっと悲しい。」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。それよりラセリオ側からようやくラキオス軍が来たみたいよ。」

山道を見下ろすと蒼い髪をたなびかせ進軍する一人のスピリットが見えた。
「一人?」
妙だな、と思っていると。
「おい、アセリア!ちょっと待て。」
「男の声、ラキオスのエトランジェかしらね。あと、あのスピリットは〈ラキオスの青い牙〉と言われているスピリットね。」
「ふ〜ん、強いのか?」
「そりゃぁね。それよりエトランジェが来たみたいよ。」

山道の曲がり角から学生服の上にラキオスの外套を羽織った刺々しい髪の男が出てきた。


────────Yuto side
「はぁ、はぁ。」
戦闘となるとひとり飛び出すアセリアを追ってここまで来た。おかげでエスペリアたちとだいぶ距離が開いてしまった。

「おいアセリア、ちょっと止まれ。」
前を行くアセリアに声をかける。

「ん」
アセリアは崖の上を見上げたまま立ち止まった。
「どうしたアセリア、そっちに何かあるのか?」
「わからない、でも何か居る。」
「俺は何も感じないけどな。」
「ユート待ってて。」
言うが早いかアセリアはハイロゥを広げ地を蹴り、崖の上へと飛び上がっていく。
「お、おい。アセリア待てって!」


────────Sakuya side
「お、おい。アセリア待てって!」
高嶺の声が背後から聞こえる、シリアの判断でアセリアが立ち止まった瞬間から離脱を開始した。

「うわ、追ってきてるな。」
「多分ちょっとしたマナの流れを感じ取られちゃったんでしょう、こればっかりはどうしようもないわ。敵と思えば追ってくるでしょ。何よりアセリアは剣の声に忠実って聞いてるしね。」
木々の間を縫い進みながらシリアから話を聞く。

「剣の声に忠実だとどうなるんだ?」
「剣の言うがままに敵を殺すようになるわ。
けど、剣に飲まれているわけでも無いから心境に変化があればアセリアも無闇に敵陣に突っ込むことも無くなるかもね。」
「な〜る、それで。幽玄の気配断ちはどうする?」
「解かずに逃げ切るのがベストね。ここで逃げるためとはいえ気配を出したらエトランジェも追ってくるわ。」

「いや、今でも追ってきてるだろ。」
『幽玄』の固有能力のおかげで俺はマナを使わなくても足が速い。
「今、追って居るのはアセリアよ、けど気配を出してしまったら私たちもエトランジェに追われる立場になる。」
だがシリアはマナの後押し無しにアセリアから逃げることは難しい。
「あ〜そりゃぁ困るな。」
「そろそろイースペリア国境だし近くにはいくつか洞窟もあるからその中に逃げ込むわ。」
「了解隊長。」
つまり、今俺はシリアをお姫様抱っこしながら森の中を疾走していたりする。


──────────────────────


同日 麓の洞窟
「ふ〜、何とかまいたか。」
「そう、ね。国境超えても追ってくるなんて、まったくこれが後ろ暗くない情報収集だったらラキオスに抗議出来るんだけどねぇ。」
俺が居るから出来ないってか、酷いぜ。

「ま、いいわ。それより情報を整理しましょうか。今回最大の収穫はエトランジェの目視ね。
どう、あのエトランジェはあなたが知ってる奴?」
「あぁ、あの刺々しい頭は高嶺だな。」
『持っていた剣は恐らく『求め』ですね。ただ力が多少弱まっているようですが。』
「神剣は『求め』らしいな。」
「それだけ分かれば上等上等。大きい顔してイースペリアに戻れるわ。」

「なら、明日にはもうイースペリアに向けて出発するのか?」
「えぇ、餅は餅屋、情報収集も情報部にやらせればいいでしょ。明日はそれなりに早く出発するから寝なさい。」

そういうと岩の露出した地面に寝そべり始める。
「おい、地べたにそのまま寝るのか?」
「そうよ、第一毛布も何も無いのにどうしろって言うのよ。それに、今は寒い時期でもないから大丈夫よ。」

「・・・。」
無言で上着を差し出す。
「何?」
「これでも敷いて寝ろ。見張りは俺がやる。」
「そう、ありがとう。けど、見張りは交替制よ、フェアじゃないわ。」
「わかった、じゃぁ2時間したら起こす。」
「えぇ、しっかり見張ってなさい。」
言い終わるとシリアはすぐに寝入ってしまった。

今日は随分と働いたし、俺の失態も何度かカバーしてもらっている。
俺より遥かに疲れているだろう。
「それでも、俺も疲れてるんだけどな。」
『何言っているのですか、少しは根性見せなさい。
シリアが居なければあなたは今頃ラキオスに捕まっているかもしれませんよ。』
「そうだな、そこは感謝してるよ。」

翌日 深夜 麓の洞窟付近
「やれやれ、ゆっくりとは寝られないらしいな。」
シリアと一度見張りを交替し、今はハイペリアで言えば深夜2時ごろ、丑三つ時ってやつか。眠るのは草木だけらしいな。

『気配は三つ、こちらには気づいているようですね。』
「だからこそ、こうやって陣を崩さずに迫ってるんだろ。」
『どうします?』
「森に入ろう、洞窟をフリーにするのも痛いけどあいつなら大丈夫だ。
それに、開けた場所より森の中のほうが俺には適してる。」
『分かりました、一応シリアの気配は断ちますよ。』
「もちろん。」
術式も終了し、いざ森の中へ。

「・・・・さて、実戦は初めてだな。」

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敵は突如森の中へ突っ込んだ俺に陣を崩しかけたがすぐさま立て直し始めた。

「それなりに統率は取れてるな。」
『幽玄』の固有能力で枝から枝へ縦横無尽に駆け巡る。

「・・・敵はブルースピリットとレッドスピリット、あとグリーンスピリットか。」
『オーソドックスですね。青の攻撃力、赤の魔法、緑の防御。バランスの取れた3人組としては理想的と言えますね。』
「そんなもの、個々に破壊すれば無いも同然だ。」

枝を蹴りブルースピリットの背後に肉薄する、スピリットは俺に気付きもしない、近くにいるとしか分かっていないだろう。

あまりにも無防備なその背中から首筋にかけて刀身10cmの『幽玄』を突き刺す。

「あ。」
あまりにも情けない断末魔に内心がっかりしながらも、ブルースピリットの死体を踏み台に再度木の上へ飛び移る。

「ふぅ。やっぱり簡単に死ぬもんだな。スピリットは頑丈だって言うけどそれは人間に対してだけか。」
太い枝の上で一息つく。

敵の二人は味方がやられたことに気づき索敵行動をとりはじめる。
『やっぱりというのが気になりますが、今はそんなことより。』
「残りの二人に後を追わせてやるか。」
2体のスピリットは二手に別れ場を離脱しようとする。

「どちらかは生き残らせるためか、賢いけど遅かったな。」
枝を蹴り森を飛ぶ。

地面を走るスピリットに比べたらこちらは数段早い、緑と赤ぐらいの差があるだろう。

レッドスピリットにわざとこちらの存在を分からせる。
もちろんレッドスピリットはこちらに振り向き、枝の上の俺を捕捉する。

「!くっ、フレイムレーザー!!。」
詠唱を限界まで短くした神剣魔法、火球が目前へと迫り、
それを紙一重でかわす、同時に『幽玄』をスピリットに向けて投擲し、俺は真上に跳躍。

「!!────。」
レッドスピリットは火球を貫き現れた『幽玄』に気をとられ上空の俺に気がつかない。

「───月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ
     わが身一つの 秋にはあらねど────。」

上空での詠唱、突き出した手には一つの光弾。
「なっ!」
スピリットがこちらを見上げる。

「残念だな、相手が悪すぎた、来世での教訓にしな。」
そう、言い終わると同時に白く光る弾は、音も無く発射され、轟音を上げ着弾した。

レッドスピリットは白い煙と地面にクレーターを残し跡形もなく消滅した。

「さて、次はっと。」
「もう、私が片付けたわ。」
シリアが着地した俺のそばへやってくる。
「実戦も問題無しね。エトランジェってのは本当に凄いわ。」


────────Ciliya side
数分前
「!───。」
マナの揺らぎを感じ飛び起きる。

「・・・ったく、一人で行かなくてもいいじゃない。」
焚き火の側にあいつの姿は無く、少し前までそこに居たという痕跡だけが残っている。

「椅子にしてた岩の暖かさもかなり残ってるしここを離れたのは少し前のようね。」
敵の気配を探る、投擲武器である『夜光』は索敵が他の神剣よりも優れている。

敵は二人だが、先ほどのマナの揺らぎからすると3人だったのを溯夜に一人殺されたようだ。
「溯夜は右か、ならわたしは左を追わせてもらおうかしら。」

洞窟を飛び出す。
「・・・・もうちょっとましなのを張るように今度言っておかないとね。」

洞窟の入り口には内部の気配を遮断する結界が張ってあったが外から中への気配は素通り、しかも結界の気配は隠しきれてない。

これでは本来の役目の半分も果たせないだろう、こんなのでわたしを守るつもりだったのだろうか。

だが、今はそんな事を考えている場合じゃない。
地を蹴り敵を捕捉する、溯夜はそろそろ敵に追いつきそうだがわたしはようやく敵の背中が見えてきた程度。だが、わたしにとってはそれで十分。

木々の間に緑色の背中が見える。
ナイフを構え、木々の間をすり抜けるように投擲。
直線の軌道は木に阻まれる事無く敵の背中に吸い込まれ。

「あ゛ぐぅ。」
そこが自身の居場所なのだと主張するかのようにスピリットの背中に突き刺さる。

背中から砂金の尾を引きそれでも走り続ける敵スピリット。
「あそこで崩れ落ちてれば早めに死ねたのに。」
ナイフを両手で構える。
両手には注視したとしてもどうやって構えているのか理解できないほどのナイフが握られている。

「幻想の殺人戯曲(ビジョナリマーダーゲーム)」

無数のナイフは天へとむけて放たれる。

月光を反射し闇夜に映える銀の殺意は、光の尾を引き鎌首をもたげる。

ナイフは全て一点をむく、今まで天へと向けて疾走していたナイフが空中で停止する。

閉じられた目蓋の裏にはナイフから送られる映像、それを頼りに照準を合わせる。

そして、全てのナイフが時間差で落下する、目標は違えることが無い。軍隊の行進のように乱れる事無く敵へと突撃する。

敵もこちらの必殺に気づき、槍を構える。
落下してくるナイフを猛然と振るわれる槍が一つ、また一つと落とす。
だがこれは予想の範疇、全てわたしの手の平を舞台とした一つの劇に過ぎない。

本命のナイフが今までとは違う進路、つまり他のナイフが前方斜め上から迫っているのに対し、後方斜め上から落ちる。

が、その攻撃は緑の尾を引く槍によって地面に堕ちた。
空を見上げれば何処にもナイフは無い、けだるく服からナイフを取り出し
「!■■■───。」
本命のナイフを動かす、敵は上しか見ていない、なら下から突いてやれば簡単に崩せる。

投げたナイフの殆どが空中からのものだったが、実は5本ほど地面を滑るように投擲している。

この手は何度も使ったが大抵のスピリットなら簡単に殺せる。
目の前で体の正中線を穿たれたスピリットもその一人、そして彼女は砂金の輝きをもって華々しくも儚く散っていった。

「やれやれ、踊り終えた役者には舞台から退場してもらわないとね。もっともこの程度のミスディレクションも見破れないようじゃ役者としては三流か。」

少し離れた場所でマナの爆発が起こる。

森に住む鳥たちも叩き起こされ夜空へと舞い上がっていく。

「まったく、静かな夜に・・・」
溜息をつきながら台詞とは裏腹に笑みを浮かべつつ、無粋な奴の元へ歩いていく。


────────Sakuya side
あの後シリアに今度からは単独で攻撃しようとするなと釘を刺され、おまけに結界を張るなら結界自体の隠蔽にも気を使えと言われてしまった。

だが、戦闘に関しては高い評価をしていたようで。
「しっかし、派手な攻撃だったわね。あれ神剣魔法でしょ、あんた魔法も使えたのね。」
「まぁな、でもお前だって使えるだろ。」
「わたしのは打ち消し魔法を除いたら魔法なんて何も無いわ。」
「あのナイフはなんなんだよ。」
叩き落したナイフがもう一度息を吹き返すなんて俺に言わせれば魔法もいい所だ。
「あんなの大道芸よ、魔術というより奇術ね。一度しか方向転換できないなんて不便だし。」
こっちの世界では天才マジシャンだがな、あ〜、でも芸が一つだけじゃダメか。

「どっちにしろ本気で戦ったら俺は勝てそうに無いけどな。」
「当然、いくらなんでもあんたよりはまだわたしの方が強いわ。それよりも、敵はもう来ないでしょ。あんたの結界を今度はもっと入念に張って寝ましょう。」

「見張りはいいのか?」
俺の上着に手をかけるシリアに一応の抗議をする、意味なんて無いことも分かっている。

「自分の結界に自信が無いのなら起きてなさい。」
「言ってくれる。」
「おやすみ〜。」
シリアは軽くそんなことを言うと俺から上着を引ったくり敷布団にして寝た、うらやましすぎる性格だ。

だが、あそこまで言われて引き下がれるほど情けなくは無い、と思う。

おい、どうすればさらにうまく気配を隠せる。
『先ほどの結界は内部の気配を断てても結界自体の気配が隠せれて無かったのが失点です。ならば結界自体の気配も消してしまいましょう。』
出来るのかよ。
『もちろんです、さっきは時間が無かったので、シリアから失点をもらう羽目になりましたが、今回は非の打ち所の無いものになりますよ。』
じゃぁ、さっさと結界張って寝よう。

『では、まず結界を張ってその後に・・・』
「その後に?」
『あなたから話を聞きましょう。』
「はぁ?何の。」
突然の質問に脳の回転率がドッと低下する。
『それは、あなたがスピリットを殺したときに漏らした「やっぱり」についてですよ。どうも予想というより確信に近かったようですし。』
「それがどうかしたのか?」
幽玄に質問を返しながら結界を張る。

『あなたは先ほどスピリットを殺しましたが、そのことで抵抗を感じたりはしなかったのですか?』
「そういうことか。抵抗はあんまり感じなかったよ、知性を持った生き物を殺すのはさっきので初めてってわけでもないし。」
『それは、ハイペリアで人を殺したことがあると言うことですか。』
「そう、確か9年ぐらい前だったかな。道場での練習中に模造刀で相手の首をスパーンとね。」
『9年と言うとあなたが9歳ですか。』

「そうなるな、あの時は片方が打ち込んでる間、片方はその打ち込みを受けるって練習をしてたんだよ。そのとき相手が大人でさ、綺麗に受ける俺に腹が立ったのか打ち込みに力が入っていってびびった俺が目を瞑って受けると、手が痺れるほどの衝撃じゃなくてやわらかい物が刀をすり抜ける感触だった。
そして目を開けると首から上が無い元人間が立っていたと。」

『そんな模造の太刀で切れるものなのですか。』
「警察は事故で片付けたよ、俺が9歳ってのもあったんだろうね。」
『それであなたは。』
「別に、何も無いさ。まぁ、晴れて殺人者の仲間入りだったわけだが。」

周りの目がうっとうしくないわけでもなかった、近所の誰もが俺を殺人者という眼で見た。それもいつまでも。
『そうですか。成る程、抵抗を感じなかったのは二度目だからですか。』
「・・・・そうなのかもな。」

『幽玄』との会話も済まし、岩の上に寝そべる。
「ただ単に、俺が殺し殺される状況に立っていることを人事だと思っているのかもしれないけど。」

月は西に傾き、夜はさらに深まる。だがいまだに寝ようとするのは草木のみ。

──────────────────────


────────Yutoside
同日 深夜 ラキオス軍駐屯地
バーンライトとの戦争はラキオスの優勢で進み、サモドアの直前で野営地を設営。

スピリット隊は現在明日に控え休息をとっている。
「やれやれ、今日もアセリアの暴走を除けば何も無し、か。」
今日だけでもアセリアは3回隊を飛び出している。

「敵がそこまで強くないから今は大丈夫だけど、これ以上強くなると。
それに、昼ごろの暴走も気になるな。俺は何も感じなかったんだけどアセリアは何か居ると感じたらしいし。
けど、アセリアの後をついていっても何も居なかったし。あの後アセリアに聞いても「わからない」だったしな。」

硬い髪を右手で掻きながら考えていると。
「ユート様よろしいですか。」
「ん、エスペリアかいいよ入っても。」
「失礼します。」
相変わらず礼儀正しいが、俺が隊長になってから距離を置くようになっている。俺は何もしてないと思うんだけど。

「ユート様バーンライト軍はサモドアでの篭城作戦を敷いていると思われ、市街にも被害の出る戦闘が行われると予想されます。」
「わかった、それで。バーンライトの戦力はどれくらいなんだ。」
「はい、これもはっきりとしたことは分かりませんがラキオス軍よりも多い戦力を率いているということはなさそうです。」
俺のどんな返事にも礼儀と正確さを持って返事をしてくれる。今までにあったことのない人種だった、これは間違いない。

「成る程ね、ありがとうエスペリア。今日はもう休んでくれ。」
「はい、ユート様も無理をなさらぬよう」
キィィィィン!!
「「!!────。」」
「なんだ今の。」
「マナの爆発のようですね、それにここからさほど離れていませんね。近くで戦闘が行われているということでしょうか。」

「確かめに行くか。こんな時だ、何があろうと無関係では済まされない。」
「そう、ですね。しかしバーンライトだとしてもラキオスを狙ったものにしては距離が離れすぎていますし。」
エスペリアは戦力の要である俺がここを一時的とは言え抜ける事にいい色は示していない。

「いい、こんな時だ何があるか分からない。俺とネリーとハリオンで行くからエスぺリアたちはここを頼む。」
多少強引かもしれないが、これくらいで丁度いいと思う。
「分かりました。」

◆◇◆◇◆◇◆


1時間後
「ユート、ほんとに何かあるの?」
「分からない、けどマナの流れをこっちから感じたんだ。駐屯地も長い間は留守に出来ないし早いところ切り上げないとな。」

駐屯地から急いでここへ来たが周囲にはスピリットどころか鳥一匹居ない。何も居ない、その異常さが逆にここで何かあったのだと本能が伝えてくる。

「ユートさま〜、こっち来てくださ〜い。」
ハリオンが相変わらずのんびりした口調で俺を呼ぶ。
「分かった、すぐ行く。」
ネリーも呼んでハリオンの方に行くと。

「これは・・・。」
周囲は焼け焦げ、木々も煤にまみれた森の中心に小規模だがクレーターが空いていた。

「やっぱり神剣魔法ですかね〜。」
だとすると威力は赤魔法の上級、といったところか。

「多分そうだろう、けどこれだけの事が出来るのにもう気配すら感じないなんて。よっぽど遠くに行ったのか。」
「ユート、そろそろ約束の2時間になるよ。」
エスペリアと話し合い駐屯地を離れ調査をするのは2時間と決めていた。

「そうか、分かった。ここで引き上げるぞ。」
ネリーとハリオンを連れて引き上げる。


────────Sakuya side
「へぇ、行動が速いな。」
『そうですね、まさか敵目前の駐屯地を空けてまでしてここに来るとは。』
木々の切れ目から先ほどまで足元に居た高嶺たちの背中を見送る。

「そろそろバーンライトも落ちるな。」
高嶺たちの背中は木々に遮られ見えなくなる。
「さて、寝顔は穏やかな隊長の元へ戻りますか。」

──────────────────────


スフの月 緑よっつの日
「溯夜、そろそろ起きなさい。」
「ん、もうそんな時間か。」
「えぇ、朝5時。まだ外は真っ暗ね。」
「眠ぃ。なんだってこんな時間に。」
結局2時間も寝てない事になる、不健康この上ない。

「速いうちにミネアに戻るのよ。」
「睡眠不足は肌の大敵だぜ。」
「い・い・か・ら、起きなさい。」
血管浮き上がらせながら笑われるとかなり怖いなぁ、って。
「わ、わかった、起きる。起きるから2本目は勘弁してくれ。」
視線を右にやるとすぐそこにナイフが生えていた。

◆◇◆◇◆◇◆


「さ〜って、ミネアについたら久しぶりに暖かいベッドに包まれて寝るかな。」
「そうねわたしもお風呂に入りたいし。」

現在朝の7時ミネアに向けてのんびり進行中。
「ミネアにも9時ごろにはつくかな。」
「ペースをあげればもっと速くつくわよ。」
涼しい程度の気温は確かに走る分にはもってこいだろう、だが
「このままでいいだろ、最近は走ってばっかりだったからのんびり歩くことが恋しい。」

「何言ってるんだか。それで、昨日の戦闘の後誰が来たの。」
「・・・・知ってたのか。」
少し意外だった、結界は完璧に仕上げたはずだったが。
『恐らく『夜光』の特性上普通のスピリット以上に索敵行動に長けているのでしょう。』
成る程ね。

「あれだけ大きな気配を見落とすほど鈍くは無いわ。」
まぁ、高嶺の気配がそれなりに大きいと言うのもあったんだろう。
「そっか。頼りになる隊長だ。それで、来てたのはラキオスのエトランジェとスピリットが2体、俺が作った穴を見て帰って行ったよ。」
「たったそれだけ?」
「あぁ、駐屯地を留守にするわけにもいかないんだろ。」
「あぁ、成る程ね。懸命な判断だわ。ラキオスだってエトランジェが居なければバーンライトに撃退されるかもしれないしね。」

朝焼けに包まれた有限の大陸、流れない血で染まった大地は、今日も妖精の哭き声に包まれる。


To be continued

あとがき
やれやれ、手抜き感はいなめませんねぇ。
なんたって本家から適当に抽出しただけですから。
ま、それはおいといて。
二章第一話「大地の兎は月見て跳ねず」いかがでしたか?
今回はじめての戦闘シーンで色々と分かったことも多いかと思います。溯夜の魔法の詠唱は和歌だったり、と。
今後本家との差別化はよりいっそう強まるとは思いますが、それでも読んでくださると光栄です。
まぁ、個人的には本家での閲覧を激しくお勧めしますが。
あとがきはこちらでしか書かないんですねぇこれが。

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