永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 5 反発するエゴ
第1節 『決別』
「ここも……居ないか……」
雫世界の到る所……病院、図書館、大学の喫煙所、アオの部屋……そして、映画館――
全てを回ってみたけど……アオは何処にも居なかった。
なら、もう戻ってるの可能性が大だろう。
最後尾の椅子に座り、タバコを吹かす。
天井に昇る煙を見つめながら……ふと、懐かしさに襲われる――
この場所は……この映画館には、両親と一緒に訪れた機会が何度もある。
――そう、俺と両親との……唯一の思い出の場所だ。
戦隊モノやアニメ……他にも、ホラー映画やアクション映画など、色んな映画を一緒に見てた。
両親が何処かに消えた後も変わらない……
消えた後もずっと……おれは映画館という場所に通っている。
俺が退魔師になってからも……高い金を払って通ってる唯一の娯楽施設とも言える。
自分の趣味なのか……それとも、数少ない両親の思い出の場所だから未練がましく訪れているのか?
よく解らない……けど――
――後者の想いの方が強い事は……薄々気づいてる。
「…………」
短くなったタバコを踏みつけて、映画館を後にすると……大学にある喫煙所に出る。
ここも……思えば、懐かしく……それでいて、輝かしい思い出が詰まっている場所だ。
俺が退魔師になる前……この頃が、俺の人生の中で一番楽しかった時期でもある。
この喫煙所の中央のタイルは、『冷酷の世界』に通じる経路になってるけど――
――現実では空洞になってて、外からの侵入は簡単だった。
だから俺は、悪友達と共に……ここを侵入経路にして、期末テストの問題用紙を盗む計画を立てていた事もあった。
いざ実行した1回目……
職員室前で監視カメラに見つかり、警報ベルが鳴ってしまった。
その時のスリリングさは、今でも鮮明に思い出せる――
警備のおっちゃんに捕まって、警察署でこっぴどく叱られたけど……開放してもらった時の悪友達の笑顔が脳裏に焼きついてる。
今考えても……この出来事は、俺が生きてきた中で一番の悪行だ。
そして、一番楽しかった時期でもある。
図書館……ここにも、忘れられない思い出が眠ってる。
大学時代に、テスト勉強の為に、頻繁に訪れていた県立図書館が元になっている。
――ここの特徴は、貴重な古文書などが保管されてる大きな図書館という事。
もちろん、売り飛ばそうというバカな考えは起こしてない。
ただ……ステキな出会いが合っただけ――
大学生活が2年目に入ったある日……目茶苦茶美人なお姉さんと偶然に仲良くなった。
いま思い返しても、かなり良い関係まで進んでたと思う。
そして、告白しようと心に決め……一生懸命にプロポーズの言葉を考えたこともある。
……いざ告白しようと、彼女と対峙した時の高揚感は今でも忘れられない。
そして、人生で初めて告白を決行した次の瞬間――
「ごめんなさい……わたし、既婚なの――」
――思い出しただけでも涙が浮かぶ良い思い出である。
――そして、病院……
……ここだけは、思い出が見当たらない……
今までの場所は、何かしら忘れられない印象をもった思い出の有る場所なのに――
――なぜ、此処だけ何も無いのか??
大学時代……病院に通った記憶は無い。
高校、中学も同様……
小学時代……一度、病院に来た記憶が有る。
――でも、それは風邪を引いたときだけ。
「……なんだろうな……この違和感は――」
心にポッカリと穴が開いているような……そんな感覚――
「簡単な話、アンタが自分で封印したんだろ?」
突然、背後から声が聞こえ、反射的に振り返ると……そこには――
「よ、一時間ぶり♪」
――黒い人影が……そこに立って居た。
「……誰??」
「さっき会ったばかりなんだけど……覚えてないか?」
……さっき……会った事が有る??
――鍵が有っても、器が無ければ無意味に終わるって事さ――
「っ! ――あんときの!?」
「そういう事……それにしても、ちょっと寂しい場所だな」
「そうかな? つーか、この場所にどんな思い出があるのか……アンタは知ってるのか?」
「知らないよ……俺、お前じゃないもん」
確かに……最もな理由過ぎて、言い返せない。
「――でもさ、ここの空気を見てわかるんだよな……封印した記憶が、どんな属性を持つ思い出なのかって……」
「?? 封印した記憶の属性って、哀しい思い出しか無いんじゃないのか?」
記憶を封印する場面って……現実逃避ぐらいしか思いつかないんだが――
「楽しい思い出も、状況によっては封印するさ……たとえば、非情にならなければいけない時とか――」
「――どちらにしろ、封印する行為をする奴は必ず悲劇に出会ってる」
「悲劇ねぇ……」
親が死んだとか??
まさか……なぁ……
それだけで現実逃避する俺ではない……筈だ……
……たぶん……
「――ここで起きた出来事が気になる??」
「まあな……」
「俺なら閲覧出来る状態までに持っていく事が出来るけど……どうする??」
「…………………………………………止めとく」
「なんで? 気になってるんだろう?」
確かに、気になる……すんごい気になる。
けど……
「今はアオを探さないといけないからな……」
それ以上に、嫌な予感が離れない――
「賢明だ……それと、あの妖精と話すなら気をつけろ」
「……あ?」
「あの妖精は、かなり病んでる……いろんな意味で危ない」
「……肝に銘じておく……って――」
今になって、一番大事なことを忘れていた。
「――あんた……何者だ??」
俺の問いに、数十秒くらい、ソイツは悩んで――
「……記憶の守人……とでも呼んでくれ」
「記憶の……守人??」
「そう、俺は……お前が取り付いた神剣の記憶を守護する者……そして、その記憶を閲覧するための覚悟を計るモノでもある」
「今は、コレだけの自己紹介で十分だろ……」
「俺の事を深く知りたいのなら、鍵と器をアオの部屋……つまり、『冷酷の世界』に持ってくることだな」
「なあ、鍵と器って……一体何なんだ??」
「さあねえ……確実に言える事は、お前が揃えても『時神 雫』自身には何のメリットも無く、デメリットしか存在しないって事さ」
なんだよソレ……
「じゃあな……お前が『鍵』と『器』を持って冷酷の世界に訪れないのを願ってるよ」
そう言い残して、黒い影は病室から退室していく……
でも、そう言われたら……気になって気になって、仕方が無いだろうが……
――鍵と器が何を指しているのか、真剣に考えながら外に意識を向ける――
――世界が反転しながら、自由が奪われる感覚が俺を襲う――
そして、夢から覚めるような感覚と共に……意識が覚醒していく――
いつもの感覚を噛み締めながら、周囲の様子を探る。
付近に、サモドアの街があり、その近くで盛り上げられた土が2つ……
近くには、誰も居ない――
索敵範囲を広げて行くと……70m付近で青スピリットの反応が一つあった。
その反応は、間違い無くアオだと確信できた。
待つ事数十分……その反応は、俺のすぐ側にある盛り上がった土の前にやってきた……
『……アオ、そんなシケタ顔をしてどうしたんだ?』
「……雫、起きたんだ……」
『ああ、今起きた……それで、俺はどのくらい寝てた?』
「一週間、だね」
『――い、一週間だぁ!?』
この世界の一週間は、7日ではなく、5日……そう教えてもらった事がある。
つまり、5日も寝ていたのか??
自由に雫世界に訪れる方法が見つかって、ちょっと嬉しかったが……時間を考えると、雫世界に行かない方が良いかもしれない。
『それで、お前は何してるんだ?』
「お墓……作ってるの……」
『……墓??』
「うん……私を守ってくれたお姉ちゃんと、サモドアで出会ったあの子の……」
そういえば……そんな事、言ってたような気がする。
アオは、持っていた小石を……盛り上がった土に置いて、手を合わせて祈る――
数十分ぐらい経って、アオはやっと立ち上がり……俺の方にやってくる。
『……なあ、アオ……なんで、あの時……アイツを殺さなかった?』
「……………………」
俺を掴もうとしていた手が、止まった。
『確かに、あの黒スピリットは同情できる……でも、お前が死んだら……何にもならないんだぞ??』
「……………………」
『皆も、どれだけ心配してたと思ってるんだよ』
「みんなからも、何度も言われたよ……その事……」
確かに……一週間も経ってるから、言われても当然だな。
「でもさ……雫、聞いてよ……」
『……あ?』
「私達……みんな、あの子の大切な人達を殺しちゃったのに……なのに……誰も、その子に悪いって思ってなかったんだよ!!」
『…………誰も??』
「……うん」
そんな筈は無い――
少なくとも……高嶺の兄ちゃんが戦っていた時の表情を思い出す限り、アイツは心を痛めていた。
「オルファちゃんやネリーちゃんに聞いたら、バカにされたし……」
オルファのガキはどうか知らないけど、ネリガキは敵を殺すことを当然って思ってる節があるからなぁ……
「セリアのお姉ちゃんに聞いたら……何をバカな事を言ってるのって、思いっきり怒られた……」
まあ、年長組は戦えないスピリットはどうなるか解ってる筈だからな……
しかも、セリアの姉ちゃんは辛口だから……慰めの言葉を出しても伝わるはず無いか――
『……他は??』
「……バカにされたり、怒られるかもしれないから……聞いてない……」
――つーか、相談する相手を激しく間違ってるぞ??
『たった3人に聞いただけで『みんな』って言うな……高嶺の兄ちゃんやヘリオンのガキとかに聞いてみろよ……』
「じゃあ、雫は? ……雫はどう思ってるの??」
『……殺すことについてか?』
「……うん……雫は、違うよね? 殺すことはイケナイ事って……確かに言ってたよね??」
確かめるように……すがるような目で、俺を見つめるアオ……
『確かに言ったな……』
「じゃあ……」
『でもさ、アオ……俺とお前が契約した内容を覚えてるか?』
「……内容??」
『俺はマナを集めないと、生きられない……それで、そのマナを集める為に……お前は、どんな契約を俺と交わした??』
―― マナって……どうやって集めるの? ――
―― 殺すんだよ、他のスピリットを ――
「………………………………」
アオの顔が、罪悪感を感じるように変化していく……
『お前……その時、なんて言った??』
―― それでもいいなら、契約してくれないか? ――
―― うん、契約する♪ ――
「……わ、わたし……は……」
『確かに、殺すなんて行為はイケナイ事だ……けど、俺は……そうしないと生きられないんだよ……』
『お前だって、知ってるはずだよな? あの時に言ったはずだから……だから、お前は頷いたんじゃないのか?』
「……っ!!」
『逆に聞くけど、俺達とお前が殺したスピリット……お前の中で、どっちが大切だった?』
「……そんなの……雫達に決まって――」
『――じゃあ、何を悩んでるんだ? 悩む必要なんて無いだろ!』
そう、悩む必要なんて……無いはずなのに――
「っ、私だって……解んないよ!!」
――アオは……未だに悩んでいる。
「みんな……みんな、何を言ってるのか解んない!!」
「どうして、どうして大切じゃ無いからって……なんで、そんな理由で殺さないといけないのさ!?」
『……………………そんなの……俺だって知るか……』
解るのは、戦争中だから仕方が無いって……
俺が生き延びるために、仕方が無いって事だけ……
「雫は……こうも言ったよね? 私が自分で考えた結果が正しいと思って納得したら、それで良いんだって……」
確かに言った……でも、それは――
「だから……私は……私は、私が正しいって思うことを……する」
『――それは、スピリットを殺さないって事なのか?』
「うん……だって、納得できないもん……」
正直、俺にはアオを納得させられるだけの答えが無い。
だから、アオが見つけてくれるのを待つしかないだろう。
戦争は終わったんだ……だから……時間が解決してくれるのを待った方が懸命だと思う――
『好きにしろよ……戦争が終わって、戦う機会なんて無いんだ……だから――」
「雫……戦争、終わってないよ……」
――は??
『ちょっと待った……どういう事だよ……まだ、サモドアを占領してなかったのか!?』
「私も、よく解らないけど……でも、兵士さんが来て……ダーツィって国が、戦争を始めるって言ってた」
『――そういう事、先に言えっつーの!! んで、さっきの言葉を訂正するぞ――』
「――え?」
『オマエさ、時を場所を考えろよ! 確かに、殺さない決意は立派だけどな――』
『――この世界で、戦争中でスピリットを殺せないって事は……オマエが殺されるんだぞ!!』
『戦って、運良く生き延びたとしても……国に処刑されるに決まってるだろ!!』
「……………………」
『だから、考え直せ……な?』
――でも、アオは首を縦に振ってくれないのは……よく解ってる。
アオと出会ってから、半年以上という長い時を一緒に過ごしてきた――
――だから、アオが取る行動も……解る――
「嫌だ……雫が何て言おうと……私は、私が正しいって事をする」
「絶対に殺さない……私、絶対に殺さない……もう、あんな事……嫌なんだもん!!」
「あんな事になるくらいなら……私……死んだほうが――」
『……アオ……』
「…………ごめんね、雫……私、無理だよ……」
『じゃあ、俺も謝っとく……』
「……??」
『俺は、他人の為なんかに死にたくない……』
『だから、オマエが死にそうになったら……俺がオマエの身体を乗っ取って、襲い掛かってきたスピリットを殺してでも生き延びる』
――それに、マナの事もある。
アオがスピリットを殺さないのなら……俺は、どうやってマナを集めたら良いのか?
そんな方法知らない……だから……
戦争中、敵スピリットを殺さないという意見を認めるわけには行かない……
そうなれば、アオは絶対に処刑され……俺も、アオを追う様に消えてしまう――
ソレだけは……絶対に避けなければいけない――
でも……アオの瞳も……絶対に譲れないって、涙を流しながら語っている――
「雫だけは……信じてたのに――」
裏切り者を見みるような……そんな目で、アオは涙を流しながら俺を睨む――
『俺は、最初っから言ってるぞ……スピリットを殺さないと生きれないってな!!』
「っ、雫のバカぁ!!」
……アオは、泣きながら俺に背中を向け――
「雫なんて……雫なんて、大っっ嫌い!!!」
そんな言葉を残して……アオは泣きながら何処かへ走っていった――――
もう、後戻りなんて出来ない――
ただのケンカでは済まされないのだと――
俺がスピリットのマナを求める限り、アオとは仲直りできないのだと――
――そんな予感が、胸を貫いた――