An introductory chapter
異世界召喚後1時間20分 イースペリア南の山中
ガサガサッ
「はぁ、はぁ、・・くそっ」
どうしようもない状況から目をそむけるために少しでも遠くへ行くために全速力で駆け下りる。
背後の敵は3人。
こっちの武器は切れ味は良さそうだが得体の知れない無骨なナイフ一振りのみ、馴染みのあるナイフは3本あったが3本とも投擲してこの広い森のどこかだ。
青い敵は背中に翼を持っていて高速移動が可能なようだが木が鬱蒼と茂った森では満足に飛行ができず、傾斜のある山の中は慣れてないのか十分に走ることも出来ていない。
だが消えることの無い恐怖とそれに拍車をかける絶対的な殺意があり、しかも一定の距離を保った状態で硬直状態にある、敵は3人でこっちは防戦一方、感覚的に山は下りだからこのまま行くと平野に出られるかも知れないがそうなると助けでもいない限り絶対に追いつかれてしまう。
「はぁ・・・・く、そ、何でこんな事に。」
そう、それが疑問だった。
今日の俺はいつもと変わらなかった。
今日はやっぱりいつもと同じで今日だった。
別に何も間違えてない、こんなわけの分からないところに来て、
『あの、このままですとあなたの死亡は絶対的ですから私と早く契約を。』
ナイフに話しかけられる状況になるような選択肢は選んでないはずだ。
因みにこのナイフは今から10分ほど前から話しかけてきて、契約だのどーのこーの言ってくる、どんな選択肢を選べばこんなフラグが立つのか。
『・・・・あの。』
今日の俺の行動を振り返ってみても昨日と同じはずだ、
『いえ、今までとは絶対的に違う事が一つだけあります。』
そう、確かに一つだけある、だけどあれはただの気まぐれだったはずだ、
『そのようなことはありません、あらゆる偶然はさまざまな要素が絡み合って出来る必然です。』
じゃぁ何か?俺があの時神社なんかに行ったからこんな目にあっているのか?
『こんな目とは酷いですね、複雑な要素が絡み合って起こった偶然なのですよ?わたしとあなたはまさに運命の出会いじゃないですか。』
ふざけるな、そんなの認めない。
『けれど認めなければならないでしょう?現に出会っているのですし、それにあなたの世界では剣を持った少女が翼を生やし襲ってくるなんて事ないでしょう?』
無いからこそ認められないんだよ、だがこの恐怖と走っている感覚、それと走った距離に比例して増える疲労は本物だ、こんな状況が続けば生き残ることも難しい。
『だからこそこの状況から生還するために私と契約を。』
さっきから契約がどうのこうのわめくこのナイフは肝心の契約の内容を説明しようとしない、こんなナイフと契約を交わした所でどうやってこの危機的状況から脱することができるというのか。
『あ、すいません。契約の内容をお話していませんでしたね。』
そうだ、内容によっては契約を交わしてやらんでもない。
『わたしと契約を交わしますと、後ろの3人を圧倒できるかもな力が手に入ります。』
なんとも分かりやすい契約内容だ、だがそれじゃぁ俺が一方的に有利な契約だこちらにも何かしらのリスクがあるんだろ?
『えぇ、わたしと契約を交わした暁には、あなたとわたしは運命共同体です。』
・・・却下だ、そんな契約結べるはずもない、
“マナよ我が命に従え、闇夜を切り裂く一条の光となりて彼の者を焼き貫け、 フレイムレーザー!!”
和歌に似た、所々切れ切れのリズムのいい流れる台詞と、
背後から強烈な光が浴びせられ、衝撃に乗った俺の体は面白いように中空を舞い、
地面が目に入るか入らないかの所で意識は途切れた。
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異世界召喚から約10時間前 午前8時20分 自宅近くの県道28号線
「・・・寒い」
師走の中ごろのある日凍結防止剤の撒かれたアスファルトの上を歩く。
首にはマフラー、手はポケットの中でカイロを握り、ブレザーの中にセーターも着込んだ。
だが、今年度の最低気温は伊達ではなく普段の状態の上に敷いた3重の結界をいともたやすくブレイクスルーして来た。
暖かいのはカイロを握った手のひらぐらいで、唯一の安息の地だった。
感覚と思考を切除し、無心となって学校へと歩く。
登校中は何の問題も無く普段どおり。
異世界召喚から約6時間前 午前12時00分 昼休みの教室
「なぁ、黒霧学食行こうぜ。」
授業も終わり浮ついた雰囲気のある教室で昼飯を購買のパンにするか学食にするか決めているとそんなお呼びが掛かった。
「分かった、すぐ追いつくから先行っといてくれ。」
「OK、メニュー選べなくなるからすぐ来いよ。」
「分かってるよ。」
写し終えていない黒板の数式をノートに写し席を立つ。
学食に来ると友人は、すでに昼食を確保し終え席の確保に回ってくれている。数分かかりカレーうどんを確保して友人の元へと急ぐ。
「ようやく来たか、まったくあんな数式なんて写してもわかんねーんだからさっさと見切りをつけて次の行動を優先しろよな。」
うどんをすすりながら器用にふざけたことを言ってくる。
「今日のところは授業聞いててもよくわかんなかったからな、せめてノートにとって復習しないと。」
「お前復習なんてするのか?」
「いや、しないな。」
「・・・・毎度思うが無駄だな、そこんとこどう思ってるのさ?」
「・・・・うどんが伸びるさっさと食え。」
「質問に答えろよ。」
「いらないんならもらうぞ?」
「ん、それは困るな。」
昼休みもいつもと変わらない当然午前の授業もだ。
異世界召喚から約1時間前 午後5時15分 HRも終わり人もまばらな教室
「ふぅ」
未提出の課題を出し終え教室に戻ってきた。
「英語の担当があれで良かった、あのがさつな性格だからこその手抜きだな。」
英語の問題の回答はほとんどがでっち上げで、
詳しく確認されたらまた明日呼び出しをくらいかねないようなものになっている。
「さて、帰るか。」
放課後と午後の授業、どちらも問題なくすんだ。
異世界召喚から5分前 午後 6時10分 神木神社前
「ん?」
神社の上から普通ではない声が聞こえる。
「ちょ――――――。」
声は明らかに怒鳴り声で、相当あせっている。
「おに―――――。」
「ぐ―――あ―――ぁ――あ――――。」
「お――と――じょ―――――。」
かなり途切れ途切れで要領得ないが緊迫した雰囲気なのは分かる。
興味とこの場に居合わせた責任感に後押しされ階段を駆け上る。
境内には、頭を抱えた奴を含め3人の隣のクラスの連中と下級生、それと手に剣を持った巫女。
「え?剣?お払い棒じゃなくて?」
頭を抱えている奴は確か高嶺とかいったな、とするとあれとあれが岬と碧か、であの下級生が高嶺の妹か。
「・・・・・門が来ます。」巫女が高らかと宣言する。
と、高嶺を中心として光の柱が出現し彼らが次々と光の奔流に飲まれていく。
ザリッ、本能的に後ずさりし、その音でいまさらになって巫女が俺に気づいたのか目を見開きだいぶ焦っている。あたふたした動作はなかなかに可愛らしいが状況が状況なので見とれる暇も無い。
逃げようとか思ったが、後ろの足場が一段低いだけですくみあがり後退することが出来ない。
光の柱が俺に迫り飲み込もうとする。
すると、俺もあっさりと、ほんと俺だけは飲まれずにどうにかなるんじゃないかと思っていたのも馬鹿らしいほどに光の柱に飲まれてしまった。
異常事態発生 回避不能
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異世界召喚後 1時間 イースペリアとマロリガン国境の山脈
「う、ぐっ・・・」
目を開けると飛び込んできたのは鬱蒼と生い茂る木々、それとちょうど木々の間から見える上弦の月。
「ん?、ここは。」
体を起こしあたりを見渡すがこんな場所に見覚えは無い。神社の裏、とも考えたが神社の裏は桜と広葉樹であってここのように針葉樹だらけではない。ならここはどこだ、と新しい疑問が浮かび上がるが。その前に右手に掛かる軽い重みが気になった。右手には今までいろんなナイフを集めてきたがその中のどれとも違う、刀身だけじゃなく柄まで金属で出来た無骨なナイフが握られていた。
「・・・・・」
こんなものに見覚えは無いが、この風景にも見覚えはない。それにいまさらナイフの一つや二つといったところだ。とりあえず右手のナイフを剥き出しの刃で体を傷つけないように刃にハンカチを巻いてポケットにしまう。
あたりを見渡すといよいよ分けが分からない、時刻は間違いなく夜、そして周りは欧州などで見られる針葉樹林、おまけに森は傾斜の付いた地面から見るに山となっているようだ。
得体の知れないここにとどまるのも得策とは言えないのでとりあえず斜面の下に向かって歩き出す。
歩きながら状況を整理しても謎は深まるばかり。
確かに俺は神社に居たはずだこれは間違いない、高嶺たちが光の柱に飲まれて数瞬後に俺も光に飲まれた、が記憶で追えるのはそこまででここがどこなんかは分からない。
まさか、光に飲まれて眠らされているうちに車でどこぞの山奥にでも捨てられたんだろうか?
・・・それこそまさかだ、第一そんなことをしてもメリットがない、あの時俺が持っていたものは全部ある誘拐が目的ならこんな山の中とはいえ自由にはしておかないだろう。
などと思考の海を漂っていると、
ガサッ
「!」
すぐそこの茂みから音が聞こえた。懐の使い慣れたナイフの一つを手に取り、ナイフを体で隠すようにして茂みから少しずつ離れる、茂みと木々の影に人影が写る。俺は内心ほっとしたが。
“・・・敵か?”
茂みから出てきた少女の持つ俺のナイフでは相手にもならない強大な死の具現に戦慄した。
担い手の身長の半分以上はある両刃の剣。
とっさに右手のナイフを少女めがけて投擲する、少女はナイフを軽く体をずらすことで難なくかわす。
続けざまに2本目を顔面めがけて投げ注意がナイフに向いた隙に全速力で逃げる。
“ちっ、逃がすかっ”
何か言っているようだが理解できない、理解できたとしてもおそらく逃げるだろう。少しでも遠くへ行く事しか頭にない。
幸い場所は森の中、日ごろの行いのおかげで障害物を使って逃げるのはそこそこに慣れている、そして相手はあの長物だ容易に振ることも出来ない、少しずつ冷静を取り戻してきた頭で見える範囲での逃走経路を計算する。
“くそっ、追え、逃がすな!!怪我をさせても構わない必ず確保しろ!!”
背後からの声は今まで聞いたこともないような言語、日本語ではもちろんなく英語でもない、いろんな国に行ったことがあるがこんな言語は始めて耳にする。
山は大して高くなく遠目に点々と光も見える、これならこのペースを維持し続けることが出来れば逃げ切れるかもしれない。
ヒュッ
乾いた空気を切る音と地面を踏み込む音が聞こえ、
反射的にしゃがみこむと俺の真横にあった直径40cmはあろうかという大木がちょうど俺の首の辺りで切り裂かれていた、大木は周囲の枝を巻き込み俺を押しつぶそうと倒れてくる、大木を見極め当たるか当たらないかという刹那に体をかわしその勢いで斜面を転がり降りる。
大木を切り落としたのは別の少女のようで彼女は柄の両端に刃の付いた双剣を持っている、舞い上がった土ぼこりの中に俺が居ると思っているようで土ぼこりを凝視している。
まだ大木が倒れた衝撃で周囲が騒がしくなっている今のうちに距離を稼がねばならない、勢いをつけて立ち上がりそのまま走り出す、双剣の少女は俺に気付かなかったようで追撃は無かった。
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異世界召喚後1時間30分 イースペリアから南の山中 神剣魔法浴びた直後
「う、クッ・・・」
背中に激痛が走り目を覚ます、気を失ってからさほどたっては居ないようでまだ3人は来ていない。
「はやく、しないと。」
着地で足を痛めたのか刺すような痛みと自分の足なのかと疑いたくなるように震える両足。いままでが極限状態で気付かなかったが俺の体はこれ以上酷使できるものじゃないらしい。
何とか2本の足で大地を踏み背中を巨木に預ける。
『もう限界です、本当にこのままでは死んでしまいます。』
最後の武器である拾ったナイフに手をかける、ナイフを逆手に構えると多少疲労がおさまり感覚が拡大した。
「へぇ、持っただけでこれか。3人を圧倒ってのもあながち嘘じゃないかもね。」
『確かに契約をしなくても多少の補助はありますがそれでは3人ものスピリットを相手に戦うなど不可能です。』
拡大した感覚で3人の位置を探る、漠然とだが一塊になってこっちに来ている。
「契約を結ぶ余裕はなさそうだけどな。」
3人の内の一人がこちらに向けて飛び出してくる。
残り10m
7m
4m
2m
木々の間から飛び出してきたのは青い閃光と月光を反射し闇夜に映える白銀の必殺。
白い残像を残しつつ天上から落ちる一撃を、とっさに体を右に投げ出すことで避ける。
「っ!」
背中を預けていた巨木の右側が崖になっているのは確認済み、深さも石を蹴り落とすことで死にはしない事位は把握している。大体学校の4階から中庭の芝生の上に落ちたことだってある、ここは森なんだから岩でも露出してない限り大丈夫。
底を睨み、体を捻り天上を睨む、崖から飛び降りる影、さっきの少女とは違い髪を短く後ろでまとめた青い少女。
月をバックにした少女は刺突の体制をとり、
────────Enemy side
「イースペリアとマロリガンとの国境付近に出現したとされるエトランジェの確保」
との任務を受けてスレギトから領域を侵犯してまでエトランジェを追っているのに、気配は微弱で遠くからは探れず、目視したらしたで本当にこれがスピリット以上の力を持った存在なのかと疑いたくなるような一介の人間とも変わらない気配。
だが私の神剣は頭で警笛を鳴らし続ける。
エトランジェの握るあの神剣は間違いなく本物だ、それも私の剣では太刀打ちできないであろう力を秘めている。
その証拠に任務の確保という二文字は頭から消え去って久しい、仲間の二人も攻撃を2度も放っているが、神剣魔法は任務上躊躇いを覚え失敗、だが先ほどの一撃は確実に殺すためのものだったはず。
だがこの神剣と契約すら結んでいないエトランジェは電光石火の一撃をかわし、今私の真下に五体満足でナイフを構えている。
ハイロゥで加速も出来る、余裕を持って確保も可能だ、任務達成には今この瞬間しかない!!
崖下まであと少し、エトランジェは私を視界におさめつつ体を丸め着地の態勢をとる。
剣先を体の中心線へ向け加速、受け止めるであろうナイフを弾くビジョンを反芻、
不定形な未来を業と経験で現実にするために肉薄する、
風を切る感覚、周囲の色がなくなり目標のエトランジェのみが無色の世界で色を持つ。
剣の切っ先がエトランジェに届くか届かないの所で
“彼を殺されると困るんだけど”
────────Sakuya side
“彼を殺されると困るんだけど”
場に似合わない雰囲気を纏った声が届くのと同時に俺の眼前に迫った少女は無数のナイフに体を穿たれ金の粒子と消えていき、ついに俺に必殺の刃が届くことは無かった。
どさっ、俺が地面に落ち咳き込む。
“大丈夫?”
俺の顔を上から覗き込む蒼い瞳、先ほどとは違って意味の理解できるその言葉を荒い息でもって返す、
“うん、生きてるみたいね怪我もしてないし他の二人を始末してからでも十分大丈夫そうね。”
とりあえず自分を殺すつもりも、追いかけるつもりも無いらしいこの少女にほっとした俺は、目前の敵が消え去った安心感も手伝ってあっさりと意識を切り離した。
This tale begins from his and her encountering.
The moon in the night sky watches them with the spring breeze.
Fated scenario was broken by the irregular.
And the fate takes him and began wandering.
No one understands where the fate reaches at last.
あとがきみたいな言い訳
皆さん始めまして、アートと言います。
れあどめでも書きましたが既に主人公を含め二人の俺設定キャラが登場しています。
今後は永遠のアセリアで詳しく書かれていなかったキャラを一人起用し、もしかしたらバランスを整えるため2,3人オリキャラが増えるかもしれません。
名前だけなら数人オリキャラを使いますが、永遠のアセリアの基本骨子を必要以上に揺るがさないためにもオリキャラは片手で数えれる程度に留めます。
本編を読む前にあとがきを読んでくださった方はもう一度れあどめの方をしっかりと読んでそして考えてから本編をお読みになるか決めてください。
感想がどうであれ完結できるよう頑張りますので、応援とまで行かなくても苦情を掲示板で包み隠さず書かないでいただけたなら完結できる可能性が上がりますので。