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―――――荒野の広がる大地。

―――――ここに荒廃した街が存在する。

人に手によって謳歌した象徴であったモノ。人の手によって栄えた文化のカタチであったモノ。
人口の増加による大地の侵攻のし合い。エネルギー資源の枯欠による豊かさの奪い合い。
それらによって消え去っていく存在は少なくない。この街もその内の存在のひとつである。

もはやこの街自体が人のその存在をも拒むように朽ち果てている。
そんなこの朽ち果てた街の道の真ん中に佇んでいた。


Silver Fox   - Invisivle War -



「・・・・・・」

それは人、―――人のカタチをしたモノがひとつあった。
それは茶色いコート着ており、髪は白い。サングラスをしたその隙間から覗く宝石を思わせる美しい紅い色をしていた。
その瞳は夜が明け、この荒廃した大地を再び光の世界へと誘う日の光によって白み始めた空を眺めていた。

「・・・・・・」

それは何を語るでもなく、光の祝福をただただ眺めていた。
そしてそれに近づく拒まれしモノがいた。

「随分と気取ったことしてるじゃないか? ええ? “シルバーフォックス”さんよぉ?」

「全くですね。あなたのような< Fox (フォックス) >のトップがそのようなことをしていると絵になりますね」

そのひとりは黒い長髪をオールバックにし、黒いライダースーツで身を包んだ男で腰には2刀と複数のナイフをぶら下げていた。
もうひとりは金髪のセミロングで密着型の戦闘スーツに半袖ジャケットを羽織った女性で装備の類は見当たらない。

男は今だ空を見上げている人物を蛇のように細い目を見下した目で睨み、あざ笑い、女は整った顔立ちの強い意志を秘めた瞳で人物を見据える。

「・・・・・・」

「おいおいシカトかよ。随分と余裕ぶっこいてんじゃねぇか。偽の依頼ではめられたっていうのによぉ。
まぁ、ここに来た時点でテメェはもうこの場所同然に朽ちるんだ。最後の余興は存分に楽しめたろぉ? ええっ?」

「あなたの存在は世界を混乱に導く。混迷の中にあるこの地球であなたはあってはならない存在です。
大人しく私たちに消されてください」

男は愉快そうにケケケッを笑い、女はどこからともなくブレードとマシンガンを手にし、男を睨みつける。

今まで空を眺めていた人物がサングラス越しに二人を見据え、静かに語る。

「・・・その愚かな役目を受けた貴様らの末路を知ってのことか?」

その人物の言葉を聞いた男はハッと笑って一蹴し、女は両手に持った武器を強く握り締め、さらに睨みつけた。

「おうおう言ってくれるじゃないのよぉ〜、こわいねぇ〜。さすが『プロビデンス』と言われてるだけあるねぇ。」

「それはこちらの台詞です。あなたが動くことによる影響力は果てしない。
今回のことはあなたがメタン結晶の調停に首を突っ込みすぎなければこのようなことにならなかったでしょうに・・・。
まぁどちらにしろ、あなたは私に殺されるまでの寿命を自ら縮めたに過ぎませんけど。」

男は長い舌を出して笑い、女は銃口を突きつけてそう言った。



――――近年、世界でエネルギー問題で最大の焦点となっているは新資源の発見である。
今まで使われてきた石油資源は長年の大量消費によりあちこちの油田が枯渇し始めたのだ。
これにより石油の価値が上がり、貧富の差に拍車をかけることになった。
特に中東からアフリカ中部などは特に激しく、油田を巡っての争いが激化した。

この事態をWSAG〈 World States allied Grups (世界連合) 〉のIEPS < Internatinal Enager Protect Ocnition (国際エネルギー保安機構)>の介入により、ある程度は沈静化した。
しかし、この油田問題が解決できたわけではなく時間稼ぎでしかなかった。
月において多国籍企業゛ミーティア゛が核融合燃料(ヘリウム3)を採掘して地球のエネルギー問題に貢献し始めてはいる。
しかし、それはまだ限られたものでしかなく、即時解決には至らないまま事件は起きた。

中東西部の山岳地帯から膨大なメタンの結晶が確認された。
この結晶は月の新資源運用の足がかりとなりうるモノで、エネルギー問題の早期解決の糸口となると歓喜した。
しかし、中東諸国はこれを軍事占拠し、WSAGに対して様々な要求を出し、主にエネルギー資源関係の要求にIEPSは頭を悩ました。
力を持ってして排除しようにも中東諸国の連携と軍事力は並大抵のものではなく、簡単にはいかなかったためだ。
混迷の中、ついにFOXIL〈 Force of Offseting X International Libity 〉との共同戦線を決断した。

FOXILとは地球上におけるラプター『 Fox(フォックス)=傭兵 』をまとめる企業団体である。
Foxはクライアントからの依頼をFOXILを介することで、円滑に依頼を受け、遂行することができるのである。
この事件はFOXILにとっても関知できないものであったため共闘に踏み切きると、Foxの力は大きく、あっという間に追い詰めることができた。

今作戦で大きく貢献したFoxの中でも上位の実力者たち『 Fox Hound (フォックス・ハウンド)』が大きく貢献した。
そして、Foxの中においてトップに君臨するのが紅い瞳に白い髪をした男“Silver Fox (シルバーフォックス)”の『クエス』である。
また、彼の戦いは双方の兵士達に畏怖・驚嘆させるものがあり、『悪夢を誘う者』“ナイトメアレ”、『天帝』“プロビデンス”と囁かれることとなった。

Foxたちの活躍により中東諸国の軍事力は減衰し、調停を有利にするまでに至ったが、事件が起きた。
山岳地帯の密偵を行っていたあるFoxがメタン結晶の核弾頭を発見・無力化したのだ。
中東諸国は切り札にこれを使い、有利な調停に持ち込もうとしていたようであったが、もはや切り札を失った中東諸国は無条件降服に近い形で終結。
この活躍をみせたのが“シルバーフォックス”たる『クエス』であった。

その後、山岳地帯はIEPSと多国籍企業『ミーティア』が共同で管轄する方針で進み、中東諸国への対応も焦点を当てて解決の方向に向かっている。



「・・・しかし、確かにあなたを倒すには私たちではだけでは到底歯が立たないことは必然――なのでクライアントが助っ人を用意してくれました」

「ケケケケケッ! テメェをぶった倒せればそれでいいんだ。テメェには莫大は報奨金があちこちと裏からかかってるしなぁ」

男はそう言うと後ろをチラリと覗いた。

そこには高さ3mほどの四足脚の機械人形が佇み、それは全身を黒で基調されており、騎士然としている。
右腕は所々空調されたような砲身をし、左腕には盾をつけて50cmの長さの爪を備え、背中にはなにやら長方形のボックスを両肩に背負っている。

「・・・『ミーティア』が地球連邦宇宙軍と連携し、長年開発に着手していた脳移植による完全なる戦闘兵器『機士(マシンナイト)』か」

「ご明察、さすが地球最強のFoxだけあるわね。今回はデータ収集のためにこれもあなたにぶつけてみようという魂胆でしょうけどね。」

「こちとらぁテメェをやりやすくなるからどうでもいい事だけどなぁ〜」

「そう。・・・あなたを倒せるのならなんでも利用させてもらうわ・・・!」

その言葉を皮切りに男は両刀を抜いて構え、女からは陽炎のようなものが立ち昇り始める。
それに呼応するように機士の仮面の下から一つ目の赤い瞳が光り、右腕の砲身をこちらに向けた。

いまだに突っ立ったままの男――クエスは臆面も無く語る。

「・・・名も聞いた事のない『狼』に俺は殺れん」

「ハッ! なら今しっかりその耳の穴に叩き込んどけよ! どうせ死んじまうけどな!俺様は“蛇蜘蛛”のキールだぁぁ!!」

「私は“無限奏者”のアリス! その命をいただくわ!!」

そう宣言すると同時にキールとアリスはその場から消え、クエスに迫る。
機士は右腕を掲げたままでその砲身は紫電に帯び始めた。

キールは刀の連撃を繰り出し、アリスはマシンガンで退路を塞ぎつつ斬撃を出す。
クエスはマシンガンの嵐の中へ身を投じ、両者の斬撃をかわした。
コートに受ける銃弾はことごとく弾かれ、ふたりの初撃はアッサリかわされた。

「さすがね! 防弾仕様のコートでアッサリと・・・でもまだ!!」

「ヒャッヒャッ! まだまだだぜぇ!!」

ふたりはクエスから左右に距離をとり、ふたりの体によって隠れていた機士が目視できた時には――

「――Fire」

紫電に帯びていた右砲身から光の矢が放たれる。

それはクエスに迫っていった。


……………


――――粉塵と静寂が辺りを支配する。
光の矢が通った場所はことごとく粉砕され、廃墟を更地にした。

機士の右腕砲身は溶解しており、それをパージして右肩のボックスからガトリングをせり出して装着し、数回砲身を回転させ動作確認をする。

機士が装着していたものは『火薬複合式電磁加速砲』。従来の火薬による加速に電磁加速を加えたレールガン方式の砲。
火薬を推進剤として弾を発射し、電磁場による追加速によって弾を光の速さにまで加速させ、威力・射程ともに圧倒的にしたモノ。
その代償に発熱量も圧倒的で今の機士のように一発の発射で砲身が溶解してしまうのである。

「フュ〜〜♪ たまげたぜ。 こんな威力があったとはなぁ〜」

「・・・ホント、こんなもの作って使うなんてバカげてるものを感じるわ・・・」

キールとアリスは体中を砂埃だらけにして機士の傍に佇んでいた。

「・・・事前の資料と話じゃここまでとはなかったわよ。これじゃ欠片ひとつ残らないかも・・・。後で洗濯代の追加報酬ももらわないと・・・」

「確かに。俺様の自慢の髪の毛もボサボサだしなぁ。
・・・さぁて、あのヤロォはどうなったんだかな・・・ん〜〜砂埃が舞っててわかりゃぁしねぇ」

いまだに舞い続ける砂塵でクエスの安否が確認できない。
機士はガトリングの動作確認を終え、その四つの脚で最後にクエスが立っていた場所に向かう。

「さぁ〜てと。どうでるやら」

「相手はあの“シルバーフォックス”のクエス。油断は禁物よ」

「わぁ〜てるっての」

1歩1歩慎重に歩き、クエスのいた場所へと辿り着く。
そこにはクエスが着ていた茶色のコートの切れ端が数斤ほど散乱していた。

「・・・・・・やった・・・の?」

「・・・わっかんねぇーな・・・」

機士はクエスが佇んでいた場所―――小さなクレーターを覗き込み、キールとアリスは砂埃の舞う視界を見回す。

―――と。

――ザン。

「・・・まだまだだな」

「「!!?」」

声の方を向くとそこには黒いレーザースーツを包んだクエスが刀のようなものを片手に『無傷』で機士の傍らに佇んでいた。
機士を見ると左腕が肩関節から根こそぎ無くなり、地面に転がっているではないか。

機士は少し慄きつつ、右腕のガトリングをクエスに向け掃射した。
このガトリング砲は秒間10発放てるもので、弾も近視弾を用いて対象を表面から削り取るモノである。

クエスは砂埃のカーテンの中へと身を踊らせ、掃射をかわす。

「てめぇ!! どうやってあれをかわしやがった!!」

「あのタイミングで無傷で回避するなんてあり得ないわ!!」

ふたりは背中合わせに砂塵のカーテンに各々の武器を突きつける。

「・・・あのレールガンでは発射の際に照準に誤差がでる。ましてや一撃で砲身が溶解してしまう物などでは尚更だ。
貴様らが絶対のタイミングでも俺にとっての絶対ではない。むしろあれをどうもできない者など゛Fox Hound゛にはいまい。」

あのタイミングで避けたというのか!?ましてやあれの弾道すら見切れるものなのか?あり得ない、とふたりはそうとしか思えなかった。
だが今いる相手はそれを成し得、今も自分たちと対峙しているのならばそれは紛れも無い事実であるのだ。

「でもどうやってここで着弾を・・・?! ――! そうか!『コート』で・・・!」

「ああぁん?! ヤロォが着てたコートに着弾させつつ離脱しやがったとでもいうのか!?」

「けどそれなら『無傷』な彼自身と『粉砕』したコート説明がつく。・・・何て奴!!」

クエスが砂塵の中から喋ってる間も機士とアリスは撃ち続けていた。しかし一向に命中する気配が、手応えが感じられないでいる。

「だとしたら何でヤロォはそんな芸当ができんのに一気にきやがらねぇ?!」

「それは・・・・・・まさか? 私たちを・・・試してる・・・の?」

『その程度か・・・・・・前座にもならない」

「「!!!」」

ようやく晴れた砂塵のカーテンの向こう―――私たちの10mほど離れた所にいた。

「てめぇ! おちょくりやがってぇ!!」

クエスを視認すると同時にキールと機士は突撃していった。

「ちょ!? ・・・っ! ちぃっ!!」

それの後をアリスが追う。

機士の掃射にキールの斬撃、そしてアリスの掃射と斬撃の援護をもってクエスに襲いかかる。
しかし、それらはことごとくかわされ傷一つ負わせられないでいる。

「くそがぁ!! んならこれはどうだぁ!!」

「ここまでとは・・・!! やるしかない・・・!」

キールは刀身で腰にあるいくつものナイフをまるで張り付いているように乗せ、斬撃を繰り出す。

「ハァァ! 喰らえやぁ!!」

斬撃をかわされると同時にいくつかのナイフが刀身から離れ、クエスへと襲い掛かる。
斬撃と同時に刀身に張り付いているナイフを繰り出し、連撃によって息もつかない攻撃の嵐を相手に浴びせる。

「喰らいなさい!!」

跳躍したアリスは自分の周囲に小型のナイフを出現させ、ブレードを一振りさせるとサブマシンガンの弾とともに四方へと飛散した。
するとナイフと弾はジグザグの軌道でクエスへと殺到していった。

機士は左肩のボックスを立ち上げ、そこから正面・上方・左右へと複数の小型ミサイルが一旦射出され、それからクエスへと向かっていく。
さらにミサイルは分散して1発の弾から2つの弾に、そして2つが6つの弾にになってミサイルのシャワーがクエスを襲う。

そしてクエスは迫りくるナイフの乱舞・乱軌道の雨・ミサイルのシャワーを見据えて空けた右手を腰にやり、そして―――

「――ぬるい」


それはなんであったのだろうか。
まずは機士の放ったミサイルが爆散していって、次にキースのナイフとアリスの銃弾が着弾前に何かに弾かれていき、乱軌道のナイフがクエスの脇をすり抜け、次々と地面に刺さっていった。

今、目の前の現実を認識できないでいた。今、目の前にいる者には『死』以外に行き着く場所のない攻撃の雨を受けていたはずだ。
しかし今、目の前には。そこには。『生きている』、『いまだ無傷な』クエスがいるではないか!

何故?どうして?どうやって?・・・それらの疑問が彼らを支配している。

「・・・ミサイルを銃弾で撃ち落とし、ブレードで銃弾を落とし、ナイフをいなしただけのこと。不思議がるほどのことでもない」

その右手にはハンドガン(おそらくフルオート)が握られ、銃口からは白い煙が立ち昇っていた。
その左手には刀身が高振動している刀『高周波ブレード』があった。

―――落とした? あの数のミサイルと弾を?

―――いなした?あの四方向からの乱軌道を?

―――それを簡単にやってのけたのか? ―――この『Fox』は!?


ドォン!


沈黙の中、再び動き出したのは機士であった。それはただただ相手に向かって乱掃射をしていた。
そんなことでは当たらないはずだが機士は撃ち続ける。

――それは脳に残っていた恐怖心からか。
――それは大きすぎる相手への畏怖からなのか。

1歩も動かないクエス――“ナイトメアレ”には撃ち尽くすまで当たらなかった。そして―――

「――哀れなる元『狼』の子よ、汝に幸のあらん事を切に願う―――」

そう言いつつ接近したクエスは高周波ブレードで前2足を膝付け根から斬り裂き、前へ倒れ始めた機士の赤い瞳へ銃口を―――


――パアァァァァァン――・・・・・・


「・・・・・さて、貴様らだが――」

傍らに前膝をついたような状態でうな垂れ、頭部からは赤い涙と黒煙が上がっている。
もはや残る2人でこの強大な相手にどう立ち向かえというのだ?
今、ふたりには目の前の光景が悪夢であり、畏怖し、敬える存在がいる―――。

そう―――、『悪夢を誘う者』『王足りえる存在』

――――『ナイトメアレ』『プロビデンス』、そして――


――――― FOXIL最強のFox 『シルバーフォックス』――――――



クエスは上を見上げ―――

「自らの命を塵と化すかどうか・・・その力を見せてみろ」

そう言ってクエスは両手の武器を腰へしまい、横へ数m動いた。

「・・・・・・あん?」

「・・・・・・え? いったい何の――」

どうにかクエスの発言の意図を測りかねた言葉を発っせた瞬間――


―――目の前が閃光で覆われる―――


「「なっ??!!」」

その光はクエスが立っていた周囲に次々と走った。
光が晴れるとそこには複数のクレーター郡が密集し、あの機士の亡骸が粉々に吹き飛んでいた。

「何?! 何がいったい・・・・・・?」

「砲撃かぁ?! どっから飛んできやがった!!?」

わけがわからずふたりは周囲を見回す。だが周りには朽ち果てた廃墟しかない。

「なんもいねぇ・・・」

「なにも感じないわ・・・」

「――東南方向4034m付近に5両の特殊戦車に大型車両が2つ、半径600m以内に24の小型の熱源体だ」

再びの静寂の中をクエスはなにげなく語る。

「はぁ? 4キロ先に戦車だぁ? んなもん見えねぇだろぉが。 しかも近くに熱源って――」

「・・・・・・どうもなにかが近くにいるのは確か見たいよ」

キールが疑問を愚痴ってるのを遮ってアリスは言った。

「あぁん? ・・・なにかってのはなんだよ?」

「これのことだ」

キールの疑問にクエスが仕舞っハンドガンを廃墟の隅へと数発放った。

爆発。

着弾点と思しき場所から赤い閃光が走り、人の形をした金属部品が辺りに飛び散った。

「・・・こりゃぁ・・・」

「――機士ね。・・・・・・じゃあ、この辺りいるっていう熱源体は―――」


―――ガシャン―――。


音の方へと向くとそこには4つ足を持った機士がいた。


―――ガシャン。ガシャン―――

―――ガシャンガシャンガシャンガシャン―――



廃墟の影からまたひとつの機士が――またひとつの機士と、いくつもの機士が前後左右から出てきた。

「おいおいおいおいよぉ〜。いったいどういった了見だい? 依頼主さんよぉ〜?んなこたぁ ひとっ言も教えてもらっちゃぁいねぇ〜ぞぉ〜?」

「この依頼は私達とあの機士だけでだったはず・・・・・・信用されてなかった?・・・まぁ、こんな相手では当然ね。
でも、・・・ならなぜ私達に依頼を・・・・・・相手はあのシルバーフォックス、クライアントは・・・―――!まさか! 生贄にされたっていうの?! 私達は!?」

「ああぁんん? 生贄だとぉ? どーいう意味だ!」

「この依頼はクライアントはあのメタン結晶を奪われた中東諸国の残存勢力。そしてそのときの切り札を潰した最強のFoxをここに呼び出してぶつけた無名の私達。
勝てないなら私達ごと消してしまおう。勝てたとしても事実を知る私達も消してしまおう――こんなところでしょうね!」

機士たちは各々異なる射撃武器を起動させ、銃弾の雨を三人に浴びせ掛ける。

「ちぃ!?」

「くっ!!」

なんとか物陰に隠れて各々に避けるアリスとキールだが、銃撃がやむ気配が一向にしない。

「くそがぁ! んならどうすりゃってんだよ!!」

「やるしかないでしょっ!!――!! くっ!?」

アリスに右腕ブレード、左指三爪に2足の機士がいつの間にか接近し攻撃してきた。

隠れていた金属の壁を切り裂きながらの斬撃をなんとか避ける。

「おい!平気か―――っておぉいぃ!!!」

キールはアリスに呼びかけの途中で隠れ場所から飛び退くとそこは火球に呑み込まれ爆発・炎上した。

「グレネードまであんのかよ! 大したもんだなぁっ!ったくよぉ!!」

「この銃撃の雨じゃ動けない。かといってもグレネードや近づいて来る機士もなんとかしなきゃいけない・・・!」

「ハッ! 万事休すってか!」

接近していた機士をマシンガンでなんとか牽制し、ふたりは新しい場所に移動は出来たものの状況は変わらないでいる。

今度は2体の機士が接近し、銃弾の雨はさらに激しくなりグレネードを構える複数の機士。

「・・・やっべ〜なぁ・・・」

「・・・・・・くそっ!」

もはや成す術がない。
待つのは己の「死」を待つ時間のみ。


――――(兄さん。ごめんね、仇・・・とれなかったよ・・・)

――――(あ〜〜あ。仕事で死ぬのに依頼主に殺られんのか・・・格好ワリィ〜)


「死」の時間が零に迫った瞬間。


―――ザザン―――

―――ドゴォォン!!―――



・・・・・・―― 一時の静寂。

「―――あん?」

「――え? 生きてる・・・??」

待てど訪れない「死」の感覚に二人は機士達がいた方をそっと覗き込む。

そこには黒いレーザースーツに身を包んだ白髪のサングラスの男、クエスが背中越しに立っている。
その手には彼の高周波ブレードとフルオートハンドガンが握られていた。

先程まで攻撃してきていた機士達は地に伏していた。
近くの奴は四肢を切断されたり両断され、離れていた奴は肩や腕が暴発したような、首の付け根や目の部分から黒い涙を流していた。

「こいつぁ・・・・・・」

「・・・・・・助けられた、の?」

三人の周囲を残っている機士達は包囲を縮める。

「アリス・ノーヴァ。貴様は『ケビン』の意志を無駄にするつもりか」

「!! なんでその名を?!」

振り返りもせず発っせられたクエスの言葉にアリスは驚愕した。
そしてクエスはサングラスを胸ポケットに仕舞い、その紅い瞳をアリスに向け――

「ケビン・ノーヴァ。奴が己の命をもって守り抜いたその命、見せてみろ」

クエスは顎で機士達を示す。それを無言でアリスは機士の軍勢を見据え、再びクエスの紅い瞳を見つめる。

「―――そう、いいわ。…やってやろうじゃないの。」

「はぁ?! てめぇ正気か!?」

突然のアリスの宣言にキールは驚いた。

「ええ。それにこのままやられっぱなしってのも良いものじゃないしね。」

アリスはそう言いつつカートリッジを交換し、ブレードの調子を確認する。

「キール。あなた、このままこいつらにやられるつもり?
私達をコケにして消そうとしている奴等にほくそ笑ましたままで」

「・・・まぁそりゃ―――、ハッ! 確かに。このまま終わるってのは生けすかねぇなぁ〜」

渋っていたキールだが何かに思い至ったのか、ニヤリと笑みを浮かべ、そして手にある得物の刀を舐め流す。

「でしょ?」

微かに微笑むアリス。

「この俺様がこんなみみっちく終わるなんたぁありえねぇ。
タ〜ップリ奴等に教え込んでやらなきゃなぁ〜。俺様に楯突いたらどうなるかぁ」

「そう。Foxを敵に回した恐ろしさシッカリと教えなければね」

今までの縮こまっていた態度はどこへやら、ふたりは不敵に笑い合う。

「当然だ。『狼』を、それも『Fox hound』に牙を剥いた愚かさを教えてやる」

クエスの宣言とともに機士達は一斉に襲い掛かってきた。アリスとキールはお互い反対方向へ飛び出していく。

キールの斬撃が踊り、アリスの銃弾が舞う。

「はあぁぁぁ!! ヌルイ! ヌルすぎだぁ!!」

「あなたたち程度なんて、『プロビデンス』と謳われる彼とは次元が違うのよ!」

先ほどまで逃げるしか出来なかった攻撃の嵐をふたりは避け進む。
キールの斬撃は接近してきた機士を斬り裂き、刀身のナイフが他の機士の眼や関節へと吸い込まれてゆく。

アリスのあらぬ方向へ飛んでいた銃弾が次々と周りの機士達へと突き刺さる。
そして身動きが取れないでいる機士にアリスの斬撃によって両断されていった。

その舞うような攻撃に機士達はその数を次第に減らしていった。



――――数キロ離れた地点。

「ホーネット16の反応消失。5・12の反応も途絶えました!」

「無名のFox相手だけでこの程度とは・・・。まぁいい。おい、『あれ』の発射準備はどこまで進んでる」

「ハッ! 現在、最終発射態勢の最終チェックがまもなく完了いたします。後1分ほどで起動可能になります。」

「そうか。奴らの最後も後1分か。精々無駄に足掻いているがいい。」

そこには電磁加速砲戦車3両に広角投擲砲戦車2両。
そして長砲身を背負った大型突撃車両にその後ろに大型のコンテナのようなコンデンサを積んだ車両が、前の車両へと太いケーブルをいくつも伸ばして繋がっている。
そのコンデンサ搭載の車両内でモニターに向かっている複数の兵と中央の椅子に腰を掛けている男が一人。

「このメタン結晶を用いた砲撃で朽ちた町ともども消滅するがいい・・・我々の繁栄の狼煙を踏みにじったあの忌々しい『狼』共々な!!」

その言葉と同時にレーダー上に点とアラームが鳴った。

「――! 接近する熱源を確認! 砲撃予定方面からです。 距離2840・・・2610・・2440?! 速い!!」

次第に縮まっていく距離のスピードに驚愕の声を上げる。

「・・なに? 大きさは、モニターに映像を流せ」

「ハイッ! 大きさは人型クラス、正面・上空からの映像、出ます」

すぐに目の前のモニターにレーダー画面と2つ映像には光点1つと距離、走る黒い人が映し出される。
その映像は正面からと上空からの2つ。それは荒野を疾走していた。それは黒で体を包み、紅い瞳をして白い髪をなびかせていた。
それはまるで白い狼のごとく―――。

「シルバーフォックスだと?! 馬鹿な!! あの距離からここを突き止めただと!?」

数km離れたこの場所の存在に感づかれたことに驚愕する男。

「なおも目標接近中! 距離1600!! 発射態勢が取れる前に接触されてしまいます!!」

「砲撃車両は目標に向けて全弾攻撃! 絶対近づけさせるな!! 整備はもういい! 発射態勢をとらせろ!」

あまりの接近の速さに砲撃と起動準備を全段階を跳ばして発射態勢の指示を出す。
各々の戦車はその砲身の狙いに目標を定め、補助兵装も全て展開させた。

「てーーー!!!」

5つの戦車からの一斉砲撃。機関砲や小型ロケット等々が一斉に火を噴いた。それは各々の速さでクエスの迫る。
だがその甲斐も無く、それは次々と目標の横を掠めて大地に着弾していった。
クエスは次々来る砲撃の嵐を軽く横にずれることかわし、接近していく。

「目標いまだ健在!! 距離700・・・500!」

一斉砲撃の中を縫うように突破していく目標に驚愕する男。

「馬鹿な・・・。――ええい! 『シティハンター』を発射させろ!! 今すぐだ!!」

「ハイっ!! こちら統合指揮車両。いますぐ『シティハンター』の砲撃を開始せ―――」


――――― 閃光。


それはあまりに眩く、白い光の固まりが地上に広がった。

小さいが力強さのある光が消えた場所には溶解した戦車が3両佇み、光の中心部の車両2両の姿の代わりに綺麗なクレーターがあった。
そこから少し離れた場所に刀身が溶解したブレードを振り抜いた格好で、今銃弾放った証拠の白い煙が立ち昇らせている銃口のハンドガンを握るクエスがいた。
高周波ブレードを超超振動を――それも刀身が溶解するほどの熱を発するまでの振動――させた刀身でのカマイタチに、銃弾を乗せたカマイタチを加速推進剤として銃弾を超加速させ、大型コンデンサに着弾・爆発させたのだ。

「・・・・・・」

溶解した刀身をパージし柄を腰に仕舞い込む。
そして光の爆発を免れ、いまだに健在の戦車―電磁加速砲戦車―にクエスは向かう。
扉を入り口を開けると、そこには至近距離で高威力の爆風を浴びた人であったモノがあった。

クエスはいまだ生きている機器を操作し、再び外へ出る。
その紅い瞳は空を指し、先ほどまで鳴り響いていた轟音の廃墟の街へと向ける。


――――――

――――

――


―― ザン――。

―― パァァン――。



斬撃音と銃声にふたりの機士が地に伏した。
それらの影からふたりの人影が現れる。

「これで・・・最後ね」

「ああ。奴の始めの1つに4つで5つ。
残りの19の内、俺様が10で―――」

「私が9つで全部合わせて24。彼の言った通りなら・・・だけど」

クエスの言っていた機士の数と倒した機士の数を確かめ、
近くに他の気配がないことを確かめる。

「しっかし。俺様もやりゃぁできんだなぁ〜〜・・・っと」

「ええ。あれだけのモノをやってのけたはホンの前の私じゃ出来なかったのに・・・」

キールは仕留め損ねて動きを見せた先ほど斬り伏せた機士にトドメを刺して両刀を鞘に戻す。

「たしかによぉ〜・・・――。んん〜〜・・・やっぱあのヤロォかァ??」


確かに―――。最初は機士達の攻撃に手も足も出ず、逃げ回るしかできなかった。
だが、彼―クエス―の一時の介入から明らかに変わった。
あれほどまで逃げ惑ったいた攻撃の嵐を掻い潜り、しかも反撃まで行った。
そして今、私達ふたりだけで残りの19もの機士達を倒した―――。
付け加えるなら、機士達からはクエスから感じた“あの”の圧倒的な存在感を感じられなかった。

「彼の存在はここまでの影響力があったとは・・・・・・彼の『悪夢』に比べたら子供の悪戯程度のモノ。
―――ナイトメアレ。“悪夢を誘う者”」

「ヤロォのあの圧倒的なモンと比べりゃぁ、そよ風同然。―――“プロビデンス”」

((―――そして・・・))

「「最強のFox “シルバーフォックス”―――クエス」」

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

沈黙するふたり。その存在の大きさに、沈黙より他無かった。

「・・・・・・ハァ。――とりあえず生きてるから良しとしましょう」

「んぁ――まぁなぁ〜〜・・・。そうしとっかぁ〜。そういやぁ、あの閃光はなんだったんだぁ?」

考えても仕様が無いに考えが至り、先ほどの閃光に話題を変える。

「確かあれは東南方向――彼の言っていたモノじゃないかしら・・・。その彼も居ないし」

明るみだした荒野に突如現れた小さな太陽。その今は無い小さな太陽が昇った方向を見据える。

今も大地を照らし出す光の量が増え始めていた。そして、こっちに歩いてくる人影―――。

「どうやらまだ生きれるだけのモノは持ち合わせているようだな・・・」

「ええ、お陰様でね。どうやらあなたのお陰の様みたいだけど」

「ハッ! こんなんでくたばるわきゃねーだろーがぁ」

その人影――クエス――の言葉に各々の返答を口にした。

クエスは上の空を見上げる。それにつられふたりも上を見上げる。そこには夕暮れ時の様な赤みに染まる空に浮かぶ一つの点。
そしてそれは横から流れる流れ星のような光の線によって撃ち抜かれ、爆発。数瞬の後、爆音が響いた。

眺めていたふたりはそれを見据え、アリスは視線をクエスに向ける。

「――それよりも何故あなたは兄さんの名を――『ケビン・ノーヴァ』という名を知ってるの・・・?
『ノーヴァ』という名は私達兄弟の中でしか使われていなかったのに・・・・・・」

「――アリス=E=イスタル。生来から持ち得た力により、友人・両親ともども見捨てられ〔A−041〕とし、『ミーティア』のとある研究所の実験材料とされる。そこで〔K−023〕――ケビンと出会う。
ケビンと出会い、ふたりして研究所から脱走。その後、追っ手から隠れながら静かな暮らしをしていた」





―――そう。あの時は幸せだった。

この生まれながら持っていた不思議な力。この力を皆怖がって売られ、体を弄繰り回される日々だった。
そんな絶望したいた中、あの人と出会った―――ケビンと。

兄と出会ってからは世界が変わった。
笑わなかった―――笑えなかった私は笑えるようになり、嫌で、絶望していた実験も耐えられるようになった。

そんな中、兄は言った。

―――行こう、外へ。世界を見てみよう。――と。

私達は逃げた。あの忌々しい場所から。
何度も追っ手がやってきたけどその度に何とかやり過ごし、そんな中の静かな一時を私は忘れない。

私は彼を「おにぃちゃん」と呼び、その生活に喜びを見出していた。私達はお互いの名に『ノーヴァ』を付け合い、ひっそりと暮らした。
これからの新たな生活の安らぎを示すかのように。しかし、それは長く続かなかった―――。

そう。あの日が訪れたために―――

その日、私は家の近くの木の下でお昼寝をしていた。
その時の住まいは町から少し離れた森の中にある小さな小屋に住んでいて、ちょうど家事・洗濯が終った一時であった。

兄は町で料理屋の手伝いに出ていた。――兄は生活のために働いて、私は家で家事を――という生活を送っていた。
その日も変わらない日々であるはずだった―――そうなるはずだった。
しかし、それは兄との最後の日となった。

―――轟音。

昼寝をしていた私は飛び起きた。いきなりのことで私は驚いた。
遠くの森の中から立ち上る黒煙。そこからまた新たな轟音と黒煙が上がった。

なにかが戦っている―――。でも何が?

そっちは町の方――。


ワタシは走った。

――もしかして・・・
――でもそんな・・・
――追っ手がまた・・・?

そんな考えが頭の中を駆け巡る中、森の視界が急に晴れた。
そこは木々はなぎ倒され、燃え上がっていた。何人もの子供や黒服の男たちが地に伏していた。
子供たちは首輪をしていて各々に番号が振り分けられていた。

依然、私と兄がいた超能力研究所の――。

そしてそんな中、立っている一人の白髪のサングラスをした男が。
そいつはサングラスを軽くずらし、宝石のような紅い瞳をこちらに向ける。
その手には剣が、赤い雫を垂らしていた。その傍らに見慣れていた人が血塗れで倒れていた。

―――兄がそこにいた。


それからの記憶は私にはなかった。気が付いたらワタシは知らない部屋にいた。

そこは企業によって実験台にされた人たちを保護しているという団体の施設だとそこの職員の人に聞かされた。
そして起きた私に食事を摂らせると職員の人はとある一室へと連れられた。

そこに兄であったモノが安置されていた。

私は思い出した。あの時。あの場所。あの血塗れに兄。そして――、

―――
白髪紅眼の男の顔を―――。

私は泣いた。どれぐらい泣いたかは覚えていない。
兄と共有した時間。兄との暮らし。それらを思い出すと私は次から次へと涙が溢れ出してきた。

それから何日か経ったある日。
意気消沈し、瞳に光を無くしていた私にある人物から届け物が届けられた。
それはペンダントと手紙。そのサファイアがはめ込まれたペンダントの裏には『アリス・ノーヴァ』と綴られ、
手紙にはこう書かれていた―――


「――――――汝の道標のはじまりたらんことを―――――― 白き狼より」


私は誓った。奴を――兄を殺したあの白髪紅眼の男をこの手で殺すと・・・!

それからの私は情報を集め、長い時間をかけてようやく奴がクエスという名のFoxであることを突き止た。
私もFoxとなり、自身を鍛え、兄を殺したあの男を殺せるだけの力を身に付けていった。
私自身の超能力は操作系全般で、自らの肉体を操作することで高い次元の身体能力を発揮し、自分の武器を操作することで銃弾を曲げたり、斬撃の補助をさせたりできるため、戦場に赴いても生き残って来れた。

そしてついに兄を殺した男―クエス―と戦える日がやって来た―――





「・・・あなたは私の兄を殺した。私はあなたを殺すこと生きる糧として今までを生きてきた。
そんな私をあなたは知っていたというの? そうと知りつつあなたは何を考えていたの?」

胸元から覗いたサファイアのペンダントが光輝いた。
クエスはそれを見つめ、語る。

「――ペンダントはケビン・ノーヴァからの代物。あの時点をもって〔A−041〕、〔K−023〕ともに死亡。〔K−023〕は〔A−041〕を庇って死亡。
〔A−041〕は〔K−023〕の死亡で暴走をし、あえなく自滅。周辺域を焼け野原にしてその姿は消失した。・・・あれはそれで終った事象だ」

「・・・兄さんが? あなたにこれを託して私に・・・?」

胸元にあるペンダントを握り、サファイアの輝きをアリスは見つめる。そして思い出す。

あの時の空白の記憶を―――




私は白髪の男に飛び掛った。
兄の惨状を目の当りにして超能力の暴走し、それにより小さい体ながら凶暴な身体能力を発揮していた。

男はそれをかわした。が、その頬から一筋の血が垂れる。獣の様に四つん這いになり、唸り声上げ再び襲い掛かる。
今度は連撃に周囲の焼けた枝を浮かばせ、男へと飛ばしていく。

―――血まみれた兄。
――
―血のついた剣を持って立っていた男。
――こいつがおにいちゃんを!

―――おにいちゃんをころした!!

まだ幼い体と力でありながら絶え間ない攻撃を男へと仕掛ける。
男はただただ避けるだけで何の反撃もしてこない。

もはや少女の体も力も限界のとき、男を木々の窪みに追い詰め、最後の力を振り絞って集約・凝縮した枝の刃を男の胸に突き刺す。

――トス。

そんな音が聞こえた気がした。
瞑っていた目を開くと目の前には
血塗れの兄が。
その
兄の胸には枝の刃が突き刺さっているではないか。

あまりの出来事に立ち尽くす私。微笑みながら倒れ伏す兄。
私は自ら刺した兄を定まらない瞳で見つめ膝をつく。

―――生きてた? おにぃちゃんが?
―――庇った? おにいちゃんをころしたおとこを?
―――刺した? 生きてたおにいちゃんを?
―――・・・ころしたの?・・・・・・
『わたし』が?

―――・・・!


突然の事象への認識・理解。そして己の犯したことへの恐ろしさ。
そんな私の頬を兄は優しい眼差しで私を見つめ――

―――自分を責めないで、アリス。
―――アリス、君は優しい子。
―――だから自分を見捨てないで。
―――アリス、君はもう自由なんだから。
―――アリス、もう隠れることはないんだよ。
―――アリス、僕は疲れた。もう休むよ、ごめんね。
―――アリス、君は強い子。何にでもなれる。
―――アリス、僕がいなくなってもアリスはアリスでいてほしい。

血を口から吐きながらそう言ってくれた。
そういって血まみれな手で優しく撫でてくれた。

―――白き狼。どうか、どうかこの子の足ががりになってくれないか?
―――どうかこの子を見守ってやって欲しい。

男にそう言った。その瞳には確固たる意思が秘められていた。

男は―――

―――・・・・・・踏み台は用意してやろう。だがそれで飛ぶかどうかはそいつ次第だ。

その言葉は兄は微笑み、懐から何かの石を取り出し男に差し出す。

―――これをどうぞ。依頼としての報酬です。
―――ホントは妹へのプレゼントにと思ってたのですが・・・
―――もう僕には作って贈ってやることができません。
―――どうか妹を、『アリス・ノーヴァ』の事をお願いします。

男は差し出された石を受け取ってそれを眺め、いいだろうと言った。
兄はそれに残り幾ばくもない力で小さく頷いた。
そして兄は薄く微笑みつつ、弱々しく私のストーレートの長い金髪を撫で、

―――アリス。・・・・・・幸せになってくれ・・・――。

そう言って、

兄はその瞳をゆっくり閉じ、

撫でていた手を焼けた大地へと―――




「・・・・・・・・・・・・兄さん・・・・・・!」

アリスはその胸元のペンダントを両手で握り締めて顔を伏せた。
隠れた顔からは透明な雫が落ちていく。

「あ〜〜〜〜・・・・・・。話がぜんっぜん見えねぇんだがぁ〜〜」

置いてけぼりにされたキールは何とか間を見て言った。

「己の過去への帰還による真実の邂逅だ。気にする必要は無い」

「へぇ〜〜い。そうですかぁいっと」

結局のけ者扱いに拗ねるキール。

「あーあァ。結局死ぬ以外の道が無かった依頼で生き残って報酬はパァ。
俺様の自慢のヘアスタイルと服がオジャンだ。散々だぜぇ」

自らの砂と塵で汚れた髪と服を眺めながら愚痴るキール。

「なぁ、クエスの旦那ァ〜。ちぃ〜〜とばかし金貸してくんねぇ〜かぁ?俺様、今大赤字なんでよぉ〜〜」

「俺の関知する事ではない」

一蹴されるキース。
肩をガックリ落としてうな垂れる。
そして、歩き出すクエス。

「おいおい。行っちまうんかよぉ?」

「・・・もはやこの場にいる意味は無い。貴様らとやり合う道理もない」

「まぁ。アンタと今やり合うってのも、こっちとしてもありがたくねーことだしなぁ」

キールは両手を上げて敵意の無いことをアピールする。
興味もなく眺めていたクエスは再び歩き出す。

「・・・・・・待って。あなたに言わなければいけないことが―――」

アリスの振り絞った声に足を止め、振り返らずにクエスは言った。

「――ケビン・ノーヴァの依頼を受け、それを完遂した。それだけのことだ」

そう言って胸元のサングラスをかけ、太陽が顔を出し始めた空を見る。
その日の暁から白み出した光を受け、柔らかに吹いてきた風に彼の白い髪は銀色に輝きなびいていた。
そして日の光の加護を受けているかの様に立ち去っていく。


―――その風貌はまさしく“ Silver Fox (シルバーフォックス)”―――



……………

「あ〜〜あ。行っちまったぁ」

クエスの去って行った方を眺めつつ頭を掻くキール。

「・・・・・・・・・」

「ああぁーー・・・。・・・しゃぁ〜ねぇ!
いくら考えたってどうにもなんねぇやぁ。俺も行くとするかぁ」

クエスとは別の方角を眺めて言う。

「・・・・・・・・・」

「まずは自慢の髪と体をあらってぇ、んでもって新しい服買うかァ。」

自分の汚れた体を眺めて、今後のことを見据えるキール。

「・・・・・・・・・」

「そしたらぁ。とりあえず“Fox hound”辺りを目指すとすんかぁ〜〜」

「―――…え?」

クエスが立ち去った方を眺め沈黙していたアリスは、独白していたキールの言葉にやっと反応した。

「だからめざすんだよぉ、上をよぉ。あのヤロォにやられっぱなしのままにしとけるかぁっての!」

「・・・・・・」

「んで、まずは『 Fox hound 』の奴らをぶっ潰して上へ上る。そしてあのヤロォをぶっ潰してやんのよぉ!」

拳を突き出して力強く宣言するキール。そして――

「・・・――プッ!ククククッ!アハハハハハハッ!!」

キールの宣言にアリスは吹き出し、爆笑し始めた。
それはもう、ツボに入ったかのごとく。

「んなッ! 爆笑すんじゃねぇ! 俺様はマジだぞぉ!?」

「アッハハハァ・・・ハァーー。ゴ、御免なさい。ちょっとつい・・・ねっ――プッ!」

なんとか収まりかけた笑いの中、謝罪するが全くの効果を見せない事この上ない。

「ケッ!」

アリスの態度に明後日の方を向いて拗ねるキール。

「ホント御免なさい。・・・でも『上を目指す』か。・・・なかなか良いわね」

「だろぉ?」

機嫌を直すキール。意外に単純な性格なようである。

「ええ。・・・そうね。私も何か目指そうかなっ。いままでの人生の中の青春、不意にしちゃってきたし。」

キールの考えに同意しつつ、自分の道を模索するアリス。

「勿体無ぇことしたなぁ。んな良い体もしてんだしよぉ。どうだい? 俺様と付き合ってみねぇか?」

「そうね。考えてあげてもいいけども、クエスぐらい強い男が好みかなぁ♪」

「ハッ! そいつぁ残念だなぁ。んじゃっ、また何処かで居一緒にでも酒飲もうやぁ」

軽い受け答えをした後にキールは酒を煽る真似をする。

「ええ。敵として会わないことでも祈ってるわ」

それをアリスは軽く微笑んで応える。

「ケケケッ」

別れの挨拶をして去っていくキール。
ここに残るはアリスひとり。
少しの間上っていく太陽を眺め、そして―――

「―――うん! 決めた。クエス、私は――――」




『 WNSニュースをお伝えします。
数ヶ月前に起きた中東軍によるクリスタルメタン占拠事件で問題となっていたメタン結晶ですが、多国籍企業「ミーティア」が鉱山を所有することとなり、IEPSと共同で管理するカタチでWSAGで決議されました。
これにより、エネルギー問題の早期解決への足がかりとなることが見込まれ、今後の焦点となるようです。
また、今回の事件はエネルギー問題によって生じた必然の事象である、ということで中東諸国への国際対応を友好的に接していく方針であるようです。

次のニュースです。
本日早朝未明、明け方に街全体が一時明るく照らされたという謎の現象が起きました。
目撃者の話しによると太陽が昇っくる方向に突然小さな太陽が出現したとのこと。
また、その現象が起きる前からその方角から爆音が幾度となく響いていたとの証言もあり、警察では何らかの内乱・実験の可能性を考慮し、軍と協力して捜索。
捜索の結果、以前の大戦で使われていたと思われる武器庫の廃墟を発見。
残っていた爆弾や弾薬が腐敗とともに暴発し、次々と誘爆して大爆発を引き起こしたとコメントした。
それによって現場にはほとんど何も残らず吹き飛んでしまっているため、詳しい捜索は早期断念となる可能性があるともコメントした。

それでは次は今日の天気です。本日は快晴で清々しい一日となるでしょう。気温は――――……』



小説を書き終えた時のあとがき

あとがき:

……終わった。やっと終わった。
当初はサクサクッ書いてクエスのイメージを醸し出そうと思ってました。
しかし…、短編にしようとしていたものがすんごく長くなってしまいました。
クエス、あんまり活躍させられなかったなぁ。
つ〜か、内容がヘタレです。初小説書き、大変でした…。
内容も書いている内にドンドン変わっていってしまったし…。
しかも! 投稿可能なキャラを二人も作っちゃったよ!!
まぁ、自分としても書いてる内にクエスのイメージがより鮮明になったのは喜ばしい限りで。

このお話の中で私が勝手に設定したものばかりです。
国連は今はWSAGであるとか機士のプロトタイプとかメタン結晶とかetc...
実際にはあり得ね〜、という表現が事象、モノがありますがそのあたりは流してください。
ミーティアに関しても当たらずとも遠からずといった感じです。

では最後に勝手に設定用語集を御覧くださ〜い。



投稿編集時のあとがき(2006/06/01現在)

この物語は月刊PCゲーム情報誌『パソコンパラダイス(18禁)』で読者参加ゲームで、
私が参加させていたキャラクターを設定する上で書いたもので、これが私が初めて書いた小説でもあります。
まあ、投稿してみるといろいろと似通った他の参加者のキャラクターと被ってしまったので色々と変更するはめになりましたが…。

『インヴィジブルウォー』の物語が完結したので、ここで投稿してみました。
登場しているクエスという人物は、本編の彼と関わりのある人物であります。
というよりも、大元がこの人物かもしれません。その辺りは話が進むに連れて明らかに――なると思います。





クエス・レーヴェン - Kueth・Leven -

性別:男 | 外見は20代前半(実年齢は不明) | 身長:178cm
体重:約90kg | スタイル:義体兵(マシンソルジャー)
Raptor Name:シルバーフォックス(Silver Fox)
ナイトメアレ(Nightmarele)や、プロビデンス(Providence)とも呼ばれている。

白髪紅眼の元地球の傭兵(兵士:ソルジャー)。一人称は「俺」、三人称は「貴様」。
義体化したため、外見年齢よりも長い時を過ごしている。
「レーヴェン〈Leven〉」という名は、月に渡る際の円滑化を図るために便乗した名であり、「クエス〈Kueth〉」という名以外は地球上でも知られていない。

無愛想で興味が無いモノには全くの関心が無い。(対人関係においても)孤高・朴念仁(?)とも言える。
現在のアルテミスの騒乱は大部分を把握しているが興味はあまり示していない。

普段は読書などをし、静かに過ごしている。
これは強化された感覚器官によって街の賑わいも彼には騒音でしかないからだ。(実際には興味が無いだけだが)
家は質素、というより生活必需品以外ほとんど無い。

地球では当初、生身の凄腕傭兵であったが、ある依頼で負傷したために体を機械化とある。
体に武装などは一切せず、身体能力の向上(俗にいう強化手術)のみであった。
その後、幾度となく強化手術を行い、神経器官や脳にまで及んだ。
今では現在の技術力では最高の、つまり機士(マシンナイト)と似て非なる存在と言えるまでなっている。
通常の何倍もの身体能力、脳の中に埋め込まれた電脳や鋭敏化された神経によって
数倍から数十倍の知覚能力を得た。(センサー類もいくつも存在している)
また、ナノマシンを体内に保有しており、戦闘面・治癒面においてもサポートさせる。
宝石を思わせる紅い瞳は、戦闘時には視覚内のあらゆる情報を取り入れるため、ナノマシンの作用とともに濃く・輝きのない血の瞳となる。

戦闘では、孤高といって過言ではない風格を有し、威風堂々としている。
それは地球の傭兵時代から変わらないが義体化してからさらに磨きがかかった。
彼の持ちえる能力・経験・技術を盛り込んだ戦い方は圧巻。
己と己が持つ武器を極限まで熟知した戦い方は専門家の相手をも驚愕させる繊細かつ、大胆不敵な戦闘を繰り広げる。
彼が新たな戦いの舞台として「ヘカトンケイル」と「月の地下の古代遺跡」が存在している月を選び、さらなる高みへと上るために月へと渡ったと思われるが、実際のところは不明。

傭兵時代に彼との戦闘で対峙したものは彼を゛悪夢を見せる者゛の意の「ナイトメアレ」と呼ぶようになった。
また、中にはその圧倒的な強さから「プロビデンス」とも呼ばれた。
それが彼が月へ渡ってもラプター達にはそう呼ばれることがあるが、彼が゛シルバーフォックス″であることの方が大半を占めているようだが…。
味方としては心強いが、敵としては会いたくない相手であろう。

現在、特定のクライアントに加担する様子は見られず、無所属である。
依頼は単独での行動を主とし、目標達成を最優先事項としている。
障害となるものは排除し、引くときは鮮やかに退却する。

保有武装 (彼が標準装備している全ての武装は彼専用の機能が施されている)
高周波ブレード

刃渡り50cmの中刀より僅かに短い刀身をしているので小刀に分類している。
その刀身の柄から高周波を流し超振動させ、対象物を原子レベルに干渉して切断する。
クエスのは高振動粒子を圧縮して形成させるのに彼自身が手を加えた特別製。
振動させなくともその切れ味は一級品である。
振動によって発する熱で焼き切ることも可能。バッテリーによって稼動させるタイプ。

クエス自身の手に粒子コネクタが内蔵されており、それを通じて刀身の周波数を変え、刀自体の切断力を自在に変化させられる。(例:対象物との周波数を合わせ、切れなくさせる)
また、超超振動させ発生させた高熱とともに振るって高熱のカマイタチを起こさせる。
このカマイタチは対象を切り裂き、膨大な熱量を叩きつけ蒸発・溶解させる。
この技はバッテリー消費が激しく、威力によっては1回で逝ったりする。

スタンナイフ

正式には電磁スタンナイフ。刃渡り20cm。クエスのは超耐熱金属性。
高出力電磁ロッドの威力と引けを取らず、生物には絶大な威力を誇る。
リミッターカットを行えば殺すことも可能。

粒子コネクタにより、刃自体に流す電気量を増大させ、刀身の1.2〜数倍にもなる光の刃を形成できる。
これに斬られた対象はその光が持つ熱によって焼き斬られる。
バッテリー消費量も当然大きくなるので、斬る一瞬のみ形成する。
流す電気量によって光の色・長さが変わる。(低:オレンジ←→青白:高)
光の刃を振るって射出(飛ばす)こともでき、光によって消滅させられるに相応しい熱量を誇る。

セミ・フルオートマティック拳銃

ワントリガーで単発・自動掃射の切り替え可能なハンドガン。
クエスのは完全オリジナルの特別製。特徴として、銃の弾倉部分が完全に上部吹き抜け状態になっており、カートリッジ自体も角4ヵ箇所を上下で軽く止めたような長方形の檻状になっている。

これは粒子コネクタを用いてカートリッジを弾倉内で電磁ロック・スライドさせ、装填・パージさせる。
完全に脳波とリンクさせた撃ち方を行うので、クエス専用で超高速連射をも可能にする。
(例:カートリッジを空中に放り投げ、カートリッジが弾倉を一瞬通過したに等しい装填・パージの間に、全弾掃射を行える。複数時には弾の乱舞となる)
弾は弾速・貫通性に特化した弾を使用している。(装甲車・軽戦車の装甲も貫ける)
高速掃射によって銃自体が発熱・歪曲するのを防ぐためにカートリッジは冷却剤代わりの特殊合金を用いている。

特殊合金リボルバー

回転リールに5〜6発の弾を直接装填し、撃鉄を起こし弾を打つことで発射されるアンティーク銃。
クエスが装備しているのは最新の特殊合金を用いた超高速連射可能な6発装填式のリボルバーである。
特徴は登頂鋭角三角形をモチーフにした形で、銃身が展開して装填するタイプである。
連射スピードは彼のもう一丁の銃の掃射に劣らない次弾連続装填スピードを誇る。
この銃は主に魔術・特殊なことを施した弾の使用を想定した設計になってもいる。
接近戦において打撃攻撃や、盾などの防御にも用いることができる。

ベルト(特殊金属繊維製)

脳波とリンクし、電磁石のような要領で武器の着脱・スライド可能。
また、カートリッジを重ねてくっつけることも可能。
スライド射出してカートリッジのノーハンド換装・連続掃射の要素にもなっている。

コート

出歩くときによく着る茶黒のコート。
防弾・防刃・耐爆・耐圧・耐熱・絶縁処理されており、電磁シールドも施されている。
その代わりに10kgにもなる重量であるが、彼にしてみれば大した事で無い。



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