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 Chapter 1 the second sequence

アソクの月 黒よっつの日 溯夜の部屋
「あー、暇。」
『暇ですね。』
窓から入ってくる晩春の風が気持ちいい。
「文字の勉強でもしようかな。」
『あぁ、それは名案ですね。
あなたは碌に文字も書けないのですから、ここで読み書きできるようになったほうがいいですよ。』
「しかし、誰に習ったらいいのか。」
『館のスピリットの誰かでしょう。
ですが館のスピリットはほとんど昼間訓練で出払っているので。必然的に習うのは夜になりますが。』
「夜になるのはいいんだけどさ、昼間訓練してきてるんだからやっぱ疲れてるだろ。」
『それじゃぁ、適任者はあと一人ですね。』
「シリアか、確かにあいつは暇そうだ。」
現にしょっちゅう訓練をサボってここに来る。
因みに2回目ここに来たときはちゃんとお茶菓子も持ってきていた。
『あのクッキーは美味しかったんですか?』
「あぁ、あいつの勝ち誇った顔も嫌にならないくらい美味しかった。」
『あなたも素直じゃないですね。皮肉をつけずにただ「美味しい」とは言えないのですか。』
「あぁ、無理だな。」
『まったくこんな捻くれた性格だとは、親の顔が見てみたいです。』
「努力してもいいけどこの世界にいる以上絶対無理だな。あと、親の顔を見たら多分俺の性格は「これなら仕方ないな」って納得すると思う。」
『あなたが私を持ってハイペリアに帰ってくれればいいのですよ。』
「ハイペリア?なんだそれ初めて聞くな。」
『伝えていませんでしたか、ハイペリアとはこちらの世界からみたあなた方の世界のことです。
かなり前からこの世界では人が死ぬとハイペリアへと運ばれるという言い伝えがあります。
ハイペリアもかつてはあなたの世界で言う天国と似たようなものと認知され、半信半疑でしたが、この世界に始めてエトランジェが召喚されてからは実在する世界だと再認識されましたね。』
「へぇ、なら向こうがハイペリアならこっちはなんていう名前なんだ?」
『こちらの世界に名前はついていません。』
「不便だな。」
『確かに不便ですがあなたが名前をつけるわけにはいかないでしょう。
名前は個を区別する基本中の基本です、それに“名は体を表す”です。もっともこの世界の住人でない貴方がこの世界に名前を付けるだなんて道理に反していますよ。』
「それもそうか。名は体を表す、ね。俺の名前は何も考えてなさそうだけどな。」
『夜を溯る、ですか。正確な意味を親から聞いてはいないのですか?』
「名前を付けたのは爺さんで、意味を聞く前に死んだよ。」
『それではあなたの名前に意味を持たせるのが私の役目としましょうか。』
「やめてくれ。意味なんてめんどくさいものいらない。」
などと雑談を交わしている昼下がりに。
コンコン
「溯夜、まさかこんな時間に寝てはいないでしょ?さっさと出てきなさい。」
無粋な奴が来た。
「なんだよ、いきなり来て、出て来いとはいいご身分だな。」
とりあえず扉越しに。
「アズマリアが呼んでるからさっさと来なさい。」
アズマリアって確か
「女王様よ女王様、さっさと来なさい。」
こいつはエスパーか。
しかし、女王陛下の呼び出しとは行かないわけにはいかないな。
「やっと出てきたわね。」
あいもかわらずメイド服の少女、シリアがやっぱりそこに立っていた。

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とりあえずシリアに廊下を先導されながら。
「なんで俺みたいなのが女王に呼ばれなきゃならないんだよ。」
「そりゃぁスピリットよりも戦力になるからでしょ。エトランジェ一人いれば国が落とせるって言うんだから一度は見ておくわよ。」
わぁ〜、俺ってすごいんだ。
『私の契約者なのですから当然です。
時に契約者よかなり緊張しているようですね。』
お上に会うんだから緊張もするさ。
それと一つ、
『何ですか?』
これからもお前は俺のことを契約者と呼ぶのか?
『えぇ、何か問題でも?』
ある、契約者なんて呼ばれても自分のことだと実感できない。
出来れば名前で呼んでくれ。
『分かりました、では溯夜と。』
それでいい。
「ちょっと、もう少し早く歩いてよ。」
「分かったよ。」

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同日 イースペリア謁見の間
「シリア=ブルースピリット、エトランジェ・サクヤを連れてまいりました」
「ご苦労様ですシリア。」
うわっ、こいつってこんな風にしゃべるのか、しゃべれるのか。
『メイド服は伊達ではない、と言うことですかね。』
「さて、エトランジェよ。」
「は、何でしょう陛下。」
『・・・・・あなたもちゃっかり場に沿った返事をしているじゃないですか。こんな返事が出来るなんて驚きです。』
「先日ラキオスのラースでスピリットによる襲撃事件がありました。
スピリットは大方バーンライトのスピリットと予想されています。
ですが重要なことはこの事件の鎮圧にエトランジェが使われた、ということです。」
俺以外のエトランジェはやっぱいるのか。
「そこで、エトランジェ、あなたの予想では何人こちらにエトランジェとして召喚されているか予想はつきますか?」
成る程、ラキオスってのは確かここより北にあるイースペリアと軍事同盟を結んでいる国だったな。
同盟国とはいえ強力なエトランジェが召喚されたら情報を得たくなるのは当然か。
「そう、だな。最低でも俺を含め5人来ているだろうな。」
堅苦しい言葉は長続きしなかった。
あの時神社に居たのは 高嶺、高嶺妹、岬、碧、そして俺だった。俺がここに来ているのだから他の4人もまず来ているだろう。
「分かりました、私たちが得ている情報では今のところエトランジェが出現したと言う国はラキオスだけですが、おそらくマロリガンには溯夜の情報は漏れているでしょう。
そうですねシリア?」
「はい、確かに溯夜を追っていたスピリットはマロリガンのものでした。」
確か、俺は国境付近に召喚されたんだよな。召喚って案外分かるものなのか?
『あなたも召喚される際に光の柱を見たでしょう。あれと同じものが夜に起こるのですからかなり目立ちます。』
確かにあれは目立つな。
「つまり、マロリガンには最低でも1人エトランジェがすでに存在しているわけですね。」
アズマリアの言葉にそうなるのか?何で?とか思っていると周りの連中も同じことを思ったらしく口々に疑問を投げかける。
「それは簡単なことです。あの光の柱は私たちの国では「原因不明の現象」としてスピリットを遣わし。
マロリガンでは位置的に見て召喚の直後にスピリットを3体、それも国境侵犯をしてまでして遣わしています。察するにマロリガンではあの光がエトランジェ召喚の折に発生するものだと知っていたのでしょう。
そしてそれを知るにはエトランジェの存在が必要です、彼らが1人でもいればどのように召喚されるか分かるのですから。」
あ〜、なるほど。女王様頭いい。
「次の質問です溯夜、あなたは召喚されたエトランジェの中に尖った黒い髪の少年は知っていますか?」
尖った黒髪で少年、しかもあの時神社にいた奴。
「多分知ってるよ、高嶺悠人って言ったかな。俺は知ってるけどあいつは俺の事知らないと思う。」
「そうですか。しかし、こんな簡単にエトランジェの存在を割らせるとはラキオス王は何を考えているのでしょう。」
女王が憂いだ顔をする。
おぉ、すげぇ絵になる。玉座に座り難しい顔をする美貌の女王、クレオパトラもこんな顔をしたに違いない。
「何も考えてないのでは?」
群臣の一人が言うと口々に、あの王は野心だけだとか、目先のことに囚われ知性に欠けるだのぼろくそに言う。
「まったく、あんた達にも知恵なんてかけらも無いでしょうが。」
小声でシリアが愚痴る。
「おいおい、聞かれたらまずいんじゃないのか?」
「大丈夫よ。どうせ連中人を貶す事で頭がいっぱいだろうから。」
シリアの言うとおり周囲のお偉いさん方の半数以上の人数が汚い言葉を吐いている。
「まったく、この国がしっかりしてるのもアズマリアと数少ない優秀な臣下のおかげね。そろそろアズマリアが止めさせるだろうから前を向いてシャキッっとしたほうがいいわよ。」
正面を向き肩に力を入れる。すると、
「いい加減にしなさい!!他人を貶しているときにどういった風に見られるか位いい加減に知りなさい。」
一喝、
「これで37回目、いい加減連中も学習しなさいよ。」
「37回ね・・・・、それでも重臣なのか?」
「ほんと困った連中。」
アズマリアの一喝でしゅん、となった群臣にアズマリアが再度睨みをきかし。
「では続けます、溯夜。」
「はい。」
「あなたはシリアと同じで王宮警護隊に所属してもらいます。」
またざわめき。
「黙りなさい、既に決めた事です。それに下手にエトランジェの存在を露見させると戦争の火種になります、今回はこれで閣議は終了です。」
と言って、玉座を立ち優雅に退出。
「さ、出るわよ。」
「分かった。」

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同日 イースペリア城女王の部屋
「えーっと。」
『これで3回目です、いい加減場に適応しなさい。』
シリアはあの後館に戻らず俺の手を引きここへ来た。
そのシリアは、目の前で女王と紅茶を飲みながら雑談を交わしている。
『しかし、すごい光景ですね。』
やっぱり?そうだよな。一介のスピリットと女王、立場が違いすぎる。流行の言葉を使うなら「ぶっちゃけありえない」だ。
「さて、溯夜ですよね。シリアと二人で話すのも久しぶりなので少し長くなってしまってすいません。」
「い、いえ、いい、ですけど。」
「何硬くなってんの?別に見られて困る人間なんて居ないんだからもっと羽を伸ばしたら?」
目の前の女王は例外か?と電波を送信、もとい発声。
「アズマリアは身分なんてさほど気にしないわ。第一わたしがアズマリアと対等に話してるんだからあんたもかしこまる必要は無いの。」
お前が言うなよ。
「そうですよ溯夜、あなたももっとくつろいでください。」
出来るのか?シリアはああ言っているし本人だってくつろげと言っている。しかし相手は女王だそんな身分の人間を前に俺はくつろぐなどということが出来るのか?
「ふぃ〜、じゃぁゆっくりさせてもらう。謁見の間では疲れた。」
簡単に出来た。
「切り替え早いわね。わたしでも最初は随分緊張したって言うのに。」
つまり俺はこいつ以下って事かよ。すげぇ凹む。
「シリアの時はあなた一人だったでしょう?今回は既に意気投合したあなたが居るのですから緊張も早くに解けるものです、それに緊張しているよりもリラックスされているほうがいいですし。」
即座に助け舟を出してくれる心配り、感服いたします。
「溯夜、あなたには明日から訓練に参加してもらいます。」
とアズマリア。
「ん、分かった。あ〜、ふかふかのソファー。」
「ちゃんと聞きなさいよ。」
「聞いてる、聞いてる。」
『態度で示しなさい、目で聴き体で考えると義務教育の課程で習わなかったのですか?』
「習ったような習ってないような。」
「何がよ。」
「やば、口に出てたか。」
「随分とね、まったくもっとシャキッっとしなさいシャキッっと。」
「シリアそんなに言わなくてもいいですよ。」
「駄目よ、こいつは調子に乗せると付け上がるタイプね。」
勝手な事を言いふらすな。
『態度に出ているのですから仕方ないですよ。』
む。
「とにかく、明日からは朝8時に起きて朝ごはん食べて訓練塔に行きなさい。」
「分かった、けど俺、場所知らないぞ。」
「リース達の誰かに案内を頼めばいいでしょ。」
「そうだなぁ。」

その後、話題は二転三転し俺の世界、ハイペリアの話題になった。
「ところで、ハイペリアってどんな感じ?」
いきなり漠然としすぎた質問を投げかけてくるシリア嬢。
「どんな感じ?ってお前、もっと範囲を限定しろ。」
「そうね、スピリットは居るの?」
「居ないな、単に発見されて無いだけってのもあるかもしれないだろうけど、多分居ない。」
「そうですか、それでは戦争では人間が戦うのですか?」
と丁寧な物腰でたずねてくるアズマリア陛下。
「そう、進歩した兵器を使って殺しあう。」
「進歩したって何が?」
「科学だよ科学。」
「神剣とどっちが強いの?」
どっちだ?銃と神剣、いまいち比べにくいな。
『あなたがたの近代兵器の方が強いですよ、少なくとも4位以下の神剣では核爆弾とやらは防げませんね。一瞬で蒸発します。』
「幽玄が言うには俺の世界で最強とされている兵器を4位以下の神剣で防ぐことは不可能らしい。」
「へ〜、4位以下か。そういえば3位以上の神剣は知らないわね。」
「そうですね、城の書庫にも神剣の種類を記した書物は数多くありますが3位以上の神剣の情報はありませんでしたね。」
「そうなのか?大体永遠神剣って何本あるんだ?」
「永遠神剣は知られている範囲でも無数に存在します。そうですね、剣の位と銘を羅列したとして、わたしのこれからの一生を使ってもその全ては書ききれないでしょう。」
「うわ、それはそれは。」
「過去に出現したものと同じ神剣を持ったスピリットは剣の位が上がれば上がるほど増えています。
しかも、エトランジェ用の神剣は『求め』『誓い』『因果』『空虚』の4本と言われています。」
「でもそれもおしまいね、目の前に第五のエトランジェ用永遠神剣『幽玄』がいるし。」
そうなのか、俺ってそんなにイレギュラーだったのか。
『そうですね、この世界で私が観測されていないのはただ単に私が活動していないというだけでしょうが。』
「単に『幽玄』は怠けていただけらしいが。」
『な、何を言うのです。私にふさわしいエトランジェが召喚されなかったので今まで誰とも契約を結んでいなかっただけです。それに1000年ほど前に一度可憐な少女と契約を結んでいます。』
だれ?
『・・・すいません、覚えていません。漠然と少女と契約を結び少女の迎えの者を退けたとしか覚えていません。』
何だよそれ、永遠ってぐらいなんだから1000年ぐらいたいしたことないんじゃないのか?覚えとけよ。
『そういうわけでもありません、それに私が誕生したのはおよそ1000年前です。』
ふ〜ん、生まれてすぐに契約を結んだのか。
『時間的に言うとそうなりますね。』
まぁ、いい。思い出せるなら思い出してくれ。
『努力します。』
「──ヤ、ち──、サ──。」
お、
「溯夜!ちゃんと聞いてるの?」
「・・・聞いてない。」
「まったく、アズマリアが聞きたいことがあるって。」
「そうか。で、何だ?アズマリア。」
「あなたの世界のことですが、この私たちの世界にはおよそ30万人の人が住んでいます。
あなたの世界ではどれだけの人が生活をしているのですか?」
「え〜っと、確か60億ぐらいだったかな。」
・・・驚いてる、そりゃぁ驚くよな。
「60億ですか、それはまた多いですね。」
「まぁ、ね。」
「60億か〜、あんたみたいなのが60億人も居るの?それはちょっと勘弁してほしいわね。」
「そんな分けないだろ。召喚されているはずの他4人は俺よりはましな性格のはずだ。」
「そう、それを聞いて安心したわ。」
こいつ。
「さて、まだまだ話したいことはありますが今回はこれでお開きとしましょう。」
「そうね、そろそろ館に戻らないと料理の準備があるし。」
「じゃぁ、アズマリアまた来るよ。」
「えぇ、是非また来てください。」
軽く手を振りながらシリアに続き部屋を出る。

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ホーコの月 赤よっつの日 訓練塔

銀の尾を引き迫るナイフ。背後から風を切る音を響かせながら吸いよってくるナイフ。
右斜め前から地面を這うように進むナイフ。天井すれすれから急激な変化を見せ落下するナイフ。
それら全てを叩き落とし、ナイフの持ち主へと迫る。
叩き落したナイフのうち2本が再び迫る、同時に相手はナイフを指で挟むように持ち、投擲。
後ろ2本、前6本のナイフが目を喉笛を右アキレス腱を右手首を左肘を心臓を右脇腹を脊椎を、穿ち切り裂き貫かんと肉薄する。
「ちっ。」
左斜め後ろへ滑るように移動。
前方の全てのナイフが進路を変え再度迫る。
背後2本のナイフを叩き落し、『幽玄』の刀身を短くする。
これでナイフは前方からのみ、これなら────
前方6本のナイフを直視し、軌道を読み、そこに生まれる空間に飛び込む、まるで飛んでくるナイフが逆に避けるかのごとく無駄の無い動きで全てをかわす。そして同時に敵に肉薄する。
「え、ちょっ。」
声と同時に両手に18本のナイフを構え、投擲の体制に入る。
ナイフの全てが同時に投擲され、俺へと迫る。がそこには既に俺の姿は無く。
「残念だったな。」
敵の喉元に『幽玄』を突きつけ勝利宣言をする。

◆◇◆◇◆◇◆


同日 訓練塔

「あ〜、また負けた。」
「また、って俺がお前に勝ったのは1週間くらい前だろ。」
「そうだとしてもこれであんたに負けたのは2回目、悔しくもなるわ。」
「はぁ、でもお前結構余裕あっただろ。」
「訓練なんだから本気って訳には行かないでしょ。それでも負けるつもりは毛頭無かったんだけどね。
悔しいけど今日は本当にわたしの負け、最後なんてナイフを構えるのに必死であんたを捕捉しきれてなかったしね。」
『そうですね、ここ2ヶ月ほどの訓練であなたは見違えるほど成長しています。私としては最後のシリアの捕捉を外した所よりもその前の6本を避けたところを褒めたいですね。はっきり言ってあのような回避行動が2ヶ月で取れるとは思ってもいませんでした。』
「まぁ、なんにしてもこれなら実戦でもどうにかなるかな。」
「当然でしょ、イースペリアで最強と謳われているわたしを負かしたんだから実戦でも勝ってもらわなくちゃ。」
「ま、俺たちが実戦に駆り出されるなんてなさそうだけど。」
「そうね、アズマリアもあんたはとっておきの切り札にするつもりらしいし。」
「切られないことを祈るよ。」

アソクの月に訓練参加を義務付けられてから、ひたすら訓練に明け暮れる毎日のある日シリアが。
「ねぇ、模擬戦しない?」
と1週間前に言ってきた。
その時は俺を嘗めていたらしく隙をつき俺が勝ったが翌日からはそうは行かず、黒星を重ねる日々だった。が、ようやく白星獲得と言うわけである。
「明日からは殺すつもりで行こうかしら。」
「やめてくれ、本当に殺されかねない。」
こいつは武器の特性上俺よりも出力を抑えなければならない。投げナイフは寸止めすることは出来ないからだ、投擲後1度はナイフを静止させれるがそれもそんなに長くない。
すると、必然的に狙う部位も限定され速度も相手が避けれる程度にしなければならない。
そんな状況でも俺は今までは一度もまともに勝てなかったのだからこいつの強さは言うまでも無い。
「それにしても平和よね、最近はラキオスが活発に動いてるからダーツィもそっちに目が向いてるみたいだし。マロリガンも砂漠を越えてやってくることも無い。」
「あ、あの。お二人ともお疲れ様です。」
イリスが両手に二つコップを持ってやってくる、その後ろで水差しを持っているのはスコアか。
「二人ともありがとう。」
コップをイリスから受け取り礼を言う。
「い、いえ。それよりもすごいですねシリアさんに勝つだなんて。イースペリアでは初めてなんじゃぁ無いですか?」とスコアがコップに水を注ぎながら言う。
「そうなのよね、わたしの初めてはこんな奴に持っていかれちゃったのよ。」
「・・・・。」
限定して聞かれると8割の人間が意味を違えるであろう台詞を平然と言ってのける。
「あ〜あ、私を倒した責任ちゃんととってもらうんだから。」
いろいろとアウトな発言を、そ知らぬ顔で言ってのけるあたり見てられない。
「って何で俺が勝っといて責任を取らなきゃならないんだよ。」
わざと険悪な雰囲気を出す。
「あら、わたしの完璧な経歴に傷を付けてくれたのに何もなし?」
シリアも便乗して、いわれの無い怒気をぶつけてくる。
「あ、あぁあの。お二人ともそれくらいにしたほうが。」
案の定イリスが慌てふためく、試合後の毎度のパターンだ。
「これくらいにしとくか、いつか見たくイリスが慌てて周囲の物を破壊しまわってもらっちゃ困る。」
以前興奮したイリスがもっていた水筒で周囲の物を破壊して回るといった凶行に出て、アズマリア直々のお叱りをくらうといったことがあった。
「そうね、そんなところが可愛いんだけどねぇ〜。
そういった萌え要素を理解できないのかしらこいつは。」
「台詞がおじさんくさいな。」
ドスッ
「わ、シリアさんナイス。」
「うぅ、ぐぅ。」
シリアの肘打ちが俺の鳩尾にクリーンヒット。
音よりも速く肘は鳩尾に埋まり、激痛よりも速く、意識が朦朧としてくる
そうして、俺の、意識は、闇へ、と、堕ち、て、いっ、た。

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エクの月 赤ひとつの日 謁見の間

「ラキオスが魔竜サードガラハムを討ち取ったという情報が届きました。」
アズマリアの報告にゆれる群臣。
「ラキオスはこれで大量のマナを得たことになります。恐らく新たに得たマナを使い軍事力の強化に充てるでしょう。」
一瞬にして静まり返る室内、アズマリアの言葉の意味するものを悟ったからだろう。
「戦争、ですか。」
臣下の一人が答えを呟く、が静まり返った室内ではその呟きさえも隅々までしみ渡った。
「そうです、恐らくラキオスはバーンライトに進軍を開始するでしょう。次にダーツィ大公国。
理由さえあればこのイースペリアも狙ってくるかも知れません。」
最後の台詞に室内はざわめき立つ。
「ラキオスがバーンライトへ進軍したとしてどうするおつもりですか?」
臣下の質問にアズマリアは
「国境警備の強化を図ります。
今までこの大陸は全ての敵対しあっている国々の間の戦力に差がなく均衡を保っていましたが、今回のエトランジェ出現によりバランスが崩れたといえるでしょう。
そして、この大陸にやってきたエトランジェは溯夜を含め最低で5人。この状況ではいつ攻められてもおかしくはありません。」
確かに、今までは小競り合いの競争になっていた。それは強力な戦力を保有する国家が南方に偏っていて、その南方のマロリガンの攻撃をイースペリアと砂漠が受け止め、ダーツィが帝国の属国とは言え北への影響を緩和していた。
そこへ、今回のエトランジェだ、エトランジェを手に入れたラキオスの王は野心家で北方の統一を暗に画策しているだろうとアズマリアが言っていた。しかもそのエトランジェは俺を除いても最低4人居る、いつエトランジェが攻めて来てもおかしくない状況だ。
この事を考えると国境警備の強化は最重要だろう。
「そして、情報部の活動を推し進め周辺国家の特にラキオスの状況を調べます。
訓練中のスピリットは早急にカリキュラムを修了させ、ダーツィとマロリガンの国境に配備する必要があります。」
確かに彼女たちも育ってきた、俺ほど劇的とは行かないがそれでも様になっている。だが
「まだ実戦は無理だろ。」
「そうね、彼女たちに実戦はまだ早いわ。」
シリアと俺でアズマリアに意見をする、と周りの右翼派の爺が睨んでくる。
「それは分かっています、その事に関しては配属先で配慮させます。
それと、首都の防衛に当てているスピリットを6人から4人とエトランジェに変更します。」
首都を護っているスピリットは6人居たのか、ダーツィとの国境に12、マロリガンとの国境に17という数字を考えると少ないな。
「割り当ては後日知らせます。
本日はこれで終了とします。」
アズマリアはそれを伝えると玉座を立ち、奥へと消えていった。
「溯夜。」
「何だ?」
「悪いけど先に帰っててくれる?」
「・・・あぁ、分かった。」
「ありがとう、夕食のほうはそっちでどうにかしといて。」
一度もこっちの目を見ずに伝えるとシリアはアズマリアと同じ方向に消えていった。
「さて、帰るか。」

案の定その日、シリアが館に帰ってくることは無かった。



This tale slowly starts accelerating.
The hero who destroys the dragon sharpens his fang for the sister.
The king of ignorance sleeps in the throne.
Anything cannot be done though the princess stares at everything.


あとがきなんて名前だけになりそうでならない場所
皆さん今晩は。
このあとがきを読んでくださっているということは高い確率で序章と一話を読んでくださっていると言う訳で、とても私としてはうれしいのですが、実際私はどれだけの人が読んでくださいって居るのか分からないのです。
序章の最後にも拙い英文が登場し、今回の最後にも拙い英文が登場いたしました。
つまり、英文は章が終わるときに登場し私の英語力を暴露していくというわけです。(補助ツールを駆使してはいますが。
今回も無理やりな俺設定(召喚の際の光云々ってやつ)が飛び出しました、れあどめの方に俺設定の苦手な人はご遠慮くださいと書いてはありますが、この時点で鳥肌とか悪寒とか嗚咽しそうになった人は早急にAlt+F4で救済処置を取ってください。
あと、スピリットと近代科学兵器どちらが強いのか?ですが私の中ではスピリットは大体戦車か戦闘機ぐらいで、エトランジェはイージス艦ほどの強さと思っています。エターナルは自衛隊くらいですかね?
二章からは溯夜もシリアも戦いますので、「なんだよこれ、永遠のアセリアの2次なのに戦闘はないのかよ?」とか思っておられた方も二章アップロードまでの辛抱です。
では、二章でやたら強い溯夜とシリアがお待ちしております。そういったのが嫌いな方も(略....


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