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第六話 始まりは柳洞寺で





アーチャーを召還した凛。
彼にはこの状況の説明が必要であった。
「こいつらは何なのだ?どうやらサーヴァントとは違う気配がするが……ん?何処かで見たような気もするな」
凛もこのエターナル達については分からない事が多い。
此処の説明は時深に任せた。
「私達はエターナルです。貴方達流に言うならば世界の守護者と言う所でしょうか」
「世界の守護者か。成る程我々英霊が人類の守護者ならば、そういった者と会っていてもおかしくは無いな」
先ほど何処かで会った記憶があるアーチャーはそれなりにその言葉で納得したようだった。
時深も時見の目があるのでこのアーチャーがどういったものなのかは理解しているらしい。
英霊が死後無色の力として英霊の座に行くとすればエターナルは死と言うものが殆ど無く、それでいて両者は同様に戦い続ける宿命を持っている。
どちらも時間から超越された存在であるのだから共通点が無くも無い。
「幻想界の神と言ったところか。記憶によればな」
アーチャーが突拍子も無い事を言い出す。
という事はエターナルは幻想種という事か。
確かに凛達にとってはエターナルや永遠神剣と言うのは幻想の中のものだ。
だが、永遠神剣自体はこの世界にも存在するし、エターナルもこの世界から現れない事も無い。
エターナルになってしまえば、世界からは忘れられてしまう事があるのでエターナルは記録には残らない。
此処が英霊との違いである。
そして、凛は幻想界といっても幻想の中でしか存在しない、竜種などの存在が居る、本当に幻想の中でしかないものだとしか思っていない。
だが、時深達エターナルに取っては其処は幻想ではなく現実である。
アセリアなどは元々この世界からすれば妖精界の住人だ。
そして此方の現実世界でもエターナルは神に近い。
守護者である英霊とエターナルは人類と世界の護り手として同時に存在するのだ。
英霊が世界と契約するのならば、エターナルはその世界を創った神剣と契約する。
英霊が死後を預ける代わりに力を得た英雄であるとすれば、エターナルは第三位以上の神剣に認められた真実神に近い存在と言えよう。
時深達の価値観からすれば平行世界にも竜やその他の存在は確認できるのだが、この世界では幻想の中でしかないらしい。
それ故幻想の世界での神という位置付けをアーチャーはしたのであろう。
エターナルは世界に忘れられた中でも神として在りつづけられるのだから。
アーチャーの言葉は正しくもあり、間違ってもいた。
この世界はまだ平行世界について詳しく知らないというより幻想の世界などにはたどり着けないのである。
「まあエターナルとかいう者についてはどうでもいい。私達がすべきことは聖杯戦争を勝ち抜く事なのだ。私の召還に立ち会っていると言う事は協力者と言うことでいいのだな?」
「ええ、彼はセイバーのサーヴァント、そのパートナーのアセリア……それに……」
順を追って自己紹介をしていく。
そしてエターナル同士でもサーヴァントとマスターの関係にある事、自分は貴方アーチャーと聖賢者ユウトのマスターであることを。
この聖杯戦争ではクラスごとに二人のサーヴァント……エターナルを含めてだが、召還されている事についても話した。
要点をまとめながらアーチャーに今後の方針を話す。
「柳洞寺に居るエターナル。テムオリン。キャスターのマスターを倒すために明日其処へ攻め込む手筈を整えています。他のセイバーのマスターと貴方の協力があれば成し得るでしょう」
時深はこのサーヴァントの協力を得た事で柳洞寺に攻め入る事は決定しているようだった。
どうやらこのサーヴァントは時深の眼鏡に適ったらしい。
「エターナルか……君らが関わったせいでおかしな聖杯戦争になっているようだな……で、それでいいのか?聖賢者ユウトと私のマスター」
「何か引っかかる言い方ね……不満でもある訳。アンタ」
凛はむうと皮肉げに笑うサーヴァントを見る。
「いや、何。聖賢者ユウトに比べれば私などおまけみたいなものに見えても仕方が無いからな。確かに彼を従える君は私のマスターに相応しいだろう。だが主君がそう思っていないのは臣下としてはどうしたものかと思ってな」
「……」
確かに聖賢者ユウトに比べればちょっと頼りない力かと思ったのだが、このサーヴァントの能力は。
ずばりと凛の事を言い当ててくるサーヴァントがちょっとむかついた。
「ふん!だったらそれなりの活躍をしてくれればユウトと同じように扱ってあげるわ。とりあえず貴方の真名は?」
戦力が分からないと話にならないが、マスターが分かるステータスからは彼の能力はそれ程高くない。
いや、エターナルばかり見てきたせいであるのだが。
「……一度しか言わないが……エミヤだ」
「は?」
「私は一度しか言わないといったぞ。確かに告げた。さて……臣下として有用である事を示して置こうかな。柳洞寺の地図はあるか?」
「ありますけど……」
時深はあらかじめこのサーヴァントがどういう行動に出るか分かっていたのか、凛所有の地図を取り出してアーチャーに手渡す。
アーチャーは成る程とその地図を見た後。
「偵察に行って来よう。単独行動は弓兵の領分だからな」
「ちょっと待ちなさいよ」
「まあ見ていろ、凛。セイバーに負けず劣らず使いやすいサーヴァントであると思うぞ」
アーチャーはそう言って出て行ってしまった。
アーチャーの目は鷹の目だと言う。
どこからか柳洞寺を見渡せるところへ行ったのだろう。
「エミヤ……聞いた事無い英霊ね」
衛宮と言えば衛宮士郎なのだが、英霊としては全く聞いたことが無い。
自分はこういうサーヴァントを持つことが宿命付けられているのだろうか。
聖賢者ユウトにせよ、このアーチャーにせよ。
時深の目には見えていたのだが、何も口にしなかった。
彼女はテムオリンを倒す事が目的で、一人の人間の人生にまで関与しては時間修正の仕事になってしまう。
衛宮士郎の人生を変えるとすればセイラか凛かどちらかの手で行われなければならない。
今の時深はそう考えていたのである。
「とにかく、今日は休んだほうがいいのでは?明日は士郎さん達に話さなければならないのですし……」
エスペリアの提案に時深達が頷く。
時刻は十二時と言った所だ。
これから衛宮邸に電話するのは迷惑だろう。
「うーん。そうね。じゃあ休みましょうか。何か召還の影響で体が重いし」
凛はそう言ってすたすたと自分の寝室へと向かう。
ユウトもそれに従って部屋へと向かう事にした。
「ん」
それまで話していなかったアセリアがユウトと同じように歩き出した。
「ちょっと……アンタはユウトとは別の部屋なんだから。分かってる?」
「……ん。仕方ない」
凛が釘を刺しておくとアセリアは仕方なくエスペリアと同じ部屋に向かった。
ほっといたらユウトと同じ部屋へ行っていたのだろう。
凛は全くこいつらと来たらと思いながら寝室に入る。
「お休み」
「ああ、お休み。凛」
ユウトは凛を見送りながら自分の剣を見る。
黙っていたが何となく気になることを聖賢に聞いてみた。
「なあ、聖賢。アーチャーと、衛宮君って……」
(ああ、何らかの繋がりがあるのだろうな。何処か似ている雰囲気だった。世界の事も考えて……恐らくは)
「そうか」
ユウトは一目見たとこからアーチャーと衛宮士郎を混同していた。
どことなく昔の自分を思い出した気がする。
皆に忘れられても戦うと決意したあの頃を……。




翌朝。
凛が目覚めるとすでに他の人間は起きていてそれぞれの時間を過ごしていた。
「おはようー」
朝が弱い凛は本調子ではない。
すでに知っているユウトとアセリアはともかく、時深とエスペリアはびっくりしていた。
「り、凛さん?どうしたのですか?」
普段と違うすごい顔をした凛がゆらゆらと揺れながら冷蔵庫から牛乳を取り出している。
「ああ、エスペリア。あれが凛の朝の姿なんだ。別に気にするほどでもない」
「そ、そうなんですか?」
「ん、別に普通」
ユウトもアセリアも少し経てば元に戻ることを知っている。
「凛は朝が弱いんだ。いつもこんな調子」
「それじゃあ目覚めにいいハーブティーを煎れますね」
エスペリアの提案に凛はお願いと言って返事をした。
朝食もエスペリアが支度をしている。
凛は朝食は取らない主義なのだが、用意されれば食べるつもりだ。
席についてその並んだ料理を見る。
まずは用意されたハーブティーを飲んでみた。
「ん?これは……」
美味しい。しかも一気に目が覚めた。
「どうですか?凛さん」
「びっくりした。こんなハーブティーがあるんだ」
「はい。私達の世界でもこれは評判が良かったんですよ」
そういうエスペリアも得意げだ。
凛は作り方を教えてもらう事にして、ふと時深を見るとニュースを見て相変わらずテレビに張り付いていた。
「んー。今日の運勢は……恋愛運が良いですね」
時見の目があるのに運勢など見てどうするのか。
などとユウト達は考えていたのだが、時深はこう言った事の予測は自分ではしないらしい。
ユウトと何かあったせいだろうか。
「む、あまり良くありませんね他の運勢が。特に金運が悪い」
「それって時深さんの運勢?」
「いえ、凛さんの運勢ですよ」
「え?私?」
何で誕生日などを知っているのかと言えばそれは時見の目があるからだ
自分の運勢を言わないのは悪かったからなのか。。
金運が悪いのはこの全員の食費のせいだと思うのだが……。
それについてはあえて凛は口にしなかった。
協力者としては心強いので無駄ないさかいを起こしたくは無い。
とりあえずエスペリアの食事を取る事にする。
「いただきます」
「ええ、どうぞ、召し上がって下さい」
凛が食事を開始したので皆もそれに習って食事をする。
流石にエスペリアと言ったところか。
朝食の方も多すぎず少なすぎず、味も完璧だった。
アセリアが無言でんぐんぐと食べていく。
「ん、ご馳走様」
「あら、アセリア。相変わらず早いわね」
アセリアは食べるのが早い。普段剣ばかり握っていた頃の習慣か、それはエターナルになってからも続いていた。
「ねえ、今日は柳洞寺に行くのよね?」
凛が時深に尋ねると時深はこくりと頷いた。
「ええ、もちろん。テムオリン達を放っては置けませんから。此処で戦っておかないとまずいことになる恐れがあります」
「そう。なら衛宮君達を説得しないといけないわけだけど」
「学校で会いますよね?伝えて置いてください。今日の七時頃に柳洞寺へ行きます。えっと……学校前に迎えに行きますから」
「学校前?」
そうなるとまた目立つのではないか。
柳洞寺に攻め込むに当たってしなければならない事もある。
士郎にしても準備があるだろう。
「大丈夫ですよ。士郎さん達も用意してきますから」
時見の目で予測しているのか、変更は無いようだった。
「時深達は学校に行ってる間どうするんだ?」
ユウトが尋ねると、時深はエスペリアと攻め込む準備をしているとの事だった。
「他のサーヴァントが来ないように牽制しておこうかと」
テムオリン達に加えて他のサーヴァントまで来たら面倒な事になる。
ユウトと凛はそれに任せる事にした。
しばらくして、学校の時間になる。
「じゃあそろそろ行くけど……高嶺君とアセリアは準備いい?」
「こっちは大丈夫だよ。凛こそ忘れ物とかは?」
「無いわ。優等生の私がしくじるわけ無いでしょう。宝石とかも準備して完璧よ」
「なら良いけど。行こうかアセリア」
「ん」
ユウトの声に従って制服を着たアセリアが立ち上がった。
「じゃあ行ってくるけど……後よろしくね。時深さん」
「いってらっしゃい」
時深はテレビを見ながら見送った。
エスペリアはきちんと送り出してくれる。
大丈夫なのだろうかと思いながらも凛は登校を早めに済ませる事にした。





学校の登校途中。
凛は視線を感じながらも登校していた。
何故目立っているのかは分かる。
自分のせいではない。
ユウトとアセリアのせいだ。
日頃誰かと一緒に登校していない凛があのユウトとアセリアと登校しているのだから目立たないわけは無い。
と言うのは士郎の言葉だった。
偶然途中で会った士郎とセイラも加わっているので華やかな集団がさらに華やかになる。
「衛宮君。それはいいとして、今日柳洞寺に行こうと思うんだけど」
「え?そうなのか?セイラも同じ事を言っていた。キャスターは早く倒すべきだって」
「ふーんそうなんだ。なら準備は出来てるって事?」
「ああ、ちゃんと遠坂達が戦っても大丈夫なようにしてきた」
そう言う士郎の背中には木刀らしきものが下げられている。
これが士郎の準備なのだろうか。
魔術師としての士郎の実力を知らないが予想は出来る。
これまで魔力を感知できなかった……普通の人間と変わらない魔力しか有していなかった士郎は魔術師としては半人前だ。
恐らくは戦力ではセイラしか役に立たない程に。
「まあ良いけど。こっちは協力してくれるのならそれで良いわ」
校門に近づくに連れ、これまで挨拶らしきものぐらいしかしてこなかった、それすら殆ど無かった皆まで挨拶してくる。
「おはよう!高嶺君に遠坂さん達」
「ええ、おはようございます」
そう言葉を返すもののどうも普段とは違う様子だ。
恐らくはユウトとアセリアのせいだろう。
話し掛けてきたのはクラスの女子なのだが、『高嶺君と遠坂さん達』。
何だかおまけ扱いされているのは気のせいか。
「え?誰だったかな……」
「私のクラスメート。貴方が知らないのも無理は無いわ」
困っているユウトを見かねて凛が助け舟を出す。
「お、おはよう。アセリアさんにセイラさん」
「ん」
「おはようございます」
アセリアもセイラも違った方向で無口なのだが挨拶はキチンと?済ます。
登校二日目にして、アセリアもセイラも人気者のようだった。
凛と違って話し掛けやすいのか、そのたびごとに挨拶が飛ぶ。
「はぁ……人気者ってのも困り者よね」
凛はと言えばどちらかと言えば高嶺の花。
だったのが、一気にユウトとアセリアの登場で話し掛けてくる人間が増えた。
きっかけが出来たのだろう。
凛はとりあえずこの事は後でどうにかしなければ目立ってしょうがないと思いながら門をくぐって靴箱へと向かう。
「ん?」
アセリアが何か困ったような声を上げている。
「どうかした?」
「開かない」
靴箱が開かないのかガチャガチャと引いては押したりしている。
「あれ?何だか俺のも開きにくいような……」
「私のもそうですね」
ユウトとセイラが同じような事をしている。
凛はとりあえず自分の靴箱を開けるとどさどさと紙の山が出てきた。
「?、手紙……ラブレター?」
古風な事をするなと思いながら手紙を手にとる。
凛へのラブレターなどこの頃は殆ど来ない。
皆同じような返答をもらって凛には届かないと思っているからだった。
何でいきなり……。
とか考えていると、横からもどさどさと音がする。
「ん?手紙がたくさん入ってた」
何だアセリアもかと思ったらユウトもセイラも同じような様子で靴箱を開けて驚いていた。
「うわ、凄いなセイラ。それに高嶺君も」
士郎と言えば普通の様子で、何も無かったらしい。
凛は不幸の手紙やら呪詛の何かが入っていないだけましかと思った。
何せあのセイラと同じ家に住んでいると言うことを既に話してしまった事を聞いていたからだ。
まあ、士郎から話すとは思えないが。
私もその類の手紙があるかも……と注意しながら手紙をとった。
「凛。どうすればいい?俺こんな事慣れてなくて……」
ユウトが困ったように手紙を抱えて立っている。
「ん。凛。何なんだこれは?」
アセリアも同じようだった。此方は何も分かってないらしい。
「シロウ。何なのですか?この手紙の山は……靴箱に入れておくとは嫌がらせなのですか?」
セイラの方は開かなかった靴箱の関係で嫌がらせかと思ったようだった。
「一つ開けてみたら?そうしたら分かるわよ」
そう忠告するとセイラとアセリアは同じように手紙を手にとると封を切った。
「ん。裏庭の木の下で待ってます……。?、何故待ってる?」
「弓道場裏で待ってます。ですか。ううむ、シロウ。今日は柳洞寺に攻め入るのでそんな事をされても困るのですがどうすれば良いでしょう」
「うーん俺に聞かれても……高嶺君とかの方が慣れてるんじゃないか?」
視線を向けたがユウトはぶんぶんと首を振った。
「俺への手紙ってもしかして嫌がらせの類なのかな?」
「半々ぐらいじゃない?でも貴方ってどことなく憎めないタイプだからそれは無いでしょうけど」
凛はそう言ってくすくすと笑った。
「一通や二通ならともかくこんなに来るとどうしたら良いか……」
「とりあえず放って置けば?直に数も減るわよ」
凛が一番こう言ったことには慣れていそうだと、三人は凛の忠告に従って手紙だけ持っていくことにした。
カバンの中に入れて後で処理する。
凛はそれで良いと言うのでそうする事にした。
「士郎のクラスは大変ね」
「ああ、うん。まあ、あの三人だし……遠坂と同じクラスじゃなくて良かった?のかな」
セイラとアセリアさんが人気があるのも頷ける。
遠坂と比べても遜色ないどころかタメを張れる。
高嶺君も何だかんだでかっこいいのだ。
階段を上がってクラスへと向かう。
「じゃあ私はここで」
凛がそう言って自分のクラスへと歩いていった。
「じゃあ行こうか。アセリア。セイラさん達」
「ん」
「シロウ。行きましょう」
その言葉に従ってクラスへ入る。
クラスからは来た来たといって迎えてくる人間が多数。
「おい、衛宮。お前遠坂さんとアセリアさんとセイラさんと……くぅ……お前が羨ましい」
「何だよ。ただ登校してきただけだろう」
アセリアとセイラは無言で席についてしまった。
其処へ群がる男性陣。
士郎のところに来たのは一成だった。
「衛宮。アセリアさんとセイラさんは良い。だが、あの女狐はいかんぞあの女は」
「あ、一成おはよう」
「ああ、おはよう。と言うことであの女とは手を切れ」
昨日一緒に早退したことが分かっているのか一成はそんなことを言う。
一成と遠坂が仲が悪いのは知っているのであまり口出ししないのだが。
「ん?まあ、善処するけど、セイラもそれ程気にしてない様子だぞ」
「セイラさんはあの様子だからな。だが、個人的に付き合うならばセイラさんかアセリアさんにしておくのだな。まあ非難が集中するだろうが」
そういった事を話しているとセイラの方向から男性陣が詰め掛けてくる。
「な、何だよ。俺は何もしてないぞ!」
「衛宮……セイラさんと付き合ってるのかよ!」
「は?」
何でそんな話に……。
「だって彼女、気にしてる男はいるかって聞いたら士郎って答えたぞ!この野郎!」
「ば、馬鹿違う!それは確かに気にしてもらわなければ困るけど、そういった意味じゃない!」
セイラとしてもサーヴァントとしてあるべき答えをしたのであろうが誤解を招いたようだった。
相変わらず受難の日々の士郎である。
一方のユウトの方も同じような質問を受けていた。
「高嶺君ってアセリアさんとはパートナー?遠坂さんは?」
「え?そう言われても……凛もパートナーなんじゃないかな」
「高嶺君って結構浮気者?アセリアさんはユートって答えてたわよ?パートナーを」
「そ、それは……」
アセリアはサーヴァントじゃないから……とは言えないユウトは困ったように髪を掻いた。
受難の日々はユウトにも続くのであった。
男性陣のみに集中する受難のようである。
女性陣には強く出れないのが他の人間達なのだろう。
アセリアもセイラも素直なのとはっきり答えるのでそれが更に誤解を招くのであった……。





休み時間になると三枝さんがまた話し掛けてきた。
「あ、あのー。遠坂さん」
「どうしたんですか?三枝さん」
三枝さんは何処か不安げな様子で此方を見ている。
どう質問していいのか困っているようだった。
辺りを所在なげに見つめた後意を決して切り出してきた。
「あの、遠坂さんって……高嶺君の許婚なんですか?」
「は?」
訳が分からない。
何でそんなことになっているのだろうか。
「いえ、違いますけど。どうしてですか?」
「だ、だって高嶺君が言ってました。遠坂さんとは一緒に暮らしててもうそんな仲なんだって」
「え?」
あのユウトがそんな事を?
凛は首を傾げた後、噂の様子を聞いた。
何でもユウトが凛の事をパートナーと呼んだらしい。
アセリア達が何を言ったか知らないが、凛と一緒に暮らしているのもそのせいだと。
確かにその通りなのだが、彼とはサーヴァントとマスターとして一緒に暮らしているだけだ。
「三枝さん。それは勘違いですよ。確かに高嶺君はいい友人です。それにパートナーと言うのもあながち間違っては居ません」
「え、じゃ、じゃあやっぱり……」
三枝さんどころか周囲で聞き耳を立てていた蒔寺さんや他の女子まで動揺している。
だが、凛は冷静に反論した。
此処で感情的になっては噂がまた尾ひれがついて広がるだけである。
「でもそれは……ほら、高嶺君は留学生じゃないですか。海外で暮らしていたので此方の事に不慣れな高嶺君はそう言う面で補助してくれる私をパートナーと呼んだだけでしょう。特に個人的なお付き合いはしていません」
「そ、そうなんですか?でも、昨日も一緒に早退したみたいで……それに衛宮君も一緒にいたみたいだし、それに、昨日もデートしてたみたいですし……」
「ですから。それは誤解です。高嶺君は不慣れですから色々と教えてあげる必要がありますからそう言うときもあるでしょう。でもさっきも言ったように個人的にお付き合いしているわけではありませんよ。それに高嶺君にはアセリアさんがいるじゃないですか」
「そうですけど……海外では一夫多妻の国もあるらしいですし……」
どうやら三枝さんは大幅に勘違いしているようだ。
それも噂には尾ひれが付き捲っているのが分かった。
一夫多妻っていくらなんでも大げさ。
しかも、何時の間にかセイラと士郎が付き合っている事になっているらしい。
士郎の方はどうでもいいが……まあとりあえずどうでもいいのだ。
だけど此方の誤解は解いておかなければならない凛は一応説明はしておく。
でも何となく本当の事を話していると腹が立つのはどういうわけか。
それにエターナルとか言ったけど一夫多妻なのだろうか?
時深やエスペリアとも何らかの関係があったようなユウトの様子を思い浮かべるとまた腹が立ってくる。
何だか誤解を解くというのに方向性が違ってきた。
「高嶺君とは個人的な付き合いはありませんが、色々とお世話をしてあげる都合上二人きりになったりします。でも私は今は高嶺君がどうこうという事はありませんから、安心してください。三枝さん」
「は、はい。良かったです」
凛はとりあえず納得してくれたかと思ったがあまりそうでもないらしい。
「うわ!遠坂の奴『今は』って言ったぜ!という事は将来は狙ってるのかよ!」
蒔寺さんの一言でざわざわとクラスが騒ぐ。
そういえばあのアセリアさんと高嶺君と遠坂さんって一緒に居るわよね。
今日も一緒に登校してきたぜ。
(……だからそれは一緒の学校で一緒の所に住んでるからだっての……それにサーヴァントなんだから当然でしょう)
何だかこれ以上言うと更に騒ぎを大きくする気がする。
昼休みは近づかない方が無難かと思いつつも凛はとりあえず席を立って逃げることにした。
何故逃げたか分からないが、とにかく蒔寺さんが居ると悪い方向に向くような気がするのだ。
だが、それは間違いだった。やはり凛はユウトとの関係を否定するなら真っ向から立ち向かうのが凛なのだ。
それをしなかった凛はその被害を被る事になる。
まあ、凛にとっては被害というわけでもないだろうが。
そしてその通り、次の日にはやっぱり凛はユウトを狙う女子達のライバルとして扱われていたのである。
アセリアがユウトとの関係をそれ程気にしていないのか、普段どおり過ごしているからだった。
彼女は恋愛沙汰には疎いらしい。




昼休みの学食は混むのだが、ユウト達はエスペリアが作ってくれた弁当があった。
其処でアセリアと共にどうするか考えているとクラスの皆が尋ねてくる。
「高嶺君。アセリアさん。一緒に食べない?」
「え?どうしようかな」
ふと見ると士郎とセイラは何処かへ向かうようだった。
「衛宮君!」
「あ、高嶺君。どうかしたのか?」
「いや、どこで食べようかと思って」
此処はなるべくなら士郎達といるべきだろう。
「あ、俺達は生徒会室で食べるんだ」
隣のセイラが早くと急かしている。
其処で耳ざとくそれを聞いた男子が反論した。
「衛宮。お前セイラさんを独り占めしようなんてそうはいかないぞ」
強引に席をくっつけて士郎たちが座る席を確保する。
士郎としては此処で食べると女子や男子が弁当をつついてくるのであまりよろしくないのだが……。
「シロウ。とりあえず食べましょう。後のことはそれからでいい」
セイラが言うので士郎は仕方なく教室でユウト達と食べることにした。
「いただきます」
士郎とユウト達の合図に従って皆が食べる。
しばらく質問に合うユウトと士郎を傍目にセイラとアセリアが箸を置いた。
「ご馳走様でした」
「ん。ごちそうさま」
アセリアもセイラも食べるのが早い。
二人が色々と話している間に食べ終わってしまった。
「エスペリアの弁当美味しかった。ユート」
「シロウのお弁当も美味しかったですよ」
此方がこうやって和やかな時を過ごしているとき。
凛の方は……。
「はぁ……。三枝さんもいつもに増して質問が多かったな……」
凛は屋上で隠れるようにしながらエスペリアの弁当を食べていた。
「む、これも美味しい……何か悔しい」
凛がこうしている間にもユウト達は質問にあっていて凛の被害を広めていたのである……。






そんなこんなで噂が広がって放課後を迎えた。
何だか色々と誤解を招いていたようで、凛がユウトに詰問してきた。
「アンタね。私のことパートナーって答えたでしょう?」
「え?それは一応……」
「そう言うときは嘘でも何でも目立たない答えをしなさいっての。三枝さん達に色々聞かれたじゃない」
そういいつつも満更でもない様子の凛だった。
校門前でセイラと士郎、アセリアとユウトを連れて時深達を待っている。
周辺に人が見えないのは時深の手回しだろうか。
時見の目には見えていたようである。
少しして時深とエスペリアが現れた。
「待ちましたか?柳洞寺の様子はアーチャーが調べてくれたようで助かりました。敵の戦力の確認が出来たといっていいでしょう」
時深がそう言って凛の方向を見る。
するとアーチャーがどこからとも無く話し掛けてきた。
「まあ、サーヴァントとしてはこれぐらいはやっておかねばな」
「あ、アンタ、いたんだ」
「居たんだとは失礼だな。これでもサーヴァントだぞ。主の護衛は欠かさんさ」
それに時深達とも何か情報交換をしてくれたようである。
このサーヴァントは意外に殊勝な心がけをしているのかも知れない。
敵陣の様子を時深から聞く。
それはかなり詳細な情報であった。
「では……これから柳堂寺へ向かいます。まずは門番のアサシンが居ますからこれの撃破を優先しなければなりません。私とアセリアはサーヴァントではありませんから門番を気にせず入れますが……タキオスとテムオリン……それにウルカが居ますからね」
「そうだな。戦力の分散は避けた方がいい」
ユウトを先頭にして柳洞寺へと向かう。
其処へ着くまでに色々と敵の事を聞いた。
まずは門番のサーヴァントであるアサシン……佐々木小次郎を倒さねばならない事を。
柳洞寺の階段に差し掛かる。
此処からは敵陣だ。
心して掛からなければならない。
「凛さんと士郎さんは此処で待機していてください。危険ですから。私達だけで向かいます」
時深の言葉に凛が不審そうな瞳を向けた。
「貴方達だけで?マスターが後方支援した方がいいんじゃないの?」
「いえ。その必要はありません。後方支援はアーチャーが居ますから。それに凛さん達の魔術では少し心もとない。相手がエターナルだと尚のことです」
「……」
エターナルとはかなり手ごわいらしいことを時深から聞くと凛は仕方なく此処で待機することを了承した。
「では……行きます!」
時深の言葉と同時にユウトとセイラが階段を駆け上がっていく。
それに続くのがアセリアと時深達。
その後ろからアーチャーが続いてくる。
だが、門番は一人では無かった。
もう一人のエターナル。
それはユウトの味方になるはずのその女性。
「ウルカ!」
「ユウト殿!来てはいけませぬ。手前は貴方を殺せと令呪を下されております故、どうか引いてください」
「ユウトさん退いてはいけません!此処にはまだ……あれが居ます!」
そう言って指差す先に閃光と共に一つの塊が現れた。
巨大な影。
何者も切り裂く爪と、牙。
全ての護りを備えたその存在。
下から見ていた凛たちにも分かる。
「龍!?」
キャスターの金羊の皮からテムオリンが召還した幻想種と呼ばれるものの最高峰。
龍が境内へと存在を現したのであった。
「馬鹿な!龍だと!こんな幻想種が何故此処に!」
セイバーが声を上げるがその咆哮は止まらない。
だが、ユウト達は龍など何度も目にしている。
此処でテムオリンを倒すために……ユウト達はアサシン二人を退ける必要があったのであった……。



丘の上の教会の一室。
其処には言峰綺礼の居室がある。
「さて……アーチャーが呼び出されたか。これで聖杯戦争の始まりだ。ランサー。お前も動くといい」
その言葉に青い槍兵は無言で朱槍を掲げて去っていく。
聖杯戦争。
その始まりの戦いが柳洞寺で始まったのであった。
(さて……ギルガメッシュ……此処は傍観するのか?まあいい。好きなようにさせるとするか……)
言峰綺礼の合図と共に密かに始められた聖杯戦争。
その行方は未だ予想できるものは居なかった……。











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