永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 5 反発するエゴ
第6節 『知らない単語』
――クルゥ・グリーンスピリット――
ラースで極秘裏に訓練されたスピリットの一人で、その訓練の成果を試す為に今回の戦闘に参加する事となったそうだ。
その事を知るのは、国王を含めて極少数……
そして、戦闘力は未知数――というのは、味方としてどうか? というセリアの姉ちゃんの意見により
サモドアに到着したその日に、高嶺兄VSクルゥの対戦が始まろうとしていた。
『つーわけで、俺は高嶺の兄ちゃんが勝つほうに今日のおやつを賭ける!!』
第2詰め所恒例のお菓子トトカルチョルール・其の壱――
第2詰め所の住人であれば参加は自由……だが、強制参加を宣告されたら絶対参加!
其の弐――
――負けた奴は、勝者に3時のお菓子を献上する。
其の参――
――勝者が複数居た場合は、勝者全員に行き渡るまでお菓子抜き!
其の四――
――敗者が複数いた場合は、勝者の一人が敗者分のお菓子をゲットできる。
つまり、敗者が多ければ多いほど……勝者一人分の糧は膨れ――
勝者が多ければ多いほど……敗者は勝者の人数分の日数は、おやつ抜きという過酷なルールなのだ。
「雫の分は無いはずですが?」
『うむ……ナナルゥの疑問も最もだが、問題無い!! なぜなら、アオのだから♪』
「えぇー!?」
『アオ……何を不満そうに? 高嶺の兄ちゃんが負けると思ってると?』
「そ、そんな事無いけど……」
『じゃあ、俺とアオは高嶺の兄ちゃんに一票♪』
……力だけなら、高嶺兄に勝てる奴はそうそう居ない。
だが、技術はラキオスの中では下の下――
――クルゥの姉ちゃんのスタイルがテクニック系だったらキツイかもしんない……
「……なんで雫に私の分が賭けられちゃうんだろう?」
『――なんか言ったか?』
「べつにぃ……」
「じゃあ、ネリーもユート様に♪」
「――シアーも♪」
「――ヘリオンは?」
「わ、私も参加なんですか!?」
「もっちろん♪ ――あ、ナナルゥもだからね!」
ネリガキの強制参加宣言により……ヘリオンのガキは、当然のように高嶺の兄ちゃんに――
――ナナルゥの姉ちゃんは、保留……
きっと、一人の力が未知数だから脳内コンピュータがフル稼働してることだろう。
「じゃあ、オルファもパパに賭ける!!」
――つーか、オルファのガキや……テメェは第1詰め所の住人だろうが!
何で第2のお菓子トトカルチョに参加してやがる!?
「え゛〜、オルファもユート様だったら賭けになんないじゃん……」
ネリーさん……オルファが参加する事に文句は言わないんですか?
……別にいいんだけどさ……
でも、確かにネリガキの言うとおり、全員高嶺の兄ちゃんに賭けたら、賭けが成立しない――
――どうするよ?
――そう思った瞬間だった――
「じゃあ、私はクルゥさんに一票です〜♪」
待ちに待ったカモが現れた……でも、なんで??
「ねえ、ハリオンお姉ちゃん……なんで?」
俺の疑問に呼応するように、アオが質問してくれた。
んで、その答えは――
「だってぇ〜、もし勝ったら……明日のお菓子が6人分くらい増えるんですよぉ〜♪」
――だそうです。
実に欲望に忠実な人だなと……改めて思う。
「――では、私もクルゥに賭けます」
――ようやく、ナナルゥの脳内コンピュータ……略してナナコンの演算結果が出たらしい。
でも、珍しいな……ナナルゥの場合、もうちょっと情報を集めてから結果出すと思ってたんだが――
「じゃあ、私もクルゥに!!」
「し、シアーも!!」
「オルファも♪」
『――待てやガキ共!!』
なんで!? どうして?? 訳解らん……
「う、ぅぅぅぅ……」
――んで、ヘリオンのガキがモノ凄い葛藤に襲われてるのもなんで!?
――そうか……ハリオンか……
ハリオンの姉ちゃんか……奴が何かしたんだな……
――だが、ヘリオンだけは渡さない!!
「……私も……その……言いにくいんですけど……」
『アオ、俺の言葉を復唱!!』
「――へ!?」
『ヘリオンちゃん、ユート様に対する想いはその程度なの!? ――はい!!』
「――へ、ヘリオンちゃん、ユート様に対する想いはその程度なの!?」
「……っ!?」
己の道に迷った戦士が、初心に返るような如く……ヘリオンのガキの表情が凛々しく変わった――
『アナタがユート様を信じなくて、一体誰が信じると言うの!? ――はい!』
「アナタがユート様を信じなくて、一体誰が信じると言うの!?」
「……そうだ……私だけでも……信じなきゃ――」
『アオの分も肩代わりする程の勢いを見せてこそ、本当の愛というモノだよ! ――ハイ!』
「えっと……私の分も肩代わりする程の勢いを見せてこそ、本当の愛というモノ……なのかな?」
――そういうモノなんです……きっと……
「アオさん、ありがとう! 私、愛というモノが何なのか……よく解りました!!」
今の言葉で、本気で解ったのか?
――だとしたら、君の将来は闇一色では無かろうか?
「私は、ユート様が勝つほうに……アオさんの分を肩代わりするだけじゃなく、一年先までのおやつを賭けます!!」
『うわぁ、すっげぇ宣言したよ』
「うわぁ、凄い宣言したね」
「これが、私の想いの大きさですっ!」
大きいのか小さいのか、微妙に解りづらい大きさだな……
『……ちなみに、もう復唱はしなくてもいいぞ……』
「うん……なんか……凄く悪い事をしたような気がする……」
――早く善悪の区別つけようね……それと、間違い無く悪い事だからな……これは……
「まったく、あの子達は……」
トトカルチョ参加軍団の後ろで、セリアの姉ちゃんは頭を抱えていた。
そんなセリアを見て、ちょっと苦笑いしてる高嶺の兄ちゃんと第一の人達+クルゥの姉ちゃんとヒミカの姉ちゃん……
『セリアの姉ちゃんも参加する?』
「――しないわよ!!」
即答で返された……しかも怒鳴られたですよ。
――にしても、セリアの姉ちゃん……背中に気をつけたほうが良いぞ……
何故なら……君の後ろで苦笑いを浮かべてた人達が怪訝の眼差しでアナタを凝視してるから♪
――ヒミカの姉ちゃんだけは、同情するような目で見てるけどね。
――とまあ、そんなこんなで……クルゥの姉ちゃんと高嶺の兄ちゃんが訓練所の中央へと移動する。
「……ルールは真剣勝負で……いいのか?」
「ユート様……何故、私の方を見るんですか?」
「いや、言い出したのセリアだろ?」
もっともな指摘に、セリアの姉ちゃんは轟沈♪
セリアの姉ちゃんがどうしようかと悩んでいると――
「構いません……むしろ、私の実力を見るのなら真剣勝負の方が見定めやすい筈ですが?」
「……解ったわ、真剣勝負でお願いします」
その言葉で、奴等の纏っている雰囲気が切り替わった――
――さて、戦闘開始だ。
両者は、10歩という間合いで相手の様子を伺っている。
「先手は譲ります……お先にどうぞ……」
そう言って……クルゥの姉ちゃんは片手だけで槍を持ち、高嶺の兄ちゃんに向ける。
「じゃあ、お言葉に甘えて……行くぞ!」
高嶺の兄ちゃんが走り出す。
だが、クルゥの姉ちゃんは……片手で槍を突き出したまま動かない――
――あれが、クルゥの姉ちゃんの構えだろうか?
そんな事を考えている間に、高嶺の兄ちゃんは剣を振り上げる。
「うおぉぉおおお!!」
振り上げられる『求め』……
5足の間合いという離れた場所で振り上げた所から予測すると、先に槍の矛先を弾いてから連撃を仕掛けると見た。
――だが、『求め』が振り落とされる前に……緑の障壁が出現する。
その範囲は、槍の矛先までを包み込んだ巨大な三角柱――
緑の障壁は、その
『――馬鹿な!?』
――だというのに、『求め』による一撃は……完全に停止していた。
驚いてるのは……きっと、俺だけじゃない――
――高嶺の兄ちゃんを知る奴全てが……その本人でさえ、その現実に驚愕していた。
その中で、一人だけ正反対な表情をしている奴がいる――
――亀裂が入ってない緑の障壁に守護されているソイツは、拍子抜けした表情で高嶺の兄ちゃんを見つめていた。
「――全力で来ても下さっても構いませんが?」
「っ、じゃあ本気でいかせて貰うぞからな!」
さすがに、そのセリフが癖に触ったのか……クルゥの姉ちゃんから距離を取り、『求め』に意識を集中させる。
「バカ剣……もっとだ、もっと力を引き出せ!!」
『求め』から発せられる情熱のオーラは高嶺の兄ちゃんを包み、足元の魔法陣の輝きが増していく――
「――うぅぅおぉぉおおお!」
先とは違う……渾身の力を込めた一撃――
――きっと、其の一撃は……大地さえ軽く陥没する程の威力だろう。
それを前にしても……クルゥの姉ちゃんは、不動だった。
『求め』が再び振り下ろされる――
――緑の障壁と高嶺の兄ちゃんの一撃が交差した途端……俺達が居る訓練所の端まで、突風のような衝撃を感じ取れた。
「――っ!?」
『求め』が触れている部分に、亀裂が走った。
その亀裂は徐々に広がっていき――
「――ぬ、ぬああああああああ!!」
クルゥの姉ちゃんの咆哮と共に、緑の障壁が輝きだす。
「――ぉおおおおおおおおお!!」
高嶺の兄ちゃんの咆哮に呼応するように、『求め』も輝きを増す。
その光景に息を呑んだのは、俺だけじゃないだろう。
一番場慣れしている年長組みも、ガキ共も……見惚れいる。
ただ、障壁を砕くか、砕かせないかの攻防なのに……なぜ、こんなにも目が離せないのか解らなかった――
――そして、その攻防もついに終わる――
ガラスが割れる音と共に、緑の障壁は砕けた。
だが、高嶺の兄ちゃんは……強固な障壁を砕いた代償として、隙だらけ――
そして、全力で張った障壁を砕かれたクルゥも隙だらけ――
――では無かった。
障壁が破られた途端……クルゥの槍の矛先が霞み――
――高嶺の兄ちゃんの両腕・両足から血が噴出した。
何が起きたのか……解らなかった。
ただ……高嶺の兄ちゃんが、そのまま地面に崩れ落ちていく姿を見て――
――ああ、負けたんだなと……そんな事実だけしか解らなかった。
「……………………」
審判役であるセリアの姉ちゃんや、真っ先に声を上げそうなメイドの姉ちゃんでさえ……放心している。
――龍を殺し、一人でバーンライトのスピリットを大量虐殺した高嶺の兄ちゃんが負ける事には驚かない。
技術的には初心者の域を抜けていないし……隙を突けば、ベテランのスピリットでも勝てる。
だから、皆が放心している理由は一つだけ――
――
その事実が皆を放心状態へ誘ったのだ。
「……ユート……大丈夫か?」
そんな中、鎧の姉ちゃんが高嶺の兄ちゃんに駆け寄る。
その行動で……皆を現実に引き戻した。
「ユート様!!」
メイドの姉ちゃんも、慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか? いま癒しの魔法を――」
緑のマナが高嶺の兄ちゃんに吸い込まれ、傷が塞がっていく。
「ああ、サンキュ……エスペリア……」
「まだまだ、訓練不足だな……オレ……」
「……ユート様……」
自分に力が無い事に落ち込み――
――メイドの姉ちゃんは、そんな高嶺の兄ちゃんに、なんて声をかけて良いのか迷っていると――
「そう、悲観する事も無いでしょう……」
――と、クルゥがそんな言葉を発していた。
「ユート様は、戦いの無い世界から来たのでしょう?」
「くわえて、この世界に来てから剣を持ったと言うのであれば……間違い無く才能がある筈です」
「そう言って貰えると助かるけど……でも、クルゥ……良く知ってるな」
「オレ、戦いの無い世界から来たって……あんまり言ってない筈なんだけど……」
「ぁ……その……キギョウヒミツです」
「そっか……企業秘密なら、仕方が無いな……」
そんな、高嶺の兄ちゃんとクルゥのやりとりを、遠くからセリアの姉ちゃんは見つめている。
そう、まるで……敵を睨んでいるように――
ソレは、オレも同じ……
『なあ、ナナルゥ……『企業』って言葉を知ってるか?』
「キギョウ、ですか……聞いたことが無い単語ですが――」
『……知らないのか……じゃあ、なんで……』
――アノ姉ちゃんは……『企業』という言葉を……知っているんだ?
それ以前に、高嶺の兄ちゃんと接点が無かった奴が……何故そんな事を知っているのか?
――クルゥ・グリーンスピリット――
改めて、謎に包まれたスピリットであることを自覚した。