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第六話 二人目のサーヴァント



とりあえず食事を終えた凛たち。
悠人も時深もアセリアも満足なようであった。
「ふぅ……エスペリアさん料理上手いのね。ちょっと悔しいかも……」
凛の言う通りエスペリアの料理は本当に美味しかった。
自分でもこれぐらいは作れると思うが、微妙なところだった。
それも自分が作れないような、異国の料理。
何処の料理か知らないが、色々とこの家にあった食材だけで作ったそれは完璧だった。
「ありがとうございます。皆さんに喜んでいただけて嬉しいです」
エスペリアも皆に誉められて満更でも無い様子だった。
しばらく、聖杯戦争など忘れて談笑して過ごす。
悪くない時間だ。
ユウトもアセリアも時深もエスペリアも皆いいやつらだ。
少し時深は強引なところはあるが……まあいいだろう。
「先、お風呂入るからね……」
凛は家主なので最初にという事で、身体を洗いに向かった。
「いってらっしゃい。私たちも後で良いですか?」
時深たちが尋ねてくる。
「私の後でね。高嶺君は最後ね」
「まあ男だし仕方ないけど」
この中で男はユウトだけだ。
女性陣に囲まれて少々肩身が狭い。
凛は一言告げると浴室へと向かう。
「覗かないでよ」
「そんな事しないって」
ユウトに一つ釘をさしてから風呂に向かった。
「あ、これテレビですか。見ても良いですか?」
テレビのある世界と言うのは久しぶりなのか時深が尋ねて来る。
「勝手に見てー」
遠くから凛の声が聞こえてOKがでた。
「時深。何か見るのか?」
ユウトが時深に声を掛ける。巫女さんでもテレビを見るのか。
まあ見るだろうが、時深は元々平安時代の巫女だ。
「え、ちょっと歌番組でも」
「ニュースを見ろよ、ニュースを。聖杯戦争に付いて色々調べなきゃならないんだろう?」
「そんな事言ったって、ニュースで近辺なら速報でやりますよ。それにこの時間帯はゴールデン。やっぱりバラエティか、トーク番組でしょう」
さっきは歌番組とか言ってたのに時深はそんな事を言う。
それに横文字を使いまくりだ。
巫女さんなのに現代慣れしている時深だった。
まあ、エターナルとして世界を渡り歩いているのだからしょうがない。
ぽちぽちとリモコンでチャンネルを変えながら時深は自分の見たい番組が無いか探す。
「あ、これにしましょう」
結局歌番組とトーク番組が混ざったバラエティ番組だった。
「〜♪〜♪」
しばらく見ていると時深が番組に合わせて歌っている。
声はいいのだが、どうも巫女さんにはニューミュージックは似合わないような。
やっぱり巫女さんは和を好むべきかと思う。
そんな事をユウトが言うと。
「良いじゃないですか別に。私だって好きで巫女をやってるわけじゃないんですから」
「好きでいるんじゃないのか?だっていつも巫女装束だし」
「これは長い間の習慣です。戦巫女として色々とやってきた生活だったからエターナルになってからはむしろこう言った新しいものが好みなんですよ」
という事だった。
しかし何時の間にかチャンネル権を独占しているのが時深である。
エスペリアは何も言わないし、アセリアも素直に時深の言う通りにしている。
ユウトは別にどうでも良かったが、凛が戻ってくればどうなる事やら。
ユウトがそんな事を考えていると噂をすれば何とやらで凛が戻ってきた。
「お先ー。ふー。生き返ったわ」
などと風呂上りのシャンプーの匂いをほのかに漂わせながら凛が此方によってくる。
だが、このぐらいの事はアセリアで慣れている。
動揺するユウトではなかった。
無言で時深の方向を促す。
凛も気づいたようだったが、意外に寛容だった。
「良いんじゃない?私は別に見たいものとか無いし、好きなもの見れば」
「凛さんはテレビは見ないんですか?」
同じくあまりテレビは見ないエスペリアが尋ねて来る。
そもそもファンタズマゴリアにテレビなどというものは無かった。
「ええ、私、魔術の修行ばかりしてたから、特に見たい番組も無くて。話程度に聞いておくだけかな」
とか言いながら雑誌をパラパラとめくっている。
どうやら凛の興味は女の子らしく甘いものとか服にあるらしい。
「時深さん。次入ったら?」
さりげなく凛は時深に退出を促す。気配りの凛だった。
だが時深は、
「これが終わったら、入ります。エスペリア。どうぞ」
といって譲らなかった。
「では、時深さんアセリア、お先に」
好意に甘えてエスペリアは浴室に向かっていった。
皆それぞれの時間を過ごしている。
聖杯戦争中だと言うのに緊張感が無かった。
それも凛はセイバー、聖賢者ユウトを手にした事で勝ったも同然と思っていて、ついでにアセリアもいる。
時深はテムオリンの事はとりあえず忘れて番組に夢中だ。
久しぶりの現代に近い世界という事で珍しいらしい。
ユウトはこれでいいのかな……とか思いながら横のアセリアを見ると、凛の所蔵の雑誌の料理の本を見ていた。
「あ、アセリア。貴方も料理するんだ?」
凛が尋ねると、アセリアは。
「ん。修行中」
との事だった。
(凛。本当にアセリアは修行中の身だから分かってやってくれ)
すかさず凛に耳打ちするユウト。
それでアセリアの料理の腕は分かった。
「良かったら教えて上げるわよ?私だってエスペリアの料理には負けないものが作れるわ」
「ん。じゃあ。これ」
アセリアが指した物は和食だった。
佃煮や焼き物など献立は全て和の物。
凛は少々躊躇した。
自慢じゃないが、凛は和食は味噌汁の作り方も知らない。
だが、此処で引くのも気が引ける。
それに料理の本どうりにやれば上手く作れる自信はあった。
「良いわよ。任せて」
「ん」
この約束が後の惨状を巻き起こすとは誰も(ユウトとエスペリアを除く)予想していなかった……



エスペリアの次にアセリアが入って、番組に張り付いている時深を剥がしてから浴室に向かわせる。
後にはユウトがつかえているのだ。
アセリアは急に銃の入った鞘を取り出して『永遠』を中から引きずり出す。
「な、何?どうしたの?」
凛が慌てて尋ねる。敵が来たのかと思ったのだ。
だが、アセリアは、剣の手入れだという。
アセリアはエターナルになってからも剣の手入れを忘れない。
剣からマナが削り取られないように手入れをしていく。
『ああ、アセリア。私の手入れは嬉しいのですが。場所を弁えてやった方が良いのでは?』
「け、剣が喋った!?」
凛が驚いてその剣を見る。
女性の声がしたかと思えばその剣からだった。
「ん?『永遠』も『聖賢』も話すに決まっているぞ?」
「永遠って……その剣よね。聖賢って?」
「ユートの剣。時深の時詠だって話す事が出来る。当たり前だ。永遠神剣は言葉を解する事ぐらい」
「何なの?永遠神剣って……」
「分からない。でも神剣は世界が始まる時には存在したらしい」
とユウトが補足する。
「は?」
世界の始まり?良く分からないが永遠神剣というのはこれらの武器で剣やら槍やらがあるとの事だ。総括して剣と呼んでいるだけで、他の形状もあるという。
ユウトの話だと、永遠神剣は世界が始まる時には既にあって、それが分かれて世界を作ったという。
神話の世界にも無いような突拍子も無い話だ。
聞いた事が無い話。
神話では良く神が創ったなどという話しは聞くが、神剣が世界を創ったなどというのは初耳だ。
「本当の話なの?それ?」
「いや、まだそれは分からない。分かっているのはそう言った事があったという事だけ。永遠神剣を元の分裂する前の一つに戻すと世界が始まりの状態に戻るらしい」
「……」
何でもロウ・エターナルというこれから戦う相手はそれをするために世界を破壊していくという。
世界を破壊するのが神剣の意思だという。
それに反発するのがカオス・エターナルという、ユウト達だと言うことだった。
ついていけないスケールの大きさに凛はため息を付く。
「はあ……何か魔術や科学で理解されてる世界とは全然違うのね……」
「俺も最初はそう思ったけど。とりあえず戦わないと。世界が破壊されていくのを見過ごすわけにはいかないから」
「ふーん。それで聖杯なんかそのテムオリンとか言うエターナルは使おうとしているわけだ」
聖杯を使えば確かに世界の破壊などという事も可能だろうか。
そんな事に使うマスターはとりあえず危険だ。ほうって置けない。
ユウトもアセリアの行動に準じて『聖賢』を取り出して手入れをする。
「なあ、聖賢。テムオリンのところにウルカがいる。どうすればいいと思う?」
『どうも何も、令呪というものを何とかするしかないだろうユウトよ。マスターであるキャスターを倒す事だ。そうすれば世界の縛りも消える』
「だろうな」
当たり前の事だが、これで知恵を司る永遠神剣というのがどうも府に落ちない。
もっといい案を出してくれてもいいと思うのだが……。
『何を考えているか分かるぞユウトよ。だが、我々とて世界の法則には逆らえないのだ。いい案が浮かぶとすれば情報が不足している』
「ああ、済まない」
「へえー。貴方達にも抑止力は働くのね」
「抑止力?」
「世界が世界を保とうとする力よ。これに反するものは世界の修正を受けるの」
「ああ、そんなところかな」
神に近いとされるエターナルが聖杯などというものに頼らなければ世界を破壊できないのはそう言った理由からもある。
「あー。さっぱりしました」
時深が風呂から上がってくる。
早速番組を見ようとテレビのリモコンに手を伸ばすのだが……。
「……」
アセリアが無言でそれを阻む。
今まで『永遠』の手入れをしていたアセリアだったが、テレビの方向に集中していた。
「アセリアさん。他のチャンネルにしましょうよ?」
時深が言うがアセリアが譲らなかった。
「ん。これがいい」
テレビの番組は料理を二つの組が作ってどちらか美味しいかを競って、勝利した方だけが投票した人間に食べる権限を与えるという番組だった。
「料理番組より他のに……」
「ん。駄目。これを見る」
どうやら聖杯戦争よりチャンネル戦争が始まりそうだった。
時深が詰め寄るがアセリアは譲らない。
「さーて。今度は俺が入ってくるかな」
逃げるようにユウトが浴室へ行こうとする。
「ん?ユート。入るのか。私も行く」
そう言ってチャンネルを放棄してとことこと自然についていくアセリア。
時深はとりあえず気に入ったトーク番組に変える。
良かった。これで明石○さ○まが見れる。
「……って、ちょっと待ったーーー!!!」
時深と凛が同時に声を上げる。
「ん?」
アセリアがどうかしたのか?と言った雰囲気で見ている。
「ん?じゃ無いわよ。何であんたがユウトの風呂に付いていくのかっての!」
「背中を流す」
自然に答えるアセリア。
隣ではユウトがたらりと冷や汗を流していた。
「背中を流すって……あんたいつもそんな事してんの?」
これまでは二人の事はほうって置いたので気づかなかった。
サーヴァントという事で適当に過ごさせていたのだ。
「ん」
それに素直に答えるアセリア。
ユウトが恐怖に震えている。
時深と凛が凄い形相で睨んで来ているのだ。
「ま、待ってくれ。誤解だ!アセリアは俺が入っているといつも普通に入ってきて……。『違う。私が入ったらユートが居た』っていうんだ!」
「問答無用ーーー!!!」
「不純異性交遊禁止ーーーー!!!」
時深と凛の鉄拳制裁がユウトに飛んだのであった。
「わ、わ、ユート様!」
エスペリアが驚くのも無理は無い。
その制裁はユートが壁に激突してパラパラと瓦礫が振ってくるほどの威力を見せたのだから……。




「あいててて……風呂のお湯が体に染みた……」
「自業自得よ、自業自得」
ユウトの言葉にも凛は容赦が無い。
とりあえずこの件は保留して置いて。
「これからはユウトとアセリアは別の部屋!アセリアは時深さんとエスペリアさんと一緒の部屋に移動!」
「む、なんでそうなるんだ?」
アセリアが凛の言葉に不思議そうに見ている。
「問答無用よ。じゃないとユウトに令呪使うわよ、令呪」
凛は本気のようだった。
「横暴……」
アセリアの呟きも凛には届かない。
二人を一緒にしていたら何をするか分からない。
パートナーとは口にしていたがそんな事までされては敵わないからだ。
そんな事までしているとは考えたくなかったがともかく移動は決定。
「はぁ……疲れた。とりあえず寝ようかな」
凛はそう言って皆を追いやって寝室へと向かおうとする。
其処で時深が呼び止めた。
「凛さん。まさか忘れているのではないでしょうね?」
「え?何が?」
「何がって……サーヴァントです。サーヴァント!貴方はまだ完全なマスターじゃないんだからサーヴァントが呼べるはずです。呼ぶって言ったじゃないですか!」
「言ったけ?」
凛としてはユウトが居れば問題ないので特に気にしては居なかった。
「呼ぶったら呼ぶんです!戦力にならないと明日テムオリンと戦えないじゃないですか!」
「はぁ?明日テムオリンと戦う?」
突然の時深の言葉に凛が不可解な表情をする。
今は調査の段階ではないのか。
後見つかっていないオルファリルとか言うエターナルを探すとか。
「オルファリルはもう他のマスターの手に落ちたと見るのが正しいでしょう。これだけ探しても居ないんですから。それよりももう一人サーヴァントを召喚して明日……テムオリンの柳堂寺に攻め込みます!」
時深は本気のようだった。
「……衛宮君とセイラさんの了承も取って無いんだけど……」
「それは明日話せばいいことです。聖杯戦争を忘れないで下さい。一日一日が戦いなんですよ!」
時深の言葉で和やかな時を過ごしていた凛が現実に帰る。
確かに聖杯戦争は刻一刻と進行している。
他のマスターも動き出すだろうし、テムオリンとか言うマスターも放っておけばこれから戦力を増していくかもしれない。
「はぁ……分かったわよ。呼べばいいんでしょう。呼べば」
「じゃあ早く呼びましょう」
時深は真剣な顔で凛を見る。
「じゃあ地下室で、魔方陣があるから……」
皆を連れて地下へと向かう。
ユウトとアセリア。時深とエスペリア。
順についてきてこれから召喚をするなどとは思えない様子だ。
「じゃあ、やるわねー」
凛にはあまりやる気が無い。
本当に二人もサーヴァントを従えるのがいいことなのか。
マナを外部から取り込んでいるからマスターの魔力供給は要らないというユウト。
自分のマスターとしての権限が落ちるような気がしたのである。
だが、令呪がある以上、凛はユウトのマスターだ。
そしてこれから呼び出すサーヴァントにも……。
「消去の中に退去を刻む……と」
凛が召喚の順序を追って準備を終えていく。
魔方陣には宝石も何も使っていない普通の召喚方式だ。
凛があまり乗り気でない事を示している。
厄介事が増える予感がするからだ。
とにかく呼ぶと決まったら心を決めて凛は臨む。
「良し!じゃあ始めるわよ!」
皆が頷く。それを確認して凛はその言葉を紡いだ。
「誓いを此処に。我は常世総ての善となる者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーーーー!!」
凛の召喚の儀に従って現れるサーヴァント。
確かにそれは英霊と呼べるものだった。
輝く魔方陣の中に現れるその一体のサーヴァント。
「ほ、本当に来た……」
まさか本当に二人目が呼べるとは……。触媒を使っていないのに……。
「何だ?私は呼ばれたのでは無かったのか?マスター。要らないのであれば呼ぶなといいたいところだが。私には自由が無いのでな」
「貴方は?」
「君が呼んだのか。私はアーチャーのサーヴァントだ。他にも色々といるようだが……後で説明を頼むぞ」
自分を取り囲む強い力の渦を纏う者たち。
エターナルの見守る中、そのサーヴァントは新たな戦力として現れたのであった……。



















 

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