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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 4  始まりの戦

第6節 『冷酷』



 






「…………ぅ、っ……」



 酷い頭痛と共に、意識が覚醒する。

目を開けると……蛍光灯が目に入った。



「……………………」

――ここは、病院……たぶん雫世界にある病院だろう。

丁寧に、布団まで掛かっている。



「……ふぅ……」



自分は……まだ居る……

俺は俺だと、自信を持って言い切れる……



一つになりかけたけど……俺はまだ存在している……



「――っ、え?」



不意に、薄くなっている手が見えた――

自分の両手を見ると、確実に透けていた――

いや、前から透けているのは解ってるけど……





それが更に薄くなってる――







――それは、つまり……







「……消え……かけてる、のか?」

震えが止まらない……

消えるという覚悟はしていたけど、それでも怖い……

自分が消えるという恐怖を払えない――



「…………はぁ…………」

頭痛の所為で気分まで鬱になる。

正直、未来に希望を持てそうに無い。

近いうち……俺は……消えるかもしれないから……







「……雫、どうしたのです?」

「もう、ダメかも――って!?」

 聞き覚えのある声の方向に振り向くと――



――部屋の隅で、ナナルゥの姉ちゃんが本を読みながら椅子に座っていた。



「………………あの、ナナルゥさん……なんで此処に?」

「目覚めたら、図書館と思われる建物の中で気絶していました」

「ああ……そうなんだ……」



どうりで、本を読んでる訳だ……じゃなくて!



「……なんで、俺の名前を?」

「アオが教えてくれました」

「なるほど……で、そのアオは?」

ナナルゥの姉ちゃんは、きょろきょろと周囲を確認して――



「――見失いました」

「そりゃあ、本を夢中で読んでりゃ見失うだろうよ」



――まあ、あいつの行きそうな場所は既に知ってる。

ソレよりどうしようか……



――力を与える代わりに代償を……ソレと同等の価値の有るモノを与えなくてはならない――



――アウルも言っていたように、この知識が無償だと思えない。

この知識の代償に、何かが抜け落ちている事も考えられる。

なら、何が抜け落ちたのか確かめに行くべきだろう。



「ちょっと、散歩してくる」

「……では、私も行きます」

「別についてこなくても……此処でゆっくり本でも見てろよ」

「そうはいきません、セリアに貴方の監視を頼まれたので――」

「あの姉ちゃんも来てるのかよ……」



まあ、通訳相手が増える事は構わないというか……喜ばしい事なのだが……



 病室から出て図書館を目指しながら歩く。







病院の廊下でナナルゥの姉ちゃんは、俺の4歩後ろをピッタリとくっ付いている。



本を読みながら、ピッタリと歩数を合わせているところが凄いというか――

――いやいや、そんな事より会話が無いのを何とかせねば……

初、ガキ以外の訪問者なのに……この沈黙は何とかならないものだろうか?



「本、好きなのか?」

「いえ、趣味として読む程度です」

「趣味なんだから、好きなんじゃないの?」

「本に好感は持てません。知識を取り入れる行為が好きなだけです」



「ぁ〜〜、言い方が悪かった……本を読むのは好きなんですか?」

「はい……」

最初っからそう言えっつーの……



「……それ、何の本?」

「女性に関する本……だそうです」



どんな本だよ、女性に関する本って? 







………………ま、ましゃか――







「……エロ本じゃないだろうな?? ちょい見せろ」
「――あ」

強引にナナルゥの姉ちゃんが読んでる本を奪い、開いてあったページを見る。







・初めてのデートコース編

デートコースを選ぶにあたって、心霊スポットは避けた方が懸命である。
心霊に興味が無い女性に、下心がある男性と思われる確立が高いからである。
デートコースを選ぶに当たって注意するべき―――――







「…………」

次のページを開く。







・女性へのプレゼント編

女性は何で喜ぶか、それはその女性の性格様々である。
とりあえず、高すぎるモノは止めたほうが良い。
なぜなら、普通の女性は絶対に引くから……プレゼントで一番――――――







パラパラと眺めるが、同じような内容ばかり……

彼女が居ない独身男性として、ありがた〜い内容が乗ってある本だった。



「こんな本が雫世界にあったのか……初めて知ったよ、オイ……」

「返してください……」

「……オマエがこんな本見ても面白味もクソも無いと思うんだが?」

「面白いに決まっているでしょう、このような内容は見たことが有りません!」

確かに、ファンタズマゴリア界に雑誌記事なんてある筈無いか……

「つーか、文字読めるの?」

日本語だぞ、コレ……



「文字はわかりませんが、理解は出来ます」

「……は?」

「ですから……文字は読めませんが、どんな事が記されているのかは解ります」

「ふーん……ま、いいけどさ――」



ナナルゥの姉ちゃんに本を返す。

図書館に出るまで、ナナルゥの姉ちゃんは熱心に内容を見ていた。







「やって来ました図書館……てな」

「……ふむ」

ナナルゥの姉ちゃんは適当な場所に本を戻して、新たな獲物を探している。



「さて、俺も――って!?」

そういえば、知識とか奪われてたら……俺に解る訳ないじゃん。



「どうしたのです?」

「――いや、まぁ……気にすんな……」

「? 解りました」



でも、どうするよ?

アオは基本的に勉強嫌い……だと思うから、本なんて見ないと思うし――

アオ以外の奴……つっても、ネリガキも同じ。

ニムニムなら……って、そもそもアオ以外の奴が頻繁に訪れてるのかが謎――



「ぁぁ、どうしよう……」
「――??」

途端にやる事が無くなったですよ。



とりあえず、アオと合流するか……







「いくぞ、ナナルゥの姉ちゃん……」

「しかし、まだ本が――」
「――とにかく行くぞ!」



あんな本があるんだ……エロ本があっても不思議ではあるまい。



もしエロ本なんて読まれたらこっちが恥ずかしい。







ナナルゥの姉ちゃんの手を掴んで、映画館に続くと思われる扉を開いた瞬間――















「――は?」







木作りの個室に迷い込んだ――



覚えが無いはずが無い……ここは、アオの部屋だ……







「……寒っ!?」

やけに冷える……まるで冷蔵庫の中に居るように寒い……



「……確かに、此処は冷えますね」

「つーか、なんだ此処?」

「アオの部屋ではありませんか」

「そー言う意味じゃなくて……なんで此処だけ寒いんだろうって」

「それを知ってどうするのです?」

「いや、まぁ……些細な疑問だから、気になるっつーか……」



些細な疑問ほど気になる体質っていうか……



「――なに、悪い?」

「いえ、私には関係ないことですので……正直どうでもいいです」

――じゃあ聞くなよ。



「それよりマジで冷えるな……さっさと出ようぜ」

「同感です」

扉に手をかける……だが――















「………………開かない」
「――は?」

扉を力いっぱい押すが、鍵が掛かったように開かない。







「つーか、嘘だろ!? なんで冷蔵庫に閉じ込められました♪ みたいな企画もどきな展開になるんだよ!!」

「なんですか、それは?」

「人の不幸を見て他人が喜ぶイベントの事だよ、コノ!!」



思いっきり扉を蹴るが、びくともしない。



――木製の癖に、なんて頑丈なんだ……こうなったらトコトン蹴りまくってやる。







「……引いてみてはどうですか?」

「……………………はい?」



「先ほど思いっきり押していたようですが、開き方が逆で開かない可能性もあります」

「……………………………………まさかぁ♪ そんなお約束の展開があるはず無いと思うが?」

嫌な緊張に刈られながら、扉のノブに手を置く。







「……………………………………なあ、コレで開いたら……俺は重度のアホ烙印を押されるのか?」

「……??」

「…………」

心を決めて、引いてみる……



















……でも、開かなかった。



















「よかった……開かなくて本当に良かった……」

――出れないというのに、メチャクチャ嬉しいのは何で?



「――開かないというのに、なぜ良いのです?」

「気にすんな……それより、本当にどうするよ?」

「窓からの脱出はどうでしょう?」



「……でも、明らかに宇宙空間だぞ?」

キラキラと……星のような輝きが窓一面に広がっている。



「うちゅうくうかん?」

「とにかく、窓壊したら空気が無くなって死ぬぞ?」

「なぜ、空気がなくなるのですか?」

「外に空気が無いからだ!」

「なぜ、外に空気が無――」
「――あぁ、もう! とにかく却下、絶対に却下だ!!!」



「解りました……」

「なんで残念そうな顔そしてるのか問い詰めたいが……とにかく、窓壊さないで出る方法考えろ」







二人して数分間考えていると……ナナルゥの姉ちゃんが口を開いた。



「………………天井裏からの脱出はどうでしょう?」

「天井裏……」

天井を見上げると、正方形に切り取られた場所を見つけた。



「あれか……肩車でもしないと無理だな」

「誰が先に行きます?」

「……誰でも良いだろ、お前的にどっちがいい?」

「――私……ですか?」

「じゃあ決定……ほら、さっさと乗っかれ」



「――いえ、そういう意味ではなく……なぜ私に判断を任せるのですか?」

「……はぁ?」

「私はスピリットです」

「だから、自分は考えなくても言い……判断は他人任せなんだって言いたいのか?」

「そういう意味ではありません。私たちは戦いの駒として――」



「同じだろ? 駒ってのは、他人に判断を委ねるって事と同じ事だろうが……」

「それは――」

「今はな、んな場合じゃ無いんだ……力合わせなけりゃ冷蔵庫みたいな部屋から抜け出せない」

「今の俺たちは平等な関係であるパートナーだ……オマエも自分の考えを遠慮しないで出せ」

「……自分の……考え?」

「そう、それにな……オマエが自分の事を戦いの駒って言ってたけど、今は戦う場面なんてない」

「戦わない時ぐらい……駒じゃなく、自分で居ろよ」

「……自分で居るとは、どういう意味ですか?」

「オマエ、ガキだなぁ……いい歳してんだから、それくらい自分で考えろ」



――つーか、一刻も早く此処から出たい。



「……それより、行かないなら俺から行くぞ」

「………………………………」

「……おい!?」

「え、あ、はい……なんでしょう?」

「……俺から行くから……土台になってくれ」

「わかりました」







 ナナルゥの姉ちゃんがレシーブの体勢をとる。

「――どうぞ」

「なあ、その腕を踏みつけて跳ぶのは……さすがに抵抗があるんだが――」

「……しかし、このほうが効率的です」

「……いいの?」

「私は貴方のパートナーではないのですか? 力をあわせて此処から脱出するといったのは貴方のほうです」

「そうだけど…………まあいいか、行くぞ!」

「いつでもどうぞ」



軽くナナルゥの姉ちゃんの腕に飛び移る。

「――っは!」



打ち上げられる俺は、軽く天井裏の入り口を軽く飛び越し――

出た場所は、大学の喫煙所だった。



「ひゃぁ!?」
「――誰!?」

「――っと……うん?」

目の前には、セリアの姉ちゃんとアオが居た。



「……………………」

距離的に約1m……本当に、直目の前……



……驚くのも当然と言えよう。



「雫! どうしたのです!?」

「――あ、いや……セリアの姉ちゃんとアオが居た」

正方形のタイルが一枚無くなっていて、その中にナナルゥの姿があった。



「ナナルゥお姉ちゃん? なんでそんなところに居るの?」

「話は後だ。それよりナナルゥの姉ちゃんを引き上げるのから手伝ってくれ」

「……解りました、後で説明してください」



セリアの姉ちゃんに足を掴んでもらって、逆さまに下ろされる。

「ほら、手を出せ」

「はい……」

そして引き上げられる……







そして、なんとか俺とナナルゥの姉ちゃんは無事に脱出できた。











「ああ、暖かいって良いなぁ……」

そしてタバコも吸えるんだから最高♪



「……それで、なぜナナルゥとあそこの部屋に居たのですか?」

「――ああ、それ? ……閉じ込められたからに決まってるだろ」

「誰に、ですか?」

「知らん……あの部屋に入って出ようとしたら扉に鍵が掛かってた」



そういうと、警戒した表情でセリアの姉ちゃんが俺を睨みつける。

「……貴方が掛けたのではないのですか?」

「――あぁ!?」

「ここは貴方の世界と聞きました……ならば、貴方の意思で部屋に鍵を掛けれる筈では?」

「――ふざけんな! なんで冷蔵庫みたいな部屋に好きで自分を閉じ込めなきゃいかんのだ!?」



「「レイゾウコ??」」

「――雫……その意味、私も聞きたかったです」

「物を冷やす装置の事だよ……言い直すと、なんであんな寒い部屋に自分を閉じ込めなきゃいけないんだ?」



「ナナルゥを襲おうとした……とか?」

「襲うならもっとマシな場所で襲うわ!」

「――襲う意思はあったのですね?」

このクソツンデレ女……なんでこう、偏った思考しか思い浮かばないんだ?



「なに? オマエ、俺に性犯罪者の烙印を押したいのか? つーか、あれか? ケンカ売ってるなら買うぞコラ!」

錆取り事件の恨みも一緒に倍返しにしてやる!



「私は貴方を信用できないだけです」

「――ほう、信用できないとな? アオと初めて出会ったときは、かなり心を許してませんでした……か?」
「「「!?」」」







皆が一斉に異変に気が付く……











「……ねえ……あれ何?」

「知るか……つーか、俺が聞きたい」



そう……アオの部屋に通じると思われる地面から……一人の青年がふわりと浮いてきた。



いや、青年というより……







「……あれ、雫だよね?」







そう……俺と瓜二つの奴が出てきた。









「………………………」

ソイツの背後には、西洋剣が浮かんでいる。



数は黙視できるだけで20以上……その切っ先は俺達に向けられている――







「……………おぃ……まさか――」



俺の呟きに、ソイツはニヤリと凶悪な笑みを浮かべて――



「……マナを、寄越せ――」



一斉に西洋型の神剣が発射された――











剣の群れが発射される前に、俺達は一斉に背後に有る喫煙所出入口へ駆けだしていた。



だが、出入口まで約10m……この雫世界では神剣の加護は皆無、身体的スピードは人間と変わらない。



更に剣の速度は時速60kmを軽く超える。



剣の到達まであと1秒も無く、俺達は入出口に到達される前に串刺しにされる……







「ぁ……」



後ろを振り向くと、もう目の前に刃が迫っていた。



もはや回避不可能な程……絶対的な死の運命――















だが、この運命は容易く変えれる事を……俺は知ってる。



そう……この俺『時神 雫』にとって、この状況は容易く打破できると断言できる。







なぜなら、この身は時神一族としてに生を受けた身体――



――能力は既に開花している……ならば、この状況を打破できぬ道理は無い!!







――時間が凍る――







襲いかかってくる一つの西洋剣を手に取る。



瞬間、その剣は日本刀に姿を変える……だが、驚いてる暇は無い。



俺達に直撃するであろう軌道コースを飛んでいる剣を優先して払い落とす。







軌道上にいる剣を全て叩き落したとき……時間が動き出した。



「雫、早く!!」

「アオ、殿は俺に任せろ! お前達は先に……って――!?」



目の前には、さっきより倍以上の剣が浮遊していた。

俺と瓜二つの容姿をした奴はニヤリと――



「――ごめん、やっぱ無理いいぃぃ!!」

その表情を拝むこと無く、俺の脳内は満場一致で敗走を決定する。







「雫、こっちです。 早く!!」

「言われなくても解って――うわ、来たぁ!?」

速射される剣――



だが、今度ばっかりはこっちの方が早かった。



出入口を抜け、大学の廊下に出る。

喫煙所側の壁に背を預けながら、入出口から飛んでくる剣の矢をやり過ごす。







「誰なのよ、アレは!!」

「……さあ、誰だろうねぇ」



というか、たぶん……奴だろう。



俺が憑依する前の存在で、俺に知識を与えてくれた神剣の一部としか考えられない――



「……なんで、棒読みなのかしらね?」

セリアの姉ちゃんが笑顔でヒクヒクと顔を震わせている。



つーか、この姉ちゃん……超怖いんですが……



「なんか、怒ってたね……」

「殺意も感じました」

そもそも、あれで殺意感じない奴なんて居るのか?

「殺されるほど恨まれる理由が思いつかないのだが……」

「――本当に?」

「う〜む…………あっ!」



――まさか……アレか?



マナを出血大サービスみたいに放出したアレの所為??



「やっぱり、思い当たる節があるのね……」

「やっぱりって言うな!! まあ、有るには有るけど……」



マナぐらいで大人気無い……と、前の俺なら思ってただろう。



だが、今なら解る。



マナとは通貨みたいな物だ。



今まで散々蓄えてきた財産(マナ)を他人に殆ど投げたら……そら怒るわな。



「謝ったら許してくれるかなぁ……」

「つまり……この出来事の元凶はアナタの所為なのね……」

酷い言われようだ……

つーか、元はテメェ等の所為だけどな!!



「そう怒るなよ……怒りすぎると若いうちにシワが目立って後悔するんダフッブゥ!?」

鼻が、鼻がぁ!?

てか、舌噛んだっぽいんですが……

「見事な裏拳です、セリア」

「ありがと……それより本当にどうするのよ? ここに留まっても追いつかれるわよ」



「雫……大丈夫?」

「――大丈夫な訳あるかぁ!!」

「アナタもいつまで転がってるつもり?」

鬼だ……ここに鬼が居る……

「鬼女……」

「何か言った?」

「別にぃ……ま、たぶん大丈夫だ。アイツはここまで来れない」

「何を根拠に?」

「知らん、けど何となく解る……あいつが行動できる範囲は、あの部屋から半径数メートルぐらいまでだ」

「ここに居れば安全なのですか?」

「侵食されない限りは、な……」



「そもそもアレは誰なのよ……」

「この永遠神剣の本体だと思うが……」

「じゃあ、ここに居るアナタは何者なのかしら?」

「性は『時神』名は『雫』、年齢は22歳の独身……ちなみに彼女募集中だぞ♪」

「真面目に答えなさいよ……って、22!?」

「人、俺をゴースト・エトランジェと呼ぶ――」

―― 予定



訪問者(エトランジェ)って……まさか――」

「そう、高嶺悠人……別名『求め』のユートと同じ世界から来た……といえば解る?」

「雫……それ秘密って……王女様が――」
「――黙ってろ!」

「えぅ……」



「まあ、俺はそんな感じの存在だ……それで、この剣に憑依しちまったから――」

「――なるほど、アレは憑依された神剣の意思……という訳?」

「ご名答……で、どうしよう?」

「どうしようって……たぶん、アナタを殺したがってるわよね……明らかに」

「なんて迷惑な奴だ……」

「出ていかない方が懸命だと思われます」

「――ふむ」



だが、ある意味……これはチャンスでもある。



アイツが何者なのか……

何の為に俺に訴えているのか……



それだけは知っておきたい。







「ま、これから長い間付き合うんだし……いい加減に面と向かって話さないとな」

「……死ぬかもしれませんよ?」

「大丈夫……自慢じゃないが、逃げ足だけは自信が有る♪」

「本当に自慢にならないわね」

「ほっとけ――」



出入口から顔をだす。

「………………?」



奴はただ、俺を睨みつけているかのように存在していた。

浮遊していた剣は消えてる。



「……じゃ、行って来る………って、ぁ?」

気づいたら、誰も居なくなっていた――



「……なんだ、もう消えたのか……」

喫煙所に入る。

10歩という間合いを保って、俺達は対峙する。



「……………」
「……………」



ただ対峙してるだけ……

それだけなのに……聞きたいことの答えが頭に浮かぶ……



コイツは……こいつの名前は『冷酷』

永遠神剣・第6位『冷酷』という神剣。



目的は、有るべき姿に戻ること。

それは、あの西洋剣を指しているのか……







それとも……初源の剣の事なのか――







「……ぅ、っ……」

頭痛が更に酷くなる……



これ以上対峙してはダメだ……自分が保てなくなる。







「っ、っ……ぅ……ぁ、あれ?」







気が付くと、冷酷も消えていた――







「っ、はぁ〜……」

結局、何一つ話せなかった。



いや、違うか……

元々、アイツに自我は無い……

自我が無いなりに、俺が知りたいことを教えてくれた。

それはつまり……完全に敵視はしていないと思われる……というか、思いたい。







それに、知りたいことは解った。



アイツの名前は『冷酷』といって……俺に干渉してくるのは、マナを集めろと急かしているのだろう。

そう……有るべき姿に戻るために膨大なマナを必要としているのだ。



そして……俺と一つになりたがっている。

――いや、吸収したがっているのかな?







解ったのはこの位か……



大収穫といえば大収穫だが……その分鬱になる。



そう、俺を逃してくれるという意思は……何処にも無かった……











「なるように……なればいいけどな……」







目を閉じる……











奪い取られたものは何も無い――







その代わり、理性というモノが削られている――











俺が……俺が最後に見る光景は……







案外、そう遠くない内に訪れるかもしれない――――







あとがき



 とうとう明かされた神剣の名前、其の名は『冷酷』……
冷酷の詳細は、オリジナル登場人物で詳しく載せています。

補足として、雫世界で出てきたアオの個室は『冷酷』の世界です。
雫世界に冷酷の世界が出来上がった事……つまり、一つになりかけているという事です。

ナナルゥが見ていた『独身男性がありがた〜く思える本』は、雫が収集した情報を纏めた内容が載ってると思えばOKかと……

冷酷が襲ってきた訳は、セリア達のマナが目的です。

秩序(ロウ)混沌(カオス)思考に分けるとしたら、 『冷酷』は秩序思考の剣になります。



次回はいよいよアオと悠人の対面……
次からは第1詰め所の住人をメインとして書き始めようかと思っとります。

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