作者のページに戻る


 Chapter 1 the first sequence

目が覚め見上げれば見慣れた白い天井、ではなく木目のそろった天井がある。うん、この天井はいい木を使ってるね。
じゃなしに、ここはどこだよ。
『ようやく起きましたか、まったく2日も眠り続けるだなんて時間を大切にしていない証拠です。』
あぁ、やっぱり夢じゃなかったか。
『夢なわけが無いでしょう、この前味わった恐怖を嘘だと言うのですか?』
・・・ありゃ本物だ、間違いない。
『分かっているのならいいのです。』
とりあえず現状を把握する、
部屋は俺の友達の賃貸アパートLDKよりも少し小さい程度。家具は果物とパン、それに空のコップと水差しがおいてあるテーブル。
あとは椅子と俺が寝ているベッドぐらい。
おい
『何ですか?』
ここはどこだ。
『ここはあなたの感覚で言えば異世界と称されるところですね。』
「はい?」
『ですから、この世界はあなたの世界とは別の座標に位置する世界なのですよ。
分かりやすく言えば地球とは違った星です。』
・・・つまりここは地球ではなく、ここに住んでいるのは人間とは違った霊長類だと?
『この世界でも人間は人間です、あなたの世界の人間となんら違いはありません。
あなたの世界とこちらの世界は互いに多少ながらも影響を与え合っています。
ですから似通った生命体やまったく同じ進化を遂げた動植物も存在しています。』
「少なくとも俺の世界に翼を持って剣で襲い掛かってくる人間はいないが?」
『彼らはスピリットと呼ばれる存在です。詳しいことは私は知りませんがどこからとも無く出現し、必ず永遠神剣を持っていると伝えられています。』
「永遠神剣、俺を殺そうとしたあの剣のことか?」
『別にあのブルースピリットが持っていた剣に限定される話ではありません、現に私も永遠神剣の中の一振り第4位『幽玄』です。』
後半えっへんといった感じの雰囲気が声と一緒に響いてきたがとりあえず無視して話をすすめることにする。
「それで、話が脱線したから元に戻すが、ここは異世界のどこなんだ?」
『あら、以外と順応が早いですね。もっとおろおろして私に助けを求める展開を期待していたのですが。』
「いいから話をすすめる。」
『ここはイースペリア王国首都イースペリアの城のそばにあるスピリット用の宿舎ですね。
これ以上の地理的質問は私以上に説明に適した人がいますので私からの説明はここまでです。』
「そうか」
『満足しました?
なら、私と契約を結んでください。』
「・・・ここは異世界なんだな?」
『はい』
「ここで元の世界へ帰るまで生きるためにはお前の力は必要か?」
『もちろんです、複雑な事情がありますがあなたがエトランジェとして私を持って召喚された以上、私の力は必要不可欠です。あと、私の名前はお前ではなく『幽玄』です。』
「それはどういった理由で?」
『すぐ分かるでしょうが、先日スピリットと戦ってどうでしたか?』
・・・スピリット、山の中で俺を襲ってきた俺ではどうしようもない力を持った存在。
「怖かったよ、それにどうしようもなく絶望的だった。」
『そうです、彼女たちに人間の力で打ち勝つのは不可能です、そこで人間たちはスピリットを幼少から「人間のためにそして神剣のために戦い、死んでいくもの」として教育し、それを絶対としました。』
「つまり、都合のいい人型自立兵器ってわけか。」
『飲み込みが早くて助かります、おかげで話す内容が必要最低限で済みます。
彼女たちの強さの理由は永遠神剣にあります、永遠神剣は基本的に契約者に強大な力を与え、対価としてマナを要求する意思を持った剣のことを指します。
つまり、永遠神剣をもってこの世界に召喚されたあなたはその時点で戦う運命にあるわけですよ。』
「成る程、じゃぁ『幽玄』も俺と契約したらマナを要求するのか?」
『もちろんです、永遠神剣にとってマナとはエネルギー、分かりやすく言えばガソリンと脂肪をくっつけたようなものですね。』
脂肪とガソリン?根本的に違う、油ってことぐらいしか共通点がないのに───
「全然分かりよくありません。」
『つまり、永遠神剣はエンジンでマナがガソリンです。永遠神剣にマナを許容量以上ためようとすると、マナはエネルギーとしてではなく質量、純粋に神剣の力に変換され一定のラインを超えると剣格が上昇したり、逆にマナが枯渇すると神剣の力をマナに変換したりします。』
「じゃぁ枯渇状態が長く続くと?」
『神剣にもマナに変換できる力には限界があります、力の40%もマナに変換すれば神剣としての力を失うでしょう。人間で言うところの水ですね。』
「成る程」
その後もいろいろと講釈を受けた所で要点をまとめてみる
まとめてみるとこうだ、
1. ここは俺が住んでいた世界とは異なる世界で、イースペリアという国。
2. この世界での俺の立場はエトランジェというスピリット以上に戦力となる存在。
3. ここにはスピリットと呼ばれる特殊な種族が住んでいて、彼女らはそのほとんどが国家に従属し戦争の道具として使われている。
4. スピリットたちの武装は永遠神剣で永遠神剣はスピリットやエトランジェと契約を結び、絶対的な力の引き換えにマナを要求する剣のこと。
5. マナは神剣のエネルギー源で、この世界ではさらに俺たちの世界で言う電気に似た役割をしている。
こんな所だろう、そして最後に最大の疑問をぶつける
「ところで、俺は元の世界に帰れるのか?」
『それは分かりませんね、今回私は他の神剣がそれぞれの契約者を召喚する折に便乗して、たまたまあの場にいたあなたを引っ張ってきました。同じ方法で帰るのでしたら貴方の世界から誰かに召喚してもらう必要があるのでは?』
「・・・すると何か?俺は帰れないと?」
『そんなことは無いでしょう、来ることが出来たのだから帰れるのも道理ですよ。もっとも、私は帰る方法を知りませんが。』
なんと人を拉致しておいて帰すつもりは無いなどと某国の諜報員みたいなことを言いやがった。
「第一、お前が召喚したんならいつかの運命の出会いとやらも嘘か。」
『それは違います、私の召喚はただの便乗なのですが、貴方が召喚の瞬間神社に居たからこそこうして面と向かって話しているのです。』
お前に顔は無いけどな。
「あ〜、あと一つこの世界の言葉って俺全然わかんないんだけど。」
『それは仕方が無いですよ。あなたはこの世界の言語を習得していないのですから。』
なら、先日最後の最後で言葉が聞き取れたあれはなんだったのか、と疑問を投げかける。
『それはあの時私を握っていたからです、私も契約をしようとしない頑固な人間を助けようと強引になけなしの力を流し込んでいましたから。』
つまり契約を交わすとこの世界の言葉が理解できると、
『そうですね、永遠神剣は文字通り永遠に存在し続けますから新しい世界に漂着した神剣はその世界からマナを介して意思疎通の手段を汲み取ります。』
「よしっ、契約だ。なんにせよ意思の疎通が出来なければ帰る方法も分からない。」
『ですが、文字は書けません。』
不便だな、
『いちいち文句を言わないでください。それよりも契約しますよ、いいのですね?』
OKだ、俺の気が変わらないうちに早くして既成事実作ってしまったほうがいいぞ。
『分かりました、あとで泣き言を言ってもききません。
私、永遠神剣第4位『幽玄』は黒霧溯夜を主と認め、ここに契約を交わさん。』
・・・・終わりか?
『えぇ、終わりました。本当は双方の同意があればいちいち台詞を言う必要もありません。
さっきの台詞は頑固な契約者がようやく折れたことに対する景気付けです。』
ま、いいか。それよりどう違いがあるんだ?はっきりいって何にも違いが分からないんだが。
『今は何も活動していないから分からないだけです、ためしに42.195kmを走って見れば違いが分かりますよ。』
疲れないだろうけどめんどくさい、それより早速仕事だ。
『気が早いですね、まだこちらに来て実質1日目なのですから今日は休んだらどうですか。』
『幽玄』の話を聞きつつテーブルの上のりんごをとる。
『スピリットに襲われた時の疲れも残っているはずです、私は休息をお勧めしますね。』
「分かってるよ腹ごしらえしたら休むさ。」
『幽玄』を手に取り、
『え、ちょっ』青りんごを剥き始める。
「おーっ、よく切れる。」
『ちょっと、あなたは永遠神剣を何だと、あぁ!!汁が、りんごの汁が。』
「あとで拭いてやるから。」
『あとじゃなくて今です今、早くやめっ!』
『幽玄』の言葉を無視し、一本になっている皮を途中で切らないよう丁寧、かつ慎重に切っていく。コツはナイフじゃなくりんごをまわすことだったな、あと皮を押さえながら切る。
『私は果物ナイフじゃな、ってうぇぇ気持ち悪い。』
うん、綺麗にむけたな皮も円を巻いて途切れなくつながってるし。
ちょっと綺麗にむけたので自分にちょっとだけべろんべろんに酔っていると、
コンコン、「起きてる?起きてるんなら入るわよ。」
扉の先には、あの夜俺を助けてくれた蒼い瞳の少女が立っていた。


────────Ciliya side
扉を軽く2度ノックする、
「起きてる?起きてるんなら入るわよ。」
台詞は口だけで間髪いれずに部屋に滑り込む。
「ん?」
以外にも起きていた。
「なんだ、起きてたの。それに元気そうだし心配するまでもなかったか。」
スラスラと嘘を並べる、実は訓練がめんどくさいので誰も近寄らないで、しかも探しにも来ないであろうここに逃げ込んできたのだ。
「・・・・。」
目の前のこいつは人をじろじろ見てくる、何もおかしなところは無いはずだけど。
「なぁ、もしかしてあの夜俺を最後の最後で助けてくれたりした?」
あぁ、成る程。
「もしかしなくてもそう、それとあなたには最後でもわたしにとっては始まり、あのあと二人のスピリットを倒してさらにあんたを担いで下山したんだからねぎらってもらいものだわ。」
言いつつ、部屋のものを物色する。確か紅茶はこの辺に。
・・・・・・あった。アズマリアこれは差別かしら、明らかにわたしの部屋にある茶葉よりいいものなんだけど。
「紅茶飲むけどいる?」
「あぁ、もらうよ。」
後ろのエトランジェはベッドの上で胡坐をかきりんごを食べている。・・・むぅ、わたしよりも綺麗に皮を剥く奴がこの館に居るとは。
茶葉とティーセットを用意して紅茶を淹れる、葉が普段より高いためか動作が2割り増しで丁寧になる。
「わたしが淹れるお茶はおいしいって評判なんだから心して飲みなさい。」
そんな評判は仲間内でしか立っていないし仲間もわたしが入れたお茶ぐらいしか本格的なものは飲まない。
「む、ちょっと待て急いで。りんご食べるから」
言い終わるとりんごに集中して丸みのあったりんごは見る見るうちに抉れた芯だけのりんごになった。


────────Sakuya side
突如室内に入ってきた少女はいきなり部屋を物色し始めこれまた突如として紅茶を淹れ始めた。
「どうぞ、冷めたら美味しくないし少し高めの葉なんだから大切にかつ早く飲んでね。」
「はいはい」
そういって紅茶を口につけると、やわらかい香りと素直な味が口に広がる。
「へぇうまいな」
「当然、葉もいいものを使ってるし。わたしが淹れたんだから美味しくないわけが無いわ。」
随分なことを言ってのけるがそれだけの美味しさは十分にある、これでも紅茶は結構飲む方だ。
「ふぅ、やっぱり訓練をサボって飲む紅茶は美味しいわ。
みんなもこうしたあつかましさがあればこの至福の時を過ごせるというのに。」
「サボりか。」
「えぇ、サボって飲む紅茶は普段のものよりも5割り増しで美味しいわ。」
・・・否定しないところがまたすばらしい。
「でさ、あんた名前なんていうの?」
「黒霧溯夜、黒霧が苗字で溯夜が名前だ。」
「へ〜異世界人ってのは本当なのね、姓名がわたし達の世界と逆なんだ。
クロギリサクヤか。じゃぁサクヤって呼ばせてもらうわ。」
「微妙にアクセントが違う、“く”じゃなくて“さ”にアクセントが付くんだよ。」
「さクヤ、サくヤ、昨夜、えーっと溯夜。こうかしら?」
「そうそう、所で君の名前は?」
「わたし?わたしはシリア、シリア=ブルースピリットよ、シリアって読んで頂戴。」
「じゃぁシリア、聞きたいことがあるんだが。この国のスピリットはメイド服が基本装束なのか?」
事実シリアはメイド服を身に纏っている。紅茶を淹れるときなんて様になりすぎていた、我が母国では絶滅したも同然の職業だったためかなり焦った。まさか、旧電気街では見られる格好をこんな所でも見られるとは。
「そんな分けないでしょう、この服装は友人たっての希望と、神剣の持ち運びに便利だからよ。
わたしの神剣は投げナイフだから大量に持ち運ぶ必要があるの、今だってこの服の中に500本のナイフが収納されてるし。」
『500とはまぁ多いですねぇ。』
確かに、
「500本なんてかなり重いんじゃないのか?」
「小型化してるわよ、投擲する直前にマナをこめて基本の大きさに戻すの。」
あぁ、インスタントラーメンと同じ要領か。
『そんなものに喩えていると頭のレベルが知れますよ?』
うるさい、これでもそこはかとなく成績優良者なんだよ。
『そんなもの、ここでは、痴漢の無いピラミッドほどの価値もありませんよ。』
こんなのと契約を交わしたのか、俺は....
「それで、溯夜は神剣と契約した見たいね。
2日前と比べると存在規模が全然違う。」
「あぁ、確かに契約したよ、ついさっきな。」
「ふ〜ん、所であなたの神剣の銘は何なの?」
なぁ、お前の名前って言っていいのか?
『構いませんよ、名前だけでは何も分からないでしょう。』
「このナイフの銘は、永遠神剣第4位『幽玄』。」
「へ〜、『幽玄』ねぇ。確かに洗練された刀身が奥深いものを醸し出している気がするわね。りんごの汁が付いてるけど。」
『このスピリットは私の美しさを分かっていますね。』
俺には使い古した饒舌なナイフにしか見えないがな。
「ところでさ、あなたがわたし達の世界の言葉をしゃべるのは言語が同一のものだから?」
「いや、神剣の力だ。実際契約をすると決めたのも言葉が話せるようになるからだし。」
「・・・言葉くらい独学で学べばいいんじゃないの?」
「あのな、俺の世界の言葉とこっちの世界の言葉が分かる奴が居ないと学ぶも何も無いだろ?」
「そう?わたしは何とかなると思うけど。」
『彼女の言う通りです、半年もこの世界で生活すればほっといても会話はこなせるでしょう。』
その半年は会話できないじゃないか。
シリアと他愛もない話をして時間をつぶしていると。
「もう、お茶も無くなったし訓練師に見つかると面倒だから帰るわ。まぁここなら見つかることは無いでしょうけど。夕飯の仕込みもあるしね。」
「お、そうか。」
「また気が向いたら来るわ。そのときはお茶菓子も持ってくるから期待しときなさい。」
「あぁ、期待しとくよ。」


────────Ciliya side
黒霧溯夜、か。
話していてつまらない奴じゃなかったな。
アズマリアにでも目が覚めたって報告してこようか。あと、茶葉の催促も。


────────Sakuya side
「ふ〜、シリアが帰ってから随分と静かになったな。」
『私では話し相手になり得ないと?』
「そうじゃないって、ただまぁ面白いやつだったなぁと。」
『どうせ、どおせ、私では役不足ですよ。
さっさと刀身を拭いてくださいよ。』
「はいはい。えっと布巾、布巾。」
『そんなもので拭かないでくださいよ。
あなただってナイフの蒐集をしていたのなら刃物の手入れぐらいは心得ているでしょう。』
「そりゃぁ知ってるし出来ないことも無いけど、いかんせん道具が無い。」
『・・・何か手ごろなもので代用してください。』
「駄目だ、ここは勝手が分からん。」
『そこをどうにかするのも契約者の責務です。』
「あのな、出来無いものはどうしようもないって。」
『はぁ、分かりました。布巾でも何でもいいです、このりんごの汁のべたべたが取れるんなら。』
「舐めたらどうする?」
『全身全霊をもって阻止します。
それこそ本当に自分の手で自分の喉を切り裂いて死ぬ羽目になりますよ?』
「やめておこう。」
『賢明な判断です。』

◆◇◆◇◆◇◆


『さて、体もすっきりしたところで次の講義に移りましょうか。』
「まだあるのかよ。」
『当然です。あなたに今まで教えてきたのはこの世界での一般知識です。
私は少々特殊な神剣ですので私についての理解を深めてもらう必要があります。』
「特殊も何もしゃべるだけのただのナイフだろ。」
『む、言ってくれますね。
では私を握って刀身の背中に指を当ててください。』
言われたとおりに指を刀身の背中に当てる、
『そしたら指を切っ先に向けて滑らしてください。』
指をスライドさせる、指が先端に達しようというところで、
「お、おぉ!?」
刀身が引き伸ばされそれにつれて握りも持ちやすい大きさに変形する。
『どうです、ただのナイフではないでしょう。』
「あ、あぁ。いや〜さすがは自信をもって言うだけはある。」

◆◇◆◇◆◇◆


『幽玄』の使い方を強引に叩きこまれ、刀身の伸縮をイメージだけで出来るようになるまで延々とナイフから刀になった『幽玄』を睨みつかされた。
やれ集中が足りんだの、もっとイメージを膨らませろだの。
おかげで刀身が短くなりそう、までは持っていけた。
『まったく、2時間やってこれですか先が思いやられます。』
こいつの言い分はとりあえず無視する。
「で、今何時だ?」
『あなたが起きたのが午後2時過ぎですね、3時ごろにシリアが来て。それから2時間ほどあなたをしごきましたから今は大体5時ですね。』
「時間の感覚はこっちの世界と向こうの世界では変わらないのか?」
『えぇ、1日の長さは変わりません、1年は12ヶ月で一ヶ月は4週間ですが1週間は5日です。』
「ふ〜ん、それって公転時間が地球より短いって事か?」
『そうなります、因みに今はアソクの月 緑みっつの日(4月18日)ですね。』
へぇ、日付の数え方も面白いんだな。とか考えていると。
コンコン
「起きてるんでしょ、引きこもりっぱなしも体に悪いんだから外に出てきなさい。」
「なんだ、シリアか。」
「なんだとはご挨拶ね、そろそろ夕食だからあんたも食堂に来て働きなさい。」
「食堂?」
「そうよ食堂、ご飯を食べるところであって、食べたご飯が通るところじゃないからね。」
「それぐらいは。」
「なら来なさい、そして夕食の手伝いでもしなさいついでに他のスピリットたちにも自己紹介しておきなさい。」
自己紹介がついでかよ、てかこっちの世界の料理ってどうなんださっき食べたりんごはりんごだったが。
シリアに連れられて食堂に着くと、数人のスピリットがすでにテキパキと食器を並べていた。
「あ、シリアさん食器大体並び終えましたよ。」
もっとも近くにいた緑の髪をしたスピリットがシリアに話しかける。
「ご苦労様、あとは後ろのこいつとわたしがやるからみんなは好きにしてていいわ。」
「・・・エトランジェ様がですか?」
「そう、こいつだって食べるんだから働かないとね。」
「そういうことだ、俺だってただ飯ぐらいってわけにはいかないだろ?」
「はぁ、そういうことでしたら。」
他のスピリットたちは食器を並び終えると各々好きなことを始めた、隣のスピリットと話したり、本を読んだり。
「ちょっと、見とれてないでこっち手伝ってよ。」
「あぁ、すまん。」
『美人が目の前にいるのに他の美人に見とれるなんて失礼ですよ。』
いや、そんなつもりは。
『とにかく早く厨房へ行って作業したほうがいいですよ。』
『幽玄』に促され厨房に行く、言われなくても行きますよ。
「来たわね、まずはそこの鍋の中のシチューを容器に均等に分けて。
次に、そのサラダのボウルを食堂のテーブルに持っていく。ついでにつまみ食いしないように釘を刺してきて。」
いわれたとおり均等に分けようと努力する、があくまで努力だけで微妙な差が出てしまう。
「それくらいどうってこと無いわよ。普段彼女たちが分けるよりは均等に出来てるしね。」
シチューを配膳し終え次にサラダを持っていく、何も言わなくても食べなさそうだったので釘は刺さずに厨房へ戻る。
「もう配膳も終わり、食堂に戻って自己紹介を済ませたら夕食にしましょう。」
シリアのあとに続き食堂に戻る。
「こいつが件のエトランジェね、名前も分からないんじゃぁ困るからこの場で自己紹介をさせるわ。」
なぁ、何を言えばいいんだ?と小声で問いかける。
「名前と神剣の名前だけでいいわよ必要以上に長引かされると料理が冷めるでしょ。」
「えーっと、今回このイースペリアに召喚された永遠神剣第4位『幽玄』の契約者黒霧溯夜だ、こっちのことは分からないことが多いだろうけどよろしく。」
「はいじゃぁ、リースから順番に右回りで自己紹介していって。」
リースと呼ばれた少女から順に自己紹介がされ、夕食が開始された。
カチャカチャ、食器の当たる音が食堂内に響く。むしろ食器のあたる音しかしない。
「なぁ、聞きたいことがあるんだけど。」と俺が問うと
「何?」とシリアが答える
「ここにいる全員がイースペリアの保有する全スピリットなのか?」
「違うわよ、基本的に首都にいるスピリットは訓練中。成熟したスピリットは大半が国境警備で、町に駐屯するのが少しいるだけ。
イースペリアは南をマロリガン、東をダーツィと接してるから必然的に国境警備に割く人員が増えるの。」
「じゃぁお前はどうなんだ、お前も訓練中なのか?」
「違うわ、わたしは王宮警護隊所属だから首都にいるの。」
「近衛か、その王宮警護隊ってのは何人いるんだ?」
「わたしだけの少数精鋭隊。」
「・・・お前だけで王宮を護ってるのかよ、しかも一人で隊か。」
「で、でもシリアさんとっても強いんですよ。」
先ほどリースと自己紹介をしたブルースピリットがシリアを弁護する。
「そういうこと、それに王宮っていっても王族は常に一人だけだからね。」
「あぁ、そういえば儀式で女王を選抜するんだっけ。」
「そうよ、よく知ってるわね。」
「あ〜、まぁな。『幽玄』がな、常識ぐらい身につけろっていうからな。」
『何ですかその言い方は、おかげで会話がスムーズじゃないですか。』
そうだな、ありがとう『幽玄』。
『む、お礼を言っても何も出ませんよ。』
いや、そういうつもりじゃないよ。
「今の女王様はとってもスピリットに対して優しいんですよ。」
と、イリヤ。
「そうなのか、でもそれじゃぁ臣下から反感を買わないか?」
「スピリットを寛大に扱っても戦果は落ちてないし、内政もしっかりしてる。マイナス面があってもそれを補って余りある実績があるからアズマリアには。」
「シ、シリアさん女王様をそんな風に言っちゃぁ駄目ですよ。」
「言いのよ、わたしとアズマリアの仲だもの。それに聞かれてまずい人間もいないしね。」
『はぁ〜、なんとなく彼女が王宮警護隊に所属している理由が分かってきましたね。』
「あぁ、この性格だから扱いづらかったんだろうな。」
「誰が扱いづらいって?」
「・・・そりゃぁシリアお前だよ、みんな素直でいい娘たちなのにお前だけ性格悪い。」
「みんなが素直すぎるのよ。わたしは普通よ、それともあんたの世界じゃぁこの娘たちと同じくらい素直な心の持ち主ばっかりだったのかしら?」
「・・・いや、ここまで素直な心の持ち主は恐らく絶滅したと思う。」
「・・・それは荒んでるわね。」
「素直さを持たずして生まれたかのような連中ばっかりだったな。」

─────────────────────────────────────────


そこそこに賑やかだった夕食も過ぎ、風呂も入ってきた。
『そろそろ、星を見るのもやめたらどうですか?』
「なあ、あの星の中のどれかが地球なんだよな。」
『いえ、確かに同じ宇宙の中に存在はしますしそれなりに近い位置関係ですが。
恒星でない地球が視認できるほど近くはありません。』
「いや、そうじゃなくて。
・・・・まぁいいか、この空の向こうに故郷が有る。それだけ分かっただけでも。」


To be continued


見苦しい言い訳をあとがきと称しごまかす場所

皆さん今晩は(多分夜に読む方が多いと思われますので。)
今回一章一話は二話と同時アップロードとなりました。
もはやお気づきの方も多いとは思いますがオリキャラナンバー2のシリア嬢はもちろんモデル(パクリ元)が存在しています。
今回は、シリアに続きリースやイリヤといったオリジナルキャラが登場しました。シリアはメインキャラですがリースとイリヤは恐らく名前だけの使いきりでしょう。
続きは二話のあとがきで。


作者のページに戻る