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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 5  反発するエゴ

第2節 『不信』








「アオ、今私達は何をしてるの??」

「……街の警備……です」

「そう、街の警備をしてるの……なのに、どうして神剣を忘れたりできるのかしら?」

「それは……その……」



サモドアの東門……そこで、ヒミカの姉ちゃんは俺を持ちながらアオを叱っている。







なんでヒミカの姉ちゃんが俺を持っているかというと、アオとケンカして別れた後の事……



俺は墓の側に突き刺さった状態で一夜過ごし、ヒミカの姉ちゃんが見つけてくれたという切ないストーリーがある。







「まあまあ、そんなにプンプン怒らなくてもぉ……」

「ハリオン、茶化さないで! コレは大切な事なの!!」

「むぅ……ヒミカ、何時もより怖いですよぉ?」

「あのねぇ……」



確かに、今日のヒミカの姉ちゃんは何時もよりピリピリしている感じがする。



「とにかく、今後も同じような事を起こさない事……解った?」

そう言って、俺をアオに手渡そうとする――



「………………」

――でも、アオは手を出さずに俯いたまま――







「……? アオ??」

「ねえ、ヒミカお姉ちゃん……」







「……ヒミカお姉ちゃんは、なんで……なんでスピリットを殺せるの?」
「――アオ!!」



パァンっと頬を叩く音が一帯に響く――







「……ぇ……ぁ……」

いきなり頬を叩かれて混乱しているアオを、敵を睨むような目でアオを見据えるヒミカの姉ちゃん――



「私達はスピリットなの! 戦う事に疑問を持たないで!!」

「…………っ……ぅぅ……っ、ハリオンお姉ちゃんも……そう、思ってるの?」

泣くのを我慢して、ハリオンの姉ちゃんに助けを求めるように……ハリオンの姉ちゃんに問い掛ける――



「……………………」

――でも、ハリオンの姉ちゃんは何も答えない。



「ねえ、答えて……教えてよ……」

「アオちゃん、ヒミカの言うとおり、戦う事に疑問を持ったら……ダメです……」







「っ、ぅぅ……ふわああぁぁぁあああん!!」



それがトドメだった。



アオは泣きながら街の外に駆け出していく…………

















いくらなんでも、言い過ぎだと思う。



俺が言うのもなんだけど……もう少し、別の言い方があっただろうに――









「おい、あのスピリット……大丈夫なのか?」

ヒミカの姉ちゃん達のやりとりを聞いていたのか……呆れたような顔で一人の兵士がやってくる。



「問題ありません……幼年期には、よく見られる傾向ですから……」

「……戦闘になってもあの調子じゃ、報告書に書く必要があるな」



「ですから、問題は――」
「――スピリットが殺す事に疑問を持つこと事態がおかしいんだよ!!」



「それは……」

「ふん……下らん嘘をついてる暇があったら、あのスピリットを呼び戻して仕事をしろ!」

そう言って、兵士は不機嫌そうに街の方に歩いていく――









「なんで……こんな日に限って、兵士が多いのかしらね……」

「戦争直後ですからねぇ……アオちゃんに酷い事を言っちゃいました……」

しゅんっと、落ち込んでいるハリオンの姉ちゃん……







何時でも何処でも悩みなんて全然無いように見えてたけど……こんな弱々しいハリオンの姉ちゃんを見たのは初めてだった。







「そう落ち込まないの……」

「で、でもぉ……」



ヒミカの姉ちゃんは周りを確認し、誰もいない事を確かめてから、優しげな顔で――

「さっき、アオに言った言葉……アナタの本心じゃないでしょう?」

「……でも、私は……殺す事を疑問に思ったこと……ありませんでした……」

「私もよ……でもね、私は、こう思ってる……」



「私が知ってる人が死ぬのが……殺されるのが嫌だから……だから戦ってる」



「それは、ハリオンも同じでしょう?」

「……そう、ですね……」











そんなの、アオだって解ってる。



アオが知りたいのは……向ってくる敵を、なぜ殺さなければいけないのかという理由……



俺達は、死にたくないから・知り合いを殺されたくないから……という理由だけで十分納得してるけど……







……アオは、それだけの理由では納得できない……







アオ自身が、それ以外の答えを見つけるか……その理由だけで十分と気づくしか手段はないのだ。







――そして、その事を伝えられるのは……ネリガキとナナルゥ、セリアの姉ちゃんとニムガキだけ……















「うふふ、ありがとね……ヒミカ♪」

「こら、頭撫でないでよ!!」

「んもう、恥かしがり屋なんですからぁ……私、アオちゃんを追いかけますね」

「うん、お願いね……ハリオン……」



ハリオンの姉ちゃんは何時ものように笑ってから、アオが走っていった方角へと駆け出した。







ハリオンの姉ちゃんが見えなくなったと同時に、深刻そうな顔をしながら門を背に座り――



「……どうして、スピリットを殺せるの……かぁ……」



――そんな呟きが聞こえてきた。



「…………………………」
『…………………………』



表情を察するに、なんで殺せるのかという理由を考えてるっぽいけど……



その深刻そうな顔を見ると、答えに辿りつけない事は明白だった。







「……あ、雫……」

『……ん?』

「……まあ、後で渡せばいいわよね」



そう言って、鞘に収まった俺を背負い、元気よく立ち上がる――



















――瞬間、紅の光線がヒミカの姉ちゃんの脇腹を貫通した。









「――ごふっ!?」







ヒミカの姉ちゃんが崩れ落ちる――



――が、片膝でなんとか踏みとどまる。







『っ! ――くそ、何処から!?』



索敵範囲を最大限に伸ばす……



ハリオンの姉ちゃんが駆け出していった反対の方向……約100mの位置に反応……赤1、青2、緑1の編成――







――そっから狙撃されたのか?







「……はぁ、はぁ……っち」

ヒミカの姉ちゃんの表情が冷徹な目つきへと変化し、『赤光』の表面が赤色のマナでコーティングされる。



ヒミカの姉ちゃんは、かなりの深手を負っている。



その状態で4体のスピリットを相手にするのは無謀だ。











――だというのに――











「負けない……私は、負ける訳にはいかない――」



不屈の意思を持って立ち上がり、50m先まで接近したスピリット達を睨む。







「――てやあぁぁぁあああ!!」



そして、咆哮と共に……疾風にも似た速度で緑スピリットへ駆け出した。











だが、緑スピリットの元へ行かせまいとハイロゥを広げながら正面と迫る青の二人――



――空中から、左右同時に斬撃が迫る。











「「――!?」」



その二人の攻撃を地面にスライディングで地面を滑りながらやり過ごす。







「っ、貰ったぁ!!」

地面の摩擦を得ても減速する様子が無い有り余る勢いを利用しながら立ち上がり、緑スピリットに赤光を顔面めがけて斬り上げる――







――が、緑の障壁に阻まれた。











「そこっ――インフェルノ!」
「――!?」

瞬間、緑スピリットに連撃を仕掛けようとしていたヒミカの姉ちゃんの足元に位置する地面が膨れ上がった――



跳び引こうとした瞬間……地面が爆発して爆風に吹き飛ばされ、ゴミのように地面を滑るヒミカの姉ちゃん……



「ぁ……ぐ……」

見れば、ヒミカの姉ちゃんの片足は真っ黒に炭化し、ありえない方向に折れ曲がっている。







――つまり、この時点で勝敗は決した。















「はぁ……はぁ……」

起き上がる気力も無いのか……苦しそうに喘いでいる……



既に、ヒミカの姉ちゃんは瀕死だ。



敵もそれが解っているのか、ヒミカの姉ちゃんを中心に包囲したまま動かない――



――いや、逃がさない為の陣形に思える。







そして、カーン、カーン……っと、今頃になって鐘の音が響き渡る。







まるで、KO負けを知らせるゴングのように――







「塵一つ残さず消滅させてあげる……私に出会った不運を呪いなさい――」



リーダー格と思えるレッドスピリットが、空に手を掲げ――



「マナよ、爆炎となりて全てを吹き飛ばせ――」



高密度のマナがその掌に集まる。







――まともに喰らったら、あのスピリットの宣言通り……塵一つ残るまい。







「い、いや……こんな所で……死ぬ……なんて……」




死にたくない……と、必死に立ち上がろうとしているヒミカの姉ちゃん――

















「――アポカリプスッ!!」



ソレを見届けることなく……目の前の赤スピリットから放たれた赤の魔方陣は空へ昇っていく……







そして、天空から巨大な光線が複数……ヒミカの姉ちゃん目掛けて襲ってくる。













「――い、いやぁぁぁっっ!!」

















――ヒミカの姉ちゃんの悲鳴が引鉄になるように、時が止まった。















けど、それだけ……











ヒミカの姉ちゃんも止まっていて、直撃まであと1秒も無い……







今のうちに、気功の盾とか展開しておけば助かるかもしれないけど……使えるのはアオだけ――















――俺は、何も出来やしない――















そう、神剣魔法を防げる障壁を張れるのはアオだけなんだ……



俺は、微弱なマナを操る程度のスキルしかない……







そう、結局……何も出来やしない――





















――本当に、そうか?























ふと、何かが……引っかかった――







なんで、マナを操る事は出来るのに障壁が張れない?







もう、殆ど神剣と化しているのに……曲りなりにも神剣魔法を習得しているというのに……なんで?















――考えろ……何を見落としている??







何故、アオは障壁を張れて……俺には張れないんだ?















――考えろ……何を忘れている??







――思い出せ、アオは何を切っ掛けとして障壁を覚えた?















『……あ!?』















――鋼体功――







慣れしんだ技が頭に浮かんだ瞬間、障壁の展開から固定方法が簡単にイメージできた。















でも、展開できるかどうかは解らない……



それに、展開したとしても、あんな高密度のマナを防げるとも限らない……もしかしたら、一瞬で崩壊するかも――













――時間が綻ぶ――













――そんな不安を考えてる暇なんて無い! 最速でイメージを現実に創造する!!











時間が完全に動き出すまで後、零コンマ一秒……







気功の盾を展開まで、あと、零コンマ―――――

















――時が完全に動き出す――















『――っ、間に合えええぇぇぇええええっ!!』







ヒミカの姉ちゃんの衣服に光が触れた瞬間、障壁の展開は完了し、少しだけ赤の光線を押し返した――













――が、それを代償とするように、障壁は一瞬にして亀裂を走らせる。



おそらく……あと1秒も経たずに砕けてしまう――









――もう駄目なのかと諦めかけた時……『赤光』が輝きだした。







『――っ??』



赤光から発せられた光はマナへと返還ささり、障壁を補強するように流れる……



でも、壊れかけた障壁を補強しても……せいぜい数秒程度持ちこたえるのが限界だ。







それが赤光も解っているのか、赤光から意思が流れてくる――







まだ死にたくないと――



もっと強力な障壁を張れと――







――本能的な想いが頭痛のように伝わってくる。







その所為で展開した障壁が歪み、数秒保つと思われる障壁の寿命が瞬く間に縮む――











『っ、コッチだって全力を出してるんだ!! 泣き言を言うならテメェこそ何とかしやがれ!!!』



――障壁が砕けたら、ヒミカの姉ちゃんは死ぬ――



――それだけじゃない、俺も、あの灼熱の光線に晒されてしまう。



あれほどの高密度で編まれたマナだ……障壁が破れたら、神剣である俺達まで死んでしまう――







そう、呆気無く死んでしまう――







――まだ、アオとも仲直りしてないのに――



















障壁が貫かれる――













『あ――』



















世界が蒼と紅に染まる――







――外と内から、洒落にならない程のマナが流れてくる――







――再度、時間が止まった――











外からは、『赤光』が――



内からは、『冷酷』が――



――俺を通して、マナを増幅しあっている――







『な゛、ぐ……っ!』















――感じたことの無い、膨大なマナの奔流――







これほどのマナが漲っているのなら、この神剣魔法は難なく防げる筈だ――















――だが――















――これほどの膨大なマナを一気に魔法へと変換する術が俺には無い。















――障壁を張りなおしたところで、さっきの二の舞――















――冷酷から知識を引き出したら解決するかもしれないが……間違いなく、俺の自我が砕ける――















再び障壁を張るかとしても、数秒程度持つだけで……死ぬという結果が待っている。















せめて、ヒミカの姉ちゃんを移動させなければ――――







『――! そうか!!』



膨大なマナに指向性を持たせ、変換しないでそのまま放出――



生で放出された膨大なマナは、強力な風圧を発生させる。







結果、ヒミカの姉ちゃんは弾かれたように吹っ飛び、赤スピリットとすれ違った時……時間は動き出した――















「――え? っ!?」

訳もわからず、地面を転がるヒミカの姉ちゃん――



「? た、助かった……の?」

満身創痍のヒミカの姉ちゃんで、戦力差はぜんぜん変わっていない……







『普通、この状況で助かったとは言わないだろ……』
「――誰!?」



『……俺が誰かは推して知るべし』







つーか、聞こえてんのかい!?



なんで聞こえてるのかは、後で考えればいい……



むしろ、会話できるのは好都合だ!











「っ、いつの間に!?」



気づかれた……さっさと要点だけ伝えないと――







『さて、ヒミカの姉ちゃんや……動けるか?』

「……無理よ……右足が逝っちゃってる……」

『左足は?』

「……それは動く……けど――」
「今度こそマナの霧に変えてやる!!」

赤スピリットの手に魔方陣が展開されると同時にマナを刀身に固定する。



『さっさと俺を詠唱中のスピリットに向かって振りぬけ!!』
「――っ、このぉ!!」



裂空の太刀は、いつもの2倍増しの速度で放たれ、赤スピリットの胴体を切断する――



なんでこんな高威力なのかという疑問が浮かんだが、それどころじゃない……



「やっぱり、この声……雫なのね……」

『納得してないで、逃げるから準備しろ!!』

「逃げるって……どうやって?」

『ハリオンの姉ちゃんらしき反応と、街の中から味方のスピ達がこっちに向かってる
 ……合流まであと1分以内って所だから、こっちからハリオンの姉ちゃんに向かえば早く合流できる筈だ』

「だから、どうやってよ!? 私は動けないんだって――っ!!」

ウイングハイロゥを広げ、一直線に向かってくる青スピリット――



――そのスピリットに気づいたヒミカの姉ちゃんは俺を振るう――が……



「――ぇ? ちょっとっ!? なんで出ないのよ!?」

『んな事どうでもいい! 俺を盾にしろ、早く!!』
「――っ」



青スピリットの一人が神剣を振り下ろしたと同時に、マナを生で放出して暴風を発生させる。



その暴風に絶えられず青スピリットは吹っ飛び、ヒミカの姉ちゃんも反対方向に吹っ飛ぶ。



そして、真下にもマナを放出すると、ヒミカの姉ちゃんが放物線を描くように浮く――



『――着地、任せた!!』

「なるほど、そういう事ね……」



左足で着地し、再び跳躍――



そして俺はタイミングを見計らってマナを放出する……いわば、ブースターのような役割だ。







ウイングハイロゥにも劣らない機動性……この調子なら余裕で逃げ切れる――







「ふぅ、ふぅ……」

『……おい、大丈夫かよ?』

「っ、何とかねっ!」



――でも、ヒミカの姉ちゃんの腹からボタボタと大量の血が流れ、マナの霧へと気化している。



様子を見ても、体力的に限界だ。







『もう少し……もう少しだ! 頑張れ!!』

「ふぅ、はぁ……ぁっ!?」

着地に失敗し、ズザザザ……っと、地面を滑るヒミカの姉ちゃん……



その隙を見逃さずに、二人の青スピリットは剣を振り下ろす――











『っ、このおぉ!!』

気功の盾が展開するも、神剣が左右同時に叩きつけられ亀裂が入る。















――瞬間、緑の槍が青スピリットの胴体に突き刺さった――







「ヒミカッ!」

「はり……おん?」







「第2部隊! 一斉射撃、放て!!」



男の声が聞こえた瞬間、空から炎塊が雨のように降り注ぐ――







「そこの緑スピリットは瀕死の赤スピリットを回復させろ! 第3部隊は敵の退路を塞ぎ、第4部隊は敵の殲滅に当たれ!!」



街からラキオスの軍服を着たスピリット達が次々と飛び出していく……



それを尻目に、ハリオンの姉ちゃんはヒミカの姉ちゃんに駆け寄る。



「もう、こんなにボロボロになって……」

「来るのが……遅いのよ……」



緑色のマナがヒミカの姉ちゃんに纏わりつき、傷口や炭化した部分が元に戻っていく……



防衛スピリット達も敵の殲滅を完了させたようだし、これで一件落着……だと思う。







「……雫……」

『……ん?』

「助けて……くれて……ありがと……」



そう言って、ヒミカの姉ちゃんは気を失った――








あとがき



 就職先が決定して、引越しの準備に忙しいASファンです。
引越し先がネット使えるのかどうか謎で少し不安……下手したらそのまま隠れ人になったりして(汗)

 恒例の補足……
サモドアに兵士さんがうじゃうじゃ居る理由は
『サモドアのエーテル変換施設』と『ラキオスのエーテル変換施設』にパイプラインを接続する為に集まった技術者の護衛の為です。

サモドアに居るスピリットはハリオン・ヒミカ・アオの3名が第1部隊、防衛スピ軍の9体が第2〜4部隊、計12体という設定であります。



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