ANOTHER WORLDDIVER
【ランサの街西門前】
「私達の役目はこの門を守りぬくことだ。絶対に敵を通すなッ！」
「「「了解ッ！」」」
先頭に立ち、声を張り上げる隊長のブラックスピリット。それに対し、声を揃えて返事をする部隊のスピリット達。
部隊はウィングハイロゥを持つブルーとブラックのスピリットのみで編成されており、機動力に重点が置かれている。
「ジルフィー、貴方は今のうちに後退しなさい」
隊長であるブラックスピリットのセフィアが、まだ訓練課程を終えずに戦線に投入されたブルースピリットに声をかける。
「だ、大丈夫、です、エトランジェ様の、結界の、中なら、まだ……。そ、それに、私は、神剣魔法を、打ち消す、こと、しか、して、ません、から」
息を荒くしながら返事をする新米ブルースピリットのジルフィー。
確かに近接戦闘には参加してないが、他のスピリットと同様に連続で飛び続けているうえに、一人で敵の神剣魔法を打ち消し続けているのだ。
いくら結界内で負担が減るといっても、徐々に蓄積されていく疲労の色は隠せない。
エトランジェであるキョウジによって展開されている支援結界によって、通常時より大幅に能力が強化されているとはいえ、敵であるダーツィのスピリットの数は自分達より圧倒的に多い。
もし仮に今、ジルフィーが抜けるようなことになれば、他のブルースピリットがジルフィーの役目を代わりに受け持つことになり、数に対して質で対抗しているイースペリア側は一気に不利になる。
隊長であるセフィアもそれは分かっているのだろう。それ以上は言わずに、今度は全員に向けて指示をだす。
「全員、ウィングハイロゥを展開。敵の数は多いが、私達にはキョウジ様の加護がついている！ 続けッ！」
先頭のセフィアを起点に彼女達は次々と翼を展開し、大地を蹴って飛翔。
ダーツィのスピリットに一糸乱れずに突撃していく。
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第三章：
防衛
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【ランサの街の中心に建てられた塔１F】
（矜持、西門に配置したセフィア隊が敵ダーツィの増援部隊と接触。交戦を開始しました）
（わかった。──そうだな、戦い易いように結界をもう少し広げてやるか）
俺は既に街全体を覆っている広域支援魔法の有効範囲をさらに広げるため、結界の中枢に更にマナを送り込む。
「キョウジ、どうしました？」
塔内の同じ部屋で待機しているミラージュが俺に話しかけてきた。
「西門に敵の増援が現れた。どうやらダーツィ勢は北門からの全軍による正面突破は諦めて、戦力を分散させ、西門と北門を同時に攻めるつもりのようだ」
「私がどちらかの援護にでましょうか？」
「いや、その必要はない。そろそろ上で休憩しているカルティス達に働いてもらうつもりだ」
（『調律』、カルティスを呼び出してくれ）
（わかりました。彼女の神剣を介して意識を繋ぎます）
『調律』の【能力】を使って塔の上にいるレッドスピリット隊の隊長のカルティスを呼び出す。
（キョウジさん、呼んだか？）
暫くするとカルティスの声が俺の頭に響いた。
（ああ。充分休めたと思うが、そろそろやれるか？）
（ん、問題ないぜ。キョウジさんの結界のおかげで、疲れはもうないぜ）
（よし。『調律』から既に聞いたと思うが、セフィアの部隊が守ってくれている西門に敵の増援が現れた。お前達、レッドスピリット全員で援護してやってくれ）
（りょーかい。西門の方角に撃ちこめばいいんだろ。キョウジさんも頑張ってくれよなー）
（あぁ、期待しているぞ。そうだな……終わったら【銀龍亭】に連れてってやる）
（よっし！代金は勿論、キョウジさん持ちでヨロシク！）
（ま、いいだろう。好きなだけ飲め。俺も付き合わせてもらうぞ）
（じゃあ、また飲み比べしようぜ。今度は負けないからな！）
（それは構わないが……初めて会った時にやって、翌日の二日酔いで訓練をサボろうとしたのを忘れたのか？）
（うっ……あれは──）
（しかも、セフィアから逃げるために俺のベッドに逃げ込んでいたな）
（あん時は助かったぜ〜）
（いや、助かってはいないだろ……結局、最後には俺の部屋まで探しに来たセフィアに連れてかれたし）
（だ、だけど訓練場に連れてかれた時、キョウジさんが神剣魔法で二日酔いを治してくれたじゃん）
（あれは訓練場で吐かれでもしたら、他の者に示しがつかないと思ったからだ）
（うっ……）
軽く落ち込んだような声をあげるカルティス。
（まぁ、調子に乗って飲ませすぎた俺にも責任があるな。なにより飲みながら話してくれた話は面白かったぞ）
（そ、そうかな？）
（あんなに楽しかったのは、この世界に来て初めてだったからな。そういった意味では感謝している。戦いに勝ったら、また飲みながら面白い話を聞かせてくれ）
（ブッ倒れて、またキョウジさんのベッドを占領しちゃってもいいのか？）
（安心しろ。その時は、ちゃんと治してやる）
（いや……その……どっちかっていうと……キョウジさんが寝ていたベッドで寝ていたいんだけど……）
はっきり言うカルティスには珍しく、小声でよく聞こえない。
（……よく分からんが、好きにしていいぞ）
俺の言葉を聞いたカルティスの怪しげな発言が聞こえる。
（キョウジさんと飲みあかして、キョウジさんの匂いのベッドで寝る……しかも、口のうるせぇセフィアの奴は、今回はキョウジさんの許可済みだから手が出せない……）
（──とりあえず支援の件、頼んだぞ。……『調律』、回線を切れ）
なにやら雲行きが怪しくなってきたので、俺は返事も聞かずにカルティスとの会話を切った。
イースペリアの古参に類するスピリットのカルティス。性格は大雑把だが、頼んだ仕事は確実にこなすので心配はない。
この戦いの始めに、ダーツィ勢が北門の方角から攻めてきた時に、カルティス達は塔から神剣魔法の雨を降らせて、見事に敵を後退させてくれた。
ただ、今回の援護を頼んだ西門にいるのがセフィアの率いる前衛部隊……。
真面目な性格のセフィアと大雑把な性格のカルティスの仲は良いとは言えない。お互いに実力は認めているのだが、性格の不一致のためか、ことあるごとに衝突する。
（カルティスの奴、まさかセフィアに向けて神剣魔法を撃ち込んだりしないだろうな……）
俺は自分で言っていて不安になる。
（流石にそれはないでしょう──恐らくですが……）
（二人を隊長に選んだのは失敗だったか？）
（いえ。それぞれの隊の長を実力主義で選んだ判断は間違ってはいないと思います。スピリット同士といえども、自身より実力が下の者が命令するのでは指揮が上がりません）
（まぁ、そうだな。俺が見た限り、接近戦に関してはセフィアの右に出るものはいなかったし、神剣魔法の扱いに関してはカルティスが一番だったな）
（矜持、お気に入りのミラージュより強いと？）
（からかうなよ。
ミラージュ自身は普通のブルースピリットと大差ない。ただの神剣魔法の訓練でわざわざ『修羅』を使って、その反動で潰れたんじゃ本末転倒だ。
『羅刹』のみでの剣技も見せてもらったが、実力的にセフィアに引けをとっていない。だが、潜在的に『修羅』と『羅刹』の力に頼るクセがある。だから、あと少しのところでセフィアに勝てない）
（『修羅』のみ発動はどうなのですか？ 『羅刹』との二本同時より負担が減るのでは？）
（それに関してはミラージュ本人に聞いたのだが、ミラージュの左腕に付けているガントレット──あれの冷却効果は『羅刹』の力に起因するものらしい）
だからミラージュは『修羅』を使う以上、『羅刹』も同時に使わないわけにはいかないのだ。
（だが、『羅刹』の力で『修羅』が発する熱を押さえ込むことはできても、結局それは時間稼ぎの延命にしかならない……）
（『修羅』が彼女自身を内側に残す火。
今は私の力を使って矜持が静めることもできますが、彼女が『修羅』の力を使い続けるのならば、いずれそれすらもできなくなります）
（ああ。一番良いのはミラージュ自身がこれ以上戦わないことだが……）
（残念ですが、このような時世では無理ですね。この戦いにしても、貴方がこの世界に来てから僅か１０日目。エトランジェの出現によって、今までのような小競り合いではなく、本格的な戦争に発展することは火を見るより明らかです）
（──それにしても、アズマリアの奴……いきなり前線に飛ばすとは……）
（それだけ矜持に期待しているのでは？）
（【期待されている】というよりは【試されている】気がするな。──だいたい、準備期間が短すぎる。この塔にしても、イースペリアを発つ前に指示を出したから間に合ったようなものだ）
（この街に到着してから指示をしたのではとても間に合いませんでしたね。ですが、それは彼女が矜持に必要な知識を教えてくれたからではありませんか？）
（まぁ、それはそうだが……。しかし、一国の女王に家庭教師のような真似事をさせることになるとはな）
事実、俺が王都イースペリアにいる間の生活は、昼は『調律』の力を使いこなす訓練をし、夜は昼の間に女王としての公務を終えたアズマリアによる講義。
その講義内容はこの世界とイースペリアに関する知識全般。
（俺は当然として、アズマリアも連日ほとんど寝てなかったな。そういった意味では感謝すべきことなのだろうな）
（そうですね。ですが、彼女自身も楽しんでいたようでしたし……あまり深く考える必要はないですよ）
（楽しんでいた？ ──なんだ、アズマリアは人に教えることが好きなのか？）
（……矜持。貴方は本気でそう思っているのですか？）
（どういうことだ？）
（彼女が必要とはいえ、義務だけであの様に熱心に教えていたのかということです。──私が思うに、矜持はもう少し女性の心理というものを考える必要があります）
（さっきは深く考えるなと言わなかったか？）
（先程は先程、今は今です）
『調律』が理不尽な理論を展開する。
（……まぁ、いい。そろそろ無駄なお喋りはやめだ。
とりあえず、セフィアとカルティスの二人ならば西門は問題ないだろう。次は──）
（そう言えば矜持、北門部隊のエルが話したいと言っていますが……）
丁度、思考を西門のことから北門のことに切り替えようとした時、『調律』に呼びかけられた。
（そういうことは早く言え。繋いでくれ）
（はい）
『調律』が俺とエルの意識を繋げる。
（どうした、エル。何か状況に変化が起きたのか？）
（キョ、キョウジ兄様！ 良かった……やっと声が聞けたよ）
既に涙声のエル。
恐らく、声のする向こう側では、その小さな身体に不釣合いな大きな槍型の神剣を必死に抱えているのだろう。
（落ち着け。門が破られたというわけはないだろう？）
（そ、そうだけど……さっきから門への敵の神剣魔法の攻撃が止まないから……ボク、不安になっちゃって……）
（門の上部にはブルースピリットを配置しているし、直接門に当たる神剣魔法の数はそう多くはないはずだが？）
（う、うん……。だけど、敵のブラックスピリットの神剣魔法は消えてくれなくて……）
（そのために、お前達グリーンスピリットの神剣魔法を使って門の耐久度を上げさせている。辛いとは思うがもう暫く耐えてくれ）
（わかってるけど……いつ、門が壊されちゃうかって考えると怖くて……。それに、ボクなんかが隊長だなんて不安だよ……）
当然だが、エルを隊長に抜擢したのにも訳がある。
エルは、その小さい身体ゆえに近接攻撃はお世辞にも優れているとは言えない。だが、それを補って他のグリーンスピリットよりズバ抜けて堅固なシールドハイロゥを持っており、さらにこの街にいるグリーンスピリット随一の回復魔法の使い手でもある。
あのセフィアでさえ、エルの防壁を突破するのは骨が折れる程だ。
もっと自信を持って欲しいのだが……しかし現状、理屈で納得させようとするのは無理か。
俺はなにか良い方法がないか考える。
（エル──頑張ったら後で、頭を好きなだけ撫でてやるぞ）
（本当！？）
予想以上の効果に、間髪入れずに聞き返してくるエル。
（あぁ）
（好きなだけ〜〜）
エルのうっとりした声が聞こえる。
（あ〜、だけど訓練の時は無理だぞ）
（そうなの？）
（訓練の時も、俺に頭を撫させるつもりか？）
想像すると、かなりシュールな光景が目に浮かぶ。
（う〜ん）
（というわけで、訓練時はなしだ。他の時ならいつでもいいから）
（うん……。じゃあ〜〜お風呂の時はいいでしょ）
さらに、とんでもないことを言う。
（いや、待て。それも不味いと思うが）
（えーっ！ キョウジ兄様、さっきからダメって言ってばっかりだよ）
心底、不満といった声が聞こえる。
（お前は平気かもしれないが他の娘まで平気とは限らないだろ）
（皆、平気だと思うけどな。でも、駄目ならその時は二人だけで入ればいいよね？）
最早、どこから突っ込んだらいいか……。
（とりあえず……門の方を頼むぞ。戦いが終わった後は好きにしてくれていいから）
（うん！ 頑張るよ。あ、お風呂なら撫でてもらうより、髪を洗ってくれるほうがいいな〜♪）
俺は強気になったエルを信頼して、会話を切った。
（やれやれ、少しサービスが過ぎたかな。まったく、指揮官というのはこうも疲れるものなのか……）
（後が大変ですね）
会話の一部始終を聞いていた『調律』の楽しげな声が頭に響く。
『調律』の言うとおり、本当に大変なことになりそうだ。
（まぁ、それも仕方の無いことかもな。この国の……いや、意思のあるスピリット達は純粋過ぎる。それに対して、この世界の大多数の人間はスピリットに打算的過ぎる）
（だから、せめて矜持がこの世界の人間の代わりに──ですか？）
（そこまで御大層なことは考えてないさ。ただ、俺自身が彼女達の力になろうと思っただけだ。手を貸す理由としてはそれで十分だろ）
（そうですか。ならば、まずこの戦いに勝利しなければなりませんね）
（ああ）
『調律』に返事をして、俺は再び結界にマナを注ぎ込む。
狭い範囲と短い時間ならば、俺一人が有するマナだけでも結界を維持することはできる。
しかし今回の様な、街一つという広範囲の戦場と長時間の間を維持することは俺一人の有するマナ量では到底不可能。
そこで『調律』の名が指し示す【真の能力】といえる【力】を使う。
それは、【律する力】と【干渉する力】。
この【力】に比べれば防御壁やオーラフォトン弾の魔法などオマケみたいなものだ。
直接的な戦闘には向かない『調律』。だが、サポート的な能力は他の神剣を圧倒する。
この【力】によって『調律』は、俺と各スピリット隊の隊長の永遠神剣を通して意識を繋げ、さらにランサの街の周囲のマナを有する全てのものに干渉することによって、マナを吸い上げている。
吸い上げたマナは俺に供給され、半分は結界の範囲拡大と維持。そして残りの半分はこの戦いを終わらせる鍵となる【切り札】を作るために使っている。
俺の周囲には膨大な量のマナが柱のように立ち上がり、吹き抜け螺旋構造の塔内部を煌々と照らす。
足元には結界の中枢である魔方陣がゆっくりと回転し、真横に突き出した俺の右手の掌には現在構築中の【切り札】。
「結界による支援効果を最大レベルで維持しつつ、結界の範囲を西門外周部まで拡大完了。【切り札】の完成率38％……」
（周囲のマナ集束及び契約者への供給、共に問題なし。西門防衛部隊は敵増援を迎撃、北門防衛部隊は敵神剣魔法による門の破壊を阻止）
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「キョウジ、やはり私も出ます」
いつの間にか、ミラージュが俺の前に立っていた。
「戦いの始まる前に、お前には【やってもらわなければならないこと】があるのは話したはずだぞ」
「わかっています。ですが、皆が必死に戦っているのにいつまでも私だけがここに……」
俺は、なるべくならばミラージュを戦わせたくない。
彼女が戦うとなれば『羅刹』と『修羅』の【力】を使うことは明白。
たとえ結界の効果で負担を減らし、戦闘時間を延ばしたても、ミラージュ自身の命を削ることには変わりはない。
「セフィアに俺を守るよう言われたんじゃなかったのか？」
「確かにそうですが……もし今、門が破られるような事になれば、キョウジを守るどころの話ではなくなります」
（そんなことは分かっているさ。だからと言って……）
俺はミラージュを留まらせるための理由を探す。
ところが、ミラージュは俺が最も聞きたくない言葉を口にしようとした。
「私の身を案じてくれているキョウジの気持ちは嬉しく思います。私なら大丈夫です。それに私達、スピリットは──」
「黙れよっ！」
気が付けば、俺はミラージュの台詞を感情の言葉で遮っていた。
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珍しく……といっても出会ってからの時間は決して長いとはいえないが、この時、私は初めてキョウジの内面の声を聞いた気がした。
「──怒鳴ってすまなかった」
「いえ……」
暫くの沈黙の後に聞こえてきたキョウジの謝りの言葉は、普段の抑揚に戻っていた。
何故、キョウジは私達スピリットを他の人間と同じように扱わないのか。
【スピリットは人間のために戦う道具】と教えられてきた私にとって、キョウジのスピリットへの接し方は奇妙に思えた。
私達の間に沈黙が流れる中、キョウジの永遠神剣が光った。
キョウジが目を閉じ、『調律』と会話を始めた。
「キョウジ、なにが起きたのですか？」
「西門側のダーツィ勢が動き始めた。どうやら、ブルーとブラックスピリットに空から門を飛び越えさせるつもりだ」
「北門の部隊はカルティス達の神剣魔法を陽動のためですか」
「陽動といってもダーツィ側の方がスピリットの数が多い。カルティス達の援護なしでは西門の方が先に落ちる」
「ですが、このままでは北門にいるエル達が……」
「わかっている」
キョウジが苦い顔をしながら逡巡する。
暫くして苦渋の決断を私に言う。
「ミラージュ……。すまないが、こうなったからにはお前に頼らざるを得ないようだ」
「はい」
「門を越えようとする敵を食い止めるだけでいい。敵陣に突っ込むようなことはするな。【切り札】さえ完成すれば、この戦いは終わる」
「安心してください。必ずキョウジの元に戻ってきますから」
「約束だ」
頷いて、私は左右の腰の鞘から永遠神剣を抜く。
剣を両手にそれぞれ構え、意識を集中して、神剣に呼びかける。
「契約者ミラージュ・ブルースピリットが命ずる──永遠神剣『羅刹』『修羅』能力解放」
身体を強い風が駆け抜けていく感覚。
永遠神剣の『修羅』『羅刹』が目覚めると同時に、私の身体の中に火が宿り、髪と目に朱の色が混じり始めた。
「こんな時に言うのもどうかと思うが、俺が最初にその姿を見た時……綺麗だと思ったよ」
「な、なんですか突然」
「いや、なんとなく言っておきたかったのでな」
「そうですか……。でも、普通は青色に赤色が混じって気味が悪いとは思いませんか？」
「そんなことはないさ。もっとも、その姿にさせたくないというのも本心なのだが」
「ありがとうございます。でも、今はそういうわけにはいかないのでしょう？」
「そうだな……すまない」
「謝らないでください。これは私達が生き残るための戦いでもあるのですから」
「いつか──いや、なんでもない。カルティスとエルには、この戦いが終わったら付き合う約束をしたが、お前は何かないか？」
「そうですね……では、私にキョウジの事を聞かせてください」
「なんだ、そんなことでいいのか？」
「えぇ。私は、キョウジ──貴方のことがもっと知りたいと思いましたから」
「……わかった」
「それでは、行ってきます」
「あぁ。【切り札】は急いで完成させる──それまで頼んだ」
「はい」
私は二対の青白い翼と緋色の翼から成るウィングハイロゥを展開する。
四枚の翼が身体を包んでいる状態のまま、塔の地面を蹴り、吹き抜けの塔の中心部を抜け、塔全体を眼下に収めるまでの高さまで一気に上昇。
どこまでも広がる空の中──私は青の翼を大地と水平に伸ばし、紅の翼は天に向かって垂直に突き立てる。
あとは最後の言葉を紡げば、翼が風を切り裂き、空を焼く。
私は眼下にはマナによる光の柱が立つ塔。
塔の上壁部分ではカルティス達が西門に向けて神剣魔法を唱えている。
（キョウジ、貴方のおかげで私はやっと皆と共に戦える──ありがとうございます）
塔にいるだろうキョウジに一礼をして、私は北門の方角を向く。
「イグニッション」
紡いだ言葉が終わると同時に、紅の翼に炎と化して起動。
炎が爆発した反動が推力となって一気に加速。
その瞬間──私の感覚から全ての音が抜け落ちた。
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【ランサの街北門上壁部】
空から北門を越えようとするダーツィのブラックスピリットが、門の上部でアイスバニッシャーを唱えるイースペリアのブルースピリットに狙いをつけ空中から襲い掛かる。
「きゃあっ！」
上空からの攻撃に対して、ブルースピリットは自らの神剣で受け止めようとするも、咄嗟にとった体勢が不十分だったため簡単に弾き飛ばされた。
ダーツィのブラックスピリットは続けざまに、止めの白刃を倒れているブルースピリットに振り下ろそうと構える。
「──ッ」
倒れた体勢のブルースピリットは観念したように目を閉じる。
………
……
…
だが、いつまでもたっても死の感覚は訪れない。
ブルースピリットは恐る恐る目を開くと、そこには背後から胸に青白く輝く刀身が突き刺さって既に絶命しているブラックスピリットの姿。
倒れた体勢のままブラックスピリットの後ろを見ると、そこには四枚の翼で滞空しながら右手の神剣を突き出し、敵のブラックスピリットを貫いている味方であるミラージュの姿があった。
「なんとか間に合いましたね」
ミラージュは突き刺した神剣を引き抜くと倒れているブルースピリットの傍らに立つ。
「あっ、ありがとうございます」
倒れていたブルースピリットは急いで立ち上がる。
「ミラージュさん、どうしてここに？ エトランジェ様の所に居たんじゃなかったんですか？」
「状況が変わりましたからね。キョウジが貴女達を助けに行け、と言ってくれました」
「エトランジェ様が……」
「空にいる敵は私に任せて。貴女達の邪魔はさせませんから」
「はい！ わかりました！」
ブルースピリットは再びアイスバニッシャーの詠唱を始め、ミラージュは瞬時に空へと飛び上がった。
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【ランサの街の北門上空】
「ブルーとブラック、合わせて１０人ですか……」
門の上空に移動したミラージュが敵の人数を確認する。
それと同時にダーツィのスピリットもミラージュを敵と認識。
1対10の空中戦が開始。
最初に仕掛けたのはダーツィのブルースピリットとブラックスピリット。
左右から同時に、ミラージュに目がけてウィングハイロゥによる最高速での左右からの同時攻撃を仕掛けた。
「この程度の攻撃……」
対するミラージュは四枚の翼を操り、最小の動きで二つの攻撃を回避。
ミラージュのいた場所で交差したブルースピリットとブラックスピリットは後方に飛んでいき、再び攻撃を仕掛けるために空中で方向転換しようとする。
「遅いッ！」
駆け抜けていったブルースピリットに瞬時に追いついたミラージュが、右手に持つ『羅刹』で振り向きざまのブルースピリットの胴を横薙ぎに切り裂き、上半身と下半身を切断した。
「一人目。次ッ！ ──ライトニングファイア！」
ブルースピリットを切り裂いた『羅刹』を持つ右手を振りきった体勢のままに、今度は左手に持つ『修羅』を同時に攻撃してきたブラックスピリットに向けて、神剣魔法を発動。
空中を水平に走る火炎を纏った稲妻が、まだ反転し終えてないブラックスピリットに直撃。
魔法耐性が高いブラックスピリットが一撃で感電死。
「二人目。──イグニッションッ！」
ミラージュは紅蓮の翼を再起動させ、翼の爆発によって生み出された反動を利用しての急加速による高速移動を開始。
空中を大きく旋回しながら、次の敵に向かって突撃。
「『修羅』……ファイアエンチャント」
神剣魔法の発動と共に、ミラージュが左手に持つ『修羅』に燃え盛る長い火炎の刀身が顕現。
迅雷の速度で次の獲物の目前にまで接近したミラージュが、火炎に包まれた『修羅』を振り上げながら垂直に上昇。
「さようなら」
天に向かって火炎の柱が立ち上がると、ミラージュは眼下に見据える敵のスピリットに向けて急降下を開始。
ダーツィのスピリットは上空から自分に向かって襲い掛かるミラージュの火炎の鉄槌を、自分の神剣で受け止めようと神剣を上段横に構える。
二人の持つ神剣が空中で激突。
固い金属同士がぶつかる音が周囲に響いた次の瞬間、ミラージュによって振り下ろされた紅蓮の刃が防御しようとしたダーツィのスピリットの神剣を一方的に溶断し、破砕させた。
紅蓮の刃は敵の神剣を破壊しただけでは飽き足らず、神剣の持ち主の身体をも脳天から唐竹に切り裂いた。
空中で真っ二つになったスピリットの身体と神剣が、炎に焼かれながら大地へと落下。
「三人目」
ミラージュは燃えながら消えていく敵のスピリットを一瞥すると、残りのスピリットに目を向ける。
「──時間が惜しいですね」
呟くと、『修羅』に宿っているファイアエンチャントを解除し、神剣を正眼に構える。
残るダーツィのスピリットは、ミラージュの動きが止まったのを好機と感じたのか、三人同時に襲い掛かった。
「アポカリプスッ！」
正眼に構えられた『修羅』の刀身が光りを放ち、ミラージュの眼前に何条もの業火の柱が降り注いだ。
攻撃を仕掛けた三人のスピリットはミラージュに向けて突撃中だったため、咄嗟に回避行動に移れず、その身を自ら炎に差し出していった。
「四、五、六人目」
静かに、そして冷徹にミラージュは倒したスピリットの数を確認していく。
一方、残っているダーツィのスピリットの身体は恐怖に震えている。
神剣に意識を奪われているダーツィのスピリットが【恐怖で震える】などということはない。
ならば何故、震えるのか──恐怖を感じているのはスピリットではなく心を奪った神剣の意思の方。
「退くならそれでも構いません。私がキョウジから受けた命令は、空からの侵入を防ぐことだけですから」
「い……ヤ…死ニ…たク…ナ………い…」
それは神剣の声か、はたまた恐怖によって開放されたスピリットの声か。
呻くような声を上げた四人のスピリットは眼前のミラージュではなく、門の上にいるブルースピリット達に向けて真っ逆さまに突撃していく。
「しまった！」
完全に油断していたミラージュは、慌ててダーツィのスピリットを追う。
ミラージュは降下しながら右手の『修羅』を突き出し、神剣魔法で先行する敵のスピリット達を攻撃しようとする。
（──ッ！ この位置関係で撃ったら門にいる味方にまでっ！）
瞬時に神剣魔法による攻撃を断念して、全速で追撃。
先行する四人のスピリットのうち、二人のブラックスピリットが反転して、立ち塞がる。
ミラージュに向けて二人のブラックスピリットは、降下の最中に詠唱していたカオスインパクトを同時に放つ。
「くっ！」
ミラージュはかわせない──否、かわすつもりもない。
アイスバニッシャーではブラックスピリットの魔法を相殺できない。術者から放たれてからサイレント・フィールドを使うのでは遅すぎる。
二つの黒の衝撃が自身の身体を穿つ苦痛を解せずに、ミラージュは二人のブラックスピリットへと一直線に突撃。
落雷のごとき速度で二人のブラックスピリットと交差し、左右に持つ神剣をそれぞれに深々と突き刺す。
「このまま──」
ミラージュはブラックスピリットの二人を串刺しにした状態のまま急降下を続け、門の上壁に着地すると同時に左右の神剣を門に突き立てる。
「消えなさいっ！」
声と共にミラージュは両の剣にマナを注ぎ込み、『修羅』の刀身が刺しこまれた左のスピリットは紅蓮の炎に焼かれ、同じように『羅刹』の刀身が刺しこまれた右のスピリットは一瞬で全身を凍結させられた。
「皆は──」
七人目と八人目の敵スピリットを倒したミラージュは、顔を上げ、仲間の安否を確認する。
─────────────────────────────────────────
（──ミラージュか）
（はい）
（どうした？）
（門の上にいたブルースピリット達が敵に……）
（……）
（私の責任です。私が──）
（予定外のことは起こるものだ。そんなに自分を責める必要はない）
あの後、残りのスピリット二人の瞬時に片付けたミラージュだったが、敵のスピリットは既に門の上にいたブルースピリット達に傷を負わせて行動を無力化させており、現在はミラージュが一人で敵の神剣魔法を打ち消している。
（ブルースピリット達の傷は深いのか？）
（キョウジの結界の力で命は取り留めています。ですが、早急な治療が必要な状況に変わりはありません）
（エル達に治療させてやりたいが、それでは門が突破されてしまうか……）
（──キョウジ、提案があります）
（なんだ？）
（私が門の前に立ちます。その間にエルの部隊と負傷したブルースピリット達を後退させてください）
（そんなことをすれば、お前が敵の神剣魔法の雨に晒されるぞ）
（他に方法がありません……）
（お前のフィールドじゃ赤魔法は防げても、黒魔法が直撃するはずだ）
（私の失態が招いた事態です。皆に、これ以上迷惑はかけられません）
（……）
（お願いします、キョウジ）
（わかった。エル達を後退させる）
（ありがとうございます）
（ミラージュ……約束を破るなよ）
（はい）
言い終わって、ミラージュは門の上から飛び降りる。
門の前に着地すると、逆手で『羅刹』と『修羅』をそれぞれ地面に突き立てる。
「クレセント・フィールド！」
二つの神剣が共鳴現象によって輝き、瞬時に門の全面を覆う力場が形成。
ミラージュによって展開されたフィールドが、彼女の背後の門に向かって次々と殺到する赤魔法に干渉し、消失させる。
（少しでも時間を稼がないと……）
ミラージュは神剣を杖代わりにして、自身の身体を固定する。
ダーツィのスピリットがフィールドの存在に気付き、今度は門ではなくミラージュに向かって神剣魔法が殺到。
相殺できないブラックスピリリットの神剣魔法が、いくつも直撃する。
「くぅっ！ ──だけど、まだ倒れるわけにはいかないっ！」
ミラージュは顔を下に向け、歯を食いしばりながら、門の前に立ち続ける。
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【ランサの街の中心部の塔１F】
（結局、ミラージュに皺寄せをさせてしまったな）
右手の光球が一際強く輝く。この戦いが始まって以来、矜持が作り上げていた【切り札】がようやく完成した。
（やれやれ、 なんとか間に合ったようだ）
（矜持、塔の前までエル達の後退が完了しました）
（よし。『調律』、ミラージュにエル達の後退の完了と【切り札】の完成を伝えてくれ）
（わかりました。結界はこちらに固定でよろしいですか？）
（ああ。エル達は塔の中で休ませるからな。戦いに巻き込まれる心配はないだろうが、治療に専念させてやりたいのでな）
俺は背中部分にイースペリアの紋章が刺繍されている白いロングコートを翻して、塔の外に向かって歩く。
「キョウジ兄様〜」
塔から出ると、真っ先に俺を見つけたエルが声を上げ、他のスピリット達も視線を俺に向けた。
「皆、ご苦労！ 後は任せて塔の中でゆっくり休んでくれ」
「うん！ 皆、塔の中で治療をするよ。キョウジ兄様、後はお願いね」
「あぁ。分かっている」
エルを先頭に、次々と塔に入っていくスピリット達。
グリーンスピリットに肩を貸してもらっているブルースピリットが俺に声をかける。
「エトランジェ様、私たちを逃がすために、まだミラージュさんが門の前に……」
「既にミラージュにも撤退の指示は出した。安心してゆっくり休んでくれ」
「そうですか……安心しました」
「ゆっくり眠るといい。次に目が覚めた時には、戦いは終わっている」
「……はい」
そう言って静かにブルースピリットは目を閉じた。
「治療をよろしく頼む」
俺の言葉にグリーンスピリットは頷いて、ブルースピリットを抱えながら塔の中に入った。
全員が塔に入ったことを確認した後、俺は北門のある方角に独り歩き出す。
（ミラージュが後退したとしても、あの門はそう簡単には破壊できないはず）
（そうですね。本物の門は塔の建設に足りない部材を補うために解体。今、ある門は矜持がオーラフォトンで作り上げた偽者ですからね）
（時間さえかければ、そう難しいことでもなかったな）
（細部まで忠実に再現するあたり、矜持は芸が細かいですよ）
（もう少し時間があれば門にも細工をすることができたんだがな）
（街中に仕掛けたのを門に？）
（あぁ。それがあれば門の上のブルースピリット達が傷つくこともなかっただろうに）
（そうかもしれませんね。ですが、ダーツィ勢の侵攻情報がイースペリアに入ってからの僅かな時間で、ここまでの策を講じれただけでも良しとするべきではないでしょうか？）
（最低限のことだけで手一杯だったな……。ところで西門の戦況はどうだ？）
（西門にいた敵部隊は北門の破壊のために、合流したようですね。カルティス達の援護のおかげで、セフィア達に大きな被害はなさそうです）
（わかった。両方に労いの言葉と休むことを伝えてくれ）
（はい。ですが、休む指示はともかくとして、労いの言葉なら私が伝えるより、矜持自身が直接言ってあげたほうが彼女達も喜びますよ？）
（そうか？）
（そうですよ）
（それも指揮官としての義務か？）
（間違いではありませんが……。微妙に貴方は鈍いのですね）
（なにか、酷い言われようだ）
（……私としてはこの後、彼女達が矜持にどう迫ってくるか見物です）
『調律』の言葉にカルティス達との約束を思い出す。
それはまだ良い。
問題なのは、今回の戦いによって生じる雑務の山。
（面倒事に関してはセフィアが手伝ってくれると思うが……いや、絶対に手伝わせる。──というより全部やってもらえないものだろうか）
（無理ですよ。矜持がこの街に来て以来、熱心に彼女がこの世界の読み書きを教えたのは、このためなのですから。矜持はイースペリアの全スピリットの指揮者になったわけですから、全てを把握しておかなければならないのは当然でしょう？）
（指示系統を一つにまとめようとするアズマリアの考えもわからなくはないが、予想以上に面倒だぞ）
（ですが、エトランジェの貴方よりスピリットであるセフィアの方が、他のスピリットの指導には向いているのも事実です）
それぞれの隊の長を任せているセフィア、カルティス、エルは……直接攻撃は駄目だが防御と魔法に関してはベテランのスピリットなので、まだ初期訓練課程の修了していないジルフィー達、若いスピリットの指導をしてもらっている。
勿論、イースペリアにも訓練師はいるのだが、模擬戦などの実戦形式の訓練はスピリット同士でないとできない。
普通なら俺も訓練に参加しなくてはないのだが、作戦の立案者としての全体への指示を優先する必要があったため、ほとんど訓練に参加していない。
（戦いの後、暫くの間は部屋に缶詰になるのは覚悟しといたほうがいいですよ。ちなみに、逃げようとしても私がセフィアに居場所を教えることができるのを、お忘れなく）
逃げ道を塞ぐ『調律』の一言によって、進んでいく俺の足取りは心なしか重くなった。
─────────────────────────────────────────
塔と北門のほぼ中間地点まで来ると、そこには街路の横に建つ家屋の壁に身体を預けながら立っている人影。
「約束は……守りました」
辛そうな表情で答えるミラージュ。
どれほどの数の黒魔法が直撃したのか、ミラージュの姿は出撃前と違い服はボロボロになり、立っているのもギリギリといった感がした。
「及第点……といったところだな」
「手厳しいです」
「だが、おかげで犠牲者を出さずに済んだ」
言いながら俺はミラージュに向けて左手をかざし、『調律』による神剣魔法の癒しをかける。
「ありがとうございます」
「さて、最後の仕上げが残っているが──できるか？」
「大丈夫です」
「わかった、信用する。【切り札】はこれだ」
俺は右手の中にある【切り札】をミラージュに渡す。
【切り札】──それは、『調律』によって集められたマナを凝縮し、オーラフォトンの防御壁でコーティングした人工マナ結晶体。
「これが、キョウジが作ったマナ結晶……綺麗ですね」
ミラージュは俺の作ったマナ結晶の輝きに見惚れている。
（女が光り物に弱いのは、この世界でも共通のようだな）
（さぁ、どうでしょうね）
俺の言葉に、何故か半ば投げやりな口調で返す『調律』。
「さて、そろそろダーツィが門を破壊して侵入してくる頃だな。お前はすぐに準備に入ってくれ、俺はもう暫く時間を稼ぐ」
「わかりました。キョウジ、気をつけてください」
俺は門に向かって歩きながら手を上げることで、後ろにいるミラージュに返事をした。
暫く進んでいると向かっている方向から轟音が響き、俺は『調律』から伝わった感覚で北門がダーツィ勢によってついに破られたことを悟った。
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北門を破ったことでランサの街に侵入したダーツィ勢が、一直線に中心部の塔を目指す。
ダーツィの圧倒的な数のスピリット。その中に、スピリット達に周囲を取り囲ませて進むダーツィの指揮官の姿がある。
そして、それ以上の進撃を阻むようダーツィの軍勢の前に独り立ち塞がる矜持。
「貴様が、イースペリアのエトランジェか？」
「ああ」
値踏みするように矜持を見るダーツィの指揮官。
「伝説のエトランジェといえども、指揮官としては無能のようだな」
「一つ聞いておきたい、お前にとって有能な指揮官とは何だ？」
「知れたことを聞く。スピリットという道具を効率良く使える者のことだ」
「そうか──スピリット達を痛みもなく道具として扱うことが有能……気に入らんなッ！」
言い終わると同時に矜持が、右手を指揮官に向けてオーラフォトン弾を放つ。
だが、取り囲んでいるスピリットにあっさりと防がれる。
「この程度か？エトランジェ」
余裕たっぷりの声を発するダーツィの指揮官。
「あぁ、俺は【この程度】だッ！」
矜持が地面に向かって勢いよく拳を叩きつける。拳に集中させていたオーラフォトンが地面を介して周囲に伝わった瞬間、戦いが始まる前に設置していたオーラフォトンによる【地雷】が作動。
ダーツィのスピリット達の足元から無数のオーラフォトン弾が垂直に発射。
完全に不意をつかれたダーツィのスピリット達は、バランスを崩して一斉に転倒。
「くっ、くだらない小細工を！」
スピリットの手を借りながら立ち上がるダーツィの指揮官。
「スピリットども、何をグズグズしている！ さっさとエトランジェを殺せッ！」
立ち上がったダーツィのスピリット達が指揮官の命令に従って、一斉に矜持に襲い掛かる。
「そう、あせるなよ」
迎え撃つ矜持の右手からオーラフォトン弾が発射。
襲い掛かるスピリットの神剣に着弾させることによって斬撃の打点を外す。
反対側の『調律』を逆手に構える左手にはオーラフォトンの防御壁を形成。
斬撃による攻撃が失敗したスピリットの隙だらけの胴に密着させて撃ち出す。
一連の流れるような動作によって、矜持に斬りかかるスピリットが次々と元いた位置まで押し戻される。
「エトランジェといえど、たかが一人にいつまで梃子摺っている！ 神剣魔法を撃て！」
予想外に粘る矜持に業を煮やした指揮官は、レッドスピリット達に神剣魔法を撃たせる。
（当然、そうくることも予測済みだ）
複数のレッドスピリットが詠唱を開始した瞬間、街道の両脇の家屋から詠唱中のレッドスピリットに向けてオーラフォトン弾が発射された。
（設置できるのは地面だけじゃない。さらに、壁に設置したのは神剣魔法の詠唱に反応して起動するように作ってある）
（エル達に塔の中で治療させたのは、このためですか）
（効果範囲内だと敵味方の詠唱に関係なく反応してしまうのが欠点なんでな）
オーラフォトン弾によってレッドスピリット達がよろめき、神剣詠唱が中断される。
「くそっ！ グリーンスピリットどもレッドスピリットの援護をしろ！」
ダーツィの指揮官から発せられた命令に従って、グリーンスピリットがレッドスピリットの周囲を取り囲む陣形をとった。
「おいおい、さっき発射されたのが全部なわけないだろ……」
「なにっ！？」
矜持が靴の踵で軽く地面を叩くと、再び地面から垂直にオーラフォトン弾が発射され、ダーツィの指揮官とスピリット達はまたもや転倒させられる。
「貴様ァァァァッ！」
再度、起き上がったダーツィの指揮官は完全に頭に血が昇っている。
（さてと、時間稼ぎはこれくらいでいいだろ）
矜持は大地を蹴って大きく後方に跳躍し、夜の闇へと消える。
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矜持が後方にいるミラージュの元に戻ると、ミラージュは既に矜持から託されたマナ結晶を自身へと取り込む作業を終えていた。
マナ結晶によってもたらされた莫大な量のマナをその身に宿した影響で、彼女の四枚のウィングハイロゥは一周り大きく肥大化し、翼の周囲にはいくつもの小さな光の粒が舞っている。
「お疲れ様です、キョウジ」
「なに、お前達の働きに比べれば大した事はしてないさ」
言いながら、矜持は『調律』を鞘に収め、ミラージュの傍らへと移動した。
「準備は全て整いました。いつでもやれます」
「やれやれ、やっと帰れるな」
矜持が呟くと、仕掛けを警戒しながらゆっくり進んできたダーツィ勢が暗闇の中から現れた。
「な、なんだ？ そのスピリットは！？」
ミラージュを見たダーツィの指揮官が開口一番に驚きの声をあげる。
「あの世で考えな。ミラージュ──始めろ」
「はい」
ミラージュは短く返事をして、肥大化しているウィングハイロゥを大きく広げ、魔方陣が宿った二つの神剣を眼前にいるダーツィ勢の方向に突き出した。
全ての準備が整い、神剣魔法の発動の鍵となる最後の言葉を紡ぐ。
「全て貫く天来の槍……我が放つ汝の其の名──グングニール！」
ミラージュの声と共に、敵に向けられた『修羅』と『羅刹』の刀身に宿っている二つの魔方陣が共鳴しながら移動。
魔方陣は突き出された剣先で重なって一つになり、回転。それによって周囲に耳を劈く高音が発生。
回転が速くなるにつれて響く音が大きくなり、翼の周囲を舞っていた光の粒が魔方陣に吸収されていく。
蓄積された膨大な量の光の粒が高速回転によって一つに集束。
ついに、魔方陣へと集められた光が巨大な濁流と化し、大気を揺るがす轟音を上げ、恐るべき速さで眼前のダーツィ勢に襲いかかった。
ミラージュの放った光は、熱でも冷気でもなく、立ち塞がる全てを灰塵に帰す意思だけを与えられた殺戮の閃光。
いかな干渉も受けずに突き進む巨大な光の槍。
抵抗する術を一切持たない無力な獲物であるダーツィの指揮官とスピリット達を瞬時に飲み込み、矜持が作り出した北門が存在していた場所を越え、遙か地平の彼方へと消えてゆく。
マナの閃光の通り道にいたダーツィの軍勢は残さず全て消え去り、後に残ったのは閃光によって抉られた地面が地平まで一直線に続く光景。
─────────────────────────────────────────
（……ここまで威力が上がると、もはや最初に見せてもらった時のとは別物だな）
（発動に際して注ぎ込むマナの量によって威力が段違いに変わるようですね）
「こ、これが……この神剣の【真の力】……」
恐らく、俺が訓練の時に見せてもらった時と同様に、【ミラージュ自身に内在するマナだけ】による発動は何度かあるのだろう。
だが、今回は俺が作ったマナ結晶を使っての【自身の有する以上のマナ】を使っての発動。
そのあまりの破壊力に力を行使した本人であるミラージュですら驚愕している。
「ミラージュ、御苦労。ランサの街に侵攻してきたダーツィ軍は全滅。今回の戦いは終わりだ。──帰るとしよう」
「は、はい」
既に、ミラージュの先程まで肥大化していたウィングハイロゥは普段のサイズに戻っており、俺の声に反応したミラージュは翼を消して、両手の神剣を鞘に収める。
『修羅』と『羅刹』の共鳴現象が消え、朱の色が混じっていた髪と瞳は元の深い青色に戻った。
「あっ……」
「よっ、と」
緊張の糸が切れたのか、ミラージュは後ろによろめいて倒れそうになった。
俺は咄嗟に腕を伸ばしてミラージュを抱きとめた。
「す、すいません。すぐ立ちます」
「いや、このまま運んでやるよ。お前は今回の一番の功労者だ。これぐらいは罰が当たらないだろ」
そう言って俺は、半ば強引にミラージュの身体を抱き上げる。
「で、ですが。その……」
「なんだ？ 不満か？」
「い、いえ！ そんなことはないです。あの……重くないですか？」
「……っ」
ミラージュが口にした予想外の言葉に俺は噴き出しそうになる。
「わ、笑わないでくださいっ」
「いや、すまない。そうだな……左腕のガントレットの重さを差し引いたら、まるで綿毛のような重さだな」
「……キョウジ、誤魔化してますね？」
（どうやら不満のようだ……。『調律』、どう返せば良い？）
（不精しないでください。第一、私はそこまで面倒見切れませんよ）
（やれやれ……）
俺は考えるのが億劫になり、ミラージュを抱きかかえたまま塔の方向に振り返る。
「さっさと、行くぞ」
「あっ」
「大人しくしていろ」
「は、はい……。あ、あの……ありがとうございます」
「ん、なにがだ？」
「キョウジがしてくれたこと……全部です」
「イースペリアに味方すると言ったんだ。気に病む必要はない」
「で、ですが──すいません、私にはキョウジに何も返せるものがないです」
ミラージュが俺の腕の中で俯きながら言う。
「そうだな……また美味い飯を食わせてくれればいいさ」
「──はい、わかりました」
ミラージュは笑顔で答えて、力を抜いた身体を俺に預けてきた。
「疲れたのなら寝ておけ、身体のほうは眠っている間に治しておく」
「はい……キョウジ、ありがとう、ござ、います……」
よほど疲れたのか、ミラージュは目を閉じると、すぐに眠りについた。
─────────────────────────────────────────
（……どうやら、ミラージュには気付かれずに済んだようだな）
（そうですね。なにしろ単独での戦闘に続いて、先程の神剣魔法のコントロール。気を失わなかっただけでも大したものです）
当然のように気付いている『調律』。
「で。いつまで、そこにいるつもりだ？」
俺は背中を向けたまま、顔を横に向け、視線だけを背後の空中にいるスピリットへと向ける。
（あの密集した集団の中でミラージュのグングニールの速度を回避できるとは思えない。──となると、最初から高みの見物客か）
「お前、ダーツィのスピリットではないな」
「手前の名はウルカ。エトランジェ殿の察しの通りサーギオス帝国に属するスピリットにございます」
「やはり、ダーツィの背後には帝国が付いているのか」
「あまり驚かれないご様子」
「当然だ。ダーツィだけでこんな大規模な戦力を用意できるなら、とっくの昔にイースペリアは落ちている」
「なるほど。此度の戦の見事な采配といい、その洞察力。我が主に報告せぬわけには参りませぬ」
「なんだ……戦わないのか？」
「手前の任務はイースペリアに現れたエトランジェの偵察。【戦え】との命は受けておりませぬ故」
「なら、さっさと帰るんだな」
「手前をこのまま易々と見逃すと？」
「生憎、両手が塞がってるんでな。それに今夜は働き過ぎた」
「正直なところ、手前としては一手お手合わせ願いたいものですが」
「やれやれ、だ。そんなに死に急ぐ必要はないとは思うのだが……」
俺とウルカの間に緊張した空気が流れる。
瞬間、塔の方向からウルカに向けて火球が宙を灼いて疾走。
「むっ！」
俺の背後のウルカは翼を巧みに操り、咄嗟に火球を回避した。
（休んでいろと言ったのに……）
（この場合、助かったのは矜持の方ではないのですか？）
（ま、否定はできないな）
「キョウジ様！」
「キョウジさーん！」
「キョウジ兄様〜！」
心配性な面々が俺の名をそれぞれの呼び方で、呼びながら近づいてくる。
「これは、手前に分が悪いようですな」
「言ったろ……帰れるうちに、さっさと帰りな。ここに来る奴は俺ほどには甘くはないぞ」
「では、お言葉に甘えて。次、出会う戦場では是非お手合わせを……」
そう言い残して、ウルカは翼を翻して反転すると、後方の夜の暗闇に消えていった。
（帝国……か。まったくもって前途は多難だな）
俺は腕の中で眠るミラージュの安らかな寝顔へと視線を落とした。
─────────────────────────────────────────
ウルカの姿が消えてから僅かな時間で、最初に俺の元に来たのは、ウルカと同じブラックスピリットであるセフィアだった。
「キョウジ様、今いたスピリットは？」
「帝国のスピリットだそうだ。名前はウルカといっていたな」
「──『漆黒の翼』ではないですか！」
「なんだ、知っているのか……有名なのか？」
「知っているもなにもサーギオスの『漆黒の翼』といえば、ラキオスの『青い牙』と双璧をなすスピリットです。特に『漆黒の翼』の居合いの素早さは恐るべきものです」
「なるほど。スピリットの中でも強い部類なのか。ならセフィア、相手はお前と同じブラックスピリット。次に現れたときは頑張ってくれ」
「は、はぁ。大陸一かもしれない居合いの使い手に対して頑張れですか……。」
「期待している。ところで、西門は大丈夫か？」
「当然です。私の部隊の者は優秀ですから。皆、多かれ少なかれ負傷はしましたが、現在はエルの部隊による治療を受けていますので問題ありません」
「流石だな。これからも頼りにしている」
「ハッ！」
俺に敬礼をして応えるセフィア。
そうしていると、遅れてカルティスとエルが到着した。
「キョウジさん、無事か？」 「キョウジ兄様、怪我してない？」
「ああ、心配ない平気だ。ミラージュもな。」
俺達の無事を確認したカルティスとエルは周囲を見渡す。
「そういやさっき俺の魔法避けたヤツは、どこいきやがったんだ？セフィア、もう倒しちまったのか？」
「いいえ。逃げられたわ」
「はぁ！？逃げたって……お前、なんで追わなかったんだよ？」
「相手が『漆黒の翼』だったからよ」
詰め寄るカルティスに、口惜しそうに答えるセフィア。
「セフィ姉様、『漆黒の翼』って……あの、サーギオス帝国の！？」
エルの言葉に頷くセフィア。
エルも知っているところをみると、かなり有名のようだ。
「そう、セフィアを責めるな。そもそも逃がしたのは俺だしな」
「ま、まぁ。キョウジさんが、それでいいって言うならいいけどよ」
「でも逃げてくれたお陰で、誰も怪我しなかったんだから良かったよ」
「そういう問題じゃねぇだろ。ダーツィに帝国が付いてるっつーことは、遅かれ早かれ『漆黒の翼』と戦わなきゃいけねぇんだぜ」
「じゃあ、カル姉だけ追えばいいよ。ボクはキョウジ兄様と帰るから」
「んだとコラァ！」
「べ〜〜っだ！」
なにやら騒がしくなってきた。
このままだと俺の腕の中で眠っているミラージュが起きてしまうかもしれない。
「あ〜、二人とも──」
「二人とも、いい加減になさいっ！ キョウジ様の前ですよっ！」
俺に代わってセフィアが二人を制する。
「ちっ！オマエが一番うるせぇっつーの」
「カル姉、怒られてんの」
「テメェもだろうがっ！」
そう言いながらカルティスはエルの頬を両側から引っ張る。
「かひゅねぇ〜いひゃいよ〜！」
エルの柔らかそうな頬がカルティスによって伸ばされ、悲鳴を上げている。
「ッ！？」
俺は自分の横から研ぎ澄まされた殺気を感じた。
殺気のする方向に視線を向けると、セフィアがカルティスに向けて抜刀の構えをしている。
「私の警告を無視するなんていい度胸ね、カルティス。──そのまま動かないで、すぐ終わるわ」
「うぉっ！ セフィア、ちょっと待て！」
「いいえ、待つ必要なんかないわ。これ以上、キョウジ様の前で醜態を晒すくらいなら私が介錯してあげるわ」
セフィアの本気を察知したカルティスは即座にエルを解放し、後ろに飛びのく。
「分かった！ 俺が悪かった！」
それを見たセフィアはゆっくり抜刀の構えを解き、俺に向き直り頭を下げる。
「キョウジ様、申し訳ございません。みっともないところをお見せしました」
「いや、いい」
視線を下ろすと、幸いにも腕の中のミラージュは目を覚ましてなかった。
（確かに、セフィアの声が一番大きかったな）
（私は彼女に同情しますよ。それより、この後の指示を出してあげたらどうです？）
『調律』がもっともな意見を言う。
「エル、負傷者の手当ては終わっているか？」
「うん。もう全員の手当ては終わってるよ。キョウジ兄様が行った後に、頑張ってやったからね。」
「ん、ご苦労。なら、俺はこのまま館に戻る。早めにミラージュの身体を治してやりたいんでな。お前達も塔にいる他の娘達と合流して戻れ」
「了解しました。見張りの方は如何いたしますか？」
「そうだな──周囲に神剣の反応はないが、念のために人間の兵士に見張りを頼んでおくか」
「俺達が命懸けで戦ったんだから、それくらいはやってもらねぇとな」
「それと、明日の訓練は休みにする。充分休んで疲れをとってくれ」
「やったねっ！ 何して遊ぼうかな〜」
「残念だが、お前達は昼過ぎから俺の部屋で会議だ。」
「了解」 「面倒くせぇけど、キョウジさんとならいいか……」 「隣に座って頭撫でてもらお〜っと」
「俺からは以上だ。とりあえず、解散」
言い終わると、俺はスピリットの館の方向に、セフィア達は塔に向かって歩き始める。
（あぁ、戦いは終わったし結界は解除しておくか）
俺が結界へのマナ供給を止めたことにより、結界の効果が解除される。
途端、塔に向かって歩いていたセフィア達に異変が起きた。
「ッ！」
「なんだっ！ いきなり、身体が重くなりやがった！」
「体が痛いよ〜〜」
（あ、駄目ですよ。矜持）
（どういうことだ？）
（あの魔法には副作用というか──その……解除したときに反動が起きるのですよ）
（反動……だと？）
（簡単に言うなら全身筋肉痛ですね。明日はこの街のスピリット全員がまともに動けないでしょう）
視線を移すと、そこにはもう一歩も動けないといった様子で蹲る三人の姿。
結局、俺はミラージュを含めたスピリット全員を館まで運ぶことになった。
こうして、俺の指揮によるランサ防衛戦は幕を閉じた。
後書き。
随分、間が空いてしまいましたが、ようやく三章を書き上げることができました。
当初の予定では矜持とミラージュの二人で攻められているランサを救出に向かうという感じだったのですが、段々と書いているうちに、いつの間にか大規模な防衛戦になってしまいました。
もう少し早く書けるように頑張りたいと思います。
さて、次回は防衛戦の後始末編の予定。
宜しければご期待ください。
以下、諸々の解説。
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スピリット解説
セフィア・ブラックスピリット
永遠神剣： 『陰理』
イ―スペリアの古参のスピリットであり、矜持が来るまで の街のスピリット隊の隊長だった。
ランサの街に来た矜持の実力を試そうと勝負を挑むが、矜持はセフィアの剣撃を無傷で全て防ぎる。
以後、彼女は矜持に対して興味と尊敬の念を抱くようになり、現在では矜持の副官。
今回の戦いにおいて、西門を防衛するための前衛部隊の隊長を任された。
カルティス・レッドスピリット
永遠神剣：『焦輝』
セフィアと同様、イースペリア古参のスピリット。
無類の酒好きのため、矜持がランサの街に着任した夜に矜持の部屋まで乗り込んで『飲み比べ』の勝負を挑むが、『調律』によって恒常的に状態異常に対する回復効果が発動している矜持に敵うわけもなく酔い潰れる。
途中からは勝負というより、酔って喋るカルティスの様々な話を楽しんで聞く矜持。二人はいつしか意気投合し、夜が明ける頃にはカルティスと矜持は同じベッドの中で眠っていた。（余談だが、矜持はまったく何ともなかったのに対して、カルティスは酷い二日酔いになっていた。）
今回の戦いにおいて、矜持が作らせた塔から敵陣に向かって神剣魔法を撃つレッドスピリット隊の隊長を任された。
エル・グリーンスピリット
永遠神剣：『
幼い外見をしているが性格もやっぱり幼い感じ。
ランサの街に着いた矜持を一目見るなり気に入り、矜持のことを「キョウジ兄様」と呼ぶようになる。
一応、セフィアとカルティス同様に古参のスピリットに属するが、幼い外見の体躯もあって白兵戦は苦手。
神剣による回復魔法の扱いとシールドハイロゥの防御能力に優れる。
今回の戦いにおいて、要となる北門の防衛するために編成された、ブルースピリットとグリーンスピリットによる部隊の隊長に抜擢された。
ジルフィー・ブルースピリット
永遠神剣：『静心』
初期訓練課程を終えないまま前線であるランサの街に配属された新米スピリット。
日々、早く一人前になりたいと思いながら訓練に明け暮れる。
キョウジのことをエトランジェ様と呼ぶのは、まだ自らが半人前だからという理由らしい。
今回の戦いは、セフィアが率いる前衛部隊に配属された。
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神剣魔法解説
『グロゥリアス・アンセム』
使用者：『調律』の矜持
『調律』による支援系の神剣魔法。
本来、契約者である矜持のマナだけでは、狭い範囲で短時間しか発現させることはできないが、今回は『調律』の力が周囲から集めたマナを使ったため、広範囲と長時間の使用が可能となった。
支援効果は絶大であり、効果範囲内に存在する全てのスピリットの能力を飛躍的に上昇させ、さらに回復効果まである。ただし、解除時に効果対象者に発生する反動も絶大。
範囲系の神剣魔法であるため、通常は範囲内にいる敵味方関係なく支援効果を与えてしまう。
矜持は事前に味方であるイースペリア側のスピリットの『神剣』を全て把握しており、それによって効果範囲内の敵味方を判別することによって、味方側だけに支援効果に発現させた。
『クレセント・フィールド』
使用者：ミラージュ・ブルースピリット
永遠神剣である『修羅』『羅刹』の同時起動時において、契約者であるミラージュ自身に恒常的に発現する一種の対神剣魔法結界。
効果は自身以外、効果範囲内の赤魔法と緑魔法を敵味方関係なく、全てを無効化する。
恒常的にミラージュに発現しているが、意識を集中すれば効果範囲を広げることが可能。
今回の戦いにおいて、門の上のブルースピリット達の負傷をエル達が治すために緑魔法を使おうとしても、ミラージュのクレセント・フィールドによって消されてしまうため、エル達は後退せざるを得なかった。
永遠神剣の『羅刹』の力による青魔法の一種のため、当然ながら黒魔法は消すことはできない。
この状態でミラージュ自身が負傷した場合、結界による干渉を受けることがないエトランジェによる回復魔法でしか治せない。
『グングニール』
使用者：ミラージュ・ブルースピリット
永遠神剣である『修羅』『羅刹』の同時起動時のみ使用可能な攻撃系の神剣魔法。
赤属性の神剣魔法ではないので、アイスバニッシャー等で打ち消すことができないうえに、通常のスピリットのシールドハイロゥ程度は容易く貫通するほどの威力を持つ。
発動時に『神剣』に注ぎ込むマナの量により破壊力が上昇するが、その分、それに際してのキャスティング時間とコントロールするミラージュ自身の負担も増大する。
どちらかというと『オーラフォトンビーム』や『オーラフォトン・ノヴァ』に近い性能。
（イメージ的には某翼の生えてるガンダムのツ○ン・バス○ーライ○ル）
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特殊技能解説
『人工マナ結晶』
『調律』が周囲からマナを吸いあげ、矜持がオーラフォトンでコーティングしたもの。
これをスピリットやエトランジェが体内に取り込めば、一時的ではあるが自身のマナ保有量が増加することにより能力が飛躍的に上昇する。
ただし、あくまで強制的にマナを吸い上げる行為なので、周囲環境に悪影響を及ぼす。
『無詠唱状態』
『修羅』『羅刹』を同時に起動している状態のミラージュは、ほとんどの神剣魔法を詠唱なしで神剣魔法を行使しているが、これは『修羅』と『羅刹』がミラージュから供給された（略奪といったほうが近い）マナを自動的に神剣魔法に変換し、ストックしているためである。
銃で例えるなら、神剣が銃身の役割を果たし、ストックされた神剣魔法が弾丸のようなもの。
『バースト・ハイロゥ』
『修羅』『羅刹』同時起動時に展開できる、『修羅』の力による紅いウィングハイロゥ。
通常のブルースピリットやブラックスピリットと違って、炎で形成されている翼である。
赤魔法であるイグニッションの魔法を翼自身に宿らせることにより、文字通り爆発的な推進力を得ることができ、音速に近い速度を出すことが可能。
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施設解説
ランサの街
今回の防衛戦の戦場となった街であり、対ダーツィの最前線。
街にある門は全部で三つある。イースペリアに繋がる西門、マロリガンに続く南門、そしてダーツィに繋がる北門。
銀龍亭
ランサの街にある大衆食堂兼酒場。
『代金さえ払えば人間もスピリットも関係ない』のが店のオーナーの意向。
カルティスの所有する酒の出所はこの店である。