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Before Act
-Aselia The Eternal-

幕間 ラキオス
-00:45 - 00:00



サモドア山道が封鎖された事により、山道間に設置されていた両国の関所は完全にその意義を失う事となった。
両国が戦う事によって関所は国境警備の拠点及び進軍の橋頭堡として機能をしていたのだ。
バーンライトの方では首都サモドアに近いだけあり、それほど大きな規模の橋頭堡を設置する事も無かったのだが、ラキオスは違う。
山道先であるラセリオから比較的遠い地点に関所が存在しており、機能させる理由を失った橋頭堡など維持するどころか撤去させる費用すら多く掛かる。

ゆえにラキオスは山道の関所を完全に放棄し、そのために捻出させる分を軍備の再編成及び強化に注ぐ事になった。
放棄された関所は数日中に必要物資を優先的に撤去され、今はもう閑散とした無人の廃墟と化そうとしている。
侵入者を防ぐためにズラリと並ぶ防壁はエーテル供給を止めたために痛み出し、早くも崩れてきている箇所が多くある。
元々が商業目的の室内は見渡す限り部屋の大きな壁をくまなく一望でき、残された書類の紙が点々と散乱しているのであった。

それでも中には持ち運ぶのが面倒でそのまま使える物資があちらこちらに点在し、個室のベッドなどが顕著な例となっている。
流浪者などがこの場所をねぐらにするのも、時間が経てば自然とそうなるのは不思議ではない。
今もとある集団が一室の個室に掻き集めた寝具で雑魚寝しているのだから――。

 
06:15 A.M.-

今の時期に限らず、この世界での朝は比較的に早い。
高度が非常に高い山脈が存在していないという理由も考えられるが、それに関しては証明できない。
雑魚寝をして中で中心となっている男、レイヴンは白み始めた朝日の光を肌で感じて閉じていた瞼を開く。
顔を窓へと向けると微かに注がれる白い光を確認して起き上がった。

「「「…Zzz」」」

自身の身体を見回すと、胸を上で乗っかるように寝ているフィリス。
左腕に抱きつくようにリアナが居て、シルスはその反対側でレイヴンに背を向ける様に寝ていた。
背中を向けているのだが、レイヴンの懐に入るようにしているためであり、ある意味フィリスと大差は無い。
レイヴンはそれらを巧みに身体をずらしてベッドから抜け出すと被っていた毛布をフィリスたちに掛け直した。

 
06:21 A.M.-

「………」

一人起きたレイヴンは無人と化した関所の中で最も高い建物の頂きに立ち、周囲の観察を行っている。
吐き出される息は、日の光で温まり出した大地から立ち上る水蒸気の多さで白く染まる。
気配は先ほど雑魚寝していた場所から以外には鳥や小動物たちの蠢き以外には無く、そのまま小さく跳躍をして地上へと降り立つ。

 
06:24 A.M.-

「ふあぁああああ〜…」

レイヴンの居ないベッドでは、最初にシルスが起床をする。
彼女自身よく読書を読み耽って寝不足になったりと不規則な習慣であったため、規則的になると早く起きる様になっていた。

「……朝、か」

少し寝ぼけている頭で窓を見て、朝になっている事を確認した。
簡易のダボッとした寝巻きが腕を大きく伸ばすシルスによって大きく形を変える。

「――そういえば久し振りの朝日なのよね」

昨日までは天坑内で数日を暮らしていたために、窓の傍に立って朝日を浴びて温まる身体に懐かしさを感じる。

「おはよう、シルス」

背中から柔らかい物が突然抱きついてきた。シルスは驚かず、肩越しに声の主に声をかける。

「おはよう、リアナ。できればもっと優しくしてほしいわ…」

「朝のスキッシップです」

「ん、まぁとりあえず着替えとしますか」

フィリスも含め、シルスたちが着ているのはこの関所に放置された物資の中から拝借した服である。
寝る時はなるべくリラックスしてでの睡眠が最適だとか、レイヴンが言っていた。

 
06:31 A.M.-

「朝飯は集めた物を。では行くぞ」

「ちょい待ち」

何処かへ行っていたレイヴンは着替え終わったシルスたちに向かって唐突に言った。
フィリスは未だに寝てはいるが、シルスとリアナによって既に着替えさせられてベッドで寝転んでいる。

「何だシルス?」

「まさか朝飯を食べながら歩くんじゃないでしょうね…?」

「そのまさかだ。保存食は歩きながら食べられる」

「………」

シルスは諦めた。手渡される木の実をすり潰し、固めて焼いた物。
水に少し浸せば水分を含んだもちもちとした食感のパンもどきとなる。

「フィリスはどうします?私がおんぶをして運んでも…」

「俺が運ぶ。日がある程度昇れば自然と起きるだろう」

リアナの問いにレイヴンはそう言ってフィリスを毛布に包み、上手く身体に巻きつけて背負った。
フィリスは寝ながら起用に両手をレイヴンの首へと回している。

「行くぞ」

「はいはい…」

「何か持っていく物はありますか?」

シルスは嘆息をして、リアナは訊ねている。
この関所には探せばもしかしたら使える物がまだ多くのあるかもしれないからであった。

「確認はしたが、それほど無かった。特に必要な物がないのでそのまま放置した」

「毛布なんかはいいわけ?」

「ラセリオで必要な物を揃える。必要はない」

そして一向は関所を後にし、北西のラセリオの街へと向かう。

 
06:44 A.M.-

「うにゃぁああ〜…?」

「起きたか」

「…うにっ〜」

瞼を瞬かせるフィリスをレイヴンは下ろす。
少しフラフラしていたのをリアナが支え、水筒を手渡した。

「(こくこくこく)――にゃぁああ〜…」

飲み終えると同時にフィリスは身体を伸ばして眠気を飛ばす。
シルスがつられて屈伸をし、リアナはそれらを微笑ましく笑う。

「飯は歩きながらだ。いいな?」

「うにっ」

フィリスを下ろしてから今までに既に柔らかくした保存食を手渡し、フィリスがそれをもふもふと食べる。
シルスはとっくに食べ終えており、今リアナが自分の最後の一欠けらを口に含んで食べ終える。
レイヴンに関しては不明だが、彼は彼女達に背を向けて先を進んでいた。

 
06:56 A.M.-

基本的に歩行速度の速い一行であるために、関所から出てもう既に視界にはラセリオの街が映っていた。

「あれが元々うちの国が狙っていた街?」

「そうだ」

「ふーーん…思ってたよりもこじんまりとした印象ね」

エーテル技術とラキオス侵攻の最短ルートで重要な街だとは知っていたシルスは期待はずれの印象であった。

「見た目など問題ではない。ようは地理的に重要であるか、利用できる技術が存在しているかの問題だけだ」

「まぁ、エーテル変換施設が小さくあるだけらしいしね。技術だけなら資料があれば事足りる、か」

「そういう事だ」

「私たちの見えない絆みたいですね」

「うにっ!」

「………」

リアナの発言とフィリスの肯定にシルスは恥かしくて、そしてどう言えばいいのか悩む。

 
06:59 A.M.-

山間の名残の山影から出た一行は朝日を浴びてきめ細かに黒と青、そして緑の艶やかな輝きを放っていた。
歩くたびに揺れる髪は光のカーテンの様に幻想的に瞬いて輝いている。

彼らが向かう先はラセリオ。
朝霧で地上の雲と化している中を突き進んで行く――。


 
07:00 A.M.-




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