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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 4  始まりの戦

最終節 『戦争の被害者』








 夢を見ている――



槍や西洋剣、日本刀はダブルセイバー……まるで、神剣のレプリカのような武器が一斉に速射され……一人の女性を串刺しにしてる――



……そんな夢……







 彼女は、死体一歩手前の状態で……マナの霧に還りながらも、納得がいかない顔で何かを叫んでいる。



見覚えの無い光景の筈なのに……後悔、憎悪、自己嫌悪、無力感が果てしなく俺を襲う。







――正直、気が狂いそうだ。



だが、目を背けてはいけないと……ナニカが訴えている。



この場面は、一体何を示しているのか……この夢は、俺に何をさせたいのか……知らなければいけない気がするのに――







「――そこまでだ……それ以上の閲覧は諦めろ」



ブツン……っと、視界が蒼く染まる。







その中で……人の形をした黒い影が俺の目の前に突っ立って居た。



「この記憶が気になるのか?」

――勿論だ。



「でも、それはお前の意思じゃないことぐらいは理解してる筈だと思うけど?」

――それでも、気になるんだ。

――厳重に封印されているこの記憶が……

――俺のナニカを求めてる気がして……



「まだ、ダメだね……出直してきな」

――俺の何が欲しいのか、この記憶はどんな内容なのか……知らなきゃいけない気がするんだ。



「だから、それはアンタの願望じゃないって言ってるでしょ? それに、元々アンタとは無関係の記憶なんだ」

――それでも……巻き込まれたからには知る権利は有る。



「確かに、一理あるというか……その通りだ――」

腕を組んで、考えるポーズをする黒い影……



「じゃあ、ヒントをあげよう……それで大人しく帰ってくれ」

――ヒント??

「そう……このままでも閲覧は可能だけど、アンタは記憶できない」

「閲覧を止めた理由はソレ……このまま再生しても、忘れたら無意味に終わるだろ? 俺は無意味な事はしない主義でね」

――どういう、意味だ?

「そのままの意味さ……そうだな、大サービスとして解りやすく教えてやるよ……」



「アンタがこの記憶を閲覧するには、この記憶の封印を解く『鍵』と記録を保存する『器』が必要なのさ」



「鍵が有っても、器が無ければ無意味に終わるってね……」







視界が、段々と黒に染まっていく――



「じゃあな……」







――待ってくれ! お前は……冷酷なのか?







「次に会った時に教えてやるよ……」







視界が完全に黒く染まり……意識が朦朧とぼやけ始める――















そして、ぼやけた意識が立ち直っていく――















『……ぅ、ぁ……』

「雫……起きましたか?」

意識がまだ朦朧としている。



『……な、ナナルゥ??』

「大丈夫ですか?」

『なに、が?』

「うなされていた様でしたから……」



夢は見ていたけど……どんな内容かは覚えていない。



覚えてる事は――







――鍵が有っても、器が無ければ無意味に終わるって事さ――







――そんな言葉しか……思い出せない……



きっと……覚えてないのは、どうでも良い夢だったに違いない。



『……なんでもない……と思う』

「?? 思う……とはどういう意味でしょう?」

『気にすんな……それより――』

アオは? って、言おうとした瞬間……ナナルゥの姉ちゃんに膝枕してもらいながら眠っているアオが居た。



肩の傷口も癒されており、外傷はもう存在していない。



「それより……なんですか?」

『えっと、その……他の奴等はどうした? 無事か??』

「はい……エスペリアはオルファを治療しています。ユート様は散歩だそうです」

『そっか……』



あの時の高嶺の兄ちゃん……いや、『求め』を思い出してみる。



数十体のスピリットを数分もしないで殲滅させた、圧倒的過ぎる力――



あの力量ならば、サードガラハムが殺されたのも納得できる。







おかしな言い方だが……その事実が正直、嬉しい。







サードガラハムを凌駕する力を持っている悠人……

その力は……サードガラハムが生きるために全力で戦い、そして散ったという事を証明してくれてる。



アイツは手を抜いた訳でもなく……本当に俺達との約束を守るために、全力を尽くしてくれたという事だ。



アオの首に、お守りのように掛けてある首飾り……

サードガラハムが友として渡してくれた証……そして、形見となってしまった結晶……







――我が消滅しても……決して、お前達の仲間を恨まないでやってほしい――







不意に、サードガラハムの言葉が頭に浮かぶ。







――その者たちも、運命に囚われているだけなのだから……――







確かに、今思えばその言葉も納得できる。



サードガラハムも、定められた運命に全力で抗った。



そして、高嶺の兄ちゃんも、運命とやらに全力で戦ってる。







――俺はどうだろう?



本当に、運命に抗っているのか?



本当に、全力を出し切ってしまったのか?







答えは『NO』だ――



――抗いもせず、ただ辛いから諦めていると思う。







正直、情けない……本気で……本当に情けない。







俺も、こんな所で挫けてる場合じゃないだろ……



今は耐えて、全力で耐えまくって……必ず自分の身体に戻る。



――たかが無機物に負けてたまるかってんだ!







『人間様を舐めんなコラァァアアアアアアアアアアアアアア、ッ!!』
「――っ!?」



力の限り叫ぶ――



隣で怯んでるナナルゥの姉ちゃんに構わず、全力で、大陸全土に響かせるように……力一杯に吼える。







『ほぅ………………あ〜、スッキリした♪』

本当にスッキリした……胸のモヤモヤが全て言葉と共に出て行ったんじゃないかって思わせるぐらい清々しい。



「雫……いったい……何を??」

『ただ無意味に叫んだだけ♪』

「……何故……ですか??」

ナナルゥが頭を押さえながらジト目で睨んでる。



『……お前もやってみるか? ちょっと恥ずかしいけど……意外に楽しいぞ♪』

「遠慮しておきます……それと、いきなり叫ぶのは止めて欲しいのですが……」

『善処する……』







「っ、ん……………………ふに?」

『目覚めたな、この寝坊助が……』

「……………………あれ??」

「……アオ?」

「ナナルゥお姉ちゃん……私……生きてる??」

「ええ、生きてます」

「……なんで? だって――」

『俺がお前の身体乗っ取っただけだ』

「そっか……やっぱり雫が助けてくれたんだ♪」

『ま、まあな……』

「ありがとね、雫♪」



絶対の信頼を表した微笑を向けるアオ――

『……………………』



そんなんだから、簡単に乗っ取られるんだ。



――今からでも遅くない……俺が、俺で無くなる前に……



コイツに、裏切られる恐ろしさを覚えさせなければ、絶対後悔する。







『別に、お前に死なれると……俺も困るし――』







だから――

『だから……安心しろよ、お前は俺が護ってやるから……』

「ぁ……ありがとう……」



――それはさっきまでの自分の考えだって言ってる。







俺は消えない……そもそも消えるなんて勘違いで、おれの早合点……



ただ弱気になっていただけ……それだけの事――







『……冗談だったらどうする?』

「ぇ、冗談……なの?」

『ああ、冗談の冗談だ』

「……じゃあ、本当なの?」

『ああ、冗談の冗談の冗談だ♪』

「えっと……やっぱり、嘘なの?」

『ああ、冗談の冗談の冗談の冗談だ♪』



「――もしかして、私で遊んでる?」

『ああ、もしかしなくても遊んでる』







何一つ変わってない……







「――っ、ふんっだ! ……乙女心を弄んだらバチが当たるんだよっ!」

『乙女心って……よくそんな単語知ってるな……』

「うん、ヘリオンちゃんに教えてもらったの」

『さいですか……まあ安心しろ、俺は弄んでるんじゃなくて無邪気に遊んでるだけだから♪』

「そうじゃなくて……もういい……」







これまでも……そして、これからも――



俺は『時神 雫』で在り続ける――



――アホな奴を苛めるのが大好きな……異世界に迷い込んだだけの一般人で在り続けるんだ。







「ナナルゥお姉ちゃん……みんなは?」

「エスペリアは――」
「――あ、アオ! 大丈夫!?」

オルファのガキが心配そうにアオに近寄ってくる。



「うん、今日も雫が助けてくれたから大丈夫だよ♪」

「……ふぅん」



さらりと恥ずかしいセリフを……



慣れたから良いんだけどさ――







「いつも思ってたんだけどさ……雫って、どういうときに助けてくれるの?」

「えっと……さっきの事とか、私が元気ない時とか……あと、授業の時だし……」

「……授業??」

「うん、私やネリーちゃんが困ってる時とか、解らない所があると教えてくれるんだよ」

「……え、ネリーも話せたの!?」

「ぅ、うん」

「も、もしかして……テストの答えとかも教えてもらってるの!?」

「…………ぅ、うん…………」



「ま、まさか……ネリーが補習に来なくなったのも――」

「うん、雫のお蔭だよ♪」

「ずっっっっっる〜〜〜〜〜いっ!!!! 二人ともズルイズルイズルイ!! なんで私も誘ってくれなかったのさ!!」

「オルファちゃんも雫世界に行く?」

「シズクセカイ??」

「うん、ネリーちゃん達も雫世界に行ったから雫と話せるんだよ」



「アオ、教えて! 今すぐ行き方を――や、やっぱり……いいや……」

「え、なんで??」

「だ、だだ、だって……ズルはダメだもん……」



アオ……お前の後ろから発せられるプレッシャーを感じ取ってくれ……



幸い、オルファのガキはアオの後ろが見えるために、状況を把握できたようで――







『おい、後ろ……後ろ見ろ――』

「え? なに、雫??」



気づけ、馬鹿者……



しかも、ナナルゥの姉ちゃんが少し離れた場所に避難してる……何時の間に!?







「うふふ……興味深い話ですね……」

「……ぁ゛……」

メイドの姉ちゃんが青筋を浮かべながらアオの背後に立ってる。



「あ、あはは……じゃあね、アオ――」
「――あぁ、オルファちゃん!?」

ササササ……っと、ナナルゥの姉ちゃんの隣に避難するオルファのガキ――



「戦いが終わったら、さっきの話を詳しく聞かせて貰うとして……不正はいけませんって言ってるでしょう!!」

「ひぅ……し、雫……」

『……安心しろ、骨は拾ってやるから♪』

だから、安心して逝ってくれ……



「ぁ〜ぅ〜……そ、それにしても……今日は何か周りが暗過ぎだね?」

「……アオ、まだ話は終わってません!!」

「……むぅ」

「大体ですね、そんな突然話を変えただけで誤魔化されると思ってるんですか!」

「……ぅぅ……」



「エスペリア、その話は後にしたほうが宜しいかと……」

「ナナルゥ??」

「――アオの言う通り、5m程先を目視できない暗さは異常です」

「それは、そうですけど……」







『そうなのか?』

「うん、ものすごく暗いの……」

黒色のマナが濃すぎるだけだと思ってたけど……



「恐らく、バーンライト王国の月の祭壇による影響でしょうが……今、奇襲でもされたら危険です」

「確かに、ナナルゥの言うとおりですね……アオ、続きは帰ってからにしましょう」

「ぇぅ……」

「早くユート様と合流しましょう……本当に敵が奇襲を――!?」

メイドの姉ちゃんが言い終える前に、悲鳴のような叫び声が響き渡った――――







「……パパ!?」

「――まさか!?」

オルファのガキとメイドの姉ちゃんは、声が聞こえた方角に走り出す。



「……私達も行きましょう」

「うん……」

俺達も、二人の後を追う。















「パパ! パパぁ!!」

「ユート様!! 何処ですか? 返事をして下さい!!」



『こっから5時の方向だ! 距離は不明だけど……高嶺の兄ちゃんに間違いない!!』
「――雫が此処から5時の方角に居るって!!」



近くに敵と思われる気配は無い……



有るのは、高嶺の兄ちゃん……と、思われる反応のみ。







近づくごとに、詳細が読み取れる――



――高嶺の兄ちゃんは、頭を抱えながら蹲っていた。



「ユート様、無事ですか!?」

「………っ、ふぅ……はぁ………」

高嶺の兄ちゃんは片手で頭を押さえながら……ゆっくりと、立ち上がる。



「……ユート……様??」

「みんな、すまん……ビックリしただろ?」

「パパ……大丈夫なの?」

「ああ……大丈夫、ちょっとバカ剣とケンカしただけだって……」

――の割りには、汗びっしょり……



嘘が下手な兄ちゃんだと、改めて思う。







「ユート様……辛そうだよ?」

「アオも心配性だな……オレは大丈夫だよ……」

ふぅ……っと、高嶺の兄ちゃんが溜息をして――



「それより……嫌な予感がするんだ……早くサモドアに向おう」

「ですが、ユート様……あの戦闘からまだ20分も経過していないんですよ」

「解ってる……」

「緑の神剣魔法は、傷は癒せても抜けた血や疲労までは癒せない事はご存知のはずです」



「みんなには……すまないと思ってるけど――」
「――違いますっ! ユート様が一番重傷だったのですから、自分を大切にして下さい!!」



「無茶は承知だっての解ってる……でも、本当に嫌な予感がするんだ……」

「でも……」

「頼むよ……エスペリア……」

「………」







メイドの姉ちゃんは、あと10分間の休憩を取るという条件付を出し……高嶺の兄ちゃんは渋々頷いた。





















――そして、10分の時間が経ち――

















――俺達は……決戦の地へ進軍を開始する。







「ねえ……雫……」

『うん?』

「覚えてる? 私に殺すことはいけないって言った事……」

『覚えてる……けど、何で今更?』

「うん……雫が言いたい事が解ったから、伝えなきゃなって――」

『ふうん……』

――俺は、逆に解らなくなったけど……



『なあ……アオ……こうも考えられないか??』

「ん?」



『動物が居るだろ??』

『動物は弱肉強食の世界で生きているって言われがちだけど……それは生きるための行為だ』

『彼等は、己が生きる分の食料を確保するために殺す行為をしている……けど、それ以上の殺す行為はしないんだ』



「そうなの?」

『そうなの……でも、人間は違う……』

『人間は己が欲望の為に、殺す行為が出来る種族だ』

『人は汚い……反吐が出るほどの下らない欲望の為に、同族さえも殺せる種族だ――』



『でもさ、それも生きるための行為なんだ……』

『人は己の欲望を満たし続ける……満たさないと死んでしまう種族なんだ』

『彼等もまた……生きるために殺す行為をしている』

「……??」



『命を奪う行為をしてるけど命を奪われる覚悟が出来てない事こそいけない事とかって……格好良い事を言ってたけど……』

『そんなの関係無いんだ……無意味だろうが、殺される覚悟ができていまいが……殺す行為事態に罪は無いってこと』



「殺すことは、悪いことなんでしょ??」

『殺す行為をしてはいけないってルールは、人間達が作ったルールだ……』

『でもさ、生命体の枠で見ると……殺す行為は良い事なのか悪い事なのかを考える事態無駄なのじゃないのかって……俺は思う』



アオは、ちょっと首をかしげ……心配そうに顔を曇らせる……



「……雫……なんか変だよ?」

俺もそう思う――



「私でよかったら……相談に乗るよ?」

……大人がガキに頼れるかってーの!



『……お前の所為だ……』

「へ?」

『お前が変な事言うから……忘れようって思った気持ちが蒸し返したんだ!!』

「えぇ!?」



解ってる……本当は解ってる。







確かに、生命体の枠で見たら……悪いことではない――



『殺す事はしてはいけない』なんてルールを作ったのは人間という種族だけ――



――だから……人間以外の奴が、人間が作ったルールを破るっても悪いことじゃない。



でも、例え身体が神剣になろうが……俺は人間なんだ……







――でも、人を殺したというのに……頭ではいけない事だって解っているのに――



――もう罪悪感なんて存在していない――



――心の痛みが感じられない――







『……責任取れ、このバカ!』

「ば、バカじゃないもん!!」



――果たして……俺は、まだ人間なのだろうか?



――それとも……もう、神剣なのだろうか??



――どちらにせよ……最後の最後まで、抗ってやるんだ――







――運命って奴に――











「むぅ……って、あれ? みんな……何処??」

「此処です、アオ……暗すぎるので、なるべく離れない事をお勧めします」



アオは、皆から約1m位離れた地点で孤立していた――



――即ち、1m以上先は目視できない闇に呑まれているという事になる。







「なあ、エスペリア……また一段と暗くなってないか?」

「黒色のマナが異常に増殖され、且つ、黒色以外のマナが稀薄な時に……こんな現象が起こると聞いたことがあります」

「最も、両者ともに被害が受けるので……戦争でこの特性が使われたことは有りませんが……」

「でも、敵はその戦法を使用してるんだろ……何のために??」

「おそらく、先の攻防で、敵のスピリットはかなり不足している筈です」



「……増援が来るまでの時間稼ぎって言いたいのか?」

「推測にしか過ぎませんが……たぶん、間違いは無いと思われます」



「にしても、現在地を把握できないのが痛いな……」

「ユート様……たぶん、雫なら解ると思うよ?」

「本当か??」



「うん、そうだよね??」

『……そうだな』



約100m近くまで伸ばした索敵範囲を一気に縮めて、近くの詳細を把握する……



「『えっと、5m程先にレンガで詰められた建築物……だな、どうやら門っぽい……扉は閉まってる』――って言ってるよ」

「つまり、サモドアに着いたんだな……よし、オルファ、ナナルゥ……神剣魔法で門を破壊して――」

高嶺の兄ちゃんが言い終える寸前、爆音が響いた――



「――っ? 敵襲か!?」

「みんな、迎撃準備を!!」

俺達は背後から狙われないように、背を合わせながら円陣を組む。



「雫! 何処からか解る!?」

アオの問いに答えるように、索敵範囲を最大まで広げる――



「『2時の方向……約200m先……町の中だ! そこにスピリットの反応! けど、詳細は解らん!』――って、言ってます!」

「解った、まず皆と合流するぞ! ナナルゥ、オルファ! 頼む!!」

「了解!!」
「任せて♪」



門を神剣魔法で破壊して、中へ――







近づけば、近づくほど詳細を確認できる。



反応は5つ……赤、緑、黒が1つで青が2……



おそらく、リモドアから進軍した部隊と黒スピリット一人と戦闘している。











そして、戦闘していると思われる地点に辿り着いた――







ネリシア姉妹、ハリオンとヒミカも、皆健在――



――皆、障壁を展開して待機している。







「皆、大丈夫か!?」

「この声って……ユート様!? ――って、っ!?」

――瞬間、ネリガキの障壁に亀裂が入った。



「ユート様! 気を付けてください!」

「気をつけ――――、っ!?」

ヒミカの姉ちゃんの忠告を聞いた瞬間、高嶺の兄ちゃんの正面から斬撃が迫る――

――脇腹を狙った斬撃は反射的に張られた障壁により弾かれる。



「――っ!?」

そして、一瞬の間も無いうちに……気配は闇に同化する――



「……今の、何処に行った?」

高嶺の兄ちゃんは、一秒も経たないうちに見失ったようで……

当然か……この黒スピリットは黒一色の服を纏っているし、ウイングハイロゥも真っ黒――

ソイツを、この闇の中で見つけるのは困難だ。



迷彩だけでも性質が悪いというのに加え、ブラックスピリットは瞬発力が高い。

更にダメ押しするかのように黒のマナが異常発生してる。



「なんでアイツ……こんなに暗いのに、俺達を的確に狙えるんだ?」

「私達のハイロゥが白いからじゃないの?」

『アオ、それは違う……いや、それだけじゃないんだ』



……それは大まかな位置を示すだけに過ぎないし、ハイロゥが存在しない高峰の兄ちゃんの急所を的確になんて狙えない――



「雫、それ……どういう意味?」

『解らないか、ネリガキ……つまり、アイツは見えてるんだよ』

「見えてるって……だって、こんなに暗いんだよ!?」

信じられないという顔で否定するネリガキ……



「相手はブラックスピリットです……見える、というのも当然かもしれません……」

そう、ナナルゥの姉ちゃんの言う通り……別に不思議な事じゃない。







相手は夜の名を司る妖精……



夜に愛され、夜の加護を一心に受けたブラック・スピリット――



――この程度の闇など……アイツにとって、障害にもならない。







よって、此処は奴の独壇場――







「………っ、う゛ぅ…………」

だが、敵の様子がおかしい…………



黒スピリットは、居合を基本とする攻撃が殆どの筈なのに……あのスピリットは鞘に収める事も無く、攻撃を繰り返してる……



ただ闇雲に……感情に任せて剣を振り回しているような印象がした。







無論、そんな攻撃では……微弱な障壁さえも突破は不可能――



――でも、このままじゃ確実に追い詰められる。







「オルファ、ナナルゥ、ヒミカ……炎系の神剣魔法で明るくできないか?」

「ユート様が来る前にやってみましたが……一瞬だけしか視界が確保できませんでした――っ!?」

ヒミカの姉ちゃんの方から、ガイン……っと、障壁が弾かれる音が闇に響く――



「雫……どうしよう?」

「どうするって……どうする??」



俺がナビゲートして位置を伝えるか?



それは無理……伝えている間にバッサリやられるのがオチだ――







考えろ……この闇を晴らすには……現時点では方法が無い。







――じゃあ、アオに俺が感知している情報をリアルタイムで伝えることは可能か??



それも、無理――あ、いや……出来る……かな??







『アオ……アウルとの訓練で、俺と同調した時……俺の心を読んだよな?』

「う、うん……」

『やってみろ……もしかしたら――』

「解った…………………」







――さて、思考を呼んだだけで位置が解るとは思わないけど……試さない価値は無いだろう。







「……っ!! 感じる……解るよ、雫!!」
「――ビンゴ!!」

敵さんは、出鱈目に太刀を振り回してるようだし……多分、あまり訓練を受けてないスピリットである事は間違いない――



「あの程度なら、お前でも十分戦える!」

「うん!! 行くよ!!」



勢いよく駆け出すアオ……



敵は運良く背後を見せている……ある意味、無防備だ!







「はあああぁぁぁ!!」
「――ぇ!?」

完璧に決まったと思われる奇襲――

――けど、姿が霞んだ瞬間……黒スピリットは10m先まで距離を離していた。



『アイツ、ヘリオン並に素早かったぞ……』

「………………………………」

『アオ、どうした?』

「あの子……泣いてなかった??」

『そうか?』

「なんか、そんな感じがした――」

『だからって、殺すことには変わりないんだ……事情を知ると、やりにくくなるだけだと思うぞ?』



「……………………でも……」

相手が、ハイロゥを広げ……姿が霞み――いきなり目の前に現れた。

「……………………っ、やっぱり!!」

相手の斬撃を、バックステップで避けて距離を取るアオ……











「ねえ……どうして……泣いてるの?」



確かに……黒スピリットは泣いていた――



自我なんて存在しないと思わせるほどハイロゥが黒化しているのに――



――ぼろぼろと、涙を流していた。







「――っ!!」

そして、その言葉が気に食わなかったのか……膨れ上がった殺気と共にアオに襲い掛かる。

「――あぐっ!?」

勢いが乗った斬撃を弾くも、その衝撃に吹き飛ばされ、地面を滑るアオ……



「返してよ……」

そんな言葉と共に追撃が来るが、間一髪で障壁の展開に成功……その攻撃は、弾かれた――



「……何……を?」

「みんなを……返してよぉ――」

目の前のブラックスピリットの顔は――悲しみと、憎悪に彩られていた――



「テェリルさんを、ミルアを、カリィさんを…………」

聞いた事が無い人名を呟きながら……目の前が見えないぐらい涙を流しながら……彼女は剣を振り下ろす――



憎悪の感情を丸出しにして……アオに神剣を叩きつけている――



「――返せ……返せ……返せぇ!!」

見れば、まだ……アオとあまり年が離れていない少女――



この周辺には、彼女と俺達以外……スピリットの反応は感じられない――











――彼女と親しいスピリットは、先の戦闘で霧に還ったとすれば?











――彼女以外、もう誰も居ない……たった一人、残されたのだ――











――もう、バーンライトのスピリットは……彼女だけなのだ――











「ぁ……ぁ゛――」

アオは、その少女の攻撃を……気功の盾で防いでいる――

ブルブルと……身体を振るわせながら、その攻撃に耐えている――







「お前達が死ねばよかったのに――お前達がアアァァ!!」



正直、俺も恐怖で頭が真っ白になっていた――



だって、目の前の少女は正気じゃない……



悲しみと憎悪が混じった狂気――







その狂気に彩られた顔が……こんなに恐ろしいとは思わなかった――







「ごめん……なさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい――」

『っ!? おい、アオ……!?』



アオはもう……戦意など完全に消失し、目の前の恐怖に呑まれている――



『しっかりしろっての! このまま殺されてもいいのか!?』

「……だって、だって――――」



ピキっと、障壁に亀裂が走る――



『この……馬鹿!!』
「――っ!?」



『お前は、どんな悪いことをして謝ってる!?』

「だって、私……殺しちゃったんだよ?」

『じゃあ、お前を殺そうとしてる奴は? 目の前のガキは、お前が言う悪いことをしてないって言うのか!?』

「…………」



『そんな筈は無いよな? スピリットとして生を受けて、国家に所属していて……殺しなんてしてない筈なんて無い!!』

『アイツだって……ラキオスに所属している誰かを殺して、その誰かと親しいスピリットを泣かせたんだぞ!!』

「――でも……でもぉ!!」



『いいか、アオ……この世界じゃ殺しってのは日常茶飯事なんだよ!!』



『ソレを悪い事って嘆くのも、お前の勝手だけどな……嘆いたところで何も変わらないんだ!』







ビシっと、障壁が欠ける――







『お前が殺されたところで、何も変わりやしない……スピリットって種族はな、同族を殺すためだけに存在してるんだからな!!』

「そん……な…………」



『でも、お前は言ったよな? ここに来て良かったって、思える……って』



『みんなに出会えたから良かった――――って、俺が悩んでるとき、確かにそう言ったよな??』







トドメと思える一撃が振り下ろされる――







『なのに、お前は死を選ぶのか? 見ず知らずの他人の為に……お前と出会った皆を悲しませても良いっていうのかよ!?』
「――!!」







障壁が割れる――



――同時に、アオの右手にマナが集まり……遠当てで敵を吹き飛ばした。







『アオ、あの時の事……もう一度言うぞ――』





『他人のことなんて考えるな……出会う敵の事情を全部考えても意味は無いんだ!』

「解って……る……」



『他人より自分を大事に考えないと……この世界じゃ生きていけないんだよ!!』



「――うるさい! 解ってるってば!!」







黒スピリットに向って走り出すアオ――



敵は、アオを睨みながら……神剣を鞘に収め――



「許さない……許すもんかああぁぁああ!!」







一歩、大きく踏み込んで……抜刀される神剣――











――振り下ろされる俺――



























――前に、セリアの姉ちゃんが言っていた――











――太刀に迷いが有る者は死ぬと――











――太刀に迷いがある者と太刀に迷いが無い者――











――二人の神剣が交差する――

























アオの脇腹に深く沈みこむ神剣――









反面、俺は敵の肩を掠っただけ――











「――ごふっ?」



ズルリ……っと、神剣が引き抜かれて……トドメを刺そうと、目の前のスピリットが神剣を振り上げる――











『――っち!!』

即座にアオの体を乗っとって、後ろに飛ぶ――







でも、足に力が入らない……けど、渾身の力で地面を蹴る――















おかげで、真っ二つにはされなかったけど……肩から袈裟に斬られ、致命傷――



背中から地面落ちる――







「っが、ふぅ、ひゅー、ぐぅ……っ!!」



息が、うまく吸えない――



体から、黄金にも似た霧が空を昇る――



狂気に染まった顔が、俺を見下しながら……神剣を構えた。











――もう、助からない――











絶望を感じていた時……ふと、空が目に入った。











雲ひとつ無い綺麗な星空……月が無いのは、やっぱり異世界だからなのかと……











……殺されるというのに、どうでもいい事を考えていた――――











そして、勢いよく振り下げられる神剣――















――けど、その神剣は……俺に到達する前に真横から飛来した槍に弾かれ、俺の顔を大きく外れた位置に振り下ろされた。



「――な、なにぃ!?」

「うふふ、それ以上アオちゃんを苛めると……本気で怒りますよ?」



――闇が……消えてる??



「よくもアオを……覚悟しなさい!!」

ネリガキが敵に突貫する――



「っ!!」

ハイロゥを羽ばたかせ、真上に逃げる黒スピリット……けど――



「――シ、シアーだってやるときはやるんだから!!」

その方向には、ネリガキと一緒に駆け出していたシアガキが居た。



「やぁぁぁぁぁぁっ!」
「っ、この程度なら――っ!?!?」

振り落とされるはずの『孤独』は、ピタリと寸止めされ……シアガキは、離脱――



「観念しなさい あなたが勝つ確率は万に一つもないわ――フレイムレーザー!!」

――した瞬間、赤の光線が黒スピリットを貫いた。







「あ、あぁぁぁ……っ、ぐぅ――」

でも、まだ生きてる――



黒スピリットは、そのまま逃げようと更に上昇する……







でも、その上には――







「――ん……、とどめ!」

斬!! っと、流星を思わせるスピードで空から降下してきた鎧の姉ちゃんに胴体を切断された――――











「……ん、……よかった、間に合った」

俺の近くに、華麗に着地する鎧の姉ちゃん……



数秒後、グシャっと……上半身だけが残ったスピリットが落ちてきた――



でも、もう殆どマナの霧に姿を変え……目視さえ不可能なほど薄くなってる中……そのスピリットは――







「……こんな、世界なんて……滅べば……いい、のに――」

そんな恨みの言葉を残して……少女は完全に、霧へと姿を変えた――















「アオ、すぐ癒しますから――献身よ、彼の者を癒して! アースプライヤー!!」

癒しの風が身体を包み込み、傷口を塞いでいく――



「み、みなさん、大丈夫ですかー!?」

「……あ、ヘリオンだ! セリアも!!」

ネリガキが空を指差す。

その二人は……ふわっと、高嶺の兄ちゃんの近くに着地する。

「アセリア……どうやら、間に合ったようね……」

「ん……、間に合った……」



「――間に合ったって……セリア、どういうことだ??」

「ですから、祭壇の破壊です……ユート様達が交戦しているのは予想できましたから、私達は月の祭壇の破壊に向ったのです」

「ああ、そっか……それで闇が消えたのか……それにしても、よく祭壇の場所が解ったな……」



「ヘリオンが居ましたので……」
「――はい! 私、頑張りました♪」



「助かった……3人とも、本当にありがとな……おかげで、誰も死なないですんだよ」

「あわわわわ、わた、わた、私はセリアさんに言われたとおりに行動しただけですので、べ、べべ、別にっ」

「……ん、私も……」



「そうなのか……ありがとな、セリア――」

「私は、当然の事をしたまでです……」

「それでもだよ……本当にありがとな……」

「――っ、そ、それより! ……アオ、随分顔色悪いようだけど……大丈夫??」



顔をちょっぴりと赤くさせながら、本当に心配そうに俺を見つめているセリアの姉ちゃん――



「顔色が悪いのは……多分、血が抜けすぎたんだ……それに、アイツは今……気絶してる」

「…………まさか……雫なの?」

「さあ? 想像にお任せする……」



力が入らないアオの身体に……気合という鞭を打って、立ち上がる。

そして、さっきのブラックスピリットが消えた場所に観察する。



そこの地面は、少しへこんだ痕があるだけで……もう、彼女の血痕は綺麗に消えていた――

「こんな世界なんて、滅べばいいのに……か――」

そんな事を思いながら死んだスピリットは彼女だけでは無い筈だ――

でも、それほどの恨みを持っていて……なぜ悪霊と化さないのだろうか?



――それ以前に……なんで、こんなになるまで……人間の命令に従っていたのだろうか?



「……なあ、高嶺の兄ちゃん……お前、どう思う??」

「……何がだ?」

「さっき死んだブラックスピリットについてだよ……彼女は、世界が滅べばいいって言いながら死んだ――」

「――きっと、何もかも憎んだんだろうな……人間も、スピリットも……」

「……それが……どうしたんだ?」



「彼女は、なんで逃げ出さなかったんだ? なんで、最後まで此処を守るために残ったんだと思う?」

「…………………………」



高嶺の兄ちゃんは俺に警戒しながら……俺の問いに真剣に考えてくれてる。



「俺は、スピリットじゃないから……わからない……」

「じゃあ、メイドの姉ちゃん……あんたは解るか??」



「そんな事を知って……どうするのですか?」

「別に……ただ、納得が出来ないだけ……」

「なんで、そこまで追い詰められても……人に従うのかなって……」



「私達は戦うための存在なのです……それ以上の理由なんて存在しません――」



「自分で言って……哀しくなんないか? ソレ――」

「……………………」



俺の問いに、メイドの姉ちゃんは詰まっている……つーか、なんでソコで詰まるかねぇ?



「別に、いいけどさ――」
「――いい訳ないだろ!!」



「ユート……様??」



メイドの姉ちゃんが、驚いた表情で……高嶺の兄ちゃんを見つめている……



無論、俺も……少し驚いた――



「なあ、みんなも同じなのか?? みんなも、自分は戦うためだけに存在してるって……そう思ってるのか??」

高嶺の兄ちゃんの問いに……年長組みは迷いもせず頷くけど、ガキ共は首をかしげている。



「――なんでだよ!! なんで、それで納得しちゃってるんだよ!!」



その事実は間違っていると……必至に、そして泣きそうな顔で高嶺の兄ちゃんは叫んでいる――



「確かに俺達は、人間のいいように使われて、戦いを強いられてるけど……でも、それだけじゃないはずだ!」

「みんなの手だって、剣を握るためだけにあるんじゃない……スピリットも人も同じなんだよ、何も違わないんだよ!!」



この場に居るスピリット全員が言葉につられるように、自分の手を見る。



「俺達はこの世界の人間の言うままにたくさんの殺し合いをしてきている……」

「だから、沢山のスピリットを殺してきた俺達がこんなことを望んじゃいけないのかもしれない……」

「でも、戦うためだけに生きてるって……寂しすぎるだろ!!」



高嶺の兄ちゃんの声が木霊して……沈黙が訪れる――



そんな中……鎧の姉ちゃんが、すがる様な目で口を開く――



「……わたしは……戦うことしか知らない……そのために生きている」

「マナの霧になるまで、戦う……それが、わたし――」

「――戦うこと……それ以外にも……わたしが生きる理由が……ある?」

「ああ、きっと、きっと何かあるはずなんだ」



親が子供に大切な事を教えるような……そんな顔で鎧の姉ちゃんを見つめている高嶺の兄ちゃん――



「じゃあ……わたしは、何を……すればいい?」

「それは、俺にもわからない……きっとアセリア自身にしかわからないことなんだと思う」



「じゃあ、パパは? パパは何のために生きてるの??」



「……そうだな……俺は…………俺は………………佳織を――」



ふと、何かを気づいたように首を振り――



「――いや、佳織だけじゃない……」

「大切な人達を……俺を助けてくれた大切な人達を幸せにするために生きてたと思う……でも、今はそれを守るために剣を振るう」

「――でも、みんなには……みんなの何かがきっとある……戦い以外の何のために生きているのか……とかさ」







「……ユート様……ユート様は、変わりませんか?」

「――エスペリア??」



「……力を持ったことで、変わって行きませんか? スピリットは戦うためだけに存在している……それは事実です」

「……それでも、ユート様は、戦い以外に生きろ、と?」

メイドの姉ちゃんもまた……鎧の姉ちゃんと同じような瞳で、高嶺の兄ちゃんを見つめている――



「わからない…俺はスピリットじゃない……だけど俺は、みんなが戦うためだけに生きるなんて、嫌なんだ」



「俺にとって、みんなは、人間とかスピリットとかじゃない……そう、仲間……なんだから――」



「だからさ……皆も、自分の事を戦いの道具だと思うことを考え直して欲しい」








――正直、高嶺の兄ちゃんの告白に……ムカついた――





「……………………そうだよな……良くは、ないよな……」

そう、良い事か悪い事かなんて……考えるまでも無いんだ……











――人とスピリットは何も変わらない――











――あたりまえ……本当にあたりまえの事を喋ってるだけ――























――そんな事、俺でも知っていた筈なのに――























――スピリットも人と変わらない筈なのに――











――もう何人ものスピリットを殺したというのに……罪悪感なんて欠片も無く――











――たった一人の人間を殺しただけで……罪悪感で押しつぶされそうになっている自分に――























――もう、スピリットと人間は同じ存在だと思ってない自分に……殺意を覚えそうなほどムカついた――























「――アオ??」

少し警戒しながら、それでも心配そうに俺を見つめている高嶺の兄ちゃん――



「雫だよ……俺は、時神 雫……それと、すまん……さっきのは失言だった……」

「いや、謝られても困るんだけどさ……」


「……なあ……もう一つ聞くけど――」

「――スピリットが……スピリット同士が戦わないで済む日は……来ると思うか?」











――アオの言葉を代返するように、高嶺の兄ちゃんに問い掛ける――











「……わからない……でも、諦めなければ……きっと来る筈なんだ!」

「……本気で……そう思ってる?」

「ああ、諦めなければ……絶対に来る!!」













ガキ臭い根性論――











――顔を見て、本気で信じていると理解できる。







思いっきり笑ってやりたい……けど――



















「そっか……諦めなければ来る、か……」







――けど、そこまで自信たっぷりに言われたら……







……信じるしかないだろう――















「あんたは……狂わないよな??」

「え??」

「恥かしい台詞を堂々と、そこまで言い切ったんだ……なら、自分という自我を、神剣如きに犯されはしないよな??」

「当たり前だ……俺は、バカ剣に負ける気なんて無い!!」

「そっか……じゃあ、俺も……お前に負けないように頑張らなくっちゃな――」



――接続した感覚を切断する――















ブツンっと……一瞬、視界にノイズが走り……雫世界の病院にいた――















「………………………………さて、探すか」



この世界のどこかで落ち込んでいるであろうアオが容易に想像できるから……







慰めて、元気になったところをからかって……またいつも通りに過ごすのだと――











いつもの様にアオと過ごして……そうしてればきっと、冷酷に犯される前の自分に戻れる筈だと――











その事を諦めずに、信じたら……絶対に戻れるんだって――











――そう信じながら……俺は、アオが行きそうな場所に向って歩き出した。








あとがき



修正版です、違和感が無いように何度も何度も見直して仕上げました♪

 バーンライト陥落まで、約30話……長いなぁ自分……
あまりのペースの遅さに焦って、再び展開が急ぎすぎた感じもしなくも無い……ちょっと鬱です♪

まあ、それはともかく……オールラウンダータイプが首都を防衛したら、あんな風になるのではと想像しながら執筆した次第であります。

 黒い影さんが言っていた『鍵と器』は何か??
解る人は沢山居るでしょうが、もし予想がついても秘密にしてくれたら嬉しいです♪

 補足として、真っ暗闇現象につきましては、黒の属性値が50以上で、それ以外のマナがマイナスになっている時に起こる現象としています。
ゲーム本編では、サモドアのマナ値は殆どのは20〜30なのですが……物語を都合よく進めるために黒以外マイナスという戦法と取らせていただきました。

それでも納得いかないという人は、マナの属性値を減らす施設が存在すると無理矢理にでも納得していただけると嬉しいです。



次章は第一詰め所の皆さんを交えた日常編再び?

のんべんダラダラと進んでいますが、今後も長い目で見守っていてくだされば嬉しいです♪



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