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第五話 オルファの行方





とりあえず、皆集まったところでオルファリルの捜索を開始する。
ユウト、アセリア、凛、時深、エスペリア、士郎、セイラの七人はそれぞれに分かれることにした。
「では、悠人さんと凛さんで一チーム。士郎さんとセイラさんとアセリアで一チーム。残りに私とエスペリアで。と言う事でレッツゴー!」
巫女さんに横文字は似合わないと思うのだが、平安時代に生まれた巫女の割に現代風に染まっているようだった時深である。
そこで反論するのが青い髪の少女。
「ん?私はユートと一緒じゃないのか?」
不満そうに口にするアセリア。
「戦力を考えるとこのチーム編成が最適です。今回はこれで行かないと。ごめんなさい」
アセリアはむーと唸りながらも仕方なく従った。
「アセリアは頑張ってセイラさんと士郎さんの補助をしてあげてね(はあと)」
と言ってぶりっこする時深。
しーん。
沈黙だ。
アセリアがジト目で睨んでいる。
「……時深。似合わない真似はよせよな……皆引いてるだろ」
「……私もそう思いましたが、何だか悠人さんの発言は悪意を感じます」
そういいつつも時詠でユウトをぽかぽかと殴る時深。
時詠は刃が付いてないので打撃具としては最適だ。
こんなところで刃が無いとはいえ剣を取り出して良いのか?
士郎はそう思いつつも、こんな事を口にしている。
「さっきから時深さんと高嶺君は仲が良いんだな。何だか付き合ってるみたいだ」
「え?」
不思議そうなユウトとまんざらでもなさそうな時深。
「そんな事は無いよ。時深とはいつもこんな感じだ。案外抜けてるからこいつ」
「むかっ。私は抜けてなんかいません」
鈍感な士郎には分からなかったが何やら二人とも何かありそうだ。
「あんな事やこんな事までしておいて……そんな事を言うんですか悠人さん」
「ば、馬鹿。してない。してない。それは不可抗力だ」
否定しきれないのがユウトの弱いところだ。
と言う事はしているのかとか思うのだが、アセリアがまたもジトーとユウトを睨んでいる。
「ご、誤解だって、アセリア」
時深とは何も無いとは言い切れないのがユウトだった。
「ん。とりあえず、いい」
ユウトが一生懸命謝るのでとりあえず許すアセリアだった。
「ふーん。随分もてるのね高嶺君。エスペリアさんにも様付けされてた見たいだし」
凛もユウトを不審げに睨んでいる。
「そ、そんなんじゃない。付き合いが長いだけだって。ほら、昔のよしみって奴だよ」
「まあ、いいけど。とりあえず私のサーヴァントなんだから私に絶対服従。いい?」
「絶対ってのは同意しかねるけど出来るだけの事はする」
ユウトの言葉に、先ほどの発言が違和感があることに気がついた。
そういえば長い付きあいと言うが、それはエターナルになる前の事なのか?
未だ凛はエターナルを英霊と混同しているので、そうなった後も共に活動している事を知らない。
英霊ならば死後は時間から切り離されて守護者となるはずだが。
何やら思考に耽る凛だが答えが出てくるはずが無い。
神に近いという彼らをまだあまり理解していなかったのである。
戦いになった事が無いから力の程も理解していなかった。
そこで機能するのがまとめ役のような存在だ。
時深が立場上そうするべきなのだが、今回は違った。
「時深。凛。話が進まないのでいいですか?オルファリルという人物を探すのでしょう?」
セイラだ。
こういう時はしっかりしている。
「あ、そうでしたそうでした。では、悠人さんと凛さんは新都の方面を探しに行ってください」
「分かったわ」
そう言ってユウトを引きずっていく凛だった。
何だか分からないが遠坂は機嫌が悪いなと士郎が考えている。
「では、アセリアと士郎さんとセイラさんは深山町方面の探索を。私たちは柳堂寺の様子を探ってきます。戦闘にならないように」
時深も今はまだ、テムオリンと戦うつもりはない。
戦うならば皆で行く方がいいし、二人だけで敵の五人を相手にするのはきつい。
「分かりました。行きましょう。シロウ」
士郎を促すので、士郎は黙って何処へ行くか考えながらその場を後にする。
自分が一番詳しいであろうから。
アセリアも無言でついてきた。
「アセリアさん。敵がいても人気のあるところでは襲ってこないでしょう。ですがいざという時貴方は頼りになる。期待しています」
「ん」
この戦力編成は敵にエターナルがいた事を考えての事だった。
それぞれで、オルファを探しに行く。
だが、オルファリルは意外なところに居たのである……。



「居ないわね」
「うん。居ないな」
ユウトと凛は指示どおり新都の方面を探している。
ちなみに行きはバスを使ってきた。
「居ないなって冷静ね貴方。仲間じゃないの?」
「え、ああ。心配だけどオルファの事だ。そう簡単にやられたりはしていないだろうし、敵に回ったとしても、また戻ってもらえばすむことだし」
「はぁ……楽観的ね。貴方。オルファって子も強いんでしょ?エターナルっていうぐらいだから」
「まあ、強いけど……そんなに気にする程でもないよ。たぶん」
エターナルといえば神に近い存在と聞いて、凛は英霊以上の何かだとは分かったが。
英霊とも同等のレベルに世界が保っているのでそこまでの差は無いという。
何だかユウトに説明を求めるとそんな感じだった。
オルファを探すついでにユウトにエターナルとは何なのか聞いていくが、凛には理解できなかった。
「まあ、此処も平行世界のどこかだから、きっと何かしら危険なのはテムオリンの連中だよ。また、世界をマナの塵にしようとしているんだろう」
「マナの塵?要するに世界を破壊するって事?………って平行世界って何よ!もしかして貴方……」
ユウトの発言は突込みどころがたくさんあった。
世界破壊を考えるマスター。
平行世界と口にする、まるで行っているかのようなその態度。
ユウトはそれに正直に答えた。
「ああ、俺たちは平行世界を行き来しながら、テムオリンのような世界を破壊して元に戻そうとしている連中と戦っている」
「な!?平行世界を行き来する?それって魔法じゃない!貴方大師父と同レベル?」
「は?前も出たっけその単語。大師父って何だか分からないけどエターナルじゃないの?」
「違うわよ!世界に五人しか居ない魔法使いの一人……何だけど……平行世界を行き来できる……それが何人も……魔法使いって五人じゃなかったの?」
「魔法使い?魔法って普通にそれなりの人だったら使えたりするんじゃないの?ほら。オルファも使ってるし」
「はぁ?何言ってるの?魔法よ!魔法!人が魔術を極めるのは最終的に魔法に近いことを成すためなんだから!」
「魔術?何だか良く分からないけど魔法と違うのか」
「あんたねえ……」
そこで凛は永遠と魔法と魔術の違いについて述べていく。
いかに自分達が凄い事をしているのか分からないのか。と。
魔法とは人が科学をもってしても永遠にたどり着けない神秘。
その神秘を使うのが魔法使いであり、魔術とは全く違う事を。
魔術師は確かに神秘を成すことが出来るが魔法とは別物だ。
魔法とは五つしかない魔法である。
くどくどと説明されるがユウトは半分ぐらいしか理解できなかった。
「まあ、とにかく。魔法って言われる事を俺たちはやってるわけだ。魔法使いではないけど。と言う事で魔法使いは五人であってるんじゃないかな?俺たちはエターナルなわけだし」
エターナルと言えど、門を開かなければ世界間の移動は出来ないと言う。
門と言うのがまた今一分からない。
召還の時もまたそんな事を言っていた気がするが……。
謎は深まるばかりであった。
そもそもエターナルとは何なのやらさっぱりだった。
ユウトは世界の事はそれぞれ法則があるので法則外の自分達の存在は無視されるのだろうと言っていた。
とにかくエターナルとは法則外の存在である。
と言う事は結論として分かった。
「お、遠坂かよ!お前学校サボってデートか!?ホントかよ!」
離れたところに居る凛を目ざとく発見する蒔寺さん。
彼女は陸上部の帰りだ。
他の二人もいる。二人とは氷室さんと三枝さんだ。
彼女達も陸上部に所属している。
「相手は……ええ!もしかして……高嶺君!」
「ええ!!!」
三枝さんが大げさに驚いたので遠坂に見つかってしまった。
もう夕暮れ時で、凛は目がよくないので分からなかったが、声を聞けば分かる。
「何かしら思ったら、蒔寺さん達ですか。部活がえりですか?」
「え、ええ、そうです。新都まで足を伸ばしてみました。遠坂さん。もしかして一緒に帰ってそのままデートしてたんですか?」
三枝さんが恐る恐る聞いてくる。
「ああ、違いますよ。新都を案内してたら、家で預かってる留学生の高嶺君には妹が居まして……迷子になっていたので探しているんですよ」
「何だ……」
ホッとため息を付く三枝さん。
彼女は本当に人がいい。
「よ、良かったぜ。いきなりデートしてると思ったからな。すでにそんな関係かと」
蒔寺さんもなんだかんだで信じている。
凛はとりあえず上手く行ったなと思ったが、何やら悔しい。
「でも、二人きりで探すって……本当にデートみたいですね」
そう言って極上の笑み。
「わ、やっぱり、こいつの性悪さが分かったかよ、由紀っち。高嶺君を自分の物にしようって腹だぜ。ちくしょー!させるかよ!高嶺君!こんな奴よりあたしと!」
「……ごめん。誰だか分からないんだけど……名前知らない」
「あ!」
そこで初めて向こうからは初対面なのだと分かった。
とにかく遠坂との関係より自己紹介してアピールだ。
「あたし、蒔寺楓!そんでこっちは陸上部の友達で三枝由紀香と氷室鐘。よろしく!高嶺君!」
「ああ、よろしく。三人とも」
ユウトはそう言って笑顔を向ける。
無愛想だったユウトが世界を渡って身につけた処世術だった。
(……やっぱり格好いいかも……)
氷室さん以外の二人が何やら騒がしい。
銃を持っている姿と言うのがまた格好いいのか。
噂は直ぐに広まっていた。
自己紹介が終わるや否や、高嶺悠人に色々と話し掛ける。
(そういえば、三枝さんはユウトが好きなんだっけ。後何だか蒔寺さんも気があるみたいだし……此処は……)
撤退だ。
戦略的撤退をすべきだろう。
目的はまだ終わっていない。
「ごめんなさい。妹さんがどこかで泣いてるかも知れないから。私たち行くわね」
「あ、ああ……そうだったな。それならば仕方ないか……」
蒔寺さんも何とか納得してくれたようだった。
三人から背を向けて去っていく。
何だか優越感。
別にいつも優等生だからどうって事は無いけど。
「凛。もう少し探したら、合流の時間だ。戻らないと」
「え、もう、そんな時間なんだ。何だか早かったわね」
楽しい時間は早く過ぎると言う。
これもそうなのだろうか?
まあ、悪くは無かったのは事実だ。
とりあえず二人きりだったわけだし。
「しっかし、携帯電話とか無いんだな」
「携帯電話?無いわよ。持ってる人の方が少ないんじゃない。電波届かないし」
どうやら此処はかなり遅れているようだった。
凛たちはオルファを求めて彷徨ったが結局見つからなかった……。



「ん。異常なし」
オルファもエターナルなので魔力の塊だ。
と言っても、オド(小源)では無く、マナ(大源)の塊なのだが。
そこが人間との違いであった。英霊はどちらの塊かと言えば、オドだろうか。
英霊に関しての判断は難しい。
だが、英霊ではなく、エターナルだったなら。
時深ならエターナルの反応まで分かる。
捜索は時深を使った方が早いのでは?
とも思ったが、時深は時深で探したのだろう。
アセリアの声にセイラが反応する。
「うーん。シロウ。どうやら深山町にはいないようですよ。現在のところは」
「そうみたいだな」
夕暮れ時まで頑張ってそこら中を回ったが、手がかりは無しだった。
「どうする?敵も見当たらないし、これだけ探しても見つからないって事は多分他の場所にいるんじゃないかな?」
「そうですね。その可能性が高い」
「ん、どうするのか?」
「一旦戻ろう。もう合流の時間だし。他の誰かが見つけたかもしれない」
「そうですね」
士郎とアセリアとセイラはとりあえず捜索を打ち切って合流地点へと向かった。
そこには時深たちが待っているはずである。
士郎たちは何の成果も無く帰還したのだった。
だが、それを見つめる影が一つ。
「……先輩……やっぱりマスターなんですか……」
ライダーを連れていない桜が遠くから見つめていた。
彼女にはサーヴァントが分かる。
セイラは間違いなくサーヴァント。アセリアの方もそれに近いようだ。
これで士郎がマスターで無いと言う方がおかしいだろう。
突然衛宮家に紛れ込んだセイラと言う存在を桜は気にかけていたのである……。




柳堂寺方面では時深とエスペリアが遠くから結界を見つめていた。
「なるほど……テムオリンもウルカに見つかるのもまずい。此処が限度でしょうね」
「サーヴァントがキャスターと言うのも面倒ですね。あれは此方の動きをつかむ術を心得ている」
時深とエスペリアは気配を悟られないようにしながら柳堂寺を遠くの場所から見つめていた。
普通ならキャスターには街じゅうの事柄が分かるのだが、現在の時深とエスペリアだけは分からないようにしてある。
遠くからならば問題ないぐらいの気配隠匿だ。
アサシンのサーヴァントであるウルカならばもっと上手くやるのであろうが、自分達にはこれが限界。
遠めに柳堂寺を眺めるだけだった。
だが、普段の時深たちの行動はすでにキャスターには伝わっているはずだ。
とにかく、テムオリン達も動いている様子で、柳堂寺には頻繁に修道僧が出入りしていた。
恐らくはキャスターに操られた人間達。
「テムオリンも私たちを狙っているはず。特にエスペリア……貴方を……」
「……」
「くれぐれも注意してくださいね。貴方が向こう側についてはテムオリンを倒すのは困難になる」
「分かっています。時深さん」
エスペリアは厳粛に頷いた。
「さて……どうやらテムオリンもオルファリルを見つけてはいないようですね。見つけたなら此方に何かしらしてくるはず。キャスターにも見つけられない……オルファリルは何処に居るのでしょうか?」
「さあ……街じゅうに操作網を張るキャスターに見つけられないとなると……見当もつきません」
「そうですよね」
時深はそう結論付けると、夕闇に暮れた柳堂寺を後にした。
「戻りましょう。集合時間です」
「はい」
キャスターにも見つけられていないと言うオルファリル。
果たして何処に居るのやら……。
時深は敵に回らない事だけを祈って合流地点へと向かった。



合流地点である交差点には時深たち以外の皆がいた。
「遅いな……時深の奴……」
ユウトが時深たちが合流時間に遅れているのを気にかけている。
一番危険なのが時深たち柳堂寺に行ったメンバーだからだ。
だがその心配は無かった。
直ぐに時深たちの姿が見える。
「遅くなってすいません」
「何やってんだよ。心配したぞ」
「いえ、キャスターの操作網をかいくぐって抜けてくるのに苦労したものですから」
「ああ、それなら仕方ないか」
キャスターが魔力を集めて街じゅうに操作網を張ってまさに街じゅうを監視していると言うのを時深と凛から聞いている。
「さて……その様子だとオルファは居なかったみたいだな」
「ユウトさんも士郎さん達も見つからなかったみたいですね」
その言葉に凛と士郎が頷く。
「オルファ……心配……」
アセリアが心配している。
「大丈夫よアセリア。とりあえずテムオリンには捕まってないようだから」
エスペリアが優しくアセリアを諭す。
「ん」
アセリアは黙って気持ちを切り替えた。
「で、どうする。もう夜は更けて真っ暗だぜ。オルファを探すにしてもこの時間にはサーヴァント達も動いていたらぶち当たるかも知れないぜ」
「本来ならそうやって動くのが聖杯戦争なんだけど」
凛としてはユウトの言葉より、このまま捜索を続行して、サーヴァントを倒していきたいようだった。
キャスターとアサシンは別として、ランサーとライダー。それにバーサーカーやアーチャーまで居る。
と凛は思い込んでいる。
「此処は一旦帰りましょう。今日は探し回って疲れたでしょうから。オルファの捜索はまた後日と言う事で」
「賛成。俺もセイラが疲れているだろうから」
「私は全然平気ですが」
士郎の言葉に平然と答えるセイバー。
「ま、まあ、休息も戦いには必要だろ?」
「それはそうですが……」
セイバーは納得いかないようだった。
エターナルを見つけられなかったのなら柳堂寺以外のサーヴァントを探して倒すべきかと、凛と同じように考えていたのである。
「いや、俺が疲れたんだよセイラ」
本当はそれ程疲れていないのだが、嘘をつく。
日頃の行動から、セイバーはマスターの事を気遣ってくれるのが分かっているからだ。
「そうですか。それは気が回りませんでした。シロウは日頃から鍛えているので平気かと思っていました。それならば仕方ありませんね」
セイバーも納得したのか頷いてくれる。
「じゃあ、今日は解散?」
凛の質問に、時深が答える。
「ええ、じゃあ帰りましょう。皆さん気をつけて」
「ああ、それじゃあな。行こうセイラ」
此処からは士郎の家が一番近い。
士郎はセイバーを連れて一足先に帰っていった。
夕食があるので早く帰らなければならないのだ。
幾らバイトがあると言ってもそんなに遅くなったら藤ねえや桜が心配する。
ただでさえ、早退しているのだ。
(桜はもう、夕飯作ってるだろうな……)
士郎はそんな事を考えながら帰っていった。
「仕方ないわね。じゃ、帰りましょっか」
凛が家へと向かうと皆がついてくる。
「さーて……夕飯何にしようかな……」
としばらく行ったところで気がついた。
「って……何で時深さんやエスペリアさんまで付いてくるわけ?」
誤字ではない。付属してきている。
「え?それは凛さんの家に行くからじゃないですか」
「だから解散って言って置きながら何で私の家に来るっての!」
聡明な凛にはその意図が読めた。
「えへへへへ……実は今日からご厄介になります。倉橋時深とエスペリア・G・ラスフォルトです」
「だから何でそうなるわけ!」
「もちろん一番安全なのが凛さんの家だからですよ。魔術師の工房ですし、悠人さんも居ますし、これから戦っていくならば協力関係にもあることですし。それに士郎さんの家は事情あって無理そうですから消去法で凛さんの家になりました」
「だから!自分の宿ってのは選択肢に無いのかっての!」
凛は最初は反論したが、結局時深に言いくるめられて自分の家に連れて行くことになった。
「はぁ……何でこうなるのよ……」
「ふふふふふ……」
不敵に笑う時深。
ユウトは、
(年の功……)
とだけ呟いていた。
もちろん聞こえていた時深にどつかれたのは言わずもがなである。





夕食前。
夕食はご厄介になるということでエスペリアに任せられた。
凛はその点は良かったと思いながらテーブルについて紅茶を飲む。
エスペリアが煎れてくれたものだが、中々に上手い。
ユウトに尋ねると、
「エスペリアはスピリットたちの夕食を作ったり、家事全般を引き受けていたから凄いんだ。後ハーブに関する知識も凄い」
「へー。じゃあこれからはエスペリアさんに煎れてもらおうかしら」
「緑茶は無いんですか。緑茶は」
時深は巫女さんだけあって緑茶派らしい。
「無いわ。家の建物に緑茶は合わないし」
完全な洋風の屋敷といった豪勢な遠坂邸。
それを聞くと時深も納得して紅茶を飲んでいた。
隣には黙って口に運ぶアセリアとユウト。
二人の息は抜群だった。
「あ、電話。留守録が入ってる」
凛はそのことに気がついて、留守電を聞く。
『凛、早くサーヴァントを呼べ。マスターになるなら今のうちだ。逃げ出すならばそうすればいいが……』
「綺礼か。は?何言ってんだか。サーヴァントならもう呼んだっての」
そこで時深が口出ししてきた。
「え?凛さんはサーヴァントを呼べますよ?」
「はぁ?」
訳の分からない事を。この巫女さんは時々おかしい。
「だから、サーヴァントを呼べますって。是非呼んでください。戦力になります」
「だから、セイバーが居るのに何で他のサーヴァントを呼ぶわけ?複数呼べたとしてもサーヴァントを複数従える魔力なんかないわよ」
「ああ、心配要りません。エターナルはマナの塊です。魔力提供はアクセルのようなもので、すれば力が増すと言うだけで、基本的にエターナルは魔力を空気中のマナから補給してます」
「え?そうなの?」
ユウトに尋ねると黙って頷いた。
「エターナルって……何なのよ……」
とりあえず分からなかったが自分はもう一人のサーヴァントを呼ぶことが出来るらしい。
「まあ、マスターになった時点でもう一人は呼べないはずですが他に呼んでないサーヴァントが居るのなら呼べますから」
あっけらかんと言う時深。
凛は頭が痛くなった。
「今日の夜にでもぱぱっと呼んじゃいましょう」
時深の言葉を聞きながら紅茶をすする凛だった。
とりあえず、聞いたところによると、エターナルを僕にした場合のマスターは完全なマスターではないらしい。
それを聞いただけで十分だった。
あまり考えすぎるとよくない。
問題は先にやっておく主義だが、今回の事は大きすぎるようだった……。






アインツベルン城。
そこでは二人の少女が楽しそうに会話している。
同じく紅茶を飲みながら。
「あははは。おいしーね。これ」
「そりゃ、もちろんよ。この城にはセラとリーズリットが用意した極上の茶葉があるんだから。それより、もうちょっとお行儀良く飲んでよね。レディーの嗜みよ」
「はーい」
お姉さんモードに入ったイリヤがもう一人を窘めている。
「全くしょうがないなあ……」
などと言いながらも満更でもないイリヤ。
彼女も同年代の外見の少女に好意を寄せていたのである。
「そんな事よりも……貴方サーヴァントなんだから戦いの時は私の指示に従ってね」
「はーい。特に問題ないよ」
その少女……オルファリルは任務を忘れている。
そう、オルファリルが見つからなかったのはこのせいだ。
アインツベルンの結界に守られたここに居たのである。
「まあいいか。バーサーカーとこの子が居れば私の勝ちは決まったようなものだし」
まずは誰を潰すか。
そんな事を考えながらも召喚したオルファリルを見る。
聖杯戦争に関係の無い者だから呼べたこのサーヴァント。
イレギュラーだから呼べたこのエターナル。
と言うより向こうから迷い込んで来たのであるが。
今回の聖杯戦争に色々のクラスの重複があるサーヴァントが呼ばれたことに違和感を持ったイリヤが聖杯についての知識を元に、もう一度召喚の門を開いたところ現れたのがこの少女だった。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンはバーサーカーと『キャスター』オルファリル。
二人のマスターだった……。














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