ファンタスマゴリア伝記・ハイペリアの昔話 
〜もしくは地獄の勘違い劇場〜





「アセリア殿…何やら騒がしいようですね。」

「ん。…オルファ達の、声。」


その日、ウルカ達が警備任務から戻るとラキオススピリット隊第一詰め所にはオルファ達年少組の騒がしい喧騒が響いていた。

別に珍しいことではないが、既に時間はそこそこ遅い。

一体エスペリアは何をしているのか、と思いつつも彼女たちは我が家のドアを開けた…。


…。


「それでそれで!その後どうなったの!?」

「ああ、その後はお爺さんやお婆さんと幸せに暮らしましたとさ。で…おしまい。」


ふと見ると、騒がしさの中心で隊長である『求め』のユートが何やら皆に言っている。

いや、何かを語って聞かせているのだろうか?


「ユート殿。何を話されているのです?」

「お、ウルカ、アセリアお帰り。…いやね、ちょっと昔話をねだられちゃって…。」


「何でまたそんなことに。」

「いやー、今日はエスペリアにこの国の歴史を習ってたんだけど。」


「エスペリアお姉ちゃん、ハイペリアの昔話を代わりにパパから教えてもらったんだって。」

「ん、そうか。」


つまり、それを見ていて羨ましくなったと言うことである。


「結構おもしろいよー。」

「よー。」

「ハイペリアにも色んなお話があるんだって。あーあ、カオリが居たら色々聞けるのに。」


上からネリー・シアー・オルファ。みんな好奇心旺盛なお年頃。

残念ながらエスペリアたちは居ないようだ。(カオリはサーギオス幽閉中)


よって取りあえずこの場の最年長として、ウルカがユートに釘を刺す事になる。


「しかしユート殿、明日以降に悪影響が出ませぬか…。」

「う、まぁそうなんだけど。」


だが、


「ウルカぁ。気にしない気にしない!」

「ないー。」


「そんな事よりパパ、早く続き!」

「…いや、だからアレでおしまい。」


「「「えーっ。」」」


ぶーたれるお子様たち。…だが、終わりは終わり。

各自引き上げていくのを見て正直ほっとするウルカである。


…じいーーーっ。


とはいえ、正直な話として一体どんな話だったのかも気にはなるようだ。

じっとユートを見つめる。


…その時、黙って成り行きを見守っていたアセリアが動いた。


「ユート。…どんな話?」

(アセリア殿、良いタイミングです!)


「ん?ああ、桃太郎だよ。」

「…ももたろお?」


「そう、俺の故郷の昔話。」

「どんな、話?」


「うーん、簡単に言えば英雄譚かな。…鬼って言う化け物を退治する勇者の話?」

「竜みたいなものか?」


「一応竜は別に居るけど。…そうだな、そんな感じか。」

「竜退治の英雄の話ですか。まるでユート殿のような…。」

「ん。ユートは魔竜を倒した勇者だから。」


流石に恥ずかしいのか、ユートは鼻の頭をかきながら謙遜した。


「でも俺はアセリア達が居てくれたから成功したのであって。」

「いや、ユートは強かった。」

「魔竜退治の噂はサーギオスまで伝わっています。謙遜することは無いでしょう。」


「いや、でも、その…あの。」

「ユート、続き。」

聖ヨトの勇者伝説に匹敵すると言うその話、是非とも先が知りたいです。」


(…なんか話が大きくなってる!?)


気がつけば、前門のアセリア後門のウルカ。

…何故かユートに逃げ場は無かった。


(たかが昔話でこんな緊張する羽目になるなんて…。)


冷や汗が背中を伝うが既に退路は無い。

そもそもこのヘタレに、

物語への期待がオーラフォトンと化しているこの2名を抑えることなど出来ようか?


…絶対無理だ。(断言)


「えーと、じゃあ…お婆さんが洗濯をしていると川上から桃が流れてきて。」

「『もも』とは何ですかユート殿。」


「まあ、ネネの実だな。…で、お婆さんが持って帰った桃をお爺さんが切ると、」

「切ると?」


「中から元気な男の子が!」



ゴオッ!!


その瞬間、恐怖を巻き起こす闇が周囲を覆う!

…つーかぶっちゃけ『テラー』だ。


「ね、ネネの実が…動いたのですか!?」

「ち、違う!…中に赤ちゃんが入ってたんだ。」


ピキーーーン!!


今度はアイスバニッシャーがユートを襲う。

どうやら彼女たちの感情に反応して勝手に技が出てしまったらしい。

だが、今の彼女たちにとって大切なのはそこではない!


「は、ハイペリアのネネの実は…そんなに大きかったのか!?」

「手前どもの世界の何倍あるのでしょうか。」


「ハイペリアに行った時…ん、食べておくんだった。」

「アセリア殿。残念でしたな。」



「ちがーーーーう!!」



体のあちこちに氷を貼り付けながらもユートは叫ぶ。

…このまま脱線させ続けるわけには行かない、

何だかわからないけどその直感だけは正しい気がしていた。

その為ユートは今までにも増して力説を開始する!


「その実だけが異常だっただけだ!…んで、桃太郎はある日…鬼退治に出掛ける事になる!」

「…なんで?」


きょとんとしたアセリアにより再度脱線。


「あ、アセリア?えーと、鬼があちこちを襲い宝物を溜め込んでいたからだよ。」


ガタッ

突然ウルカが立ち上がる!


「あちこちを襲い宝を奪う…山賊ですかその鬼とか言う者たちは。」

「い、幾らなんでもそれは違うんじゃないか?」


「ですが、ただの化け物でしたら金目の物を奪ったりはしないはずです。」

「…えーと。」


「故に手前はその『鬼』と言う単語自体何かの隠語のような気がしてならないのです。」

「いや、ウルカ。これはただの昔話で物語だからね?」


「物語だと言っても、きっと何らかの元になった逸話があるはず。」

「おーい、ウルカぁ、戻ってこーい。(汗)」


ぐいっ

その瞬間、ユートの首が後ろから引っ張られる。…尋常じゃないパワーで。


「ぐふっ!?」

「ユート、続き。」


…ちゃきっ

無言で構えられる『存在』


「は、はひ…。」

「ん。」


「も、桃太郎は旅の途中で犬猿雉の3匹をお供にするんだ。」

「どう、やって?」


「きびだんご…えー、まあ、食べ物だな。」


「餌で釣ったのか。」

「傭兵ですか。まあ一人では何も出来ないことはユート殿を見てもわかる事。」


「…そんな実も蓋も無い…。」


…その台詞はどちらの言葉に対してのものか…?

なお、ウルカに悪意は無く協力し合うと言うことの大切さを言っている…筈。


「うう、もういい。…で、桃太郎一行は海を越え鬼が島、つまり敵の本拠地に着いたんだ。」

「島そのものが要塞ですか。手強い相手のようですね。」


「戦いが始まる。犬は噛み付きサルは引っかく、そして雉は鬼の目を突付く!」


「目潰しとは卑怯な!!」


「…黙って聞いててくれ。」

「は、い。…申し訳ありませぬ。」


「ユート、涙が目の幅。」

「いいからアセリアも黙っててくれ…。」

「ん。」


ごしごし

アセリアは黙ってユートの涙を拭う。

…テーブル用の布巾で。


「て、手前も…。」


ウルカも拭う。

…手の届く位置には床掃除用の雑巾しかなかったが。


…。


「……。」

「ユート殿?」


「隊長命令。…最後まで黙って聞くこと。」

「ん。」
「承知しました。」


「桃太郎は鬼を退治して宝を手に入れました!桃太郎はそれを持って帰り、お爺さんお婆さんと一緒に幸せに暮らしましたとさ!めでたしめでたし!!…以上!」


どたどたどたどた


「ユート…行っちゃった。」

「一体どうしたのでしょうか?」


「ユート、泣いてた。…なんで?」

「判りませぬ。もしかしたら何か深い意味のある悲しい話だったのかも知れませぬな。」


…多分違う。


「ん?」

「…そう、例えば…はっ!!」


突然ウルカが雷に撃たれた様に立ち上がる!


「そう言う、事でしたか!」

「…ウルカ?」


「良く聞いてくださいアセリア殿!」

「ん。」


「あの、ネネ太郎とか言う輩…持ってきた宝は山賊どもが奪ってきたもの。つまり盗品。」


ぽん

アセリアが合点がいったと言わんばかりに手を叩く。


「ですがネネ太郎は…それを元の持ち主に返すことをせず全て自分の物にしております。」

「ん。」


「つまり、ハイペリアの民達は自分の宝を取り戻す機会を失ったと言えましょう。」

「…取り返せないのか?」


「相手は凶悪な山賊団を倒した英雄で武力も高い。…無理でしょう。」

「ひどい。」


「ハイペリアの歴史も…血塗られているのですね。」


ある意味それは正しい。

だが根本的な部分で何か間違っていた。


…そして不幸なことにその勘違いをとめられる者はこの場に居なかった。


ユートは既に不貞寝の真っ最中。

光陰は黒焦げ…理由は推して知るべし。

京子は第2詰め所に食事に向かっている。


「城の書記官に頼んで文面にして貰いましょう。ハイペリアの貴重な資料となりましょうから。」

「ん。そうだな。」


こうして、ハイペリアの間違った知識は文書化され、

ラキオス図書館の重要資料として永久保存される事となってしまったのである。


…合掌。

― おしまい ー




−−− 余談 −−−


「そういえば、ごは…エスペリアは何処?」

「…さて、手前は存じませぬが、自室では?」


…気がつけばスピリット2名ははらぺこであった。

すっかり遅くなってしまったが、普段ならエスペリアが何か作っていてくれるはず。

なのに今日はそれが無い。


…一体エスペリアは何をしているのか?


「エスペリア殿、入りますがよろしいか?」

「ごはん…。」


ぎぎぎぎぎ…

ドアが軋みながら開いていく。


「エスペリア殿?」


…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

バタム!!


「…い、今の瘴気は一体!?」

「えす、ぺりあ?」


呆然とする二人。エスペリアの自室の中は…。

…何というか、異様な気配に包まれていた。


多分、テムオリンでもここまでの事は出来ない。


「ん、もう一回入る。」

「しっ…何か聞こえます。」



『……姫』



「今の、何。」

「エスペリア殿の声のようですが。」



『なぜですか…どうしてそんな、結末、なのですか…。』



「…エスペリア、剣に…飲まれた?」

「いえ、むしろ『献身』の困惑が痛いほど伝わってくるのですが。」



ガバッ!!

その時突然扉が開き、二人は暗闇の支配する部屋の中に引きずり込まれた!

何が起こったかわからないままゆっくりと目を開ける二人。そこには…。




夜叉が居た。





「お帰りなさいと言うか聞いてくださいアセリア今日ユート様に歴史をお教えした際ハイペリアの昔話を幾つかお聞きしたのですがそれが納得いかなくていえユート様に不満があるわけじゃないのです私はお側に居られるだけで幸せですしスピリットがそれ以上を望むのも間違っているのは重々承知なのですがユート様はむしろ私たちに戦い以外で生きろとおっしゃられるので万事OKドンと来いと言った感情も無いわけではないですしむしろ迫られたら迷う事無くついて行きたい所ですが貴女のフラグが立ってしまってステータス画面で頬を染めるまでになった私の立場は一体と言う気持ちは腐るほどありましてオルファともども貴女のお茶に毒の10や20入れても全然平気な貴女に戦慄してそうしたら何故かユート様の方が倒れていましてなんでこんな事になったかと熟慮していましたらついうっかり私以外を選んだあの愛しいヘタレに対しても殺意の千や二千持っていたと言う浅ましさに気づきましてああ私はやっぱり魔女で愛した人は次々死んでしまうのですねと納得しいえそんな事はどうでも良かったですね問題は其処では無いのでしょういいですかアセリアああちょうどいい所にウルカも居たのですかそれでは一緒に話を聞いて頂きたいのですが実は聞いたお話の中ってユート様から聞いたハイペリアの昔話の件なのですが実はどう考えてもスピリットとしか思えないような話がありましてつまり納得がいかなかったのですよだってそうじゃないですか泡は嫌ですよ泡はしかも失恋ですしええ何しろユート様は私たちに生きろとおっしゃられたのになんであんな結末の話を私にするのかわからなくなっていえそうではありませんねきっとアレです放置プレイとか言う奴ですもしくは言葉攻めですきっと私のことが大切なのですが間違ってアセリアの高感度も高くしすぎて私のルートに入れなかったからせめてこういう形で刹那な愛を紡ごうと言うのですねユート様はやっぱりお優しいお優しいのは結構ですがなんでこんなのまで拾ってくるのでしょうね分かってますかあなたの事ですよウルカいえ私も貴女のことは好きですよただねこれ以上恋敵が増えるのは承服しがたいいえ分かっていますどんな風にユート様が思おうと所詮スピリットは戦いの道具でしかないでもねオルファ忘れないでこの世にはユート様のような方がいらっしゃると言うことをそれを心の奥に締まっておくのですというのは余談でしたねと言うかここにオルファは居ませんでしたもし居たとしたらこんな話できるわけが無いですからそうですよ私はお姉さんなのです汚れていますから妹たちを体を張って守るのも役目の一つなんですでも出来れば綺麗なままでユート様かもしくはああそんな事はそれこそどうでもいいですむしろ独り言とは言えラスク様のことをみんなに知られたらその時点でユート様争奪チ〇チキレースから脱落ですと言うか古いですね分からないならそれでもいいですまあ第3章の某任務10ターン目が過ぎた時点で既に勝負も何もあったもんじゃないわけですがつまり私は悲しいのですだってそうでしょう私たちはユート様の言葉を信じて生きてみようとし始めて居る訳ですがいきなりハイペリアにもこんな悲恋な物語がしかもスピリットに似た特性を持つ種族の物語として」


ざくっ…!




「アセリア・殿?」

「つっこみ。キョウコの、代わり。」


「…しかしいきなり『存在』はまずいのではと手前は思うのですが。」

「コウインが食らうのは…もっと、強い。」


「あー。しかし、やはり脳天はやめて…後せめて峰打ちに…。」

「じゃあ、そうする。」


ゴスゥッ!!


「…追撃してどうするので?」

「峰打ちしろって、言うから。」


…。


その後エスペリアは第2詰め所に運ばれ、目覚めたときにはこの日の記憶がすっかり飛んでいた。

一体彼女に何があったのか…何を聞いたのか、ユートが答えることは結局無かった。


そして数日後。


「あの、キョーコ様?」

「なに?エスペリア。」


「お聞きしたいのですが…『人魚姫』って単語に覚えがありませんか?」

「あ、それってあっちじゃ有名なおとぎ話じゃない。」


「そうなのですか?…実はある日私の手帳にその言葉が血染めで書かれていまして。」

「え、誰かに落書きされたの?」


「いえ、乱れては居ますが私の字なのです。」

「ふーん。じゃあ教えてあげる。…えーとね、昔海でおぼれた王子様がいて…。」





















惨劇・もしくは阿鼻叫喚


















:::後書き:::

はじめまして。BA-2と申します。

最近手に入れた永遠のアセリアにはまり込んでこうしてSSまで書き始めてしまいました。

…ヘッポコな上に性格が違うような娘も多いですね。

上手く書けません。しかもギャグとは言え文字の修飾が多い!…駄目SSの見本ですねこれじゃ。


こんな駄文ですが石を投げないでいただけると嬉しいです。(特にエスペリアファンの皆様)

そして笑っていただければ幸いです。

いつか次のネタが出来たらまたお会いしましょう。(未定)

それでは。