永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 4 始まりの戦
第9節 『不器用な信頼関係』
さて、唐突な疑問ですが――
――睡眠できない俺は、夜中はどんな風に暇をつぶしてるんでしょうか?
神剣という身体になってから、視覚という感覚が消失した代わりに周りの情報を読み取れるという感覚を手に入れた。
そしえ、その新鮮な感覚を味わう事で何とか夜中をやり過ごしていた。
――でも、慣れれば終わりだ。
一ヶ月ぐらいたった時は、既に飽きてた。
つーか、自分でもよく一ヶ月も持ったと思う。
暇になったら、次の暇つぶしを考える事は当然のこと。
ソレを繰り返して、もう三ヶ月以上の月日が経って……予想できる最悪の事態が訪れてしまった――
もう、ネタが思いつかないんです。
絶望的だった……
もう、一人で意味の無い思考を繰り広げる夜は我慢ならなかった――
――だから、アオに助けを求めた。
俺は今まで一人苦しんで、何とか長い夜を耐え抜いてきたんだけど――
――もう、この孤独には耐え切れそうに無いと思ったんだ。
せめて、一夜だけでも……できれば、一週間に一度というか毎夜……遊び相手が欲しかった。
他人を頼るのは自分が弱いからだ……と、何処かの誰かが言っていたんだ。
主にドラマ番組とかで――
でも、ソレは悪いことじゃ無いし、むしろ人として当然の行為なんだ……とも言っていた。
正にその通りです。ドラマの俳優さんは良い事を言う♪
人は、一人じゃ生きられない生物なんですよね?
更に、契約者とその神剣は運命共同体、苦楽を共にしなければいけない義務が存在し、毒を食らわば皿までの関係が成立すると思うのですよ?
「アオ、起っきっろ〜〜♪」
「……んぃ…………」
だからさ……何を言いたいかっていうと――
「アオ、一緒にパパを起こしに行こうよ♪」
「…………いってらっしゃい……zzz――」
――アオが寝不足なのは、断じて俺の所為じゃ無いと思うんだ。
「だ〜か〜ら〜〜、アオも行くの! ほら、起きてよ、ねえってば!!」
「…………むぅぅん……」
オルファのガキの揺さぶり攻撃を布団という障壁で防ぐアオ……
己が満たされるまで睡眠を貪るのだと言わんばかりに布団に顔を埋める。
「もう、なんで起きないの!! アオ!! ほらぁ!!」
ぐぐぅ〜〜っと掛け布団を引っ張るが、アオも負けじと布団を掴んで力が拮抗している。
オルファのガキは全体重を掛けて引き剥がそうとするが、アオは股に布団を挟め、更に両腕で布団を抑えている。
――よって、現在のパワーバランスはアオの方が圧倒的だ。
「むぅ――あ、そうだ♪」
何かを思いついたように部屋から退室し、数十秒後……再び戻ってきた。
片手に永遠神剣『理念』を持って――
……なるほど、これなら軽々と布団どころかベットまで持ち上げれる。
「ふっふ〜ん、コレなら簡単に♪」
そう良いながら、ガッシリとアオの足元に位置する布団を掴む――
「せぇ〜、の!!」
威勢の良い掛け声と共に布団を引っ張った瞬間……ビリッ!! っと、布団が引き裂かれる。
「……あ゛!?」
結果、オルファリルは布団の欠片を8割手に入れた♪
持っているだけで、お姉ちゃんズに怒られてしまう呪いのアイテムだ。
――しかし、目的は達成した。
もはや、アオの掛け布団は意味を成さない……清く起きると思いきや――
「…………くちゅんっ! ……zzz――」
可愛げのあるクシャミをしながら、震えながら寝てる。
恐ろしいほどの
「……ぇっと……」
オルファのガキは、アオと引きちぎられた布団を交互に見つめて冷や汗を流しながら何かを考えている。
それも当然……ここはラキオスではなく、ラセリオの館なのだ。
ラキオスの館では「仕方がないですねぇ」と流される可能性が有っても……ここの場合は違う。
解りやすく言うと、ここはアオの部屋ではなく、別のスピリットの部屋。
ここの部屋・道具も含めて、一時的に『借りて』使わせて貰ってる状態なので大目玉は確定だろう。
昨日、セリアの姉ちゃんやメイドの姉ちゃんがガキ共に、”絶対”壊さないで……って、絶対の部分を強調して教えていたのを覚えてる。
「――あ、そ〜だ!!」
アオが寝てるベットの下に布団の欠片を押し込むオルファのガキ――
――人、それを証拠隠滅という。
だが、このガキは知らない……その光景をバッチリ観察している目撃者が居る事を――
「オルファ? 何してる?」
「――え!? ぁ、ぱ、パパ?? な、なんで起きてるの?」
「アレだけ騒がれれば起きるって……それより、なんでアオの掛け布団を破いたりしてるんだ?」
「ぅぅ、それは……」
やんわりとオルファのガキを叱るような表情で睨みつける高嶺の兄ちゃん……
「どんな理由であれ、起きたらちゃんとアオに謝るんだぞ……」
「……はぃ……」
「――くちゅんっ! ……zzz――」
アオは、ブルブルと震えている。
――つーか、寒いなら起きろ。
「それにしても、寒そうだな……よし……」
何かを決意したように隣の部屋に行き、掛け布団をもってアオに掛ける高嶺の兄ちゃん。
「あれ? パパ……それ、何処から持ってきたの?」
「俺が使ってたのだけど……さっき起きたばっかりだから、まだ暖かいはずだと思って……」
「――え゛!?」
同時に、アオはその布団を抱き枕のように抱きつく格好になる。
「アオ、私が使った布団あげるから離れてよぉ〜〜!!」
アオに与えられた布団に引き剥がそうとした瞬間、服の襟を高嶺の兄ちゃんに摘まれるオルファのガキ……
「ほら、行くぞ……布団破ったことをエスペリアに謝らないとな♪」
その言葉を聞いた途端、オルファのガキの目から涙がこぼれる。
「う、わあぁぁん!! アオのバカバカバカああああぁぁ――」
泣きながら恨みを残すオルファのガキと、その少女を引きずりながら退室する高嶺の兄ちゃん。
……そんな貴方に伝えたい。
こんな理不尽に出会えば出会うほど、人は強くなるもんだって事を――
「……zzz♪」
新たな布団を手に入れて、幸せそうな顔で睡眠を貪るアオ……
そんな平和な朝だった――
…………ちなみに、メイドの姉ちゃんとセリアの姉ちゃんの叱り声が聞こえたのは……それから数分後の事だった。
とりあえず、心の中でオルファのガキに合掌しておこう。
――今日の自由時間は何の事件も無く、ゆったりと過ごすのだろうという甘い考えは……
数時間後に訪れるセリアの姉ちゃんに否定されるとは思っても見なかった。
「アオ?」
「zzz……」
『見て解るとおり、ぐっすり寝てる……ぞ?』
来て早々に俺の声に気づいたセリアの姉ちゃんは……まるで、氷のように冷たい視線を俺に向けていた――
『……なんだよ?』
「別に、なんでもありません」
嘘付け……明らかに何かを言いたそうな表情してる癖に――
『……まあ、いいけど……それより、アオに何か用事でもあるのか?』
「アナタには関係無いでしょう!」
――なんで、そんなに怒ってるのか意味不明だ。
『……………………なにか、気に喰わない事でもあったのか?』
でなければ、何時にも増してツンツンしている理由が思いつかない。
「なんで、神剣如きに私の事を話さなければいけないのかしら?」
『如きって……オイ!?』
ほんっっっとうに癖に触る女だと思う……人を見下して喋ってる物言いが特に!!
『あれだ……お前とはそろそろ白黒ハッキリ付けないとダメみたいだな……』
――主に俺が!
「そろそろ? 私達が会話できるようになってまだ数日も経ってませんが?」
『友を見つけるのに時間は要らないように、決着を付けるのにも時間は要らんだろうが!』
「言いたい事は解るけど……その例え、意味不明じゃないかしら?」
『良いんだよ! アンタは俺が気に入らない……俺もアンタの態度が気に入らない――』
『――なら、ハッキリと腹の内を明かしたほうが双方の為になると思うけどな?』
「……そうね、私も貴方に聞きたいことが有りますから……それで、場所は?」
『そうだなぁ、アンタのヒステリックな怒鳴り声が聞こえないような……他人に迷惑が掛からない場所で♪』
「っ――! 上等よ!!」
ガシッ! っと俺を掴んでズンズンとアオの部屋を出るセリアの姉ちゃん。
――牽制のジャブは、いい感じに決まった♪
「セリア? アオを起こしに行った……筈、じゃ……」
廊下でバッタリと会ったメイドの姉ちゃんは、セリアの姉ちゃんと俺を交互に見つめている。
「エスペリア……私がもし進軍時間まで戻らなかったら、私は死んだものと思ってちょうだい!!」
「――はい??」
まるで、今から決闘場へ向うほどの気迫だ。
もし、この姉ちゃんと決闘という事になったら――
――錆取り事件簿が脳裏をよぎる――
『あ、あぁ……あの……セリアさん、少しだけお話をするだけですよね!?』
自分が一方的な弱者という事実を忘れていた。
「セリア? 一体何処へ??」
「この神剣と白黒付けるために、ちょっと出かけてくる」
『――無視しないで下さい!!』
「なにを今更怯え――あぁ、そういう事……」
俺がナニに怯えてるのか悟ったようで、セリアさんの口元が若干吊り上ってるぅ!?
「はぁ……気をつけて……」
「大丈夫……今、どっちが有利なのか思い出したから……ね、雫♪」
『ひひいぃぃぃ!!』
何処で選択肢を間違えたんだろうか?
抗う事も出来ず……ただ流される俺――
俺、やっぱり不幸だ……
「……ここなら良いでしょう?」
着いたのは、ラセリオから少し離れた森――
人の気配は無く……風に揺らされる木々の音だけしか聞こえない場所で、鞘ごと地面に突き刺さった。
「……さて、話してもらいましょうか?」
無論、熱湯が煮えたぎった釜も見当たらない――
『あ〜、助かった……で、何の話だったっけ?』
「アナタ……やっぱり私をからかってるの?」
『そんな筈は無いぞ――』
――って、思い出した。
『あれだ……なんで俺に苛立ってるんの?』
「……本当に解らない?」
『ん〜む……』
セリアの姉ちゃんとの会話を振り返ってみる。
――アナタ……やっぱり私をからかってるの?――
『やっぱり』という事は、前科があるという事だ。
つまり――
『俺のふざけた態度が気に入らない……とか?』
「…………」
『解った……解ったから、そんな冷たい目線を睨むな…………ったく、本気で考えればいいんだろうが……』
そもそも、セリアの姉ちゃんが俺を敵視し始めたのは……初めて会話した時からだ。
それ以前までは、結構親しげにアオと話し掛けてきてくれた……筈だ。
つまり、初めて俺の姿を見たときに幻滅したとしか考えられない……
――つまり――
『やっぱり俺の態度が気に入らないんじゃねえか……』
「――違う!」
『じゃあ、アレか!? お前、俺に惚れてたぁ?』
「なんで、そんな結論が脈絡も無く浮かび上がるのよ……」
深い溜息をついて……何かを諦めたようにセリアの姉ちゃんは俺の横に座る。
「あなた……本当にエトランジェなの??」
『何気に失礼な言い方だな……何を根拠に?』
「エトランジェって言うのはね……この大陸で勇者として言い伝えられているの」
――知ってる……此処に来て初めて座学を学んだ日……ガキ共がそう騒いでた。
「過去のエトランジェ達は、大陸に伝わる宝剣『求め』『誓い』『因果』『空虚』を手に王子達に力を貸した。
その英雄達の物語は、この大陸に住む人間は勿論、スピリットだって知っている伝説なの」
『……だから?』
「あなたを見てると、その伝説が疑わしくなるのよね」
……言いたい事は山ほどあるが、その前にコイツの誤解を正さねばなるまい。
『……お前、馬鹿だろ?』
「アナタに言われたくないわね……なんでそう思うのよ?」
『解らないか? じゃあ、例え話をしてやろう……この大陸で一番最強のスピリットは誰だ?』
「もちろん、帝国に居る漆黒の翼『ウルカ』よ」
『じゃあ、そのウルカさんが異世界に飛ばされて危機に陥った世界を救ったとしよう』
『んで、数年後に再びその世界は危機に陥り……今度はアオが飛ばされました』
『――アイツが世界を救えると思うか?』
「思わないわ」
即答ですか……まあ、当然だけどな。
『それと同じだ……俺も高嶺の兄ちゃんも、その妹さんも……戦闘に関しちゃ、きっと素人だ――』
『異世界には、数百・数万・数億・数兆と人口が存在し……人が存在する異世界の数も無限に存在する』
『俺達は、その無限に存在する一つの異世界の中……戦いの無い平和な国から偶然に呼び出されたんだ』
『前回訪れた奴がどんな異世界から召喚されたか解んねえけど……そいつ等と俺達を一緒にするのは酷というものだ』
「そう、ね……」
『エトランジェって肩書きで前回訪れた奴と同じ働きを期待されても……神剣に呑まれるのがオチだよ』
「アオを乗っ取ったアナタが……言う台詞では無いわ――」
『……は?』
「……エスペリアから聞いたけど……貴方、アオを乗っ取ったそうじゃない」
その言葉のおかげで、理解した。
この姉ちゃんが、俺を仇みたいに敵視している理由が――
『アレは成り行きで……仕方が無かったんだ……』
「本当にそれだけ? 取り込みたくて仕方が無かったの間違いじゃないのかしら?」
『ッッ――! アンタなぁ……言っていい事と悪い事が有るって知らねえのかよ!?』
「私は信用してない人には冷徹ですから」
「それに、私は確かに死んだ筈なのよ……」
「グリーン・スピリットに死者を蘇らせる高度な神剣魔法があるけど……そのグリーン・スピリットでも物凄く力を使うのよ?」
「――下手したら、神剣に飲み込まれるほどに!!」
ヒステリックな声が、森に響く――
「アオが使ったのも、それと同じ効果の魔法でしょ?」
「貴方が勝手に使って、アオが自我が無くなって……それで私達が生き返っても迷惑なのよ!!」
――ブチィッと……俗に言う堪忍袋の尾が……豪快な音を立ててブチ切れた――
『結局、何が言いたいんだ……オマエ?』
「まだ解らない? 貴方の勝手でアオの心を壊さないで!!」
『はい、解りました。以後、気をつけます………なんて言うと思ってんのか、コラ?』
今のは致命的だ……
この世界に来てから……いや、来る前のも合わせて、キレた回数なんて少ししか無い筈だけど――
過去のキレ具合より、次元が違うってぐらい頭に来た。
――つまり、これ以上無いって程にブチギレた。
『……あの時……本当に、ほんっっとうに……あのまま死んだほうが良かったなんて思ってんのか?』
『あのアオを残して……アオの目の前で死んで、それがアオの為ですって……本当に、そう思ってんのか??』
「――っ、!?」
痛いところを突かれたように、セリアの姉ちゃんは顔を顰める。
『アオはさ……あの日、目の前で一人のスピリットに庇われて生き延びたんだ』
『名の知らないスピリットがな、何も知らない奴を庇って死んで……庇われたアオは大泣きしてたんだぞ?』
忘れるはずが無い、アオがあんなに泣いていたのは……アノ日が初めてだったから――
『ごめんなさい、ごめんなさいって……壊れたように泣いて……それでも、お前達を助ける為に泣き止んだんだ』
心の底から……アウルに反抗してまで、助けたいって――
なのに、このオンナは……死んだほうが良かったと――
――その言い草が……本当に我慢ならない――
『――それを迷惑? フザケタ事抜かすのも大概にしろよ馬鹿野郎!』
罵倒の意味を込めた言葉を叩きつけて尚……セリアの姉ちゃんは冷たい目で俺を睨んでいる。
『俺の勝手でアオを壊すな? その台詞、まんま返してやるよ!!』
『――お前こそ、アオの心を壊すんじゃねぇよ!!』
セリアの姉ちゃんの表情は変らない……
変らない表情で……冷たい視線で俺を睨んだまま……
一筋の涙を流していた――
『……ぁ……』
「……ぁ、っ――!?」
セリアの姉ちゃんは冷静を装うが、涙が止まらず……ダムが決壊したように、次々と涙がこぼれている。
「っ、っ゛〜〜!?」
もう、どうしていいのか解らないようで……冷徹な顔が、子供の泣き顔の用に変っていく――
――その姿は……自分の発言を後悔するように……子供が悪いことをして、親に怒られて泣いているような……そんな風に見えた。
ソレを見て……沸騰していた頭は急速に冷えていくのがわかる。
『あ゛ー……』
女という生き物は……本当に卑怯だと思う。
――泣くあたりなんて、特に……
つーか、失念していた。
どんなに気丈に振舞っていても……
セリアの姉ちゃんは未成年……俺より年下で、まだまだガキだと言うことを――
『泣くなよ……』
「な、泣いて……ません……」
――ガキだ……ガキが子供の言い訳をしてるよ。
『あのな、セリアの姉ちゃん……アンタの心配は気鬱だよ』
「……え?」
『あの神剣魔法……実際、アオの心を蝕んじゃいない筈だ』
そのかわり、俺が消えかけてるけどな……
っといっても、実際消えるっていう実感沸かないんだけど雫世界で薄くなってたし……多分、消えかけてる事に間違いは無い。
「信じ、られない、わよ……そんな事――」
『はいはい、そうですね……信じなくても良いよ……俺を疑いまくって生きていけ……』
この姉ちゃんが泣いて、戦意がかなり衰えた。
――ぶっちゃけた話、どうでも良くなってきたよ。
「始めっから……そのつもりよ!!」
『はいはい……けどさ、どうでも良いじゃねえか、過ぎたことなんて……』
「……良いわけ、無い……」
『良いんだよ……誰も死んでない、誰も自我を失ってない……無事に終わった事を蒸し返すなんざ、馬鹿がする事だ』
「………………………………それ、遠回しに……私を馬鹿にしてるの?」
やっと、泣き止んだ……つーか、落ち着いたっぽい。
『当たり前だ……むしろ、自分の事を棚に上げて俺を責めた事について謝罪意思は無いんですかぁ?』
「……っ…………………………ごめんなさい……」
『かなり間が合ったのが気になるけど……まあいい、以後気を付けたまえ――』
「……っ、偉そうに……」
――それを聞えなかった振りをするのが漢というモノだ。
『それで、アンタがぷんぷん怒ってた理由って、俺が勝手に神剣魔法使ったからなのか?』
「そうね、ソレも有るけど……貴方は神剣――ん?」
『??』
セリアの姉ちゃんの顔がどんどん険しくなっていく……
「……えっと……神剣に取り付いた……エトランジェ、だったっけ??」
『うむ、その通り♪ ゴースト・エトランジェたる俺に、何をぷんぷん怒ってるのかね?』
気まずそうに、俺から目線を逸らす姉ちゃん。
その表情は知ってる……アレは致命的に何かを間違えてた事に気づいた表情だ。
「本当にごめんなさい……今回は、私が一方的に悪いわね……」
うん、神剣とエトランジェを混同させて暴走した君が悪い。
――勘違いでボロクソに言われたコッチとしては、謝罪だけでは心少ないな〜……なんて思ってるのは秘密だ。
「貴方はの身体は神剣だけど……違うのよね? ……アオの心を……壊さないわよね?」
最終確認するように……セリアの姉ちゃんは、怯えるように……俺に問う――
その問いの答えで、セリアの姉ちゃんは……俺を完全に信用するという確信がある。
――だから、俺は正直に答える。
『無理……たぶん、壊す』
「え??」
『確かにさ、俺はアオの心を壊したくは無いと思ってる』
『でも、アオの身体を乗っ取る事は……何も思ってない……』
『それが、アオの心を壊す引鉄になったとしても……アオが死にそうな場面に出くわしたら……俺は、間違い無くアオを乗っ取る』
「でも、それは……アオの為を思ってるからでしょう?」
『あ〜、言い方が悪かったな……アオが死ねば俺も必然的に消える事を忘れてないか?』
「……?」
『俺が生きるため、アオがどうなろうが関係無いんだ……』
「……どういう、意味よ?」
『普通、解るだろ? お前やナナルゥの姉ちゃんみたいに……自己を犠牲にしてまで護るなんて……俺には出来ないよ』
『俺はまだ死にたくないし、消えたくも無い……まだまだ自分の人生に満足しちゃいない……』
「そう……それが……アナタの答えなのね――」
裏切られたと……そんな表情をしながら呟いている。
でも、罪悪感は感じない。
むしろ、この姉ちゃんには……俺がどんな人間なのか、知ってもらう必要が有ると思う。
俺は、他人より自分の方が大事だと思ってる……そこらの一般人と同じ常識の持ち主という事を――
『悪いな、アンタの期待を裏切って……俺は聖人じゃない、そんな役目は余裕のある暇人に期待してくれ』
「元々、アナタに期待なんてしてません!」
『なら結構……今の俺が考えてる事なんて、こんなもんだよ』
『だからさ……もし、なんにも危険が無いのに……俺がアオに干渉し始めたら……アンタが止めてやってくれ――』
「…………?」
『正直さ、死にたくないって言ったけど……そろそろ限界だって、自分でもわかってる』
「なにを……言ってるの?」
『見ただろ、あの世界で……俺の身体が消えかけてるのを――』
「………………」
『嫌な予感で終わってくれればそれでいいんだけど……』
――もしもの場合が有る――
『頼むよ……今、頼れるのは……アンタしか居ないんだ……』
セリアの姉ちゃんは、つまらなそうにこちらを見つめて――
「――お断りします」
――俺の真剣な願いを……キッパリと拒絶した――
『だよな……やっぱり、無理か――』
キッパリ断られる予感はあったけど――
――この頼みを断られるのは……かなりキツイ……
セリアの姉ちゃんは、俺の心情に構わず罵倒と思える言葉を紡ぐ――
「だいだい……その程度の事で、他人を頼らないでください……」
セリアの姉ちゃんの表情は、他人に頼るのは自分が弱いからだと――
「自分が消えそう? その位の事が何だって言うの?」
その程度の事で他人を頼るなと――
「――アナタが、自分を強く持てばいい話じゃない!!」
――他人事じゃないように、俺を激励するように罵倒してくれた。
『………え……あ、うん……』
その光景に、少し面食らう――
――まさか、セリアの姉ちゃんの信頼を裏切ったと思われる俺を……親身になって怒ってくれるとは予想してなかったから……
「………っ…………」
そして、セリアの姉ちゃんは、今自分のした行動を改めて思い返したようで赤面している。
『どうした、顔が赤いぞ♪』
「う、五月蝿いわね! とにかく、そんな事で他人を頼らないで!!」
ふん……っと、そっぽ向いて一人で町に戻るセリアの姉ちゃん――
――お約束通りに取り残された俺だが……一人になりたかったので好都合だった――
自分を強く保て……といわれても、俺の限界は今なのだ。
スピリットのマナを吸収する事を嫌悪しなくなって……逆に、その行為を楽しみに待っている自分が居るのも自覚してる。
その状態で、どうやって自分を強く持てというのだろうか?
根性論を言われても、俺にはどうも出来ない――
けど、少し心が軽くなったような…………そんな気がした――
人に頼るのは悪いことじゃ無いし、むしろ人として当然の行為なんだ……と、誰かが言っていた。
――ソレに付け加える言葉があるなら――
その頼みを断わったり、引き受けたりしながら……信頼関係という絆は深まっていくのだと――
――ガラにも無く実感してしまった。