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今日の仕事を終えたことで、ここでの全てが終わった。
この地で私の居場所はこれで無くなった。
全ての痕跡を絶ち、今は小高い平野の真っ只中にいる。季節は初冬の深夜。
冷たくて、それでいてまだ暖かい穏やかな風が顔を、短い漆黒の髪を撫でる。

男が一人、晴れ渡る空に輝く星々の光を髪と同じ漆黒の瞳で静かに眺めている。
白い一張羅の衣を纏い、その下は黒で統一された服装をしている。
ベルトには簡易ポシェットと大型で漆黒のサバイバルナイフを腰の後ろに携え、用途は不明な口が大きい鞘当が腰に掛かっている。

風が纏っている衣を舞い上げる。静かに佇むそれは闇の夜に溶け込んでいた。
男は佇む。ただただ、そこに佇んでいた。

その瞳は瞬く星の海を眺め続ける。月の淡い光が世界を彩っていた。

目を閉じる。星々の輝き、月の光で満たされていた世界は暗闇に落ちる。
都会を少し離れるだけで辺りには民家は無くなり、五月蝿くて賑やかな騒音が全く無くなる。
あるのは昆虫の奏でる鈴の音。草木の擦れる風の音色だけ。
それが男の鼓膜に優しく響かせる。

一際強い風が衣を舞い上げ、世界から音が消えた。
男は再び目を開く。その世界は青白かった。
平和や戦争を謳い、否定する世界。

そんなものは此処には、無い。

ただ此処には、ただ此処にあるだけである。
否定に肯定。喜びに悲しみ。怒りに憎しみ。

此処にそんなモノは、無用だ。

「………」

この世界に未練は無い。だが、やりたい事が無いと言えば嘘になる。
喜びや悲しみも、命の育みは此処にもちゃんと存在しているのだから…。

――でも私は行く。

――見届けたい、世界があるから。

世界が流れる。そこだけが世界を隔てる壁に穴を作る。
世界はその穴の存在を受け止め、一つの世界を形造った。
目を閉じる。そしてこれから行く世界に…想いを馳せる。

――どんな世界が私を待っているのだろう?

――どんな詩を奏でてくれるのだろう?

――どんな人々の想いを、世界が優しく抱いているのだろう?

男の頭上に月の光を隠す雲がかかる。
雲のカーテンがそこにかかって暗闇が落ちる。閉じた瞳からでもそれが感じ取れる。
身体が徐々に消えていく感覚を感じる。

「………」

頬に笑みを浮かべる。

――楽しみだ。

雲が通り過ぎ、男が居た草原に光が再び降り注ぐ。
そこには草花を照らし、風がなびかせる草原だけが広がっていた――


………
……………


目を開ける。
空は星々が輝き、月の光が降り注いでいる。だが、星は今まで見たことのない星座が瞬いていた。
周りは森の茂みが生い茂っている。先ほどまで居た草原ではない。
風が吹き、男の一張羅が舞い上がる。

その下からは全身黒い服に漆黒のサバイバルナイフ、口の大きい鞘当に刺さった鞘と剣が覗ける。
鋭角三角形に酷似した無骨な青緑色の鞘。剣の柄は、ガンブレードの様であった。

その柄に手を掛け、そして鞘から抜き取る。1m近い刀身が滑らかに抜き出てくる。
柄は鞘と同じ色であるが、刃は青白く滑らかな曲線を描いた長い三角形をしていた。

剣を上に掲げる。鏡のように綺麗な刀身が空に瞬く月の光を受け、月と同じ色に光る。
男は刀身を動かし、その淡く輝く光の反射を眺める。

「………」

鞘に戻す。そして前を見据える。
周りには森が広がっている。今居る場所だけが小さく拓けており、月と星々の光が降り注いでいた。
世界は不思議な力で満ちていた。優しい植物の力で満ちていた。

男は歩き出した。ただ前に進む。


――さて、世界は私をどう受け止めてくれるだろうか?





Now, Starting World Of ――

Before Act -Aselia The Etenal-




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