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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 5  反発するエゴ

第7節 『懺悔』








エトランジェを真正面から圧倒したスピリット……



そのスピリットは今――







「ねえねえ、あの見えない『く〜る』な突きってどうやって出してるの!?」
「オルファは、あのパパの攻撃を防いだ障壁の張り方を知りたいっ!」

「……あの、ネリーちゃん、オルファちゃん……ちょっと落ち着いて、ね?」







――ガキ共に囲まれて困っていました。











「………………」

その光景を、少し沈んだ顔で見つめているアオ――



――いや、沈んでると気づいたのは……ラキオスを出発してから……







そんな悩み事してますって顔を曝け出していたら――



「…………アオ、どうしたのですか?」

「あ、エスペリアお姉ちゃん……」

「……もし、私でよければ相談にのりますけど……」



――当然、周りに心配される。







「ううん、なんでもないの……私、雫のお手入れしてくるね」

「――ぁ、」

メイドの姉ちゃんから逃げるように、部屋を飛び出すアオ――



そして、アオの借り部屋に駆け込み……オレを適当な所に置いて、ベットに倒れ込んだ。







アオをそこまで追い込んでいる悩み――



――んなもん、一つしか存在しない。







『……やっぱり、戦うことに抵抗があるのか?』

「……うん」



『アウルから聞いたんだが……お前、敵を捕虜にできるから……戦うことを望んだんだろ?」

「……………………」



アオは答えない……







そして、数分間の沈黙の後……アオは、自問するように口を開く。



「あのさ……私だけ殺さないように努力しても……やっぱり死んじゃう人って、居るんだよね……」

『あたりまえだ……一人に出来る限界なんて、たかが知れてる』

「……そう、だよね……」

『ああ、そうだ……』

「………………」

『………………』



人を殺さなければいけない理由――



それは、様々だ。







―― 己の欲望のため ――



―― 自衛のため ――







―― 今の俺には、これぐらいしか思いつかない。







だから、俺にはアオの考えが解らない。







2つの答えしか存在しない問題を……ある筈が無い答えを必死に探してるのかを――



相手が、滅殺の意思で殺しに来るのに……なんで相手のことを気にかけるのかを――







――今の俺に解る筈が無い――











――昔の……奇麗事だけを知っていた頃の自分は……果たして、その問いにどう答えるのか――















無駄な事を考えていると悟った時、扉をノックする音が聞こえた。



「――ちょっと、いいかしら?」

「クルゥ……お姉ちゃん?」



その扉を叩いたのは……意外な人物だった。



「…………入って……いい?」

「うん……いいよ……」

「おじゃまするわね……」



緑が特徴の彼女は……扉を開けて、姿を表す。



「……どうしたの?」

「ちょっと、お話したいなって……」



クルゥの姉ちゃんが、アオの隣に座り……雑談を始めた。



――アオの日常の事。



――ここでの生活の事。



――オレについて……







そんな質問を、アオが表情を曇らせたまま答える。



そんな二人を尻目に、俺は改めてクルゥの姉ちゃんを観察する。







ストレートの緑色の髪に、整い過ぎた顔と、大きくも小さくもない胸――



――絶景の美女だが、スピリット全体から見れば……普通だ。







マナの容量は比較的高く……エトランジェに及ばなくても、スピリット中ではトップクラスと言える。



――欠陥品(アオ)とは大違いだ……これほどまでに完成された妖精は、世界に3人と居ない。















……そこで、ふと疑問を覚える。















なぜ、アオが欠陥品だと発想したのか?















――アオが欠陥品??



確かに、確かにアオは……マナの容量は、そこらのスピリットの半分にも満たない。



オレの力を引き出せなければ、ハイロゥを展開する事さえ出来ないから……だから、欠陥品?







『…………チガウ』



ソウ……じゃない……



少し……ほんの少しづつだけど……流れてくる……











『器』について――



オレは、『器』ノ作製にシッパイしてたんだ……







今までハ、簡単に『器』ヲ巧く作っていたのに――



――どうして、『鍵』を入手した途端……『器』の作製に失敗シテしまったのか?











思い出せ……コレハ、重要な事だ。











――お前が揃えても『時神 雫』自身には何のメリットも無く、デメリットしか存在しないって事さ――











そう……(オレ)には何のメリットも無ければ、デメリットしか存在しない。



だが、(オレ)には多大なメリットが有れば、デメリットなど……存在する筈が無い。











だから、思い出せ……『器』の作製に失敗した理由を――







思い出せ……『器』を再び修理する方法を――







ソレハ……タシカ…………………………

















「――解る訳ないよっ!!」
『――!?』

アオのヒステリックな声のお蔭で……沈みすぎた思考が浮上した。







自分が何を考えていたのか? という疑問より――



何故アオが怒っているのか? という疑問が勝っていたからだろうか――







――さっき考えていた事が、何も思い出せなくなった。







でも、不安は無い……



もう、慣れたから――



――だから、何の問題も無い。







そう思わないと……とても正気が保てない。











――いや、そんなことよりも……コイツ等はどうしてケンカしているのか?







「クルゥお姉ちゃんに……解る訳ないよ……」

「どうして?」

「だって、あんなに強いから……私の悩みなんて……解らない……」



……なんとなく、展開が読めた。







つまり、クルゥの姉ちゃんがアオの悩み事を聞き出そうとして――



――アオがキレたと……そういう事だろうか?







まあ、アオの気持ちも解らんでもない。







毎日々アダルト組から相談事を聞くと言われ続ける日々――



――答えても、絶対に『何をバカな事を考えてるの』という感情が返ってくるのが解ってるから、誰にも言わない。







ストレス溜まりまくりな日々が続いて、トドメにクルゥの姉ちゃんの襲来――



――つまり、堪忍袋の尾が切れたという事だろう。







「……なんで、強いと解らないのかな?」

そんなアオに対して、クルゥの姉ちゃんは優しく問い掛ける。



「…………………………」



アオは答えない――



――いや、答えようかどうかと迷っている。







そのまま数分の沈黙の後――







「――お姉ちゃんは……人を殺すこと、どう思ってるの?」



答えの解りきった質問を、言葉に出した。







――んなもん、当然のように『それがスピリットの使命だからよ』とか抜かすに決まってる。



そして……アオは、また落ち込むのだ。







「……そうね……とても辛いわよ……」



だが、クルゥの姉ちゃんが出した言葉は……予想した答えと全くの正反対の言葉だった。







「……本当?」

「ええ……でもね、一番辛いのは……自分の失敗で、人が死ぬときかな……」

「………………自分の……失敗で?」



クルゥの姉ちゃんの顔は、真剣で、泣きそうで――



――まるで、過去の行いを懺悔するように、言葉を紡ぎ始める。







「私もね……アナタと全く同じ時があった……」

「なんで同族であるスピリットを殺さなきゃいけないのかって……そんな悩みを抱えてた」



「………………」

アオは、何も言わず……真剣にソノ話を聞いている。



「それで、誰も殺さないように……頑張って――」

「――結局、みんな……私を庇って死んじゃった……」



「その時……誰も居なくなった……一人ぼっちの館で一日を過ごして……初めて後悔した……」

「本当に大切なものは何だったのか……自分の考えてた事が間違ってたんだって、初めて気づいたの」



「……じゃあ、もう……殺す事は……辛くないの?」

「辛いわよ……」



「辛いけど、自分の所為で仲間が死ぬほうが辛いから……だから、我慢してるの……」







「自分が戦って人が死ぬ……でも、戦わなかったら、もっと死んでしまう……」

「どっちを選んでも、人が死ぬなら……私は、私の大切な人が死なない道を選ぶ……」



――それが、クルゥ・グリーンスピリットの答えだった。







「……アオは違うの? もし、自分の所為で……誰かが死んだら――」
「――違わない!!」

そんなアオの答えに安心したのか……本当に安心した顔で、アオを見つめるクルゥの姉ちゃん……



「アオ……戦いに迷ってるなら、心に刻んで……」

「自分の所為で死んでいった人達の為にも生きる事――」

「殺してしまった人達の未来を奪ったからには、殺した人達の分を生きないと――」



「――殺された人達が浮かばれないの」



そんな言葉を残して……クルゥの姉ちゃんは退室する。







アオは、無言でその背中を見送っていた。







――そして、その表情には……沈んでる面影は、既に無かった。








あとがき



 第一詰め所の方々の存在が無くなりかけている今日この頃ですが……何とかなりますように……
――つーかぁ、第1詰め所の人達より第2詰め所の人の方が書きやすいんだもん!

っと、そんな愚痴が飛来しているASファンです。



 そろそろキャラクタの登場率を平均的にしたいのですが……
……物語の進行上、クルゥ姉さんを中心に廻っておりますので、巧く書けません(涙)

そして、クルゥ姉さん……かなりヘビィな経験の持ち主です。

つーか、アオの説得を任されるには、アオと似たような思考をして、既に後悔済みじゃなきゃダメだなぁ……
という脳内妄想の結果、こんなヘビィな生い立ちになった次第で有ります。

余談ですが、久々に出ましたね……『鍵』と『器』のヒントが……つーか、ぶっちゃけ、答えっぽい言動がね(汗)


アオの悩みも薄れたので、次回はやっと戦闘へ♪
今度こそ、出番の少ない人を中心で書きたいと思います。

――がんばれ、俺!




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