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     第三章 〜三人の部隊〜


今、一つの部隊がラジード山脈に向かい進行している。
ラキオススピリット隊。
しかし、部隊と言うにはあまりにも少人数。
3つの人影しか伺えない。
その理由は、時間を遡らなければならない。

一日前のこと。

「頼んだぞ。エトランジェよ。」
「はっ!」
国王からの任務の通達も終わり、悠人はその場から立ち上がる。
そして館に戻ろうとした時、
「あぁ、少し待て。言い忘れたことがある。」
突然の呼び止めに、悠人は進めようとした足を止める。

「連れて行くスピリットなのだが…。マナの調査程度に多くは必要としないだろう。」
よって…という前置きの後、

「連れて行くスピリットは2匹までとする。」

この王の言葉を聞いた悠人。
最初に思うことは、(勝手なことばかり言うなよ)といった事。

しかしよく考えてみると、王の言うことにも一理ある。
今は睨み合いが続いているとはいえ、ダーツィ大公国との戦争中ということには違いない。
戦中ならば、自国に戦力を置くのは当然のこと。
無闇に軍事態勢を緩めるべきではない。
王がここまで考えているかどうかは分からない。
が、悠人は「分かりました。」と答えた。


それからしばらくたった後。
スピリットの館第一詰所にて。
今一つのテーブルに十人のスピリット+一人のエトランジェが集結している。

「それで、誰に付いてきてもらうかなんだが…」

どうやら悠人に付き添うスピリットを決める会議中らしい。
進行役は、一応彼女達のリーダーである悠人。
「行きたい奴いるか?」

…適当だ…。

この質問に対する返事は…

「隊長の命令ならば!」
堅く返答をするヒミカ。

「怪我をしては危ないですから〜、お姉さんが付き添いますよ〜。」
…やんわりと乗り気のハリオン。

「わ、私もお供します!」
何か頑張って主張しているヘリオン。

「ユート様と一緒にいく〜!」
「シ、シアーも…。」
「違うよ!パパと一緒に行くのはオルファだもん!ね?パパ。」
とまあ元気な3人組。

「まあ付いていってあげてもいいわね。」
相変わらず冷ややかなセリア。

「何をすればいいのですか?」
…いや、まだメンバー決定してないし…。

「ん…。ユートが行けと言うなら。」
…だから、まだ言ってないって…。

「危険な任務なのかもしれません。私がお供します。」
とまあ、エスペリアまで乗り気である。

(うーん…。確かに多人数はいらないとしても、道中の危険はあるかもしれないし…。それに強力 なスピリットと戦うかもしれない…。)
考え込む悠人。
自分から質問したにもかかわらず、彼女達の主張を聞き流している様子。
まぁ途中まで聞いて、後は流したのだろう。
理由は…言うまでもない。

(なるべく強い二人に来てもらいたいな…。となるとアセリアとエスペリアか…。)
まあ育成期間の長い二人だから当然。
アセリアはそうでなくても強いのだが…。

(いや…よく考えたらヒミカとハリオンもそうか…。)
もちろんこの二人も同様である。

(セリアは怖いしな…。)
いや、待て…

(さて…どうしようか…。)

エスペリアにする。
→アセリアにする。
ヒミカにする。
ハリオンにする。

…ピロン♪

…もう一人は…。

→エスぺリアにする。
ヒミカにする。
ハリオンにする。

…ピロン♪…。


と、こうしてアセリア、エスペリア、悠人の3人がラジード山脈に向かうことになった。





「なあ、エスペリア。あとどのくらいで着くんだ?」
地図を見ながら横を歩くエスペリアに声をかける。
ちなみに悠人は地図を読めない。

「えっと…。まず、この先のエルスサーオで一日滞在します。準備などもありますし…」
「準備?」
館で、必要なものは全て用意したはずだ。
そう思った悠人は聞き返す。
実際のところ早めに任務を済ましてしまいたい。
だから、余分な滞在などはなるべく避けたいのだ。

「エルスサーオからリーザリオまでは丸一日かけて歩きますから…。」
「ああ、なるほど。」

いくらスピリットやエトランジェの足の速さ、体力を以てしてもエルスサーオからリーザリオまでの道のりにはかなりの時間と体力を要するだろう。
丸一日をかけるといっても、それでもかなりのハイペースだ。
館での準備は、ラキオスからエルスサーオまでのためのものだったのだろう。
「だろう」というのは、悠人自身は自分の為の必要最低限の準備しかしていない。
三人だが、部隊のために必要な準備は全てエスペリアに任せていたのである。

「今日の夕方頃にはエルスサーオに到着すると思います。私はそれから買い物ですが、悠人様は休んでいて下さい。」
悠人を気遣うエスペリア。
ん?いや…ちょっとまて…。気遣っているのか?

「エスペリアばかりに任せるわけにもいかないだろ?俺も手伝うよ。」
まぁ、こう言う悠人君。
まぁ本人としては…
(エスペリアはいつも俺によくしてくれている。こういう場面だけでも手伝わないと!)
みたいなクソ真面目なことを考えているに違いないのだろうが…

「あ…いえ。私は大丈夫ですよ!慣れていますから!」
微妙に焦って主張するエスペリア。
何か必死だ。

「いや、でも悪いし…。」
「本当に大丈夫ですから!悠人様は休んでいてください!
…あっ、ほら。アセリアが一人きりになってしまうでしょう?
えっと、すみませんが、あの子の話し相手になってもらえないでしょうか?
ほらあの子…。その…。意外と寂しがり屋なんですよ!」

…んなわけがない。
何故こんなにも悠人の同行を拒否するのか。
まぁこれには理由がありまして…。

以前悠人とエスペリアはラキオスの街で一緒に買い物をした。
エスペリアはその時は申し訳ないという理由で乗り気ではなかったのだが。

結局一緒に街へと出向き買い物をする。
目的の店へ到着し、あとは買い物を済ませて城へと戻る。
…だけのはずだった。

だが甘い。

少し時間がかかるというスピリットの勘定の間。
悠人は外で待っていてくれるものだと思っていたのだが…。
店から出ると何と悠人がいない!

その頃、まさかユート様が高台で某ヨフアル大好きッ娘とエ○ゲっぽいイベントを起こしてるなんて知る由もないエスペリアさん。
(ユート様、どこ!?)
と焦る焦る。
そして結局街中を探し回ってしまった…。
結局再び悠人とエスペリアが出会ったのはその日の夕食の席だった。

と、こんな事があったので、ぶっちゃけて言っちゃうと
「ユート様と買い物はちょっと…」
ということなのである。

「あっ、そうか…。アセリアもいたもんな。
さすがにあいつだって一人残されるのは嫌だよな。
んじゃ悪いけどエスペリア。買い物のほうは頼むよ。」

…ふっつうに騙される悠人。
騙されやすい…否…物分りのよい悠人にエスペリアは安心したという。



時が過ぎて、この日の夕方。
只今エスペリアは買出しの真っ最中。
そして悠人とアセリアは滞在するための宿にいる。

宿。
普通スピリットは宿に泊まることはできない。
宿を経営するのはやはり人間。
そして宿の従業員も人間。
従業員は客に対して精一杯のもてなしをしなければならない。

じゃあ、その客がスピリットならば?
スピリットに対しても人間同様に接することができるのか?

大抵の人間はスピリットを下等なものと見なす。
よってそんなことは不可能であろう。

では何故悠人達は宿に泊まれるのか?
何故野宿をしないで済むのか?

まぁ、それは例外の人間もいるということなのだろう。
全員が全員スピリットを軽蔑するというわけではないのだ。

「なぁアセリア…。」
アセリアと二人きり。
何の会話もない状態に耐えられなくなった悠人はアセリアに話し掛ける。
エスペリアにもそう頼まれていたし…

「…ん。なんだ?」
アセリアは剣の手入れをしている。
わざわざその手を止めて顔だけをこっちに向けてくれる。
まぁ、いつでも再開できるよう剣を手放さないのだが…。
無視されないだけマシなのだろう。

「今回の任務どう思う?」

「どうって?」

「いや、ほら…。内容がまだはっきりしてないだろ?
マナ結晶体があるのか、スピリットがいるのか、アセリアはどう思うかなぁって。」

…苦しそう…。悠人君苦しそう…。
きっと話す内容がみつからないのだろう…。

「…どっちでもいい。」

「あ…そう…。」

あ〜あ。
嫌な切り返し方されちゃった〜。

「私は…。そう…。戦うだけ。」

省略を補うと、こういうことなのだろう…。

スピリットがいるか、マナ結晶があるのかは分からない。
マナ結晶があるだけならそれでいい。
スピリットがいるのならそれでもいい。
この道中。また目的の場所。
どこでどんな危険があるのかも分からない。
もちろん危険など無いのかもしれない。
それならそれにこしたことはない。
ただもしも戦わなければならないことがあるのならば…。
自分は戦うだけだ。

「いや、でもアセリア。スピリットがいたとしても殺してはいけないんだぞ?」

がんばってアセリアの言葉を読み取って返事をする悠人君。
がんばれ!がんばって会話を続けるんだ!

「…わからない。」

…省略を補おう。

殺してはいけないのは分かっている。
それが命令なのだから。
ただそれも相手による。
強い相手に対して、生かして勝つということは難しい。
弱い相手なら手加減するだけよいのだが、強い相手には全力を出さなければならない。
結局、自分が死ぬか相手が死ぬかとなる可能性が高い。
何より戦うのかどうかも分からない。
戦ったとして相手が強いか弱いか分からない。
強かったとして生かせるか、殺してしまうか。
自分が生かされるか殺されるか。
何もかもがまだ分からない。
だから何もまだ一概に言うことはできない。

いや…さっきの一言にこんなにも意味を含むのかどうかも分からない…。

「そっか…そうだな。」

どう返答すればよいのか分からず、一応このように返事をしておく。

そして少しの沈黙後…。

「ユート…」

なんとアセリアから話し掛けてきた!

「…ん?」

だが準備をしてなかった悠人。
せっかくアセリアから話し掛けてもらえたのに不意の出来事に生返事。

「がんばろう。」

省略を補うと…

どんな任務かも分からない。
だけどどんな任務にしたって頑張ろう。

「…あぁ。頑張ろうな!アセリア!」

アセリアからの励まし。
それはものすごく素朴なもの。

だけど、それでもアセリアからの励ましには変わりない。

飾り気がない。とても素直。
そんなアセリア。
だが、そんなアセリアだからこそ、その言葉には大きな意味があるのだろう。



それから程なくして、エスペリアが戻ってくる。
会話がない静かな部屋なのだが、二人の顔には気まずい様子はない。
そう思ったエスペリアは微笑みながら部屋に入る。

「おまたせしました。ただいま、アセリア、ユート様。」


そして次の日。
朝早く、一つの部隊がエルスサーオの街から出て行く。
部隊というには少なすぎるその部隊。
なにせ三つの人影しか伺えないから…。

だけど、エルスサーオに入る前よりもいい雰囲気。

それは、もはや「三つの人影しか伺えない少なすぎる部隊」ではない。

れっきとした「三人の部隊」なのである。




あとがき…

どうも、RITです。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます!
こんなSSの為に時間を割いてくださるなんて…。
もう本当に感謝です!
今回は本当はすっごく短くすませるつもりでした…。
いや二章もそうでしたけど…。
結局一章分くらいの長さになってしまいました〜。
えっと、ちなみにこの時点ではニムとファーレーンは出て来ません。
さて、そろそろ飽きられてるかもしれないこのSSですが…まだ続きます。
ぜひ続きも読んでくださると嬉しいです!
ではこのあたりで…。



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