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第一章 〜「死」の噂〜
「頼んだぞ。エトランジェよ。」
「はっ!」
悠人率いるスピリット隊は一斉に頭を下げる。
ここは謁見の間。
ここにスピリット隊が呼ばれるということは、王からの任務命令が下ることを意味する。
悠人の返事に王は満足気に頷く。
15分ほど前、スピリット隊は鐘の音を聞いた。
その頃悠人は聖ヨト語の勉強もとい教師のエスペリアの話を聞き流す真っ最中。
「だからこういう解釈になるんです。少し複雑ですが…、って悠人様!聞いてますか!」
「聞いてるよ。要するにその単語覚えておけばいいんだろ?」
「よくありません!この語は多義語です!文脈の流れを理解しなければ解釈できませんよ!」
「ようは今まで覚えた意味に付け加えればいいだけだろ?問題ないって。それより次いこう!次!」
「悠人様!」
なんか、この頃こんな感じである。
カンカンカン!!!
突然の鐘の音を聞き、悠人はあからさまに顔をしかませる。
あの王のことだ、ろくな任務ではないだろう。
勉強から逃れられるのは少しありがたいみたいだが…。
(また龍を倒してマナ稼ぎでもするのか?)などと考えながらも、
隣に座るエスぺリアには「敵襲か?」と聞いてみる。
「それはないでしょう。大掛かりな攻撃の前には必ず何か動きがあるはずです。
しかしサモドアに駐留する部隊からは何の情報も届いていません。」
とエスペリア。
悠人の心情を察しながらもわざわざ答えてくれる。
ラキオスは少し前にバーンライトと本格的に戦った。
大きな戦いであったが、結果ラキオスの勝利で終わった。
しかし、バーンライトには後ろ楯が存在したのだ。
ダーツィ大公国である。
バーンライトが敗れ、ダーツィがラキオスに宣戦布告をするのは当然のこと。
つまりラキオスは現在ダーツィとの戦争の真っ最中なのである。
しかし、未だにどちらも動いていなかった。
睨み合いが続いたままなのである。
敵襲ではない。
悠人もそのくらいは分かっていた。
ただなんとなく聞いてしまうのだ。
意味のないことをわざわざ聞く。
直接「ヘタレ」とは関係ないが…
まぁそれの積み重ねが成せる技なのかもしれない。
そもそも、バーンライトとの戦いで多少戦力も不足している。
それが分かっていて任務など任せて欲しくないものだ。
もしかしたら分かっていないのかもしれない。
あまり頭のよくなさそうな王だからそんなものだ。
悠人は自分を棚にあげながらこんなことを思っているのだが、国王命令ということで無視はできない。
よって嫌々ながらも謁見の間へ向かう。
謁見の間。
城中最大のスペースに臣下、貴族がずらずら並んでいる。
頼りなさそうな外見に反して無駄に偉そうだ。
その中の全員が、血だけで地位保ってます感を振りまいている。
はっきり目障りだ。
心中悪態をつく悠人だったが、程なくして王が現れる。
呼び出すくせに後から登場。
まあこんな王なのは仕様だからしかたがない。
正面まで歩いてくる。それもゆっくり。
そしてこれまた無駄に豪華な椅子に腰をかける。
色は金色。普通に座れば、背もたれの最上部は頭よりもずっと高い位置にくる。
もしも店に置いてあるとすれば、よほど立派に見えたであろうに、よりにもよってこんな王の元だ。
他人はどう感じるか知らないが、王が座るというその一点だけで、その椅子でさえも悠人には目障りに感じるのであった。
「エトランジェよ。」
謁見の間に響き渡る王の声。
あらかた予想はつくことだか、やはり悠人には耳障り。
目障りかつ耳障り。
ここまでくるとどうしようもないだろう。
悠人もここまで嫌わなくてもいいだろうに…。
「我が国は先日の戦いにより深刻なマナ不足に陥っておる。」
…実はそれほど深刻ではない。
元からラキオスはマナにそれほど貧しい国家ではない。
それに、先日のバーンライトとの戦いでも、サモドアを制圧することで、自国が失った以上のマナを確保できた。
そもそも龍を倒して、莫大な量のマナを手に入れたばかりである。
どうしてマナ不足が深刻になろうか?
というよりもそもそもマナ不足自体発生してない。
今はマナより戦力が必要、そういう時期なのだ。
まあ、この王はそんなことさえも分からないのだろう。
またはただ強欲なだけか?どっちかである。
まあどちらにしても先程の発言で愚かな王の位置を揺るぎないものにした。
もっとも、もとからなっていたかもしれないが。
「そこでだ、こんな噂を耳にしたことがあるのだが…。」
王の口元がニヤリとつり上がる。
「ラジード山脈の南の洞窟。どうやらそこに一匹のスピリットが居座っておるらしい。」
この王の発言を聞き、悠人は一瞬だけ(この王も一応は戦力不足を把握していたのか)と考えた。
どのみちスピリットを道具として考えているのだから良い気分はしないが。
しかし、次からの王の発言によって悠人のその考えは間違いだと分かる。
「たかがスピリット1匹。ほっておいてもよい。
しかし噂では、そのスピリットの存在を知るきっかけとなったのはどうやら巨大なマナの反応だったらしいのだ。
所詮は噂。事実かどうかは定かではない。
実際、帝国やマロリガンといった国も調査にスピリットを派遣している。
だが、はっきりとした結果を得られていないらしい。
つまり、そのマナ反応について、そのスピリットを構成するマナの量が莫大であるのか。
それとも、そのスピリットが巨大なマナ結晶を守っておるのか。
今のところそのあたりの事ははっきりしておらん。そこでなのだが・・・」
王の目が真剣になる。
どうやら命令を下すらしい。
命令を下す時だけは王らしい顔つきになるのだ。
「エトランジェよ。
ラジード山脈に向かい、そのマナ反応の正体を確かめてこい。
もしもマナ結晶ならばラキオスに持ち帰れ。
スピリット1匹ならば…そうだな、一応ラキオスに連れ帰って来い。」
と、任務の内容が告げられる。
「出発は明日の朝。それまで体を休めておくように。
以上だ。分かったな。エトランジェよ。」
悠人はその命令を聞き、嫌な予感を覚えていた。
「一つお聞きしてよろしいでしょうか?」
そこで、はぐらかされないためにも王を真っ直ぐ見据えて質問をする。
「もし、そのマナ反応の正体がスピリットだった場合どうするおつもりですか?」
王は「ふむ…」と呟いた。どうやら考えていなかったらしい…。
「即戦力となるのならばスピリット隊に加えるとしよう。
そうでなければ、それほどの量のマナを手放す手はない。
殺してマナを奪い利用する。それだけだ。」
「!?」
悠人だけではない。
スピリット隊全員が衝撃をうける。
この王はいったいスピリットをどう考えているのか?
本人曰わく道具らしいが、あきらかにそれ以下にみなしている。
王の発言は悠人に我を忘れさせるのは十分であった。
悠人は右手で「求め」を強く握りしめる。
まるで初めてこの王に会った時のような気分。
そう…佳織を目の前で人質にとられているような…。
怒りのまま飛びかかろうとする悠人。
…が、何が起こるのかはその場にいる全員が予想できたこと。
悠人は冷や汗、いや脂汗だろうか、それを流しながらその場でひざまずく。
激しい頭痛、嘔吐感におそわれたのだ。
「冷静におなり下さい。ユート様。」
横で座っているエスペリアが悠人にだけ聞こえるほどの声量で囁く。
「しかたがありません。国王命令なのです。国王命令は絶対なのです…。」
「分かってるよ。分かってるけど…、でも…、こんなの許されるはず」
「ないだろう」と言おうとして、
「これはカオリ様の為でもあるのです。ここで命令に背けばカオリ様もどうなるか分かりません…。
少なくとも現状よりも悪化するのは確かでしょう…。
ユート様のお立場はそういうものなのです。
それはユート様も分かっているでしょう?
お気持ちは分かりますが、どうか冷静におなり下さいませ。」
エスペリアの口から「佳織」という言葉がでた瞬間、悠人の顔つきは変化する。
さっきまでの怒りの顔つきではない。
もちろん怒りの表情も含まれている。
だがそれ以上に悔しそうな…そんな表情が浮かんでいた。
そんな悠人の表情を見たエスペリアは微笑みながら
「ご安心ください、ユート様。
もしマナ反応の正体がスピリットだとしたら、そのスピリットを構成するマナの量は巨大なマナ結晶並ということになります。
つまり、そのスピリットは非常に強力と予想されます。
それならば戦力にならないはずがありません。
きっと私たちの部隊に配属されるでしょう。
万に一つも命を奪われることなどありえません。」
それを聞いた悠人は少し気が楽になったようだ。
そう言ってくれたエスペリアに対して微笑を返して、
「わかりました。明日の朝ラジード山脈に向かいマナ反応の原因をつきとめてまいります。」
後の流れはいつもの通り。
「頼んだぞ。エトランジェよ。」
「はっ!。」
こうしてスピリット隊によるマナ反応の正体の調査及びマナまたはスピリットの確保という任務が始まる。
一見普通なこの任務。
実は相当な危険を伴う任務だということを知るものは、
今この場には誰もいない。
暗い洞窟。
昨日の夜、ここでは10匹ほどのスピリットがマナへと化した。
ここは死が存在する場所。
いや、むしろ死しか存在しない場所。
だが、そんな中で一つだけ矛盾があった。
その場所の奥には1匹のスピリットが座っている。
いや、これは矛盾ではないのかもしれない。
それこそが、この場所が「死」でしかない所以であるから。
洞窟の奥に座るそのスピリットは、自分のもつ剣を眺める。
剣は毎日丁寧に手入れされているらしい。
剣にはスピリット顔が細長くうつる。
黄色の瞳と髪の毛。
実はこのスピリットは毎晩このように剣に自分の顔を映して眺めているのだ。
「違う…。」
そのスピリットはそっと呟いた。
毎晩のように自分の元を訪ねてくる者たち。
何故か自分に対して斬りかかってくる。
そのスピリットは、自分が斬られるとどうなるかを分からない。
以前自分の持つ剣で洞窟の岩を斬ったことがあった。
生まれた時から何故かもっていた剣。
使い道もわからない。使い方も。
ただ、なんとなくふるえばいいような気がする。…何かに向かって。
自分の感覚に従って、とりあえずそこらにある岩に叩きつけてみた。
適当に叩きつけたのだが、運よく刃の方が岩にぶつかったらしい。
多少力をいれる必要があったが、目の前の岩が真っ二つになる。
不思議に思い、今度はそっと自分の腕に刃をたててみた。
もしかしたら今の岩のように真っ二つになるかもしれない。
それはなんとなく嫌だったので力の加減はした。
刃はなんの抵抗もなく腕に食い込む。
その瞬間、スピリットは顔をしかめた。
できれば感じたくないような不快感が腕を襲ったのである。
その感覚を「痛み」ということは、そのスピリットは知らない。
ただ、この時に初めて痛みを知り、痛みに恐怖を覚えた。
もしも目の前の相手に斬られたら、あの感覚がまた自分を襲う。
だから嫌だ。
斬りかかってくる者達が誰なのか知らない。
もちろんその理由も知らない。
ただ、あの感覚が嫌だから斬る。
そして、何故か斬ると目の前の者は消える。
何故かは知らない。
ただ、自分にあの感覚を与えようとする者はいなくなる。
「違う…。」
斬りかかってくる者達は、目の前からいなくなる時には消える。
動かなくなったと思ったら消えるのだ。
ただ消えるときはみんな同じ。
金色になって空に上っていくのだ。
前、自分で腕に刃を立てたときに出てきた赤い液体も同じだった。
そこに自分との共通点をみたのだが…。
何故か斬りかかってくる者たちの髪の毛や瞳の色は、絶対に赤か青か緑か黒だ。
今までに例外はなかった。
特に、青と黒の者が多く直接近くに寄ってくる。
赤の者は後ろの方で何か構えている。
緑の者は…何をやっているのだろう?たまに近寄ってくるのだが…。
しかし自分は黄色。
瞳の色も、髪の毛の色も黄色。
自分だけは違う。自分は何なのか。
剣に映る自分を見ながらそのスピリットはそう考えている。
毎晩…。毎晩…。
「トン」
足が地面を叩く音。
どうやら、誰かがこの洞窟を訪れたようだ。
そのスピリットにとっては毎晩のように聞くこの音。
この後には、必ず誰かが自分にあの感覚を与えに来る。
自分はその「誰か」に対して剣を振るう。
そして、その「誰か」は金色になって消えていく。
…そして今夜もまた、金色の柱を見るのだろうか…。
(あの金色の…綺麗だな…。)
そう思いながらスピリットは立ち上がる。
今夜も剣を振るうために。
しかし、このスピリットは気付いているのだろうか?
今日はいつもと違うことに。
いつもはいくつかの「トン」という音が聞こえるのに、今日は1個の音だけしか聞こえないということに。
いや、このスピリットには関係ないのだろう。
このスピリットにとってその音は剣を持って立ち上がる合図なのだ。
立ち上がったスピリット。
ただ真っ直ぐ、洞窟の入り口をみつめている。
今夜もまた…。
夜空に向かい、マナの柱が上るのだろうか…。
…あとがき…
1章を書かせてもらいました。
えっと、予告(?)通り序章よりは長いです。
よって、みなさんにも必然的に時間をとらせる形になってしまいましたが…。
ここまで読んでくださったみなさん。
本当にありがとうございます!
会話が少ない、文章のつながりが微妙、視点が悠人っぽい時がある、説明文臭い…。。
もう自分でも問題点をいくつか挙げれるのですが…。
作品については…、そうですねぇ…。
今回は悠人君達を洞窟に向かわせるだけですし…。
ていうか余計なこといっちゃうと2章の内容まで飛び出ちゃう…。
ただ王様の扱いめちゃくちゃだぁ…。
作者、ここまで悪く思ってないんですけどね〜。
えっと・・でも、2章以降も読んで頂けると…うれしいなぁ。
えっと、じゃあこのへんで。
あとがきまで読んでくださった方!本当にありがとうございました!
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