作者のページに戻る

永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 5  反発するエゴ

第3節 『悪化』








変わっていく――



得体の知れないモノに変わっていく。















ヤツは、3位の癖に大した力も無く、強力な神剣魔法さえも無い……



身体能力の強化も低位神剣と大差無かった。



更に、己の契約者の精神を呑み込めない程……力が無かった――















塗り替えられる――



まるで、霜のように……白く白く塗り替えられていく。















ヤツの契約者は……不可解な事に、そんな神剣に愛着を持っていた。







そんな二人は、力が無い事に悩み、苦悩し……そして、希望を見出した。















入ってくる――



知るはずの無い知識が入ってくる。







ソレはヤツの契約者の戦闘経験であり、戦闘情報でもある。















――低レベル神剣魔法の大量ストック――















――それが、あいつ等の戦い方だった。







隙あれば神剣魔法をストックし、ここぞという隙で標的に向って一斉に炸裂させる。



だから、神剣の殆どの力を魔法精製に回す為、武器として使用せず――



――青マナを操って創り出した氷の刃こそが……あいつの武器だった







何時しかヤツも、契約者に愛着を持つようになる――







秩序(ロウ)の癖に、混沌(カオス)に近かった永遠者(エターナル)――



――だからこそ……アノ日を迎えてしまった。















ブツン――っと、視界が切れる……















『ぃ……つぅ……』

また……知らない内に、意識が飛んでいた――



人気の無い空間……

周りには、錆びれた剣から高価そうな鎧まで……

様々な武器・防具が陳列している。




俺もまた……錆びれた剣達と共に陳列している。







『…………くそっ!』



二日前……

アオがラキオスに強制送還されて、兵士が俺をアオから取り上げて――

――俺がこんな場所に放置されたのが始まりだ。



数時間の間隔で意識が飛んでいる事に気づいたのが昨日――



『冷酷』が、本腰入れて俺を呑み込もうとしてるのだと悟ったのが数時間前の事……







なんで、今頃になって『冷酷』が暴れ出したのかは解ってる。







サモドアで大量にマナが抜け落ちた事――





アオが言った言葉――







―― 絶対に殺さない……私、絶対に殺さない……もう、あんな事……嫌なんだもん!! ――







それは、つまり……マナを取り入れる事が困難という意味を示す。







駄目押しに、ヒミカの姉ちゃんを助けるためにマナを大量に消費してしまった事――







だから、冷酷は怒ってる。



もう、俺に任せられないと……そんな意思が内から感じ取れる。







『……保つかなぁ……俺……』



俺は……まだ、呑まれていない……

俺は、まだ『時神 雫』だ。



でも、正常なのかと言えば……もう壊れてるのも明白だ――



今も、空腹で、スピリットを殺したいという欲求が暴れてる……

それを、嫌悪しなくなった自分が居る――

――それは、当然の事だと……そう感じている自分が居る。



冷酷と一つになるという事……

それは、俺の意識が無くなるのではなく――



――俺が今まで蓄えてきた常識が、神剣の常識に塗りつぶされる事。







自分から湧き出た考えが、本当に自分から湧き出たモノなのか……



自信が無い――



俺の意思なのか、冷酷の意思なのか……もう、区別がつかない状態まで来てる。







区別できるのは、矛盾した考えが浮んだ時だけ……







それさえも認識できなくなってしまったら……完全にアウトだ。







『……………………腹……減ったなぁ……』



空腹だから、思考がネガティブになっているのかもしれない。







サモドア直前の大決戦で吸収したマナは、既にマイナスに達している。



この空腹を癒すには、マナが必要なのは嫌でも解る……



でも、契約者は……この近くに居ない。



この状態で、飢えを満たすには――







飢えを満たしたいのなら……眷属を使えばいい――



俺の分身となる眷属を使い、マナを吸収するしか……方法は無い――







無意識に、そんな考えが浮かぶ……







けど、どうやって妖精を眷属にするというのだ?











―― 一瞬、ネリガキやニムニム、セリア……ナナルゥの姉ちゃんにヒミカの姉ちゃんの顔が浮かんだ ――











『……ぁ』



眷属……雫世界に訪れたスピリット達……



『そうか……そういう事かよ……』



最悪で、間違っていて欲しい一つの仮説が頭に浮かんだ。







スピリット……外見は人間と変わらないが、決定的に人と違う部分がある。



それは、彼等の外見を構成する……マナ――

――肉体を持たない彼等は、マナで創られた器で行動する。



神剣の糧は『マナ』、スピリットを構成するのも『マナ』

だから、神剣とスピリットはセットなのだ……



神剣は契約者からマナを吸収する……その見返りとして、力を貸す――

――だが、マナが足りなければ眷属を増やし、その眷属からもマナを吸収する。



眷属となる条件は、その主に屈服しており、パイプが通っている事にある。



――その為の雫世界――



雫世界へ引き込んだ者達は、パイプを繋がれる。

繋がった証拠として、会話が可能になる。







ネリガキ、ニムニム、セリア、ナナルゥの場合は、俺の近くで無防備に眠っていた時――



ヒミカの姉ちゃんは、死の恐怖という弱みに付け込んで――



精神的な弱みを持ったスピリット程、ラインを通しやすくなる。

その為、ヒミカの姉ちゃんは雫世界に引き込むまでも無かったと……そういう事だ。



『……最悪だ……』



俺が冷酷と完全に一つになった時……俺はマナを効率良く集めるために屈服させ、あいつ等を使うだろう。



ソレだけは、なんとしても阻止しな――――







「――雫、何処?」

『……っ!?』

――突然、知った声がしてビックリする。



今のは、セリアの姉ちゃんの声だ……

何時の間に入ってきたんだ? つーか、何で此処に??



『は、づ――っ!?』

瞬間、頭を鈍器で殴られたような痛みが全身に行き渡る――



「発見しました……」

『――な、ナナルゥまで!?』

「? どうかしましたか?」

『な、なんでもない……、ん?』



―― 一瞬……何かを忘れたような感覚に襲われる ――



なにか……大切な……

一刻も早く伝えなきゃいけない事があった気がする……



「どうしました?」

『……なんでもない……筈だ』

「そうですか……」



何かを忘れているのはハッキリと解るけど、何を忘れているのかが全然解らない……そんな感覚……



まあ、いずれ思い出すだろう……







「みんな〜、雫発見したよ!!」
「よぉ〜〜??」



『ネリガキやシアガキまで来てるのか? ……ぁ?』

なんだろう……ヤツが持ってるオンボロの日本刀は?



「ネリー……雫は、そこまでボロくないわよ……」

セリアの姉ちゃんや……そこまで――ってなんだ? 多少はボロいのか!? そう言いたいのか!?



「そうかな〜?」

「それに、柄の形が違うじゃない……」

「あ、本当だ……」



『――おい、ムネ凸凹姉妹……何処をどう見れば、そんなボロ剣と俺を見間違うんだよ!?』

「あ、雫だ……って、むねでこぼこ姉妹って何??」



嫌味さえ通じねえよ……このおバカは……



……だったら――



『お前等みたいに『超く〜る』な姉妹の事を言うんだよ』 (注:棒読み)

「超く〜る!? そうなのっ!?」

『そうなんです……』 (注:超・棒読み)



「むねでこぼこ姉妹かぁ……うふふ♪ シアー、後でユート様に自慢しに行こう♪」

「――うん♪」



くっくっく……バカめ。

コレに懲りて、己の無知を呪うがいい――



「…………」

なんだ……ヒミカの姉ちゃんも来てたのか?

「……ねぇ、セリア……雫って、ああいう性格だったのね……」

「ヒミカの気持ちは痛いほど解るわ……」

『お前等、褒めるなよ……』

「「呆れてるのよ……」」



―― 知ってる。



「み、みなさん……どんな話をしてるんでしょう?」

「さぁ〜? なんか楽しそうですねぇ〜♪」



「ネリーさん……凸凹の意味……知ってて言ってるんでしょうか?」

「さぁ……どうなんでしょうねぇ〜♪」



――ヘリオンのガキに……ハリオンの姉ちゃん……



なんだ……結局、みんな来てたのか……







『……で、第2詰め所の皆さんが揃って何しに来たんだ?』

「皆……アオの事を知りたいのよ……」

『――は?』



セリアの姉ちゃんは……何を言っている??



「……知らないの? アオに何が起きたか?」

『アオが……どうしたんだよ?』

「……本当に知らないの?」

『だから、何が??』



「……アオが戦えなくなった理由よ……」

『何の……話だ??』



アオが……戦えなく??



「セリア、雫は帰還してからずっと此処に保管されていましたから……」

「そっか……知らなくて当然なのね……」

『おい、ナナルゥの忠告を聞いて勝手に納得するなっつーの!』



かなり深刻そうに……それでいて、少し呆れたような……そんな顔でセリアの姉ちゃんは語る――



「アウル様から聞いた話なんだけど――」

「アオ……謁見の間で戦いたくありませんって、大声で叫んだそうよ」

『……はぁ?』



謁見の間って……あの、バーンライト王国に宣戦布告した王様と対面した部屋だよな??



そこで? 大声で? 戦いたくありませんと??



『あいつ、バカか??』

「そこに居た全員、開いた口が塞がらなかったそうよ……」

だろうな……



『なんで、そんな事に?』

「二日前、アオが警備を外してた理由を問いただそうと呼び出したみたい」

『謁見の間にか?』

「いいえ、その時はアウル様の部屋……そして、戦いたくないって言ったそうよ」

「ソレを聞いた複数の兵士が国王様に報告……謁見の間に呼び出されて――」

『国王自身に問いただされて、大声で叫んだと……そういう事か……』



呆れてを通り越して、頭を抱えたくなる――







アイツ、解ってんのか?



戦えないスピリットは処刑されるんだぞ!?



アイツが死ねば、俺も消えるんだぞ?



その辺を物凄く自覚してもらいたい……マジでっ!







『つーか、アオはどうなるんだ?』

「解らない……私達が聞かされたのは、ダーツィを攻略するまでは大丈夫って事だけ……」



そっか……

今は、まだ……無事なんだな……



「……それで、アウル様からアオが戦えなくなった理由を聞かれたのよ」

『ふうん……で?』

「雫なら知ってるんじゃないかって……みんなで来た訳よ」



そうか……ん?



『お前等も……知ってるんじゃないのか?』

「何を?」

『その理由だよ』

「アオの様子が最近おかしいっていうのは気づいてたけど、戦いを拒む理由までは知らないわ……」

『お前等……全員??』

「そう……だから雫に聞きに来たの」



ああ、そういうこと……



コイツ等は、戦うことは当然って、此処に来た時にそう教え込まれた……



でも、アオは違う……

……俺が余計な事を言ったばっかりに……取り返しがつかない程……迷ってる。



――だから、コイツ等はアオの気持ちが解らない――







――俺も……人の事を言えないけどな――







『……心当たりは有る……アオがなんで戦いたくないって言い出したのも……何となく予想できる』

「聞かせて……」



……そうだな……どこから話すか……



「あ、あの……私達にも……」

「解ってるわ、ヘリオン……ナナルゥ、通訳をお願い……」

「――了解しました」



「『あいつは……優しすぎるんだよ……』――だそうです」

「…………」



「『初めに、俺が余計な事を言っちまったんだ……人殺しは良くないってな……』――と言ってます」

「なんで……そんな事を?」

怒りを含んだ表情で、俺を見るセリアの姉ちゃん――



「『仕方がないだろ……
  その時は、この世界の事なんて全然知らなくて、奇麗事しか言えなかったんだ』――と言ってます」

「あ、あの〜……この世界って……どういう意味ですか?」

「『……別世界から召喚された神剣なんだ……』――だそうです」

「あ、なるほどぉ……」



「『最初は、アオも解らないって顔をしてた……
  でも、ラセリオに向う途中に一人のスピリットと出会ったんだ』――だそうです」

「『そのスピリットはアオを庇って死んで、アオは大泣きした……
  その時から、命の重さについて解ったんだと思う……』――と言っています」



「……シアー、知ってた?」

「…………ううん……」



ネリシアのガキも、哀しそうな顔で聞いてる。



「『決定的になったのは、サモドアのスピリットと戦ったときだ……』――だそうです」

「アオちゃんが死にそうになった、あの時ですねぇ〜」

『そう、仲間を全員殺されたブラック・スピリットの少女……
 ソイツと戦ったアオは、心の底から殺すことは絶対にイケナイって……そう思ったはずだ』――っと言ってます」

「ちょっと、いい?」

ヒミカの姉ちゃんが、疑問の声を上げる……



「確かに、理解できたけど……でも、それだけで戦えないっていうのはオカシイと思う」

「敵と味方……どっちか大切かを比べれば……」

「『大切じゃないからって、どうして殺さなくちゃいけないのか?――アオはそう言ってたよ……』――だそうです」

「……それは……」



「『確かに仲間の方が大切だから……
  俺達は、その理由だけで十分……でも、アオはその理由だけじゃ足りないんだ……』――だそうです」

「『アイツはまだガキだからな……
  敵とか味方とか、そういう区別が付けられてないんだよ……』――と言ってます」



「……そう……そういう事だったのね……」



「『結局のところ、俺達に出来ることは何もない……
  アイツに必要なのは、考える時間……もしくは、戦う為の理由だ……』――だそうです」



皆、沈んだ顔で黙っている……



「『参考になったか?』――と、聞いています」

「ええ……十分参考になったわ」



――そりゃ結構……



「雫、ありがとう……」

「『気にすんな……それより、俺はいつまで此処に幽閉されなきゃいかんのだ?』――だそうです」

「一週間って言ってたから……あと3日で出れると思うわ」

――そうか……あと3日か……



「『……そうだ、アオは? アオは今どうしてる?』――だそうです」

「牢屋に入れられてるぐらいしか解らないわ……」

「『そうか……無事なんだな……』――と言っています」



「ええ、今はまだ処刑されることは無いみたいだから安心し――」
「――お前等、そろそろ時間だぞ!!」



セリアの姉ちゃんの言葉を遮るように、倉庫番と思われるの兵士の声が聞こえてくる――







「じゃあね、雫……」

そう言って、セリアの姉ちゃんは部屋を出る。



「しずく、まったね〜♪」
「ね〜?」

ネリシア姉妹も、セリアの姉ちゃんの後に続く……



「雫さん、ありがとうございましたっ」

深々と俺に頭を下げて、ヘリオンのガキも退室していく。



「今度来る時、何か差し入れでも持ってきますね〜♪」

「ハリオン……どんな差し入れを持ってくるつもりよ……」

「あらあら〜?」

そんなやりとりをしながら、ヒミカの姉ちゃんとハリオンの姉ちゃんは仲良く出て行く……



「……………………」

『……………………』

「『……で、オマエはいつまで居るつもりだ?』――だそうです」

「『――通訳はもういいっつーの!!』――了解です」

「では……」



そんな、天然なボケを残して退室するナナルゥの姉ちゃん……



……アイツの行動は、アオに近いものを感じるのは気のせいか??







ナナルゥが退室し、扉が硬く閉められ……俺は、また一人残される……







『……あと、3日ね』







――近いうち、またマナを喰らえる機会がある……







今度こそ……マナを大量に確保するんだ――







例え、アオが嫌がったとしても……







――俺は、俺の目的の為に行動する――








あとがき



 約1ヶ月ぶりの更新です♪
初給料もらってウハウハ気分のASファンです。
……給料半分だけどな……

 更新ペースは安定しませんが、最後まで続けていくつもりなのでこれからもよろしくお願いします。

 今回の冒頭に出た謎の記憶……誰の記憶なのかは、言わなくても解りますよね??
皆さんが想像したとおり、ヤツは元エターナルの神剣だったのですよ。しかも秩序――
秩序の皆さんは、今回早めに登場する仕組みとなっております……いつ出現するかはお楽しみ♪

 そして、この話を書いてて解った事……
やっぱり、シリアスよりほのぼの&ギャグの方が執筆速度が速く、そして癒されますっ!
最近、シリアス続きでテンションMINだったので、気分転換の為に多少取り入れました。
多分、この章は殆どシリアス続きになります。
ASファンのテンションがMINになったらギャグが入ると思いください。

 さて、今回の補足――眷属とは何か?
本編のイービルルートで解るとおり、悠人は性交で相手と繋がり相手を屈服させマナを吸い取っていました。
コレは♂x♀が成せる技であり、♀x♀の場合にはどうすれば良いのかと考えたしだいであります。

 その結果が雫世界……
雫世界に呼び出す事でパイプを繋げます。
つまり、『会話できる=パイプが繋がっている』という事です。
この状態でアオを操り、陵辱とかして屈服させたら眷属となりマナを吸い取れるのです。
――実行するかは今だ未定――



 結構重症のアオたん……結構ヤヴァイ所まで逝っちゃってる雫……
この後どうなるのかは、私も解りません……だって、プロットから大幅に脱線しちゃったから♪

次は、1ヶ月以内に次話を完成させるように努力するつもりです。



作者のページに戻る