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Before Act
-Aselia The Eternal-

第一章 ダーツィ
最終話 「 魔龍討伐 」



砂漠を渡りきって時は皆、本当に疲れきっていた。
マナ消失地帯を横断するというだけで、これほどまでの疲労が蓄積するとは全く思っていなかった。
山脈に着いた時は、本当に生きているのが不思議なくらいだった。

適当な岩場に皆は崩れるように座り込んだ。私も本当はそうしたかった。
けど、少し遠くから近づいてくる神剣の気配が感じたので、私だけは立って警戒をし続けた。
神剣の気配は3つ。何をしに着たかは知らないが、それでも私は一人で神剣を手に岩場に気配を殺して潜んで待った。

人間だった。私が潜んでいた岩場を横切ろうとした気配に合わせて踊り出て、神剣を首に突きつけた際に気がついた。
人間から神剣とマナの気配がしたのは、人間がブルースピリットを背負っていたためだ。
何故、人間がスピリットを背負っているのか? 道具であるはずのスピリットが人間の手を煩わせている事に私は理解出来なかった。

その人間も特に気にした風も無い事に私は酷く困惑し、スピリットを腕の中に一緒になって寝るという行動にも全く理解出来なかった。
朝日が昇る前になって、未だに疲労が残っている皆と私は討伐の為に無理をして行動に移った。
その時も、人間は何時の間にか私の傍らに現れ、私が気にしている事をそのまま言われてしまった。

少し意地になって、そのまま討伐に向かった。
だけどあの時、あの人間の言葉をしっかりと聞いていたならば、こうはなっていなかったのだろうか?
……いや、何にしてももう遅すぎた事である。でももし、もっと休んでいたとしても結果を同じだったのだろう。
私たちよりももっと力のあるスピリットだった先輩たちでさえ、討伐に成功せずに帰って来なかったのだから。

洞窟を抜けた先に居たのは、10mあろうかという炎を纏った龍が鎮座していた。
それは皆を魅了すると同時に、恐怖すらも感じさせていた。禍々しいまでのマナをその身に纏い、それの縦に細長い切れ目の燃えるような金色の瞳をこちらに向けて来た。
そして大きな口から放たれた咆哮に、何人かのスピリットが悲鳴を上げた。

あれが魔竜シージス。一目見ただけで、勝てない事が解かってしまった。
保有しているマナ量の差だけでもわかっていたが、存在そのものがまるで違っていた。
シージスは背中の翼を広げ、自身の身体を覆い尽くせるその雄大な翼からも火の粉を辺りに降り飛ばした。

後は一方的だった。こちらのレッドスピリットが神剣魔法を詠唱している最中に口から放たれた光線で薙ぎ払われた。
成す術のなかったその護衛のグリーンスピリットは、とシージスの火の粉が混じった長い尻尾で吹き飛ばされ、生き残っていたレッドスピリットが火炎魔法を放っても全くの損傷が与えられなかった。
私や他のブルースピリットやグリーンスピリットが勢いのある斬撃や突き、薙ぎ払いをぶつけてもその皮膚を裂く事が出来なかった。
逆に接近しすぎたスピリットたちはシージスに踏み付けたり押し潰されたり、あるスピリットが噛み千切られてマナの霧に還されてしまった。

そうこうしている内にあんなにいたスピリットが、私を含めて肩を貸しているグリーンスピリットの二人となってしまった。
私は主に殴打による内臓へのダメージ大きく、今も神剣を片手で構えているだけでも身体の内から頭を貫く痛みが走る。
肩を貸している子は、空いている手に自身の神剣を持ってはいるものの、もはや使い物にならない程にボロボロであった。

目の前で飛び掛かる体勢を悠々と構えるシージス。こちらにはもうあの巨体を避ける力は残っていない。
私は最後の力で隣の子を突き飛ばして助けようかとも逡巡させるも、ただ悪戯にこの子が苦しむ時間を増やすだけだった。

「――っ」

舌打ちとも似つかぬ絶望の声を私は上げていた。
シージスはそれを待っていたかの様に、私の声を発したのと同時に翼を羽ばたいて一気に肉薄してきた。
後の事は、まるで走馬灯の様にコマ送りで世界が流れて行っていた。

シージスが私たち二人を噛み砕こうと大きく口を開けた。
金色に輝く瞳はあと数瞬の時になって、私たちに後ろへとその瞳を向けた。
口が私たちを大きく通り過ぎ、大きなシージスの横顔が目の前に迫ったと同時に後退した。


―― ドガドガ!!…ドゴォオオン!!

小さな赤い玉が二つ、シージスの横顔で炸裂した。
そしてその少し間を空けた時に先ほど玉を二周り大きくしたような赤い玉が再びシージスの顔で大きく爆発。
シージスは少し苦悶の叫びを上げ、顔を仰け反らせながら後ろへと飛び退いていく。

私はその数瞬の出来事をまるで数分越しに見ていた感覚から引き戻され、爆煙から隣の子を庇った。
立ち込める黒煙から、蒼く長い髪の少女が純白の翼を広げてシージスへと向かって行った。
シージスは軽く顔を振り、接近してくる蒼い少女に気がついて攻撃を仕掛ける。

大気中のマナを大きく広げた翼から取り込み、まるで毛細血管を通るようなラインを描いて翼から喉へ、そして少し開いている口へと集束していく。
口に集められたマナは中で大きな空間振動を起こし、電気に帯びてプラズマを発生させる。そのアイスバニッシャーですら冷却できない超高熱を数回に分けて放った。
蒼い少女は滑空していたのを一気に洞窟の上空へと羽ばたく事で回避。シージスは追撃として更に細かく連続して撃ち放つも、小さな少女を当てるのには至らないでいる。

爆煙が晴れた今も私はいきなりの出来事に私は惚けていると、突然身体の痛みが薄れていく事に気がついた。
隣を見れば、ボロボロだった少女の片腕が見る見るうちに修復され、お互いに細かな傷までもが治っていっている。
私は元より、隣の少女も突然の出来事に動く様になった片腕を目の前に掲げて呆けている。

「残ったのはお前たちだけ、か。生きているだけマシだろうな」

ついさっき聞いたような、それでいて随分と前に聞いたような声が空いている肩の方から聞えた。
驚いて振り返るとそこには人間が、その更に隣には神剣を構えたグリーンスピリットとレッドスピリットが居た――。



「レイナは立ち回って攻撃回数重視の神剣魔法。リアナは奴の下方からの撹乱を」

「「はいっ!」」

レイヴンが指示を出し、リアナとレイナはシージスへと突撃していく。
今のシージスは洞窟の上空を旋回し続けるフィリスを墜とそうと連続してブレスを放つもある程度は二次元の地上異なっている。
高さを含んだ三次元の相手への攻撃は思いの他難しく、ゆえにフィリスは軽く動きを変えるだけでプラズマ弾を回避している。

「ファイアボール!!」

レイナが振動熱を一点に集束させた火炎弾一発を、シージスの胸部へと熱線を通じて直撃させる。
シージスはフィリスに注意を注いでいたため、爆煙に身体を包ませながらも少し後ろ足を着かせている。
身体を炎に包まれているだけあり、胸部の炎の壁に全くの変化が存在していない。損傷が全く無い。

火炎弾を放ったレイナを見据えたシージスは翼を羽ばたかせ、低空を飛びながらレイナに向けて咆哮しつつ襲い掛かる。
フィリスが援護に向かおうとするも、シージスが羽ばたいた事による突風のお陰で吹き飛ばされて制動で精一杯であった。

「はぁああ!」

突風で辺りに飛ばされている煙の中からレイナが『彼方』を振り被ってシージスの眼前へと跳び上がった。
シージスはそのままリアナを弾き飛ばさそうと大きな爪を振るう。リアナは『彼方』を振ってその指と指の間に叩きつけ、その反動でクルリと半回転をして腰に纏った衣を浅く裂かれながらも避ける。
勢いのまま飛び上がってシージスの背中へと移動し、背中に着地したリアナは片翼を根元から切り裂こうと回転を加えた薙ぎ払いをするも弾かれる。

炎を纏ったシージスの身体はリアナの靴底を溶解させていき、リアナは靴底の溶解した液を飛ばしながらシージスの背中から飛び降りる。
途中、シージスの尾をついでとばかりに『彼方』を振るうも、逆に勢い良く弾き飛ばされてしまった。
レイナへと襲い掛かったシージスは、リアナによってタイミングを大きく逸らされてしまい、レイナの上空をギリギリ通過してしまう。

「ファイアボルト!」

通過すると同時にレイナは再度複数の火炎弾をシージスの下腹部へと連続して被弾させる。
軽く苦悶の声を口から漏らしているシージスだが、それはただ条件反射と言わんばかりに腹は相も変わらずに無傷であった。
レイナは再度『悲壮』を構えて詠唱に入り、シージスはその無防備となったレイナへと常時曲げている足で思いっきり跳んで襲い掛かる。

「彼の者を―
―ファイアボール!!」

『!?』

シージスは驚いた様に動きを身体を一瞬硬直させる。
今までのスピリットは詠唱を終えた際にやっと火炎弾を放っていた。だが、今のレイナは詠唱の途中で火炎弾を発現させていた。
そしてさらに、その火炎弾をシージスへではなく自身の直ぐ目の前の地面に着弾させて爆発させたのである。

レイナとシージスの間に爆せた炎は黒煙となって両者の視界を完全に塞ぎ、視界を完全に潰した。
シージスはそのまま目の前に迫っていた地面へと大きく振り被った腕を振るい、地面を大きく抉って吹き飛ばす。
しかし、辺り一面に煙が立ち込めているためにシージスはレイナがどうなったのか判断出来ずに居る。

『ゴォオオオオオオオオ!!』

咆哮したシージスは己が翼を目一杯広げ、そして一気に前方へと羽ばたかせる。
周りの煙はその羽ばたきで大きく吹き飛ばされ、塞がれていた視界が一気に開ける。

――見えたのは、眼前で『彼方』を大きく振り下ろしてくるリアナであった。

頭部に迸る衝撃にシージスは片膝を着いて堪えた。そしてそのまま首を振って『彼方』ごとリアナを着た道を戻らせるように吹き飛ばす。
が、吹き飛んでいくリアナの後ろから今度はレイナが飛び出し、リアナが『彼方』の柄でレイナを飛ばし、さらに加速させてレイナにシージスを肉薄させた。
二度目の急襲にシージスは迎撃し様とするも、レイナはそのままシージスの頭を通過。無駄に終わったシージスの迎撃は、レイナの後ろに隠れて肉薄してくるフィリスによって裏切られた。

「貰いっ!」

――ドガガッ!!

ハイロゥの翼を羽ばたかせたフィリスによる『雪影』の一撃はシージスの巨体を軽く吹き飛ばし、近場の突き出ていた岩場に激突させた。
宙を落下していたリアナとレイナは順に腰の衣とスカートをひらめかせえて着地。フィリスもウイングハイロゥの滞空フィールドを軽く機能させ、リアナたちに傍に浅く着地した。
シージスは岩に付着している水分を蒸発させ、水蒸気を纏って起き上がる。そして再度、咆哮するとともにフィリスたちへと襲い掛かった――。

……………

「――凄い…」

突然現れ、そして私たちが束になって攻撃しても蚊に刺された程度しか効かなかったシージスを相手に、たった3人で対等に渡り合っている事に私は驚く。
長髪のブルースピリットがウイングハイロゥを駆使して上空から一撃離脱の攻撃をし、三つ編みのグリーンスピリットがシージスの足元で立ち回る。
そしてセミロングの髪にレッドスピリットが遠距離から神剣魔法で細かく攻撃をしている。

上と下の両方を同時に立ち回るには難しく、シージスはブレスを上空に放ちながらも足元では地団駄を踏むようして攻めあぐねている。
そして火炎弾の攻撃自体は大したダメージを被らないのだが、それでも関節や顔などに随時炸裂されていてシージスはその反動で上手く動けない。
シージスはその巨体からして本来は遠・中距離の地上戦での一撃戦闘が向いており、完全に引っ付かれた状態や細かな攻撃、そして上空の小さな目標への攻撃に向かないのだ。

動きを見れば直ぐにでも解かる事だが、実際にそれを行う事は難しい。
接近するにはまず、あのブレスを避けて中距離での地面ごと抉る薙ぎ払いを掻い潜らなければならないのだ。
実行しようとはした。したのだが、シージスのあの攻撃を掻い潜る事は私たちは叶わなかった。

隣を見ると私以外に唯一生き残った、長い髪の毛の先がニ房に分かれているグリーンスピリットも見せ付けられている戦闘風景に驚いている。

「――何よ、それ…」

私はシージスを相手にたった3人で戦っているスピリットたちを見て、そう言わずにはいられなかった。
沢山の仲間が死んで、それでも歯が立たなかった魔龍を今、たったの3人で渡り合っている現実に何とも言えない思いに駆られる。
悔しくて、悲しくて――そして羨ましくて。私は人知れずボロボロになっている服の端を強く握っていた。

「愁傷に浸るのは勝手だが、現状は未だに戦闘空間である事を忘れてはいないだろうな?」

「――そんな事は、知っています」

「そうか」

「――っ」

私の横に立って声を掛けてくる人間。確か訓練士のグレンとか言っていた。
そいつは私が考えていた事をそのまま指摘し、反抗の声を返してもサラリと流す。
自分が連れてきたスピリットたちが戦って姿をそいつはただ眺めている。

「――昨夜の岩場付近に俺たちの砂漠横断用の装備と水筒がある」

「…それが何か?」

「他のスピリットたちの残したモノもかき集めれば幾分かマシだろう」

「だから、何なんですか」

顔を正面に向けたまま話し掛けてきた人間の遠まわしな言い方に私は少し苛立つ。
人間は漆黒の瞳だけを私に向け、そして言った。

「お前たちには討伐の成否報告を任せる。戻るには必要だろう?」

「――なっ!?」

私は驚いた。スピリットは討伐の命令を完遂しなかればならない。例え自身の命が消えたとしてもだ。
それをこの人間は私たちに失敗しても生きて帰れと言っている。
使えないスピリットを人間が許す?……ありえない。処刑されてマナへと還され、新たなスピリットの糧とされるのがオチである。

「私たちは魔龍の討伐の命を受けています。それを成功させる以外に私たちが生きる術はありません」

「……実は魔龍シージスや砂漠横断に関する有力な資料が国には存在していない」

私が出来ないという言葉を返すと、人間は懐から一冊の手帳を取り出して私に渡してきた。
怪訝に思いつつも、その中を軽く見ると砂漠のスピリットへの影響やシージスに関して記載されている。

「もし、今回の討伐が失敗したとしても、それを国へと献上できれば幾らかの猶予がつく筈だ。
必要ならばグレンと言う人間に命令されたと言えばいい」

「しかし――」

「今のお前たちに何が出来る? 足を引っ張るだけだ」

「―――」

なおも反論しようとした私はその言葉に黙るしかなかった。砂漠の横断にマナに精神に肉体も疲弊した後の戦闘における負傷。
さきのグリーンスピリットの回復魔法のお陰で傷自体は完治してはいるが、すでに戦えるマナも力もあまり残っていないのが現実だった。
今の私、そして隣のグリーンスピリットもその現実に顔を俯けさせている。

「「………」」

「――さきにも言ったが、ここは戦場だ。顔を背ければ本当に死ぬぞ?」

――ババッ!

「「!?」」

服の襟を掴まれた私たちはそのまま、人間に大きく後ろへと投げ飛ばされた。
不意打ちとは言え、簡単に投げられた事に私たち2人は驚いた。そして次瞬――。


――ドグワァアア!!


人間が居る場所が爆煙に包まれた。シージスが放ったブレスの流れ弾が着弾したのである。
私と隣の子は驚愕に目を見開かされる。私たちは人間に助けられた。スピリットである私たちを人間が庇った事にも驚かされた。
着弾した地点では、余熱で地面が燃え盛って黒煙を上げている。そしてその中から一つの人影が浮かび上がっている。

「来た道の通路付近に居れば大方は大丈夫だろうが、いざとなればお前たちでしっかりと報告に戻れ」

「……ただの人間があれに立ち向かうのですか?――無謀です」

人間は生きていた。その人間はシージスの方へと歩いていきながら声を掛けてきている。
私は助けられた事など露知らずと言わんばかりに皮肉った。人間は私の言葉に一旦足を止め、肩越しに私を見据えてくる。

「――俺は“レイヴン”だ」

そう言いながら人間は腰の鞘から大きな剣を抜き、背中から長い金属棒を手に取った。
私たちから視線をシージスに向けた人間。その炎の中の背中が、何故か私たちには全く及ばない強さがそこにあるのを感じた。

「全てを撃ち砕いてしても羽ばたく鴉」

炎の中から人間は踊り出て、そのままシージスへと向かっていく。
ただ走っていくだけの動作に、私は何故か見入ってしまった。

……何故かは――わからない。



シージスは足元にいたリアナを尻尾で吹き飛ばした。
幾ら小回りが効いたとしても、絶え間ない攻撃を避け続ける事はリアナには出来なかった。
それでもシールドハイロゥで直撃を防ぎ、後ろへと跳んだ事で威力は軽減させて壁面へと激突。

「リアナっ!」

レイナは連続して火炎弾を放ち、高速でリアナへと突進していくシージスの体表に直撃はするも止める事は出来ない。
フィリスはシージスから上空へと離脱した直後だったために直ぐに追跡するが出来ないでいた。
リアナは壁にめり込んだ身体を引き出すのにてこずっているため、迫り来るシージスに対応できない。

シージスは翼を一気に羽ばたいて突進しながらブレスを放とうと口内にプラズマを帯電させる。
高熱のよってその口から水蒸気の霧の尾を引き、そしてリアナに向けて首を伸ばし、肺活量を生かした吐息でプラズマを放とうとする。
口内から剥き出しとなったプラズマの光が辺りを眩しく照らさせる。


――ドガッ!!
――ズギャガガガガガガガガ!!!!


真横からシージスの側面へと割り込んだレイヴンは、『凶悪』でブレスを放とうとしていたシージスの横顔を殴打した。
突然の攻撃にシージスは対応できずに顔を横にズラされ、リアナへと照準していたブレスが大きく逸れて在らぬ壁や天井を吹き飛ばしていく。
たった一人を殺すのに過剰なその威力は直撃した壁を火口とし、天井をマグマの雨雲へと変貌させた。

「魔龍よ、惜しかったな」

『グォオオオオオオ!!』

シージスはリアナへと突進していた勢いを地面を削りながらも殺し、目標を現在落下中のレイヴンへと変更した。
攻撃を邪魔された事に怒ったのか、それとも落ちていっているレイヴンの方が狙いやすかったのかは知らないが、シージスはブレスを放った事によって高熱に帯びている口で襲ってきた。
レイヴンは『月奏』と『凶悪』をクロスさせてシージスの上下の長いキバに引っ掛ける事で口内へと入ることを防ぐ。

――ガキィイン!

そしてシージスは噛み砕けない事を悟ると上空へとレイヴンを飛ばし、彼自身もタイミングを合わせて上空へと両手の獲物を利用して跳ね上がる。
勢い良く上昇していくレイヴンにシージスは翼を最初は滞空のために羽ばたき、次瞬に一気に羽ばたいて上昇。一瞬でレイヴンを肉薄した。
噛み砕こうと幾度も口を突き出すも、彼は『月奏』と『凶悪』を交互にキバへと叩きつけて更に上昇するために捉えられないでいる。

『グガァアアアアアアアア!!』

シージスは咆哮とともに三本爪でも薙ぎ払おうと更なる連撃を真上のレイヴンへと繰り出して来る。
レイヴンはそれすらも宙で演舞を踊るかの如く『月奏』と『凶悪』で受け流して上昇していく。
両者の攻防は果てしなく高く存在している天井まで迫り、後一息という時にレイヴンは両手の獲物でシージスの顎を殴打。

『ゴォアアアア!!』

今までの回転しながら受け流した勢いの乗ったその打撃はシージスの上昇する勢いを殺し、巨大な質量の龍は自重によって落下していく。
シージス自身もこれ以上の追撃は出来ないと判断し、置き見上げとばかりにブレスを不完全ながらも放っていく。
それでもそれは、人を一人灰に帰すのには十分すぎるほどの威力を有している。

――ザンッ

――ドゴァアアアア!

天井はブラズマを受けた場所を線で追うようにして連続して溶解・膨張・爆発していった。
そんな爆風の中、レイヴンは天井へと辿り着いた時点で『月奏』と『凶悪』を天井に突き立ててその場で静止。
次々と爆発していく周囲を尻目に、彼は落下していくシージスと視線を交差させている。

――全てが燃え尽くす黄金に全てを塗り潰す漆黒の瞳。

――怒りの炎に静かな深海。

――生と使命の存続に懸命な意志に死と虚無の果ての意志。

ホンの数秒の視線の交差。洞窟という薄暗い空間であるも、お互いが霞んで見えなくなるまでシージスとレイヴンは視線を交わし続けた。
それだけだったが、お互いに無言の会話をしていたのは確かであった。お互いに対称な存在であり、相容れぬ存在同士。それでいて本質は同じ存在。

「――貴様に成すべき事があるのならば、こちらもそれに答えよう」

シージスが着地した振動は直ぐにレイヴンいる天井へと伝わり、その振動を利用して突き立てて静止している天井から『月奏』と『凶悪』を引き抜いて落下していく。


上空から降って来る様にシージスは地面を大きく隆起させて着地をした。
着地を衝撃を緩和させるために身体を少し屈めるも、その長い首の先の顔は上へと向け続けている。

『グルルルルルルル…』

今までのシージスからは発されなかった唸り声を上げている。それは何かを思案するような、または待っているようにも見える。
だが、それは数瞬もしない内に下へと向けられ、シージスの視界には迫ってきている3人のスピリットたちが映った。
シージスは地面に隆起した岩を薙ぎ払い、飛び散っていく大きな破片でフィリスたちを散り散りに距離を取らせる。

フィリスは上空に舞う岩のお陰で上空へと退避できず、地上を滑空するように降り注ぐ岩の雨を掻い潜っていく。
今まで上空という空間を利用した回避方法をしていたフィリスを、シージスは今度はしっかりと捉えて尻尾で攻撃をする。
フィリスはそれに気がつくも横一線のその振り回しを避けれず、『雪影』を叩きつけて勢いを殺そうとするも効果が薄く、叩きつけられて吹き飛ばされる。

シージスは吹き飛んだフィリスの行方を見ずにリアナへとブレスを放つ。
連続ではなく放出し続けているブレスは、リアナが通った道筋を溶解・蒸発させながらリアナ本人へと迫っていた。
レイナが火炎弾を連続してシージスの顔へと放つもシージスは自身の片翼を突き出して直撃を防ぎ、ついでとばかりにレイナへと突風を放って吹き飛ばした。

フィリスは地面に突き刺さっている岩を貫通し、小さめな岩に何度も弾かれ、ようやく足を地面につけた数メートル後方で止まった。
岩への激突は腕で身体を守るように丸めたために上着の金属プレートで緩和することが出来、フィリスは直ぐにハイロゥの翼を広げて降り止んだ上空へと飛翔する。
そのままブレスを前方へ吐き続けているシージスの背後上空から『雪影』をシージスの頭へと振り下ろそうとした。

―― ガッ!

「!?」

『雪影』へと加わる衝撃と大きな質量の衝突にフィリスは困惑する。
それは上空から降ってきたレイヴンの『月奏』と『凶悪』をクロスさせ、『雪影』にぶつけて攻撃軌道を強制的に変えさせられたためであった。
『雪影』の振り下ろす勢いを圧倒的なまでに増させ、シージスの頭部からその横に突き出されている片翼の関節へと吸い込まれる様に斬りかかる。

―― ザシュッ!!
『ガァアアアアアアアアアア?!!』


大きな翼を半ばから斬り裂かれたシージスは絶叫の咆哮をする。吐かれ続けていたブレスが秩序を失い、拡散しながら辺りを爆散させていった。
レイヴンはそのままシージスの背中へと着地して一気に首から顔へと移動すし、その間もシージスは絶叫で身体を動かし続けるも軽やかに登っていく。
そして鞘に戻した『月奏』の代わりに腰に常時刺している漆黒のダガーを逆手にとって振り下ろす。

シージスの身体はスピリットたちの神剣をことごとく弾き、生半可な攻撃ではその炎を纏った表面を破る事は出来ない。
しかし、先ほどの様に関節などの身体を動かすのには必ず柔軟な箇所が存在しており、他にもそういった箇所は存在している。
例えば、今のレイヴンのような“目”であったり――

―― ザシュァアアア…

『グギャァアアアアアアアアアアアアア!!!!』

ダガーをシージスの右目に突き刺すと同時に膨大な量の血が噴出してくる。
それらは直ぐにマナの霧へと返還されて金色の霧が辺りに吹き荒れ、目を刺されたシージスは翼を裂かれた時の比ではない絶叫をさせて駆け巡る苦痛に暴れ出す。
串刺しとなってダガーを払おうとシージスの手が自身の頭部にいるレイヴンへと伸ばされ、それが届く前に刺しているダガーを抜いて離脱。
抜く際にシージスが一度痙攣するが、直ぐに抜いた事による痛みと出血にさらに暴れ出した。

レイヴンはほぼ投げ出されるカタチでの離脱だったので、空中で回転をする事で体勢を整えて着地。
漆黒のダガーに付着したシージスの血がマナに還った事で金色の軌跡が残っていた。
ダガーを軽く回す事で完全に刀身から血を振り払い、近距離で暴走しているシージスから離れつつダガーを腰へと差し戻す。

片翼を半ばから失ったために翼からのマナ供給が不完全となり、吐き出されるブレスのプラズマに集束性が欠けて散弾となって近距離にあるもの全てを爆砕している。
近距離にいたレイヴンもその煽りを食らい、真横に向けていたシージスの口から吐かれたプラズマ弾の高密度電荷の照射を受けた。
元々電気の成分である電荷自体には光速で移動する性質を持っているため、プラズマの様に空間物質自体に干渉しなければ即座にレーザーとして攻撃が可能なのである。

それが本来、プラズマへと使用される余剰だったとしても、人っ子一人を蒸発させるには十分な威力が備わっていた。
以前、彼が森での訓練で受けたレイナの『フレイムレーザー』の、熱線の照射以上の威力と高圧照射である。
漏れたそれだけで、それも集束もままなっていないだけの範囲の広い照射を避けれるだけの時間がレイヴンには無かった。

「――ちっ…」

レイヴンは軽く舌打ちをしつつ、逆手で『月奏』を鞘から抜き出すと同時に身体を庇うようして目の前に刀身を差し出した。
すると照射をモロに浴びる事になった『月奏』の刀身に照射される電荷が集束していき、最終的には照射された全ての電荷をその刀身に纏ってしまう。
『月奏』の刀身に集束した電荷がお互いに干渉し合って軽く紫電を発するも、直ぐに刀身が超微振動を起こした事で紫電は収まる。

刃の先端から青白い光の波紋が柄へとゆっくり移動していく。
レイヴンは次瞬に照射されたシージスの新たなブレスの余波も『月奏』の刀身に集束させ、青白い光の波紋をさらに輝かせた。
光の波紋が刀身へと到達したと同時に、レイヴンは『月奏』のガンブレード状の取っ手で刃の切っ先をシージスへと向ける。

「長い年月の苦痛を数瞬の苦痛で我を忘れるとはな――」

柄へと到達した光の波紋は切っ先へと戻り、先端へと集束した光の波紋は一筋の光の矢となってシージスの無事な方の片翼へと突き刺さった。
その間、光の速さ。傍目からは、『月奏』の切っ先から青白い光がシージスの翼に青白い線が引かれたようにしか見えない。

―― ズバシャァアアアアアアアアア!!

突き刺さった光は翼への電荷干渉によってプラズマの爆発をする。マナ供給しているために翼を通っているマナもそれに反応爆発。
爆発した翼からは爆発の余波と拡散する電荷によって、青白い爆発となってシージスのもう片翼を粉々に四散させる。

羽ばたくために強度が比較的高い骨格が残るのみで、それ以外の空気抵抗を受ける膜が完全にただれてしまった。
膜自体に神経が通っていなかった為にシージス自身へのダメージは大きくなく、ブレスを吐くためのマナ供給を完全に絶っただけに留まった。

「――所詮貴様も使命に囚われた籠の中の鳥だったか……」

ブレスを吐き出せなくなっても、さらに吐き出そうと暴れまわるシージスを眺めながら、レイヴンは『月奏』の切っ先をシージスの足元に定めた。
次瞬には刀身に残っていた電荷をプラズマとして射出。シージスの足を掠めて地面に着弾し、青白い閃光を放って穴を開けた。
神経が密集している足を掠める様に溶解させ、局所的な新たな痛覚にバランスを崩し、もう片足を爆発して開けた足場に足を取られて倒れ込む。

炎を纏ったその巨体が倒れ込んだ事で大地が大きく揺れた。
シージスは激痛の連発によって気絶でもしたのか、倒れ込んだまま動かなくなった。
少なくとも、その巨体がマナへと還らない事から死んではいない様である。

シージスの身体から炎が立ち昇り、それが直ぐに金色のマナの粒子へと返還されて空間に消えていく様をレイヴンは眺める。
『月奏』の刀身に未だに帯電している電荷を軽く振って完全に払った。
動かないシージスに警戒しつつも、周囲を見回してフィリスたちに生存の是非を確認するために見回す。

フィリスたちはレイヴンから横の離れた場所で3人は集まり、各々の神剣をシージスの方向に突き立てて膝をついている。
おそらく、シージスの口から吐き出される拡散するブレスの照射を3人集まってオーラフォトンを展開する事で遮断していたのだろう。
彼女たちの周囲だけ、爆発した跡が障壁で防いだように地面が存在している所が見られるので間違いは無いだろう。

3人のオーラフォトンを防御フィールドの展開に長けたグリーンスピリットであるリアナを先頭に集中させたとはいえ、さすがに連続照射に無傷では居られず、服の所々が焼けて煙が立ち昇っている。
それでもあの猛威の中を生き残れている事にレイヴン少しばかり感心しつつも、まだまだ精進する必要性を感じていた。

「――――」

瞬時に感じたマナの集束にレイヴンはシージスに目を向けると、そこにはもはや使えなくなったと思われた両翼へと金色のマナの粒子が集束していっていた――。


フィリスたちの方でもそれを感じ取るも個々に消耗が激しく、比較的動かないで居られたレイナがシージスを見やった。
シージスのただれた両翼にマナが集束していき、身体の血脈を通って口へと収束していっている。
初めの頃に比べればそれはとても小さな光の集束であったが、それでも強力な威力を秘めている事は先の照射からも証明されていた。

そしてそれがどの様に放たれるのか、レイナは直ぐにわかった。
シージスの片目が此方を既に睨んでいた。既に狙いは定まっていたのだ。

――私たちに。

レイナがリアナの目の前に飛び出るのと、シージスが巨体を起き上がらせてブレスを放つのが同時だった。
迫り来るプラズマ弾にレイナは『悲壮』を目の前に構えてオーラフォトンで止めようとしたが、止めた。
先の照射は電荷自体を弾く事で防げたが、今のあれは完全に電荷熱の塊。受け止めてしまえば、その膨大な熱量の停滞によって蒸発されてしまう。
今の彼女たちに避ける時間も防ぐ手段もなかった―――。

(――いえ…ある)

レイナはオーラフォトンに回しているエーテルを全て周囲に浮遊しているスフィアハイロゥに回した。
『悲壮』を目の前に構えて、頭の中にある魔法陣を描き出す。森での訓練で身に付け、シージスのふいをついた無詠唱による火炎弾の発射。

焚き火を起こすために対象周囲の空間振動過熱……その応用――発動。

その全てをレイナは走馬灯の様に逡巡し、そして『悲壮』に不完全な箇所を補助させる。
スフィアハイロゥ自身が魔法陣となって脳内詠唱の具現化を実行させる。

「フレイム――」

前方空間のエーテルが大気中の物質を振動させて過熱。
瞬間的に超過熱された空間は光を屈折させ、前方から迫ってくるプラズマ弾を歪ませて見せる。
後は些細なキッカケがあれば、空間そのものが爆発しかねない状況までレイナは前方の大気を瞬間的に過熱させた。

――プラズマ弾が過熱した大気に触れた。


「バニッシャぁああああああああ!!!!!」


――ズガシャァアアアアアアアアアア!!!


レイナの宣言と共に拡散を停滞されていた大気中の熱量が拡散し、プラズマの電荷熱によって発火。
周囲の酸素や熱量の拡散によってその範囲は広大なものとなり、この洞窟そのものを閃光で覆われせた。
プラズマ弾はその爆発に巻き込まれ、対象に到達する事無く四散する。

閃光とともに洞窟そのものを揺るがす爆発によって壁に大きな亀裂が走る。
それは天井にまで上り、天井そのものもシージスのブレスによって所々脆くなっていた箇所が崩落を始めた――。




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